インフィニット・ストラトス Dark Knight Story   作:DASH君

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MISSION 07 2人の転校生

一夏side

 

IS学園の朝、HRまでの時間は多くのクラスメイトたちの会話で華を咲かせている。

まあ、俺も箒やセシリア、あと何人かのクラスメイトたちと会話を楽しんでいるが

春斗は相変わらず1人で読書をしている。この際、春斗の方は放っておいても良いだろう。

HR開始のチャイムが鳴り全員席に着いて先生が来るのを待つ。

そしていつも通り山田先生と千冬姉が教室に入って来るが

千冬姉は相変わらず無理をしている様に見える。

最近は会話すらままならず、千冬姉から避けてばかりで俺は途方に暮れていた。

ちなみに俺は千冬姉に対して怒っていることは何も無いから避ける理由がわからない。

そうなると千冬姉個人の問題かもしれないな。

俺は色々考えている内に山田先生がHRを始める。

 

「HRを始める前に、皆さんに転校生を紹介します!!それも2人ですよ!!」

 

『おお!!!!』と黄色い声援が響く1年1組、三度の飯より噂好きな女子たちが集まれば

こうなるのは至極当然と言った所だ。

山田先生の指示で入って来る2人の生徒だが、入室した瞬間クラスの中は静寂に包まれる。

「男子?」と呟く女子が居た様な居なかった様な気がするが転校生の1人は男子だったのだ。

 

「シャルル・デュノアです。同じ境遇の方が居ると聞いてフランスから来ました。

この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」

 

丁寧な自己紹介が終了したと同時に騒音とも呼べるくらいの黄色い声援で埋め尽くされる。

まあ、俺の時と同じだなこれは・・・・でも俺はそんな状況に流されずデュノアを疑問視した。

 

「(3人目の男子か、ニュースとかで騒がれる筈なのに静かだったのは何故だ?)」

 

男性操縦者である俺たち兄弟でさえ世間を騒がせたのに

3件目は全くと言っていいほど静かだった。

そんな考えを無視して千冬姉がクラス全体を黙らせて、すぐにもう1人の転校生に指示を出す。

 

「挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「ハイ、教官。」

 

「ここではそう呼ぶな、“織斑先生”と呼べ。」

 

「了解、私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

“シーン”とクラス内は静寂に包まれる。この雰囲気もどこかで見たぞ・・・・

 

「あの~・・・・以上ですか?」

 

「以上だ。」

 

恐ろしく短い自己紹介で山田先生は焦りの顔を隠せていない。

まあ、誰だって焦るわなこれは・・・・

自己紹介を終えたボーデヴィッヒは俺と春斗を見ている様に見えた。

 

「貴様等が・・・・」

 

そう言ってボーデヴィッヒは俺に近づき平手打ちをしようとするが・・・・

 

「へぇ~、ドイツ流の挨拶は随分と暴力的なんだな。」

 

ボーデヴィッヒの平手打ちを防御してそのまま握手の形にする。

平手打ちを仕掛けた当の本人は驚いた表情をしていたが、すぐに一言言う。

 

「認めんぞ、貴様等兄弟が教官の弟であるなど・・・・」

 

「そうかい、認める認めないは自由だけど。まあ、仲良くしようぜ。」

 

返事をしたがボーデヴィッヒは俺の手を振り払い、不機嫌な表情になっていた。

沈黙が流れているがここまで重っ苦しいのは初めてだ。

それにしてもラウラ・ボーデヴィッヒ・・・・クロエさんにそっくりだ、何故だろう?

色々考えていると今度は千冬姉がこの沈黙を破る。

 

「ゴホンゴホン!!ではHRを終了する。2組との合同でISの模擬戦闘を行うから着替えて

第二グラウンドに集合しろ。」

 

“パンパン”と手を叩いて行動を促せる。

 

「織斑弟、同じ男子だからデュノアの面倒を見てやれ。」

 

「ハイ、わかりました。」

 

千冬姉からの指示でデュノアの世話をする事になった。

まあ、これで違和感の正体を掴めるかもしれない。

 

「早速で悪いが、実習がある度アリーナ更衣室で着替える事になっているから急ぐぞ。」

 

「うっ、うん!!」

 

移動の順番は俺、デュノア、春斗で俺はデュノアの手を掴んで案内する。

デュノアの手を握っての感想だが、やはり違和感が消えない。

 

「(この感触、男子の感触じゃないな。これはまさかだけど・・・・)」

 

“女子の感触”・・・・それが俺の脳裏での答えが出てきたのだ。

これでデュノアには100%何かがある事がわかった訳だが、今は授業に急がなければならない。

途中、上級生たちに囲まれたが俺はデュノアを“お姫様抱っこ”で

窓から飛び出した事で難を逃れた。

その時デュノアが「あわわ・・・・////」と言っていたが無視した。

この時に春斗が逃げきれずに上級生たちに捕まって遅刻したのは言うまでもなかった。

着替えの最中に俺とデュノアは自己紹介し合った。

授業の開始は千冬姉の春斗に対する出席簿アタックから始まりセシリアと鈴に指示を出す。

沸々と文句を言う2人だが、俺が2人を応援するとやる気が一気に上がった様だ。

 

「それで?相手は誰になるのよ?ひょっとしてセシリアが相手なの?」

 

「もしそうでしたら望むところですわ。」

 

「安心しろ、2人の対戦相手は・・・・」

 

「どいてくださ~い!!」

 

俺は声の方向に即座に反応し、紫炎を展開して声の方向に向かって来るであろう

物体をキャッチする。

 

「大丈夫ですか、山田先生?」

 

「あっ、ありがとうございます。助かりました・・・・」

 

声の主は山田先生だった、見ると怪我1つない状態だったから良かった。

って、ISで怪我があるとしたら絶対防御を抜かれた時だから、ある筈ないか。

次の瞬間、女子たちが『んなっ!?』と言う声を一斉に出して驚かれる。

何故なら俺は山田先生を“お姫様抱っこ”で抱えていたからだ。

俺はすぐに山田先生を下ろすが、どうも抱っこの余韻に浸っていてまともに機能しない。

俺が声をかけようとするが・・・・

 

「山田先生・・・・」

 

「はっ!?すっ、すみません!!」

 

「それでは早速始めるぞ。」

 

「セシリアとタッグか・・・・あの時(一夏との闘い)を思い出すわね。」

 

「ええ、鈴さんは準備がよろしくて?」

 

「当ったり前よ!!」

 

そう言って、2人は山田先生に挑む。

前に連携を組んでいたからか無駄がなく洗礼された動きを見せる。

山田先生も負けじと2人をいなして捌いて行く。

その間、千冬姉はシャルルに山田先生が使用しているISについての説明を指示する。

俺はセシリアと鈴の様子を見るが、セシリアもあの時から訓練を積んでいる事がよくわかった。

途中で試合の時間が長引いているのか千冬姉が中断を指示する。

降りてきた2人に俺は声をかける。

 

「2人とも、お疲れ様。セシリアは前と違って段違いに実力を上げたじゃないか。」

 

「ええ、ありがとうございます。」

 

「あ~も~!!2人で闘っているのに負けた気分だわ!!」

 

「ふぅ~・・・・闘い辛かったですよ。」

 

「諸君もこれでIS学園教員の実力がわかっただろう。以後は敬意を持って接する様に。」

 

千冬姉の言葉の後は専用機持ちがISの操縦方法を教える事になるのだが・・・・

結論から言えば、俺と春斗、そしてシャルルがタジタジになったのは言うまでもなかった。

 

 

箒side

 

今日の授業が終わり、放課後となって第三グラウンドで私は一夏に誘われて特訓を行う。

一夏曰く「せめて自分の身は自分で守れる様にならないとな。」と言うのが理由らしい。

どんな理由であれ、一夏から誘われるのは殆ど無かったから私は嬉しかった。

周りを見るとセシリアと鈴、そしてデュノアが見学していたがそんな事は関係ない。

いざ、特訓を行うが結果は・・・・

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

「今日はこれくらいにしておこう。」

 

私が息を切らして大の字になって倒れている。

体力には自信があったのだが、一夏は全くと言っていいほど疲れを見せていない。

ちなみに一夏が展開しているのは紫炎ではなく量産機の打鉄だった。

私も打鉄を使っているがこうも大きな実力差が出るとは思わなかったが

悔しさ以上に清々しかった。

一夏は自分の打鉄を含めて片付けに行き、その間は周りも思った事を口に出し始める。

 

「箒、あたし思ったことがあるんだけど、箒は防御型に向かないと思うわ。」

 

「そうなのか?」

 

「そうですわね、回避型の動きをしていました・・・・」

 

「篠ノ之さんは起動時間が短いからぎこちなくて当然だと思う。仮に量産機でやるなら打鉄よりもラファールの方が良いと思うよ。」

 

「そうなのか、しかしラファールは・・・・」

 

「まあ、箒の性格からしてラファールは無理よね。」

 

「えっ? そうなの?」

 

「箒さんは刀一本で闘う方ですから、ラファールの近接ブレードでは長さが合いませんもの。」

 

「お待たせ、箒はみんなの感想を聞いてはどう思った?」

 

「回避型に向いていると言われたが・・・・」

 

「だよな、まあゆっくり考えれば良いか。」

 

「一夏、模擬戦しない?」

 

「うん?良いぜ、いつかやると思っていたからな。」

 

「そっか、ありがとう一夏。」

 

「お礼は後にして、誰か開始の合図をしてくれ。」

 

「ハイハイ、わかったわよ。それじゃあ・・・・始め!!」

 

「っ!!」

 

開始の合図と同時にデュノアは両手にマシンガンを装備して乱射し、接近するが一夏は・・・・

 

ガード(Guard)!!ウッウッウッ・・・・リリース!!」

 

「うわっ!?」

 

デュノアから放たれた弾幕をロイヤルブロックで全て防御し、接近したデュノアに

ロイヤルリリースをお見舞いする。

一夏はその隙を見逃さずにトリックスターにスタイルを切り替えてデュノアに急接近する。

 

「まだまだ!!」

 

読み通りと言わんばかりにデュノアはショットガンを構えて待ち構えた。

今度の一夏の行動は予想を斜め上に行く様な行動に移る。

 

「予想通りだぜ!!」

 

「えっ!?」

 

なんと、一夏はショットガンの銃口部分を踏んで上に逃げたのだ。

流石のデュノアもこの行動は予想外だったらしく呆気を取られていた。

 

ガン(Gun)!!ヒャッホウ(Yahhooo)!!」

 

「うわあああああ!?」

 

デュノアの上空に居る一夏はガンスリンガーにスタイルを変えて

二丁拳銃を持ってコマの様に高速回転しながら真下のデュノアに銃撃の嵐を浴びせる。

その連射速度は今まで見た物とは段違いに早く、デュノアは銃撃の嵐から抜け出せない。

ある程度距離を詰めた一夏は長剣で兜割りを行って更なるダメージを与える。

 

「はああああ!!」

 

「うわっ!?くぅ・・・・」

 

オイ!どうした!(Hey! What's up!)

 

「いや、これだけで7割もシールドエネルギーを失うなんて思わなくて。」

 

「そりゃ、ロイヤルリリースと『レインストーム』を喰らっちまったからな。」

 

「これが第4世代相当の能力なんだね・・・・通りで一気に削られると思ったよ。」

 

「それでどうする?続ける?それとも・・・・」

 

「やめておくよ、今のままじゃあこれ以上闘っても勝てる気がしないから。」

 

「そうかい、にしても武器の切り替えが早かったな。高速切替(ラピッド・スイッチ)か?」

 

「よく知っているね、僕の特技なんだ。」

 

「そうなのか、俺も使えるからもしやと思ってな。」

 

「えっ?一夏も使えるんだ、凄いな・・・・」

 

「一夏、さっきの一連の動作について教えなさいよ!!」

 

「え~っと、どこから教えればいいんだ?」

 

「そうですわね、まずはデュノアさんの上空に上がった所からお願いしますわ。」

 

「そこからか、あれは『エネミーステップ』って言ってな、簡単に言えば

敵を踏んでジャンプする技だ。」

 

「あれって踏んでいたの!?」

 

「ああ、ショットガンの銃口部分を踏んだんだ。」

 

「いくら何でも銃口部分を踏んで上に上がるなんて考えられませんわ。」

 

「やるとしたら俺だけってか?あとはさっき言った様にレインストームからの

兜割りで終わりだ。」

 

「う~ん、結局何も出来ずに負けちゃったか・・・・」

 

「いや、初見であそこまで出来たら上出来なくらいよ。」

 

「そうですわ、わたくしたちなんて2人で挑んでましたから・・・・」

 

「その結果、がむしゃらに訓練を続けることになったんだけどね。」

 

「ですが、一夏さんも同じ様に訓練に励んでおりましたから追いついていないのが現状ですわ。」

 

「そっ、そうなんだ・・・・」

 

会話をする私たち、和む雰囲気がグラウンドに居た1人の生徒の声を皮切りに崩れていった。

 

「ねえ、ちょっとアレ・・・・」

 

「ウソっ、ドイツの第3世代型だ。」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いたけど・・・・」

 

周りの視線を追うと、そこにはもう1人の転校生

ラウラ・ボーデヴィッヒがそこに居た。

 

 

一夏side

 

ボーデヴィッヒの突然の登場でグラウンドは小さな騒ぎになっていた。

そんな事をお構いなしにボーデヴィッヒは開放回線(オープン・チャネル)を使って俺に話しかけてくる。

 

「おい。」

 

「なんだい、ボーデヴィッヒさん?」

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い、私と闘え。」

 

「“闘え”と言っても理由が無いだろ?」

 

「貴様にはなくても私にはある。」

 

「俺はボーデヴィッヒさんに何かした訳ではないし、逆もまた然りだ。かといって俺が千冬姉に

汚点を作った訳でもない。それでも闘う事を望む理由はなんなんだ?」

 

「簡単な話だ、貴様が・・・・貴様等兄弟が教官を苦しめる。」

 

「教官時代の千冬姉から俺たち兄弟の事を色々聞いたのか。だとしたら俺たち織斑家の問題だ

君は関係ないだろう?」

 

「そんな事は知った事ではない、貴様等兄弟を排除する事が教官を救う唯一の方法だ。」

 

「それは君の勝手なエゴだな、千冬姉の本心も知らずに行動する事が君の正義なのか?」

 

「少なくとも、貴様等兄弟よりは教官の心をわかっているつもりだ!!」

 

その言葉と同時にボーデヴィッヒは大型の実弾砲を発射した。

俺は避けずにデビルブリンガーを解放し・・・・

 

「フッ!!返すぜ!!」

 

そのままバスターで砲弾を投げ返したが、ボーデヴィッヒは手を前に出して砲弾を止めたのだ。

 

「我が停止結界の前ではそんな事は無意味だ。」

 

「『慣性停止結界(AIC)』か・・・・」

 

「それが噂に聞く『デビルブリンガー』とやらか、第4世代相当も大した事が無いな。」

 

「そう見えるなら君自身も大した事が無いって事だな。それにここで種を全て明かすのは

少々勿体ない。」

 

「貴様・・・・」

 

「それでどうする?やる?やらない?もしやるのなら・・・・来いよ、ノロマ(C'mon, wimp)!!」

 

「貴様!!」

 

トリック(Trick)!!フッ!!もう一丁!!」

 

再びボーデヴィッヒは大型の実弾砲を発射し、俺はバスターで弾丸を投げ返す。

ボーデヴィッヒはもう一度『慣性停止結界(AIC)』を発動して弾丸を止めるが・・・・

 

「何っ!?」

 

「だからお前はノロマなんだよ。」

 

俺はボーデヴィッヒの背後に回り込んでリベリオンを首筋にあてた状態で居る。

エアトリックとテーブルホッパーを組み合わせた動きに相手は反応できなかったのだ。

 

「それで続ける?それとも止める?」

 

「舐めるな!!」

 

すかさずボーデヴィッヒは腕部からプラズマ手刀を展開して仕掛けるが俺は寸分で躱す。

何度も攻撃が来るが全て躱す、何度も繰り返して最後は足払いでボーデヴィッヒを転倒させた。

転んだボーデヴィッヒの右腕を足で抑えてリベリオンをもう一度首筋にあてる。

 

「これで少しは頭が冷えたか?」

 

「貴様・・・・」

 

「お前さんが千冬姉をどう想っているのか知った事ではないが、肉親の事を

口出ししないでくれないか?」

 

「うるさい!!貴様等が居なければ教官は苦しまずに済むんだ!!」

 

「何ですって!?」

 

「ボーデヴィッヒ!!」

 

ボーデヴィッヒの言葉に激昂する2人、セシリアとシャルルは暴れ出す2人を止めていた。

俺は周りの事を気にせずボーデヴィッヒに言う。

 

「確かにそうかもな、俺自身も俺が居なくなれば良いって思った事があるさ。

迷惑かけてばかりだからな。」

 

「なら何故ここに居る!!何故教官を苦しめる!!」

 

「そうだな・・・・苦しめる理由はわからんが、居る理由は俺は千冬姉や春斗と仲直りがしたい。

出来ちまった亀裂を直したい。ただそれだけだ。」

 

「何?」

 

「あと、お前さんが千冬姉をどれだけ惚れ込んでいるのか今ので十分わかった。

だけど、人の為に行動するのなら、もっとその人の事を考えてくれよな。」

 

そう言ってリベリオンを戻して俺はみんなの元に戻る。

その間、ボーデヴィッヒは唖然とした様子でただ俺の後姿を見ていただけだった。

みんなの元に戻った直後にシャルルが口を開く。

 

「一夏、大丈夫だった?」

 

「ああ、悪く言われるのは慣れているからな。どうって事ねえよ。」

 

「ですが、あの様な悪態。決して許されるものでは・・・・」

 

「俺が許しているんだ、それで良いだろ?それに俺はボーデヴィッヒの言う通り

“居ない方が良い人間”だからな・・・・」

 

そう言って俺は4人を無視して着替えに向かった。

とにかく今は何も考えたくはない、ただそれだけだった。

 

 

シャルルside

 

僕の名前はシャルル・デュノア・・・・いや、これは“男装している時(偽り)”の名前で

本当の名前はシャルロット・デュノアだ。

僕が性別と名前を偽ってIS学園に来たのは織斑 一夏と接触し、第4世代のデータを盗む為。

勿論これは本心ではないからやりたくない事、でも家の事情が僕をそうさせてしまう。

僕は物心ついた頃は母さんと2人で穏やかに暮らしていた。

でも、2年前に母さんが亡くなって僕は実父が居るデュノア社の人間に引き取られた。

そこで新しい生活になる筈だったけれど、デュノア社は実父の本妻である義母(あの女)が支配する

恐怖政治の国みたいな場所になっていた。

僕は初めて義母(あの女)と出会って開口一番が「泥棒猫の娘が!!」と言われて叩かれた。

実父は僕や死んだ母さんの事を心から愛してくれていたけど義母(あの女)はそれを許さない。

僕はIS適性が高く、非公式でテストパイロットになったけど、やる事は拷問に近い内容で

「死んでしまうんじゃないか?」と怯えながら生活していた。

それでも密かにだけど、実父が励ましてくれて何とか心を保っていた。

その後、デュノア社は経営危機に陥って義母(あの女)の行動は更にエスカレートして

最終的にはこの様な状況になってしまった。

もし、この任務に失敗してしまったら義母(あの女)は即座に僕を切り捨てる

そうならない為にも僕は何としてでも成功させなければならない。

調べる内にターゲットである織斑 一夏について知る事が出来たんだけど・・・・

資料と見比べて全然違う事がわかった。

義母(あの女)は一夏に対して「織斑家の出来損ない」と言っていたけど

実際は違って僕自身も学ぶことが多かった。

この話は今は置いておいて、僕は今グラウンドの更衣室から出て山田先生に呼び止められる。

 

「えっ?部屋の案内ですか?」

 

「ハイ、デュノア君の部屋は1026室、織斑 一夏君と同室ですよ。これが鍵です。」

 

「ハイ、わかりました。」

 

一夏を騙している様で悪いけど、これはある意味好都合だった。

僕はその足で1026室に向かう。部屋の扉をノックしてみる。

 

「うん?誰だ?」

 

「僕だよ、シャルル・デュノアだよ。」

 

「シャルルか、ちょっと待ってくれ。」

 

扉を開けた時の一夏の姿はロングコート状に改造した制服姿だった。

一夏は荷物を持った僕を見て察したのか、すぐに招き入れる。

 

「シャルルが俺の同室になるのか・・・・」

 

「うん、山田先生の指示でね。」

 

「まあ、前まで春斗が箒と同室になっていたからそのツケでこうなったか。」

 

「そうだったんだ、これからよろしくね。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

この後、お互いに部屋での線引きの話をして時間が過ぎていく

それから話していく内に今日の出来事についての話題になった。

 

「今日は大変だったね。」

 

「ああ、でも何とかなっただろ?」

 

「そうだね。」

 

一夏は笑っている様に見えてどこか暗い部分が見えた。

僕は一夏に対して今日一番の疑問を言ってみる。

 

「そう言えば一夏はあの時言っていたよね?自分の事を“居ない方が良い人間”って。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「それってどう言う事なのかな?」

 

「その通りの意味だが・・・・」

 

「僕はわからないんだよ、僕は一夏の事をそう言う風に見えないから・・・・」

 

僕がそう言うと一夏は考え込んでいた、少し経って一夏は話し出した。

 

「シャルルに聞くけど、ここに来る前の俺の事を知っているか?」

 

「っ!?」

 

「その反応は知っているって事で良いか?」

 

僕は黙って肯定を示す様に首を縦に振るしかなかった。

 

「そうか、それなら文字通りの意味、俺には多くの不名誉のレッテルを貼られている。

コイツはそう簡単には引き剥がせないんだ。」

 

「でも、それは昔の事でしょう?今は・・・・」

 

「今は良くても昔は昔、俺はそう言う自分許せない、ただそれだけなんだ。」

 

そう言ってこの会話を強制的に打ち切られてしまう。

僕はこの時、一夏の大き過ぎる心の闇の一部を知ってしまった気がしたのだった。

 

≪To be continued…≫


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