史上最強の妹弟子 カズコ   作:史上最弱の弟子

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ネタ的に強さ論議で荒れるんじゃないかとは予想していましたが、予想以上で焦っています(汗)
感想欄のGOODとBADの数が凄いよ……。
割合で見るとケンイチびいきが多いみたいですね、投稿するのがちょっと怖いですが中編です。


番外:風間ファミリー、梁山泊へ(中編)

「それでは、あくまで親善のための組み手であることを忘れずにの」

 

「はい!!」

 

「アパ!!」

 

 長老の試合の申し出、それに対し思わず喜色の笑みを浮かべてしまった百代だったが、直ぐに正気になり断ろうとした。

 しかし、その後、もう一押し進められたことであっさりと折れた。

 元々戦いたくてしょうがなかったのだ。相手から強く勧められればそれを強く拒絶できる筈も無かったのである。

 そしてできれば打撃系が好みと希望を挙げた結果、組み手の最初の対戦相手に選ばれたのはアパチャイとなったのであった。

 

「それでは始め!!」

 

「いきなり無双正拳突き!!」

 

 試合開始の合図と同時に百代が攻撃をしかける。それは普段の挑戦者相手に出さない掛け値無しの全力の一撃。相手の、アパチャイの実力を間違いなく壁越えに匹敵するレベルと確信したからこその本気の拳であった。

 そのある種の信頼とも言える攻撃に対し、アパチャイは足を大きく上げ、脛でがっちりと受け止めてみせた。

 

「流石ですね!!」

 

 自分の期待に見事に答えて見せてくれたアパチャイの強さに興奮する百代。ここからはもうノンストップだとばかりにさらに追撃をしかける。

 

「川神流、致死蛍!!」

 

「アパ!?」

 

 手から放たれるエネルギー波。アパチャイからすれば正に常識外れの異世界の技。しかし直感か実戦経験か。初見のその技を飛び上がって見事に回避してみせる。いや、回避しただけでは無く、反撃までも仕掛けたのだ。

 

「ティー・カゥ・トロン!!」

 

 エネルギー波の真上を沿うような軌道に飛び上がっての膝蹴り。顔面目掛けて放たれたその一撃を百代は両手を組んで受け止める。手に伝わってくる圧力。

 

「ぐっ。はは、凄い。手が痺れるな」

 

 久々に感じる手ごたえに百代の興奮は最高潮に達した。

 一方、攻撃を止められたアパチャイは地面に着地し、それを見た百代も1歩距離を取る。

 そして、間をおかず両者同時に踏み込んだ。

 

「川神流無双正拳突き!!」

 

「アパパパパパ!!!!」

 

 マシンガンの速度とバズーカーの威力で放たれる互いの連撃がぶつかりあう。その衝撃に周囲はまるで地震か台風が来ているかのようだった。

 両者のパワーとスピードはほぼ互角。しかし、そこで経験からくる巧みさの差が現れた。

 

「なっ!?」

 

 前のめりになる百代。

 何十度目からの激突の際、アパチャイは拳を正面からぶつけ合わず、僅かに軌道をずらすことで百代の力を前方向に受け流してみせたのだ。言葉にすれば簡単だが、高速で攻撃しあうなかで、正確なポイントとタイミングを掴まなければ実行できない妙技を見せたのだ。

 

「テッ!!」

 

 受け流した力を丸々利用しての回し蹴りが百代の脇腹に叩き込まれる。自分の力と相手の力を合わせた一撃をまともに喰らい苦悶の表情を浮かべる百代。

 これ程の攻撃を受ければ喰らった相手は少なくとも直ぐには動けない。そう判断し、勝負を決めようとする。アパチャイのこの行動は慢心や決め付けではなく、確かな経験則の筈だった。

 

「川神流……」

 

 しかし、そこで誤算が一つ。それは百代がある非常識な技の使い手であったこと。

 

「瞬間回復!!」

 

 一瞬にしてダメージを打ち消した百代は直ぐ様反撃をしかける。重いダメージを受けていた筈の者がダメージなどまるで無い動きを見せたことに完全に虚を付かれてしまったアパチャイはほんの一瞬反応が遅れてしまう。

 

「禁じ手・富士砕き!!」

 

 その隙めがけて放たれる必殺の一撃。回避できずその一撃を受けたアパチャイの身体は吹き飛び地面に叩きつけられ、更に地面に数メートルの溝を作った。

 

「それまで!!」

 

 そこで長老の制止の声がかかる。あくまで組み手故にこれ以上の継続は無しとの判断。つまり現時点で優勢な百代の勝利となったのであった。

 

「アパパ。かなり本気で効いたよ」

 

 試合終了から数秒後、 よろよろと立ち上がるアパチャイ。かなりダメージを受けているようだった。しかし、百代の方からすれば立ててしかもその気になればまだ戦えそうなことに驚嘆するしかない。富士砕きは禁じ手と言うだけにトップクラスの威力を持つ技なのだ。

 

「本当に流石ですね。あなたとは是非また戦いたいです」

 

「百代ちゃんも強かったよ。けど、今度は負けないよ」

 

 心からの敬意と希望を持って手を差し出し、アパチャイもまたそれに答え握手する。その姿と身内の勝利に風間ファミリーは歓声をあげる。

 一方梁山泊のメンバーは賞賛しながら少し考え込んでいた。

 

「最後の一撃、アパチャイ君は身体を上手く逸らしてダメージを半減させたようだ。しかし驚くのはその前にあの娘がやったことだ。アパチャイ君の攻撃は間違いなく効いていた。しかし、そのダメージを一瞬にして無くしてしまった」

 

「気を使った技のようだな。しかしあれ程、劇的な回復効果を見せるとは。どうやら気を使った技に関してはこの世界よりも遥かに進んでいるらしい。いや、あるいは気の質そのものに多少の違いがあるのかもしれないな。だが、根本は恐らく同じ。ならばやりようはある」

 

 梁山泊の知的派な二人が百代の技について分析する。それに気づかない風間ファミリーの面々。唯一ヒュームだけは感知したのか二人に目をやりながら不敵な笑みを浮かべている。

 一方、戦いの興奮が冷めない様子の百代の方に近づいて行く長老。

 そして彼女に向かって問いかけをした

 

「さて、まずは一戦終わった訳だが疲れたようならこれで終わりにするかね?」

 

「いえ、大丈夫です。お願いできるのでしたらもっと戦わせてください!!」

 

 まだまだ戦い足りない様子の百代。寧ろ、アパチャイとの戦いでますますやる気に火が付いたようである。その答えを聞いて、長老は梁山泊のメンバーを見渡し尋ねた。

 

「彼女の意思はそういうことじゃが、誰か希望する者はおるかの?」

 

「それなら、私が相手をしよう」

 

 それに対し名乗り出たのは砕牙だった。他に手を上げるものはおらず彼が百代の相手をすることが決定をする。

 百代の前に立つと笑いかけて言った。

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

「表情はそう言っていませんよ」

 

 言葉とは裏腹に自信ありげな表情で言う砕牙に百代も軽く挑発的な言葉を返す。

 そして長老が先程と同じように両者の間に立ち、審判の立場に立つ。

 

「それでは、始め!!」

 

「!! 速い!?」

 

 試合開始と共に飛び出す砕牙。そこで驚くべきはそのスピード。百代が今まで戦った誰よりも速い。10メートルの間合いを瞬きする間も無い程の一瞬で詰めてみせた彼は初手として左のローキックを放つ。

 

「くっ」

 

 砕牙の蹴りを脛で受けるがそこに伝わってくるのは先程受けたアパチャイの打撃にも劣らぬ重さ。痺れる足を堪え、体勢を立て直そうとするが、更に追撃が仕掛けられる。今度は右フック。百代は痺れる足をさげ、踏み込むと共に左手をあげてガード。しかし防御が間に合ったと思ったその瞬間、腕が掴まれる。

 

「何!?」

 

 思わず驚愕の声を上げる百代。砕牙は右フックだった筈の攻撃を途中で手を開き、殴る形から掴む形へと変えてみせたのだ。長老や砕牙同様に我流を名乗る男、バーサーカーのお株を奪うかのような天衣無縫の動き。

 そしてそのまま腕一本の腕力で百代の身体を投げ飛ばす。

 

「風林寺 無影手!!」

 

 空中に放り出された百代に向かって放たれる連続の掌打。速度を生かし、反撃を許さぬ怒涛の攻め。これこそが彼の真骨頂と言える戦闘スタイルである。

 猛攻を受けた百代は大きく跳ね飛ばされ、数十メートル先に着地する。その全身に痣や出血を伴っており、かなりのダメージを受けているのが一目でわかった。

 

「ぐっ、私がこれ程一方的にやられるのは初めてですよ。ですが!!」

 

 瞬間回復を使用しようとする。あらゆるダメージを一瞬にして無いものにしてしまう反則的な技。元の世界において、彼女の最強を確たる物にした切り札である。

 

「それを待っていたよ」

 

 しかし、それこそが砕牙の狙いだった。

 

「塊・鎬断」

 

 使用したのは彼の弟子が生み出した技。全身を気を練り上げた状態にして体当たりをすることで、相手の経絡を遮断し、気血を断ち、最後には心停止させてしまう恐るべき技である。しかし、”気の掌握”ができるレベルの武術家には通用せず、それどころか気を跳ね返されて、自滅させられる恐れがある。そのため、使い所が限られた技であるが、ある条件下においては絶大な効果を発揮する。

 

「なっ……」

 

 瞬間回復を発動するために全身に気を巡らせた状態で、経絡に圧力をかけられた結果、気が霧散し、技が不発になる。それどころか、百代の気穴は立たれていた。当然ながら百代は”気の掌握”ができるレベルに至っている。本来ならば塊・鎬断は効かないが、瞬間回復のような気を使った技の発動中ならば話は別だ。

 気血の回復は可能だが、それでも数瞬の隙は生まれる。

 そして達人同士の戦いにおいて、それは勝敗を決めるのにも十分な時間であり、百代の首元には砕牙の手刀が突きつけられていた。

 

「先に君とアパチャイの試合を見ていなければこうも簡単には行かなかったよ」

 

「なるほど、実力を見切られていた訳ですか」

 

 二人の間で交わされる言葉。

 その意味は戦いにおける情報の大切さである。瞬間回復は勿論だが、パワー、スピード、技のキレ。戦う前から砕牙は百代に対する多くの情報を掴んでいた。一方の百代は砕牙に対し、ほとんど情報を持っていなかった。そのため、砕牙は大胆な攻めができ一気にペースを掴めたのである。

 結果、一方的な展開になったと言う訳だ。

 しかし、砕牙の言った言葉には裏を返した別の意味も含まれていた。

 

「”簡単には行かなかった”簡単では無くても勝てる自信はあったという言い方ですね」

 

「否定はしないさ」

 

 棘のある口調で言う百代に対し、さわやかな笑みでさらりと言う砕牙。それに思わず毒気を抜かれ、苦笑して言った。

 

「私の負けです。ですが、次は負けませんよ」

 

 先程アパチャイに言われた言葉を今度は立場を逆転し、百代がそう宣言する。それは情報が握られていなかったとしても砕牙が勝ったと言う言い分を認めたようにも取れる。故にその言葉を聞いて砕牙は少し驚いた顔をした。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何となくだが、君はもっと負けず嫌いな気がしていたのでね」

 

「確かに負けたのは悔しいですが、それ以上の倒しがいのある強敵(ライバル)に出会えたことが嬉しいので。ですから、お願いします。私とまた戦ってください」

 

「ああ。何時でもとは言えないが約束しよう」

 

 こうして2戦目の試合が終了する。

 そして瞬間回復で傷を癒した百代はそのまま3戦目を希望しようとした。

 だが、そこでそれを遮るものが現れる。

 

「待て。次は俺が戦う。それに相手も指名させてもらおう」

 

 それは今まで黙って試合を観戦していたヒュームだった。

 そして彼は一人の男を指差し、指名する。 

 

「貴様に俺の相手、務めてもらうぞ」

 

 その指名された人物に視線が集中する。身長2メートルを越えるその人物は挑戦を受けたにも関わらず平静な様子で笑っていた。

 

「いいじゃろう。わしもお主とは手合わせして見たからったからの」

 

 言葉と共にそれまで笑っていた笑みを消し、眼光を鋭くし、挑戦を受ける。それは武人の表情。

こうして3戦目は風林寺隼人VSヒューム・ヘルシング。長きに渡り無敵と呼ばれ続けた男と異世界において嘗て最強を争った男の試合となるのだった。

 


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