インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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MISSION 21 小さな一歩、大きな一歩

一夏side

 

今日は休日で授業はない日、それでもこの学園は賑やかである。

今俺たちが居る所は食堂なんだが、周りからの視線が痛々しく感じる。

何故なら・・・・

 

「一夏、次々♪」

 

「あっ、ああ、これか?」

 

「うん♪あ~ん♪」

 

「どよ~ん・・・・」

 

俺がシャルに『あ~ん』で食事して、ラウラはガックリ項垂れているからだ。

原因は今朝ラウラが先に試練の間に入った事がバレた挙句、俺たちはまとめて絞られた。

そして許してもらう代わりにこうして、シャルの言う事を“1つ”だけ聞いている。

もう少し過激な事を求められると思っていたが穏便な方で良かったと思う。

ラウラは目の前がこの状況だからこうしてしょぼくれている訳だ。

 

「アンタたち何を・・・・ってラウラを見たらわかるわ。」

 

「ルール違反?」

 

「うらやま・・・・いえ、何ともまあ。」

 

箒以外の面子が揃い、現状を鈴が察した様で周りも納得したようだ。

セシリアは本音が漏れかけていたが俺は聞かなかった事にした。

 

「簪の言う通り、ラウラがルール違反してシャルにバレて1つだけ言う事を聞いているのさ。」

 

「そうだとしてもシャルロットも勿体ない事したわね。」

 

「どうして?」

 

「まあ、ちょっと来なさい。」

 

そう言って鈴はシャルを呼んで2人は俺に聞こえない所まで引っ込んだ。

 

「まあ、鈴は『もっと過激な事を頼めたんじゃないの?』みたいな事言いそうだな。」

 

「まあ!?破廉恥な!!」

 

「安心しろよ、余程の事が無い限り承諾しないから。」

 

「だよね。」

 

「そんな事が発覚した日には千冬姉に絞られて人生が終わりそうだぜ。」

 

そう言っている内に2人が戻ってきて、シャルは俺にこう言い放った。

 

「一夏!!お願い事を変更して!!」

 

「ダメに決まってるだろ、“1つ”だけって約束だから。」

 

「そんな~・・・・」

 

「まあ、そう言うと思ったわ。それでその権限はどう言う条件からにする?」

 

「『The Legendary Dark Knight』を読んでからだな。だから簪とセシリアも出来るぞ。」

 

「本当ですの!?ではわたくしは・・・・」

 

「私は保留しようかな?今頼んでも駄目そうだし。」

 

「そっ、それもそうですわね。」

 

その事を聞いたのかラウラは急に元気を取り戻してシャルの元へ行く。

 

「シャルロット!!次は私に『The Legendary Dark Knight』を貸してくれ!!」

 

「それはダメだよ、次は鈴に貸す約束をしたから。」

 

「なっ、何っ!?」

 

「まあ、その次は箒に貸す事になっているし・・・・」

 

「それ以前にその本は元々私の物だから又貸しは止めてほしいかな?」

 

「バカな~~~~!!!!」

 

そう言って再びラウラはガックリ項垂れる。

励ましてあげようにも雰囲気的に喜劇に近い為か周りからは笑いを誘う結果になった。

そう言えば、今日は箒が来るのが遅い気がする。

それに最近は余所余所しくなった気がして話し合いをしたい所なんだが上手くいかない。

考え事をしている最中、簪が何かに気が付いたようだ。

 

「あっ、箒!!おはよう。」

 

「っ!?」

 

簪に気付かれたのか、箒はそのままその場を去ってしまう。

原因は俺にあるのか、それとも他にあるのかわからない。

追いかけようとするのだが、簪が手で俺を制す。

 

「どうした簪?」

 

「箒を追いかけるの?」

 

「ああ、悩みがあるなら言えばいいと思ってな。」

 

「一夏が行くのは止めた方が良いと思うの。」

 

「そうですわね、わたくしが試練の間に行った日から箒さんはあの状態なんですの。」

 

「心当たりはあるか?・・・・って言っても女同士の秘密だろ?」

 

「まあ、そうね。と言ってもあたしたちも理由はよくわかってないのよね。」

 

「それなら私に任せてほしいかな?丁度箒と差しで話をしたかったから。」

 

「良いのか?簪?」

 

「うん。」

 

そう言って簪はこの場を去り、箒を追いかけて行った。

 

 

箒side

 

私が居る場所は学園の中庭、そこで私は景色を見ながら黄昏ている。

 

「はぁ~~~・・・・」

 

これで何度目のため息だろうか?数えるのも面倒になってきたくらいだ。

きっかけはセシリアが試練の間に行った日、試練終了後のやり取りからだ。

一夏が私たちの気持ちに気づいている事

そしてセシリアの言った一言『一夏の心の闇をみんなで救おう。』

その言葉が私の心に深く刺さった気がする。

私は一夏に愛される資格があるだろうか?

その気持ちが今の私を支配して気持ちを沈めている。

 

「あの時、私がしっかりしていれば・・・・」

 

「こんな所に居たんだ。」

 

「っ!?簪・・・・どうしてここに?」

 

「箒が行きそうな所って言ったらここしか思い浮かばなかったから。」

 

「もう少し、行動範囲が広かったら見つからずに済んだのかもしれないな。」

 

「そうだね、私もそう思うよ。」

 

そう言って簪は私の隣に立つ。

 

「一夏から頼まれたのか?」

 

「ううん、私の意思。箒と話したかったから。今までみんなと一緒の事が多いでしょ?」

 

思えば確かに簪と会話する時は決まってみんなが居た。

こうして簪と一体一で話すのは珍しいのかもしれない。

しかし、何から話せば良いのだろう?

そう考えている内に簪が私に話しかけてきた。

 

「私ね、箒の事をもっと知りたいんだよ。」

 

「私を知りたいだと?」

 

「うん、一夏から聞いている事以外の箒をね。」

 

「そうか・・・・」

 

「だから、箒がどうして悩んでいるのか、どうして苦しんでいるのか

友達として私は知りたい。」

 

「・・・・・・・。」

 

簪の瞳に嘘は見当たらない、むしろ純粋な瞳で私を見ている。

今まで私は他者の目を気にしながら生活していた為か、他者に対して不信感を得ていた。

今はそんな事を気にしなくても良い環境だから心が少し緩んでいるのかもしれない。

何故か私は『簪になら話も良い』と思う様になっていた。

 

「やっぱり、セシリアの話が気になるの?」

 

「そうだな、私は一夏に愛されて良いかわからないんだ。」

 

「どうしてかな?」

 

「昔、姉さんがISを発表する前、私は実家の道場で剣道を習っていたんだ。」

 

私が話し出すと簪は静かに話を聞いている。

私と簪、2人だけの空間がそこにあった。

 

「千冬さんは私が剣道を習う以前から道場に通っていた先輩で私が入ってから少し経って

一夏と春斗が入門したんだ。」

 

「多分、織斑先生が勧めたのかな?」

 

「ああ、あの頃の2人は本当に仲の良い兄弟だった。千冬さんを含めて織斑家みんなが支え合っていた。だけど、道場に入った事が2人の仲に亀裂を生じた事に気付かなかった。」

 

「どうして?」

 

「私の父が道場の師範でよく私たちを見ていた。2人が入った当初の実力は春斗の方が上、

それも天と地ほど差が出来ていて、父は春斗の方に期待すると思っていた。」

 

「“思っていた”?じゃあ、箒のお父さんは・・・・」

 

「一夏に注目し、親身に剣を教え始めたんだ。」

 

「どうして・・・・」

 

「父から聞いたが、一夏には素晴らしい才能を持っていてダイヤの原石だと言っていた。

春斗は既に完成された状態だったらしく、教えられることが殆どなかったらしい。」

 

「それが2人の仲を引き裂いたの?」

 

「ああ、春斗はプライドの高い奴だった事はこの時初めて知った。父が一夏に注目した事で春斗は必死になって自分の方が凄い事を認めさせようとしていたんだ。」

 

この事を話すと決まって私は身震いをしてしまう。

何故なら私の恐ろしかった記憶を掘り起こしているからだ。

 

「その手段が一夏を蔑ろにする事で自分の凄さを誇示しようとした。だけどそれは父に対して怒りを買う事になってしまい、結果的に一夏が傷付いてしまった。」

 

「・・・・・・・。」

 

「そして春斗が多くの門下生を勧誘して奴等と一緒に一夏を蔑ろにし続けて、最終的には一夏は剣道を辞めてしまったんだ。」

 

「そんな事が・・・・」

 

「私が知る範囲では春斗の行動は学校でも行っていて、姉さんがISを作るまで続いていた。」

 

「それが一夏の悪評の始まりだったんだ・・・・」

 

「ああ、私は“あの時、私が行動を起こせば何とか止められたのではないか?”といつも思う。

だが、逃げて目を背けてしまった臆病者なんだ、私は・・・・」

 

知らぬ間に私は涙を出していた・・・・そう、泣いていたのだ。

私が止めていれば、こんな事にはならなかったと後悔しているのだ。

行動を起こそうと思えば出来た筈、だが行動を起こさなかった事は

私にとって2人の仲を引き裂いた大罪を犯した事に近かったのだ。

そんな状態の中、簪は私に話しかけてきた。

 

「箒は臆病者じゃないよ、私が箒の立場になってもきっと行動を起こせなかったと思う。」

 

「だが・・・・」

 

「箒が話してくれたから、今度は私が話すよ。」

 

「あっ、ああ・・・・」

 

簪は私が反論できない様に話し出そうとしている。

この時私は、簪が話してくれる内容を“知らなければならない”と思ったのだ。

 

「私の家・・・・更識家は対暗部用暗部の家なの。」

 

「対暗部用暗部・・・・と言う事は“カウンター”なのか。」

 

「うん、私の家は代々後継者候補たちが己を磨いて最終的には当主に就くシステムがあって、その過程で訓練に耐えきれない者や適性がない者は次々と候補から外れていくの。」

 

「なら簪も・・・・」

 

「私は初期の段階から候補に外されちゃってね、更識家当主になったのは私の姉なの。」

 

「そうなのか。しかし、どうしてその事を?」

 

「私も逃げていたからかな?当時の私の周りは出来損ないを見ている様な目で見られている気がして他人が怖かったの。」

 

簪の言葉に嘘は見当たらない。

むしろ、話している簪の方が声や体を震わしているのがわかる。

話す内容は簪にとって、思い出したくない記憶である事はすぐにわかった。

 

「私は周りの目が怖くて、仲の良かったお姉ちゃんに対しても怖がっていた。ある日、お姉ちゃんからの一言で私はショックを受けた。」

 

「それは・・・・どんな一言なのだ?」

 

「“無能なままで居なさい”・・・・箒はこの言葉を聞いてどう思う?」

 

「・・・・・・・。」

 

簪が言った一言に私は信じられないと感じた。

何故なら、実の姉が言うような台詞ではないからだと感じたからだ。

きっと簪もこの一言を聞いて余計に塞ぎ込んでしまったに違いない。

私の表情から察したのか、簪は話を続ける。

 

「そうだよね、箒が思っている通り実の姉が言うような台詞じゃないよね。」

 

「ああ、信じられないと思っている。」

 

「だよね、その結果私は塞ぎ込んだよ。一夏や箒たちに会うまではね。」

 

「何?」

 

「みんなは私が作った心の囲いをあっさり壊してくれて、今みたいにみんなと接する事が出来る様になった。だからこそ、あの時に言ったお姉ちゃんの一言の意味が分かるの。」

 

「一言の意味だと?」

 

「きっとお姉ちゃんは私を危ない目に遭わせたくないからあんな事を言ったんだと今ならわかるの。だから私は塞ぎ込んで逃げていたって知ったの。」

 

「そうなのか。」

 

「うん、一夏と箒は過去の出来事に精一杯向き合おうとしているのがわかるから。」

 

「待て!!私は・・・・」

 

「箒は向き合っているよ、それで今の悩みがあるんでしょ?」

 

「だが・・・・」

 

「でも、箒は答えを間違えている。箒も一夏に愛されて良い筈だよ。」

 

真っ直ぐな瞳で私を見る簪。

簪だって一夏が好きな癖にどうしてこう言う事を言えるのだろうか?

思った事をそのまま口にしてみる事にする。

 

「簪は強いな、その強さは尊敬できる。」

 

「ううん、正直に言えば、私は箒が羨ましいんだけどね。」

 

「何故だ?」

 

「だって、一夏が一番気にかけているのは箒だし、スタイルも良いし・・・・」

 

「すっ、スタイルは関係なかろう!!こう言うのは邪魔なだけだ・・・・」

 

「でも私はこんなのだから・・・・」

 

最後はくだらない話になってしまったが私はこの雰囲気が心地よく感じた。

私は簪に感謝してもしきれないだろう。

 

 

真耶side

 

学園の中庭が見える位置に私は居て

そこから篠ノ之さんと更識さんが仲良くしているのが見えました。

もう少し見ていようとしていたら、横の方から知った声が聞こえました。

 

「箒のヤツ、あの頃の事を気にしていたのかよ。簪も言えば良かったろうに・・・・」

 

「一夏君!?いつからそこに・・・・それより結構距離あるのに聞こえたんですか!?」

 

「あの2人が話し合う時には居ましたよ、会話の内容は読唇術で把握したので。」

 

「そうですか・・・・それは盲点でした。」

 

「まあ、慣れれば平気ですから。あと山田先生、臨海学校の下見お疲れ様でした。」

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

生徒の中でこんな風に私を接してくれるのは実は一夏君だけだったりしちゃいます。

他の皆さんは私を友達みたいに接しますが、これが本来の生徒と先生の関係ですよね?

ちなみに私が彼の事を“一夏君”と呼ぶのは“春斗君”とわかりやすくしている為です。

そんな事は置いておいて、臨海学校の話題をしてみる事にします。

 

「そう言えば一夏君は臨海学校の準備は終わりましたか?」

 

「え~っと、今日みんなと一緒に水着等を買う予定です。」

 

「そうですか、準備を怠らずにしてくださいね。」

 

「ハイ、山田先生もね。それじゃあ、みんなを呼んで早速行ってきますわ。」

 

そう言って一夏君はこの場を去って行きました。

それにしても良い事を聞きましたね。

一夏君と織斑先生との仲を改善出来るチャンスかもしれませんから。

私はそう思って織斑先生を誘う為に行動に移す事にしました。

 

≪To be continued…≫

 


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