史上最強の妹弟子 カズコ   作:史上最弱の弟子

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新章始めることにしました。
とっ言っても最大で7話、早ければ2話で終わるので実質番外編と変わりませんが。
内容的に番外って感じでないのでアフターと言う名前にしただけです。

PS.作品と関係ないですが、るろ剣の映画が面白かった。
次はるろ剣のクロスとか書いてみたいけど剣心は愚か師匠でも真剣恋世界やケンイチ世界は流石に辛いよなあ……。


アフター:一子の新たなる挑戦(前編)

 川神一子、彼女の肩書きは色々とある。

 川神学院3年、川神院師範代候補、武神の妹、そして史上最強の妹弟子。

 偶然の事故から異世界に迷い込んでしまった彼女はそこで異世界の最強の道場、梁山泊で修業をつけてもらい、武術家として大きな成長を果たした。

 そして元の世界に戻った彼女は姉、川神百代との試合で一本を取ることに成功し、川神院の師範代候補として認められたのである。

 それから更に1年が経過。順調に実力を伸ばした彼女は、今日新たな挑戦をしようとしていた。

 

「今日はよろしく。お手柔らかにね一子ちゃん」

 

 彼女の目の前に立つのは、姉の親友にしてライバル、武道四天王の一人、若くして壁を越えたと言われる武術家だ。

 

「はい、燕さん!!」

 

 その名は松永燕。今日、一子が戦う相手である。

 

 

 

 

**********

 

 

 

「ワン子、今日はお前が居ない間にできた新しい友人を紹介するぞ」

 

 彼女が川神市に居なかった一年、当然のことながらその間にあった出来事を彼女は知らない。そしてその間にファミリーに出来た新たな知り合いも知らない。そのため、彼女等は皆、機会があるたびに一子にその知り合い達を紹介をしていた。今回も同じように百代が新しくできた友人を紹介したのである。

 

「松永燕だよ。よろしくね、一子ちゃん。お姉さんとは同じ大学で仲良くやらせてもらってるよ♪」

 

「うん。お姉様と仲良くしてくれてありがとう。それにしてもお姉様が大学に進学したと聞いた時には驚いたわ。学園を卒業したら川神院を継ぐか海外へ行くと思ったのに」

 

「まっ、短大コースだけどな」

 

 百代は卒業したら強者を探して世界を旅したいと前々から行っていた。それに彼女は勉強が嫌いだ。そんな彼女が進学と言う道を選んだことは一子にとって予想外な出来事だった。

 そんな一子の言葉を聞いた燕は何やらいやらしい笑みを浮かべると、笑いを堪えるように口に掌を当ててある秘密を暴露する。

 

「それなんだけどね。モモちゃん、一子ちゃんのために進学を選んだよ」

 

「えっ?」

 

「つ、燕、それはワン子には言うなって言ったじゃないか!!」

 

 カミングアウトに慌てる百代。燕の口を塞ごうとする。しかし、彼女がそうするように早く、全て暴露されてしまう。

 

「学生の方が自由な立場だからね。ワン子ちゃんを探すには都合が良かったんだよ。それに、旅に出てしまったらワン子ちゃんがもし戻ってきた時には迎えてあげられないからって。だから、川神に残ったんだってモモちゃん言ってたんだよ」

 

「お、お姉様」

 

 その話を聞いて一子は自分のためにそこまでしてくれたと言う喜びと姉の人生拘束してしまったのでは無いかと言う想い、嬉しさと申し訳なさの両方の気持ちに目を潤ませる。

 

「あー、まあな。けど、気にすることはないぞ。燕って言う友人もできたし、なんだかんだでキャンパスライフを結構楽しんでるしな」

 

 秘密を暴露された恥ずかしさと一子の罪悪感の両方を吹き飛ばすように罰の悪さを隠して、軽い口調で言う百代。最もその言葉自体に偽りはなく、紛れもない彼女の本音である。少なくとも彼女は自身の選択を後悔はしていない。

 

「私達仲良しだもんね」

 

「そうだな」

 

 秘密を暴露したことなど全く気にせず言う燕に苦笑しながら頷く百代。そこで思い出したように付け足す。

 

「あっ、それとな。言って無かったが燕はかなり強い。私ともまともに戦える位だ」

 

「お姉様と!! それは、是非、お手合わせ願いたいわ!!」

 

 強者と聞いて目を輝かせ、身体を乗り出す一子。それを微笑ましい表情で見る二人。

 

「そういえばモモちゃんから聞いたけど一子ちゃん、モモちゃんから一本取ったんだっけ。だったら私も油断したら危ないかな?」

 

 言葉ではそう言いつつ負けるとは思っていなそうな余裕の表情で言う燕。

 

「おいおい、あまり人の妹をからかってくれるな。妹をからかうのは姉の私の特権だからな」

 

「ははは、ごめんね」

 

「うー、でも確かに今のアタシじゃ勝負にならないかも。けど、何時かアタシがもっと強くなったら勝負して!!」

 

 まるで相手にされていない態度に軽く腹を立てる一子。とはいえ、彼女も理解している。自分が百代から一本取れたのは彼女が本気ではなかったからであり、本気を出されていたらまだまだ相手にならないことを。

 そして燕はその百代と渡り合える相手。当然、一子にとっては圧倒的な格上になり、勝負にならない。

 

「うん、いいよ。強くなったら相手をしてあげる」

 

 一子の願いに軽い調子で答える燕。これが10ヶ月前にあった出来事であった。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 今日行われる燕との勝負。これは単なる試合では無い。あるものが賭かった戦いだ。この勝負の内容次第で一子はある称号を得ることができるのだ。

 

「この試合、燕さんに勝つことができればアタシもお姉様と同じ武道四天王に成れるのね」

 

「まあ、私は既に武道四天王じゃないけどな。それと別に勝つ必要はないぞ」

 

 彼女が言った言葉通り、百代は既に武道四天王では無い。勿論、実力的に不足になった等と言う訳ではなく、寧ろその逆、強すぎて若手の枠に収めて置くべきでは無いと判断されたのである。

 その結果、彼女の抜けた穴を埋める新たな武道四天王が選出されることとなった。その候補の一人として一子が選ばれたのである。

 

「まあ、勝てば確定だろうが、平蜘蛛抜きとは言え、正直厳しいだろうな」

 

 百代が抜けた今、燕は現役の武道四天王最強と言っていい。公式戦無敗で壁越えの実力者だ。一子の方も成長したとは言え、両者の実力を公平に見比べた場合、彼女の勝機はほぼゼロと言えた。

 

「うん、わかってるわ。それでも全力をぶつけたいの。例え武道四天王になれなくても。アタシの目標はあくまで川神院の師範代だもの!!」

 

 姉と同じ武道四天王の称号を得られればそれは勿論嬉しいが、彼女にとってそれは一番大事な事ではない。最初から善戦を狙った方が、いい評価は得られやすいかもしれないが、今後の成長を見据えるながら駆け引きは不要。胸を借りるつもりで自分の全力をと、彼女は考えていた。

 

「そうか。そこまで考えているのならばもう私から言うことは何も無いな。頑張れ、ワン子。応援してるぞ!!」

 

「うん!!」

 

 一子の決意を聞いて百代も納得をし、声援を送る。その言葉に勢いよく答え、模造の薙刀を掴むと燕の前に向き合った。

 

「一子ちゃん武器は薙刀だったよね。だったら私も同じ物を使うよ」

 

 試験と言う事もあり、あえて一子に合わせ薙刀を選ぶ燕。空に掲げて回転させて穂先の方向を調整し、構える。

 

「それじゃあ、準備はいいかな?」

 

「はい!!」

 

 燕の問いかけに迷い無く答えを返す一子。それを見て審判役の鉄心も頷く。

 

「うむ、それでは……西方、松永燕!!」

 

「いつでもいいよ」

 

「東方、川神一子!!」

 

「はい!!」

 

「はじめええええええええ!!」

 

 試合開始、先手を取ったのは燕。一歩踏み込むと一子の頭部めがけて薙刀を振りおろす。

 

「はっ!!」

 

 その一撃を正面から受けず、逸らす一子。軌道を外れた薙刀は彼女の脇を通り過ぎ、無防備になった燕の胴体目掛けて横凪ぎの一撃を打ち込んだ。

 

「うわっと」

 

 それを飛び上がってかわす燕。3メートルの高さにまで上がった燕の下を通り過ぎる薙刀。そこで、一子は一歩後ろに下がることで、身体を薙刀を同時に引き溜めの構えを作って見せる。

 

「川神流大輪花火!!」

 

 溜めを解放し、飛び上がりながら放つ切り上げの一撃。それに対し、燕はその薙刀を踏んで更に高く跳び上がって見せた。一子の武器が模造刀であることを上手く利用した回避。跳び上がった燕はそれを攻撃に繋げず少し離れた位置に着地する。

 それに対し走って接近、飛び込んで追撃を仕掛ける一子。

 

「はっ」

 

「くうっ!!」

 

 振り下ろしの一撃を薙刀を横にして受け止める燕。しかし、攻撃はそれで終わらない。受け止められた薙刀を一旦引き、そのまま大きく一回転させると上方向からの攻撃を下方向から切り替えた振り上げの一撃が放たれる。

 

「よっと」

 

 しかし、その一撃は空を切る。

 身体を逸らして回避した燕はその不安定な体勢からそのまましゃがみこんで見せると回し蹴りで一子の足を払った。

 

「うっ」

 

 足を払われバランスを崩す一子。しかし薙刀を杖代わりにして、地面に突く事で体勢を立て直す。

 そして直ぐ様に袈裟切りを撃ち込み、燕の薙刀を弾く。

 

「!」

 

 受けた一撃の衝撃で両手で握って居た薙刀から片方の手が離れる。それをチャンスと見て一子は更に撃ち込む。

 

「くっ」

 

 その攻撃を燕は薙刀から離れた方の右手で受け止める。そのまま力を込めて腕を伸ばし、薙刀と一子の身体を纏めて弾き飛ばして見せた。5メートル位、吹っ飛ばされた彼女はそこで地面に着地。

 

「いやあ、今のは惜しかったよ。お姉さん驚いちゃった」

 

 挑発とも取れる軽口を飛ばす燕。しかし、その言葉とは裏腹に内心はあまり穏やかではなかった。

 

(あちゃあ、本職相手とは言え、ここまでやられちゃうとは武器の松永の名が丸潰れだね)

 

 これまでの戦い、形勢だけみれば互角、あるいは燕の方がやや有利と言ったところであったが、薙刀の扱いだけを見れば完全に彼女の負けだった。武器の松永と言われる家に生まれ、あらゆる武器を扱えるよう鍛えた彼女は大概の武器を扱われる変わりに、その技量はどれもそれなり程度でしかなく、梁山泊での修行前の一子と比べても僅かに劣る程度。弟子クラスレベルの技量しか持って居ない。

 その欠点は自分でも自覚していることで、代わりあらゆる場合で応用の利く体術と身体能力を達人レベルにまで鍛えているのだが、予想以上の技量差を見せられたことに少しばかりプライドを傷つけられたように感じていた。

 

(ちょっと真剣(マジ)になっちゃおうかな)

 

 親友の妹相手であること、試験であること等から、胸を貸す軽い気持ちであったのを切り替え、彼女は薙刀を投げ捨てた。

 変わりに予備に持っていた篭手を右手だけに身に着ける。兼一などの使うタイプとは違い、装甲が薄く、変わりに拳の前面にも金属のついた武器としても効果のある装備だ。

 

「それじゃあ、第2ラウンド行こうか」

 

 その言葉と共に燕が一気に猛攻をしかける。連続して放たれる拳。その圧力に対し、一子は防戦一方になる。

 

(くっ、反撃の隙が無いわ)

 

 それでも何とか攻撃を凌ぐ一子だったが、徐々に体勢が崩れ、ついに防ぎきれない一撃が炸裂する。

 

「うあっ」

 

 腹部に叩き込まれる左手の一撃。呻きガードが落ちる。そこで顔面に叩き込まれる左フック。地面に倒れるが、根性を振り絞り直ぐに立ち上がって見せる。

 それに対し、燕は直ぐには攻めて来ない。しかし、攻めて来られたのな同じようにやられる。実力差は冷静に見つめ、一子はそう判断した。

 

(やっぱり強い。まともに勝負したんじゃ勝ち目がないわ。こうなったら……)

 

 頼るべき手段は最早これしか無い。そうとでも言うように一子は自身の最強技、顎の構えを取った。


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