また、今回よりオリジナル技がちょこちょこ登場します。
追伸:一瞬とは言え日刊ランキング1位に(感動)
応援してくださった方々、ありがとうございます。
「それでは、始め!!」
「はああああ!!!!」
美羽が開始の合図をし、それと同時に兼一に向かって凄まじい速さで突っ込む弥一。
その発達した筋肉と加速があわさったことによって繰り出される拳の威力は岩を砕く程のものになっており、正面からまともに受けるのは危険である。
故に、兼一は受けるのでは流すことを選択する。
「むっ、中国拳法の化勁か!!」
腕をコロの原理で回転させることで、相手の打撃をまともに受けず、軌道を変えてしまう技。その技法を持って、相手の攻撃を防ぐ。
「ならば、これではどうだ!?」
両手足を使った攻撃。正拳、フック、肘打ち、手刀、前蹴り、ローキック、幾つ物の技を続けざまに繰り出すことによって、リズムを読み辛くした攻撃。しかもその速度、威力共に並ではない。しかしその厄介な連続攻撃は兼一はその全て紙一重でかわしてみせた。
「す、凄い!! 兼一さん、こんなに強かったんだ」
初めてみる兼一の戦いに驚愕する一子。そんな彼女に美羽はある事実を伝える。
「一子ちゃん、兼一さんは数年前まではあなた以上に才能が無いただの高校生でした。ですが、信念を貫く為にこれほど強くなりましたのですよ」
「!!」
目の前で驚異的な強さを見せる兼一が才能を持たないという事実に驚き、同時に先程の言葉の意味を理解する一子。もっと詳しいことを聞きたいと思うが、今はそれどころではなかった。彼女の目の前で戦いはどんどん激化していく。
最初、防御に専念していた兼一が攻撃に移り、今は互角の様相になっていた。
「こちらの動きを読んだかのようなその動き。なるほど、それが音に聞く、無敵超人の秘技、流水制空圏か」
流水制空圏とは自身の間合いを正確に把握し、その圏内に入ったものを尽く打ち落とす技である制空圏の更に先の境地であり、"静"の極みの技の1つである。体の表面に薄く流水の如く気を張り相手の気持ちを予測することで、最小限の動きで相手の攻撃を回避したり、受け流したりすることになる技である。
この技を用いることで、兼一は単純な力で勝る弥一に対抗して見せた。言わば柔よく剛を制する闘い方。しかしそれを破るため、弥一は別の手段を選択する。
「だが、如何に流れをよもうとも河川の氾濫が全てを飲み込むように圧倒的過ぎる力には対抗できまい!!」
叫んだその瞬間、その場に居た者達にはまるで弥一が爆発したかのように感じられた。その現象の正体は気当たり。それまで抑えていた動の気を開放したのである。それにより弥一の身体能力が爆発的に増加し、そこから生み出される今ままで以上の攻撃が兼一に迫る。
「はっ、速い!! ぐはっ」
化勁を使うが、威力を殺しきれず、兼一の胸に拳が突き刺さる。更に迫る攻撃、動きを読み直撃を避けるが、完全には無効化できず、兼一の身体がどんどん傷ついていく。
力で技を強引にねじ伏せるような戦い方。それはまさに剛よく柔を断つ。これもまた、武術の一側面。
「ぐっ」
身体能力で大きく引き剥がされ、一方的に撃たれ続ける兼一。何とか、直撃を避け続けるが、やがて限界が訪れる。
「がはっ」
「兼一さん!!」
腹に直撃を受け、道場の中央から端にまで吹き飛ぶ兼一の身体。更に勢いのまま壁に叩きつけられそこにクレーターを生み出し、そしてその足元に崩れ落ちた。
見ただけでわかる威力。最早、勝負は決まってしまった、それどころか命さえも危ないのではないかと思い、一子は兼一に駆け寄ろうとする。しかし、その手を美羽が掴んで引き止めた。
「美羽さん、このままじゃ兼一さんが!!」
美羽の行動に対し、一子は非難するように叫ぶ。しかし、彼女の視線は一子に向けられておらず、真っ直ぐに兼一に向かって居た。
そして確信を込めて言う。
「いいえ、兼一さんの目はまだ、光を失っていませんわ」
発せられた言葉に答えるかのように倒れていた兼一が立ち上がる。その全身はぼろぼろで各所に出血が見られた。
しかしそんな姿でありながら彼は構えを取ると、静かな口調で語り始めた。
「……僕は知っているここに来る前もここに来た後も一子ちゃんはずっと努力をし続けてきたことを。あんなに頑張っている彼女が……屑の筈が無い!!!!!」
「兼一さん……」
言葉は叫びに変わる。
全身傷だらけになりながら、自分のために戦い、そして叫んでくれる姿に一子は目頭を熱くする。
けれども、その言葉は弥一の方には届かない。
「ふん、努力など実にならなければ何の価値もない!! 言ったであろう妹弟子の価値を示したければその強さで示せとな」
言葉と共に放たれる最大限に力を込めた一撃。しかも腕を回転させたボクシングで言うところのコークスクリューパンチ。最早、岩を砕くどころか、鋼鉄製のドアすら変形させかねない程の威力を秘めたその拳が兼一に迫る。
しかし、それに対し兼一は一見して無謀なことに相手の拳に向かって自分の拳を撃ち込んだのである。
「なっ、ばかな!?」
ところが、一方的に兼一の方が撃ち負けるかと思いきや、両方の腕が弾かれたのだ。それを端から見ていた美羽が呟く。
「独楽の原理ですわね。今の兼一さん、白羽流しを用いていましたわ。両方の腕が回転していたことで、独楽と独楽がぶつかり合う時のようにお互いの腕を弾いたんですわ」
「なるほど、小細工を。だが、一撃を凌いだところでどうにもなるまい」
自分の力だけでは防げない攻撃を相手の力を利用することで防いで見せた兼一。しかし、相手の言う通りその行動はその場凌ぎにしかならない。このままではやられるのは時間の問題だった。
「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」
しかし追い詰められた状況にも関わらず、兼一は驚く程落ち着き払っていた。いや、落ち着き払っているように見えたと言うのが正しいかもしれない。内は熱く燃え、表面は穏やかに。基本は静のものであるが、その本質は静と動の両方を抱える兼一にとって、それは理想の状態。
空手の息吹で心と身体の乱れをただし、そして一気に爆発させる。
「!!」
「!!」
「な、なんだ、この闘気は!!」
兼一から発生する凄まじい気当たりに美羽以外のその場に居た者達が驚愕の表情を浮かべる。
先程の弥一ように動の気だけを開放するのではなく、外に開放する動の気と内に凝縮する静の気、その両方を開放したのである。そうすることにより、身体能力の上昇と精密な動きを両立を可能となるのだ。
しかし、弥一は一瞬動揺した後、直ぐに兼一が何を下のかに気づくと、その表情を嘲るようようなものへと変えた。
「ふん、まさか、こんな愚かな手を使うとはな」
「えっ、兼一さん、何だか凄いけど、何かまずいことしてるの!?」
動の気と静の気の同時開放など知らず、本能で漠然と凄いとだけ感じていた一子は弥一の言葉を聞いて美羽に説明を求める。美羽はそれに応え、静と動の気を同時に開放することの意味を教えた。
「そうですわね。動の戦い方とは例えるなら、車の運転で多少コーナーをはみ出すことを気にせず速度を出して走るようなもの。それに対し、静は速度を落とし、正確にコーナーを回るような走り方ですわ。つまり、動と静を同時に開放すると言うのは全速でコーナーに突っ込み、正確に曲がりきると言うことになります。ですがそれは不可能に近く、無理に実現しようとすれば、フェンスに車体をぶつけ無理やり曲がるような歪んだものになりますわ」
「そ、そんな!! 大変じゃない!!」
説明を聞いてあわてる一子。簡単な説明を聞いただけでも、兼一は相当な無茶をしているように思える。しかし、美羽は余裕の表情を浮かべて居た。彼女の目には自信と信頼が浮かんでいる。
「大丈夫です。確かに、普通であれば極めて危険な手段ですけれど、兼一さんなら出来ます。いえ、兼一さんならば出来ると言ってもいいですわ」
兼一が攻撃を仕掛ける。それに対し、粘っていればやがて相手が自滅するだろうと防御を固めやり過ごそうとする弥一。しかし、直ぐにその表情は変化する。
兼一の予想を超えた力と速さ、正確さを体験して。
「馬鹿な!? な、なんだ、この動きは!?」
美羽が説明したように、静と動の気を同時に使うことは車体をフェンスにぶつけて曲げるような無理やりなやり方である。一見、パワーと精密さを両立しているようで、実際にはロスが生じる。その結果、リスクとリターンが釣り合わない状態となるのだが、兼一の動きは無駄が無く、力を100%生かしきったもののように見えた。
その強く正確な動きを持って、兼一は少しずつ弥一を圧倒していく。
「最大のパワーと最高の精密さを両立すること。それは達人であってもできない、いえ、寧ろ達人だからこそ難しいと言えます。何故なら、達人とは有り余る力を持つ才能有る者がほとんどですから。けれど、才能の無い兼一さんには有り余る力など最初からありませんでしたの」
「最強コンボ1号!!」
空手の「山突き」、ムエタイの「カウ・ロイ」、中国拳法の「烏牛擺頭」の順で叩き込み、最後に朽木倒しでしとめようとするが、弥一も達人の意地を見せる。掴まれそうな足を素早く引き抜き、そのままその足で朽木倒しをしかけようと上半身を前方に倒した状態になっていた兼一の後頭部目掛けて踵落としを打ち込もうとする。
「はっ!!」
そこで兼一は両手を伸ばし、腕立て伏せの要領で身体を一気に伸ばしその一撃を回避。
「才能を持たず努力だけで強さを積み上げた結果、兼一さんは持っている力とそれを制御する力が全くの五分になり、それ故に他の達人には真似を出来ない己の潜在能力を100%開放する戦い方ができるようになりました。文字通り、兼一さんの努力の結晶、その集大成とも言える技の一つですわ。まあ、まだ、自分で発動を完全に制御できないのが欠点なのですけれど……」
誇らしそうに語りながら、最後の一言だけは少し情け無さそうな表情で言う。
そして兼一と弥一の戦いは今、まさに佳境を迎えようとしていた。
「爆流百蓮華!!」
最後の切り札とばかりに弥一が奥義を放つ。相手を包み込むような軌道の連続手刀を百発放ち、その軌道を合わせることでまるで蓮の花のような形をとなる技である。
しかし、相手の逃げ場を全て塞ぐ効果を持つ筈のその技を兼一は流れるような動きで全て回避してみせた。
「あなたの流れは完全に読めました。今度は僕の流れに乗ってもらいます」
「ぐっ」
兼一が流水静空圏の第3段階に辿りつく。それは流水制空圏の真髄であり、相手の動きを完全に把握し、寧ろ巧みに誘導し操ることさえ出来る境地。
自分の必殺の奥義が破られてしまい、更に己の動きがコントロールされるかのような感覚を味わい、弥一は完全に余裕をなくしていた。それにより逃げの気持ちが生まれ、必死に防御を固めるという行動を取らせる。
そして兼一はその防御を固めた位置に狙いを定めた。防御しているが故に意識下より外れ、精神的に無防備な孤立した箇所”孤塁”を見抜き、そこに向かって全力の蹴りを放つ。
「たああああああ!!!!!」
防御している腕に膝をぶつけ、ガードを弾き飛ばす。そこから足を伸ばしはなった必殺の一撃が急所に叩き込まれる。
そして弥一は意識を手放す前の一瞬に兼一の目を見て、彼の強さの秘密を悟るのだった。
**********
「申し訳なかった。先程の発言、撤回させていただく」
「い、いえ、わかってもらえればいいんですから、頭をあげてください」
試合が終わった後、弥一は兼一と一子の前に座り深々と頭を下げて見せた。その余りに見事な土下座に先程まで怒っていた筈の兼一達の方が慌ててしまう。そのまま、10秒以上頭を下げ続け、ようやく顔をあげた弥一は二人に対し、自分の気持ちを吐露した。
「史上最強の弟子の力、見せてもらった。貴殿は紛れも無い達人だ。それと川神一子だったな。改めて謝罪をする。そして、一つ助言をさせてもらいたい。強く成りたいと願うのならば兼一殿と彼の師を信じてついて行くといい。諦めることがなければ彼と同じように君も何時か彼と同じように達人へと辿りつけるかもしれん」
流水制空圏は相手の目を見ることにより、その心を読む技であるが、実力者同士の戦いの場合、それは同時に相手に対して己の心を伝えることにもなる場合がある。実際、兼一が初めてこの技を使い、第3段階まで発動させた時には敵であり兼一を見下していた筈の相手との間に心の繋がりと呼べるものを芽生えさせていた。
そして、今回も同じように弥一は兼一の心の強さを感じ取り、同時に静の気と動の気を両立した、”真・静動合一”の正体を悟っていた。それ故に兼一に対し敬意を払い、同時に才能が無いからと言って一子を出来損ない扱いした己の安易さを恥じたのである。
「アタシが達人に……。はい、頑張ります!!」
弥一の言葉に夢への道が見えたような気がして、希望に満ちた表情で勢いよく答える。それをみて微笑む兼一。
ただ、これで終われば綺麗だったのだが、まだ、片付けなければいけない問題が残っていた。
「ところで、道場がかなり壊れてしまったので、修理費等お願いしたいのですが。それに、うちでは道場破りの方には挑戦料もいただいてますし」
「う、うむ」
「み、美羽さん……」
最近、がめつさの増した美羽が弥一に対し、費用を請求する。最もその背景には兼一との結婚資金を貯め始めたという可愛い理由があるのだが。
「なんだかやる気が湧いてきたわ!! 素振りの続き、再開しなくっちゃ!!」
一方、そんなやり取りを気にせずやる気を見せる一子。
兼一の戦いを見て、彼女はまた一歩、成長の兆しを見せるのであった。
ストックが残り2話しか無い。ちなみ全13話の予定です
追伸:真・静動合一のは静動轟一とは似て否なる技という設定で、合の字は誤字ではありません。詳細は下記にて。
技名:真・静動合一
技の解説:
静動轟一と効果は似ているが実は直接的な関係は無く、静動轟一を使用した龍斗を止めようとした時に謎のパワーアップをした状態を技として昇華したもの。龍斗との戦いの時には無意識に動の気を少し解放しただけだったが、スロースターター対策の模索と作中本文に述べたような理由からほぼ100%の解放が可能となった。
名前が静動轟一と似てるのはこの技を使用するところを見たオガちゃん(緒方一神斎(拳聖))が「これは凄い。名づけるなら真・静動合一と言ったところか」と言ったのが定着したから。
(技の元となった考察)
・兼一は切れると明確に強くなる
・龍斗との戦いの時には明らかに身体能力も増している
・オガちゃんが兼一は動と静の両方の素養を持っていると言っている
これらの要素に対し、主人候補生以外で理由づけようとするのならば、兼一は静の戦い方を基本としながら、動の気を一部解放していると考えるのが一番自然ではないかと思い、この技を思いつきました。また、これができるからと言って、兼一に特別に才能があるとかそういうことではなく、動の者にしても、暴走状態で無い限り冷静さ完全に失っている訳ではないですし、静の者である剣星とかもきれるとちょっと強くなっていたりするので多少の併用は普通と言う解釈です。