Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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今回は少し短いです。申し訳ありません。

後、PSVITA版のホロウ買いました! アニメ化を期待してもいいですよねufoさん!!

それと八命陣の続編、ウレシイヤッター!!


第二十三話「カレーなる食卓。もしくはシナリオは一つじゃない」

 一先(ひとま)ず、会談を終え――海苔緒たちは小休止を挟んで夕食を頂くこととなった。勿論才人の屋敷で、だ。

 オンディーヌ騎士隊とその後援会である女子援護団(こちらはトリステイン魔法学院の女子学生の集まり)のメンバーは、『魅惑の妖精』亭、ド・オルニエール支店で連日飲み会をしているそうだ。経営者は才人の恩師の一人であるスカロン。

 急激な領地発展に伴い宿屋や飲食店が不足するのは目に見えていたので、才人とルイズは知人であり年長者でもあるスカロンに、出店店舗の仲介を依頼していたらしい。

 スカロン氏は、見た目マッチョのオカマ口調の男性で少々(?)変わった人物ではあるが、長年の経営で培った観察眼は超一流であり、平民を装いっていたルイズを初見で貴族と見抜いている。

 スカロンは才人とルイズの要請を快く引き受け、信をおける知人たちに声を掛けてくれただけでなく……自らもド・オルニエールに支店を構えてくれたそうだ。

 オンディーヌ騎士隊や今をときめく『現代に甦ったイーヴァルディの勇者』才人の懇意にしている店とあって、ド・オルニエール支店は大盛況。

 けれど、才人から云わせれば、『俺の名前のお蔭じゃなくて、スカロン店長の手腕が良いから』とのこと。

 ……まぁ、それはそれとしておこう。『魅惑の妖精』亭にてマリコルヌが正式な恋人となったブリジッタ(悪酔い)に、『なんで生きているのかしら、このブタ』『女装が趣味とか本気で気持ち悪いのですけれど』等と現在進行形で言葉攻めを受けており、恍惚のあまりマリコルヌは過呼吸に陥りながら『生まれてごめん』『ブタごめん』『女装すいません』と地面這いつくばって謝り続けていたが、現在の海苔緒たちには全く関係ない話なので割愛させてもらう。

 なので、夕食のメンバーは昼の会談時から変わっていない。そして今日の屋敷の夕食はカレーであった。

 

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今宵もささやかな糧を与えたもうたことを感謝いたします」

 

 ルイズの食前の祈り声が、広い食堂に響いた。日本人で云う所の『いただきます』である。建前上は始祖ブリミルと女王陛下に感謝を捧げているが、現在のルイズは昔ほど両者を崇拝していない。

 始祖ブリミルのせいで何度も厄介ごとに巻き込まれるわ、親友でもあるアンリエッタ女王陛下には才人を寝取られそうになるわ、でルイズの価値観は劇的に変化したのだ。

 それに加えて、才人という新たな心の拠り所を得たことも大きい。

 海苔緒も才人と共に手を合わせた。

 

「「頂きます」」

 

 カレーはライスが添えられたタイプで、カレーソース自体はとろみのないスープ状。どうやら本格的なチキンカレーらしい。

 海苔緒は銀のスプーンでカレーを掬い、口に入れた。

 

「――うまいな」

 

 

 カレーを飲み込むと、海苔緒の口から素直な感想が零れた。

 海苔緒はテレビのカレー特集に影響されたアストルフォに引っ張られ、三週間ほどかけて県内のカレー有名店巡りをしたことがある。その甲斐あってか、カレーには少々五月蝿くなったのだが、このチキンカレーはそれ等の有名店に引けを取らない味をしているように思えた。

 アストルフォも同様に感心した様子で、幸せそうに舌鼓を打っている。

 

 

「おいしいね! こんなおいしいカレーを食べたのは久し振りだなぁ。ケイローンはどう?」

 

 貴族のルイズと同じくらい優雅な動作で、カレーを食していたケイローン。アストルフォに意見を求められたのに合わせ、製作者であるシエスタの期待の視線に気付き、一旦匙を休めて、

 

「ええ、とても美味しいです。様々な香辛料をふんだんに使用することで、刺激のある味が何層にも重なり合い、重厚なハーモニーを奏でいる。斯様(かよう)に贅沢な料理を口にすることが出来て、我が身は本当に幸せです」

 

 アストルフォやケイローンの言葉に、シエスタは胸を張って得意げな笑みを浮かべる。ルイズもケイローンに同意するように頷いた。

 

「ハルケギニアの材料で同じ物を作ろうとするなら、ちょっと高くつくものね。そう考えると、確かに贅沢な料理だわ」

 

 ちなみに公爵令嬢であるルイズの『ちょっと高くつく』という表現は、一般的な感覚からすれば途方もない額である。各地から香辛料を輸送するのに莫大なコストが掛かるためだ。

 ハルケギニアでは飛行する船舶が存在するが、その維持に大量の風石を必要とするのと、その推進の原理が帆船と変わらないため速度が遅い。

 よって、未だハルケギニアでは劇的な流通の革命が起きていないのだった。

 海苔緒はカレーの味を二度三度確かめると、ある事実に気が付く。

 

(こりゃ、もしかしてベースは地球(こっち)の市販品か!? しかしこの味の深みは……)

 

 海苔緒は気になってシエスタに尋ねた。

 

「シエスタさん、このカレースープ……市販の物を利用して作ったのか?」

「あら、よく分かりましたね。実はこのレシピ、オオサワさんとミカドさまに教わったものなのです」

「え? オオサワ? ミカド?」

 

 聞き慣れない名前に海苔緒は驚いたように目を丸めた。するとすぐさま才人が説明に入った。

 

「ああ、そういえば海苔緒たちには話してなかったな。実は…………」

 

 才人の説明をさらに簡潔するなら、大沢(おおさわ)(こう)なる人物は、日本から派遣されたフランス料理を専門とするシェフ。そして御門(みかど)千早(ちはや)は大沢シェフのサポートをしている日本の外交官。

 海苔緒はその名前に、どこか引っ掛かりを覚えた。

 大沢シェフが派遣されたのは、日本主催の晩餐会を催すためとのこと。

トリステインが伝統と格式を重んじているのを聞いた日本政府は、馴染みのない日本食を出すよりもトリステインの料理に近いフランス料理を出した方が良いと判断。

 日本のNKホテル出身であり、ベトナムにて大使館の公邸料理人を四年ほど勤め、何とフランスのエリゼ宮で行われた国際会議でもメインシェフとして腕を振るった著名なシェフらしい。

 大沢シェフをベトナム大使館に雇い、『料理外交』を繰り広げた倉木大使は現代の『タレーラン』に例えられたことから、大沢シェフはさながら『カレーム』のようだと称賛されることすらあるそうだ。

 

「現代のタレーランとカレームかぁ……、そりゃ相当なシェフだな」

「やっぱりそうなの? ハルケギニアの上流階級の味の好みを知りたいって頼まれて、幾つか料理を食べたけど、どれも凄くおいしかったわ。もしかしたらウチの実家のシェフより料理が上手いかも。それにタレーランと、カレーム? 一体誰なのよ、それ?」

 

 トリステイン公爵家専属料理人に勝るとも劣らぬ腕だったと、ルイズは大沢シャフに賛辞を送った。加えてタレーランとカレームの名に疑問を持ったようである。

 海苔緒は特に考えることもなく素直に答えることにした。

 

「俺も本で聞きかじった程度知識だが、タレーランとカレームってのは……」

 

 名門貴族の出であり、近代のフランスにおいて敏腕政治家兼外交官として活躍し、長らくフランス政治に君臨したタレーランと、『有名シェフ』のさきがけ的人物であり、貧民から『国王のシェフかつシェフの帝王』と呼ばれるまでに立身出世を遂げたカレームについて海苔緒は、掻い摘んで語った。

 蛇足ではあるが……現代に多く使われるメートル単位法を提案したのもタレーランである。

 

 

 海苔緒の話を聞いて、皆感心したようにしきりに頷く。積極的に話に混じらず大人しく食事をしていたティファニアもカレームの話には共感を覚えたようで、海苔緒に感想を述べるほどだった。

 

 

「凄いです。辛い目に遭ったでしょうに……とても努力なされたのですね。私とっても感動しました」

 

 同様に才人やシエスタも感銘を覚えているように見える。

 海苔緒はアストルフォの方を向き、思い出したと云わんばかりに再度口を開いた。

 

「そういえば……自称だがタレーランの生家であるペリゴール伯爵家はシャルルマーニュの末裔らしいぞ」

 

 そこんとこ、どうなんだよ……と、元シャルルマーニュ十二勇士の一人に尋ねるが、当人はキョトンとした様子で、

 

「へぇ、そうなんだ。――で、それがどうしたの?」

 

 特にこれといった感慨を抱いている様子もない。予想を裏切る薄いリアクションである。

 海苔緒は軽い眩暈を覚えて、頭を押さえた。

 

「いや、お前が仕えてたカール大帝(シャルルマーニュ)の子孫だぞ! もっとこう……驚くとか、喜ぶとか、そういう反応はないんかいッ!?」

「だってシャルルマーニュはシャルルマーニュだし、そのタレーランって人はタレーランじゃん。それにさ、ボクの時代に居た貴族や騎士でも箔をつけるために出自を盛るのは良くあることだったし、あんまり鵜呑みにするのは良くないと思うよ」

「あ……うん」

 

 紛うことなき正論であった。海苔緒はそれ以上云い返せなくなって頭を垂れる。しかしケイローンは気を利かせて海苔緒に声を掛けた。

 

「私としては大変興味深い話でした。海苔緒殿は大変含蓄がお在りなのですね」

 

 ケイローンからすればフォローのつもりなのだろうが、海苔緒にとって泣きっ面に蜂。何しろ海苔緒は泣く子も黙る大賢者ケイローンに講釈を垂れた、ということになる。

 つまりは馬の耳に念仏……否、釈迦に説法もいい所だ。

 海苔緒は自覚した途端に恥ずかしくなり、顔を真っ赤する。

 

「いえ……偉そうに話をしてしまって、本当に申し訳ない」

「そんなことはありません。本当に興味深い話でした。機会があれば、またお聞かせ願いたい、と思ったほどです」

 

 何か凄いハードルを上げられた気がするが、海苔緒は『ありがとうございます』と頷くことしか出来ない。

 海苔緒は話題を変えようと、御門という外交官の名前を出した。

 

「それで御門外交官っていうのは一体何者なんだ?」

 

 海苔緒の問い掛けに対し、才人たちはおのおの答えていく。

 

「若手の男性外交官で、年は俺たちより少し上ぐらいだったかな。凄い柔らかい感じの物腰の人だった。それと何だが……容姿は海苔緒に似てる気がしたぞ」

「サイトの云う通りね。私も何だか顔立ちが海苔緒に似ているように思えたわ。確か家柄は代々続く旧華族……日本でいう貴族の家系と云っていたかしら」

「私もサイトさんに同意見です! それと母方の御家は妃宮だそうで……代々外交官を務めていた家柄だそうです」

「私もサイトと同じで、最初見たとき海苔緒さんの親戚かと思ったわ。容姿がとても似てるの。母方の祖母がホクオウという所の出身と云っていました」

 

 ついで才人、ルイズ、シエスタ、ティフアニアの意見である。ケイローンはまだ会っていないらしく『申し訳ありません』と頭を振った。

 それを聞いた海苔緒は……、

 

(俺と似た容姿……母方の祖母が北欧出身ということはクォーターってことだよな。それに御門千早、妃宮、外交官。――何だ、この引っ掛かる感覚は?)

 

 何か重大なことを忘れているような気がするのだが、今はそれが一体何のかが全く思い出せない。割ととんでもないことのような気もするのだが……、

 ――その時の海苔緒はその正体を思い出すことが出来ず。ファースト・コンタクトを果たす瞬間までついぞ思い起こすことはなかった。

 その夕食の後はタルブで造られたワインを飲みながら、他愛のない話を皆でした。

 才人のトリステイン貴族としての作法の習得が、御門外交官やケイローンの協力の甲斐あって捗っているとか。

 才人の恩師であるコルベール先生は、日本の研究機関と共同研究を始めることが決まったとか。

 評議会議長ゴンドランの失脚に伴い、屋台骨の揺らいだトリステイン王立魔法研究所(アカデミー)もコルベールに負けじと、日本との共同研究を模索し始めたとか。

 オンディーヌ騎士隊の中で地球の腕時計や、スポーツシューズを身に付けることがファッションとして流行っているとか。

 ヴァリエール公爵家の了承を得られたので、日本との国交樹立と同時にルイズの姉であるカトレアを日本に移送し、手術の準備をすることが何とか正式に決まったとか。

 タバサが双子の妹のジョゼットを影武者にしたり、ガリア女王の位を譲ろうとした件でジュリオがガチギレして大変だったとか。

 そんな話をしながら夜は静かに穏やかにふけていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに夕食の話題に上がった大沢シェフだが、才人の話によればガリア出身のリュリュという少女を弟子にしたらしい。

 リュリュなる人物は元貴族の少女は元々何不自由なく育ったらしいのだが、美食の趣味が高じて家を飛び出した……という話だ。

 以来、『身分の別なく多くの人においしい食事を提供できること』を夢見て探求の旅に出ていたそうだが、ド・オルニエールの噂を聞いてサイトの領地を訪れた。

 そこで偶然、日本から現地入りを果たしていた大沢シェフと出会い、その人柄とシェフとしての腕にほれ込んで半ば無理矢理弟子入りを頼み込む。

 当初日本政府は困惑したが、ガリアの女王であるタバサの鶴の一声を受け、この度正式な採用が決定した。何でもタバサとリュリュという少女はちょっとした知り合いらしい。

 大沢シェフとしても料理を提供する人間として、ハルケギニアの食を知り尽くした人物が傍に居るのは心強いとのこと。

 後に……大沢シェフとリュリュと少女のコンビがハルケギニアの料理文化に大きな変革をもたらすことを、今はまだ誰も知らなかった。

 

 




御門千早が何者なのかは皆さんお察しの通りだと思います。

そして大沢公の方は『大使閣下の料理人』という漫画の主人公です。料理と外交を同時に扱った興味深い漫画なので一度目を通してみるのもいいかもしれません。ちなみ2015年の春にはスペシャルドラマを放送予定です(ステマ)。
リュリュの方はゼロ魔外伝小説『タバサの冒険』の登場人物で、今回名前だけ登場させてみました。

では、

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