「夏だ! 海だ! ハーレムだー!」
私は雄叫びを上げながら砂浜を走った。
自分でも何を言っているのか意味不明だ。
今日は一仕事終わった後のバカンスとして、私とアリスの他に新メンバーであるアイナとリナを加えた四人で遊ぶことにした。
外の季節も蒸し暑くなってきていたので、次の仕事に取り掛かる英気を養うためにも、ここで思いっきり休養を取るつもりだ。
結構頻繁に養いまくっている気もするが、もともと私は勤労意欲とは程遠い存在なのだ。
働かなくていいなら一生働きたくないでござる。
そんなダメダメな私はいつもの競泳水着ではなく、ちょっと冒険したビキニタイプの水着を着ている。
……いや、一応私個人としては女のつもりなんですよ。
前世がアレだし、性格も大分アレだけど。自分でも微妙だってわかってるんだけどさ。
こう、ね? 綺麗どころが揃ってオシャレな水着してるのに、私だけ無難なセレクトって、それってどうよ? 浮いてない? などと思ってしまうわけだ。
アリスと二人きりできゃっきゃうふふしてる分にはあまり気にならなかったのだが、人数が増えると微妙に気になってしまうのだ。
私にもあったのか乙女心……などと自己について軽く哲学的な思索に陥りそうだった。
正直、誰得かと聞かれたらちょっと答えるのが難しいかもしれんね。
だが私のプチハーレムは、紛れもなく私得だと胸を張って答えよう。
アリスはワンピースタイプの水着で、麦わら帽子を被った姿はまるで避暑地のお嬢様かお姫様だ。
夏の海に金髪碧眼の美少女はとても絵になり、思わずため息が零れそうだった。
リナはもちろんスク水、それも白だ! ……と最初は思ったのだが、実際やってみたら犯罪臭が半端なかったので、ふりふりのついた可愛らしい水着にした。
何を今更……って我ながら思わなくもないが、子供っぽくていいじゃないか。見ていて癒されるし。
そして何より凶悪なのがアイナだった。
なんだあの胸は。存在自体が目に毒すぎる。
「おお……」
気が付けば私の両手は吸い寄せられていた。
そう、これこそが禁断の果実、黄金りんご。
思わずエロスなしに感動してしまった。
エロスなしに。大事な事なので(ry
……その割には鼻息が荒いだと?
これはあれだ、生物学的な知的好奇心の発露というやつで私が別ににゃんにゃんしたいお、などという下世話な話とは異なり至って真面目な学術的探求という――誰に言い訳しているのかわからないくらい、この私が若干錯乱するほどアイナの水着姿は凶器だった。
普通のビキニのはずなのにエロすぎる。
仕方ないので上にパーカーを羽織ってもらった。
これはこれでエロいと思う私は、なんかもう駄目だ。
「リンネちゃんの水着、可愛いですね」
「……ありがと、なんだか悲しくなるわー」
胸を揉みしだかれても「あらあら」とほんわかスマイルを崩さないアイナは強者だと思った。
意地でも鳴かせてみたいと悪戯心が湧き上がるが、今日はにゃんにゃんなしで行こうと決めているのだ。
お前じゃ無理だって? 馬鹿にしないでもらいたい。
この古池リンネ、理性と良識に関しては絶対の自負がある。
……あれだ。自分でも信じていないことを思うと、逆に笑いが込み上げてくるものです。
「おーい、リン姉! 早く泳ごうぜ!」
「ワン!」
リナが待ちきれないように私の腕を引っ張る。浮き輪装備で準備は万端だ。
その周りを『試作型魔法少女補助用使い魔Type<サフィ>』が小柄な体躯を目一杯に躍動させ、ぐるぐると駆け回っている。
実は思いの他オリジナルのサフィから良いデータが取れたので、戦闘補助の使い魔として量産できないか試作してみたのだ。
結果は予想以上に良い結果を得られた。
単体での戦闘は若干厳しいものはあるが多少の時間稼ぎ程度なら難なくできるし、索敵や回復補助も可能という居ればすごく便利な使い魔になった。
おまけに非戦闘時は小型化することで省スペース化に成功。愛玩動物としても優秀と実にヒット性を感じさせる出来栄えとなった。
魔法少女相手に販売を始めたらミリオンヒット間違いなし。
だが市場が狭すぎてミリオンは確実に行かないという悲しい現実もあるのだが。
何はともあれ、可愛い幼女の水着姿に元気な可愛い子犬のコンビは正に萌え。
くんくんはすはすぺろぺろくんかくんか――以下エンドレスでデュフフコポォな変質者に成り下がりそうだが、私の鋼の理性(笑)は辛うじて自身の変態化を防いだのだった。
だが私の変態化はまだ後二段階も残っている。
今日は嬉しくも厳しい戦いになりそうだと、私は偽りの眩しい太陽を仰ぐのだった。
実は生前から泳ぎの得意ではなかったリナに手を引いて泳ぎ方を教えたり、私の背に乗せてちゃぷちゃぷと泳いだりした。
後ろからギュッと抱きつかれると、母性的な何かに目覚めそうで困る。いや、まあ、あっても困りはしないだろうけど。
私とリナ、アイナとアリスでチームに分かれてビーチバレーをやったところ、アイナにポロリなアクシデントが発生。
それに目が釘付けになってしまい、勝負点をアイナチームに譲るハメになった。おのれ、卑怯なり。
昼食はアリスの作った焼きそばを食べた。飲み物はメロンソーダ。なんというか至福の一時だった。アリスの作る料理はいつも最高だが、今日はいつも以上に最高だった。
本気で私と結婚してくれ。あ、もう私の嫁でしたね、てへり。
体を動かしてお腹も一杯になれば、あとは眠くなるのが自然の摂理というもの。
なので涼しげな風の吹く場所にシートを敷き、パラソルも立ててそこで昼寝をすることにした。
アリスに膝枕してもらい、私の方は両腕でリナとアイナに腕枕をする。
アリスの膝の谷間に頭を収めた私は、気持ちのいい風を感じながら目を閉じた。
誰かの体温、誰かの吐息、暖かい風、じりじりと肌を焼く陽の光。
ああ、これが幸せなんだなと私は思った。
所詮は人形遊びによる錯覚だろうが。
誰よりも罪深く、誰よりも罰せられるべき存在で、誰よりも外道な私には、それでも過ぎた代物だ。
その報いはいつか受け取るのだろう。
だがそれは、今ではない。
ならば自堕落な私としては、その決済日を必死に延期させながらこの幸せを享受し続けよう。
この束の間の幸せを思いっきり楽しもう。
たとえ無間地獄に落とされたとしても、元は取ってやったのだと笑えるように。
ふと私の髪を撫でる感触がした。
目を開けるとアリスが私の髪を手櫛で優しく梳いていた。
「……アリス?」
意志なき人形であるはずのアリスは答えず、ただ丁寧に私の髪を撫で続ける。
その指先の感触がどこか懐かしい。
『リンネの髪は綺麗ですね』
そう言ってくれた彼女を思い出し、私は目を閉じた。
どこまでも優しいアリスの手の温もりに、私はいつの間にか眠ってしまったのだった。
目が覚めた頃にはすっかり夕方になっていた。赤い夕焼けを見ていると世界の終わりを想像してしまう。
どこかで聞いたお話では、太陽が上った瞬間に世界が始まり、日が暮れると世界は終わるのだと言う。
世界は一日ごとに誕生と死を繰り返していて、つまり夕焼けは世界の終わりの色だった。
私は厨二病だが特別にロマンチストというわけではない。
だけどこの夕焼けを見ていると、なぜだかそのお話に深く納得してしまうのだった。
そんなセンチメンタリズムな考えはバーベキュー……否、BBQの準備が整うまでのことだった。
肉の焼ける匂いは動物的な欲求、つまるところ食欲を刺激せずにはいられない。
菜食主義者の方には申し訳ないが、私は野菜よりは肉が好きな普通の肉食系女子なのだ。ある意味肉食過ぎて外道に陥っているのだが、まあそれはそれ。
アリス達、人造魔法少女も飲食は普通に可能だ。魔力によって代換えはできるが無駄に魔力を消費するのは勿体無いし、なにより一人きりの食事は私が寂しい。
「なんだこれ! メガうめぇ!」
リナが口の周りにソースをくっ付け、それをアイナが笑って拭っている。サフィも取り皿にとった料理を尻尾を激しく振って食していた。
アリスは愚直に私の給仕をしてくれているが、私があーんするとそれを食べてくれた。どこか困ったような目をしていた気がするが、まぁ気のせいだろう。はむはむと肉を齧るアリスたんマジ萌え。
食事の後は花火もやった。リナとサフィがはしゃいでいて私も一緒になってはしゃいだ。アイナはお母さん的立ち位置で見守っていて、アリスは従者としての立場を崩さずただ私の傍にいた。
そのアリスの立ち位置はまるで父親的なポジションのようだとふと思ったが、それではアイナとアリスが夫婦になってしまうので却下した。寝取られ、ダメ絶対。
……だが嫉妬の炎で背徳感を覚えてしまう私は、なかなかハイレベルな淑女ではないかと思ってしまった。変態淑女としてのアレだが。
まあ実際そうなったらそうなったで、両方美味しく頂ければそれで良いので、何も問題はないのだが。……ないのか? よく分かりませんね。
花火の締めは定番の線香花火だった。
なんで最後は線香花火なのだろうか? 物悲しい気分になって終わるってわかっているのに、それでも最後は線香花火を選んでしまう。
火花が咲く。
火薬の芸術だな、と私はそれをぼんやりと眺めた。
一瞬ごとに消えていくオレンジ色の閃光を眺めながら、私の欲望のため、その身を滅ぼしてきた少女達のことを思う。
みんな、私なんかよりずっと良い子達だった。
幸せになれる女の子達ばかりだった。
中には問題を抱えている子もたくさんいたけれど、彼女達ならば成長すれば自ずと解決できただろう。
未来とは希望だ。
それは何者にも代え難い奇跡のようなものだ。
それを目の前の即物的な『奇跡』に縋ってしまったせいで、未来を失うハメになってしまった。
その片棒を担いでいる私が言えたことではないが、本来奇跡とは目に見えない場所にあるのだと思う。
夢、希望、未来。
どれも目に見えないが、だからこそ奇跡足りうる代物だ。
結局のところ奇跡とは、叶ってしまった時点でその神秘性を失い、ただの結果に成り下がる。
そんな詰まらない物を与えられ、未来を失うハメになれば、誰もが絶望するのは当たり前のことだろう。
奇跡という対価自体がインキュベーターの齎した罠に違いない。
それを知っていてなお少女達と契約する私は、インキュベーターよりもさらに悪辣な存在なわけだが。
それでも私は、私の望む未来を手にするまで立ち止まるわけにはいかない。
ここが『魔法少女まどか☆マギカ』の世界だと知った時から、私の決意は変わらない。
何度でも言ってやる。
悲劇も絶望もお呼びじゃない。
頭の悪いハーレム展開を私は望んでいる。
最後は赤くなった丸い火玉がぽとりと落ちて、小さな花火大会は終了した。
夜はお楽しみのにゃんにゃんタイム……ではなく、普通に川の字になって眠った。私が年中発情していると思うなよ? あながち間違ってもいないけど。
今日は全力で遊んだので流石の私も疲れたのだ。リナに付き合ったのが原因だろう。後悔はしてないが。
私の腕の中にはリナがスッポリと収まり、その向こう側にアリス、背中にアイナという位置取りだ。
正直、アイナの双発ミサイルが背中に当たってむらっと来なくもないのだが、腕の中のリナの存在が歯止めをかけていた。
ほんとに私って奴は欲望に正直すぎる。
だけど、そんな私も嫌いじゃないのだ。
などと苦笑して、私はリナの頭を撫でた。
くすぐったそうに身動ぎするのが可愛い。
ふと視線を上げれば、アリスが私を見ていた。
小首を傾げると、アリスの指先が私に触れる。
「……ああ、忘れていた。ごめんね、アリス」
そしていつものように。
アリスにキスをして、私は眠った。
またこんな時間が過ごせればいいと思った。
全てが終わった後でも。何度でも。
そのためなら私は、永劫の責め苦にも耐えられるだろう。
無数の屍を積み上げ、神への階に手を伸ばそう。
その先に私の夢見た世界があるのなら、躊躇う必要などどこにもない。
だって私は銀の魔女にして、魔王なのだから。
小ネタ:一度はやってみたかったパロネタ
「私は識っている! 絶望の物語を救済する荒唐無稽な御伽噺を!」
諸君、私はまどマギが好きだ。
諸君、私はまどマギが好きだ。
諸君、私はまどマギが大好きだ。
鹿目まどかが好きだ。
暁美ほむらが好きだ。
巴マミが好きだ。
美樹さやかが好きだ。
佐倉杏子が好きだ。
まどかのママが好きだ。
先生も好きだ。
緑の子も好きだ。
だがキュゥべえ、テメェは駄目だ。
魔女の中でもお菓子の魔女シャルロッテたんは別格だ。
劇場版でまさかの魔法幼女化は、胸が張り裂けそうなほど歓喜した。
河原で、街道で、学校で、住宅で、水上で、空中で、グラウンドで、プールで、魔女の結界で、永劫回帰の中で、
この星で行われる、ありとあらゆるまどマギが大好きだ。
巴マミがドヤ顔でティロ・フィナーレし、哀れな魔女を吹き飛ばすのが好きだ。
うっかり慢心してしまい、ついマミられてしまった時など心が躍る。
暁美ほむらが魔女を相手に、無双するのが好きだ。
ワルプルギスの夜を相手に、滅茶苦茶コマンドーする姿は胸がすくような気持ちだった。
一番の功績はキュゥべえを蜂の巣にしてみせたことだということに、異論のある者はいないだろう。
美樹さやかが失恋のショックで壊れたように戦うのが好きだ。
その気になれば痛みなんて感じないと叫び、何度も何度も魔女を打ち付ける様など感動すら覚える。
佐倉杏子たんはマジぺろぺろ。異論は認める。
だが、「いいさ、一緒にいてやるよ」のシーンに胸キュンしたのは私だけではないはずだ。
劇場版でキュゥべえが大量殺戮される様などはもうたまらない。
わけがわからないよと叫ぶキュゥべえ達が、ほむ×まどによる愛の共同魔法で、雨あられと魔法の矢を射かけられ、ゴミのように蹂躙されるのは最高だ。
人間の持つ感情を怖れ、逃亡するキュゥべえを、悪魔となったほむほむが捕らえ、いたぶるようにぐりぐりと撫で回すドSな様など、思わず濡れる!
……ワルプルギスの夜に蹂躙されるのが好きだ。
立ち向かう魔法少女達が無力のままに倒れていく様は、とても悲しい。
キュゥべえの物量に圧倒され、絶望するのが好きだ。
連中に日夜ストーキングされ、家畜のようにエネルギーを搾取されるのは屈辱の極みだ。
諸君、私はまどマギを、地獄の様なまどマギを望んでいる。
諸君、私に付き従う人形騎士団員諸君。
君達は一体、何を望んでいる?
更なるまどマギを望むか?
情け容赦のない、糞の様なまどマギを望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様なまどマギを望むか?
「「「まどマギ!! まどマギ!! まどマギ!!」」」
……よろしい、ならばまどマギだ。
我々は渾身の力を込めて、今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。
だがこの昏い絶望の夜を、幾千も越えて来た我々に、ただのまどマギではもはや足りない!!
ハーレムを!!
一心不乱のまどマギハーレムを!!
我らは僅かに一個騎士団。千にも満たぬ人形と魔女に過ぎない。
だが諸君は、一騎当千の魔法少女だと私は信仰している。
ならば我らは諸君と私で総戦力百万と一人の魔法少女騎士団となる。
我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛を掴んで引きずりおろし、目を開けさせ思い出させよう。
連中に絶望の味を思い出させてやる。
連中に銀の魔女の足音を思い出させてやる。
天と地の狭間には、奴らの哲学では思いもよらない邪悪があることを思い出させてやる。
一千体の魔法少女人形の騎士団で。
世界を燃やし尽くしてやる。
「我が騎士団、首魁である<銀の魔女>より全人形部隊へ」
第一次原作介入作戦、状況を開始せよ。
征くぞ、諸君。
新章予告(微嘘):
「……あすみのことなんて、みんな忘れちゃったんだ」
銀の少女は一人、空を見上げる。
「だったら……いいよね?」
絶望の夜が来る。
嘆きの影が躍る。
悲劇の幕が開く。
少女は絶望し、世界を呪った。
「セカイがわたしを必要としないなら、わたしもこんなセカイはいらない。
めちゃくちゃに壊してやる」
希望の朝は遠い。
闇はいっそう深くなるばかり。
それでも夜空には銀の月が輝く。
「あなた、良い目をしているわ……地獄のような目」
裏切りの魔女は三日月をその口に浮かべた。
「避けようのない悲劇も、嘆きも。
すべて壊して出鱈目にしてしまえばいい。
そのための力が、あなたには備わっているのだから」
二つの銀色が出会う。
決して出会うことのなかった運命が、交差した。
機械仕掛けの歯車が回り、砂時計の砂が落ちる。
さあ、禁断の契約を交わそう。
新たな御伽噺を育もう。
だから。
「私と契約して魔法少女になってよ」
新たな魔法少女の物語が紡がれる。
夢と希望に満ちた御伽噺を探しに行こう。
世界はこんなにも広くて美しいのだから。
(作者より)
あすみんぺろぺろ。釣られた私はグリーフシードになりました。
でもこの作品、二次創作なんだぜ……別にやっちゃっても、構わんのだろう……?(死亡フラグ)