インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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MISSION 16 シャルロットの心

千冬side

 

今日は休日、私は今、一夏、山田先生と共に凰、更識の機体状態の確認と

フィジカル・データを測る為に専用の部屋に居る。

何故一夏を呼んだのか、それは検査を受けている2人のISを

第4世代相当にさせた張本人と考えている為だ。

慎重に一夏を尋問したところ、2人のISを強化した事を大筋に認めた。

一夏は『試練の間』と呼ばれる電脳空間やその試練の内容等を個人情報を除いて全て話した。

ここまで聞くと一夏は深層同調(ディープシンクロ)と電脳ダイブがしやすいらしい。

電脳ダイブはアラスカ条約で規制されてはいるが、行っている行動は

条約に引っかからない内容なので委員会への報告の必要は無いと判断した。

一夏と話を進めていく中、一夏はこんな事を発言する。

 

「おそらくですけど、専用機持ち“全員”が2人の様になる可能性があります。」

 

現時点で専用機持ちは3年が1人、2年が2人、1年が7人居る。

その内一夏を除いて2人は既に終わっている為

残り7人全員にこの現象が起こる可能性がある訳だ。

紫炎の存在だけで世界中の努力を無意味にしたのにも関わらず、一夏が更に悪化させた訳だ。

しかも、一夏の発言でこれ以上悪化させる可能性が孕んでいる為

どうしたら良いのかわからない、まさに頭痛の種になってしまっている。

悩んでいる最中に山田先生が私に声をかける。

 

「織斑先生、検査が終わりました。」

 

「それでどうだった?」

 

「フィジカル・データの方ですが、2人とも入学時よりもIS適性が上がり

今ではSランクになっています!!」

 

「何だとっ!?」

 

「すごいです、こんな短期間でIS適性が上がるなんて前代未聞ですよ!!」

 

Sランク・・・・その力を持てるのは『ブリュンヒルデ』や『ヴァルキリー』のみだと

考えられていたが、ここに来て常識を覆される。

本来なら持って生まれた素質が影響を与え、訓練やISとのシンクロ率によって上昇する。

しかし、2人の例は異常であり上昇する速度が余りに早過ぎたのだ。

一夏が言う『試練の間』はそこまで影響を与えるものかと私は考えるしかなかった。

私はすぐに気持ちを切り替えてもう1つの検査結果を山田先生に求めた。

 

「ISの方はどうだ?」

 

「ハッキリ言ってマズい状態です。元々システム側のオーバー・スペックの為でしょうか

内部から劣化しています。」

 

「自己修復が追いついていないのか?」

 

「ハイ、その上劣化の進行速度を考えると修理を行っても追いつかないかと・・・・」

 

予想通り2人のIS本体から悲鳴をあげている。

このままではISが空中分解して2人が危険だ。

 

「織斑先生、2人のISは・・・・」

 

「対策がない以上は使用そのものを禁止するしかないだろう。」

 

「いえ、対策ならあります。」

 

「本当か?織斑弟。」

 

「ハイ、しかしそれには・・・・」

 

「束の力が必要か・・・・」

 

そう言うと一夏は静かに頷いた。

現時点で第4世代相当の装備を造る事が出来るのは束だけだ。

なら束に直接頼んで行うしか方法がない。

 

「俺が束さんに連絡を入れます。俺が蒔いた種ですからそれくらいは当然でしょう。」

 

「出来るのか?」

 

「わかりません、でもやるしかないでしょう。」

 

一夏の発言の後、検査を受けた2人が検査室から出てくる。

ここで話した内容を聞いていた為、複雑な表情をしていた。

 

「当面はISの展開が禁止か・・・・まあ、当然のツケって所よね。」

 

「うん、散々打鉄弐式を傷めつけちゃっていたから休ませないと・・・・」

 

「悪いな2人とも、俺のせいで・・・・」

 

「別に良いわよ。」

 

「一夏が私たちにしてくれた事と比べたらこれくらい平気。」

 

「そうか・・・・」

 

「3人共、お疲れ様でした。あとの時間はゆっくりしてくださいね。」

 

「「「ハイ。」」」

 

山田先生に挨拶をして3人はこの部屋から退室する。

その後、私と山田先生は真面目な表情に変わる。

 

「織斑先生、このデータも見てください。」

 

「ああ、織斑弟の物だな。」

 

念の為、2人の検査の前に一夏のデータも測ったのだ。

しかし、その内容は私の想像を大きく超えた物が表示されていた。

 

「IS適性・・・・『測定不能』だと!?」

 

「ハイ、適性数値がSを超えた部分からこの様な状態に・・・・」

 

これが『試練の間』と呼ばれる訓練所を極めた者の証なのか。

それとも純粋にISとのシンクロ率が高過ぎる結果なのか。

束の会見だけ聞くなら一夏がISを動かし始めたのはモンド・グロッソ以降からの筈。

それを考えれば稼働時間の結果と言う考えもある。

家族の1人として、指導者として一夏がどうなっていくか知りたい私も居たのだった。

 

 

一夏side

 

検査と尋問から戻った俺は自室で休んでいたのだが・・・・

 

『さあ、一夏(さん)説明して!!』

 

「うう、みんな・・・・」

 

何故か俺の部屋にみんなが集まっていた。

あれからラウラもみんなと打ち解けて一緒に行動する事になったけど

現時点ではシャルも強制連行と言う形でここに居て泣きそうな顔をしている。

まあ、前からシャルについてちゃんとした説明を約束した訳だから当然と言えば当然か。

 

「個人的な話は言わないから簡単に説明するからな。シャルもそれで良いだろ?」

 

「うん、それなら大丈夫。」

 

「簡単に言えば、シャルはフランス政府のバカ共と母親から強要されて男装していたんだ。」

 

「政府はともかく、何故母親まで?」

 

「良い質問だラウラ、その母親はシャルの実の母親から父親を奪った悪女なんだ。」

 

「まあっ!?何てこと!!」

 

「最低な奴ね。」

 

「まあ、それ相応の罰を与えたからシャルはこの様に女子としてここに居る訳なんだがな。」

 

「まさか!?先日報道されたフランス政府の人間数名とデュノア夫人が逮捕されたのは・・・・」

 

「そう言う事、束さんに相談したからな。」

 

「姉さんが一枚噛んでいたとは・・・・」

 

「そう言う訳で俺がシャルの正体を知って事情を聞き、束さんに相談してこうなったって訳さ。」

 

まあ、実際はもう少し内容が濃いんだけどな、今回はその話をしよう。

 

 

~一夏の回想~

 

実際にシャルルの正体を知ったのは春斗との一悶着があって数日後。

簪との連携が形になり始めた時期だ。

この日も訓練を終えて、自室に戻った。

 

「今日もお疲れ様でしたっと・・・・ただいま。」

 

“サ―――――・・・・”

 

シャワー室に誰かが・・・・って居るとしたらシャルルしか居ないな。

そう言えば、ボディソープが切れているんだったな。替えを用意してあげないと。

 

「お~い、シャルル。これが替えの・・・・」

 

「・・・・・・・。」

 

「へっ?あれ?どう言う事?」

 

「いっ、いち・・・・か・・・・」

 

この瞬間、時が止まったと感じた。

何故なら目の前に居るのは男の子ではなく、れっきとした女の子だったのだ。

薄々わかってはいたし、“彼”の・・・・いや、“彼女”の登校初日からの違和感が

拭い去れなかったのも事実。

しかし、実際に目の当たりにすると動揺しない方がおかしかった。

 

「いっ、一応、これ替えのボディソープな。」

 

「うっ、うん・・・・」

 

俺は静かにシャワー室から出る。

多くの男なら“ラッキースケベ”とか言いそうだが、俺はそう考える余裕が無かった。

“見てはいけないものを見てしまった。”この考えが頭の中を支配していたからだ。

しばらくしてシャルルがシャワー室から出てくるが普段と違って胸に膨らみがあったのは

言うまでもない。

しばらく沈黙が続くが俺から話を切り出した。

 

「それで、どう言う事か説明してくれるか?どうしてシャルルが男装していたのかを・・・・」

 

「うっ、うん。わかったよ。全て話す。信じてもらえるかはわからないけど・・・・」

 

そう言ってシャルルは自分の立場、家庭環境等、言える事を全て話し出した。

シャルルは“愛人”の子で義母である本妻は彼女を虐待に近い扱いをしていた。

そしてデュノア社が経営危機になってしまい、義母からの扱いはエスカレートしていた。

その結果、俺と紫炎の情報を盗む為に男装してIS学園に編入したのだった。

聞く所、シャルルの父親は愛しているけれど義母がそれを快く思っておらず

その上、デュノア社で義母に逆らえる者は誰も居ないと言う話だ。

このままではシャルルは義母に切り捨てられ、俺と同じ様に心を壊してしまう。

まずはそれを何とかしたかった。

 

「シャルル、お前はここに居ても良いんだぜ。」

 

「えっ!?そんな事・・・・・」

 

「『特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。』少なくとも3年は平気だ。」

 

「あっ、そっか・・・・と言うかよく覚えられたね特記事項なんて55もあるのに。」

 

「暇つぶしに読んでたら覚えちまってな。歩く辞書って言われてもおかしくねえな。」

 

「そうなんだ、フフフ・・・・」

 

“コンコン”

ノックの音がした、誰からかはわからないがこの状況はマズいな。

 

「シャルル、ベットの中に入って何もせずに静かにしていろ。言い訳は俺がするから!!」

 

「うっ、うん!!」

 

そう言ってシャルルは急いでベットの中に入る。俺は応対の為にドアの方へ行った。

 

「こんばんは、一夏さん。」

 

「おう、セシリアかどうした?」

 

「いえ、夕食の御誘いに来たのですが、シャルルさんも御一緒にいかがですか?」

 

「あ~、嬉しい誘いだけどシャルルは丁度体調を崩してな。」

 

「まあ、大丈夫ですの?」

 

「慣れない土地での厳しい訓練だからな、俺の配慮不足だよ。今は飯を食えそうにないから御粥を作りに行こうと思ってな。」

 

「そうでしたの、ではシャルルさんには申し訳ないのですが御一緒に行きましょう。」

 

そう言ってセシリアは自身の腕を俺に絡ませて一緒に行く事になった。

途中、箒や鈴、そして簪も加わり夕食を摂る事になった。

シャルルの事を説明して早めに解散し、御粥を作って自室に戻った。

 

「ただいま、シャルル。飯を持ってきたからな。」

 

「うん、ありがとう一夏・・・・その丼の中は何かな?」

 

「これ?卵粥って言う料理さ。消化に良くて体調を整えるのに最適なのさ。」

 

「そうなんだ。」

 

「ハイ、スプーン。熱いから気を付けな。」

 

「うん、頂きます。」

 

そう言ってシャルルはゆっくりと御粥を口に運んでいく。

 

「美味しい・・・・暖かくて美味しいね。心まで暖まる気分だよ。」

 

「そうか・・・・ってシャルル、どうして泣いているんだ?」

 

「あれ?・・・・あれ?何でだろう?」

 

シャルルを見ると涙が溢れていて止まる事を知らない様子だ。

おそらく、溜まっていたものが溢れたのだろう。

 

「ゆっくり食べな、今は俺たちだけだから。」

 

「グスッ・・・・うん。」

 

その後シャルルは泣きながら御粥を食べて、食べ終わった後もずっと泣き続けた。

余程辛い目に遭わされてきて、誰も助けを求められない状況が続いたと俺は感じた。

しばらくしてシャルルは泣き疲れて眠りにつく。

俺は寮の屋上に急いで上がり、携帯電話を取り出してある人へ連絡を入れた。

 

『もすもす?終日?ハ~イ、みんなのアイドル篠ノ之 束だよ。』

 

「束さん、今大丈夫ですか?」

 

『勿論いっくんや箒ちゃん、そしてちーちゃんの為ならいつでもどこでも大丈夫だよ。』

 

「そうですか、ちょっと相談事がありまして・・・・」

 

『フランスの子の事だね、良いよ協力してあげる。』

 

「まだ何も言ってないのですが・・・・」

 

『束さんに不可能なんてないのだ~!!』

 

どうも束さんには筒抜けでとんとん拍子に事が進んでいる。

疑問に思った俺はある質問を投げかけてみた。

 

「ひょっとして束さん、俺に監視用ナノマシンか何かを入れてますか?」

 

『おお!!鋭いねいっくんは。』

 

「そりゃ、ナノマシンを入れる要因が沢山ありますから。」

 

点滴を利用しての栄養剤投与がきっかけだろうな。

そのまま、束さんはナノマシンについての説明をしだす。

 

『そのナノマシンは監視用だけど本来は“異常行動”を抑制する為の物なんだ。』

 

「“異常行動”?」

 

『そっ、あの時のいっくんはすぐにおかしなことをするから保険の為に投与したんだ。

だから自白剤や催淫剤等の薬物も無力化出来るよ。』

 

「その節はご迷惑をおかけしました。」

 

『良いよ、いっくんが元気になってくれたからね。』

 

本当に束さんはやる事が違うな・・・・しかし、今はシャルルの事を考えねばならない。

 

「さっきまでの事は筒抜けだから説明は省きます。それで具体的にどうするつもりですか?」

 

『今、くーちゃんがフランスに行って調査し終わった所だよ。証拠を見つけたし。フランスの子のお父さんは完全にシロって事もわかったからね。』

 

「それを使いますか、もし出来るなら・・・・」

 

『勿論、“死よりも辛い苦痛”だね。今回は流石にこの束さんの堪忍袋の緒が切れちゃった。』

 

「是非やってください、俺も今ならフランスを“地図上”から消せそうだから。」

 

『フフフ、任せなさい。いっくんに変わってこの束さんがお仕置きしてくるから!!』

 

 

~回想終了~

 

これによってデュノア夫人とフランス政府の責任者数名は逮捕された。

特にデュノア夫人には牢獄に行かずに財産を差し押さえ、監視者付きでの国外追放が決定した。

監視者が付いた事でデュノア夫人は娯楽・情報等を封じられ、自由が全くない状況になる。

俺個人の考えだと今までシャルにやった事を考えると足りない気がするが

罰を与えるのはあくまで“国”である為、これ以上の事は出来ない。

だが、これでシャルやデュノア社に自由が戻った事は言うまでも無かっただろう。

それからシャルの秘密を守ろうと俺は覚悟を決めた。

最初にやった事は愛称を付ける事、これが “シャル”と呼ぶ様になったきっかけだった。

学年別トーナメント後の大浴場で俺たちは混浴状態になってしまったのだが

その時にシャルの“本当”の名前を知り、とっても信頼されていると感じた。

なのに、フランスの不祥事報道後に

シャルが自分から秘密をバラす事は計算外だったがな。

まあ、シャルが納得しているし『終わり良ければ総て良し』ってこう言う事だろうな。

俺がシャルとの事を思い出している中、シャルが俺に質問して来た。

 

「一夏に質問があるんだけど・・・・」

 

「なんだ?」

 

「紫炎って“試作機”だよね?と言う事は、完成機の為に一夏が動かしているって事に

なるんじゃないかな?」

 

シャルの質問に周りのみんなが“そう言えば”と言う表情になっているのがわかる。

と言うか、今までよく気付かなかったな。

 

「よく分かったな、全ては完成機の為、そして箒の為さ。」

 

「私の・・・・為?」

 

「やっぱり、あるんだね完成機が!!」

 

「ああ、何なら聞いてみるか?丁度甲龍と打鉄弐式の件も言わないと駄目だから。」

 

そう言って俺は携帯電話を取り出し、あの時と同じ番号で連絡を入れる。

 

『もすもす?終日?ハ~イ、みんなのアイドル篠ノ之 束だよ。』

 

「姉さん・・・・」

 

携帯電話をスピーカーモードにしている為か束さんのハイテンションがみんなに伝わる。

箒が呆れた顔をしているし、周りのみんなも束さんのテンションに付いて来ていなかった。

箒の声に反応したのか、束さんのテンションが更に上がる。

 

『箒ちゃんお久~!!元気だった?』

 

「一応元気です。」

 

『そっか、良かったよ。それでいっくん要件は何かな?』

 

「いえ、“アレ”について感付かれまして、箒に言う良い機会だと思いましたので。」

 

『“アレ”だね!!勿論完成しているよ!!』

 

「嘘っ!?早いな・・・・」

 

『箒ちゃんの為なら束さんは頑張れるのさ。箒ちゃんだけのオンリーワン、代用無きもの(オルタナティブ・ゼロ)最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバー・スペック)。そして紫の心を持ち、白と並び立つもの。その機体の名は―――――『紅椿』!!』

 

『紅椿』・・・・それが箒に与えられる新たな剣であり、世界を変える力でもあったのだ。

 

≪To be continued…≫

 


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