ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~   作:珈琲飲料

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今回はいつもより早いですね!なんて言わないで!!

いつも投稿遅いなって自覚しているんです。
でも無性に書きたくなるときがあるから怖いですよね……(笑)

それでは第28話です!どうぞ!


28話 実際そこまで考える必要はない

 

「双方、剣を引け!!」

 

一触即発の雰囲気はキリトの放った馬鹿でかい声によってがらりと変化した。空気がビリビリと震えるような錯覚は俺だけでなく、会談の場に居合わせたすべてのプレイヤーに伝わったのだろう。すべての視線を集めたキリトはそのインパクトが薄れないうちにさらに続ける。

 

「指揮官に話がある!」

 

そう言ってキリトはサラマンダーの軍勢を睨んだ。そしてその態度と声量に圧倒されたかのように敵のランス隊の輪が割れていく。

 

「……予定通りだね」

 

周りに気を配りながらユウキが俺に耳打ちしてくる。最悪、そのまま乱戦ということも考えたが予想よりも部隊が統率されている。レイド戦なら厄介極まりない状況だったが今回はその事実が俺たちに有利に働いたというわけだ。

 

「第一段階はクリア……問題はこの後だけど」

 

ユウキの言葉に俺は視線を変えず答えた。視線の先にはランス隊が空けた道を進み出てくる大柄な男が一人。

 

「―――スプリガンとインプがこんなところで何をしている」

 

良く通る野太い声は進み出てきた男から発せられたもの。真紅に燃える瞳と剣のように鋭い雰囲気はそれだけで他のサラマンダーと一線を画していることを容易に理解させた。

 

「盟友を助けるのは当然のことだろ?」

 

突き刺さるような視線を受け流して俺は短く答えた。

 

「ほう……?」

 

俺の態度を意外だと思ったのか、言葉のほうに疑問を持ったのか分からないがサラマンダーの男は面白そうな目でこちらを見る。

 

「今回の会談がケットシー、シルフの同盟だけだと思っているのならそれは間違いだ。スプリガン、インプ、ウンディーネもこの同盟に加わる」

 

……ハッタリもいいところだ。しかしサラマンダーたちにとってこの作戦はグランドクエスト攻略の大事な布石。どんな憶測であろうともそれが確実に動きを止める楔となるはず。

 

「五種族の同盟だと……?」

 

「今日は貿易交渉のためにこの場へやってきたんだ。だが会談が襲われたとなればそれだけじゃすまないぞ。俺たちを含めた五種族であんたたちと戦うことになる」

 

俺とキリトの言葉を受けてサラマンダーの指揮官もさすがに驚いたようだった。しばしの間、あたりに沈黙が漂う。―――そして

 

「それが事実なら脅威になるだろう。……しかしたった三人で、しかも大した装備も護衛も持たない貴様らの言葉をにわかに信じるわけにはいかないな」

 

「見た目で人を判断するのは二流のすることだ。指揮官であるあんたがそんなこと言っちゃダメだろ」

 

「無論承知している。だから俺自身が見極めてやる」

 

そう言うとサラマンダーは突然背後に手を回して巨大な両刃直剣を抜き放つ。暗く紅い刀身は光を浴びて輝き、その切っ先が俺たちに向けられる。

 

「威勢のいいスプリガン、前に出ろ。俺の攻撃を三十秒耐え切ったら、お前を大使として認めてやる」

 

その言葉と共にもう一人の男性プレイヤーが俺たちの前に着地する。

 

「お二人さんのどちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認めてあげるよ」

 

指揮官と違ってこちらは人がよさそうな雰囲気の男。得物は俺と同じく短剣に分類されるだろう短めの刀だ。

 

「雰囲気と同じく気前もいいな。それなら――」

 

「待って、カエデ」

 

俺が戦う。そう言って前に出ようとした寸でのところをユウキに止められてしまう。

 

「たまにはカエデも休まないと。ここはボクにまかせてよ!」

 

聞く人が聞けば思いやりにあふれた言葉なのだろうが、付き合いの長い俺はこの言葉が建前であることを知っている。

 

「……本音は?」

 

「ボクだってたまには思いっきり戦いたい!」

 

即答である。剣まで抜いてやる気満々なユウキの様子を見て、俺は思わず苦笑した。

 

「ははっ、なら今回は任せるよ。楽しんで来い」

 

肩をぽんと叩いて激励すると一層やる気を増してユウキはサラマンダーと向き合った。

人のよさそうなこのお兄さんには申し訳ないがこうなったユウキは普段より三割増しで剣速があがる。……ほんとご愁傷様です。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

意気揚々とホバリングしていくユウキに小さく手を振ると、離れた場所でキリトも浮上していく。キリトなら三十秒攻撃を耐えるなんて朝飯前だろう。あの指揮官がその条件だけで納得するなんて考えられないが。

 

「それに……なんだこの感じ」

 

空中で相手の実力を推し量るように静止したままの四人。そのうちの一人である短刀を装備したサラマンダーを見て、内心で疑問が浮かび上がってくる。

 

最初から指揮官と三対一で戦えるとは予想していなかった。普通は勝負を公平にするため、適当に人を見繕って三対三の形をつくるはず。それにユウキと戦うあの男はたしかに短剣を使っているが二刀ではない。

 

聞いていた話と実物がまったく噛み合わず、さらに疑問に靄がかかっていく。

 

『お二人さんのどちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認めてあげるよ』

 

確かあの優男は俺たちにそう言った。自分に勝てたら俺たち二人を同盟の大使であると認めると。

 

空中では静寂を破ってどちらのほうも戦いが始まった。滑るような高速エアレイドと金属を打ち付けあう甲高い音。空中で繰り広げられる激しい戦闘をぼんやり眺めながら、俺は口の中で何度もあの男の言葉を繰り返した。

 

どちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認める。勝てたら認める……

 

あの言葉は本当だったのか……いや論点がずれているな。言葉の真偽なんて今更確かめようがない。知りたいのはあの発言の真意。

 

勝てたら認める。それは誰を? もちろん俺とユウキを―――

 

「あっ…………」

 

浮かび上がる疑問の正体が、徐々に氷解していくのを俺は感じた。そしてそれが次第に姿を見せてくる。

 

――あの言葉が俺たち二人ではなくどちらかに向けられていたとしたら?

――自分と戦って勝った奴だけを認めてやるという意味だとしたら?

 

 

 

 

 

実際には最初から三対三の状況が組まれていたとすれば?

 

「――――――っ!?」

 

キィン!と鋭い金属音があたりに響く。不意を突くように首筋へ飛んできた剣撃を、俺はとっさに剣で受け止めた。

 

「……気付かれた?」

 

残念そうにつぶやく声の主にお返しするため、俺は腰からもう一振りの剣を抜いて斬り払う。

 

「……なかなか、やるっ」

 

危なげなく俺の攻撃を躱して後ろに下がった襲撃者。そして剣を構えた状態でそのプレイヤーは俺の前に姿を現した。

 

「女の子……?」

 

反撃した時に小柄なプレイヤーだと思ったがそれもそのはず。目の前に立っていたのは女性プレイヤーもとい少女だったのだから。鼻筋の通った綺麗な顔立ちと澄み切った青色の瞳。そして眼を見張るのが風に流れる銀色の髪だ。年齢はユウキと同じくらい見える。

 

「回廊でおっさんが言っていたのは君のことだったのか。凄腕のプレイヤーが指揮官の傍にいるって」

 

「……買い被り」

 

剣を構えたまま俺の言葉にぶっきらぼうに答える少女。武器はユウキが戦っている優男と同じく短剣。唯一違うところを挙げるのならそれは俺と同じく両手に一振りずつ装備しているところだろう。

 

「ようやく謎が解けたって俺の中ではスッキリしていたんだけど。不意打ちとは感心しないな」

 

「あなたが一番、強そうだったから……」

 

「それこそ買い被りだと思うけど」

 

肩をすくめてそう返すと、サラマンダーの少女はさらに続ける。

 

「……そろそろ、私たちも始めよ?……気持ちいいこと」

 

「女の子がそういうこと言っちゃダメです!主に俺が誤解されるから」

 

いきなり現れた少女とそのキャラを目の当たりにして、どっと疲れがこみ上げてくる。

なんだか今日は長い一日になりそうだ。改めてそう感じた俺は剣を構えて少女に向き直った。

 

「そういえば名前を聞いてなかった。良ければ教えてくれるかな?」

 

俺の言葉に考え込むように俯く少女。そしてたっぷり数秒思考した末に俺のほうを向くと膝を曲げて腰を落とした。

 

「……ハープ」

 

プレイヤーネームだと思われるその単語が言い放たれたと同時に、少女は地面を蹴ってこちらに飛び込んでくる。流れるような動作で繰り出される斬撃を俺は再び左の剣で受けた。

 

「っ!」

 

名前と二度目の鋭い金属音。その二つの音が戦いの合図となった。

 

 

 




第28話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

散々引き伸ばしておいてまともな戦闘が始まっていないですね……
というわけで明日も同じくらいの時間に投稿します。
次で会談襲撃の話は終わらせておきたいです。

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!それでは次回、またお会いしましょう!


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