史上最強の妹弟子 カズコ   作:史上最弱の弟子

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前々から書いてみたかった話です。読みたかった話でもあります。誰も書いてくれないので、ケンイチTV放送記念に思い切って書いてみました。書き溜めようとしている間に放送終わってしまいましたがw


誕生!!史上最強の妹弟子!!

 梁山泊、武術を極めてしまった達人の集う場所

 ここには8人の達人が共に暮らしている

 

 喧嘩100段の異名を持つ空手家、逆鬼至緒

 

「しかし、たいしたもんじゃねえか。才能ねえ兼一が、まだ21だってのに達人になってみせるとはよ。まあ、俺は17ん時には達人だったがよ。」

 

 あらゆる中国拳法の達人、馬剣星

 

「そうね、達人と言っても達人のどん底だけど、それでも大したものね。ちなみにおいちゃんが達人になったのは16歳の時ね」

 

 裏ムエタイ界の死神、アパチャイ・ホパチャイ

 

「そういうこと言ったらかわいそうだよ。ケンイチ一生懸命がんばった結果よ。ところで、アパチャイ達人になったの何歳よ?アパチャイ昔は10までしか数えられなかったよ。でも、確か”声変わり”て奴をした時位よ」

 

 剣と兵器の申し子、香坂しぐれ

 

「僕も自分の歳がよくわからないからわからない。けど、秋雨と会ってから5年……位?」

 

 哲学する柔術家、岬越寺秋雨

 

「5年ではなく、6年だったね。ちなみに私は少し遅くて、19の時だよ。美羽も同じだったかな?」

 

 風を斬る翼、風林寺美羽

 

「はい。その位ですわ。お父様は幾つ位でしたか?」

 

 一なる影、風林寺砕牙

 

「私は15歳の時だったね。妻、美羽のお母さんも確か同じ頃と言ってた」

 

 無敵超人、風林寺隼人

 

「これこれ、みんなして、それではまるで兼ちゃんを馬鹿にしているようにも聞こえるぞ。21とて十分立派なもんじゃ。まあ、わしは10歳の頃には達人と呼ばれておったがの」

 

 そして、史上最強の弟子、白浜兼一

 

「だあああ、みんなして素直に褒める気はないんですかあああ!!! それに、甲越寺師匠!! 何故、僕は達人になったと言うのに未だに昔と同じような事をしているのでしょうか!?」

 

 ハムスターの遊び道具である回し車、それを巨大化させたようなものの中で走りながら叫ぶ青年。彼は才能の無い身でありながら、武術を極めるものの集まる梁山泊の弟子となり、厳しい修行と激しい戦いの繰り返しの末、つい先日達人の仲間入りを果たしていた。最も達人の上と下では天と地程の力の差があるのだが。

 

「何を言っているんだ兼一君。仮にも達人となった君に昔と同じだなんて、そんな失礼な事はしないよ。必要となる回転速度や、それを下回った時に流れる電流もアップしているんだよ」

 

「そういうとこだけ力入れないでください!! って、言うか速度はともかく、電流は上げる必要ないでしょ!!!!」

 

 楽しそうに笑いながら言う秋雨に対し、泣き叫びながら叫ぶ兼一。ちなみに流れる電流は健康な一般人でも心停止を引き起こし兼ねないレベルの違法スタンガンがかわいく思える位の威力である。

 

「うーん、そうは言っても、君の頑丈さだけは達人の中でも中堅クラスだからねえ。この位の電流でなければ修行にならないよ。それに、強さとしては達人級になっても君自身の意思で我等の弟子に留まることを決めたのだろう?」

 

「うっ、だって最近は長老だけでなく、砕牙さんまで、美羽さんと結婚したかったら自分に勝ってからなんて言うんですよ。だったら、もっともっと強くならないと」

 

 秋雨の指摘に情けない表情で答える兼一。とはいえ、達人の中でも最強クラスの二人に勝てと言うのだ。無理難題にも程があり、彼の反応も止む無しと言えよう。

 

「まっ、どのみち女より弱いんじゃ釣り合わねえからな。せめて美羽を超える位には頑張れや。それに、今度何かあった時にはお前も一緒に加わって俺達の背中を守ってくれるんだろ?」

 

「頑張ってくださいましね。私、待ってますわ」

 

 そこで入る逆鬼と美羽の激励。兼一と美羽、二人は付き合っている。ただし、彼女の祖父と父である隼人と砕牙の監視により、関係はほとんど進展できていないが。

 

「はい!!」

 

 声援に応え気合を入れなおすその時だった。

 

「きゃああああああああああ!!!」

 

 どこからか聞こえてくる少女の悲鳴。その場に居た者達は皆、周囲を見回し、そしてその声の出所が以外な方向であることに気づく。

 

「あっ、あれを見てください!!」

 

 美羽が指差した先、それは”空”。一体何が起こったのか、周囲には高い建物等何も無い筈のこの場所で、中高生位に見える少女が空高くから地面に向かって落下していたのだ。このまま地面にまでたどり着けば少女の体がどうなるかは想像に難く無い。

 しかし、ここにはその悲劇を阻む者達が居る。少女の姿を確認した瞬間、兼一の目から光が発せられる。

 

「たああああ!!!!!」

 

 回し車の中で飛び上がり、金属パイプに向かって蹴りを放つ。その強烈な一撃は金属パイプをへし折り、その出来た隙間が外へ飛び出し、少女を助けに向かう兼一。とはいえ、彼に出番はなかった。

 

「怪我はありませんわよね?もう大丈夫ですわ。あら、気を失ってしまっているようですわね」

 

 彼よりも早く美羽が少女の下に飛び上がり、彼女を抱きかかえていたからである。

 

「あっ、あれ……」

 

 勢いよく飛び出したはいいがやることがなく、そのまま地面に落下する兼一。 少女は落下のショックで気を失っては居るものの他に異常は無さそうだったが、念のため馬の診療所に行って寝かせることとなった。

 

(ほう、彼の今のパワーでは壊せぬように設計していた筈だが。やれやれ、誰かを守る時には力を発揮するのは相変わらずか。安定して力を引き出すことさえできれば達人になるのが1年は早かったものを)

 

 そして兼一と美羽が失敗した時には、カバーできるよう備えていた秋雨は壊れた回し車を見ながら内心でそうぼやくのだった。

 

 

 

**************************

 

 

 

「あれ、ここは? 」

 

 空中から少女が落ちてくるという不思議な出来事があってから凡そ1時間後、その落ちてきた症状が診療所のベッドで目を覚ます。

 

「おや、目が覚めたようだね」

 

「どこか痛いとこはないかね? あったら、おいちゃんがさすってあげるよ」

 

「馬さん、セクハラはやめてください」

 

 眠る少女に付き添っていた美羽が剣星に突っ込みを居れるとと少女に目線を合わせ優しい口調で問いかける。

 

「あの、お名前を聞いてもいいかしら?」

 

「あっ、はい、アタシ川神一子です」

 

 如何にも大人の女性と言った容姿の美羽に話しかけられ、固くなった感じで返事をする一子。その姿を見て美羽はクスリと笑う。

 

「そう、緊張しなくてもいいですわよ。それより、一子ちゃん、どうして空から落ちてきたりしたんですの?」

 

「えっ、空? あっ、そうだ、アタシ、ランニングの途中に地面にいきなり真っ黒な穴が開いて、その穴に落ちて気がついたら空に……」

 

「ふむ、もしかしたら君は次元の穴に落ちたのかもしれないね」

 

 一子の語る奇妙な話に秋雨は深刻そうな表情で奇妙な言葉を呟いた。

 

「次元の穴ですの?」

 

「実は昔、異世界から来たという者達に出会ったことがあるのだが、その時に彼等から聞いた話がちょうど今の彼女の状況とそっくりでね」

 

 問いかけに対し返って来たのは信じられないような話。

 しかし、秋雨がつまらない嘘や冗談を言う人間でないことを美羽や剣星はよく知っていた。そこで、とりあえずその話が真実だと前提し、話を進めてみる。

 

「秋雨どんの話が本当だとしたらこの子は平行世界からやって来たということね? 全くの異世界にしては服装もそっくりだし、話してる言葉も日本語と言うのはおかしいね」

 

「確かにね。だが、異世界から来たと言うのはあくまで私の推測。その可能性があると言うだけの話に過ぎない。それを確認するために幾つか質問してみよう。我々の常識と彼女の常識で何か決定的に食い違う所がないか確かめてみればいい。まず、君の住んでいた場所を教えてもらえないかね?」

 

「あっ、はい。アタシは川神市の川神院で暮らしてます」

 

 正気を取り戻し応える一子。しかし他の3人は怪訝な顔を浮かべる。

 

「川神市と言うのは関東にあるのかね? それに川神院、私は聞いた覚えが無いが有名な場所なのかい?」

 

「えっ、川神は結構有名な町だし、何より川神院は武術の総本山として、有名だと思うんだけど……」

 

 一子の認識からすれば川神市はまだしも川神院は知られて居て当然の場所だけに思いがけない反応に不安気な表情になる。

 一方、秋雨達は彼女の答えから確信を得ていた。

 

「ふむ、どうやら行き成り当たりのようだ。我々が武術の総本山と呼ばれる場所を知らない筈が無い。それが、この世界にあるのならばね」

 

「どうやら、そのようですわね」

 

 武術の総本山、この世界にとって、それは彼女達が今、居る梁山泊こそがそうなのだ。そこに暮らす彼女達が他にそう呼ばれる場所を聞いたことも無い筈は無い。

 こうして、川神一子が異世界からの迷い子であることが確定するのであった。

 

 

 

**************************

 

「っと、言う訳だよ、理解できたかね?」

 

「あっ、はい、わかりました」

 

 日本地図など色々な証拠を見せられ自分が置かれた状況を理解する一子。

 普通なら、これらのものを見せられたとて納得できない話ではあるが、彼女の場合は川神と言う不思議一杯な街で育ったことや素直で人の話を信じやすいことなどもあり、異世界に迷い込んだという話を信じるに至っていた。

 

「あの、それで、秋雨さんの知り合いは元の世界に返れたの?」

 

 異世界に迷い込む、物語の中ではよくある話で、そして大概の場合、簡単には元の世界に戻れないと相場が決まっている。

 彼女の表情には頼るものもなく、一人見知らぬ場所に放り出された不安と親しい人に二度と会えないのではないかという悲しみが浮かんでいた。その表情を見て美羽と馬は答えられず困った表情を浮かべる。

 そんな彼女に、秋雨はにっこりと笑って答える。

 

「心配せずともちゃんと帰れたよ。ちょっと待っていてくれたまえ、えーと、あの時使った計算式はと……うむ、答えがでた。およそ11ヶ月後にこの世界から君の世界への帰り道が開く筈だ」

 

「ほ、ほんと!! よかった、私、またお義姉様や大和やキャップに会えるのね!!」

 

 秋雨の答えに心の底から安堵する一子。美羽や馬もほっと一息つく。

 

「よかったですわね。秋雨さんが言うのなら間違いないですわ」

 

「うん。あっ、でも、11ヶ月も先なんだ。それまでどうしよう……」

 

 帰れるとわかり、安心したことで別の問題点が思い浮かんでくる。何せ、異世界人である一子には住む家は愚か戸籍すらないのだ。しかし、それにも秋雨が解決策を示す。

 

「心配はいないよ。それまではここに住むといい。長老も許可してくださるだろう」

 

「そうね。おいちゃんも道場が華やかになるのは大歓迎ね」

 

「はい、自分の家と思ってくつろいでくださいましね」

 

「あっ、ありがとう!!」

 

 一子は三人の言葉に安堵の表情を浮かべ、大きく頭をさげて礼を言う。

 

「お礼にアタシにできることがあったら何でも言って下さい。家事の手伝いとかなら家の道場でもやってたんで少しはできると思います。……あっ、その、厚かましいとは思うんですけど、隅の方とかでもいいので修行させてもらってもいいですか?」

 

 そして礼を続ける途中で、ふと思いつき、申し訳無さそうな表情で願い事をする。

 

「ふむ、修行か」

 

「はい!! アタシ、川神院の師範代を目指してるんです!!」

 

 目を輝かせ、迷い無く己の夢を語る彼女の姿を見て、何やらすこし考え込む秋雨。

 そして、他の人には気づかれないような角度で口の端を上げた。

 

「ほう、君は師範代を目指しているのか。ふむ、これも何かの縁だ。武術の総本山と呼ばれる場所に住む者同士、場所を貸すだけでなく、もしよければ我々が少し稽古をつけてあげよう。ここに住むのは皆、達人と呼ばれる者ばかりだからね」

 

「住む所だけじゃなく、そこまでしてくれるなんて……。感激だわ!! 是非、お願いします」

 

 強くなることを望む一子にしてみれば大歓迎の言葉に更に大きく頭を下げる。その一連の流れを見ていた美羽と剣星が耳打ちする。

 

「秋雨さん、何か、企んでませんか?」

 

「そうね。修行までつけるとは秋雨どんにしてはサービスが良すぎるね」

 

 一子を梁山泊に住ませることに関しては二人も当然の如く賛成だ。善人である彼等に行くあての無い少女を放り出すことなどできない。しかし、修行までつけると言うのは少しばかり気前が良すぎるように見える。故に疑いの眼差しを向ける二人。

 

「おいおいそれでは私がまるでケチのようではないか。だが、まあ、確かに目論見はあるよ。兼一君の成長ペースだが、YOMIと戦っていた頃に比べ明らかに落ちている。元々、彼にとって強くなることは目的ではなく、手段だからね。美羽との交際や我々と肩を並べるという約束をモチベーションにしてはいるが、やはり目の前の危険性が去ったことで悪い意味で焦りがなくなっている。そこで、何か新しい刺激が必要と前々から考えていたのだよ」

 

「なるほどね。あの子を鍛えることで、兼ちゃんには後輩ができることになる。後進に追われると言うのは意外にいいプレッシャーになるからね」

 

 武術団体・鳳凰武侠連盟の最高責任者で中国本土では実に10万人の弟子を擁するという一門の長である剣星は梁山泊の中で最も多くの人間を育成した経験を持つ人間である。それだけに、秋雨の案の有用性を直ぐに理解し、いい案だと賛成する。

 

「そういうことでしたら私も納得ですわ」

 

 美羽も特に異論は無く、こうして疑問が氷解して話がまとまった所で、兼一達に一子が目覚めたことの報告と彼女の抱える事情を説明するために道場に戻ろうとする。

 だが、そこで秋雨は思い出したようにもう一言付け加えた。

 

「ああ、それとだ。実は私、まだ少し話しただけだが、あの子の事が割と気に入っているのだよ」

 

 意外な言葉に秋雨の方を振り向く美雨。剣星ならばともかく、秋雨が口にするには珍しい言葉だった。

 そして、秋雨はにっこりと笑って言う。

 

「彼女の目の奥に見える輝き、どことなく兼一君を思い出してしまってね」

 

 




一子の呼び方について下のような感じで行こうかと思うのですが、違和感とかないでしょうか?

兼一/美羽:ワン子ちゃん(客前とかでは一子ちゃん)→一子ちゃんに統一しました
秋雨/剣星/長老:一子ちゃん
他梁山泊メンバー:一子

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