【完結】 宿命の和了 【アカギ×咲-Saki-】   作:hige2902

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第三話 Demon's Pact

 国広一の父はマジシャンだった。才はほどほどだったが、実際のところそれは必要不可欠ではない。

 エンターテイナーに真に求められているのは、観客との言葉に限らないコミュニケーションだった。人間が切断されたり瞬間移動しなくても観客は驚くし、なにより驚愕の感情のみがエンターテインメントではない。

 小さな驚愕を滑稽さの合間に見せることを国広は得意としていた。つまり持ち味は、ユーモアを観客とコミュニケートすることにあった。

 

 が、それは劇の中の話で、だから営業に転用できるとは必ずしも言えないのだ。

 実際、あいつのステージは楽しい。笑いと驚きの緩急がいい。だが大きなステージを用意する雇い主の意向を無視する傾向がある。いや観客からの受けは嫉妬するほどいいが。

 それが国広の、同業者からの評価だった。大きな仕事が冴えない理由でもある。

 

 

 

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 夜もふけた頃、高級料亭の一室。部屋から漏れた照明が謙虚に日本庭園を揺らめかしていた。羽織袴に身を包んだ二人の男が会席料理を挟んでいる。一人は箸にすら手をつけていない。もう一人のタヌキのような男が刺身を一口やって言った。

 

「じゃあ川田さん、組の総意として、どうしてもこちらの要求は呑んでくれないというわけで?」

「そういうことになるな」

「そんなんじゃあこの先、生き残りは難しい。立法府は相変わらずヤクザを締め付ける路線だ」

「そいつは昔からさ」

 

「そんなことはわかっている。過去に立法府がうちらを容認する建前なんてあったものか。だが取り巻く事情が昔とは変わっている。国内の非合法組織の勢力が衰えれば、海外マフィアがゲリラ的に日本に浸透する。反社会的組織もグローバルというわけだよ」

「マフィアにシマは荒らさせないし、手を組む気などない」

「だが一度でもマフィアからヤクを流されりゃあ、後はずるずる。ヤク中は売人に依存する、徐徐にルートが固められる。おれたちに入るはずだった金は海外に送られる。単純な話さ。ルートが大事だって事はあんたもわかってるだろ」

「だからといって、うちは変わらん。ガキにヤクを流すつもりはないし、表の商売にまでは絡まない」

 

「古いな」

「先代がそうだったものでね」

 

 川田と呼ばれた男はこれ以上は話すことはないと席を立った。室を出ようと障子に手をかけたとき、背後から声が投げかけられた。

 

「それじゃあ一つ、互いのシマを賭けて卓を設けてくんねえかな。ドンパチなんて今時あほうのする事だしよ」

 

 川田は口を閉じたまま振り返らない。タヌキのような男が酒を一口やり、含み笑いで続ける。

 

「野暮ったい話はやめようや。どうせ風化して朽ちるんなら、うちが貰っておくよ。まさか逃げねえよな。古い古い伝統のある時代遅れの組なら、売れらた喧嘩からよ」

 

「いいだろう」

 返された想定外の言葉に、タヌキのような男は眉間を僅かに歪める。

「その言葉、覚えておけよ。あんたらに勝ち目はない。川田組が衰弱したことは周知の事実だ。誰も力を貸そうとはしないだろう。泥舟に相乗りするようなものだ」

 

 川田は料亭を出る。麗らかな夜風が吹いている。それを認めた若頭の石川が直直に車のドアを開け、川田が乗車すると反対のドアから乗り込み、運転手に出せと告げる。

 川田は強く目頭をもんだ。言われた事は事実だった、川田組は古い。時代の波に乗れていないわけではない。内部の反発も多少はあったが、いわゆるインテリヤクザへとシフトしている。

 

 だが一つの躓きがあった。戦後の不安定な経済が復帰し、安定の兆しを見せ始めた頃に海外マフィアは日本に目をつけた。それが川田組の停滞を招いた。

 世界と比べ、刑罰のぬるい日本。快適な牢獄生活。しかも獄中には当然に同業者もいるわけで、そういった犯罪ルートを探れるなどという利点もある。

 警官に賄賂が効きにくいというデメリットを差し引いてもでかいシマ。当然、じわりじわりと蝕む。このままではシマを荒らされるばかりか、いずれは地盤を固められて乗っ取られる。

 

 そこでヤクザは一つの問題に直面した。

 海外売人が接触しやすいディスコなどの若者が集まる場所で、ヤクを捌くべきなのか。

 要するに、マフィアに手当たり次第にヤクを流されるくらいなら自分達で流してしまえという考え方。

 そこで立ちはだかったのは、いわゆる義理と人情だった。すべての組に言えることではないが、古い組はその時間の経過に比例した伝統を持っている。

 

 手当たりしだい。つまり若者にヤクを流すことは、堅気に手を出すことは、仁義に反するのではないか。

 

 多くの古い組はそこで足踏みしたが、海外へ円が流出するくらいならとどこかの組が一歩踏み出すとあとは総崩れだった。

 日本経済的に考えれば致し方ないという詭弁じみた免罪符は作為的に暴走し、堅気に対する境界線を曖昧にさせ、やがてヤクザの手が表の商売へと本格的に伸びる切欠にもなった。

 

 すでに、暴力団がその地域に存在するだけで、住人には少なからずなんらかの関与があると言っても過言ではない。

 

 もちろん建前では薬物は禁止となっているし、戦前や戦後直後から堅気を食い物にしている組織もあった。後ろめたさから暗黙の了解のものへと変化した、そう表現したほうが正確かもしれない。

 インターネットを介した表への詐欺や脅しは恐ろしいほどの利益を生んだ。川田組が落ちぶれるのも、なるべくしてなったというところ。むしろ義理人情でここまでもった方が珍しい例でもある。

 

 石川は組長の芳しくない表情をちらと見やり、陰鬱な気持ちになった。

 

 石川は自分が真っ当なヤクザだと思ったことは一度もない。そもそもヤクザの時点で真っ当ではない。ただ、堅気に手を出すのはヤクザではないとも考えていた。そんなものはただの暴力団だ。おれはヤクザで、暴力団ではない。その違いは堅気にはわからないし、それで正しい。理解など必要としていない。どちらも外道であることには変わりはないのだから、おれは真っ当ではないし、外道だ。極悪非道の極道だ。しかし暴力団ではない。

 

 そして石川が信じており、現実に目にしているのは川田組がヤクザであることだった。皮肉にも衰退がその証左となっている。

 それももう終わりかもしれないが。そう心中で独りごち、組長が咥えたタバコに火をつける。

 川田は深く吸った。車窓を開ける。しばらくして、ぽつりと言った。

 

「石川、おまえ黒崎連れて市川を探せ」

「市川をですか?」

「こんど互いのシマを賭けて卓を囲むことになった。そんなデカいブツを賭けるなんて大事だが、向こうはこっちが譲歩するだろうと高を括っての提案だ。それを飲む。飲まなきゃ食われるだけだしよ」

「しかし市川はもう」

「折れた、だが施設を抜け出したのだろう? 代打ちとしてつれて来い」

 

「わかりました」

 とこれ以上の反論を飲み込む。もとより組長の命令に反する返事など出来ないのだ。

 

 

 

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 長野の適当な喫茶店で、石川と黒崎は合流した。会計を済ませてすぐに店を出る。駐車場に待たせてある車に乗り込んだ。適当に流させる。

 東京とは違う悠悠とした景色に視線を落として石川が言った。

 

「悪いな黒崎。なにぶん火急でよ」 なんとなしに一服する。

「いや、組のシマを賭けてのことならしょうがねえさ。しかし今更に市川か……使えると思うか?」

 

 本来であれば黒崎は若頭である石川にこのような口の利き方は許されない。しかし二人が往来の馴染みであることから、公の場でない限りは砕けたものだった。

 そもそも黒崎は前任の若頭で、市川が破れた責を追われての失脚だったが、やつのその後の破滅的な暴虐を伝聞するに、むしろあそこでやつの倍プッシュ案から見切りをつけた判断は最良だった。やつの通った道にはぺんぺん草の一本も生えていない。相対せば大抵が塵芥に霧散する。

 事実、過去に浦部という代打ちで川田組を嵌めようとした藤沢組は、川田組に雇われたやつによって大きな痛手を負ったのみに留まらず、それを切っ掛けに大幅に弱体化した。 ――その場に居合わせた悪徳刑事、安岡が藤沢組の痛手をマル暴に売った事が起因するのは想像に容易い――

 他にも肝の冷える話はいくつかある。やつを知らぬ者にとっては尾ひれの付いた噂に過ぎないだろうが、それは幸福な場合だ。やつを知る者にとっては、自身に降りかかっていたかもしれない災厄なのだから。

 そのことを石川が組長に口添えし、黒崎は若頭補佐という立場に収まっている。

 

「どうだろうな。組長が言うには、不自由ない施設から抜け出したということは、何かしらの目的あってのことだ。その目的に関しての取引を持ちかけろと」

「なるほどねえ。ま、シマを賭けてのことなら相手は相当の打ち手を用意するだろうし、敗北は代打ちにとっちゃあ顔に傷がつくようなもの。いまの川田組に雇われても、デカい勝負に負けたという看板を背負う可能性があると苦しいだろうな……ところでこのにいちゃん誰?」

 

 と、今更に黒崎。後部座席で石川の隣に座る青年を指差す。

 

「ああ、オサムか。こいつは市川が入っていた施設のオーナーだよ。堅気だが、やつのおもちゃ工場時代の元同僚だ。ほんの数局うちの代打ちもやったことがある。いろいろ説明してもらおうと思ってな」

 

 オサムと呼ばれた青年は、相手がヤクザであるにも関わらず抗議めいた口調で言った。

「市川さんがヤクザであるなら、受け入れはしませんでした」

 

「すまんな」 と石川。 「だが市川は川田組の雇われ者、ただの代打ち、言葉遊びだが堅気だよ。だから市川が代打ちであってもヤクザものならオサム、おまえだってそうさ。うちの代打ちやったんだから。おまえもヤクザだ。だいたい、あの時やつについてきたのは、おまえの意思だった」 それに市川が抜け出したことは事実だ、オーナーとしての説明責任はある。と付け加える。

 

 説明責任。その言葉でオサムは口をまごつかせた。事実は事実だった。それに、市川が気になるといえば気になる。何者なのだろうか?

 その簡素な疑問を黒崎が答える。

「昔やつと対局した、それだけさ……ま、それはいい。とりあえず、場所を探るためにも状況を固めるか。そもそも市川はなぜ抜け出したんだろうな?」

 

「市川さんにとって、施設は苦痛でしかなかったのかもしれません」 とオサム。衣との対局を想起して言った。 「でも苦痛ならなぜ、市川さんは川田組からの入所の申し出を断らなかったんでしょうか」

 

「やつに負けた責任を感じていたんだろう、市川は昔気質なところがあるからな。うちとしても苦渋の決断だった。なんせ市川は組との付き合いは長いし、内情にもそれなりに詳しい。野に放ってはかえって危険だ。敵対する組に狙われるかもしれない。安全な場所で保護しなくてはならなかった。川田組で匿ってりゃあいい話だが、勝負勘を折られた代打ちを長く置いておくと他の者に示しがつかない。そんな宙ぶらりんが数年続いたところで――」

 

「ぼくがあの時、川田組の代打ちをしたお給料を元手に介護系の起業をした」

「給料と言うかまあ……まあ、そうだ。川田組が抱える最強だった代打ちの、組は安寧の地だと思っていたが」

「ところがどっこい当の本人には獄刑で、故に甘んじていた、か」

「とういうかそれじゃあ市川さんはいま、川田組と敵対する組織に狙われるんじゃないですか!?」

 

「どうかな。いまの川田組に探られて痛い腹があるってわけじゃない。だからまあ、抜け出した事実はずいぶん前から掴んでいたが、オヤジが好きにさせろって事で干渉しなかったんだ。だが事情が変わった。川田組のシマをかけて麻雀をやらなきゃならん。しかし市川が自発的に抜け出したという事は、あの日あの時、やつに殺された過去にケリをつけたということかもしれん。おれたちには市川が必要だ」

「そこでだ、オサム。おまえ、市川の行方を知らないか」

 

 いつの間にか、車は介護施設の裏手から少し離れたところに停められていた。

 

「知っていたとしても言いませんよ」

「だろうな。一度は代打ちをやったとはいえ、おまえは堅気だし、市川もそうだ」

「なるほど、一度は代打ちをやったとはいえ、な。その金で起業して天江グループという強大なパトロンを得てうはうはと」

 

「う、うはうはじゃありませんよ」 と口早にオサム。 「天江グループには恩があります。変なことしないで下さいよ」

「しねえよ。うちのシマでもねえし、でかすぎるし。ちょっと探った感じ、クリーンだ。おれらみたいなカビは汚い宿主と共生するしかないんだよ」

 

 黒崎はタバコに火を点け、しみじみと紫煙を吐き出して続けた。

「たしか天江夫妻の遺産を相続した一人娘がいたはずだ。そいつを引き取った長野の名家竜門渕が資金運用して作られたNPO法人だったな。法人設立は天江夫妻の遺言の一つでもあるらしい。たぶん県知事にも顔が効くんだろうな、竜門渕は。金を効率的に動かす手腕もある。それにしても――」

 

 東京に比べて人口の少ない長野での人探し ――まだ長野にいるとして―― 敵対する組との対局までに市川と接触できればいいが。いや、そもそも市川がもう一度ヤクザと関わりあいを持つかも怪しい。

 しかし今の川田組に雇われるような酔狂人など……

 と、黒崎がタバコを携帯灰皿にひねりつぶし、もう一本を咥えたその時だった。前方を行く子供の団体に視線をやり、火種を落とす。

 

「うわっ、危ないなあ」

 オサムは黒崎を見やるが、彼は子供の集団の一人に焦点を当てていた。

「なあ、オサムといったか。長野ではああいうのが流行っているのか?」

 

 脂汗を流し、かろうじて顎で集団の一人を指した。石川はどれだよと視線をさまよわせる。オサムには見覚えがあった、天江衣とその友人達だった。

 

「あの、あれだよ。頬に、入れ物じゃないよな? ペイントだろ? をするのが」

「いや、その」 と数巡してオサム。まさか衣が市川と関連性があると見抜いたのだろうか? 「まあ、珍しいとは思いますけど」

 

「頬のペイントが、どうかしたのか?」 石川は黒崎のただならぬ物言いに慎重になった。

 

 黒崎は地を這う虫のように口を開く。

「なんてこった。もしもあいつの父親が手品師ならとんでもない巡り合わせだ……」

「はあ? それがおれたちの市川探しと何の関係があるんだ」

 

「関係はないがしかし……おれたちは市川を探し当てる事ができるかもしれん、契約的に」

「契約って、誰との?」

「やつとのだ。というのも、こいつはやつに関する根も葉もない噂話の一つなんだが……」

 

 

 

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 おれも人から聞いただけだが、こいつはマフィアを切っ掛けにヤクザが暴力団へと変わっていった黎明をしばらく過ぎてからの時代に起きたことらしい。

 

 ――はあ、じゃあなくてね国広さん。こっちも困ってはいるんですよ――

 

 昔気質のヤクザも、マフィアに荒らされるならって動き出したとき。じゃあどうやって表へと絡むかが問題になってくる。

 博打は当然、闇金や売春なんてやるやつは脛に傷を持っていたり、どこか世からズレたやつらばかりなもんで、たかりや弱みを握るのは簡単だった。慣れたもんさ。

 しかし例の変革の時流にあっては、表の連中に対しての定石は確立されているとは言いがたかった。そういったことは古参の組よりも新興やチンピラの方が明るい。じゃあそいつらに頭を下げて教えを請うかって訳にもいかねえ。

 

 だから力で脅す。あるいはいやがらせや弱みを握って強制的に属させる。新興や後ろ盾のないチンピラ風情はくみやすし。と、思うだろ? ところがどっこい、組織が小さすぎるが故に相手を見ると蜘蛛の子を散らしたように消えちまう。あとに残った小さなシマなんて意味がない。欲しいのは堅気を食うシマじゃない、まずはそのノウハウなんだ。

 追い込んでもいいが、別段、古参に対する害をなしていない三下相手に躍起になるのも体面のない話。事務所に銃弾を撃ち込まれた訳でも、構成員のタマを殺られた訳でもないからな。

 表へ絡もうとしているくせに、そういうところでヤクザを保とうとする。本当にけちなやつらさ。

 ま、新興やチンピラは背負う看板も持ってねえから、すぐに警察へ駆け込まれるしな。こうなるとちと面倒。

 

 だから、意図的に阿呆の振りしてそいつらのカモになってやる。適当に詐欺にひっかかってやったり、盗聴撮なんかで違法性のある言質を取ったり――こいつに法的信用性はないが、脅しにはなる――。そうやって、あえて被害を被り、いちゃもんをつけて。あるいは自作自演でそのいちゃもんから庇ってやり、恩を売る。力だけではなく理を交えて配下に置いていった。

 

 実行してみれば、意外に楽に事は運んだらしい。でかくて汚いシマはだいたい古参が仕切ってるから、新興チンピラは小さく、クリーンなところを食い物にするしかない。綺麗どころに手をつけてりゃその事実自体が弱みだからな。

 で、下っ端に吸収したチンピラどもを管理させ、表に干渉する経験を調べ上げる。そうやって、小さな新興の組織じゃあ出来ない、大人数の電話やネットを介した詐欺なんかがマニュアル化された。

 

 その影で、小さくてクリーンなシマを捨てるのも勿体無い。例えばまあ、ヤクを欲しがるようなやつが集まりそうにない、小汚い飲食店とかそのへん。露骨なショバ代なんかはチンピラのシノギだ。古参に吸収されりゃあ、大抵はビジネスライクにシフトしていってお手拭きや正月の装飾品を買わせるとかそんなもん。直接的な金銭のやり取りは古いからな。リスクがある。

 新興チンピラにとって古参の巨大な組に吸収されるということは上納金のデメリットがあるが、逆に言えば安心できるケツ持ちがついたとも考えられる。新参なんて簡単に切り捨てられるってのに、そう考えるようなやつは一定数いる。

 

 事件が起きたのは、その慢心と、古参の組への上納金によって手取りが減った元新興構成員の不満が引き金だった。

 

 

 

 元新興暴力団の舵取りをしていた人間の心境は複雑なことは想像に容易い。強力なバックがついたとはいえ、厳しい上納金。外様ゆえに手足のように扱われる現状。なにより手取りの減少が行動を起こした。

 目をつけたのは、バーやちょっとしたレストランなんかの余興や、公道でパフォーマンスをやってる人間に対してのショバ代だ。

 

 前者は公演者とオーナーとの直接契約で暴力団が介入する隙間がない。と言うより、ショバ代とはそこで営業することの対価で、例えばオーナーが合法の範囲でプロのバンドを呼んで生演奏をさせることも営業のうちに入る。それも含めての一つのショバ代なんだ。もしそこでバンドを呼んだことに対し、更に暴力団の介入の余地があるのならば、業務用品を購入する際にだって介入できることになっちまう。いちいちそんなことをしては店が潰れる。金さえ払ってもらえりゃあ営業に関しては合法の限りノータッチが原則。

 後者は難しいが警察で手続きを踏めばだいたいの場合は可能だし、日本のストリートパフォーマンスやってるやつなんて、大抵はその道の修行がてらで金もないだろうから、たかる意味はない

 

 元新興構成員はその原則すれすれで小遣い稼ぎを画策した。要するに、店ではなく余興なんかでやってくる芸人に圧力をかけた。おれが仕切ってる店で稼ぎたいなら渡すもんがあるだろ? という話。

 せこい話だが、店先のストリートパフォーマンスにまで絡みだしたらしい。店の敷地内なら、店側の許可を取ればライブなんかの騒音が出ない限りはパフォーマンスが可能だし、客寄せ目的で呼ぶところも多い。よくある風船を膨らませて犬を表現するやつとか。

 

 そういった芸人がショバ代を払えないのなら、店に根回しして雇わないようにするとか、パフォーマンス中にいちゃもんをつける。意外に思うかもしれないが、そこそこな数の芸人は払ったらしい。ああいった職は人前に顔を出してなんぼだからな。こつこつと顔を覚えてもらって、ネームバリューをつけていくのが基本。

 

 しかしいちいち芸人が来るたびに出張るのも面倒なので、そこを店側に代行させるんだ。店側に、暴力団に言われたのでしかたがない、こっちも被害者という建前を与えておいて芸人から徴収させ、元新興構成員は集まった金のいくらかをキックバックしてやる。

 そうして、ショバ代を店から回収すると同時に芸人からも小額だが金をせびるシステムが完成した。

 

 下っ端になってしまい、ショバ代を回収するためにいくつもの店を駆けずり回るようになったからこその利益。

 だがこんなものは長期的に成立しない。芸人のコミュニティ内ですぐに広まる。もしも新人だったとしても、メディアへの露出が多い大手芸能事務所に属するやつがこの仕組みに引っかかると終わりだ。すぐに大手芸能事務所のお偉方に噂は広まり、へたをすればメディア関係の上層部を経由して組に話が飛んでくる。

 実際、元新興構成員の小遣い稼ぎは前述により露見し、組に黙って懐を暖めていた事を理由に処断された。

 

 この処断までの期間に、一人の手品を生業とする人間が被害にあっていた。名前はたしか、国広。

 奇妙なやつだったらしい。店から要求されたショバ代の相場は数千円程度らしく、致命的なほどではないが、暴力団が絡んでいるという事を理由に頑なに拒絶した。頑固と言うより、ストイックに店に見切りをつけていた。

 

 当然、代わりにショバ代を払うマジシャンが余興に呼ばれることになる。

 その辺の店でのショバ代をことごとく支払わないもんだから、ちょいと店側のほうでも話題になる。

 国広の行いは正しい。それが気にいらねえんだろうな。正しい行いこそが、暴力団に言われてしかたなく徴収しているという建前の癖に共存の関係であることに対しての店側の悪を浮き彫りにさせる。人間の嫌なところだな。国広が正しい行いをしなければ、複数の店側はそのことを自覚せずにいられたかもしれない。

 

 よって制裁。店側は手品師のコミュニティ間で、国広が手品のタネをばらしているという噂をばらまいた。

 手品師にとってタネは聖域だ。そいつを小銭欲しさや注目を浴びたいがために一般人へ公開するのは禁則中の禁則。法度行為。国広は干された。このままじゃあ食いっぱぐれる。もともと大手からは人気がなかったしな。

 

 ところで国広には娘がいたらしい。妻の事は知らん。で、まあその娘がそこで巡業に行ってる父に会いに来た。その街の手品師コミュニティにハブにされているとは知らず。

 どうやら娘も手品には興味があったらしい。それが原因かどうかは知らないが、とにかく父親が村八分にされているようだと肌で感じたのかもしれない。あるいはコミュニティに顔を出し、国広の娘であることを口にして連中に渋い顔をされたのかもしらん。詳しいことはわからん。

 心境はさぞ複雑だろうな。こいつは想像だが、久久に父親に会って甘えでもしようと思っていたところ、まさかの鼻つまみ者になっているわけだから。親父の情けない姿ほど、ガキには苦しかろう。逆もまた然りだ。国広としても見られたくはなかったはずだ。だから、二人はあえて傷口に触れずに再開を喜んだんじゃねえかな。

 

 ざっくりと空いた傷心を視界の端に収めたまま、 ――国広が巡業に出てるって事は地元は田舎だろうさ―― 辛酸を舐めさせられた都会の街をちょいとばかり案内してやり、薄い財布からそこそこ美味い物でもご馳走してやったかもな。まさかてめえのガキ相手に仕事の愚痴は吐かねえだろうから。

 

 数日して、娘は帰った。

 国広はめげずに営業を続けた。ところがばったりとショバ代を集金しにきたチンピラと鉢合わせした。そのチンピラが言った。

 

『よお、国広さん。よお。たがだか数千円をケチり続けたせいでケチが付いたな』

 

 国広は黙ってチンピラを眺めた。

 

『そういえば国広さんが除け者にされてる手品師のコミュニティに娘さんが顔出したらしいな。金に困ったら、いつでもうちにその子を連れてきなよ。ブスならすまんという話だが』

 

 揉め事もなく、その場は国広が引いて収まった。だがその翌夜、おそらくチンピラの後を着けたんだろうな、元新興構成員どもがたむろする、みすぼらしいバーのドアを叩いた。バーというのも怪しい店だ。雑居ビルの二階の一室にある、そいつらの根城のようなものかもしれん。

 まだ営業時間内だったが、場所が場所だけにまともな客は少ない。

 

 国広が入ると、チンピラが卓を囲んでいた。卓っつったって、大したもんじゃない簡易的なもんさ、緑色の正方形のマットを木枠で囲んだ程度の安物をボックス席に置いているだけ。チープな牌をじゃらじゃらやっていた。当時、すでに麻雀ブームの火は付いていた頃だったから。

 店は煙草の紫煙が立ち込めていて、僅かな明かりがそれを映し出していた。グラスを磨くバーテンが一人と、チンピラと兄貴分が二人打ち。実際はサマの練習。

 他にはくたびれたアル中と、ひとりカウンターの端で煙草をくゆらせる初老の男。

 

 チンピラが国広の姿を認めて言った。

『よお国広さん、娘さんは?』

『わたしたちに関与するのをやめろ』

 

 その返答に兄貴分とチンピラは互いに顔を見合わせる、国広はまるで別人のようだった。しかし半笑いで再びチンピラ。 『そりゃかまわんさ、出すもん出してもらえりゃ』

『反社会勢力に払う金はない』

 威圧するチンピラを押さえて、兄貴分が言った。

『いいよ、じゃあおれらにじゃなくてこの店に卓代を払うってのは? つっても、あんただけ御免にしちゃあ他のショバ代を払ってるやつらに示しがつかねえから、額はそれなりに高いよ』

 

 兄貴分は要するに、ギャンブルで片を付けようと持ち掛けた。国広が勝てばショバ代の見逃し、負ければ当然にケチなショバ代なんか目じゃない金。だが、国広の要求はそうじゃなかった。

 

 国広は無言でそこそこの厚みのある封筒を卓に投げやった。中身は通帳、印鑑、現金。

 

『準備万端ってわけかい、おい』 バーテンを見やる。するとバーテンはまずカウンターの男に店を閉めるという旨を伝えた。

 よくやる手だ。部外者を締め出して、何が起こってもいいようにする。あるいは、バーテンを含めた面子でやるから店を閉める。

 どのみち、そいつらはハナからギャンブルなんてやろうとはしてない。負けるとわかりゃあもみ消す気なのさ。負ける気もないだろうが。

 

『すみません、お客さん』 と、ここでバーテンはカウンターの男が初老でないことに気付く。薄暗い店内に白髪のせいで老けて見えたが、顔だちはまだ青年といったところ。

 

 恐らく、やつ。というのがこの噂の噂たる根拠だ。やつが残した忌まわしい痕跡であり、凄惨の警句であり、都市伝説として裏で囁かれるおとぎ話のひとつ。だが後述の点からして、おれはこの白髪の男をやつだとは思えない。

 

『おれはここで待ち合わせしてるんだがな』

『きょうはもう閉店なんで』

『おもての営業時間にはまだ早いだろ』

『閉めるんで、どうも』

『ケチな卓のためにか、三麻でやれよ』 と、白髪の男。吐き捨てるように。

『サンマアレルギーなんだよ』 兄貴分がチンピラを顎で指して笑って言った。 『ならあんちゃんがバーテンの代わりに入るかい? 出すもん、出してもらうけど』

 

『命を賭けるなら、いい』

 カウンターの男はちらと背後のボックス席を囲む国広と兄貴分、チンピラを見やる。そこには、つまらない冗談を聞いたという表情。興味を無くしたように背を向けてグラスを傾けた。

 

 おそらく国広としてはバーテン以外の人間が卓に入ってもらった方が助かる。三人でのコンビ打ちをされる事は覚悟の上だろうが、可能な限り避けたいところ。が、無関係な人間を巻き込むのも正道ではない。

 

『悪いが、出て行ってくれ』

 国広が卓の上の封筒から一枚抜きだし、カウンターまで行って白髪の男の前に置いた。チンピラたちは、まあ一枚くらいで丸く収まるならと特に何も言わない。

『もう、どこに行っても、おまえたちのようなやつらばかりだ』

 白髪の男は金に手を付けず、棘を含み、むしろ腹立たしさすら感じられる口調で呟いた後、侮蔑の眼差しで国広を一瞥してバーテンに新しくスコッチを注文した。

 

 いったい何がここまで白髪の男を苛立たせるのか。アル中はぼんやりとそのさまを眺めて思ったらしい。まるで同じ空間にいる事自体が苦痛のような、静かな怒り。それに、もう、ということは、以前は白髪の男を辟易とさせない人物がいたのだろうか。だとすれば、その人物とツルめばいい。

 バーテンは粘り強く言った。

 

『高いですよ』

 

 白髪の男は足元のボストンバッグをカウンターに乗せる、好きなだけ取れと言った。バーテンがバッグを開けると、札束が詰まっている。おもわず兄貴分を見やった。

 

『それであんたの未払いのショバ代を肩代わりしてもいい』

 だからおれには構ってくれるなという言葉が省略されていたのは誰の耳にも明らかだった。

『わたしはショバ代を帳消しにしてもらうために来たんじゃない、きみの言っていることは不愉快だ』 と、国広。 『二度と、わたしと、わたしの家族に関与するな、探るな、そう言いに来た。きみの言い方では、わたしがこいつらに頭を下げに来たと言っているようなものだ』

『いいじゃん国広さん』 いつの間にかカウンターのバッグの中身を覗きこんでチンピラ。 『それで、いいじゃん。おれらは娘さんにも関与しない、この男は酒を飲む、あんたは帰る。万事収まる』

『わたしは戦いに来た、妥協しに来たんじゃない。余計な世話だ、帰ってくれないか』

 

 戦いにって、とチンピラと兄貴分は苦笑した。

 

『嘘くさい話だ』 白髪の男が国広に視線をやって口を開く。 『戦う、という言葉で鼓舞しているだけなんじゃないのか。そういう人間は掃いて捨てるほどいるし、見てきた。うんざりするよ』

『きみがこいつらに払いたいなら勝手に払えばいい、ワンショットに大金を掛けて飲むのも、きみの金と問題の解決策だ、好きにしろ。だがわたしの問題はわたしのものだ』

 

 ふうん、と白髪の男は国広と刺すような視線を合わせたまま言った。 『なら、おれが入る』

『うん?』 とチンピラ。

『バーテン入れるから店を閉めるってんなら、おれが入るから店やれよ。その金、賭けてやるから』

『こいつはもう、スコッチ代に消えたんだがな』

 兄貴分が勝手にカウンターの中に入ってショットグラスに酒を注ぐ。

『清算は店を出る時だろう』

『てことはあんたが勝っても飲み代としてバッグの金は貰うし、つまり負けたら二倍の金を払うって事でいいんだよな』

 

『それでいい。時間がないんだ、さっさと始めよう』 ちらと白髪の男は壁掛け時計を見やる。

『ほんとに待ち合わせしてるんか?』

『帰ってくれ、きみを巻き込みたくはない』

『こいつはもう、おれの問題でもある』

 

 いったい何が引き金となって白髪の男を行動させたのか、その場の人間の誰もわからない。

 ルール決めもそこそこにサイが振られた。国広の金はともかく、白髪の男の金を扱うにして適当すぎるのはやはり、結局は暴力で帳尻合わせしようって魂胆。アル中がひとりぼうっと眺めているが完全に部外者、どうとでもなる。いざとなれば仲間を呼んでもいい。

 

 だからサマや通しは当然やる。

 兄貴分とチンピラは真剣に打っていない。国広はもちろん一般人だし、白髪の男の素性は不気味だが大金を手にしているわりに護衛が付いていない事から筋ものではなさそうだ。それに、どうせ自分たちは外様の下っ端なのだから、いざとなったら金を持って海外にでも逃げればいい。

 

 つまり、そいつらにとってはまるでお遊び。どう転んでも金が手に入るのだから。

 雑なサマによるアガリを数度繰り返すと、国広は首の皮一枚の点棒しかない。

 手品師の端くれである国広にとっちゃあ連中の不細工なサマなんぞは簡単に見抜けそうなもんだが、指摘はしなかったらしい。まあもみ消されるだけと開き直っていたのかも。

 

『言い忘れてたけど、うちじゃあ誰かがトンだ時点でトップが総取りだから』

 

 だから兄貴分は、そんな恥っつうもんを知らねえ口を利きやがる。

 アル中にも勘付かれる適当さで役を偽造し、三巡目にリー棒を放った。たぶん国広を殺せる手。

 

 アル中はこの時、国広の背後でちびちびやっていた。だから見えたんだろうな。その巡目にして恐るべき、国広の【白】単騎待ち小三元。有効牌は三枚。そして上家である白髪の男のツモ切りを。

 白髪の男は左手でツモを盲牌した後。明らかに下家の国広へチラと手を傾けてから切った。

 が、おかしい。その流れるような動作の間に見せたはずの萬子は、河に放たれた時に【白】へと変化していたのだから。アル中は瞠目した。手出しではないのだから、神速の技巧で山とすり替えた?

 

 が、国広は倒牌しなかった。黙殺して山へと手を伸ばす。なぜ見逃す? この局面で? 中途半端なルール決めに自棄か。というか、白髪の男は、手出しではないのだから単純に自分の山の牌と入れ替えただけ、という結果に終わる。終わったからよかったようなものだが。サマをしてまで、なぜ?

 客観的に見れば、白髪の男は国広を助けたと見て取れる。少ない巡目で正確に国広の待ちを見抜いて。なのに国広はその手を振り払っている。

 

 国広はひょっとしたら最後のツモに賭けたのかもしれない。だがやはりツモにこだわる理由はわからない。ロンアガリにより白髪の男がトブのを危惧してか? しかし少なくとも白髪の男の点棒は、兄貴分とチンピラによる国広狙い撃ちの現状によってさほど変動しておらず、場を見るに小三元からなる最高打点でも枯れない。それに国広はこのツモでアガらなければチンピラたちのサマによってトバされることは必至。

 国広はツモ切り。アガルことはできなかった。アル中から見れば愚かしいと言わざるを得ない。白髪の男より垂らされた蜘蛛の糸に一瞥もくれてやらなかった。国広の下家であるチンピラが、手牌から兄貴分のツモ牌を入れ替える事は明確。これで兄貴分は確定ツモアガリ。国広はトブ。有り金を奪われ、会話から察するに家族を養う事は難しい。まあ妥当なところで漁船に乗るしかない。

 

 ポン、と国広の打牌に発声したのは白髪の男だった。笑っているようにも見えるがしかし不気味だった。悪魔の笑いだ、悪魔が笑う時は人間の幸福ではなく、悲壮だ。

 そうして打ち出されたのは再びの【白】。アル中は確信した。白髪の男は国広の待ちを理解し、その上で流した助け船。だが最初から手牌にあったのなら先ほどのツモ切りで山と入れ替える必要はなかった。という理由からすれば恐らく、その【白】もまたサマでどこからか引っ張ってきた。

 

 国広は山に手を伸ばす。

 

 いったい何が国広をそこまでツモアガリに拘らせるのか。後になってみればその理由は見えてくる。国広はアガリ方に固執していたんじゃあない。サマによるアガリを拒絶していた。

 国広が麻雀に対するサマ行為をここまで排他的にするのかはわからない。平時ならわかる。マナー違反というモラルがそうさせる。だが今は一事が万事。サマだろうが他人の助け舟だろうが、すがりつくが必然。国広はおかしい。

 おかしいのはサマに対するあり方だけじゃない。ちょっと考えればチンピラどものねぐらに立会人もなく単身で乗り込むなんてイカれてる。どうせ暴力でなかったことにされる。理に、適ってない。

 

 だが博打において運命とも表現すべき現象があれば、きっとそいつは博徒に苦難を課し、表層的な逃げ道を見せては偽りの終幕へと誘うだろう。そういった小賢しいしがらみの合切を捨てた者にのみ、その者が望もうが望むまいが、賭したモノに比例した結果を押し付けてくる。

 てんで荒唐無稽の精神論。しかしやつを見たことのある人間は、まっこうから否定はできない。

 

 故に自摸は因果した。

 

 国広の倒牌された手を見て、兄貴分とチンピラは苦い顔で点棒を放る。門前、発、中、三暗刻、小三元。50符7翻の12000。

 また、【白】二連打という事情から、白髪の男はチンピラに袖を調べられた。

 

 『あんちゃん、ヤクやってんの?』 と、左腕の注射痕を指してチンピラ。

 

 ここが、白髪の男がやつであると信じられない部分だ。やつがヤク打つなんて信じられねえし、考えたくもない。

 白髪の男は無視して続きを促したが、洗牌を終え、砌牌の途中で思い出したように言った。

 

『この店でサマやった時の扱いってのは?』

 

 兄貴分は牌を握り込んだ拳を硬直させ、しかしなんとでもないという口調で答える。

 

『チョンボと同じ扱いだ、うちじゃ親子関係なく全員に3000』

 

 なるほどと、白髪の男は点棒を卓に置いた。18000点分。

 

『どういうつもりだい?』

『さっきの局で【白】を二度抜いたから18000』

 

 前の局なら関係ない。と兄貴分は言いさして止めた。ならこの局は関係あるんだなと言われて、手に握っている牌を指摘されては面倒だ。

 それにしてもひょっとしたら、この局で国広をトップへと押し上げて自分はトブつもりなのだろうか。ありうる。百点でも国広がトップ状態になった瞬間にサマやチョンボを連発してトブ。名案だ、面倒くさくなったらやってもいい。

 が、それは見当違いも甚だしかった。

 

『ロン』

 

 チンピラは耳を疑った。白髪の男は国広の捨て牌で、確かにそう宣言したのだ。

 こうなると訳がわからない。白髪の男は国広を助けたいのか殺したいのか。違う、そんな次元の話じゃない。先のサマの告白は謝罪でもなんでもない、白髪の男から国広への、宣戦布告だった。

 

 国広から点棒を受け取り、白髪の男が言った。

『あんたが勝てば、あの金は』 とボストンバッグを顎で指し。 『あんたのものだ。おれが勝ったら、あんたはどうする』

『そんなものはいらない。あぶく銭で家族に飯を食わせろというのか、ギャンブルで得た仄暗い金で? そんな金などいらない。きみが勝てば封筒にあるわたしの全財産はきみのものだ』

 

『たしかに』 白髪の男はここにきて初めて人間らしい苦笑を見せた。マッチを取り、煙草に火を点ける。 『悪かったな。ここのところ、ずっと燻っててよ』

 

 開局したものの、兄貴分とチンピラたちは蚊帳の外だった。二人の鍔迫り合いに付いていくのがやっとの状態。むしろ二人は、チンピラたちがトバないように気を使わなければいけなかった。

 国広の麻雀歴はちょいと齧った程度、らしい。にも関わらず白髪の男とやり合えるというのはやはり、運命を味方につけているから。誰も口にしようとしない不合理という劇薬を飲み込んだ作用、サマを徹底して否認する信念の加護、金を無下にする無欲からの強力な支援。

 そして娘の為に戦いに来た男への祝福。

 

 覚悟と、賭けるモノがその場の誰よりも高潔で尊く、触れがたい純度を誇っている。その意味では当然なのかもしれない。

 

『熱が、足りねえんだ、どうもな』 不意に白髪の男が言った。 『だから燻っちまう。おれが勝ったら、あんたの一番大切なものを貰う。かわりにあんたが勝てば、おれの命に代えてでもこいつらの組があんたに関わる事を阻止する。ってのは? どうも金や命以外を賭けない人間と打った事がないから何を賭せばいいのか』

『命に代えても?』

 

 怪訝そうに聞き返した国広をみやった白髪の男の瞳の温度に、アル中の酔いは冷めた。願いの対価に魂を求める悪魔のよう。

 兄貴分とチンピラは目配せした。組どうしで話をつけるという口ぶりからして、ひょっとしたらどこかの組がバックにつく博徒に絡んだのではないかと心配しだす。

 

『どうせこいつら、この卓の約束なんて守ろうなんてハナから考えちゃいない。おかしいのは、あんたがそれを承知で打ってるってことだが』

 もはや眼中にあるのは国広という敵だけだ。敵……いまになってみれば、白髪の男は敵を渇望していたのかもしれない。

『こいつらが娘に近づこうとしたから、それが気に入らなくて戦いに来ただけだ。さっき言ったとおり、金目のものはない。だが大切なものはある』 言ってシャツの胸ポケットから一枚の紙切れを覗かせた。 『娘の写真だ、誰にも渡せない。これがあったから、離れて暮らしていても生きていけた』

『じゃあそいつを貰う』

『渡せない』

『だからいいんだ。生憎とおれはその写真ほどの価値のある物を持ち合わせていない。だから、せめて命に代えてでもこいつらの組と話をつける、というわけ』

『その言い方では、まるできみの命は写真以下だ』

『写真自体はどうでもいい、何が映っているかは関係ない。あんたが生きてこれた、という価値が付与された、つまり拠り所、生きがいと安寧が施された命綱に釣り合うほどの情報量を持つ物を、おれはたぶん持っていない。だからあんたの一番大切なモノ、という条件と対等性のある物を出すしかない』

『わたしの心の癒しという不定形が欲しいのか、それがきみの命と等価だとでも? きみは狂っている』

『あんただって正常なもんか』

 

 白髪の男は喉を鳴らして浅く笑った。

 

『なあ国広さん』 不気味なモノでも見るような表情で兄貴分。すでに八千点を切っている。 『あんた、本当におれたちが手を引くと思っているのか』

『娘に手を出すなら、容赦はない』

『その容赦ってのがわからねえな。面が割れてない構成員もいる。娘さんの事なんて、ちょいと調べりゃ居場所なんてすぐにわかる。四六時中、娘さんを守ってやる事なんてできやしねえ。要するに、あんたはおれたちに容赦される側であって、する側じゃねえんだよ』

『手を出せば、殺す。わたしの命に代えてでも』

 

 国広は役満の手を倒して、そう言ったらしい。

 

『国広さん、あんたやりすぎだよ』 と、役満に放銃したチンピラ。一拍置いて叫んだ。 『こんな無茶なアガリが許されると思ってんのか!』

 

 兄貴分は洗牌しようと手牌と山と河を崩したが、あくびをすると興味を失ったように途中でやめた。涙目を擦りながら、白髪の男に言う。 『あんちゃんも、もう帰んなよ』

 

 白髪の男は、手を伏せる。心底シラケたといった表情。 『なぜわざわざじぶんからトブ』

『あ?』 と、兄貴分。

『場を崩したチョンボの罰符で、おまえはトンだ』

『ばか言うな、認められるか、こんなアガリ。金置いて帰んな』

 

 白髪の男はマッチを擦り、煙草を浅く吸った。そのまま火の点いたマッチを箱に戻すと同時に、肩から背後へと投げやる。引火したマッチの束が火球となって、背後より忍び寄るバーテンを瞠目させた。

 と同時に席を立たって振り返りざま。飛んできた火球を避けたバーテンの顔に拳を叩きこむ。バーテンの手にはナイフが握られていた。てめえ、と怒声を上げたチンピラの鳩尾を蹴り、胸元を掴んで窓へと投げ飛ばした。ガラスが割れ、鋭利な音が闇夜に響く。肉塊が道路に打ち付けられる鈍い音が後を引いた。

 

 兄貴分が瞬時に胸元へと手をやり、拳銃を引き抜く。狙いは白髪の男、この距離なら絶対に外さない。というところでバーボンウイスキーのボトルを頭に打ち付けられて気を失う。やったのは国広だ。

 

 アル中が固唾を飲む。この二人は狂っている。

『どうしてサマを拒絶したんだ』

 一息つき、白髪の男が煙草を差し出した。

 逡巡して国広は抜き取り、禁煙してたんだがな、と呟くとマッチを擦り、深く吸う。美味そうに吐き出した。

 

『酔った勢いでな、昔、娘にサマを教えてしまった』 咥え煙草でカウンターまで行ってグラスを二つ取る。底に血の付いたバーボンボトルから注いだ。

『それで?』 白髪の男はグラスを受け取り、傾ける。

『大会で、やらかした。こないだおれを訪ねて来て、そう報告してくれた。泣きじゃくりながら。教えなければよかった。おれが遊び半分に教えなければそんなことにはならなかった』

『フムン』

 

『きみはどうしてこいつらに絡んだ。スリルが欲しかったのか。こんなことを繰り返しているのか。いずれ死んでしまうぞ』

『そうかもしれない。いや別に、気まぐれさ。死ねばそれまでの話』

『燻っていると言ったな。燃えれば灰になるだけだ』

 どこかしら、羨望すら見える視線で白髪の男が答える。

『不完全燃焼に終わってしまった。あんたはおれから見れば燃えていたよ。灰になって霧散するのかい』

 

『娘の為なら苦ではない』

『同じさ。おれの為なら、苦じゃないんだ。おれが死ぬことは』

『きみは……』

 言いさして、やめる。グラスを一息で干すと封筒をポケットに入れてドアに手を掛けた。振り返り、重そうに口を開く。

『……きみは、そのどうしようもない狂気を収める術を知らないんだな。独り身だろう。友すら、いない。違うか? きみに家族はいない。自分の命を惜しむ者がいないから、死を恐れていない』

 

 白髪の男は答えない。グラスを揺らして液体を弄ぶ。

 

『年長者として願うよ。きみに友ができることを。たとえ血がつながっていなくとも、家族と言ってくれる人物と出会う事を。心から』

 

 国広と入れ替わるようにヤクザが入り込んできた。といっても、チンピラどもの組の連中じゃない。白髪の男を代打ちとして契約している組さ。待ち合わせはそいつらとらしい。

 迎えの車に揺られ、ヤクザにあれこれ聞かれて白髪の男はうんざりしたそうだが、ヤクザにしてみりゃあ、待ち合わせの店の前でチンピラが倒れてるし、店の中にも頭から血を出してる人間がいるんだから当然。で、麻雀の話になる。

 それがこの噂の出所ってわけだ。

 

 

 

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 おれは信じない。と石川が車中の灰皿に煙草をもみ消した。

「ホラ話だ。なんでやつがその辺の手品師に負けなきゃならん? それに左腕の注射痕ってのも気に入らん。やつがヤクに依存しているなんて話、聞きたくもない」

「だから噂なのさ。やつが負けるとすれば己自身か時間によってだけだろう。ただそれでも、娘の為に戦いに来た父親になら勝ちを譲るかもしれないと考える人間が一定数いるのも、噂の存在自体が証明している。半端な悪に負けるなんて考えられねえ、でも負けではなく勝ちを譲る事があったとして、それが娘に対する愛情であれば納得はできる。信じる信じないは人それぞれさ。やつはまぎれもない悪だ。しかし親切な悪だよ。聞けば一度、オサムをカモにした同僚から金を巻き上げたりしたそうじゃねえか」

 

「まあ、言われてみればですけど。でもどうしてそれが市川さんを探し当てる事ができるという理由になるんですか?」

「国広ってやつはその後、居づらくなったのか街を出て稼ぎ場所を変えた。ところが実はそのチンピラどもの上部組織が、今度うちと卓を囲む組でな」

 

 はあ、と要領を得ないオサムに粘り強く続ける。

 

「だからな、やつはチンピラどもを国広に関与させないと言った。そこで国広を街に呼び戻しちまえば、どうだ。事実上、チンピラどもはやつとの契約を反故にした形になるんじゃないのか」

「んな無茶な」

 

 石川は黙った。噂の真偽はともかくとして、仮定を満足する場合に敵対組織はやつとの契約を反故にする事は確かだ。だからといって超常的な力が働き、敵対組織との麻雀に勝てるとは思わない。思わないが、やつの神がかり的な力は信じている。

 もしも自分がやつと何かしらのギャンブルの結果で約束事を取り決めたなら、それを順守することは間違いない。たとえそれが、やつの眼の届かない場所でも必ず守るだろう。

 

「ま、他に手はねえしな。今のところは足で探すしかねえし。おいオサム、例の街で手品師を余興として呼んでも不自然じゃない施設を使って国広と契約を結べよ。どっかあんだろ、天江系列の伝手を使えばそこそこ大きいところがよ」

「どうしてぼくが暴力団の使いっぱしりみたいな事をしなくちゃならないんですか」

「おれらは関係ねえよ、ただ国広ってやつの契約先を見つけてやろうとしてるだけじゃねえか」

「でも、そうして敵対組織を契約反故の形に持っていくつもりなんでしょう? そうすることで川田組が賭け麻雀で勝つように」

 

「勝つ保障なんてない。オカルトさ、やつの悪魔じみた力を背景にした願掛けのようなもんだ。それにおれたちヤクザもんを意図的に援助したという証拠にもならん。別にいいんだぜ? 嫌なら。こうしよう、おまえは堅気だ、故に入所者に関する責任がある、違うか?」

「それはまあ、そうですが……」

「市川は天涯孤独でな。成年後見人はうちの者がやってる。その線からおまえんとこの施設を、介護責任を焦点に民事訴訟をしかけてもいいんだぜ」

「ひ、卑怯ですよ」

 

「なんでだよ。後見人からすれば正当な権利だし、抜け出せるような管理になってたのは事実じゃねえかコノヤロー」

「脅してるんですか」

「いいや、正当な権利の行使を伝えただけだ。だがまあ考えてもみろ、国広はエンターテイナーとしての実力はあるが売れない手品師なんだろ? そいつに稼ぎの機会を与えてるようなもんじゃねえか。それのどこが悪い? 誰も嫌な思いはしない。おまえがどうしても断るというのなら、おれたちがフロント企業を作って国広を雇う、だがそうなると国広はヤクザもんと雇用関係があったという事実が残る。どのみち例の土地で国広が雇われるのなら、綺麗どころの方がいいだろ。こう考えろオサム。おまえは、おれたちの薄汚い手から国広を守るために、天江系列を利用して国広を雇ったと」

 

 

 

 オサムは介護施設の裏手に停めてあった黒塗りの車からから降車した。ちらと背後を見やると、黒崎と石川が、しくじるなよ、というような視線を向けている。厄介な事になったと溜息を吐いた。

 職場に戻ると職員から衣たちが訪ねてきたという知らせを聞き、麻雀卓が置いてあるフロアに歩みを向ける。人形のような美しい稲穂色の髪は目立ち、すぐに見つかった。声を掛けると衣が言った。

 

「むむむ、オサム」

「その言い方、気に入ったの?」

 

 オサムは衣の友達と思われる四人の少女を順に見やり、頬に星のペイントをしている国広で目を止めた。きょとんとした表情を向けられる。

 ここではなんだしと応接室に通してから一通りの挨拶を済ませた。

 麻雀部ということもあって、市川と衣の闘牌に興味があるのは理解できた。オサムは、おおよそ衣が語ったことに間違いはないと肯定する。

 

 会話に一段落すると、それまで黙っていた智紀が口を開いく。

「ということはオサムさんは、やつという人物についても信じている訳ですか?」

「うん?」

 オサムはコーヒーをすすった。

 

「市川さんが語った、悪魔のような男の事です。衣の回想が事実であると認めるのなら、回想で市川さんが語った博徒も認めているのですか」

「いや、どうだろうね。市川さんの記憶力をけなしているわけじゃないけど、ぼくは信じていないなあ」

 

 衣が頬を膨らませて抗議する。

「じぃじが嘘をついているというのか」

「そうじゃない、そうじゃないけどただ、何と言うか。過去の出来事というのは良くも悪くも過剰に表現されがち、というのはありえるしさ。いないんじゃないかな、やつなんて。他の誰かが見たと言ったわけじゃないし」

 

「いや、実はおれもやつと接点があったって人に会ったんだよ」 と純。コーヒーの紙コップを一口やって続ける。 「だから気になってさ。南郷って人なんだけど、雀荘みどりって店でやつに代打ちを頼んだらしい。その後は知らないって言ってたけど、市川さんがやつと闘って折れた日に、南郷さんは前座で市川さんと打ってたらしい」

 

 市川の独白が真であるなら、市川とやつは大金を賭けて打った。そこに南郷が絡んでいるのが奇妙だ。

 状況を整理すると、南郷は借金をチャラにしてもらうべく卓を囲んだ。メンツは当然に反社会勢力であることは想像に容易い。そこでやつに代打ちを依頼して切り抜けた。ヤクザに勝った。

 にもかかわらず、南郷が後日また市川とやつの闘いに絡むのは何故だ? ギャンブルは懲り懲りといった感じだったのに。

 

 純が聞いた話と衣が聞いた話には連続性があるように見える。南郷が勝ったヤクザと市川が属していた組織は同一のものと考えれば筋は通る。素人に負けたとあっては面子が立たず、延長戦を申し込まれて南郷も引っ込みがつかなくなった、と考えれば。

 

「こうして目撃証言が一人増えたわけですけど、やはりオサムさん信じてはいないのですか?」 と智紀。

「ううん、どうだろうね。ちょっとぼくには想像がつかないっていうか」

「市川さんの言動を心から信じていないのに、どうして三麻を断行したんですか? 衣の視線からしてもオサムさんは真摯な打ち筋をしたそうですが、それも不自然。半信半疑であるにもかかわらず、どうして誠意で打てたのかが疑問」

 

 それは、と口どもるオサムに続けて言った。

 

「ひょっとしてオサムさんも、やつについて何か隠しているんじゃないですか?」

「仮にそうだとして、どうしてきみたちがそんな幻想を知ろうとするのかよくわからないな」

「単なる興味。逆にどうして隠そうとするのかわからない」

「そりゃ、ギャンブルなんて褒められたもんじゃないからさ。知ってほしくない、という気持ちは本心だ。それに、きみたちはやつについてこれ以上深く知ることはないように思えるな」

 

「どうして」

「どうしてって、衣ちゃんと市川さんがやつについてを賭けて打った結果を見ればわかるじゃないか」

「非現実的ですわ」

「確かに、でもぼくにはどうしてもそれが結果のように思えてならない。市川さんが全てを賭けてやつについて封じようとしたんだから、少なくとも衣ちゃんがこれ以上知ることはできない、知らないでいてほしいという市川さんの信念が――」

 

「やはりどこか奇妙。市川さんのオカルトじみた情報を封じようとする力を信じているのに、やつについてのオカルトじみた狂気を信じようとしないというのは。オサムさんはやつと出会っているのでは?」

「だとしたら、答えは出ているような気もするけどな。南郷って人も市川さんも、ギャンブルなんて汚い世界にきみたちを近づけさせたくないんだ」

「ということはあなたもギャンブルを?」

 

 智紀の問いにオサムは固い笑みを返しただけだった。

 結局それ以上の情報を得ることなく衣たちは帰った。オサムも業務を終わらせて帰宅する。遅い夕食をとる。スライスされたアボカドを醤油マヨネーズにつけて一口やり、発泡酒で喉を鳴らす。あれで正しいと再考した。

 

 以前はオサムもやつの生き方が格好いいと思った。憧れてさえいた。しかしやつは悪なのだ。少なくとも自分の命を大切に生きるという事が善であれば、やつの生き方は対極しており、その点では間違いなく悪だ。そんな悪を純真無垢な彼女たちが知るという事態を防ぐのは大人の責務のように感じられた。おそらく南郷という人物もそう思ったのだろう。

 

 博徒は汚い、褒められた生き方ではない。格好いいなどと勘違いしている未熟な連中ほどカモにされる。真の博徒はたぶん、それしか生き方を知らないから博打をやっているのであって、金でも名誉の為でもないのだ。やつはおそらくそうだ。

 

 

 

 その日、一は父からの連絡に珍しいと思った。内容が、公演が決まったとの事だったので。

 


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