アフターや空白期間の話を書くと言っておきながら全く音沙汰無しで、すいませんでした。
後編は必ず書きますが、それ以外はまた気が向いたらと言ったようになると思います。
しかし、ケンイチ原作、弟子クラス、達人クラス共に最後の方エライことになりましたねw
「みんなあ、ついに出来たぞ!!」
「ほんとかモモ先輩!! うっしゃあ、ついにいけるぜ!!」
百代の言葉に歓声を上げる風間ファミリーのリーダー、風間翔一。
川神一子が梁山泊からこの世界に戻ってきて1年、百代はある技を編み出す研究を続けていた。前々からそれを聞いていた風間ファミリーのメンバーはその完成を心待ちにし、とくに翔一と一子は切望していたのである。
そんな喜ぶ仲間達の姿を見て百代は満足気に頷き、そして喜色を込めて宣言した。
「ようやく会いにいけるぞ!! ワン子の師匠達にな」
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「みんな、ちゃんと準備はしてきたか」
「ええ、ばっちりよ。楽しみだわ。兼一さん達は元気にしてるかしら」
「いやあ、異世界の達人か。楽しみだなあ」
宣言から数日後、川神院の中庭にあるのは意気揚々とする面々。
百代が編み出した技、それは異世界への扉を開くワームホールを生み出すと言うものであった。流石の百代も開発と制御は簡単ではなかったものの、高いモチベーションを持って修行した結果、技は風間ファミリー全員とプラス2名を安全に異世界に連れていける精度にまで高められており、これにより異世界に存在する梁山泊へと行くことができるようになったのである。
「モモヨ、言って置くケレド失礼の無いようにネ」
「そうじゃぞ。今回は一子の姉として、そして川神院の代表として行くことを忘れんようにな」
「うっ、何度も言われなくても、わかってる」
そこでルー師範代と鉄心が百代に対し、釘を刺す。今回の訪問の目的としては、一子が師範代候補に成れたことの報告と彼女を指導してくれたことに対する礼を言うことがメインである。他に物見遊山気分の風間ファミリーのメンバーと他の目的を持った2名が居るが百代が戦うと言ったようなことは目的に含まれていない。寧ろ禁止されている。
相手は異世界の達人。百代としては是非とも戦ってみたい。しかし少し考えて見ればわかるが、他所の道場にアポ無しで訪問し、その訪問した側が試合を申し込むと言うことは世間一般では道場破りとみなされる行為だ。お礼を言う立場でそのような失礼なことができる訳が無い。
「まあ、姉さん、異世界に行けるのはこれっきりって訳でもないんだろう?」
「ああ……そうだな」
試合を申し込んだりするのは次の機会でもいいと慰める大和に、まだ少し後ろ髪を引かれるような表情を見せながらも納得してみせる百代。
「うむ、ではそろそろ行こうではないか!!」
そこで出発を宣言した人物。それは今回のゲストとも言える人物。九鬼紋白である。異世界の調査、あわよくば異世界の優秀な人材をスカウトすることを目的として風間ファミリーに同行を希望したのだ。無論、彼女の傍には彼女の専属執事、ヒューム・ヘルシングも付いて着ていた。
「ちょっと待ったああ!! 合図は俺が出すぜ。風間ファミリーのリーダーは俺だからな!!」
「うむ、そうだな。我としたことが少々でしゃばりすぎたようだ」
相手が九鬼とは言え、ゲストに主導権は譲らないとばかりに主張する風間。紋白もその辺の立場は弁える人間なので大人しく退く。
「それじゃあ、出発だ!! 頼むぜ、モモ先輩!!」
「おう!!」
こうして、彼等は異世界への扉を開くのだった。
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「んっ、ここが梁山泊なのか?」
「んー、ここは霧隠れ公園ね。梁山泊はここから少し移動した所よ」
異世界に降り立った一行。しかし目的地から少しずれており、そこから梁山泊までの道を一子が先導する。
「懐かしいなあ。あまり、変わっていないみたい」
「あー、異世界つうても、俺達の世界とほとんど変わんねえんだな」「
「寧ろ、ちょっと田舎?」
街中を歩きながらそれを眺めて少しがっかりした様子の翔一と軽い毒を吐く京。それに対し一子がフォローする。
「けど、梁山泊のみんなにはキャップも驚くと思うわ。後、梁山泊の人達は地図にも載ってない島とか持ってるし、東京の方へ行けばスカイツリーとか元の世界ではまだ出来てない建物もあるのよ」
「なるほどな。そう言った違いを見比べて見るのも面白いかもしれねえぜ!!」
そう言った話を聞いて好奇心とやる気を取り戻す。そうして話しながら歩いている内に梁山泊にたどり着く。
そしてその門を叩こうとした時だった。
「えっ、一子ちゃん!?」
「この声……兼一さん!?」
横方向からかけられた声に皆がそちらを見るとそこにあったのは背中に金属製の地蔵を背負い、ロープにタイヤを30個ほど結びつけた兼一の姿。
「うわあ、久しぶり!!」
「どうして、一子ちゃんがここに、それにその人達は?」
「あっ、うん、紹介するわ。アタシのお姉様と友達よ」
元の世界に返った筈の一子が居ることに驚く兼一に説明と自己紹介をする。
そして説明を全て聞き終えた所で納得した兼一が頷いた。
「そうだったんだ。まずは、師範代候補おめでとう。これからも頑張って、師範代を目指して。しかし、異世界への扉を開けちゃうなんて、うちの師匠達以上に非常識な人が居たなんて」
「うん。お姉様は凄いのよ。ところで、皆は元気?」
兼一の呟いた驚きを通りこして少し呆れたような言葉に一子が誇るように胸を張った。
そして彼女の発した言葉に兼一は苦笑した。
「あの人達が元気で無い姿なんて想像できる? あっ、でも、もしかしたら逆鬼師匠は奥さんに尻にひかれて参ってたりするかも」
「えっ、逆鬼先生結婚したの!?」
兼一の口から飛び出した衝撃発言に今度は一子の方が驚く。
「うん、ジェニファーさんって人と。今は、梁山泊を出て近くのマンションに一緒に住んでる。前々から強くアプローチされてて、逆鬼師匠は僕の修行を口実に逃げてたんだけど、1ヶ月位前にほとんどまぐれだけど僕が逆鬼師匠から一本取れたことで仮卒業ってことになってね」
苦笑しながら話す兼一。実はこのままでは婚期を逃しかねないから何とかしろとジェニファーに激しく詰め寄られ、必死に修行と対策を行ったという背景があり、口には出さないがそれを思い出したのだ。
「年貢の納め時って奴か。しかし、名前からして外人だけど、逃げ回ってたってことはあんま美人じゃなかったんだろうな」
「いや、ジェニファーさん凄く綺麗な人だよ。確かスマフォに写真が……。ほら、この人」
逆鬼の結婚式の時に撮った写真を選び、ジェニファーの姿を見せる。その姿を見て岳人は叫んだ。
「うがあああああ!!神は死んだ!!」
「うわあ、綺麗な人だね。あっ、でも、相手の逆鬼って人、強面でイケメンって訳じゃないし、そう考えると顔が全てって訳でも無いってことかな」
「おお、そうか!! もしかすると俺って外国人にはモテモテ……」
「いや、それは無いな。少なくとも自分はタイプでは無い」
「グサああああ!!」
モロの言葉に復活し、その後クリスの言葉で再び落ち込む。最も日本では受けが悪いオープンスケベのマッチョであるが、国によってはそう言ったタイプの方が人気のある場合もある。海外でならばもてる可能性があるというのはあながち間違っているとも言い切れないだろう。
「まあ、ともかくみんなも一子ちゃんに会いたがってるんだ。早く中に入ろう」
落ち込む岳人を尻目に、兼一は一子を引っ張り梁山泊へと入る。
そして皆を呼びに行こうとするが、そうするよりも早く、門の先の中庭に皆が勢ぞろいしていた。
驚く一子。そんな彼女に長老がにっこり笑って言うのだった。
「おかえり、一子ちゃん」
それを聞いて一子も驚きの表情を笑顔に変えて、言葉を返す。
「うん、ただいま!!」
**********
「一子の姉、川神百代と言います。妹が大変お世話になりました」
梁山泊の面々と相対した風間ファミリーと2名。それを代表し、そして心からの感謝を込めて、百代が深々と頭をさげる。
「ほっほっ、そう固くならんで。もっと、気楽な態度を取ってもらって構わんよ」
年上として年下を諭すように朗らかな調子で語りかける長老。しかし、それを聞いても何故か百代の硬さは取れない。
「姉さん?」
普段傍若無人な百代も年上、特に年上の武術家で実力者の相手には敬意を見せる。しかし、相手が力を抜いていいと言っているにも関わらず硬い態度を崩さないのは彼女にしては不自然と思い、大和は首をかしげ注視した。すると気付く。彼女の身体が小刻みに震えていることに。
それを見て思わず目を見開く大和に由紀江が耳打ちをした。
「大和さん、恐らくモモ先輩は必死に堪えているのだと思います」
「堪える?」
「はい。あの方々、恐らくは全員が壁越えクラスの実力者です。特にあの背の大きな老人と老人に少し容姿の似た男性、モモ先輩や学園長に匹敵するレベルかもしれません」
「姉さんや学園長と!?」
衝撃に思わず声を上げそうになり、そのトーンを必死に抑える大和。由紀江は頷き続けた。
「はい。これ程の達人に並ばれては私ですら多少は武人の血が騒ぎます。ましてやモモ先輩では……」
「なるほど。でも、戦えないのは最初からわかっていたことじゃあ」
「これ程の実力者が揃っていることは予想外だったのだと思います。仮に予想していたとしても、頭の中で考えると実際にそうなるのとでは違いますから」
百代は闘争本能の塊のような存在だ。しかし、彼女とまともに戦えるだけの実力があるもの等めったに居ない。
言うなれば今の彼女は空腹状態で凄く美味しそうなご馳走を目の前に並べられながら、お預けを食らっているようなものである。しかもそのご馳走は食欲を刺激する最高の香りを漂わせている状態だ。
そういった視点で見ると、百代が硬くなることで必死に耐えているのがわかる。よく見るとあまりの辛さに目じりに涙が浮かんで居るほどだ。
そんな哀れな姿を前にして、長老は何やら考え込むような仕草を見せると口の端を浮かばせた。
「さて、異世界からの客人。ましてや一子ちゃんの親類・知人じゃ。精一杯のもてなしをさせていただきたいが、よろしければその前に特別な歓待をさせていただいてもよいかな?」
「特別な歓待?」
尋ねるクリス。長老は頷き答える。
「うむ、武術家同士の分かりやすいコミュニケーション。つまり……試合じゃよ」
その一言に百代が顔をあげ、思わず満面の笑みを浮かべる。
こうして、二つの世界最強の道場同士のドリームマッチがここに開かれるのであった。