皆様のお住まいの地域は大丈夫でしたか?
季節はすっかり冬ですので体調にはお気をつけて。
それでは第21話です!どうぞ!
無軌道に飛び回るキリトを停止させ、改めてリーファから随意飛行のコツを教わる。散々な空中運動をしたキリトも元々の筋はよかったので十分ほど手解きを受けるとどうにか自由に飛べるようになった。飛行に慣れたところでようやくスイルベーンに向かって移動を始める。
「慣れてきたら、背筋と肩甲骨の動きを極力小さくできるようにするといいよ。あんまり大きく動かしていると、空中戦闘のときちゃんと剣が振れないから。……それじゃあ、ついてきて!」
最後に戦闘でのアドバイスを口にするとリーファはくるりと反転して巡航に入った。
最初のほうは初心者である俺たちに合わせてゆっくりと加速してくれたが、リーファに張り合うように並走していたキリトの一言によって飛行速度が大きく変わる。
「もっとスピード出してもいいぜ」
「ほほう」
にやりと笑うキリトを見てリーファは悪戯っぽく笑い返す。そして翅を鋭角気味に畳むと、更なる加速に入った。
「あいつら……」
「リーファとキリト速すぎ……」
急にスピード勝負に入ったキリトたちに俺とユウキは思わず苦笑する。
時速になおすとどのくらいの速度になるのだろうか。ついていくことに問題はないのだがさすがにこの速さになると止まるときにかなり大変なことになるだろう。
「ユウキ、置いて行かれない程度にスピードを落とそう」
「うん、ボクもこの速さで止まる自信ないし……」
ユウキが頷くのを確認して少し飛行速度を緩める。それと反対にキリトとリーファはさらにスピードを上げ始めた。
「はうー、わたしもうだめです~」
キリトについていくのがきつくなったのかユイも速度を落として俺とユウキの間に入る。
「ユイちゃん大丈夫?」
「はいっ、でもパパもリーファさんも速すぎです」
ぷくっと頬を膨らませるユイ。まあ、あの速度についていくのは至難の技だろうし今回は仕方ない。
抗議をするユイを宥めて飛行を続けていると森が切れ、色とりどりに光る建造物が見えてきた。おそらくあれがシルフ領の首都<スイルベーン>だろう。遠くからでもわかる街の輝きはシルフという種族がいかに繁栄しているのかを物語っている。
「お、見えてきたな!」
風切り音に負けない大声でキリトが言った。
「真中の塔の根元に着地するわよ!……って……」
ここへきてリーファが急に黙り込む。
「どうかしたの?」
不思議に思ったユウキがリーファに尋ねる。すると固まった笑顔をこちらに向けてリーファは口を開いた。
「三人とも、ランディングのやりかた解る?」
「ああ、なんとなくだけど」
「うん!問題ないよ」
なんだそんなことか。曲がりなりにも現実世界では飛ぶものをたくさん見てきているのだ。着地のやりかたくらい大したことないだろう。
「……」
「おい、キリト。お前まさか……」
一人だけ返事をしない。
顔を強張らせるキリトを見て三人は確信した。
こいつ、着地の方法知らないな、と。
「……どうしよ……」
徐々に青ざめていく親友。
激突待ったなしのキリトに対して俺たちは最大級の笑顔と立てた親指を向けて言い放った。
「逝って来い、キリト」
「頑張ってね!キリト」
「あとで回復してあげるから」
吹き出しそうになるのを必死に堪え急減速に入る。翅を限界まで広げて空気抵抗を受けながら急制動の力を得る。
「お……お前らああぁぁ――――!」
翡翠色の塔に黒衣の妖精が突っ込んでいくのを見送りながら、一言。
「おかしい人をなくした……」
おそらく三人の合掌はキリトに届いていることだろう。激突の大音響を聞き流しながらそう勝手に結論付けて俺たちは広場に着地した。
「うっうっ、ひどいよ三人とも……飛行恐怖症になるよ……」
塔の根元に設置された花壇に座り込み、恨めしい表情でキリトがこちらを見ながら言った。
頭上に表示されたHPバーが半分を割っていないあたり、激突の瞬間に受け身でも取ったのだろう。相変わらずの反応速度である。
「悪い。減速と着地くらい知ってるかと思ったんだ」
笑いを堪えながら弁解する俺にキリトは不思議そうな顔をする。
「そういえばなんでカエデもユウキも着地の仕方を知ってたんだ?」
「……お前、鷲とか梟が木に止まる映像とか見たことないのか?」
「あっ……」
さすがに気が付いたのか、目を伏せるキリト。
「まあ、あの速度で飛んでたから。咄嗟に思いつくほうが難しいよ」
そうフォローしながらリーファはキリトに近づくと右手をかざす。
そして聞きなれないワードをいくつか発音すると青白く光る雫がキリトに降りかかった。
「わぁ……」
光る雫を見ながらユウキが横で声を漏らす。視線をキリトのほうへ向けると先ほどの衝突で減っていたHPがもとの状態に戻っていた。
「へぇ、それが魔法か」
「うん、いくつか種類があるんだけど……今のは回復魔法だよ」
俺の呟きを聞いてリーファが得意げに答える。実際魔法は得意なのだろう。スペルの詠唱が手馴れていたような気がする。
「種族によって得手不得手があったりするの?」
「それはもちろん。シルフは風系譜の魔法が得意でスプリガンは幻惑魔法やトレジャーハント系。インプは特別得意な魔法はないんだけど、暗視や暗中飛行に優れているわね」
「なるほどな」
得意な魔法がないのは残念だが暗所を気にせずに行動できるのはありがたい。
スプリガンは……まあ使いどころによっては他種族を圧倒できるのではないのだろうか。
不人気な理由が何となく解ったような気がする。
「カエデ今スプリガンのこと可哀想って思っただろ」
「ソ、ソンナコトナイヨー」
「……俺もインプにしとけばよかった……」
肩をすくめながらキリトは立ち上がると周囲にぐるりと視線を向ける。
「おお、ここがシルフの街かぁ。綺麗な所だなぁ」
翡翠色に輝く街並みを眺めて感想を漏らす。それにつられるように俺もユウキも翡翠の都に見入っていると不意に横から声をかけられた。
「リーファちゃん!無事だったの!」
声のするほうへ顔を向けると手をぶんぶん振りながらこちらへ近づいてくるプレイヤーが見えた。黄緑色の髪をした気の弱そうな、ではなく優しそうなシルフの少年だ。
「あ、レコン。うん、どうにかねー」
レコンと呼ばれたシルフの少年はリーファに尊敬の眼差しを向けて言った。
「すごいや、アレだけの人数から逃げ延びるなんてさすがリーファちゃん……って……」
今更のようにリーファの傍に立つ俺たちに気が付くと、レコンは口をぽかんとさせて立ち尽くす。
「な……スプリガンにインプ!?なんで……!?」
バックステップで距離をとりながらレコンは腰のダガーに手をかけようとする、が。
「い、いったい他種族が何の用……ってあれ?」
腰のダガーに手をかけたはずがホルスターごと腰から消えているのに気づき、困惑する。
「へぇ~この世界のダガーってのは面白い形状をしてるんだな」
武器ごとになにか特殊効果が付与されていたりするのだろうか。俺も早いとこ装備を整えておきたいな。抜いたダガーを鞘にしまうと俺のほうを見て唖然としているレコンに返却する。
「いつの間に腰から……」
「いや、バックステップで距離をとったときだけど?」
「そんな……」
なおも驚愕を隠せないレコンに対してさらに続ける。
「まだまだ短剣を使いこなせてないみたいだな。良ければ戦い方をレクチャーしようか?」
「……どうしようか」
他種族であるにも関わらず俺の提案を聞いてうーんと唸るレコン。その様子を見てさっきまでのやりとりから話を戻そうとリーファが割り込んでくる。
「こらっ危ないでしょレコン!カエデ君もその辺にしといて。あんまり騒ぎすぎると人が集まってくるから」
「すまん、同じダガー使いとしてつい……」
もう……と呆れるリーファにとりあえず謝っておく。そういえば他種族の圏内だとこちらが圧倒的に不利になるんだっけ。うん、忘れてた。
「じゃあ改めて紹介するわ、こいつはレコン。あたしの仲間なんだけど、君たちと出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃったんだ」
「そりゃ災難だったな。よろしく、俺はキリトだ」
「さっきはすまなかったな。カエデだ、よろしく」
「ユウキです、よろしくねっ」
「あっ、どもども」
レコンはキリト、俺、ユウキの順に握手を交わし、ぺこりと頭をさげる。そして
「いやそうじゃなくて!」
またステップバック。
「……ショートコント?」
首を傾げるユウキ。そしてそれをすぐ否定するようにレコンが口を開く。
「お笑いじゃないから!それよりもだいしょうぶなのリーファちゃん!?スパイとかじゃないの!?」
「あたしも最初は疑ったんだけどね。カエデ君やユウキちゃんはともかくキリト君はスパイにしてはちょっと天然ボケ入りすぎてるしね」
「あっ、ひでぇ!」
キリトの言葉を聞いて笑いあう俺たちを、レコンはしばらく怪訝そうに見ていたが、ゴホンと咳払いをするとリーファのほうを向いた。
「リーファちゃん、シグルドたちは先に<水仙館>で席取ってるから、分配はそこでやろうって」
サラマンダーに襲われる前に何かクエストでもしていたのだろう。それにしてもパーティーを組んでいるとは思わなかった。襲われていたときにはすでにリーファだけだったし先にやられているとは考えにくい。何かあったのだろうか。
「あ、そっか。う~ん……」
今まですっかり忘れていたようで思い出したように声を出すリーファ。そしてしばらく考える素振りを見せた後、口を開いた。
「あたし、今日の分配はいいわ。スキルに合ったアイテムもなかったしね。あんたに預けるから四人で分けて」
「へ……リーファちゃんは来ないの?」
明らかに表情が暗くなるレコン。
「うん、これから三人に一杯おごる約束してるんだ」
「……」
暗くなったと思ったら急に警戒心を滲ませる。忙しいやつだな。
「今日はごめんね、レコン君」
納得のいかない顔をするレコンにユウキが謝る。自己紹介のときはよく見ていなかったのかユウキが顔を近づけるとレコンは顔を赤くさせて急に黙り込んだ。
「……おい」
「ひぃ!?」
「ユウキに色目使ったら……殺すからな?」
「わ、わかりました!」
あまりにもドスのきいた声が出て自分でも驚いたが効果は覿面だった。緩んだ表情から一転して真っ青になるとレコンはすぐにその場から離れるように走り出した。
「まったく……」
悪い虫を始末した達成感と呆れ半分でため息をつく。
「もう、カエデやり過ぎだよ」
先ほどのやり取りを見て少しは呆れているのかユウキが諌めるように言う。そして続けて
「ボクはカエデのものだから……」
えへへ、と赤くなりながら俺のほうを向くユウキ。その表情を見て今すぐにでも抱きしめたいという衝動に駆られてしまうが頑張って抑えることにする。
「ち、ちょっと、カエデ!?」
「あっ……」
衝動には勝てなかったよ……と某二コマ堕ちのマンガのように速攻でユウキを抱きしめてしまった。あの表情をみて抑えることができるだろうか、いやできるはずがない。
「もう……でもありがと。嬉しかったよ」
小さく、掻き消えそうな声でつぶやくユウキ。それに答えるように俺もユウキの耳元で囁く。
「当たり前だろ。ユウキのことは守るからな」
「うんっ!」
まるで見せつけるように抱く力を強めるカエデとユウキをみて一体どれほどのプレイヤーが殺意と死線を向けただろうか。まあ、そんな視線など関係ないかもしれないが……
「キリト君あれはどうしたらいいの……?」
「……いつものことだから」
こめかみを抑えながら答えるキリトはそういえば……とリーファに尋ねる。
「今からいく店ってブラックコーヒーみたいなのあったりする?」
問いかけに、もう一度カエデとユウキを見て、リーファが一言。
「とびっきりのがね……」
スイルベーンで初めてコーヒーに需要が出た瞬間だった。
珈琲「第21話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?」
カエデ「テスト散々だったな……」
珈琲「その話はやめてよ……」
ユウキ「前日にまさかの肺炎だもんね」
珈琲「おかげで明日も休んだ分の再試だよ。ちくしょーめ…」
カエデ「勉強は?」
珈琲「してない!(ドヤァ」
カエデ・ユウキ「しろよ!」
カエデ「そういえば結構前に俺の絵を描いてほしいみたいなコメントがきてたよな」
珈琲「あーきてたね」
カエデ「いや、描かないのかよ」
珈琲「読者様とのずれがあったら困るからね。そのへんは読んでくださった方にお任せしてます」
ユウキ「なにかイメージとかはないの?」
珈琲「うーん……。容疑者は身長190センチ、筋肉もりもりマッチョマンの変態だ」
カエデ「どこのコマンドーだよ!」
珈琲「はまったんだよ!」
カエデ「知らねーよそんなこと!」
ユウキ「でもボクのイラストはまた描こうとしてるんだよね?」
珈琲「当たり前じゃん!クリスマス仕様だから楽しみにしてねっ」
カエデ・ユウキ「はいはい……」
珈琲「そういえばお二人さんクリスマスはどうするの?」
カエデ「ユウキと出かけるつもりだけど」
ユウキ「えへへ、すっごく楽しみなんだ!」
珈琲「あーはいはい分かった分かった」
ユウキ「まあ、強く生きてればいいことあるよ……きっと」
珈琲「ひ、独り身違うわ!……一人じゃないもん……」
カエデ「はいはい」
珈琲「ぐぬぬ」
ユウキ「次回はクリスマス投稿だよね?」
珈琲「うん、寂しかったらこっちに来てもいいのよ?」
カエデ・ユウキ「遠慮します」
珈琲「……」
アンケートはこの話ををもって締切とします!
たくさんの方にご協力いただいて感謝感謝です!
結果のほうはまた活動報告にて報告させていただきます
ご協力ありがとうございました!
前回、この小説を評価してくださった素敵な読者様
A4用紙 様 モッシュ 様
ルーカス 様 ブリザード 様
闇夜に浮かぶ半月 様 samaL 様
支援騎士 様 銀条2 様
kurosil 様 夜空 太陽 様
バルサ 様
本当にありがとうございました!励みになるので嬉しいです!
ご意見ご感想いつでもお待ちしております
それでは次回お会いしましょう!