こんにちは。人類の裏切り者、自称『銀の魔女』リンネです。
自称というのは、私が銀の魔女と名乗った相手はもれなく世界からご退場してもらっているので、他人から呼ばれたことがないからです。悲しい事ですね。
さて、りんね☆マギカ。今日も絶賛外道中……と行きたいわけですが、本日は学校もお休みで魔法少女業もインキュベーター業も小休止といったところ。
一応ニボシ達から遊びに誘われてもいたけれど、こう見えてやることは山積みなので丁重にお断りした。
今回の土日を使えば、例の品がある程度形になりそうだったからだ。
彼女達には断る代わりに、来週の休日あたり付き合うことを約束している。
ただ断るだけじゃ家まで押しかけてきそうだったので保険の意味が強いが。
そんなわけで土曜日。
私はアリスが家事をしている傍らで、黒い箱を前にうんうんと唸っていた。
そう、キュゥべえから貰ったあのオーパーツである。
周囲には魔法によって投影された映像が無数に展開している。
それらは全て箱庭のデザインに使う資料だ。
想像力を形にするとは簡単に言ってくれるものの、素人が考えた住居など欠陥住宅も良いところだろう。
魔法というのは万能に近いがそれを使う人間はせいぜいが有能どまり。自ずと限界はみえてくる。
そんなわけで私は、気の遠くなるような構築作業に明け暮れていた。
狭い箱庭を作るだけでこれだ。一週間で世界を作った神様は半端ねぇと思った。同時に、瞬時に世界を再構築したまどか神マジぱねぇっすと思う。
現在が原作のどの時期に当たるのかは不明だが、巴マミが魔法少女になっていないことだけはキュゥべえに確認できた。
彼女の情報を渡す程度なら大したことはない。
最悪、まどかを殺害しさえすれば『この世界線は』守られる。
私にとって『ワルプルギスの夜』で都市の一つ二つ崩壊しようが、まどかが魔女になることに比べれば安い買い物だ。
捜査を頼んだキュゥべえには当然のように訝しがられたが構いはしない。
たまには私の使い魔らしく働けといいたい。
今現在巴マミが魔法少女になっていないなら、数年の猶予はあると見て良いだろう。
もし該当する少女が魔法少女になったら知らせてくれるという話になっているので、タイムリミットまでのタイマーは設置できたことになる。
『鹿目まどか』
それは私にとってパンドラの箱であり、この世界の鍵を握る少女だ。
魅力的過ぎて、生半可な覚悟で手を出せばもれなく滅びが待っている。
そんな彼女と対峙するためには私はまだまだ力が足りない。
最低でもワルプルギスを倒せるだけの戦力を持たなければ、私の描く未来は訪れない。
ハーレムを!
一心不乱のハーレムを!
……というのはまあ、冗談だが。
あながち間違いでもないのが我ながら困るところ。
だが人類の敵となってまでインキュベーターに貢献しても、その報償に荒れ果てた世界を渡されてしまっては意味がない。
その点、奴らインキュベーターは全く信用できなかった。
ノルマさえ達成できればあとはご勝手にと退場する連中だ。
私の世界は私が守らねばならない。縦え外道に堕ちたとしても。
そんなことは契約したあの時から、百も承知なのだから。
「ふぅ、疲れたよアリス。膝枕してちょーだい」
頭巾とエプロン姿の掃除装備になっていたアリスは、私の言葉に頷くとその柔らかな太腿を差し出した。
ついでなので耳かきもお願いする。
「あぁ……いいっ! そこ、らめぇ……らめぇなのぉ……!」
優しく敏感な場所に挿入された私はたまらずにビクンビクンと悶えるが、アリスは無情にも作業をやめない。
というか私のあへった言葉を理解していないのだろう。
だがそれがいい、と身をゆだねる。
まさに気分はまな板の上の鯉。
好きに料理してくれといった気持ちだ。
結局、私の小さな二つの穴は奥の隅々まで細長い棒でずっこんばっこんされてしまったわけだが、大変気持ち良かったです。はい。
アリスはいいお嫁さんになるだろう。もちろんすでに私の嫁だが。
気を取り直した私は、再び構築作業に戻る。
床には旅行雑誌や旅館の特集、豪華ホテルの内装が掲載されたパンフレットなどが散乱していた。
それらを見ながら住居の構築、機材の保管所、グリーフシードを収容できる冷凍室、その他にも工房や研究施設など魔法少女関連の建物を構築していく。
またそれらがメインとなるわけだが、ただ実用性を求めるだけじゃつまらない。
温泉設備やレジャー施設、あとは広い訓練場なども欲しい。周囲の設定は南国の海にしよう。そうなると更衣室が、シャワー室が……と、次々と構築するものが増えていく。
最終的には一つの街くらいはあるのではないか、と思えるほど馬鹿広くなった。
最後にこういう秘密基地にはお決まりの、箱庭の外側と内側で時間の流れを変える法則を付け加えた。
内部の時間を現実よりも早めるように設定にする。
ただし私の存在を鍵とし、私がいない状態では時間の流れは等倍か停止状態で保存されるように規定した。
今のところ私が中に入れば外での一時間が内部で二十四時間まで引き延ばされる計算だ。
つまり内部で二十四日過ごしても、現実では一日しか経っていないことになるわけだ。
時間操作といい物質の創造といいほんとにエネルギーがあればやりたい放題だな、インキュベーター。
奇跡二個分はむしろ安すぎたかもしれない。
私にとってはありがたい話だが。
結局土曜日で大枠が完成したものの、日曜日もまるまる使ってようやく完成した。
細かな修正は実際に使用しながらでいいだろう。なにしろ私はこれで時間的な束縛から解放されるのだから。
さっそく私はアリスとともに完成した箱庭『黒球』の中に入ることにした。
一抱えほどもあった黒い箱は球状となって私のベッドに浮かんでいる。
バレーボールくらいの大きさまで圧縮できたが、これ以上は無理なようだった。
まぁこの程度の大きさなら置き場所に困るということもないので問題ないが。
黒球の中に入るとそこでは偽りの太陽が昇り、虚構とは思えない南国の世界が広がっていた。
外の季節は初夏なので、内部とさほど変わらない温度だった。
半袖で過ごしやすい気候に設定してあるので、私も気兼ねなく薄着になる。
砂浜に海、別荘があって島の内部にいくほど建物が乱立していた。区画整理は今後の課題だろう。
私は海の水を舐めた。
だがそれは予想された塩味ではなくただの温かい水だった。
まぁ魚などいない形だけの海なので問題はない。
むしろ塩水に浸かるという行為は理解不能なので全然構わなかった。大きなプールだと思えばいいだろう。
私はアリスに自分の趣味全開の可愛い水着を着せ、自分は無難な競泳水着に着替えた。
私は自分の物は実用性重視で選ぶが、せめて愛しのアリスには可愛い格好をさせてやりたかった。
親心的な意味で。もちろん下心も多量にありますが。
そのせいかセレクトした水着のラインナップが少々過激になってしまったかもしれないが。
なに、私以外に見ている者はいないのだから、人目を憚ることもなかろうなのだ。
そんな風にアリスを着せ替えながら、半日ほど我を忘れてアリスときゃっきゃうふふと砂浜で戯れた。
途中で気持ちが高ぶってしまいモザイク修正が必要な場面になってしまったのは完全に余談だろう。
夕食は倉庫に予め補充しておいた食材で、アリスが別荘のキッチンで作ってくれた。
途中裸エプロン状態のアリスに悪戯をしかけて、あやうく包丁で怪我をしかけたことは内緒だ。
出来上がった料理は大変美味だった。
アリスの料理の腕もさることながら、最大の不安だった魔法による食料の自動生成についてもうまくいっているようだ。考えてみれば巴マミも魔法で紅茶を出して飲んでいたわけだし、なんでもありだよなと納得する。
その後、屋敷の内部を確認したり島中を歩き回ったりした。
空は暗くなっていたが街灯の明かりが設置されているので、それほど困ることはなかった。
一度アリスと黒球の外に出てみると現実ではまだ二十分ほどしか経っていなかった。
そのことにテンションの上がった私はアリスにも手伝ってもらい、その日完全に設備が移送し終えるまで休むことはなかった。
間違って黒球の中で一晩寝てしまい、現実ではまだ日を越えていないと知った時は永遠に続く日曜日に歓喜した。
だから自堕落な私がさらに三日ほど、黒球の中でアリスときゃっきゃうふふと遊び惚けたのは当然の帰結だったのかもしれない。
その合間に実験と研究は進めてはいたものの、正直遊び過ぎた感はある。
あんまり気を緩めすぎるとインキュベーターに嵌められそうなので、断腸の思いでパラダイスに一日一回、現実一時間までの制限を設けた。
実質一日ごとに日曜日がまたくるような桃源郷であまり制限になっていないかもしれないが、そうでもしないと百年でも籠り続けてしまいそうだ。
魔法少女になって限定的な不老不死の体になったとはいえ、生きるためには働かねばならないのだ。
魔法少女は皆短命であり、ほどんどが二十を数える前に死亡するのであまり知られていないことだが、私達の体はすでに人間ではなく<魔法少女>という別物になっている。
老化は一定年齢で止まるし、魂をソウルジェムとして抽出し残った肉体は魔女との熾烈な戦いを生き残れるようチューニングが施されている。
魔法を使えば腕がなくなろうが下半身が吹っ飛ぼうが、戦う意思がある限り立ち上がれる。
ソウルジェムの穢れという限界はあるものの、正直純粋なポテンシャルでは魔女という産廃品よりも魔法少女の方が厄介だろう。
幸か不幸か自らの使い方を知らない魔法少女が大半なので、私にとっては良い鴨でしかないのだが。
「これからさらに楽しくなるよ、アリス。君のお友達も増えるだろうね」
現実世界のベッドで私はアリスに囁く。
彼女はいつもの眠たげな表情のまま、ガラス玉のような瞳で私を見ていた。
私はその瞼にキスをし「おやすみ」とアリスを抱き締めながら眠った。
人間だった頃のアリスならなんと言っただろう。
そんなことを思いながら、私は夢の世界に旅立った。