金髪の、先まで装甲車に乗っていた彼こと柔沢ジュウは空を見上げていた。夜の、何時もとは違う東京エリアの空。何時もの様な黒一辺倒な漆黒では無く、都市の灯りが殆ど消えた東京エリアの空は星々が煌めいている。それは東京エリアの外でなら当たり前の光景だろう。
しかし、此処では非日常的だった。
そんな彼は今、第0区域に展開されている大規模な避難所、そこで自分達に割り当てられたテントの前に立っていた。周りでは不安気な人々の話し声や失ってしまった者等が泣き叫ぶ声、啜り泣くきがそこらからしている。
ジュウは思う。
両の拳を握り締めながら、思っていた。
自分は何故此処まで無力なのか。
そこら辺の高校生よりは頑丈で、喧嘩慣れしているだろう。自分で言うのは難だけれど、少しばかりは根性もある。ある程度の事なら耐え忍ぶ事が出来る精神を備えている筈だ。
しかし、それがどうした。
それがどうしたというのだ。
今、この世界ではそんなもの何の役にも立たない。
今まで色んな碌でもない奴らに会ってきた。実際、殺されかけてばかりだった。きっと自分一人なら死んでいただろう。とっくの昔に死骸に成り果てていただろう。
狂ってしまっていた彼女に対面した時は救いたいと、光を失ったあの子を護れる力が欲しいと思っていた。
何度も無力だと思った。何度も立ち向かう力が欲しいと思った。そして、努力はしてきたつもりだった。
「……クッソ」
小さく吐き捨てた言葉は無意味だった。苛立ちの解消にも成り得ず、只の雑音にしか成り得なかった。
そんなものでは生温かった。
当たり前だった。この世界にはそんな悲劇よりももっと巨大な悪意が暴力が無数に存在している。
ガストレアを、この世界の全てを狂わせた存在を前にして、自分は無意味で無力だった。
それが悔しくて悔しくて堪らない。
今日だってそうだ。今日も、あいつや雪姫の力ばかりに頼っていた。頼ろうとは思っていなかった、しかし、そうなってしまう。弱いから、自分が弱いから。
――――強く、ならなければならない。
無力に苛まれる中、彼がそう思った。
そんな時。
「星が綺麗ですね。ジュウ様」
聞き覚えの有り過ぎる、ここ最近では最も聞いたであろう少女の声がした。
直ぐに声の主には見当が付いていて、その名を口にする。
「――――雨、か」
自分の中に集中し過ぎていたジュウは初めて隣に彼女が、堕花雨が居たのに気づいた。しかし、顔は見せない。空を見上げたまま、背後の彼女へと彼は言葉を作る。
「ジュウ様は強いです」
一言、彼女はそう言った。まるで、ジュウの心の中を読み取ったかの様な言葉であり、そして、紛れも無い彼女の本心であった。
「…………俺は、弱い」
ぽつりと言葉を返す。
「お前の頭の中の俺は正義の味方で、白馬に乗った王子様で、すげえ強くてかっこいいのかもしれない。だけどそれは幻想だ。夢物語にしか過ぎない」
実際の俺は――――。唇を噛み締めて、ジュウは言う。
「弱いんだよ」
何時もの気丈さ等無く、声は弱々しかった。
「何度も、言ったじゃねえか」
そう、それこそ今にも泣き出してしまいそうなほどに。決して、涙は流さないだろうけれど彼の声はそこまでに震えていた。
暫しの沈黙の後、雨は言葉を作り、
「いいえ、ジュウ様は強いです」
彼を強いとそれでも彼女は言う。
「そして、これからもっと強くなります。必ず、絶対に」
確信の篭った声に思わず言葉を放つ。
「……根拠は?」
ジュウが彼女に尋ねると、雨は小さく笑みを浮かべて。
「私がそう確信している。それで十分ではないでしょうか?」
思わずジュウは吹き出して、笑いながら軽く肩を軽く揺らした。
「それはまた、信憑性が著しく欠けているな。ああ、そうだな」
空から目を逸らしてジュウは振り向く。そこには何時もの彼女が居た。目を覆う髪は分厚くて、その瞳がどのような色を浮かべているのかを伺わせない。だけれど口元は微笑みを浮かべている辺り、不機嫌ではないのだろう。
「俺、強くならなくちゃな」
「これ以上強くなって、どうする御積りなのです? ジュウ様」
微笑を浮かべた彼女は珍しく冗談を交えながら尋ねてくる。それに、そうだなとジュウは口元に片手を充てがって、暫し思考する。 強くなりたい。そう思った。なら、俺にとっての《強い》ってのは――――。
浮かび上がるのは母親の背中。未だ拳を掠らせる事すら出来ていないあの女の背中。苛つくけれど確かにあの女が自分の見たことある存在の中でも最強だろう。負ける所を想像できない。
だが、それは癪だ。あの女の様には成りたくはない。
だから。
それ以外を望む。
けれど、それ以外とは――――。
「ジュウ様!!」
物思いに耽るジュウへと鋭い声が飛ぶ。それは焦燥に満ちていて、どれだけ危険な事かをジュウが察するのには十分過ぎた。
遅れて誰かと誰かの、大勢の悲鳴が聞こえてきた。それは先まで大気に満ちていた静寂を無残に引き裂いてしまう。
悲鳴の方、それは彼の立つから聞こえてきた。そして、それは暗がりからゆっくりと此方に向かってきていて。
「な――――ッ」
ジュウの全身が総毛立つ。後ろに、一歩下がる。自然とそうしていた。目の前にある一対の赤い目を湛えたそれを前にして、彼が取った行動は極自然だっただろう。
雨がジュウを庇う為に彼の前に立つ。気丈な行動だが、流石の彼女もこれを前にしては怯えを隠す事など出来ず、その躰は震えていた。
それ、彼らの前、数メートル先に居るそれは、死臭を纏っていた。一息吸っただけで吐き気を催しそうなまでに濃密で強烈な死臭は離れているのに彼らの鼻孔を刺激する。
それは、人を嗤っていて。悪意に満ちていて。絶対的だった。
半分、人の形をしていた。もう半分は人の形を無くしていた。片方の人の方は男だった。何処かの誰か。まだ人として生きてるそれがジュウと雨を見つめていた。その目に浮かぶのは困惑。何故、彼と彼女が自分を見て、そんな表情をしているのかが男には解らなかった。
もう半分は、直視を躊躇われる程に凄惨を極めていた。零れ落ちる赤黒の臓物に入り混じる赤く黄色く緑の体液に汚物は此れが現実であると視覚と聴覚を通じて訴えてくる。恐らく先の死臭の原因はこれだろう。しかし、酷い臭いだ。この場合に鼻孔を突くという表現を用いるのは正鵠を射ているといえた。鼻の奥の粘膜を突き貫く様な刺激臭は顔を顰めるのに充分過ぎる。
男が近づいてくる。脚が無いのにどうやって動くのかと思えば、なんともまあ奇っ怪な。臓物がまるで脚の様に彼の躰を支えていたのだ。そして、その動きは正に人の脚そのもの。確りと地を捉えて、地を蹴っている。耳の奥にこびり付く嫌な音をさせながら彼らに近づいてくる。
ジュウの息が自然と荒くなる。なんせ目の前には絶命を引き連れ、死を運ぶ非現実地味た現実が居るのだ。それは至極当然の反応であろう。脚も震えている。まともな状況ではない。先までこんなのとやりやっていたが、そう簡単に慣れるものではない。
人の悪意に比べれば解りやすい。しかし、解り易すぎる直線的な衝動はあまりにも強烈だ。逸らすことは至難の業であるし、迎え撃つなど以ての外。
「kiみ達、みte、ぼkuの、見なkaっtあ?」
男が喋った。言葉を扱った。そう、この男まだ人としての意識を保っていた。保った上で、正しく現実を認識していなかった。
瞳は虚ろで、濁っている。何処と識らぬ場所を見つめ、何かを探す瞳は、ジュウ達を見ていた。
「――――あんた、なんか探してるんだな? 友達か? それとも家族か?」
そんな男を見て、ジュウはふとそんな言葉を口にしていた。男を哀れに思ったのか、それとも先まで自分が母について考えてたからからかもしれない。理由は定かではないけれど何かよく解らない使命感があった。
ジュウ様っ。驚いた様に雨が此方を見てくるが彼は気にも留めず、ただ真っ直ぐに男を見つめていた。
「saがす? なnぃか? かzぉく? 家ぞkぅ、カぞく、かぞく、家族」
受け取った彼はジュウの言葉を反芻していた。咀嚼し、感じ取り、思い出そうとしている。徐々に、ほんの少しばかり人へと後戻りしながら。
「iなイ。イナい。皆、bおくの前で死んでしまった。嗚呼、嫌だよ、いやダよ。一人にしないでクレ。一人にshぃなイで。ボクハ、boくhaaあああ、僕はぁああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA■AA■■AAA■AA■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!!」
叫ぶ、絶叫する。悲痛な声を上げて、掻き毟る。唯一無事の片手で顔面を掻き毟り、皮膚を肉を抉り取りひたすらに男は声を上げて、慟哭していた。
溢れ出た悲哀は彼の心を際限なく引き裂き蹂躙する。失ったという事を思い出してした彼の心は自壊しようとしていた。未だ、自分の現状に気づかないまま。
悲痛な叫びは、徐々に咆哮へと変わっていく。ガストレアへの変異が最終段階へと移行しているのだ。男の躰が形状崩壊を起こし、別の生命体へと、ガストレアへと変異する。
「俺、は――」
ジュウは男の変わりゆく様を見つめながら、拳を握り、言葉を作る。
「こんな、理不尽を認めていいのか――?」
しかし答えに辿り着くのに彼は、一瞬の思考すら必要なかった。
まるで、最初から答えなど決まっていたかのようだった。
いいや、と彼は頭を振ると。
「そんなわけがないだろうがッ……!」
瞳は強い意思を湛えた。睨む様にその变化を見つめながら激しく憤る。
こんな理不尽を認めてたまるものか。巫山戯んじゃねえよ、と。
その時。
彼の中心で、彼だけの、彼の為の渇望が芽吹こうとしていた。
否定の渇望。理不尽を拒絶する。という真っ直ぐな願い。
胸に抱いた願いは、内に広がる求道。しかし、始まりと定めるなら丁度良い。
しかし、今を覆すにはあまりにも矮小だった。
しかし、今を覆すにはあまりにも矮小だった。
苦痛と悲痛に満ち満ちたこの理不尽極まる世界を象徴する存在と対面した彼にとってそれが今乗り越えるべき現実だった。
变化が完了した。
先まで男が立っていたそこには、一体のガストレアの姿があった。
それは、雄牛。角の生えた頭を見上げんばかりの巨体から生やした黒色一辺倒に赤い瞳を光らせる化物だ。そして、人に対する致命を持った怪物である。突進は意図も容易く二人の躰を八つ裂きにするだろう。逃げ出した二人との距離を瞬く間に詰める程の脚力を持っているだろう。
しかしジュウは動かない。
逃げもせず、立ち続ける。それに雨は従う。彼の前で盾になるように彼女は立っていた。
その直後。
ガストレア、ステージⅠはその体躯に余りある膂力を開放した。
がしかしだ。
その膂力はジュウを蹂躙するに至らなかった。
響くは音。幾度と重なり、腹に響く。
それは銃撃音。放たれた弾丸は音を置き去りにして、ステージⅠへと殺到する。ステージⅠは確かに反応するが、しかし遅い。既に込められた膂力は前へと向けられている以上、前へと加速するしかないのだ。全身で銃弾を受け止め、ステージⅠは苦痛の唸りを上げて仰け反った。
はっとジュウは周囲を見渡す。並び立つテントの壁を引き裂いて、中から弾丸は飛翔していた。何時の間にか自衛隊の部隊が配置されていたらしい。テントの壁を無理矢理切り裂いたそこから幾つもの銃口が現れ、ガストレアへと火を吹く。
そんな時、ジュウと雨へ二人の自衛官が走ってきた。一般市民への避難誘導だろう。
「さあ、避難を!」
そう肩に手を置かれて、真剣な彼らにジュウと雨は促される。
しかし、彼の眼は既に自衛官を見ていなかった。その眼は、ステージⅠから離れない。
すると流石というところだろう。察した雨が何やら自衛官と話し始めた。どうやら諭している様だ。要約すると此処は安全だから放っておいて欲しいというもの。戸惑う自衛官達だったがどうも言い包められたらしい。二人に背を向けて、自分達の職場へと戻っていった。
やはりこいつは口が上手い。自分には出来ない。
と感心しながらもジュウはステージⅠへと視線を戻した。
銃弾の雨の中を怯みながらもステージⅠは動こうとする。低い地を這う唸りを上げて、双眸を怒りに爛々と輝かせ、躰を立たせる為に脚へと力を込める。
まあ。
それも叶わないわけだが
刹那、弾丸の雨が止む。無論、弾切れ等ではない。
斬撃、二種の、同じ素材で造り上げられた刃が速度で空を駆け、
「―――――ッ!!!!」
ステージⅠの後ろ脚を斬り断つ。
軽やかで奔放な一閃。
力任せな剛の一閃。
どちらも異なる斬撃でありながらも互いに引けを取らぬ一撃であった。それもあり、ものの一撃で脚は地に落ちる。
斬撃の主は、ポニーテールを揺らす少女、斬島雪姫。そして、赤い瞳を湛えた少女、千寿夏世の二名。前者の手には黒い刀身を生やしたナイフ。後者の少女の両手には相棒の伊熊将監愛用のバスタードソードがあった。
当然、ステージⅠはバランスを崩し、無様に地へ堕ちた。軽い土煙が上がり、傷口より溢れ出た体液が大地をへ広がって、濡らしていく。
けれども、それでも。
ステージⅠは。
動く。
「g■u■■………■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」
バラニウムによる再生阻害が作用し、傷口からの脚の再生は不可能であった。その筈だった。
しかし、そんな事は重要な事ではない。
生きなければならない。何故かなど忘れた。だがステージⅠは確かにそう想っていた。その願いを抱いていた。
生きる、生きていたい、生きなければ。
執拗な衝動がステージⅠの脳髄を、全身を駆けずり回っている。
理由無き生への衝動。
誰もが抱く生への欲求にしては強大で、生存本能というにはあまりにも強烈だった。
それが作用したのか、また、このステージⅠが特異だったのかは解らない。
結果、ステージⅠはその四足で確りと大地を掴み、立っていた
再生阻害という致命をなんと意思を以って退けてしまっていたのだ。こんな事になるなど誰も予想出来て居らず、一瞬、皆が皆、目を見開いていた。しかしそれで銃弾の雨が止むというわけではない。先程の二人が撤収したその時から引き金は引かれ続けている。
目に見えて、ステージⅠは弱っており脚を再生させたとしても殆ど動けていない。
しかし、前に進んでくる。
ジュウへと、真っ直ぐに。
「――――なあ、雨」
「はい、どうしましたか? ジュウ様」
ジュウは自分の前に立ち盾になろうとする彼女へ声を掛けた。彼女は前を向いたまま、彼の声に答える。普段なら直ぐ様に振り向くけれど、今は緊急事態だと自制しながら彼女は次の言葉を待つ。
「拳銃、持ってるよな?」
確認、というよりも確信だった。何せジュウは彼女が装甲車に乗り込む前に自衛官の死体から拳銃を一丁拝借していたのを見ていたから。
「はい、持っています。それが――」
「貸してくれ」
雨の言葉を遮る様にして、ジュウはそう言った。その眼は、今もステージⅠを真っ直ぐに見据えている。その眼に宿った想いに、雨は髪に隠れた目を見開いて。
「ええ、解りました。我が王よ」
微笑を浮かべ、雨は腰の背に差し込んでいた一丁の拳銃を両の掌に乗せた。それから彼女は、ゆっくりとそれこそ恭しく、敬愛し、全てを捧げた自分の王たる男、柔沢ジュウへと跪き、その両の掌に乗せた拳銃を差し出した。
その拳銃は、自衛隊に標準で配備されている9mm拳銃とは違う代物で、少女の両の掌に乗せるにしてはあまりに大きなサイズをしていた。
デザートイーグル。シルバーに染められた大口径。ハンドキャノン等という通称からその鋼の内に秘めた威力は察することが出来るだろう。
小柄な少女が扱うにはあまりにも凶悪で、素人の少年が扱うにはあまりにも強力過ぎた代物だった。
何故こんなものを件の自衛官が持っていたのかというのは、簡単に想像が出来る。今の時代、こういったものの入手は嘗ての平和な時代と比べれば非情に安易となっており、これもそれなりの場所に行けば購入することが可能だ。まあ、これを勤務中に所持していたというのは些か不明瞭だが、まあ、良いだろう。関係のないことだ。
「弾丸は装填済み。全てバラニウム弾となっております」
彼女が装填し直したのか、それとも元々こうなのか。こんな時代でも安価ではない代物がデザートイーグルには装填されていた。
「なるほど。それは上々だな」
ゆっくりと恐る恐る手を伸ばして、受け取り、手から伝わってくる重量感にジュウは思う。なるほど、これが人を殺す為だけに生み出されたものの重さか。
「こんな時に難だが、少しばかりレクチャーしてくれないか?」
まあ、まずは使い方だ。目の前で弾丸の雨に撃たれるステージⅠが居るというのにのんびりしたものだが、彼のやりたいことにはそれが必要だった。
彼が一歩進むにはそれが重要で必要不可欠そう彼自身は思っていた。
「ええ、解りました、我が王」
彼女は仕えられる喜びを隠しきれず声に喜色を滲ませながら、ジュウへとレクチャーをする。レクチャーと言っても簡単なものだ。拳銃、その中でも扱い辛い分類に区分けされているデザートイーグルの、それに限る事ではない銃器全般の安全な発砲方法。躰を痛めないようにする方法、衝撃の逃がし方、照準の付け方とetc……彼女は口頭と動作を交えて解りやすく手短にジュウへとレクチャーした。何故この少女が此処までこんな話を出来るのかという疑問はあるが、まあ、その辺り、彼にとっては今更であった。
一分に満たない、簡素なレクチャーであったがジュウにとって必要なものは得られた様だ。その表情を、拳銃の構え方、扱い方を見れば解る。焼付け刃であるだろう、それでも良いのだ。
ジュウは銃口を、未だに銃弾の雨の中で蠢いているステージⅠへと向ける。
「なあ、雨」
引き金を指先でなぞり、触れさせて、彼は隣の彼女を呼んだ。
「はい、ジュウ様」
返事は直ぐ様返ってきた。
「帰ったら、まず銃の使い方を最初からきっちり教えてくれないか」
「――ええ、喜んで」
答えはジュウの予想通りだった。「ああ、ありがとう」。そう感謝の言葉を返してから、彼は自己嫌悪に苛まれていた。
彼女が拒む事など無いと思って言った自分が、なんだか醜く見えたのだ。
こんな少女に、こんなものの使い方の教えを請うた等という事実が彼には赦せなかった。しかし、彼女以外にこんな事を識っている知り合いは存在しない。
だからといって、こんな事が――――。
「やめだ、今は、まだ」
呟き、その思考を止める。自制する。
そして、引き金に一瞬、意識をやって。銃口の先に居る、命の灯火が今にも消えてなくなりそうな程にぼろぼろなステージⅠへと目をやる。
直後。
幾つもの銃撃音を貫く様に、一筋の銃声が黒天の下、高く鳴り響いた。
そういえばタイトル変えようかと思うんですけどどうですかね