これよりは、この戦いに、後に星噛事件と呼ばれる事となる戦いに参戦した者らの『その後』を語るとしよう。
長くなると思うがお付き合いくださると嬉しい。
***
片桐兄妹の場合。
「兄貴……大丈夫?」
妹の心配気な問の向けられた彼、片桐玉樹はベッドの上に居た。体の至る所包帯をグルグルと巻かれ、点滴を打たれている。喋るのがやっと、身動きなど二の次な状態なのは見て分かるだろう。
ここは東京エリア某所の病院だ。某所、というか室戸菫が研究ラボを置いてある病院であり、銀子が入院していたあの病院だ。
そこの個室に彼は居た。先日の、星噛事件の報奨金は貧乏生活を強いられていた彼らが個室を借りるという贅沢(?)をしても余りあるほどだったのだ。
弓月は既に完治済み。イニシエーターであるのもそうだが、彼女はあの戦いでも大きな怪我を負わなかった辺り、幸運であるし、優秀さが垣間見えるだろう。
「あー大丈夫だ大丈夫。こんなもん明日には治ってる」
弓月へ笑ってみせ、玉樹は「こんな傷、さっさと直さねえとな…」と呟
いた。
「なんかあるの兄貴?」
「ああ、オレッちは、そう、出会っちまったんだ……」
溜めて、溜め……ちらりと弓月の方を見、聞くように促す様子を見せる。仕方なしに、彼女は口を開くことにした。なんだか様子が妙だし、頭でも打ったのかな……?と少し不安になりつつも弓月は口を開く。
「えっと……、何に、出会ったの?」
「よくぞ聞いてくれた! マイシスター!!」
起き上がれる筈がないのに無理矢理起き上がろうとした玉樹は妙な叫び声を上げると、元の様にベッドに背中を付けた。
「ちょ、ちょっと兄貴! 安静にしてなきゃ駄目なんだから! それに興奮したら駄目でしょ!! 傷口開いちゃう!」
「お、おう……すまねえ。ちょっとあの人の事を、あのクールな美貌を思い出したら興奮しちまってな……」
「あの人……?」
怪訝に眉を潜める弓月に「おうよ!」と顔面を喜色に染め上げ、頬を赤らめる。恋する乙女か何かか……。と弓月は内心で呟いて、 「いや、そのものね、これは……」と思わず口に出して呟く。
「ん?」
「いや、なんでもないよ、兄貴。ほら、あの人って?」
少しずれかけたレールを直すように、弓月は玉樹に言葉を促す。
「ああ、あれは、そう、衝撃的な出会いだった。お前も見ただろう?
彼女のあの刃物捌きを……」
「って、もしかして……」
弓月の脳裏に浮かび上がるのは、あのヘカトンケイルを三枚卸しどころかネギのないネギトロ、つまりはペーストだが、そう思えてしまうほどにバラバラにした女の姿。
窮地から救ってくれた命の恩人に、安心を覚えるどころではなかった。
戦慄した。恐怖した。冷や汗が、震えが止まらなかった。あれは間違いなく化物だ。そう確信できた。あの刃に立ち向かっていける気がしない。もしあの刃を向けられれば弓月は、いいや、常人は崩れ落ち、抵抗の意思すら無くして失禁してしまうかもしれない、いいや、するだろう。胃は痙攣し、中身を吐き出し、涙が勝手に零れ落ち、恐怖で歯がガチガチと勝手に打ち鳴らされるだろう。
あれはそういうものだ。
立ち向かっては行けないもの。立ち向かおうとは思ってはいけないもの。
「あ、あのマフラーを巻いた人のこと?」
弓月は少し声が震えたような気がした。体が小刻みに震えているのに気づいた。思い出すだけでこれなのだ。正面など――想像するだけで泣き出しそうだった。
それだけに、あの
「そうだ……あの人は、オレっちの……」
言葉を口の中で味わうようにじっくりと転がして、
「女神だ……」
玉樹は言った。
弓月は思う。他に居なかったのか、と。
あの里見蓮太郎のところの社長だったか。兄貴は気絶していたから会っていないけれど、あの人も美人だった。どこか、重そうな気がしたけれど、きっと兄貴は一目惚れするだろう。
そこまで弓月は考えて、目の前の兄の姿を見て、溜息を吐く。
――この前提条件、《他の女に惚れている》がなければの話か……。
他に、他にもっとまだ良い人が居るはずなのに、どうしてまた……。
けれど、弓月はそんな事は言えなかった。目の前の幸せそうな兄の姿を見れば、そんな台詞を口から出す等出来るはずもなかった。
「…………ねえ、兄貴」
「なんだ、弓月」
「兄貴の気持ちはよーく分かったからさ」
苦笑を浮かべて、弓月は言う。
「安静にしてよう? 怪我、まだ治ってないしさ」
「ああ、すまねえな。弓月」
彼女の思いやりを受け取り、玉樹はようやく興奮から脱した。
「で、その女の人の名前、分かるの?」
いや、と玉樹は首を振って、
「分からねえ」
だからこそ、
「じゃあ、早く体を治さなきゃね、兄貴」
「ああ、その通りだ」
そう言葉を交わして、二人の会話は止まった。ただ静かにベッドのから見える位置に設置された液晶テレビで流れるニュースのキャスターの声が病室には響いていた。
内容は、復興。この街に未だ残り続けるガストレアの捜索と駆逐。そして、壊れた建物の修繕、修復。
ここ最近はこんなニュースばかりだった。他のチャンネルも大体こんな感じ。
当たり前なのだろうが。
「なあ、弓月」
「何、兄貴」
ふと玉樹は妹の名を呼んだ。返ってくるいつも通りの返事を聞いてから、彼は言う。
「オレっち達も強くならなくちゃな」
思えば、あの人が居なければ自分はここに居ない。今頃、ガストレアの腹の中だろう。そう、やはり、そうなのだ。
弱い。まだまだ自分達は弱い。あの刃に手が届くのは無理でも、それに届く為の努力が自分達には足りなかった。
もっと、強くならなければならない。
この世界の現実は厳しい。人間関係も、ガストレアも。何もかもが、酷く辛い。
今までの人生、楽しいことばかりじゃなかった。
だからこそ、今よりも強くならなければならない。
「兄貴となら、大丈夫だよ」
暖かな温もりと握り慣れた指が自分の手を握るのを、玉樹は感じた。
守らなければならない、この熱を。
強く、彼は思った。今出せる力で包み込むように、握り、答える。
玉樹は、テレビから目を逸らして、弓月と目を合わせた。そこには何時もの笑顔がある。変わらない暖かさがある。
彼女の笑みに、答える様に彼はニッと笑って見せて。
「そうだな」
と、しっかりと頷いた。
***
九鳳院竜士の場合。
「……どうだよ、糞親父に糞兄貴」
にやりと笑う竜士の前にあるのは九鳳院家と書かれた墓が一つ。
「狭っ苦しい骨壷の居心地はどうだよ? んん?」
にやにやと笑って、何か聞こえたのか、それともそういう演技か何かか。墓石へと片耳を近づけると、
「ああ? 俺? 見ての通り、絶好調――とは言えないな」
そんな風に言って、にやにや笑いを引っ込めるとつまらなさそうに墓の前に腰を下ろした。ついでに、お供え物の菓子を取って、齧りつく。歯が薄皮を突き破れば饅頭の中にあるあんこの甘みが口いっぱいに広がって、彼の舌を甘味一色に染め上げていく。
暫く口を動かし、嚥下して菓子を味わうと溜息混じりに言葉を作った。
「ついにやることが無くなった。どうすりゃいいよ。
紫はあいつがケリを付けたしなぁ……」
ぼやきは止まらず、二個目の菓子へ手を伸ばす。
「ガストレアの相手でもするとかあるけどさあ……」
なーんか違うよな。近くのコンビニで買ったペットボトルの緑茶で、口内の甘みを流し込みながら思案する。
「…………あ、いや」
そこでふと気づく。そういえば。そうだ、そういえば。
「イニシエーター……。
そうだ。今のいままで何故気づかなかったんだ!!」
右の拳を強く握りしめた竜士は、それを空に掲げる。その瞳には活力が、先までだらりと饅頭を味わっていたやる気の無い彼のそれではない。その顔には輝きがあった。活力が満ち満ちていた。
――その考え自体は、淀みきっていたが。
「そうだ、そうだよ!!」
復讐に濁りきっていた思考がクリアになり、視界が開けていくのを確かに彼は感じていた。
竜士の脳裏に浮かび上がるのは、一つのプラン。彼の嗜好の中で、今の今まで何故か脳内に蔓延り続けていたもの。復讐という目的に押し流されず、こびり着き続けたもの。
「イニシエーター育成計画……!! 嗚呼、なんと素晴らしき響きかな……!!」
そうやっぱり彼はペドだった。
十年経とうが、それが原因で歯をほぼ全損しようが、海外に飛ばされようが。
復讐者になり、家族の敵を探し続けても。
それでも、それでもやっぱり彼はペドであった。
成長したとしても変わったとしても、性癖だけはあの頃と一寸違わなかった。
ペドの鏡、嫌な言葉であるし存在自体非常にあれな言葉だった。
そう、意気揚々と墓場より去っていく彼の背中はとても大きく見えた。これからの未来が輝いて見えるのだから、それも当然だろうが。
「ああ……空が綺麗だな……」
彼は凄く綺麗な笑顔を浮かべて、空を仰ぐ。彼の見つめる雲一つ無き青空の様にその顔は晴れ渡っていて、とてもとても清々しく、美しい顔をしていた。
「空気が、空気が旨い……!!」
墓場から出た竜士は大きく深呼吸をして、そう呟く。この汚れた都市の空気であっても彼にとっては旨くて旨くて堪らない。今の今まで酷く淀んだ空気を吸っていた様な、まるで初めてちゃんと空気を吸った様な気がした。
歩き出し、取り敢えずプロモーター資格を取りに行くかとこれからの事を思案する竜士の前を、二人の、茶髪にツインテールの少女と若葉色の髪を編み込んだ少女が二人、通り過ぎて行く。それを軽く目で追いながら、思わず彼は呟いていた。
「――――幼女って、最高だな」
***
柔沢ジュウ、堕花雨+αの場合。
銃声が彼の頭を貫いた。
吐き出された鉛は、空に螺旋を刻み、その身を押す推進力のままに真っ直ぐ飛翔する。
けれど、それは一度ではない。
一度、二度、三度――。それは
ここ数日、彼こと柔沢ジュウが拳銃というものの使い方を堕花雨に教えこうてからまだそれだけの日にちしか経っていなかった。
始まりは銃の仕組みや軽い歴史話。次はちょっとした射撃訓練と分解や掃除といったもの。
実技の射撃訓練、的当てに置いては、初めたばかりだというのに中々の腕前を見せていた。
親から受け継いだ才のおかげ、とも言えるだろうし、彼の努力の結果とも言える。
どちらにしても実技は中々、他はまだ履修中。
それについても勤勉なジュウだ。直ぐにものにするだろう。
「――――まだ、まだだな」
ジュウはそう独り言ちた。彼の手に握られているのは、グロック17という拳銃。かなりポピュラーな拳銃で、雨曰く入手は安易らしい。彼女の言う安易は一般人にとってどうなのかは分からないが。
けれども、このご時世だ。実際、本当に簡単なのかもしれない。
耳あてを取ったジュウは、傍のパネルを操作して向かいの的を呼び寄せる。
「やっぱり、まだまだだ」
自らの銃撃の結果を見、同じような事をジュウは呟いた。
人型、上半身部分のみ人の形を象り、白のラインでマトリョーシカのように大きな円の中に一回りほど小さな円の書かれたに薄っぺらい的、それに空いた風穴はかなり散らばっていた。
グロック17の最大装填数は33発。今はその内の12発を撃ち込んだ。
狙っていたのは頭部。
けれど、頭部に命中していたのは五発程。
「まあ、そう簡単に上手くはいかないよな」
傍に立て掛けて置いた新しい的と風穴だらけの的を交換し、パネルをジュウは操作した。
「そろそろ休憩にしましょう、ジュウ様」
もう一度、耳あてを装着しようとしたジュウはその声を受けて振り向く。
そこにはいつもの様に目元を切り揃えた前髪で隠しきった彼女の、珍しく私服であろうワンピースを身に纏った堕花雨の姿があった。
「お弁当作ってきましたから、どうでしょうか?」
首を軽く横に傾けて、訊いてくる雨から少し目をその後方、射撃場の入り口の上部、コンクリート剥き出しの壁に掛かったアナログ時計に目を向けてからようやく、今が昼過ぎになっているのに気づいた。
来て準備をして初めたのは九時。どうやら集中しすぎて時間を忘れていたらしい。
時間の経過を自覚すると、急に腹が空腹を訴えかけてきて、同時に喉の乾きを覚えた。
「ああ、そうするか」
雨の言葉にジュウが同意すると彼女は小さく口元を緩めて、微笑みを浮かべた。
「それにしても珍しいな……。料理、得意じゃなかったよな?」
並んで廊下を歩きながら、持ってきていた青いラベルの清涼飲料水を傾けて、その温い液体で喉を潤すとジュウは意外そうな表情を浮かべた。
「はい、私一人では難しいので、光ちゃんと一緒に作りました。だし焼き卵が自信作です」
雨の浮かべた笑みに、つられてジュウも笑みを浮かべた。
「なるほど、楽しみだ」
「そう言って頂けて嬉しいです」
そんな二人で会話を続けていると打ちっ放しコンクリートの通路も終わりを迎えた。白い光、初夏も近づき、少しきつくなってきた陽射しにジュウは目を細めた。
二人が先まで居た施設は、イニシエーターやプロモーター、その他の裏系統の住人が射撃訓練などをするのに使っている施設の一つらしい。今はガストレア掃討の仕事が多く、人影はないが。
何故、そんなところを使えるのかと言えば、毎度のことながら雨のツテである。どこからかこんなよく分からないコネやら何やらを引っ張り出してくるのはやはりミステリアスだ。
ジュウも気になってはいるが、未だに聞けていない。聞けばきっと彼女は正直に答えるだろうとは思うが、それはそれでどうなのだという心の声が彼にそれを止めさせていた。
内観と同じく外観もあまり個性的とはいえない。白が目立つ見た目で角ばった長方形型をしていた。大きさはそこそこ。巨大とは言えないものの、小さいとも思えない。
そして、二人が出たのは、休憩所やらが設置された区画。一面の芝生はしっかりと手入れされており、そのまま座っても心地よさげだ。閑散としているが、多い時には人も多いだろう。
「この辺りに居ると……」
何やら探す雨にジュウは怪訝と眉を潜め――。
「おーい二人共ー」
――たが、声を聞いた瞬間、合点がいった。なるほど、あいつも来ていたのか、と。
声の発信源は休憩所にある食堂、というよりはカフェテリア然としたそこの外へと並べられた円形テーブル。
「こっちだよー!」
声の主はそこの一角に腰掛けて、ジュウ達に手を振っていた。
斬島雪姫、手を振る彼女の名前だ。いつもの白のリボンで作ったポニーテールを揺らし、ジーンズとシャツを身につけていた。
「あいつらも来てたのか」
「はい、暇らしくジュウ様にお弁当をお持ちする旨を伝えると一緒に行
きたいと言いましたので。
……駄目でしたか?」
「いや」
軽く苦笑して、
「別に問題ない。
ほら、腹減ってるんだ俺。さっさと行って食べさせてくれよ」
「はい、分かりました。ジュウ様」
二人が雪姫のところに着くと丁度、中のカフェテリアから白い湯気の立つ紙コップを二つ持って、一人の黒髪をショートヘアにした少女、円堂円が姿を現した。
「……お前も来てたのか」
何度目か分からない台詞をジュウが思わず口にすると、
「悪いかしら?」
「いや、そんなことはない」
「そう。はい」
首を振るジュウに、円は小さく笑みを浮かべると右手の紙コップを差し出した。
「ああ、サンキュー」
受け取って見ると、存外に熱い。中を見てみるとそこには鶯色の液体が満ちていた。まあ、ただの緑茶だ。とりあえず一口、ゆっくりと啜った。
「……旨い」
「それはよかったわ」
「ジュウくんに円ー、そろそろお昼食べようー。私お腹減りすぎて背中
と背中がくっついちゃいそうなんだからー」
子供っぽくテーブルの下で足をじたばたさせる雪姫にジュウは苦笑を浮かべたが、自身も空腹には耐えかねていたのもあり、大人しく椅子に腰掛けた。
と、目の前に音もなく置かれたのは包まれた弁当箱。二段だろうか、そこそこに大きい。
「どうぞ、ジュウ様」
差し出し主の方へとちらりと視線を向ければ唇に緩やかな弧を描かせ、小さく笑みを浮かべた雨の姿があった。
包を開く、中から出てきたのはどうにも高そうな黒塗りで長方形の弁当箱。カパッと蓋を開ける。そこにあったのは色とりどりのおかず。黄に赤に茶に緑。栄養バランスとジュウ自身の好みを考慮した内容には流石のジュウも少し驚く。
「旨そうだな」
感想を一つ呟いて、その一段を外して横へと置くと現れたのは、艶やかな白米。時間の経過により温かさは失われているがそれでもなお、この白米は旨いだろう。良い米を使ってるのはジュウには一目で分かったし、目の肥えた――大体実家のお陰――二人もそれを見て取っていた。
そこまで見てから、ジュウは包の中にあった箸を手に取ると、
「頂きます」
まず――だし巻き卵に箸を向けた。
「――うん、旨い」
「ありがとうございます、ジュウ様」
満面の笑みを雨は浮かべる。前髪で顔のほとんどが隠れているとしても、その様子は確かに伝わってくるし、その口元は笑みをしっかりと浮かべていた。
「そうそう。そういえば。そろそろ学校が再開するんだっけ?」
サンドイッチを食べていた雪姫は、唐突にそう言った。手元のコーヒーの入った紙コップを傾けていた円が口を開く。
「そうみたいね。ガストレアも片付いて復興も半場終わったらしい。私達の学校は両方共、避難施設として機能してたのもあって無傷同然だったのもあって再開するのも他より早くなったようね」
もっとも、そう前置いて。
「傷が癒えたなんて、口が裂けてもいえないけどね」
重い沈黙。それが四人の中に降りてくる。
「そうだな……」
沈黙を破るように、という程ではないがそう言ってからジュウは頷き、茶を啜ると、
「まあ、そのなんだ……」
前置きをして、
「お前らが生きててよかったよ」
どこか他所を見ながら、少し照れくさそうに言うとまた紙コップを口元に運んだ。
そんなジュウの言葉に、円は小さく笑みを零し、雪姫は満面の笑みを浮かべた。
「ジュウ様より早く死ぬなど出来ません。それこそ末代までの恥です」
酷く真剣な面持ちで言う雨に、ジュウは思わず苦笑を零し、
「んな大仰に言うなよ。まあでも、そうならなくて良かった」
それからジュウは空になった弁当の蓋を閉じ、包み直すと雨の前にやり。
「旨かったよ、次も楽しみにしてる」
「有難きお言葉です……」
恭しく礼をした雨に、またジュウは苦笑した。
「じゃあ、午後からは宜しく頼むぞ、雨」
「勿論です、ジュウ様」