インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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MISSION 05 日本の代表候補生

一夏side

 

「ふぁ~・・・・おはよう。」

 

「おはようございます一夏さん・・・・なんだか眠そうですわね。」

 

「いや~、昨夜は興奮が冷めなくて眠れなかった。」

 

「昨夜は遅くまで騒いでいたからな、クラスの殆どがそうだろう。」

 

箒がそう言って周りを見ると、殆どが眠そうな顔をしている。

まあ、どんちゃん騒ぎをしていればそうなるわな。

ちなみに俺の場合は嘘で、明け方までプログラムの修正を行い続けた結果だ。

わからない所は束さんに相談しながらだったから余計に時間がかかってしまったが

基本がしっかり出来ていた上、修正点も少なかったから意外と短い時間で済んだな。

このプログラムの持ち主である更識さんに渡すだけだが

本人の自作なら本人はかなりのセンスの持ち主だろう。

あとは持ち主の元にこいつを送り届けるだけだ。

 

「来て早々なんだがちょっと野暮用で離れるな。」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、昨日落とし物を拾ってな、それを持ち主に渡そうかと・・・・」

 

「それでしたらどうしてすぐに職員室にお届けませんの?」

 

「見つけたのが丁度、昨日の夜だったから職員室は閉まっているだろ?」

 

「それもそうだが・・・・」

 

「それじゃあ、ちょっくら行ってくるな。」

 

そう言って俺はこの場を離れて4組に向かう。

この時の俺は更識さんがどんな人なのか会う事の楽しみと不安を感じていた。

 

 

簪side

 

私の名前は更識 簪、IS学園1年4組所属の日本代表候補生。

代表候補である為、専用機を持っていると思われがちだけど残念ながら専用機が無い。

理由は同じ倉持技研が男性操縦者である織斑 春斗用に『白式』が開発されるにあたって

私が持つ『打鉄弐式』が後回しにされてしまったからだ。

私はそのまま打鉄弐式を貰い受けて私1人で開発しようと躍起になっていた。

だけど、現実は厳しく1人で開発するにあたって大き過ぎる壁が立ちはだかっていた。

でも、こんな所でめげている場合ではなく、何としてでも打鉄弐式を完成させないといけない。

姉:更識 楯無を超える為にも私は諦める訳にはいかなかった。

そんな最中だった、織斑 一夏の存在を知ったのは・・・・

打鉄弐式の開発前にその名を知り、世界で知らない人は多分居ない。

私は興味本位で彼の事を調べてみると、発表以前の世間の評価は酷いものだった。

“織斑家の面汚し”、“出来損ない”、“無能な弟”と多くの汚名のレッテルを貼られていた。

多分、今の私の環境よりも酷い状況でこれまで生きていたのかもしれない。

第2回モンド・グロッソ以降は行方不明だったけど、ISの開発者である篠ノ之博士が

保護していたと会見で公表された。

聞いた所、専用機である『紫炎』は篠ノ之博士が『The Legendary Dark Knight』と呼ばれる

本を参考に開発した機体らしい。

『The Legendary Dark Knight』・・・・別名『伝説の魔剣士物語』は私の手元にある本で

古本屋で偶然見つけた本だった。

閲覧していく毎に私は本の内容に魅了されていたのがよくわかったのは良い思い出だ。

話を戻すと先日公開された実戦テストでの織斑 一夏の闘いは

『伝説の魔剣士』の闘いを連想させるものだった。

彼の闘いは魔剣士の息子である『ダンテ』と孫にあたる『ネロ』の闘い方によく似ていたのだ。

武器に至っては全て本で登場した武器ばかりで全て使いこなしていたのがよくわかった。

だからこそ知りたい、どうすればあんな強さを持つ事が出来るのか?

どうすれば逆境から立ち上がれたのか?私は知りたかった。

いざ聞いてみようと思った矢先、私は不運だと感じる事になる。何故なら・・・・

 

「大事なデータが無い・・・・」

 

ノートに挟んでいた制作中の打鉄弐式のデータをノートごと紛失してしまったのだ。

データが無ければ制作の続きが出来ず、動かす事も出来ない。

無くしたであろう日に通った道を探しても見つからなく、途方に暮れていた。

 

「これからどうしよう。」

 

このままじゃあいけない、わかっていても行動に移せない自分が居た。

時間だけが過ぎていく中、突然静寂が崩れる。

 

「ちょっと邪魔するぜ。」

 

「きゃあああ!!織斑 一夏君よ!!」

 

「本物!?ねえ本物なの!?」

 

「映像で見たのも良いけどやっぱり実物が一番よね!!」

 

私が会ってみたいと思っていた人物が扉から現れ、教室は一種のパニックになる。

どうして彼が突然現れたのかわからない

ある意味これはお近づきになるチャンスじゃないかと思うくらいだった。

教室の騒ぎをお構いなしに彼は目的を言い始める。

 

「えっと・・・・この教室に“更識 簪”って人は居るかな?」

 

「えっ!?」

 

「落とし物を届けに来たんだ、居るなら返事をしてくれ。」

 

そう言うと彼の手に持っていたのは落とした筈の私のノートだった。

まさか、彼が持っていたとは思わず、この時の私は変な声を出していたのかもしれない。

それに気づいたのか、彼がこっちに近づいて来る。どうしよう!?まだ心の準備が・・・・

 

「君が更識さんかな?」

 

「はっ、ハイ・・・・」

 

「これ、君ので間違いないかな?」

 

そう言われて奪う様にノートを取る私、怒らせてしまうかもしれないと思っていたけど

パニックになっていて頭も回らなかった。

そのまま、ノートの中身も確認していると・・・・

 

「大丈夫、ノートの“中身”も含めてちゃんとあるから。」

 

彼が言い終わると同時にノートに挟まれていたディスクが入っている事を確認し

安堵のため息をする。

 

「ちゃんと返したからな、またな。」

 

そう言って彼はこの教室から出ていく。

もう少し何か話したかったと思っていたけど叶わぬ願いだった。

ノートを下に向けると中から1枚の封筒が落ちてしまう。

急いで封筒を拾って、中身を確認すると手紙が入っていて内容を読んでみると・・・・

 

『更識さんへ

 ノートの中身のディスクを確認させてもらったがISのデータが入っていて調べた所

 兄の春斗の迷惑で放置された打鉄弐式の物だと言う事がわかったんだ。

 データの方も確認させてもらったがバグやミスを発見し

 このままだと君の身が危険と判断して勝手ながら修正させてもらった。

 兄の件と勝手に修正した件を合わせて謝罪の言葉を送る、本当に申し訳ない。

                              1年1組 織斑 一夏より』

 

手紙を読んで私は急いでデータを確認してみる。すると・・・・

 

「スゴイ、本当に出来ている・・・・」

 

見るとそこには私が出来なかった打鉄弐式のデータがそこにあった。

未完成のままだった武器一式のデータはおろか、マルチロックオンシステムも完備されて

オートとマニュアルを自由に切り替えられる仕様になっていた。

倉持技研が苦労していた物がより良質になって完成していたのだ。

私は複雑な気分になっていて、どうしたら良いかよくわからなくなっていた。

もう一度手紙を見ると、手紙には続きが存在していた。

 

『追伸

 基本データがしっかりしていたから修正点は最小限に留める事が出来た。

 仮にデータを君1人で尚且つ独学でここまで出来たなら見事だ、自信を持って良いぜ。』

 

この文字を見て、私は努力を認めてくれた事による達成感と嬉しさで溢れていた。

今までどんなに努力をしても報われなかった期間の長さの反動なのか

褒めてくれた彼の文字に私は嬉し涙を流していた。

 

 

一夏side

 

授業中での眠気との闘いに休戦が入った今はすでに昼休み

クラスの大半が昨夜の影響で眠そうだったのは言うまでもない。

千冬姉のありがたい言葉から始まって、同じく千冬姉のありがたい言葉で午前の授業が終わる

今日の午前はそう言う日だった。

春斗は昨日の試合で俺がISごとボコボコにしちまったから怪我でIS学園医務室に入院中。

よって同居人である箒は短い間だけ1人部屋になるのだが、内心安心していたみたいだった。

どうやら箒は春斗に対して苦手意識があり、神経をすり減らしていたようで

鈴は箒に「短い間かもしれないけど貴重な時間を大事にしなさいよね。」と言っていた。

そんな箒は珍しくセシリアと鈴、あとクラスメイトたちと食堂で会話の華を咲かせている。

俺は1人の状態になって食堂で静かに昼休みの時間が過ぎていく筈だったが・・・・

 

「ちょっと良いですか?」

 

「うん?ああ、更識さんかどうしたんだ?」

 

「今朝のお礼を言おうと思って・・・・」

 

「ああ、気にするな。俺の主義に合わせてやっただけだし、勝手なことをしたから

お礼を言われる理由が無いと思うぞ。」

 

「例えそうだとしても、私は嬉しかったよ。」

 

あれ?何この展開。プログラムを勝手にいじったから怒られると思っていた所なのに

更識さんは妙に嬉しそうな表情をしている。

何故?一体俺は何かしたっけ?どういう事なのこれ?

 

「えっと、失礼かもだが、何故嬉しかったんだ?」

 

「えっと、ノートに挟んでいた手紙を読んで追伸の部分が・・・・」

 

「追伸・・・・ああ、あれか!!気にするな、本当に見事だったからな。」

 

「そっ、そんな事は・・・・」

 

どうも更識さんはモジモジして俯いている。

ひょっとしたら褒められ慣れていないのかもしれないな。

何か話そうと思った矢先、昼休み終了のチャイムが鳴り響いてしまう。

急いで教室に戻らなければならないが、俺は更識さんに一言だけ言う。

 

「まあ、また何かあったら遠慮なく話しかけても良いからな。それじゃあな!!」

 

「あっ!?うん!!」

 

そう言って俺は更識さんと別れて急いで教室に戻る。

午後の授業開始と同時に千冬姉の出席簿アタックは御免だぜ。

それにしても更識さんか・・・・よく見ると結構可愛い子だったな。

 

 

千冬side

 

本日の授業終了後、私は春斗が入院している病室前に居る。

あの闘いで一夏が春斗に対してどう思っているのか、露見した気がする。

だが、一夏は「時間が欲しい」と言っていたから信じるしかない。

問題は春斗の方だ、春斗は一夏に対してどう思っているのか・・・・

私は意を決して病室に入る。

 

「失礼する。」

 

「千冬姉!?」

 

「織斑先生だ、だがまあ良いだろう。体の調子はどうだ?」

 

「この状態を見て“大丈夫”なんて言ったら嘘になるよ。」

 

そう言う春斗の様子だが、顔は絆創膏だらけ、腕や足には包帯が巻かれている。

確かにこれで大丈夫だったら嘘になる、私は春斗に今後の事を話し出す。

 

「白式はパーツ単位で全て取り換える事になったから完全な復帰はクラス対抗戦以降だ。」

 

「そっか、そう言えばアイツはどうなった?」

 

「“アイツ”とは一夏の事か?」

 

「それ以外、誰が居るのさ。」

 

「一夏はそのままクラス代表になったよ、一夏も周りに応えようと奮闘している。」

 

「くっそ~・・・・アイツは卑怯な手を使って勝ち取っていたっていうのに。」

 

「何を勘違いしている、あの闘いに不正などある筈がない。」

 

「嘘だ!!落ちこぼれの面汚しであるアイツが僕に勝つなんてあり得ない!!」

 

「春斗、お前・・・・」

 

この瞬間、私は春斗の本性に気づいてしまった。

束が一夏を匿う時に言った台詞は最初あり得ないと思っていたが現に知ってしまった。

春斗の目は一夏に対しての憎悪の目を持っている、私の目が曇っていた証なのかもしれない。

だとしたら私が出来る事は1つ・・・・

 

「そこまで悔しいなら1時間でも多くISを動かし続けろ、それが今出来る事だ。」

 

「えっ?千冬姉?手伝ってくれないの?」

 

「私は今までお前を甘やかし過ぎた、だから今度は自分の力だけでどうにかしろ。」

 

「ちょっ!?千冬姉!!」

 

春斗の言葉を無視して私は病室を出る。束が言った事を思い出し自己嫌悪に陥っていた。

私の心の大半は春斗の本性を見破れなかった不甲斐なさと

一夏に対しての申し訳なさが支配していた。

 

「一夏・・・・」

 

私は自分の心がえぐれる気分で一夏の名を呟く。

一夏が今までどんな気持ちで私たちと過ごしてきたのか、今の私たちをどう思うのか。

今後一夏に会う事に対する恐怖が支配し、途方に暮れて涙を流す。

この時に頬を伝った涙は・・・・今まで以上に冷たく感じた事は一生忘れられないだろう。

 

≪To be continued…≫

 


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