史上最強の妹弟子 カズコ   作:史上最弱の弟子

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開眼

「みんな強そうね。誰にお願いしようかしら」

 

 並び立つ堂々とした面々。彼等の強さを肌で感じ、誰に挑もうか悩む一子。

 しかし彼女が決断をする前に、並んでいた武術家の中から一人が前に出て挑戦の意を示した。

 

「白浜隊長、僕が最初にお相手します」

 

 水沼祐二、兼一にあこがれて武術を始めた青年で、新白連合結成当初からのメンバーの一人。それまで武術を習ったこともなければ喧嘩慣れもしていない、どちらかと言えば虐められる側の人間であったにも関わらず、地道な修行を続けた結果、空手の世界大会で3位入賞を果たすまでに成長。彼もまた兼一や一子と同じく努力で強くなったタイプの武術家であると言えた。

 

「白浜隊長の妹弟子だ。年下の女の子だからって油断せずにいかせてもらうよ」

 

「お願いします!!」

 

 気合を入れた返事をする一子。拳を構える。試合開始の合図がなされ、それと同時に水沼が前に踏み込み、一瞬にして3発の蹴りを放った。

 

「うぉぉぉぉ!!! 水沼のトライデントだ!!」

 

 その姿を見て歓声をあげる新白連合の下っ端達。普通なら一発しか撃てないタイミングで3発、しかも一撃一撃がボクシングで言うストレートに相当する必殺の威力を持った蹴りを放つことから、三叉の槍に例えられた水沼の必殺技。この技を持って、彼は空手の世界大会を勝ち進んだのである。

 

「凄い蹴りだわ。受け止めた手がしびれてる」

 

 この世界に来たばかりの頃の一子であれば、それで決着がついていたかもしれない。世界大会の準決勝では事前に相手に研究をされたため防がれたが、ほぼ同時に放たれる3撃は初見殺しの威力を持っているのだ。

 しかし制空圏を習得した一子は放たれた3発の蹴りを順番に対処し、全てを防ぎきって見せた。

 

「一子ちゃんは兼一さんとは違ってクイックスターターのようですわね」

 

「ええ、そこはちょっと見習わないといけませんね」

 

 元の世界では追い詰められていから底力を発揮することの多い一子であったが、頭で考えすぎることを止め、本能に任せる戦い方を覚えたことによって、最初から力を発揮できるタイプの武術家へと変化しつつあった。そのおかげで水沼の技を破れたのである。

 

「今度はこっちから行くわ!!」

 

(低い!?)

 

 飛び込む一子。その体勢、地を這うような動きに驚く水沼。

 そしてその低い体勢から伸び上がり、飛び掛る。

 

「川神流、大輪花火!!」

 

 本来は薙刀を持って使う飛び上がりの勢いを利用する技。薙刀の代わりに拳を用いながら、その威力は嘗て武器を用いた時と同等以上。

 

「ぐっ!!」

 

 水沼はガードして受け止める。しかしその一撃は彼を身体ごと浮かび上がらせた。水沼は武術家としては軽量な方ではあったが大の大人である。細身で小柄な少女から繰り出されたとは思えない筋力であった。

 そして相手を浮かび上がらせた一子は一旦着地した後、再度飛び上がって追撃をしかける。

 

「川神流……」

 

 自由の利かない空中身体をのけぞらせることで飛び上がってきた一子から逃れるようとする水沼。それにより、彼女の身体は空を切る。しかし最初から彼女の狙いは飛び上がり当てることではなかった。

 

「川神流、蠍打ち!!」

 

 狙っていたのは落ちるタイミング。

 落下しながらその勢いを加え腹に正拳突きを叩き込む。その一撃を受けた瞬間、水沼はまるで犬に噛み付かれたかのように錯覚する。

 美羽が鳥の動きを取り入れたように、キサラが猫の動きを取り入れたように、犬の動きを取り入れた攻撃。

 

「くっ、駄目だ立てない。悔しいけどまいった」

 

 その後、互いに地面に着地するが水沼の方はダメージが大きく、降参の意を示した。一子の勝利が決まり周囲から歓声の声があがる。

 

「ひゅー、やるねー」

 

「ああ、流石は兼一君の妹弟子じゃな~い」

 

「やべえ、もしかして俺じゃ勝てないんじゃねえか」

 

 一連の流れを見て感心した様子のキサラと武田。焦った調子の宇喜田。

 そしてトールがやる気を見せる。

 

「がははっ、大した女子じゃわい。よーし、次はわしが相手をしてやろう」

 

「お願いします!!」

 

 連戦に応じ、今度は薙刀を持って相対する一子。

 そして再び試合が開始される。先程の試合とは違い、今度は一子の方が先手を切って仕掛けた。

 

「川神流、地の剣!!」

 

 全身の力を乗せた大降りの一撃。まともに直撃すればトールのような巨漢の相撲取りであっても昏倒させる威力のある大技。

 

「張り手ガードじゃわい!!!」

 

 しかしその薙刀をトールは張り手の手のひらで受け止めてみせていた。刃がついていないとはいえ、武器の一撃を素手で受け止められたことに一子は僅かにひるんでしまう。

 

「百烈張り手じゃ!!」

 

 その隙を見逃してはくれず、某有名格闘ゲームの技をそのまま現実に再現したような張り手の嵐が迫る。とっさに薙刀を盾にして防ぐが、まるで車に体当たりされたかのような衝撃を受け、その勢いに堪え切れず一子の身体は高さで見ても距離で見ても数メートル以上吹っ飛ばされる。

 

「ぐっ、……えっ!?」

 

 驚きの声をあげる一子。何故ならば何とか、空中で体勢を立て直し地面に着地したと思ったらその時には直ぐ目の前にトールが迫っていたからだ。一子が飛ばされた距離を自力で一瞬にして詰めた巨漢とは思えぬ俊敏性。何とか対処しようと薙刀を振り下ろす。

 

「甘いわ!!」

 

 しかし張り手の一撃で薙刀が弾き飛ばされ、彼女の手から武器が失われる。そこで迫るもう片方の手から放たれる張り手。武器を持ってすら防げなかった攻撃に対し、既に一子では防ぐ手段はなく、またもや身体ごとはじきとばされ、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「むっ、しまった。やりすぎてしまったわい」

 

 強く打ちすぎたと慌てて駆け寄ろうとするトール。しかし、そこで一子が身体を起こして見せた。

 

「だ、大丈夫。ま、まだ、戦えるわ」

 

「トールの一撃をまともに受けて立ち上がれるとは、頑丈さまでお前似だな、白浜」

 

 感心に少し呆れの混じった評価を下すフレイヤ。その評価は的を得ている。何せ、一子は兼一同様の肉体改造を受け、受身を徹底的に仕込まれているのだから。頑丈になるのは当然のことである。

 とはいえ、幾ら頑丈でもこのまま続けるのは危険と判断する。

 

「いえ、少し休憩としましょう。組み手はあくまで修練。無茶をしすぎては逆効果ですわ」

 

 美羽が制止をかけ、一子は大人しくそれに従う。

 そして彼女が休んでいる間に美羽がアドバイスをする。

 

「一子ちゃん、先程の戦いでもわかったと思いますが、制空圏は万能ではありませんわ。

実力差がある相手には通じないこともあります。けれど、もう一歩踏み込むことで、その限界は広がります。兼一さんがした一番最初の修行、その感覚を思い出してください」

 

「あの時の感覚、うん、わかったわ」

 

 頷く一子。そして30分ほどの休息を挟んだ後、一人の相手が彼女の前に立った。

 

「今度は私が相手をしよう。私は少しきつく行くが、覚悟いいか?」

 

「ええ、望むところよ!!」

 

 3人目の相手はフレイヤ。彼女は杖術を使うので今日始めてのお互いが武器を用いての戦いと言う事になる。

 

「!!」

 

 そして試合開始の合図がされた瞬間、一子は腹を突かれていた。

 

「ほう、内功で弾いたか」

 

「は、速い」

 

 所謂、何をされたかわからないと言ったことは無かった。攻撃は見えた。しかし、回避を取るにも防御をするにも反応が間に合わず、腹筋に力を入れるのが精一杯であった。

 

(相手が攻撃を仕掛けてから反応してたんじゃ間に合わない!!)

 

 フレイヤの身体速度は明らかに一子を上回っている。対抗するには先に動くしかない。

そう考え、一子は意識を集中する。

 

(美羽さんのアドバイス、あの時の修行を思い出して)

 

 感覚を研ぎ澄まし制空圏を築く。しかし、再び放たれたフレイヤの杖は制空圏を貫き胸を捕らえた。やはり、反応が間に合わなかった。更に腕、足、次々と攻撃を受け、彼女の身体に青痣が生まれていく。

 

「っつ!!」

 

「厳しいねえ、フレイヤ姉は」

 

「ふん、本気なら骨を折られてる。あの程度なら甘い位だ」

 

 苦悶の声をあげる一子。しかしその一方的で容赦の無いように思える攻撃も、フレイヤの側からしてみれば指導レベルのもの。彼女の実力は妙手の中でも達人寄りで同じ妙手のトールと比べてもワンランク上の実力者なのである。弟子級の一子が一人で適う相手では無いのだ。

 

「どうする、もうやめるか?」

 

「いえ、まだよ」

 

 しかし一子の目から戦意は失われていなかった。何故ならば追い詰められることで逆に見えかけていたからだ。二つの先が。掴みかけたその感覚は直ぐ目の前にまで迫っていた。

 

「そうか、ならば行くぞ」

 

 今度は頭部目掛けて棍が放たれる。無論、加減はされている。それでも食らえば昏倒間違い無しの一撃。

 

「!!」

 

「!!」

 

 その場に居たほとんどの者達が息を呑む。

 フレイヤの一撃は彼女の頭の直ぐ横を通りぬけていた。

 それはフレイヤが外したのでは無い。一子がかわしたのだ。

 そして、一子の視線はフレイヤを捕らえていた。

 否、正確にはフレイヤだけではなく、彼女の存在する空間全体を、目だけではなく、全ての感覚を使って。

 外した杖を一旦ひくフレイヤは一子の変化を感じ、動かずに様子を見る。

 

「美羽さん、一子ちゃんは……」

 

「ええ、どうやら掴んだようですわ。元々、今までの修行で下地はできていました。何時、目覚めてもおかしくはありませんが、今、このタイミングで使えるようになったのはここでの三連戦と顔面という急所への攻撃がきっかけになったのだと思います」

 

 兼一と美羽、二人の達人は一子の変化を正確に理解する。彼女はたった今、会得したのだ。制空圏のその先、静の極み流水制空圏、その対となる技を。

 

「野生の獣のように感覚を研ぎ澄まし、特に相手の殺気を読むことで、攻撃を高精度で先読みする技、兼一さんの指導を下敷きに私が叩きこんだお爺様の108の秘技の一つ、獣心制空圏。一子ちゃんは今、その技を使っています」

 

「でも、それだけじゃないですよね。一子ちゃんは……」

 

 この世界に来た時点で一子は弟子級としてはかなり上位に位置できる実力があった。

 姉やそのライバル達のような規格外の天才達には遠く及ばなかったかもしれない。

 クリスや京のような通常の天才達にも一歩及ばなかったかもしれない。

 それでも才能の無さを補おうと、人の何倍もの努力を何年も続け、その努力は彼女を裏切らなかった。

 銃を持った相手にも勝てる程の実力、それは彼女と同じ年の頃の新白連合の隊長達と比べても決して劣らないレベル。

 そんな彼女に梁山泊の達人達は彼女に様々なものを仕込み補った。

 秋雨は全身の筋肉を瞬発力と持久力を持った良質のピンク色の筋肉に改良しつつある。

 馬は彼女の内向を鍛え、臓器のレベルから強靭にした。

 しぐれは薙刀の扱い方、そして武器を扱う要訣を伝えた。

 逆鬼は実戦に置けるノウハウを教えた。

 アパチャイは何度も組み手の相手を務めた。

 兼一は制空圏の修行を通し、野生の本能に任せた戦い方と集中力のコントロールをできるようにした。

 そして美羽は動の気の解放と獣心制空圏を。

 

 元の世界での努力と指導、この世界での努力と指導、それらが合わさり彼女は一つ上の段階へと上る。

 

「一子ちゃんは、たった今踏みこんだんだ」

 

 まだ半歩踏み込んだだけ。しかしそれは大きな半歩。

 

「妙手の領域に!!」

 

 

 

 

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(おまけの小話)

兼一「それにしてもアパチャイさん、一子ちゃんを相手にする時は妙に手加減上手いですね」

アパチャイ「あぱ、一子見てると何故か犬さん思い出して勝手に力抜けるよ」

注釈:アパチャイは動物と子供を前にすると自動的に手加減状態になります。




今回の回、色々と不満の感想が多かったので最後の辺りを微修正してみました。

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