後は、読んでくださる方が楽しんでくれるといいのですが。
「しかしまさかモモ先輩が負けるとはな」
百代の敗北に純粋に驚いた様子の翔一。
「モモ先輩が負けたのは連戦だったからだよ。あの男だって認めてただろ」
憮然とし、砕牙の言葉を若干都合よく解釈するモロ。
「そうだな。それを試合前に指摘できなかった……。軍師として失態だ」
百代の敗北を半分認め、半分拒絶。自分のミスに落ち込む大和。
「落ち込む大和も素敵、 結婚して!!」
なんだかんだで平常運転な京。
「ところで、次の試合だか、一体どちらが勝つんだろうな」
微妙にKY……もといマイペースに次の戦いを気にするクリス。
「わかりません。ですが、凄まじい戦いになるのは間違いないでしょう。武人として見逃せません」
長老とヒュームの実力を感じ取り、何時になく緊張した面持ちの由紀江。
「じじいなんかよりも俺様はあっちのお姉様二人の方が気になるんだが。いや~、美しい」
美羽としぐれを見て、これ以上無いと言う位にだらしなく表情を崩す岳人。
「ヒューム、頑張るのだぞ!!」
応援する紋白。
「ずるいな~、ヒュームさん。私も戦いたかったなあ」
一番の強敵を取られ、拗ねる百代。
彼等が観戦する中、試合開始の合図が告げられる。
そしてその瞬間、二人の姿が大地の上から消えた。
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その場に居たものの半数、達人の域に達した者達が空を見上げ、他の者達もそれにつられて空を見る。その視線のその先、上空200メートルの高さに長老とヒュームの姿はあった。
試合開始と共に二人はその高さにまで飛び上がり、そしてそのまま空中で激突していたのである。
「はああああああ!!!!」
「ったああああああ!!!」
両者の間で無数の蹴りや拳がぶつかり合う。その数は数十、数百、あるいはそれ以上かもしれない。
二人から発せられられる凄まじい気当たりは地上に居ても気圧される程で、それに0.59秒遅れて両者がぶつかり合う轟音が響いてくる。
その迫力は劇場で見る映画どころでは無い、まるで神話の戦いを観戦しているかのようだった。
「とりゃああああああ!!」
長老の剛拳、それをヒュームがしゃがみこんでかわし、その体勢から放たれた反撃のサマーソルトキックを胸を逸らして長老がかわす。
空中で繰り広げられる激しい攻防。
「すげえあの爺さん達、落ちながら戦ってる…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………って、落ちて来ねえじゃねえか!?」
思わず叫ぶ岳人。その言葉通り、長老達は何時までも上空に留まったままだった。その不可解な現象の答えは単純明快。二人は空中を落ちながらではなく、”跳びながら”戦っているのだ。
「がはははは、武人の血が滾るわい!!」
「ふっ、俺もだ。昔を思い出す」
大気しか存在しない空中で、二人は跳び回りながら攻撃しあっていた。その様は正に達人の領域を極めた超人同士の戦いとしか言い様が無い。
「あれが、本気のヒュームさんか。これ程までとはな」
百代から漏れる驚嘆の声。
彼女は嘗てヒュームと戦ったことがあるが、その時は半ば指導を受けたようなものだった。故に彼女にとっても初めて見るヒュームの全力。その凄まじさに目を見開き、喰らい付くように戦いを観戦した。
「ジェノサイド・チェーンソー!!」
「ぐぅっ!!」
ヒュームの至高の蹴りが長老の側頭部に叩き込まれる。一撃で相手の体力の10割をもっていくと言われる文字通りの必殺技。しかし苦悶の表情を浮かべ身体をのけぞらせながらも、長老はそれに耐えて見せた。攻撃を受けた瞬間に気血を固めることで防御力を高めたのである。
そして体勢を立て直し、反撃を仕掛ける。
「無影無限突き!!」
「ぐっ」
至高の一撃に応えるは究極の連撃。速過ぎてハイスピードカメラでも捕らえきれない無数の突きがヒュームに叩き込まれる。その威力と数に崩れかけそうになる身体を何とか堪えるヒューム。
「とりゃあああああ!!!」
そこで畳み掛けられるように放たれたのは踵落とし。しかしそれは当たらない。跳びひいてかわすヒューム。
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注釈:二人は自由の効かない筈の上空で戦っています
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「喰らえ!!」
「風林寺 押し一手!!」
ヒュームがエネルギー波を放ち、長老がそれを押し曲げる。しかし、エネルギー波は囮。本命は自ら飛び込んでの上段飛び蹴り。
「むん」
それを腕で受け止める長老。しかしヒュームはその受け止められた腕を軸に、足をひっかけて鉄棒を回るように身体毎回転。長老の背中を狙う。
「させるかああ!!!」
引っ掛けられたヒュームの足を外し、素早く身体を反転させて迎撃の態勢を取る。ヒュームの放った電撃を左の掌で受け流し、更に右手の手刀を相手の胸に打ち込んだ。
「ぐっ」
胸に衝撃で吹き飛ばされるが、簡単には敗れない。身体を一回転させ勢いを殺し再び向かいあってみせる。
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注釈:繰り返しますが二人は自由の効かない筈の上空で戦っています
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二人の超人同士の戦いは何時までも続くかと思われた。しかし、そこで変化が訪れる。
「あれ、何か、下がってきてねえか?」
その変化に翔一が気づく。跳び続け高度を維持してきた二人だったが、ここに来て少しずつ下がり始めたのだ。如何に彼等とて人間である以上、永遠に空に居続けることはやはり不可能と言うことなのだろう。
そして落ちながらも戦いを続けた二人は同時に地面に着地し、同じタイミングで相手に向かって飛び込んだ。
「風林寺 任力剛拳波!!」
「ヒューム エクスキュージョン!!」
長老の拳とヒュームの抜き手、互いが全力を込めた必殺の一撃がぶつかり合う。
「うわっ!!」
悲鳴が上がる。
極大同士の力のぶつかりは、その反動が互いの身体を通し伝わたことで、両者の足元に直径数メートルのクレーターを生み出してみせたのだ。
当然、土煙が舞い、こまかい石等が飛び散る。梁山泊や百代、由紀江等達人達がそれらから戦えない者達を庇い、そして視界が晴れた後、そこに見えるのは向かい合う二人の姿。
皆、息を飲んで見守る。
そこで長老が口を開いた。
「……ここまでじゃな。これ以上は周りに迷惑じゃわい」
飛び出した言葉は試合終了を告げるものだった。
「この俺が気を使われるとはな。俺は限界だったが、貴様はもう少しの間、跳びつづけられただろう?」
その長老の言葉に不満気な表情で問いかけるヒューム。
彼には弱点がある。それは年齢的に全力で戦える時間が短いこと。それに対し、同じ老人であっても、長老は水面を数百キロ走ったり、食物を摂取しながら数日間戦い続けることもできる程のスタミナがある。
故に、このまま戦い続ければどちらが有利かは火を見るよりも明らかであった。
「ふん」
答えを返さない長老に背中を向けて紋白の下に戻るヒューム。これにて本日の3戦目終了。形の腕は1勝1敗1分けとなった。しかし戦いはまだ終わりではなかった。
「さて、それじゃあ、今度はおいちゃんが相手をしようかね」
あらゆる中国拳法の達人、馬剣星、出陣。
本当は長老戦で終わりのつもりでした。
しかし砕牙さんの試合、内容的に気(特殊能力)に対し、気(特殊能力)に対抗する形になりましたが、ケンイチファンが期待しているのは気に対して経験や(比較的現実的な)技術で対抗と言った展開だったのではないかとふと思い(勝手な推測ですが)、馬師父に出陣していただくことにしました。
とはいえ、作者の武術に対する知識なんて漫画とwikiだよりのもんですんで、あまり期待はしないでください(*_ _)