インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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プロローグ02

束side

 

あれからどのくらいの月日が流れただろう?

あの後、ちーちゃんはISの教官になる為にドイツに行ってしまった。

いっくんの監禁場所を教えたのがドイツ軍だったらしい。

少しずつで良いから、いっくんと向き合えるようになってほしいものだと思う。

いっくんを保護してからと言うもの、最初は寝たきりの状態が続き動く気力すらない状態だった。

食事を用意しても口を付けずにそのまま過ごしてしまう毎日だった。

食事を摂らない訳だから痩せていき、限界が来たところで栄養剤の点滴で半ば強引に保たせる。

『食事を摂らない→栄養が足りない→点滴を行う』この流れが長く続いていた。

そうした日々を繰り返して、少しずつだけどいっくんは食事を摂れるくらいは

元気になっていた。

今では前に拾った“くーちゃん”ことクロエ・クロニクルと3人で過ごす日々だ。

 

「束さん、食事の用意が出来ました。」

 

「うん?おお、もう夜ご飯の時間なんだね。」

 

「ハイ、今日の夜ご飯はクロエさんと一緒に作りました。」

 

「そうかそうか。」

 

確かにいっくんの心はある程度回復した、でも全ての行動が機械的になってしまっている。

その様子はまるでいつ糸が切れてもおかしくない操り人形(マリオネット)の様だった。

その証拠に瞳に輝きが全くない。多分、これが今のいっくんの精一杯なんだと思う。

心が壊れた人間なんて私は今まで見た事が無いからどう言う感じなのかわからない。

きっと、他の人が心を壊したらこんな感じになっちゃうんだろうな・・・・

今はせっかく作ってくれた夜ご飯を堪能しよう。

 

「おお!!今日はカレーライスなんだね!!」

 

「ハイ、クロエさんも頑張りましたから・・・・」

 

「いえ、私は一夏さんの足を引っ張ってばかりです。」

 

「そんな事ありませんよ、クロエさんはメキメキ上達していますから。」

 

「うんうん、料理上手のいっくんがここまで言うから大丈夫だぞー!!」

 

「そう言って頂けると嬉しいです。」

 

そう、最初のくーちゃんの料理はもはや料理と言える代物ではなかった。

出てくる物が消し炭やらゲル状の何かだったからね。

まあ、私はそれを「美味い美味い」と言ってバクバク食べていた頃が懐かしい。

いっくんが料理のお師匠さんになっているから日々上達している。

 

「束様、気になったのですが最近は本を読んでいるみたいですね。」

 

「うん?ああこれね。気になって読んでいるんだ~。」

 

そう言ってくーちゃんに今ハマっている本を見せる。

 

「『The Legendary Dark Knight』?これは一体・・・・」

 

「要約すると『伝説の魔剣士物語』って言うお伽話なのだ~。」

 

「どう言った内容なのでしょう?」

 

「簡単に言うと人間が好きになった悪魔が人間を助けて自分の子ども、そして孫の代まで

人間を救っていく物語なんだよ。」

 

私は簡単に物語を説明したけど内容はもっと濃い。

父親の話だと単純に人間を救うだけなんだけど

子どもや孫の話では出会いや別れを繰り返して成長していく。

子どもの場合は母親と双子の兄、孫の場合だと慕っていた人との永遠の別れがあって

とても悲しい部分もある。

だけど彼等はそれをバネにして成長していった話だ。

 

「とても壮大な物語なのですね。」

 

「うん!!登場する3人の共通点は“人間を愛していた”って言うんだ。」

 

「“人間を愛していた”ですか、異質な存在なのにすごい事です。」

 

「これを読んでいて思ったこともあるよ。」

 

「何ですか?」

 

「仮にこの魔剣士が実在していて、今の人間を見たらどう思うんだろう?って・・・・」

 

「・・・・・・・。」

 

「きっと呆れるか、後悔するか、悲しむか、怒るかですね。でも彼等もきっと

人間の良い所を信じて闘ってきたと思いますよ。」

 

こういう時にいっくんが発言するのは珍しかった。

いつもなら黙々と食事を摂っているのに・・・・

でもいっくんが言ったことは一理あると思った。

 

「そうだね、そう思いたいよ。」

 

こうしていつもよりも楽しい食事が過ぎていった。

食事が終わった後はいっくんとくーちゃんは後片付けを私は本の続きを読んでいった。

もうすぐ終わるから早く読みたい気持ちが多かった。

丁度本を読み終えた時に後片付けが終わったのか、いっくんが私のラボに入って来た。

 

「片付け、終わりましたよ。」

 

「うん、ありがとう。」

 

「・・・・・・・。」

 

「何じろじろと部屋を見ているの?」

 

「いえ、この部屋をちゃんと見た事が無くて・・・・結構荒れていますね。」

 

「まあ、日々研究を行っているから掃除する暇も惜しいんだ。」

 

「今から掃除します?」

 

「あ~・・・・そうだね、そうしよう。」

 

本当ならこのまま研究を始めたい所だけど、いっくんが積極的に行動しているんだから

尊重したいと思った。

これをきっかけにいっくんの心を少しずつ癒せたら良いと考えたからだ。

お喋りしながらちょっとずつ掃除している。

 

「これがISのコアなんですね。ちゃんと見るのは初めてかも・・・・」

 

「そうだね、これがISの装甲の中にあるんだよ。」

 

「そうなんですか・・・・」

 

いっくんが掃除を行おうとコアに触れた瞬間だった。

 

「えっ?」

 

「いっくん!?」

 

間の抜けた声が聞こえたと思ったら、そのまま糸が切れた様にいっくんが倒れてしまった。

 

 

一夏side

 

あれ?ここはどこだ?

俺は確か、束さんの研究室で一緒に掃除していた筈なのに・・・・

それにしても綺麗な所だな。

上を向くと一面に青空があって、下を向くと上の青空が鏡の様になっている。

周りを見ていると、白い鎧を纏った戦士がそこに居て話しかけてきた。

 

「ようこそ、君に会えてうれしいよ。」

 

「君は誰?」

 

「そうだね、私はISのコアの化身の様なものかな?」

 

「なるほど・・・・ではどうしてここに居るんですか?」

 

「そうだね、君が私に触れたらここにやって来たのだ。」

 

そう言えば掃除中に確かにISのコアに触れた途端、急に意識が薄れてそれからは覚えていない。

 

「そう言えばここはどこなんですか?」

 

「ここ?ここは私の中とでも言っておこう。」

 

急にそんな事を言われてもどう反応していいかよくわからなかった。

考えている中、また白い戦士が俺に話しかける。

 

「君の事はよく聞いている。とても可哀想な目に日々遭ってきたんだね。」

 

「俺にとってはそれが当然のなんです。だから俺自身に責任があるんです。」

 

「それは無い、それは世界が勝手に言っているだけだ。それよりも私は君には

強い意志を持っていると考えている。」

 

「そんな、俺に強い意志なんて・・・・」

 

「あるさ、そうでなければ私とこうして出会う事もないだろう。」

 

正直、俺は困惑している。

今まで俺は“出来損ない”や“面汚し”等のレッテルを貼られて生きてきたんだ。

今更そんな風に評価されるとどう反応していいか全くわからない。

 

「とりあえず、場所を変えよう。」

 

そう言うと白い戦士は指を鳴らした。

鳴らすと同時に周りの風景が一気に変わり神殿の様な場所に変わった。

 

「ここはどこですか!?」

 

「ここは『試練の間』。自分に自信が無い者や力を求める者の為の場所だ。」

 

「『試練の間』か・・・・まるでゲームのダンジョンみたい。」

 

「そうか、自分に自信無いのならここで腕を磨くと良い。今回はここを知ってもらう為に

君を招待したんだ。」

 

「どうして、俺にここまでしようとするんですか?」

 

俺は純粋な疑問を投げかけてみた、するとこう返答してくる。

 

「私は“君と共にありたい”ただそれだけだ。」

 

そう言われると次第に周りが白く光って意識がまた薄れていく。

また、意識がはっきりしていくと今度は知った顔が俺を覗き込んでいた。

 

「いっくん!?大丈夫なの!?」

 

「あっ・・・・束さん。」

 

「良かったよ~、急にいっくんが倒れちゃったから束さんとくーちゃんは心配したんだよ!!」

 

「あっ、ゴメンなさい。」

 

「うん、いっくんがもう一度目を開けてくれたから許してあげるよ。」

 

そう言うと束さんは大げさに見えるくらい安心していた。

すると、今度はこんなことを言ってきた。

 

「にしても驚いたよ。いっくんがISのコアを起動させちゃうなんて。」

 

「えっ?ISって女性にしか起動できないんじゃあ・・・・」

 

「そうなんだけど、確かにいっくんは起動したよ。確認のためにこれを持って

意識を集中してみて。」

 

そう言われると束さんはISのコアを用意して俺に渡す。

言われた通りに意識を集中してみたら・・・・

 

「っ!?何これ・・・・」

 

「ほら!!起動できているでしょう?」

 

「ハイ、ISの色々な情報が・・・・」

 

「うん!!情報が入ってくるでしょう?これはちゃんとISが起動している証だよ。」

 

そっか、俺は本当にISを動かせるのか。

だとしたらさっきまでいた場所は、それに白い戦士は・・・・

 

「束さんに聞きますけど、このコアってひょっとして白き・・・・」

 

「あっ!!そうだ!!新しい機体コンセプトを思いついたんだ!!」

 

そう言うと束さんはラボにあるホワイトボードに様々な事を書き始めた。

内容は基本コンセプト、そして束さんが読んでいた本の内容を沢山書いていた。

全てを書き終わると、俺に頼み込んできた。

 

「いっくんお願い!!協力してほしいの!!」

 

「何をです?」

 

「実は箒ちゃん用の機体を開発しようと思っていたんだけど、いっくんに試作機の

テストパイロットになってほしいんだ!!」

 

「俺が・・・・テストパイロット!?」

 

「そう!!第4世代の試作機!!箒ちゃんに与える紅椿を完成させる為の機体を!!」

 

「つまりデータの為の機体ですか?」

 

「うん!!勿論、紅椿が完成した暁にはいっくんのISにも完成版を搭載するよ!!」

 

そう言って束さんは俺に頼み込んでいる。

日頃からお世話になっているから俺の答えは既に決まっていた。

 

「良いですよ、こんな俺で良ければいくらでもお手伝いします。」

 

「ありがとう、いっくん!!」

 

笑顔でお礼をする束さん、俺はこの笑顔を見ると安心できる。

最後に俺はワクワクしながらこんな事を質問した。

 

一夏「そう言えば試作機の名前は決まっていますか?」

 

「勿論!!第4世代の産声をあげるのは伝説の魔剣士をモデルにした機体!!

その名は・・・・“紫炎(しえん)”!!」

 

紫炎(しえん)”・・・・それが第4世代第1号の機体で俺に与えられる力の名だった。

 

≪To be continued…≫

 


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