Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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今回は学校回。

小説の内容を吟味しつつ、アミュテックの学校はこんな感じだろうなぁ……と想像して書きました。

長々と続きましたが、エルダント編は次回終了の予定です。


第十九話「学校へ行こう。もしくはガ●ダムビルドファイターズ的なアレ」

 エルダント滞在二日目。海苔緒とアストルフォは慎一たちに付き添ってアミュテックが運営する学校――という名目のオタク養成(ぶんかこうりゅう)施設を見学することと相成った。

 アミュテックの運営する学校は慎一の要請を受け、自衛隊とエルダント帝国軍の工兵が共同で建設した建物であり、元々は穀物倉庫であったそうだが、煉瓦と石材で組み上げられた立派な外観からは倉庫の名残を見ることは難しい。

 屋敷と学校の距離はそれほど離れておらず、現学校、元穀物倉庫の近くにあった風車(内部には風車の羽根車を動力とし、穀物を製粉する装置があった)は自衛隊により風力発電施設に改装され、風車の隣にはソーラーパネルも設置されている。

 これらの発電装置から生み出される電力は敷設されたケーブルと通して屋敷や学校へ供給されているのだ。

 電気が通っていることも然ることながら、内装も完璧な日本の学校で、教室には電力消費や整備性を考慮したLED灯が配置され、廊下には屋内消火栓、消火器に防火扉、果ては誘導灯(緑と白色の、人が扉の外へ逃げていく姿が描かれているアレ)まで備えられているそうだ。

 詳しく聞いた所によれば……この学校、きちんと日本の消防法に準じた造りになっているらしい。さずがジャパニースお役所仕事である。

 そんな学校の登校風景であるが、海苔緒の知る日本のもは全く違っていた。

 

「馬車がどんどん来るな……考えりゃ当たり前か、車も自転車もねぇからな」

「生徒の大半はこんな感じに馬車で登校してくるから、日本の通学風景とは大分が違ったりするんだ」

 

 見慣れぬ光景に思わず海苔緒は呟き、応じるように慎一が補足した。

 

 学校の横に敷設された石畳の道路から一羽立てや二羽立ての羽車が続々と向かって来ており、羽車の中からは生徒が下りてきている。

アミュテックの通う学生の半数は人間、残り半数は亜人のエルフ、ドワーフで占められており、いずれも殆どが貴族や豪商のご令息またはご令嬢である。

 羽車だけではなく、歩いて登校してくる生徒や白い大型鳥(チョ●ボ)に直接乗って登校してくる生徒も存在し、学校のグラウンドの隅には自転車置き場ではなく鳥小屋(鶏飼育施設に非ず、馬小屋のようなもの)が設置されていた。

 慎一や海苔緒たちが学校の入口横で登校風景を眺めていると、ドワーフの少女が元気よく慎一に駆け寄って来る。

 

「おはようございます、先生! ニホンから戻って来たんですね!!」

「おはよう、ロミルダ」

 

 天真爛漫な笑顔を浮かべ、慎一に挨拶した褐色ツインテールの少女はロミルダ・ガルド。エルダント帝国屈指の大工房――ガルド工房を取り仕切る親方を父に持ち、ドワーフとして珍しく貴族の位を有している。

 ――が、鼻持ちならないとか、そういったことは一切なく。素直で真っ直ぐな性格した少女だ。ただ、小学生のような見た目に反して年齢は十代後半である。

 つまりは合法ロ……もとい、可愛らしい生徒なのだ。周りに見渡してもドワーフの少女たちは大抵が似たような背格好である。

 対してドワーフ男子生徒は同じく背は低いのだが、十代前半の生徒であっても三十代、四十代の面構えをしている。慎一と並ぶとどっちが教師か分からなくなるほどだ。

 ……何度も思うが本当に、どうしてここまで違うのだろう?

 海苔緒が脳裏で失礼な自問自答をしていると、ロミルダは海苔緒とアストルフォの存在に気付いた。

 

「先生、こちらは新しい講師の方たちですか?」

「ううん。違うよ、ロミルダ。こちらは日本から見学に来た……」

「お久しぶりです、先生! 今日からミノリ先生も来てくださるんですよね!!」

 

 ロミルダの横に割り込み、挨拶をしてきたエルフの青年はロイク・スレイソン。父はエルフでありながら帝国の執政官を務める実力者で、本人も大変優秀なのだが年相応に子供っぽい性格なのが玉に(きず)な生徒である。

 彼はペトラルカ皇帝映画(くろれきし)製造編(四巻のこと)にてドラゴンの襲撃の際、美埜里さんに救われており、それ以降淡い恋心を抱いている様子なのだが、今の所はその想いが成就する気配はなかったりする。

 

「ちょっと、ロイク。私が先生と話しているのに割り込んでこないでよ!」

「なんだよ、ちょっと先生に挨拶しただけだろ!!」

 

 いきなり口喧嘩は始めたロイクとロミルダ。ファンタジーに在りがちな設定であるが、エルダントでもエルフとドワーフは仲が悪い。彼等は学校に通うエルフとドワーフの代表格であるので自然と張り合うことが多い。

 しかしながら慎一の話を聞く限り、学校においての種族間の対立は徐々に収まってきているらしい。代わりにキャラのカップリングやら、作品の批評に関しての論争は増加しているらしいが……。

 それにこのロイクとロミルダ。しょっちゅう些細な喧嘩しているそうだが、一緒に居ることが多いそうだ。つまるところ『仲良く喧嘩しな』とか、そういった関係なのである。

 慎一は二人の口喧嘩を見慣れている様子で、やんわりと仲裁に入った。

 

「ロイク、ロミルダ。ここに立ったままだと他の生徒の皆が学校に入れないよ。それに今日は日本から見学者が来てるんだ」

「え、ニホンからの……」

「見学者?」

 

 慎一が指さすと、ロイクとロミルダの視線が海苔緒とアストルフォに向く。様子を伺っていた入り口周辺の生徒も同様に海苔緒たちへ視線を傾けた。

 注目されたアストルフォは笑顔で手を振って見せ、コミュ症を長く拗らせていた海苔緒は視線から逃れるように目線を地面へと移し、伊達眼鏡を弄っているフリをして誤魔化す。

 日本からの見学者に醜態を晒したと思ったロイクとロミルダはみるみる顔を真っ赤して『すいませんでした!!』と慎一や海苔緒たちに謝罪すると、すぐさま遠ざかっていく。

 

「もう! ロイクのせいで怒られた!!」

「違う、ボクのせいじゃ――」

 

 そんな遣り取りが下駄箱から響いてくるのを耳に入れながら、苦笑めいた表情を浮かべる慎一たちも学校の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の内装は、普通だった。どこにでもある普通の小中学校を想像してくれればいい。但し、普通の小中学校の廊下の掲示物にはアニメやゲームの宣伝ポスターや、本屋などに貼られている新刊の発売予定表はないだろうが……。

 海苔緒とは慎一と共に、教室で生徒との朝礼を手早く済ますと――慎一が担当する一、二限目の事業を見学することとなった。

 アストルフォは綾崎氏の担当する教室に行ったので別行動である。

 今日の一、二限目は選択科目で慎一が担当する教科は『工作』の授業。

 慎一は工作室に生徒を移動させ、早速授業を開始した。

 

「工作……って、そういうことか」

 

 オタクの学校で何を工作するもんか? と海苔緒は思っていたわけだが、目の前の光景を見て納得した。

 工作室は複数人用の木工テーブルに、木の椅子、手洗い用水道設備といったスタンダードな内装だが、生徒たちは画用紙に絵を描いて絵具で塗っているわけでも、木版を彫刻刀で削っているわけでもない。

 海苔緒はテーブルに座って黙々と作業をするエルフのグループを見る。彼らが制作していたのはゾ●ドであった。コトブ●ヤ製ではない。古き懐かしきタカ●トミー製である。

 エルフの隣では、人間の生徒のグループが各々個人個人で説明書と格闘しながらガン●ムのHGキット(大半がSE●D)を素組みしていた。

 そう、工作は工作でも、この授業……プラモ制作の授業なのだ。そんな訳だから受講者の大半は種族に関係なく、ほぼ男子生徒である。

 女子生徒たちは綾崎氏や美埜里さんを中心とした『服飾』の授業を受けている。そちらは日本から取り寄せた服を実際に生徒たちが着てみるとか、日本の化粧品を使った化粧の作法などの講座だそうだ。アストルフォの興味がそちらに向くのも道理であろう。

 他にも家が商人であり、日本の服や化粧品に将来的な仕入れ商品として興味がある男子生徒なども綾崎氏の選択授業に参加していた。

 けれど海苔緒は男の子なので、迷いなくプラモ制作授業の見学を希望した訳だ。

 そして工作の授業を選択したドワーフの生徒のグループはというと……、

 海苔緒は人間のグループの間に挟み、エルフの反対側のテーブルに集まったドワーフの生徒たちに見た。

 彼等はガンプラのBB戦士を制作しているのだが……、彼等は他の二グループとは工作の(レベル)が明らかに違った。

 彼等のテーブルに積まれているSDガ●ダムのプラモの紙箱は最新フォーマットのキット複数に旧キットが一つ。

 ドワーフの生徒達は作業を分担し、最新フォーマットのSDガ●ダムをベースに旧キットを改修及びミキシングしているのだ!

 あるドワーフの生徒は旧キットを切断してバラし、ベースのキットにマッチングするようパテで整形していき、

 またあるドワーフの生徒はベースのSDキットの腰や手足をプラ板で延長することで頭身を調整しつつ、新たな関節機構や磁石や自作の金属(メタル)パーツを仕込んでおり、

 さらに別のドワーフの生徒はキットの手首を、針金を土台にして一から造り直している。

 そしてまた別のドワーフの生徒は前回の授業までに作ったと思われる改修済み塗装前SDガンプラを、工作室の隅にて粉塵マスクを装着しながらエアブラシで塗装していた。

 

「なぁ、慎一。ドワーフの生徒たちだけ……工作の次元がおかしくねぇか?」

「ドワーフの子たちは凄い手先が器用だしね。家の手伝いで工芸品を作ったりもするし。それに何より凝り性だから」

「凝り性、ねぇ」

 

 人間の生徒やエルフの生徒も真剣な様子だが、ドワーフたちは雰囲気(オーラ)の質が異なっている。顔の濃さも相まって、鍛冶屋で鋼の(つるぎ)を鍛える姿を海苔緒は幻視する。もの凄い気迫だ。実際に作っているのは、ただのガ●プラなのだが……。

 

「しかしプラモの代金や、工作用具を準備するのも金が馬鹿にならねぇだろ。あのエアブラシの電動コンプレッサーも大分良いやつだし」

 

 海苔緒の見立てでは四万前後といった所か、それに逐一補充が必要な塗料の代金も積み重なれば大きな負担の筈である。

 

「プラモは、問屋が抱えてる古い在庫なんかを直接買い付けてエルダント(こっち)に送って貰っているのが大半だから、それほどお金は掛かってないよ。それにコッチが用意した道具はニッパーとかヤスリとか、墨入れペンぐらいだし」

 

 確かに古い在庫なら定価より大分安く仕入れることは可能だろう。道理でタカ●トミー版のゾ●ドやらガンダムS●EDのキットを作っているわけだ。

 けれども、ドワーフの生徒たちだけは最新のSDキットを使っているし、道具も明らかに多い。

 

「――いや、確かにエルフや人間の生徒はそうだが、ドワーフの生徒たちは明らかに別の道具を大量に使ってるぞ?」

 

 エアブラシだけはない、ガ●ダムマーカーにピンバイス、パテにプラ板、デザインナイフにプラ用の小型ノコギリ。その他諸々、多数の道具が置かれていた。

 

「それはドワーフの子たちが自分達でお金を出して買った道具だよ。そのお金はネットオークションで、ちょっとね」

「……もしかしてプラモの完成品を売ったのか」

 

 海苔緒の問いに慎一は頷いた。

 

「うん、ここに飾っておくにも限界があるしね。ドワーフの子たちに頼まれてネットオークションに出したら、結構な値段が付いたんだ」

 

 慎一は工作室のガラスケースに飾られたプラモの一角を指した。他の素組みのプラモとは比べ物にならない完成度の品が並んでいる。ドワーフの生徒たちが作ったものだと一目両全だ。

 

「HGサイズのリジェネレイトガ●ダムやらバスターダガーにデュエルダガーまで飾ってやがる」

 

 ガ●ダムSEEDのプラモラインナップは海苔緒の知る前世とは多少異なるのだが、それでもドマイナーなこれらの機体はキット化されていない。ドワーフたちがセミスクラッチで制作したものだ。

その洗練された仕上がりから鑑みるに、ネットオークションに出せば、単体で数万以上の値段が付くのはまず間違いない。

 

「確かに日本でも高評価だろうな。今にも動き出しそうな出来だし」

「いや紫竹さん、ドワーフやエルフたちは実際に動かせるから」

「はぁ? そんな訳…………あるのか」

 

 慎一の台詞に、海苔緒は脊髄反射で言葉を返すが自分で発言している途中で慎一の言葉に偽りがないことに気付いた。

 現にエルフの生徒の一人が完成したゾ●ドを魔法で宙に浮かせて操っているし、ドワーフの生徒の一人もサフ吹きされたSDキットを動作確認のために魔法で操作していた。

 彼等は鉱物などを自在に操る魔法を習得しており、キットの内部に金属を仕込むことでプラモを自在に動かしているのだ。

 この仕組みを応用してロミルダの父が統括するガルド工房は、影武者となる等身大のペトラルカ皇帝の人形を制作し、本物の人間のように動かすことに成功している(八巻参照)。

 各部に追加の関節を仕込み、金属(メタル)パーツを多用しているドワーフたちのSDガ●プラはまるで本当の生き物のようにヌルヌル動いている。

 加えて針金を芯にして作られた手は自在に五指を動かせるらしく、武器を握ったり、離したりも出来るようだ。

 手すきのドワーフ二人が、多重関節を仕込んだガ●プラ同士を魔法で操作してブンドド(フィギュアやプラモを戦わせて遊ぶこと)する様子は、ガ●プラファンなら誰しも一度は思い描いた夢の光景である。

 もはやこれはまるで……、

 

「……リアルビルドファイターズだな」

「え、紫竹さん。今なんて云いました?」

「いや、なんでもねぇ。それよりも慎一……あのドワーフの子たちに直接制作代行を頼んでも大丈夫か?」

「……へっ?」

 

 今にも『ガ●プラ、買うよ!』とか云い出しかねないガチ顔の海苔緒に、慎一は呆気に取られたというか……正直少し引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一、二限目を終えた後は教室に戻り、三限目はコスプレイヤーの撮影時のマナー講習といことで見学者の海苔緒とアストルフォは何故だか綾崎氏の指示でレイヤー役をやらされた。

 アストルフォはレンタル☆まどかの『まどか』のコスプレをノリノリで着こなし、海苔緒は渋々ながら某機動戦艦のオペレーター(『馬鹿ばっか』の台詞で有名)の劇場版コスを引き受けた。

 幸いにも露出度が高いアストルフォの方に注目が向いてくれたが、携帯ゲーム機付随のカメラやらデジカメやらを一斉に向けられた海苔緒は正直生きた心地がしなかった。

 たかだが十数名の生徒相手にこれなのだから……銀座事件の関連で記者会見でも開くことになった日には社会的のみならず、精神的にも【死亡確認!】になる破目に陥るだろう。

 今の内に覚悟しておくべきか、と海苔緒は内心で深く嘆息した。

 続いて4限目はゲーム機の歴史を関する授業は、プロジェクターによる動画を交えて行われた。

 内容は任●堂のスーパーフ●ミコン無双からソ●ーのプレイステ●ション1誕生秘話まであたりで、流星の如く現れては散って逝ったゲームハードにも触れていた。

 今思うと早すぎたのだ……任●堂のサテラビューやセ●、メ●ドライブのダイヤル回線を利用したゲームダウンロードは。

 ハード戦争の空しさや時の流れの物哀しさに海苔緒が浸っている内に、四限目は終了し、今日の学校のカリキュラムは全て終了した。

 午前で講義が全て終わるのは早すぎると思うかもしれないが、ここに通う生徒たちは貴族や商人の子弟であり、オタク文化を学ぶ以外にも将来を見据えた勉強を必要なのである。

 それに学校は午後からも解放されているので、学校に残り休憩室に置かれた据え置きゲーム機で遊んだり、図書館でライトノベルや漫画を読んだりすることも出来る。言い換えれば自習が可能ということである(本当にこれを自習と呼んでいいか否かは、意見が分かれるだろうが)。

 その間、慎一たちは明日授業の準備を教員室で行っておく。

 これから慎一の方針としてはアニメや漫画を通してエルダントの生徒が興味を持った日本の歴史や、文化、風習なども教えていく予定だそうだ。

 無論、エルダントに対する文化侵略や押し付けにしないため、ペトラルカ皇帝たちとも十分に話し合いと行った上で検討を重ねていくらしい。

 そういった相手側の目線に立って真摯に考える慎一の姿勢こそが、アミュテックがエルダント国内で成功している最大の秘訣なのだろう、と海苔緒はしみじみ思うのであった。

 




本当は万遍なく従業内容を書こうと思ったのですが、何故だかプラモの話に比重が偏ってしまいました……ORZ
バ●ダイさん、レッドフレーム・マーズジャケットのプラモ発売はよnry

そして次回20話でエルダント編は一旦終了です。さらに次回の21話からハルケギニア編に突入すると思いますが、おそらくエルダント編より長くなる予定です。なのでゲート編は今しばらくお待ちください。
ゲート編においてはネット小説版の番外で登場していたスパイスでウルフな方々も出してく予定でプロットを練っていますので、楽しみして頂ければ幸いです。

では、



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