インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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MISSION 23 内なる闇と向き合え~シャル編~

ラウラside

 

現在の時刻は午前10時30分・・・・

場所は臨海学校行きのバス車内である。

私の座席は最後尾、5席並んでいる内の真ん中に座っている。

その右隣にはシャルロット、さらに右にはなんと一夏が座っている。

“普通”なら一夏は教官か山田先生の隣になる筈だが

“普通”ではない理由でこの様な席順になっている。

理由は現在一夏が最後の仕上げとしてシャルロットと共に『試練の間』に入っているからだ。

一夏が教官にその事情を伝えると快く承諾してもらえた。

その際、織斑 春斗は『不純異性交友』等色々な理由で抗議をしていたが

教官が箒の姉:篠ノ之博士の依頼と言う理由を聞くと大人しく引き下がった。

どうやら織斑 春斗も篠ノ之博士には逆らえないとみられる。

話を戻すが一夏とシャルロットの前の座席に事情を知っている箒とセシリアが居る。

鈴と簪は別クラスである為、この車内に居ないが

代わりに私の左隣に布仏 本音、さらに左隣に鷹月 静寐が居る。

布仏の場合は簪からある程度事情を聞いているらしく、我らにとっても心強かった。

鷹月の場合は詳しい事は聞かないままだが状況を察している様で内心助かっている。

しかし、2人が目を覚ますのが遅すぎる。

通常なら1分程度なのだが、既に20分以上時間が経過している。

これには私も焦りを感じていた。

そんな表情を察したのか布仏が私に話しかけてきた。

 

「ラウにゃん、2人を心配しているの?」

 

「ああ、一夏たちが体験している事は私自身が体験した上

セシリアが行っていた時も外から見ていたからな。」

 

「だよね。かんちゃんから聞いたけど、終わるのは1分程度の筈だよね?」

 

「ああ、しかし今回はあまりにも遅すぎる。」

 

「おそらくですけど、わたくしの時とは少し違う仕様なのかもしれませんわ。」

 

「セシリア、どう言う事だ?」

 

「わたくしの時はわたくし自身が強くなりすぎて、敵の質が高い状態でしたわ。」

 

「なら、今回は“時間”に関係する仕様なのか?」

 

「そうですわね、箒さん。紫炎のコアは常にわたくしたちを見ている様なもの。

周囲の状況を常に見て行動しているかもしれませんわ。」

 

「まあ、2人を信じて私たちはお菓子でも食べて待とうよ。」

 

「そうだね、ボーデヴィッヒさんもお菓子食べる?」

 

「ああ、頂こう。」

 

2人の提案で私は待つ事にした。

信じて上げる事が、私が2人に対して出来る事だと信じているからだ。

 

 

シャルロットside

 

現在『試練の間』で1つの部屋での闘いが終わり次の部屋への入り口が見えた所。

僕の部屋は鈴が入った桃色の扉とラウラが入った黒色の扉の丁度間にある

橙色の扉になる。

一夏曰く、「今回はセシリアと同じ仕様で敵の質が高いかもな。」と言っていて

案の定、雷を操る『ブリッツ』や『アルケニー』の集団

そして巨大なムカデ『ギガピード』等の強い敵が多く現れた。

『ギガピード』との闘いの後、一夏はため息をつきながら

「これで最後じゃねぇのかよ・・・・」と不満を漏らしていた。

一夏の感覚で言うなら今回は恐ろしく長いみたいで最長記録更新しているみたいだった。

まあ、僕から見たらどの程度のものなのかわからないから何とも言えない。

でも、ここまで進んでみて強くなっている事を実感していたから

試練の間に入っただけでも僕には意味があったと思う。

だけど最大の問題はドッペルゲンガーだと僕は思う。

ここに来るまでの・・・・いや、試練の間に入るまで

僕は自分自身の今までの出来事を踏まえて何が僕の闇になるのか考えてみた。

最初は家族や実家の関係を考えたけど、今では普通に連絡を取り合っているし

実家のスタッフたちとも頻繁に連絡をとっている。

だから、家族や実家関係はあり得ない。

それ以外は一夏の事だろうけど、セシリアの言った事に僕は賛同・納得しているから

これもまた考えにくい。

つまり、ドッペルゲンガーは何を持っているのか“僕”は全く見当もつかないのだ。

しかし、これはあくまで僕が考えている中だけ

心の奥底に眠っている想いや願いはわからない。

そしてその闇が僕だけではなく、一夏を殺してしまいそうな不安を抱えていた。

次の部屋に入るとやはりと言った所か、一夏が言う部屋に辿り着いた。

 

「ここが、ドッペルゲンガーの部屋だね。」

 

「ああ、ここからはシャル1人の挑戦だ。大丈夫か?」

 

「正直言ってよくわからないかな?それどころか一夏を殺してしまいそうで怖い。」

 

「俺を殺す?何故?」

 

「一夏ならわかるでしょう?人の心の闇って簡単じゃないから。」

 

「だな、ここを通ったみんなも重いものを背負っていたからな。」

 

「僕に関しては僕自身がわからない事がきっと来る。それが一夏を殺しそうで・・・・」

 

「そうか、だが前へ進むしかないのも事実。仮にそうなったら俺が全力で止めてやる。」

 

「うん、わかった。行ってくるよ。」

 

僕はそう言って檻の中へと進み鏡の前へ立つ。

そして一夏が前もって言っていた通り、薄暗い姿をした僕が目の前に立った。

これが僕のドッペルゲンガーだと思うと少々怖く感じるが

彼女は僕自身と考えれば怖くはないと思った。

だが、ドッペルゲンガーから発した言葉に僕は耳を疑った。

 

「ねえ、いつまでそうしているつもりなの?」

 

「“そうしている”?どう言う事?」

 

「オブラートに包む様じゃあダメだね・・・・

簡単に言うといつまで“良い子”でいるのかな?」

 

「良い子でいるって・・・・」

 

「だってそうじゃないか、結局一夏は僕たちの中で1人しか選べないんだよ?」

 

「“選ぶ”って何を・・・・」

 

「“一夏に愛される権利”の事さ、それ以外に何があるの?」

 

「そっ、そんなことセシリアやみんなが・・・・」

 

「確かにそうだね、でも結局愛されるのは1人だけ、現実を見なきゃ駄目だよ。」

 

「じゃあ、僕は“一夏を自分のものにしたい”って言うの!?」

 

「それ以外何がある?一夏は僕を救ってくれた。唯一の居場所を与えてくれたんだよ?」

 

「でも、それはみんなだって・・・・」

 

「だからこそだよ、一夏を僕だけのものにする事が本心だと僕は思うけどね。

そうじゃないなら君の方が偽物だよ!!」

 

「っ!?」

 

「シャル!!」

 

一夏が僕の名前を叫んだ瞬間、ドッペルゲンガーは僕の首を掴んで持ち上げる。

僕は必死で引き剥がそうとしたけど、引き剥がせないくらい力が強かった。

この時点で僕は心の奥底に眠っていた事がハッキリわかった。

ドッペルゲンガーの言う通り僕は一夏を僕だけのものにしたかったんだ・・・・

思えば、あの時自分自身の事を話した日からこの感情を持っていた。

だけど、セシリアが言う『一夏の心を救う』事に賛同して

僕もみんなもそれを優先しようと思っていた。

でも、ドッペルゲンガーが言った事でハッキリと思い出した!!

心の奥底では一夏を僕だけのものにしたいと願っていたんだ!!

一夏の優しさを独占したい!!

その感情が僕の心を完全に支配しかかっていたんだ!!

ドッペルゲンガーは意識が遠退く僕を見ながらこう言いだした。

 

「でも、運が良かったね。もう1人の僕。」

 

「な・・・・に・・・・」

 

「ここからは全て僕に委ねるんだ、そうすれば全て手に入る!!」

 

「やっ・・・・やめ・・・・」

 

「もう遅い!!君の体を僕が貰うよ!!」

 

「うっ、うわあああああ~~~~!!!!」

 

僕は叫びながら、心に“何か”が入り込むような感覚を感じていた。

 

 

一夏side

 

「シャル!!しっかりしろ!!負けちゃ駄目だ!!」

 

俺はそう言ってシャルに声をかける。

だが、ドッペルゲンガーは徐々にシャルの体に入り込んでいく。

入り込めば入り込むほど、シャルの体がどんどん黒く染まっていき

最終的には完全に1つになってしまった。

部屋の檻が収納され、宙に浮かびながら黒く染まりきったシャルは俺に話しかける。

 

「これで・・・・これで僕は自由になった!!」

 

「シャル!!目を覚ませ!!」

 

「“目を覚ませ”?既に覚めているよ一夏。

これが“本当”のシャルロット・デュノアなんだから!!」

 

そう言ってシャルは俺に襲い掛かって来た。

間一髪回避したがシャルはすぐに連続攻撃を繰り出す。

このままでは埒があかない、最接近して語りかける事にする。

 

ロイヤルガード(Royal Guard)!!(パチンッ!!)」

 

「やあああああ!!!!」

 

盾殺し(シールド・ピアース)を構えて突貫するシャル。

俺はロイヤルブロックで攻撃を防ぎ、デビルブリンガーでシャルを捕まえた。

 

「目を覚ませシャル!!俺の知っているお前はそう簡単に闇に負ける奴じゃない筈だ!!」

 

「でもこれが現実だよ一夏、心の闇に負けてしまったから僕がこうしているんだ。」

 

「なら、お前の目的は何なんだ!!何を望むんだ!!」

 

「簡単な事だよ、一夏自身さ。」

 

「俺自身だと?」

 

「ここで一夏の魂をとって僕が永遠に独り占めにするんだ!!

誰のものにもならない僕だけのものにね!!」

 

「なんだと・・・・」

 

「その為にまずここで一夏を倒して魂を閉じ込める。

もしも、みんなが邪魔するようならみんなも消してやるんだ!!」

 

「だったら尚更倒れる訳にはいかないな。そしてお前を救い出さないといけない。」

 

「果たして出来るかな?一夏!!“バチバチッ!!”」

 

「っ!?」

 

突如、シャルの手元に“バチバチ”と鳴る長剣が俺の胴体を狙って迫ってきた。

俺は間一髪、離脱したが掠ってしまい、命中箇所から電流の様なものが流れた。

この効果を見て俺はすぐにその正体を口にした。

 

「その剣は・・・・『アラストル』だな!!」

 

「その通り、僕の手にした新しい力だよ。そしてもう1つは・・・・」

 

「その大鎌は・・・・『オシリス』か!!」

 

「この2つの武器を見た上でもう一度問いかけるよ一夏。

本当に僕を救い出せるかな?」

 

シャルはそう言って『アラストル』を使って『スティンガー』を仕掛けた。

難なく避けたが次の瞬間、『オシリス』の刃が俺を襲う。

『オシリス』の攻撃範囲が広すぎる為、ロイヤルリリースが出来ない。

最初、一気に倒してしまう事を考えたがシャルを傷つけかねない。

問いかけ続けても目を覚ます気配すらない。

このままではジリ貧でやられるのも時間の問題だ。

だが、俺はシャルに重大な事を聞いていなかった事に気付き

それを問いかける事にした。

 

「シャル、何が・・・・何がお前をそうさせたんだ。

何がお前の闇を大きくしちまったんだ。」

 

「それはね、一夏が優しすぎるからだよ。」

 

「俺が・・・・優しすぎる?」

 

「そう、義母(あの女)から僕を助けてくれた時

ラウラが悪口を言っても咎めなかった時、そんな一夏が優しすぎるんだよ。」

 

「それが、お前を狂わせたのか・・・・」

 

「そうだね、だから僕は一夏の優しさを独り占めしたいんだ。」

 

「そうか・・・・」

 

これでハッキリわかった。

シャルをここまでさせたのは俺のせいだ・・・・

俺がシャルを“狂わせた”・・・・この事実は俺の心の中に刻み込まれてしまった。

その結果、俺は戦意喪失してしまい上手く体を動かす事が出来ない。

隙ありと見たのか、シャルは俺に攻撃を仕掛ける。

 

「たあああ!!!!」

 

「ぐあっ!?」

 

シャルはそんな俺の状態に構わず攻撃を仕掛けて、俺はその攻撃を受け続けた。

攻撃を受け続けて感じたのは、シャルが“泣き”ながら攻撃している事だった。

それが喜びなのか、それとも悲しみなのかは本人にしかわからない。

俺は少しでもシャルの痛みを感じれば良いと思った。

そんな一方的な攻撃がしばらく続くがシャルは突如攻撃をやめる。

 

「どうしたの、一夏?こうも攻撃を受け続けるなんて君らしくないね。」

 

「かもな、でもこれがお前に対して出来る方法だ。」

 

そう言って俺はISを解除して両腕を広げた。

 

「一夏?何を・・・・」

 

「俺を殺せ・・・・シャル。」

 

「何の真似かな?」

 

「俺がお前を狂わせたんだ、殺されたって文句は言わねえ。」

 

「そっか・・・・ようやく、僕のものになる覚悟が出来たんだね。」

 

「だが、約束しろ!!1つはみんなに手を出さない事・・・・それだけは約束しろ!!」

 

「わかったよ、一夏がそう望むならね!!」

 

俺は目を瞑り全てをシャルに委ね、シャルは俺を自分のものにする為に攻撃に仕掛ける。

スラスターの音が一気に近づきもうすぐ全てが終わるのを感じた。

何故かわからないが俺はこんな言葉を言ってしまっていた。

 

「ゴメンな、みんな・・・・」

 

「っ!?」

 

その瞬間だった、スラスターの音が止まり“カチャカチャ”と金属の音が聞こえる。

目を開けてみると、シャルの『アラストル』が俺の胸に当たる寸前で攻撃を止めていたのだ。

 

「どっ・・・・どうして!?何故!!何故腕が止まるの!?」

 

次に『アラストル』が床に落ち、シャルは自身の右腕を抑え込んでいた。

シャルは錯乱している状態、いやパニックに近い状態になっていたのだ。

 

「やめろ!!僕は・・・・自由に!!母さん!!うわあああああ!!!!」

 

突然シャル自身が光り出したと思いきや

シャルを覆っていた黒い物体が爆発したかのように霧状になって離れ

シャル自身はその場で倒れ込んでしまったのだ。

 

「シャル!!大丈夫か?しっかりしろ!!」

 

俺は慌ててシャルに近づいて必死に呼びかける。

少し経ってシャルは目を覚まして俺を見たら泣きだした。

 

「ダメだよ、一夏。自分を殺す真似をするのは・・・・」

 

「だが、それしか方法が・・・・お前に対して出来る事が・・・・」

 

「一夏が死んじゃったら誰も喜ばないよ・・・・僕も、みんなも・・・・」

 

そう言ってシャルは大泣きしてしまう。

まるで、あの時・・・・シャルの心を助けた時の様に大泣きしていた。

シャルは泣きながら「一夏・・・・ゴメン。」と言い続けて

俺は彼女が落ち着くまで抱きしめてあげた。

しばらくしてシャルは落ち着きを取り戻したのか、何があったのか語り出した。

 

「ドッペルゲンガーに支配されていた時、母さんが僕の心の中に居たんだ。」

 

「お前のお母さんが?」

 

「うん、口は動いているけど、声が聞こえなかったんだ。」

 

「そうか・・・・」

 

「うん、でも何て言ったのかはわかって怒られちゃったよ。

『後悔する様な選択をしてはいけない』ってね。だから止められたんだ。」

 

「『後悔する様な選択をしてはいけない』か・・・・」

 

「一夏、君は生きて良いんだよ。幸せになって良いんだよ。

だから自分を犠牲にする様な事はもう二度としないでよ・・・・」

 

そう言って、少しだけだがシャルは泣いた。

シャルは母親のおかげで心の闇に打ち勝てたのだ。

だけど、俺はシャルの言う事に対して約束できなかった。

自分でもシャルの様な闇を抱えている事を知っているからだ。

俺もシャルと同じ状態になったら死ぬ事になるだろう。

だが、みんなはそれを防ごうとしている。

俺は本当に生きて良いのだろうか?俺はそう思いながらシャルを励ましていた。

 

≪To be continued…≫

 


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