史上最強の妹弟子 カズコ   作:史上最弱の弟子

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試験

「お互い、準備はよいか?」

 

「ああ」

 

「はい!!」

 

 風間ファミリーと鉄心、ルー師範代が見守る中、一子は百代と相対する。

 

「それでは、これより川神百代と川神一子の試合を始める。この試合の内容と結果を持って、川神一子に師範代を目指す資格があるかどうかを確認するものとする」

 

 鉄心の言葉に無言で頷く一子。これより、彼女の夢、将来を決める戦いが始まるのだ。

 

「西方 川神百代!!」

 

「ああ」

 

「東方 川神一子!!」

 

「はい!!」

 

「いざ尋常に……はじめい!!!!」

 

 試合開始の合図と共に一子は動の気を全開にし、獣心制空圏を発動させると、間をおかずに一気に飛び掛った。自分と姉との間にある実力差を理解するからこそ出し惜しみは一切しない。初撃から全力の一撃を放つ。

 

「っつ!!」

 

 それに対して百代の反応は鈍かった。一子がこの世界に戻って来た時にその成長の一旦は見たとはいえ、その時は動の気を解放してはいなかったし、なによりずっと一子を見たことによる彼女のイメージ、それが強すぎて成長した彼女との間に存在するギャップを埋め切れれていなかったのだ。

 はっきり言うならば一子を侮っていた、そう言ってもいい。故に、初撃は何とか回避してみせるものの、その際に体勢を崩してしまう。

 

「やあああ!!!」

 

 掛け声と共に一子が二撃目を放つ。初撃をかわされた後、流れるように次の攻撃へとつなげた一子に対し、百代は体勢を立て直せていない。それでも、身体能力の差から何とかかわして見せるものの、不安定だった体勢は更に崩れる。

 

「たああああ!!!!」

 

 裂帛の気合と共に放たれる三撃目。その結果は前の二撃とは異なっていた。一子の手に伝わってくる手ごたえ。彼女の握る薙刀のその先、そこにはその一撃を受け止めた百代の腕があった。

 

「お姉様に防御させたわ!」

 

 一子が叫ぶ。1年前には防御すらさせることができず、全ての攻撃を回避されてしまった一子。まずはその壁を乗り越えたのである。

 

「驚いたぞ一子。私の油断があったとはいえ、凄い成長だ。だが……」

 

 薙刀を受け止めた状態から身体全体を引き、間合いを開ける百代。

 

「だが、この程度ではまだ認める訳にはいかない」

 

 今回の試験合格条件は一撃を入れるか百代と鉄心の両方に実力を認めさせるかである。防御させただけでは合格の条件を満たしてはおらず、試験は続いているのだ。

 

「次はこちらから行くぞ!! 川神流、無双正拳突き!!」

 

 一旦開けた間合いを一気に詰め、叫びと共に放たれる百代の拳。その一撃は全力では無いものの、普段挑戦者に対し、実力を試すために放たれているものと同等と威力を秘めていた。その拳の前に、表の世界では名を馳せていた武術家達のほとんどが一撃で沈んだ、正に必殺の拳である。

 その必殺の一撃に対し、一子は薙刀を盾にして受け止める。

 

「ぐっ!!」

 

 手に激しい衝撃を感じる一子。その威力は彼女の腕力では抑えきれない。しかし、そこで一子は更に力を込めようとするのではなく、片手の力を抜いてみせた。それにより、薙刀が斜めに下がり、その下がった方向へと拳が逸れる。

 

「なっ!?」

 

 そこで、力を抜かなかった方の腕で薙刀を引く。その結果、力の行き場を無くし、前につんのめる百代。そこに片腕だけで薙刀をふりまわし叩く。新白連合の隊長達との組み手で格上相手に対抗するために、条件の反射の域になるまで繰り返したコンビネーション。このコンビネーションでフレイヤから一本取ったことさえある。

 

「甘い!!」

 

 しかし百代の武神の名は伊達ではなかった。つんのめった状態から左手を身体の前に通し、薙刀を弾いて見せた。

 

「くっ!!」

 

 一旦、体勢をひいたかと思いきや、一子はすぐさま飛び出し、百代もまたそれに応じた。

 

 

*********

 

 

「信じられえねえ。一子の奴モモ先輩と渡り合ってやがる!!」

 

「京、正直、レベルが高すぎて俺達にはよくわからないんだが、姉さんは相当手加減してるのか?」

 

 戦いの開始より二人を見守っていた風間ファミリー達。岳人は一子の成長に単純に驚愕し、大和はその度合いを確認するため、京に問いかけをする。

 

「手加減してるのは間違い無いと思うよ。これはあくまで試験だし、動きが全部目で追えてるから。ただ、目で終えても身体がついていかないかな」

 

「ああ、正直自分も自信が無いな。もし犬の代わりに戦っていたら多分、今頃倒されてしまっているだろう」

 

「少なくとも京やクリスが対応できないレベルについていけてるって訳か」

 

 二人の意見を聞いてキャップことリーダーの風間が評価を総括する。1年前、京やクリスは一子よりも一歩先を行っていた。またこの1年の間にも二人は修行を怠らなかった。にも関わらず、二人が対応できないレベルに一子はついていけている。つまり、一子が二人を追い越したと言うことである。

 

「ワン子の奴、異世界で鍛えられてたって言ってたな。どんなところだがすっげえ気になるぜ」

 

 その成長の凄さが風間の好奇心を掻き立てる。冒険心溢れる彼にとって異世界に行ったという一子の体験は滂沱する程羨ましい出来事であったが、彼女の成長を見たことで、更に興味が強まったようであった。

 

「けど、まあ、今はそれどころじゃねえか」

 

 しかし今はもっと重要なことがある。今、彼等の目の前で行われているのは一子の将来を決める戦いなのだ。果てしなく強い好奇心を持つ彼だったが、仲間への想いはそれさえも上回るようだった。故に、彼は自分にできることをする。

 

「ワン子ぉぉぉぉ!!!! 頑張れーーーーー!!!」

 

 声をあげ、力一杯声援を送ること。仲間としてできる唯一のことを彼はするのだった。

 

 

 

**********

 

 

 

「ワン子、頑張って!!」

 

「犬、しっかりしろ!!」

 

 風間がきっかけとなり、次々と飛ぶ仲間の声援。それが最初から全開状態だった筈の一子の力を更に引き上げる。

 

「やあああああ!!!!」

 

 振り下ろす薙刀の速度と切れ味が一段あがる。その急激に良くなった動きに、百代は回避しきれず腕で受け止める。

 

「これで、私に防御させたのは3度目か。どうやらまぐれでは無いようだな……。本当に強くなったな一子。今のお前は川神院師範代候補、その末席に加えられる位のレベルに到達している」

 

 発せられる賞賛の声。現在、20余名存在する川神院の師範代候補。末席とは言え、一子の実力はそのレベルに到達していると評価する。それはつまり、今の彼女には師範代を目指に足る力があると言うこと。

 そこで百代は一旦、距離を取ると真っ直ぐに立ち、静かに言った。

 

「これから最終確認だ。今から放つ攻撃、これを凌げたなら……防いでも、かわしてもいい。とにかく、技の終わった後、立って居られたら、あるいは立ち上がることができたなら、私はお前を川神院の師範代を目指す資格があると認める」

 

 その言葉と共に百代から発せられた凄まじい気を一子は感じ取る。本気を出した訳では無い。抑えていた力を解放しただけ、いわば平常状態に戻したに過ぎない。にも関わらず、妙手の域を軽々と超える強さへと変わる。

 

「今のお前ならば私の力がわかる筈だ。それでも挑むか?」

 

「勿論よ!!」

 

 本能が危険を伝えながらも逃げるつもりは無い。それにその危機感が獣心制空圏を第三段階へと引き上げる。動の気も全開とし、万全の体勢を持って待ち受ける。

 同時に百代も覚悟を決める。最愛の妹を撃ちつける覚悟を。

 

「……ならば行くぞ。川神流、無双正拳乱れ突き!!」

 

 次の瞬間、百代は両者の間にあった間合いを一瞬にして詰め、ほぼ同時に47発の拳を放った。

 一子はその内の12発を回避し、26発を防御して見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、残りの9発は一子の身体に突き刺さった。

 

「あっ……」

 

 1発ですら並みの武術家を打ち倒す攻撃を9発身体に受けた一子は顔面より地面に倒れ伏すのだった。




次回、最終回

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