私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

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 まどかドッペル解放記念。
 幕間的でちょい短めです。


第三十三話 恋するアンジェリカ

 

 

 プレイアデス聖団の本拠地<アンジェリカ・ベアーズ>。

 テディベア博物館であるこの建物に一般の来場者が訪れた事はただの一度もなく、聖団の秘密基地として現実とは異なる境界の中に存在し続けている。

 

 ここは若葉みらいの願いによって生まれた場所だ。

 彼女の友人であるテディベア達と聖団の魔法少女達のために存在するのであって、見知らぬ誰かのためになど解放されてはいなかった。

 

 そのため博物館の様な外観でありながら、その実は外敵の侵入を阻む要塞染みた仕掛けがそこかしこに仕込まれている。

 

 魔法的な仕掛けは勿論、中には仲間の一人である神那ニコが悪戯半分に仕掛けた物も多い。

 たとえ魔法少女達が徒党を組んで襲い掛かってきても、中にある宝物達を傷付ける事は叶わないだろう。

 

 それが若葉みらいの願った奇跡。

 友達を守るための大きなお家だ。

 

 ――だが不可侵であるはずの宝物殿から、何者かによって<かずみ>が奪われた。

 

 今にしてみれば、それを切っ掛けに何かがおかしくなった。

 

 みらいはかつて起きた事件を振り返り、納得する。

 当時は意味がわからなかったが、あれは今思えば必然だったのだろう。

 

 だって、アレはボクの宝物(トモダチ)じゃないから。

 

 だからきっと、奇跡による守護の範囲外だったのだろう。

 ならば初めから答えは出ていたのだ。

 

 

 かずみ(バケモノ)は、ボクの友達なんかじゃないって事が。

 

 

 

 

 <アンジェリカ・ベアーズ>内にある居住区画の一室。

 浅海サキは割り当てられた自室のベッドの上で大人しく横になっている。

 

 ここ最近の激戦による消耗と、里美による不意打ちを受けたサキは、仲間達から大事をとってニ三日ほど療養するように言われていた。

 特に里美の固有魔法(マギカ)<ファンタズマ・ビスビーリオ>を受けた事による不調は、目に見えないところで深くサキの体を蝕んでいた。

 

 規格の合わない物を無理やり接続した反動とも言うべきか、もしもあのまま里美の魔法を長時間受けていたら、サキは壊れていたかもしれない。

 

 肉体と魂が物理的に分かれている魔法少女にとって、里美の固有魔法はハッキングのような作用をもたらす。もしも里美にその気があれば、サキを操り人形にしてあたかも<憑依>しているかのように動かせた事だろう。

 

 不幸中の幸いというべきか、すぐに解放されはしたが、里美の魔法による後遺症は未だサキの体に違和感として残っている。

 

 そうして寝込んでいるサキの傍らには、若葉みらいが椅子に腰掛けサキの看病をしていた。

 とはいっても別に病気というわけでもないから、精々サキの寝顔を堪能する事くらいしかみらいにはやる事がなかった。

 だがサキに何かあった時のために待機し、同時に思い詰めたサキが里美のような行動を起こさないよう監視する意味もある。

 

 みらいも初め、自分の知らない所でサキが酷い目にあったと聞いて、内心穏やかではなかった。

 海香達から下手人である里美の訃報を聞いた時、内心では「ざまあみろ」と死んだ里美の事を罵倒していた。

 

 ――ボクのサキに手を出したんだから、天罰だよ。

 

 我慢できなくなってかずみを殺しにいくのは構わない。

 むしろ頑張れと応援もしよう。仮にみらいに声を掛けてくれていたなら、手を貸す事さえ厭わなかっただろう。

 

 だけどサキに手を出した時点で、みらいにとって<宇佐木里美>は仲間ではなくなった。

 

 これでまだかずみを殺せていたならば、功罪合わせて辛うじて許せたかもしれない。

 だが結局、無様に返り討ちにあって死んだとなればどうしようもない。

 

 最終的に、みらいにとって里美への評価は「仲間(サキ)に手を出した間抜け」に落ち着いた。死んだのも因果応報というものだろう。

 それがみらいにとっての<正論>だった。

 

 みらいにとって、物事の基準は単純明快だ。

 彼女にとって「浅海サキ」が全ての中心に立っている。

 

 だからかつてサキに向かって暴言を吐いた<神名あすみ>を排除しようとしたし、魔法で不意打ちしたという里美は、みらいにとっては単なる裏切り者としか思えなかった。

 

 そしてかずみ。

 アレはみらいにとって、何が何でも抹殺しなければならない相手だ。

 

 あのバケモノが生きて動いているだけでサキの心を惑わせる。

 つくづく、失敗した里美の間抜けに「使えない奴」と内心で文句を付けておいた。

 

 しばらくすると、サキが目を覚まして体を起こそうとする。

 だがまだ体が癒えていないのか、その表情は辛そうに歪められていた。

 

「まだ本調子じゃないんだから、しっかり休まなきゃダメだよ」

「だが……」

「もう、また無理して倒れたらどうするのさ。頑張るのはいいけど、それでサキに何かあったらボク達はどうすればいいの?

 ……ボクはもう、これ以上仲間が減るのは嫌だな」

 

 本音は、サキさえ無事ならば他の仲間達の安否は大して重要ではない。

 確かにみらいにとって仲間達も大切ではあるものの、それはサキとは比べ物にならない程度でしかなかった。

 

 サキとそれ以外の全員、天秤の片方しか生き残れないとするならば、みらいは迷う事なくサキ一人を選ぶだろう。

 

 そんな自らの価値観に従い、あまり悩む様子を見せないみらいとは打って変わり、サキの苦悩は時間を追う毎に深くなっていくばかりだった。

 サキが里美に襲われ、辛うじてカオルに事態を知らせたものの、海香によれば既に里美は死亡しているとのことだった。

 

 各自のソウルジェムとリンクしている黄金錬成陣の一角、宇佐木里美の物が光を失っているのだという。

 ソウルジェムは魔法少女の本体であり、それが失われたという事は最早生きてはいないということだ。

 

 里美の目的から考えても、相手はかずみで間違いないだろう。

 普通の魔法少女ならば、廃棄番号の少女達(ロストナンバーズ)を引き連れた里美に手を出すわけがない。

 

 実際はどうあれ十を超える魔法少女達の大所帯を襲撃するなど、考えなしか自殺志願者くらいなものだ。

 それを撃退したというかずみも凄まじいが、あのトモグイをした時のバケモノ具合を思い出してしまえば、それほど不自然とは思えなかった。

 

 事態が全て手遅れである事を知った聖団は、里美の救助も、かずみの探索もしないまま、態勢を整えるまでの籠城を決定した。

 その際、サキが<廃棄番号の少女達(ロストナンバーズ)>を匿っていた事に対しての追及は他の誰からも上がらなかった。

 

 失敗作達の存在は聖団でもタブー視されており、それでサキを一方的に責めるには、それぞれ後ろ暗い思いがあったからだ。

 だが明らかに自らの責任であるのに、誰にも責められない事がいっそうサキの良心を苛んでいた。

 

「……すまない。全て私の責任だ」 

 

 付きっきりで看病してくれているみらいに向かって、サキは思わず弱音を吐いてしまう。

 サキが廃棄番号の少女達(ロストナンバーズ)を処分できなかったのは、自らの甘さのせいだと考えていた。

 

 ミチルと同じ顔をした彼女達の事を、サキはどうしても殺せなかった。

 他の誰かに処分を任せるくらいならと、自ら志願したというのに。

 

 里美の事も、今にして思えば前兆のような違和感はあったのだ。

 もしもあそこまで思い詰める前に相談に乗れていれば、と後悔せずにはいられない。

 

 顔を伏せたサキは、深い自責の念にかられていた。

 俯くサキを見て、思わずみらいはその手を取って力強く否定する。

 

「違うよ! ()()()の処分なんて辛い役目……それをサキ一人に背負わせた、ボクらが悪いんだ!」

「……だが、処分を任せて欲しいと言ったのは私だ」

「関係ない! サキがミチルの事を大事に思ってたのはみんな知ってた!

 たとえ失敗作でも、サキがミチルのクローンを殺せるはずがない!

 わかっててボクらは辛い現実から目を背けたんだ!」

 

 誰かがやらなければならなかった。

 失敗し暴走状態にある彼女達は、人間にもなれず、魔法少女としても生きられない有様だった。

 彼女達にも魂があって、確かに生きているのだとしても、あの有様ではまともな生は送れないだろう。

 

 ならば誰かが殺さねばならない。

 和沙ミチルを蘇らせるという目的の為にも、失敗した『かずみ達』の処分は不可欠だ。

 その罪を、サキ一人に押し付けてしまった全員に責任があるとみらいは強く訴える。

 

「ごめんね、サキ……」

「みらい……」

 

 慰めようと抱き締めてくるみらいの小さな体を、サキは弱々しく支えた。

 

 みらいの言葉を聞いてあっさりと割り切れるほど、サキは器用な性格ではなかった。

 それでも自分を励まそうと必死になってくれる目の前の小柄な友人の気持ちが嬉しかった。

 サキは弱気になっていた自分を恥じた。

 

 死者の蘇生。

 それは今更引き返せはしない茨の道だ。

 

「それでも繰り返す。何度だって繰り返す」

 

 ミチルを中心に、みんなが笑顔で笑っている。

 そんなかつてあった黄金の日々を取り戻す為に。

 

「本当のミチルを取り戻すその時まで、私は――かずみ達を殺し続ける」

 

 この傲慢、この大いなる矛盾。

 他の誰にも決して理解はされないだろう。

 

 これが許されぬ大罪であることは重々承知している。 

 愚かな事であると自覚もしている。

 

 禁忌に手を伸ばし、望む未来のために屍を積み上げる。

 その傲慢さ、その罪深さに恐怖しない日はない。

 

 それでも止まれないのだ。

 サキの心が、あの黄金の日々を求めてやまないのだから。

 

 その為ならば、この身が悪魔になり果てようとも構わない。

 

「その罪を身に、心に刻み続ける。……それしか、私に許された道はない」

「……ボクも一緒に背負うよ、サキ。二人で一緒に頑張ろう?」

 

 サキの耳元でみらいが囁くように同意する。

 密着しているためみらいの顔が見えなかったのは、サキにとって幸運だったのだろう。

 

 何故ならそこには場違いな笑顔が浮かんでいたのだから。

 

 サキのような悲壮な決意も覚悟もありはしない。

 ただサキと触れ合えた幸運を喜ぶ、恋する少女の姿だけがあった。

 

 

 任せて、サキ。

 サキの為なら、ボクがいくらでも殺してあげるから。

  

 何度でも、何度でも。

 邪魔者(かずみ)達を殺すから。

 

 

 秘めた想いは決して言葉にはせず、恋する少女は想い人と触れ合えるこの時間が永遠に続けばいいと願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 感想、お気に入り登録いつもありがとうございます。
 次話はなるべく早く投稿したいと思います(汗)


○以下マギレコ雑感

ガチャ:
 これが私の絶望……(爆死)
 いくら課金したかは、クラスのみんなには内緒だよ☆(白目)

キャラ:
 みんな可愛い。
 なんだけど、課金すれば揃うというレベルじゃないですね(白目)

ストーリー:
 たーのしー(ぐるぐる目)
 いろはちゃんがエロ過ぎて困ります(薄い本はよ)

 先生……フェリシアちゃんが当たりません……。
 あとレナちゃんとかももこちゃんとか(ry
 キャラストーリー読みたくても、当たらないのがすごく悲しい。

総論:
 やっぱりガチャが鬼門過ぎて膝が震える(コワイ)
 希望が……希望が欲しいです……。
 当たる未来が見えない……。

 ストーリーは賛否両論あるみたいですが、自分は楽しんでます。
 小さいキュゥべえが無駄に可愛い()

 ちなみにマギレコ勢で今の所好きなキャラは、やっぱり調整屋さんですね。
 魔法少女達を調整するとか、ラスボス感ぱないです。(本作オリ主の事は棚上げ)

 あと夏目かこちゃんは大天使やなって。

 他のキャラも大変魅力的なんですが、長くなりそうなんでこの辺で。
 ではまた次回。

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