Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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何とか更新できました……。

自分で書いておいて今更なんですが閣下の創造の名前と魔名をちょっと変えました。理由はいくらなんでもダサいとか語呂が悪いと思ったからです。

そして本編に映る前に読者の皆様に謝罪を申し上げます。
感想で幾らか見かけたのですが、今作では大戦中の閣下の功績が、閣下が超人化したが故の産物のように思えるとのことで一部の読者の方に大変不快な思いをさせてしまっているようで申し訳なく思います。
言われてみれば確かに素で凄い閣下を超人化させる何て言うのは少し安直な考えであったようにも思えますので反省するとしか言えません。


Act.05-B

 朝っぱらから声をかけたのは我ながら積極的であったと思う。

 

 唐突に現れ黒円卓の面々に大きすぎる衝撃を与えた彼。

 

 シュピーネは露骨に怯え、マレウスとバビロンは驚きの余り唖然としていた。ベイについては直後に殴りかかったことから言及するまでもない。

 

 滅多な事で揺らぐことの無くなった心境を各々が大きく乱し、胸に刻み込まれた敗北の屈辱、そして恐怖に苛まれる。

 

 そんな中、自分はと言うと可笑しなことに喜びと安堵すら覚えていた。

 

 ベルリンを滅ぼし同朋達を虐殺した自分達、その首領であるラインハルトに単身挑んだ馬鹿者が生きていたという事実にベアトリス・キルヒアイゼンは歓喜していた。

 

 守るべき国民を生贄に捧げた自分達外道がのさばっている。なのに彼ほどの人物が、最後まで軍人の役目を果たそうと戦った男が無念の内に消えるのが個人的に気に入らなかったかもしれない。

 

 こうしてテーブル越しに他愛も無い会話を交わしているのも、名実共に英雄である彼の事が一兵士として気にかかったのか。それとも単にウマが合いそうだと直感したからなのか。

 

 或いは自分達とは違いラインハルトに立ち向かい、尚も屈服しない大馬鹿者の事を少しでも知りたかったのか。

 

 

「AHS出身なのか君は。そりゃ驚いた、あそこは特に優秀なのしか入れないらしいじゃないか。君は所謂エリートという奴なんだな。」

 

「いやいやいや、エリートだなんてそんな大したことないですよ~!そりゃぁハードル高めなところではありましたけど私だけが飛びぬけてたってわけでもないですし。」

 

「そう謙遜することでもないさ。難関学校に入れて卒業出来たと言うだけでも大したことだろう。少なくとも私では早々容易にはいかん、勉強大っ嫌いだからな!」

 

「何故に自虐的なとこで胸を張るんですか。」

 

 

 こうして話してみれば、彼の言葉は良くも悪くも本心を忠実に言葉へ変換したものだということが分かる。

 

 余計な脚色など無く、ありのままの気持ちを曝け出してくる。簡単に言えば素直だ。

 

 黒円卓の間で言い放った宣戦布告以外の何物でもない告白も彼の気質故に飛び出したのかもしれない。

 

 それと同じく、かなりズレた発言も度々飛び出しては来るが彼との会話は黒円卓なぞという魔窟の中では場違いなまでに穏やかなものだ。

 

 

「別に勉強嫌いであることを誇ったのではない。勉強嫌いな私でも空軍学校に入れたのが今更ながらに信じられんことであったのだと思い至ったんだ。」

 

「空軍学校?大佐は学生時代は何処に通われていたんですか?」

 

「ヴィルトパーク・ヴェルターのドイツ空軍学校だ。」

 

「へ?それって都市伝説レベルの超難関だったって話のアレですか?」

 

「その伝説とやらがどんなものなのかは知らんが難関と言う意味ではその通りだな。倍率は百倍近かったと聞くし、入学するだけでも一苦労だったぞ。」

 

 

 あっけらかんとした物言いだが、それは並ならぬことだ。つまり当時その学校に入学できたのは百人に一人、それはどれだけ極小の門だったのか。

 

 しかも目の前の男はお世辞にも知的方面でまで優秀な人物には見えず、競争を勝ち抜いたなどというのは信じられないことである。

 

 無礼極まりないが、心の何処かで目の前の男を空と戦いの知識しかない脳味噌筋肉人間のきらいがあるという憶測を立てていただけに衝撃は大きかった。

 

 

「しかし試験勉強の日々は正に生き地獄だったぞ。何度脳髄が沸騰しかけたか分からんし鉛筆片手に椅子に座って背筋を伸ばしたまま失神しているなどはざらにあった。そこを幼馴染に見つかって大爆笑されたんだもんだなぁ……。」

 

「うわ~遠い目してるし。よっぽどキツかったんですね。」

 

「ああ。勉強が一通り終わってから暫くは筆を取る度に手が震えてならなかった……。あれは間違いなく私の人生でも最も過酷な時間だったと言えるだろう。La-5と試験用紙を並べたら俄然後者の方が私には恐ろしい……!」

 

 

 忌まわしい過去の情景を思い浮かべているのか、自分の肩を抱いて震える彼の顔は真っ青で、瞳孔が開きかけており目の焦点も定まっていない。PTSDだの何だのと精神外科に診断されてもおかしくないような過剰反応だ。

 

 このただならぬ様子から鑑みるに相当辛い思いをしたらしい。

 

 とはいえ、流石に強面の大男が精神を病んだ兵卒のように怯えているのは絵面的にもその場の雰囲気的にも非常に拙い。何とか話をまともな方向へと軌道修正せねばならないだろう。

 

 

「え、えっと……それじゃぁ、そう!大佐はどうしてそこまでして空軍に入ろうと思われたんですか?苦労してまで入学したってことはやっぱり絶対に諦められないだけの動機があったってことですよね?」

 

「動機か?別に大したことじゃない、ありきたりな夢を叶えてみたくなっただけだ。」

 

 

 少しずつ話題を変えていくつもりで投げ掛けた問いに先程まで恐怖に震えていた男は打って変わって平静な様子で語った。

 

 変わり身の早さには若干気味の悪さを覚えるが、今はそんなことよりも彼の述べた夢とやらが気になる。

 

 

「子供の夢…ですか?」

 

「ああ、そうとしか言い用が無い。別に軍人の誇りだとか名誉だと大層なものでもない。私はただ『空を飛びたかった』それだけなんだよ。」

 

 

 聞いてしまえば確かにそれは人が子供時代に一度は夢見るささやかな夢だ。自分だって空を見上げて鳥達を眺めながらそんな心境に浸ったことくらいある。

 

 大体の場合は心身の成長と共に薄れていく類の願いが入学当時まで残っていたのは、彼が他人よりも少しだけ純粋だったのか、空への思いが一途で強いものであったのか。

 

 

「それで良いんじゃないですか?確かに人によっては不純だとか言われるかもですけど、大佐ってそういう畏まった理由で頑張るようなタイプに見えませんし。」

 

「そうか?私は私なりに真面目にやっているつもりなのだがなぁ。」

 

「命令違反と命令無視の常習犯が何言ってるんですか。あろうことか総統の命令まで無視してる時点で自分が規則正しい奴だとか言っても説得力皆無ですよ?」

 

「むぅ…それは私に飛ぶなという連中が間違っているんだ。

イワン共は絶え間なく押し寄せて来ると言うのに休んでいる暇などある筈が無い、ならば千や二千回でも出撃しなければ到底奴らを抑える事なんぞ出来ないだろう。寧ろそれでも足りんくらいだぞ。」

 

 

 反論してはいるが、それは恐るべき出撃狂いの狂言だ。ワーカーホリックなどという言葉すらも生温い程の熱意がここにあった。

 

 確かにそういう意味では彼は非常に真面目、勤勉な男と言えるだろう。

 

 そう何度も出撃していては身体が持たないのでは?と問い掛ければ返って来てのは『機体の操縦が出来る内は負傷に入らない』という妙にシビアな返答だった。

 

 そして彼は幾度と無く撃墜されては大怪我を負い、入院必須の重体となっても出撃することを止めなかった過去を語り出す。

 

 血が流れ、裂傷に塗れ、骨が折れ、四肢を失って尚も戦い続けた壮絶な戦いの記憶は同じ軍人であるベアトリスをして戦慄を禁じ得なかった。

 

 彼女もまたドイツの黎明期を身一つで潜り抜けた歴戦の勇士であるが、全治数カ月の重傷を負い、増して片足を失ったまま戦い続けるなど半ば屍兵の所業にしか思えない。正直に言って理解出来ないことだ。

 

 上官であるあの厳格な女性でも、彼女だからこそ、そんな馬鹿な真似は絶対にしないだろう。

 

 戦えなくなった兵士に兵士としての存在価値は無い。かと言って使えないならば適当に突撃して死んで来いなどと一々死刑宣告をしてやるような余裕がある者など前線にはいないだろう。

 

 同様に戦えなくなったからと言って無駄に命を散らしにいくような者は単なる馬鹿だ。

 

 戦えなくなった者は戦えなくなった時点で死ぬか邪魔にならないよう後ろに引っ込んでいるしかない。死に体で敵と対峙し続けるなど味方の脚を引っ張るだけだ。

 

 それを何でもないことのようにやってのけるハンス・ウルリッヒ・ルーデルという男は魔人と化す前からそういう自身に対する苦痛を知覚する機能が壊れていたのかもしれない。或いは自身の身すらも顧みる余裕がなくなる理由が彼には在ったのか。

 

 だとしても彼の行いは何処か狂気的ですらあった。

 

 死ぬ寸前まで戦って戦って戦って、それこそ着陸するための脚を失った航空機のように彼は羽を休める事無く飛び続けたのだ。

 

 しかも、それを誰から言われたのでもなく己自身の意志で課していたのだと言うのだから呆れる気にもなれなかった。

 

 

「大佐は…どうしてそこまで出撃することに、戦うことに拘ったんですか?」

 

 

 ふと、そんな問いが零れた。

 

 確かにそれはとても気になる事だ。ドイツに限らず、世界でも有数の英雄であるハンス・ウルリッヒ・ルーデルの秘めていた思いを聞けるのだから普通に考えればそれは光栄の極みなのだろう。

 

 しかし、この時に於いて興味だとか好奇心だとかそういう思いは何処かへと消え去ってしまっていた。

 

 

「軍人に戦う理由を問うなど愚かだ……などという答えは期待していないんだろうな君は。」

 

 

 確かにそう。軍人が戦う理由なんて『軍人だから戦っている』で済ませられること、元々是非を問うまでもない筈だ。だが今聞きたいのはそういうことではない。

 

 確かに戦うことは軍人の本分だろうが、戦える身体でもないだろうに無理を押して戦い続けるなどと言うのは単なる狂人の暴走だ。

 

 しかし彼は狂っているようには見えない、憶測だが当時の彼も決して狂ってはいなかったのだと思う、自分のやっていることが当然の事だと認識していただけで。

 

 それはそれで狂気の一種と言えるのだろうが、少なくともベイやシュライバーを始めとした黒円卓の面々が内包するものとは血色が違う。言うなればそれは――――――

 

 

「そうだなぁ……拘り続けた理由か。

こればかりは胸を張って言えるようなことではない。これは所詮強迫観念に過ぎないのだからな。」

 

 

 そして彼が語ったのは聞く人が聞けば情けないと切って捨てるような喪失への恐怖。

 

 ただ只管に失いたくなくて、それでも守りたかった者達を守れなかった彼の悲哀にベアトリスはベルリンで耳にした慟哭の理由を垣間見た

 




バイトが本格的に忙しいのでペースは今後もガタ落ちの予感……

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