私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

14 / 61
ストック分ラスト。
いつもより長文です。
推敲が足りてない気がガガガ……後日、ちょっと見直すかもしれません。


第十四話 私と契約して、殺し合ってよ!

 

 

 

 どもーみんなの憎まれ役、外道魔法少女リンネです。

 最近、私の影が薄い気がします。これでも一応オリ主(自称)なんですけど。

 

 まぁ今回の劇中ではすでに死体役となってしまったので、もうお前引っ込んでろよって話なんですが。

 

 ところがどっこい。黒幕なので相変わらず裏でこそこそ動いています。

 自演乙の言葉が聞こえてくるようですが、黒幕なんてそんなものです。

 自分で仕掛けた罠に他人が躍ってくれるのを見て、悦に浸るような性根の悪い奴が黒幕なのです。

 

 私は清廉潔白なので違いますがね。

 

 あくまで他の黒幕さんの話です。

 私は自分の手は汚さず人の手ばかり使うので、手だけは綺麗です。

 

 内面なんて目で見えないのですよ。

 偉い人にはそれがわからんとです。

 

 ……とまあ、話は変わりますが実のところ最近新たな発見の連続で私もわりと忙しいのです。

 

 あれですね。

 慎ましやかな起伏もそれはそれで良い物ですが、新たに現れたエベレストを前に興奮するなというのが無理な話でした。

 

 自主規制? なにそれ美味しいの? と言わんばかりに自ら定めたルールを破って黒球をフル活用してしまい、体感時間では一週間のバカンスを右手にアリス、左手にアイナと私が男だったら刺されても文句言えないようなリア充性活を送っていました。

 

 三人で楽しくにゃんにゃんするのは刺激的で大変よろしかったです。

 あと声という要素は案外馬鹿にできないものだとアイナで実感した。

 

 彼女を鳴かせるのは癖になりそうだった。

 アリスではできない楽しみなので、なおさらに。

 

 とまあ、そんな私の下世話な話は置いておきましょう。

 真面目に魔法少女の話に戻るとします。

 

 まずアイナ先輩の能力だが、相変わらず補助特化型なのは変わらないが今後増え続けるであろう人形達の指揮官となるべく、いくつかの新機能を付け加えることにした。

 

 ぶっちゃけ私が一々指示を出すのは面倒なのでさくっと代行できるよう調教……間違えた、調整したわけだ。

 

 私が目指すは、私の私による私のためのハーレム――またの名を『人形騎士団』の結成だ。

 

 アイナはその頭脳、その先行試作品である。

 試作品とはいえ、これからも大事に大事に仕上げていくつもりだ。

 

 だが現状、我が麗しの姫騎士アリスと癒しのエベレスト兼指揮官となるアイナしかいない現状では騎士団を名乗るにはメンバーが少々どころか全く足りていない。

 

 まぁ設立予定の騎士団に関しては、気長に仕上げていくつもりなのだが。

 変なのを加えても仕方ないし。

 

 その点、今のエトワールの残存メンバーはそれなりに有望だ。

 ユリエにはあんまり食指が動かないが、ニボシちゃんとアリサちゃんは手に入れても良いかもしれない。

 今後の展開次第かな。

 

 さてさて、私ももう死んじゃったことだし。

 残された茶番を観覧しようじゃないか。

 ココアでも飲みながらね。

 

 全ては我が掌の中に。

 ……あ、なんだかこれ黒幕っぽいかもかも?

 

「それでは行ってきます、リンネちゃん」

「行ってらっしゃい。アイナ先輩」

 

 制服姿のアイナ先輩が通学前の挨拶を私にしてきた。

 その姿は生前となんら変わりない。

 

 私はもう舞台的には死んでいる身なのでお留守番だ。

 さらに言えば学校から私がいた痕跡をすでに消去済みなので、今更学校に言っても魔法少女以外の人達にとっては「誰こいつ?」状態だったりするのだ。

 

 元々が魔法で記憶を操作して潜り込んだ不法入学者。

 それも常習者なので後始末のノウハウもすでに万全だ。

 

 我が家の独自ルールである「行ってきますのキス」とともにアイナ先輩を見送り、私はアリスを侍らせて部屋の中をゴロゴロすることにした。

 

 手持ち無沙汰だったので魔法の改造をしたり、黒球の設定を弄ったりと時間を潰す。

 そうこうしている内に状況が動いたのは、私がブランチにたらこスパを食していた時のことだった。

 

 リナの使い魔サフィにインストールしていた結界機能が働いたのを計器が感知した。

 どうやらリナは、真昼間から堂々と襲撃するつもりのようだ。

 

 ちなみにサフィの見た目はただの犬だが、中身は魔女の使い魔とほとんど変わらない。

 純粋な正の魔力で構成されるため、使い魔のような狂った外見をしていないだけと言っても良いだろう。

 

 私がサフィに付与した結界機能は、ぶっちゃけ使い魔が元から備わっていた機能を強化しただけの代物だった。

 

 ただし結界に取り込むのは魔法少女限定と、多少のアレンジは加えてある。

 そのため展開した瞬間、魔法少女の素質を持つ者のみ強制的に結界に取り込まれることになる。

 

 今回の場合、世間の目を気にせず戦うことができるだろう。

 そしてその様子を、私はサフィの体内に仕込んだ術式から状況を逐一モニターに映し出していた。

 

 なんだか最近は鑑賞ばかりしている気がするが、私にとっての仕事は事前準備の段階でほぼ終わっているのだ。今はただの確認作業に過ぎない。

 

 勝敗とは戦う前に決まっている。

 偉い人も言っていた。

 

 指揮官は指揮するのが仕事だ。

 なので今回脚本家の私は、脚本を書いた段階で仕事は終わっているのだ。

 後は舞台上の役者の仕事だろう。

 

 私手ずから演劇指導、あるいは教導した愛しい教え子が主演の、これは復讐劇だ。

 きちんとボスキャラも用意したのだから後は勝手に仕上がってくれるだろう。

 

 黒幕は私ですけど、倒される予定はありません。

 ラスボス系魔法少女りんね☆マギカ。本日も絶賛外道中です。

 

 

 

 

 

 

 銀の魔女が見守る舞台上、エトワールの通う中等学校に復讐者の姿はあった。

 

 目の前の校舎は、結界によってすでに異相空間へと隔離されている。

 これなら余計な被害を出さずに、目標だけを仕留めることができるはずだ。

 

 リナは頼れる相棒であるサフィを褒めるために撫でると、戦槌を力強く握り締めた。

 

「サフィ、全力で行くぞ!」

「ヴァオン!」

 

 リナは校舎に向かって駆け出し空高く飛んだ。

 この短期間で飛行魔法を物にしたリナの素質は素晴らしいものだった。

 

 そして敵が全員校舎内にいるのを察し、リナは自らの武器である戦槌に魔法をかける。

 

 それは単純な巨大化の魔法。

 ただただ大きく重く。

 何もかもを圧し潰すために。

 

 その意志の元、魔法は発動した。

 

「潰れろぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 校舎を飲み込むほどの影が広がる。

 建物を全て捉えるほど巨体化した戦槌は、持ち主の願いを叶えようと地上へ迫った。

 

 だが戦槌は途中で止まってしまう。

 校舎を包み込むように翠色の光を放つ障壁が展開されていたからだ。

 

 

 

 屋上に集まったエトワールの残存メンバー達。

 その中でアイナが右手の指輪を掲げていた。

 

 翠色をした魔力の奔流が迸り、展開した障壁が戦槌を受け止めてエトワールの仲間達を守っていた。

 

「みんな、無事かしら?」

 

 彼女は突然の襲撃にも動揺せず、冷静に仲間達の安否を窺う。

 その様子に誰一人疑問を抱くことはない。

 ただかつてないほどの強力な障壁の展開に、それぞれ息を呑むばかりだった。

 

「え、ええ……私達は大丈夫です。アイナ先輩……凄いですね」

「それしか取り柄がないもの。防御は任せて!」

 

 そのアイナの様子に、アリサはどこか違和感を覚えた。

 だがそれが何なのか分からないまま、事態は推移していく。

 

 

 

「見つけたぜテメェら!」

 

 仇を見つけ歓喜にも似た怒声を発したリナは、自らに気合を入れ直した。

 

 元からこの一撃で決着を付けようなどとは思っていない。

 どんな汚い手を使ったのかは知らないが、彼女の尊敬する師であり姉であったリンネを殺した連中だ。

 そういう悪党に限って生き汚いことは、テレビでもマンガでも常識だった。

 

 この時、リナが最も嫌ったのはバラバラになって隠れられることだ。

 そのために校舎に潜めないような攻撃をしかけ、敵の姿を暴いたのだ。

 

 一方のエトワールは前日の動揺が未だに収まっていない状態だった。

 

 エトワール達の絆に入った亀裂は、すでに放置すれば瞬く間に広がるだろう予感を誰もが感じていた。

 だが関係を修復する暇もなく襲撃されたことにより、チームワークに不安を抱えたまま戦わなくてはならなかった。

 

 状況は倍する数にも関わらず、エトワール勢が圧倒的に不利な状況だった。

 それでも戦端は容赦なく開かれる。

 

「お願い! 私の話を聞いて!」

「あの世で姉ちゃんに土下座しな! 話はそれからだろうが!」

 

 ニボシの悲痛な懇願もリナの耳には届かない。

 

 戦槌とぶつかり合うにはニボシのガントレットは力不足だった。

 ニボシは仕方なしに回避を優先し、カウンターを狙う。

 

 小柄なニボシよりもさらに幼いリナは、重さなどないかのように自在に戦槌を振り回しており、迂闊に飛び込めば即座に潰されてしまうだろう。

 

 よしんば懐に潜り込んだどころで、軽い攻撃ではリナの防御を抜けないことは昨日の攻防で薄々と察していた。

 

「ニボシ先輩! まずは彼女を無力化しないと! 彼女は強い! このままじゃ、本当に殺されますよ!」

 

 悲鳴をあげながらアリサが援護射撃するものの、リナの使い魔サフィが射線上に入ってそれを防ぎ、反撃とばかりに魔力弾を放ってくる。

 

 アイナは先ほどの特大の防御結界の使用で力尽きたのか動きを見せないし、ユリエに至っては精神的に使い物にならない。

 

 今日学校に来れただけでも奇跡的なのだ。

 戦えるような精神状態ではない。

 

 ましていつもの魔女狩りですらなく、魔法少女同士の殺し合いだ。

 

 普段のユリエなら怯えながらも自分の仕事を果たしただろう。

 だが精神的支柱であったマコを失った今のユリエには、リナの放つ殺気と対峙できる強さはなかった。

 

 代わりの柱となったかもしれないリンネとニボシは、どちらもユリエを裏切っている。

 ユリエにとって、リンネを庇ったニボシも同じ裏切り者としか思えなかった。

 

 そして弱い所を叩くのが戦いの常道である。

 獣の本能からか、誰が一番の弱者なのかを察したサフィは魔力弾をユリエへと放った。

 

「……あ」

 

 避けられない。

 

 迫り来る魔法の弾丸を目前としながらも、ユリエはどこか危機感が薄かった。

 

 それはアイナの存在があったからだ。

 彼女がすぐ近くにいるのに、味方への攻撃を許すはずがない。

 

 いつもならすぐに魔法で障壁を展開して、守ってくれるはず。

 

「あ、アイナ先輩!」

 

 そんな普段なら信頼ともいえる思考だったが、今の状況ではただの甘えでしかなかった。

 

 縋るように視線をアイナに向けるユリエだったが彼女が見たのは、目を瞑りじっと動かない頼れるはずの先輩の姿だった。

 

 ――気づいていないの!?

 

 直後、サフィの放った魔力弾がユリエに直撃する。

 金属バットで殴られたような衝撃を受け、ユリエは吹き飛んだ。

 

「ユリエ先輩!?」

「ヴァオン!」

「くっ……!?」

 

 咄嗟に駆け寄ろうとするアリサだったがサフィに牽制されて動けない。

 だから代わりにアイナへと叫んだ。

 

「アイナ先輩! ユリエ先輩が!」

 

 アリサはユリエが攻撃された瞬間を直接目にしていなかったが、いつもならあの程度の攻撃、アイナ先輩なら防げたはずだ。

 先の防御結界で力を使いすぎたのだとしても、あの先輩が何もせずにいたのは信じられなかった。

 

 こんなこと今まで一度もなかったのに。

 

 だが現にユリエは攻撃にさらされ、今尚アイナは動かない。

 ここに来てアリサはようやく違和感の正体に気付いた。

 

 アイナは――微笑んでいたのだ。

 戦いが始まってから今まで、ずっと。

 

 いつものように穏やかな表情で静かに戦場を観察している。

 そこには確かな余裕が感じられた。

 

 そんな余裕があるのならユリエを守れたはずだ。

 だが今の彼女が間違いなくそうすると――仲間を守ると、アリサは信じ切ることができない。

 

 魔法少女としての直感からかアイナが何か別の、得体の知れないものになったことを悟ったアリサは叫び声を上げた。

 

「……あなたは、誰ですか!?」

「あら、ひどいこと言うのねアリサちゃん。私は錦戸愛菜。みんなの先輩よ。ほらワンちゃんの相手、しなくていいのかしら?」

「くっ!?」

 

 敵の猟犬は積極的に動かないアイナを無視し、弱ったアリサばかりを狙っていた。

 ニボシはリナとの戦闘で手が離せず、アリサはサフィに動きを封じられている。

 ユリエは先ほどのダメージで気を失っていた。

 

 つまりこの瞬間、戦場で唯一手が空いているのはアイナのみ。

 

「……これはチャンスかしらね?」

 

 彼女は自らの主である銀の魔女の命に従い、戦場に混沌を齎すべく気絶したユリエの元に歩み寄った。

 

 その動向を見て、アリサはふつふつと沸き上がってくる嫌な予感が収まらなかった。

 

 普段のアイナ先輩なら、ユリエ先輩を治療しに行ったのだと思うだろう。

 だが今のアイナ先輩からは言い知れぬ悪寒を感じていた。

 

 まるで悪魔が乗り移ったみたいだ。

 その豹変具合は、昨日のリンネの凶行を思い出さずにはいられない。

 

 そして悪い予感はすぐに現実となる。

 

「ぎぃやああああああああああああああああああ!!!!」

 

 耐え難い苦痛から来る絶叫。

 気絶していたユリエの体中から血が噴き出した。

 

 それをうっとりとした顔で聞いているのは、その叫びを奏でた張本人くらいなものだ。

 

 治癒魔法とは体内に癒しの想いを浸透させる魔法だ。

 そのスペシャリストであるアイナにとって、ただ苦痛を与える魔法はさほど難しい物ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 アイナの突然の凶行に誰もが動きを止めた。

 敵味方の誰にとっても予想外の出来事に、次の行動が取れないのだ。

 

 呆気にとられる面々の前で、アイナは普段通りの穏やかな口調で一同に語りかける。

 

「とりあえずお互い、争いを止めにしないかしら? ほら、悪い子には<お仕置き>したから……ね?」

 

 そう言って、血の涙を流し白目を剥いているユリエを放り捨てた。

 

 リナもいくら殺したいと思っていた仇とは言え、こうまでズタボロにされるのを見てしまうと躊躇してしまう。

 

 だがリナは忘れていなかった。

 このボロ雑巾みたいな女こそ、彼女の姉を容赦なく殺した事実を。

 

 因果応報だ。

 同情してたまるものかと固く思い直し、それ以上に不気味な女へ向けてリナは戦槌を構えた。

 

 今この戦場でもっとも警戒すべきはこのおっぱいオバケだと、リナの直感が告げていた。

 

「……テメェら、仲間じゃなかったのかよ?」

 

 心底軽蔑した顔でリナが吐き捨てる。

 だがアイナはその微笑みを崩さずに、さらりと受け流した。

 

「ごめんなさいね。私、人殺しと仲間になった覚えはないの」

 

 その言葉に、アリサはひっと息を呑む。

 信頼していた人から信じられない言葉を聞いたからだ。

 

 アイナが別物になったと直感が訴えていても証拠はなく、またアリサ自身も信じたくなかった。

 アリサは縋るような目でアイナに問いかける。

 

「う、嘘ですよね。アイナ先輩……そんなの、そんな言い方、先輩らしくありませんよ」

「ねぇアリサちゃん。正しい魔法少女は人を殺すのかしら? 殺して、自分は悪くないと喚くのかしら? 今までの流れを振り返ってみたのだけど、やっぱり一番悪いのはユリエちゃんじゃないかしらね? そしてまぁ、二番目に悪いのはあなたなんだけど――アリサちゃん」

「ど、どういう……意味ですか?」

「あなたがユリエちゃんを庇うのは、共犯者として罪の意識を感じているからでしょ? あなたも結局、正しい魔法少女にはなれなかったのね。まぁ元々期待薄だったけど……なにせ育ちが育ちですもの。結局暴力を肯定した頃のあなたのまま、ちっとも変わってない」

 

 その一言は、決定的な亀裂となってアリサの胸を抉った。

 アイナ先輩だからこそ打ち明けた、アリサの過去。

 

 魔法少女になった理由。

 忌まわしい記憶の全て。

 

 信じていたから、話したのに。

 アリサは裏切られた気持ちで胸が張り裂けそうだった。

 

 頭の中が怒りで真っ白に染まる。

 心が押し潰されそうだった。

 

 アリサは目の前の『敵』を睨みつける。

 やはり目の前の彼女は、アリサの知る彼女ではないのだ。

 

「……あなたは、アイナ先輩じゃない!」

「あらあら、今度は現実逃避? 親から逃げた次は世界から逃げる気かしら?」

「黙れぇ!!」

「そうよね、本来あなたは力尽くで黙らせる方が得意だものね。親を黙らせた次は私を黙らせるのかしら? あなたの<暴力(まほう)>で――」

「黙れぇええええええええええええええ!!」

 

 アリサの放つ弾丸によって、アイナの言葉は封じられた。

 

 予め周囲に展開していた障壁によって弾かれたものの、言葉通りアイナを黙らせることには成功していた。

 

 それでもアイナの微笑は崩れない。

 

 なぜだろう、かつてならこれほど安心できるものはなかったというのに。

 同じ笑顔のはずなのに、今では目にするだけで悍ましく――憎らしい。

 

 激情に駆られたアリサは奥の手を繰り出す。

 

 魔力消費の高さから普段は決して使わない、使う必要のない切り札。

 頼れる仲間達がいれば不要だった、忌まわしきアリサの過去の象徴。

 

 二丁拳銃が融けて合わさり、一つの禍々しい魔砲となる。

 それはアリサの右腕と半ば一体化し、全ての機能が撃滅のために特化される。

 

 暴力の象徴。

 意志なき暴力装置。

 女子供でもその引き金を引けば銃口の先にいる者は死ぬ、疑いようのない凶器。

 

 アリサが普段使う武器は魔法の銃だ。

 だがそれは切り札である魔砲の劣化版でしかなかった。

 

 誰よりも強くなりたいと願った少女の、最強の切り札。

 

「……ア・コーエ・トゥラ――」

 

 全てを黙らせる弾丸をアリサは放とうとする。

 

 ――だがそれは叶わなかった。

 漆黒のガントレットが砲口を抑え、ニボシがアリサを取り押さえたからだ。

 

「はい、そこまでだよアリサちゃん。君はどうしてこう、頭に血が上ると短絡的になっちゃうのかなー?」

 

 反射的に振り払おうとするが、アリサの全力でもニボシの拘束から抜け出すことは叶わなかった。

 

「に、ニボシせんぱ……」

「アリサちゃんのそれ、人に当たれば死ぬよ?」

 

 ある意味、当たり前のことをニボシは言った。

 だがアリサにとって、それは予想外のことでもあった。

 

 誰かを殺すつもりなど、アリサにはなかったのだ。

 魔法という手段の簡便さが、手にした引き金を軽くしていた。

 

「また、同じことを繰り返すの?」

 

 心底不思議そうな顔でニボシはアリサを見下ろしていた。

 その瞳の深さにアリサは恐怖した。

 

 そしてそれ以上に、己に刻まれた業の深さに絶望していた。

 顔も思い出せない父親になぜか自身の顔が重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

「なんだこいつら、仲間割れかよ……」

 

 混沌とする戦場で、リナは呆れたようにため息をついた。

 全員を視界に収められる場所を維持しながら、警戒は変わらずアイナに向けられていた。

 

 魔法少女として半年も活動していないリナだったが、目の前の光景には正直呆れる思いだった。

 

 敵を目の前にして仲間割れ。

 彼女の師匠だったら無能の極みだと嘆いたことだろう。

 

 だからこそ不可解だった。

 なぜこの程度の連中に、あの師匠がむざむざ殺されたのか。

 

 リナは直接、師匠のリンネに鍛えられたからこそ分かる。

 あの人はこの場にいるどの魔法少女よりも高みにいた。

 

 本人は単なる経験の差だと言っていたが、こうして他の魔法少女達を眺めてみればその差は一目瞭然だ。

 単純な話、たとえ師匠が満身創痍だったとしてもこの程度の相手なら遅れを取ることなどありえない。

 

 それがリナの結論であるが現実は非情だ。

 そのありえないことが起きたからこそ、リナはこの場にいる。

 自身が慕う姉の仇討ちとして。

 

「どいつもこいつも、面倒くせぇ! まとめて潰れちまえ! ギガントハンマー!」

「させないわ!」

 

 リナの振るう戦槌にアイナは対抗するための障壁を展開する。

 純粋な破壊力と、堅牢な城壁並の障壁のぶつかり合いは均衡していた。

 

 だがリナはさらに魔力を注ぎ込む。

 

「それはもう見てんだよっ!」

 

 戦槌の形が変わり、魔力を燃焼させ爆発的な推進力が加わる。

 突如として威力の上がった戦槌の圧力に障壁がひび割れていく。

 

「砕けろぉおおおおおおおおっ!」

 

 パリン、とガラスの割れたような音をリナは確かに聞いた。

 

 だが砕いたはずの障壁の奥には、さらに新しい障壁が展開されていた。

 リナの無駄な努力を嘲笑うかのようにアイナは微笑んで見せる。

 

「あら、壁が一枚だけなんて誰が言ったのかしら? 私、防御には結構自信あるのよ? 残念だけど貴女じゃ私には届かないわ」

「ちっ! なら一切合切まとめて潰してやる! 何枚だろうがテメェご自慢の壁ごと叩き潰してやる!」

 

 酷使して力の入らなくなってきた両腕を叱咤しながら、リナは戦意旺盛に吠えてみせる。

 主人の苦境を察した相棒が傍に駆け寄り、リナの体に回復魔法をかけた。

 

 暖かい魔法の光を感じてリナは笑う。

 確かに一人だったら届かないかもしれない。

 

 だがサフィがいる。

 そしてリンネから教わった全てがリナの中で生きている。

 

 リナは決して一人じゃなかった。

 

 ならばやれるはずだ。

 証明できるはずだ。

 

 リナの強さを。

 そしてそれを与えてくれた彼女が、誰よりも強かったことを。

 

 

 

 

 

 片や、取り押さえる者と我を見失う者。

 片や、圧倒的攻撃力と絶対的防御力の凌ぎ合い。

 

 どちらも膠着状態に陥る中、忘れられた魔法少女が目覚めた。

 

「あ、あ、ああああああああああああああああああああああ!!」

 

 痛い、痛い痛い痛い!

 

 ユリエの全身を責め苛む苦痛に、無意識に涙が流れる。

 アイナによって丁寧に痛めつけられた体は、麻痺することもなく真新しい痛みを全神経に刻み続けた。

 

 なぜ、わたしがこんな目にあわなくちゃいけないの?

 わたし、何も悪いことなんてしてないのに……!

 

 ユリエは傍に落ちていたぬいぐるみに、自身の<魔法>で命じた。

 自身の内から次々と沸き上がってくるぐちゃぐちゃな感情を抑える術を、ユリエは知らなかった。

 

 ――憎い!

 わたしをこんな目にあわせた連中に、報いを!

 

 そして殺意の魔法が紡がれる。

 

「みんな死んじゃえ! <殺戮凶兎(マーダーラビット)>!」

 

 全身全霊で振り絞られた、憎しみに染まった魔力が迸る。

 殺意の指令を受けた兎人形は持ち主の願いを叶えるべく巨大化し、無差別に暴れ回った。

 

 ユリエは苦痛に支配されながらも、彼女をイジメた連中が右往左往する様を見ていると少しだけ爽快な気持ちになれた気がした。

 

「あはっ、あははっ! 死ね! みんな死んじゃえ!」

 

 血反吐を吐きながらユリエは呪詛を吐き続ける。

 もはやその姿を見て、魔法少女だと思う者はいないだろう。

 

 その姿は御伽噺に出てくる人を呪う邪悪な魔女そのものだった。

 

 事実、彼女のソウルジェムは穢れを溜め過ぎた。

 ソウルジェムから悍ましい光が点滅し始める。

 

「…………あ」

 

 ユリエは己が致命的な失敗を犯したことを魂で理解した。

 

 自身のソウルジェムを見ると、かつてないほど恐ろしい変化が起こっているのが目に入る。

 

 何か良くないことが起ころうとしている。

 ユリエは敏感にその危険を察したものの、それはあまりにも遅すぎた。

 

「ひっ!? いや……いやぁっ! だれか、助けて……!」

 

 だがその懇願は、彼女自身が命じた兎人形が暴れているせいで誰の耳にも届かなかった。

 

 そうしているうちにユリエのソウルジェムが孵化を始める。

 意識が消滅する間際、ユリエは虚空に手を伸ばした。

 

「……マ……ちゃ……」

 

 彼女が伸ばした指先は何も掴むことなく、地に落ちた。

 

 それと同時に暴れ回っていた兎人形も活動を止める。

 その意味をこの場にいる全員が理解した。

 

 

 

 ユリエが死んだのだ。

 

 

 

 だが災厄は終わりではなく、むしろ始まりでしかなかった。

 希望は絶望へと反転し、ここに一体の魔女が生まれ出ようとする。

 

 黒い風が吹く。

 禍々しい目のような魔女の種子が、竜巻を起こし空気を飲み込んだ。

 それに吸い込まれまいと留まる一同は、ただそれを見ていることしかできなかった。

 

 現れたのは狂った造形を持つ魔女の姿。 

 かつてユリエと呼ばれていた一人の魔法少女……そのなれの果てだ。

 

 初め、それを彼女と結びつけることは誰にもできなかった。

 だがその魔女の持つ醜悪なぬいぐるみが、どこかユリエの物と似ている気がした。

 

 魔女が嘆きの絶叫を上げる。

 聞くだけで精神を病みそうな叫び声には、確かに彼女の残滓が感じられた。

 

「うそ……だろ?」

「なぜ、魔女がここに!? ユリエ先輩は!?」

 

 魔法少女の象徴ソウルジェムがグリーフシードへ転化し、魔女へと生まれ変わる。

 

 その事実に驚いたのはリナとアリサの二人だけだった。

 アイナは当然のようにそれを眺め、ニボシは疲れたような顔でそれを見ていた。

 

 真実を知る魔法少女と、それ以外の者で反応が分かれていた。

 

 

 

 

 

 

 パン、パン、と魔女の誕生に喝采が上がる。

 戦場に似つかわしくないその行為に、全員の視線が引き寄せられた。

 

 音の主はアイナだった。

 彼女は喜びをもって魔女の生誕を言祝ぐ。

 

「これで彼女も魔法少女としての使命を全うできたわね。喜ばしいことだわ」

 

 銀の魔女のシモベであるアイナにとって、この光景は歓迎こそすれ忌むべき物ではなかった。

 

 かつての自分なら絶望したかもしれないが、今アイナの体に宿っているのはリンネによって作り出された人工の魂だ。

 

 ベースはオリジナルとほぼ同一ではあるものの、根本的な魂は別物である今のアイナにとって、もはやその仮定はただのつまらない感傷に過ぎなかった。

 

 化け物のようにアイナを見るリナとアリサ。

 二者の視線は鬱陶しくもあるが、自身が生まれ変わった証でもあった。

 

 変わらず微笑みを浮かべるアイナに、幼き魔法少女達の詰問が投げつけられる。

 

「な、なにをいって……何を言ってるんですかあなたはっ!?」

「どういうことだ! 説明しろおっぱいオバケ!」

 

 アイナは困ったような顔を浮かべた。

 それは聞き分けのない幼子を諭すような、ひどく優しい顔だった。

 

「あのね、成長途上の女性のことを少女って呼ぶでしょ? ならいつか魔女になる私達の存在は、『魔法少女』と呼ばれて然るべきじゃない?」

 

 理解の追いつかない少女達に、アイナはさらに告げる。

 

「言ってしまえば私達魔法少女は、祈りの果てに魔女になることを宿命付けられた存在なの。知らなかった?」

 

 とびきりの笑顔で、アイナは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




NG集:お茶の間 シリアスブレイカー!(本作とは一切関係ありません。ブレイクしたくない人は回避推奨。出来はお察し)



「な、なにをいって……何を言ってるんですかあなたはっ!?」
「どういうことだ! 説明しろおっぱいオバケ!」
「……おっぱいオバケかぁ。大丈夫よ、あなた達もそのうち大きくなるわ……たぶん、きっと、メイビー?」
「ふ、ふふふざけないでください!」
「っざけんなぁああああああああ!」
「バウバウ!」
「……え、そこまでキレること?」

 持つ者と持たざる者。
 
 奢り高ぶる傲慢な山脈に対して、絶壁を駆け上る者達は憤怒とともに自らの理性を切り捨てた。

 原罪。
 あるいは黄金林檎。

 それこそが蛇の齎した甘美なる誘惑。
 人類が楽園を追放される切っ掛けとなった禁断の果実。

 ――つまりは、おっぱいのことである。

 そして人類はπO2を手にした時から滅びの道へと(ry
 終末メロンが……ちゃう、それ夕張や……ならばプリンの頂上に課せられたさくらんぼの存在意義とはつまり――――【以下の文章は検閲されました】――――


 ――私が魔法少女達の悲しき格差、果ては人類の罪深さについて腐った思索に耽っていると、傍に控えているアリスが不可解な行為をしていた。

 なぜか自身の胸を触っているアリス、人形である彼女のいつにないイレギュラーな行動に私は瞠目する。

「……アリス?」
「…………」

 アリスのそれは慎ましやかなお椀だ。
 富豪というわけではないが、貧民というわけでもない。
 私にとっては理想形と言える完璧なる双丘。

 だが私の理想と彼女の理想は違うのだろうか?

「……まぁ、君はもう完成してしまっているから、成長は……改造するのは気が進まないけど、どうしてもっていうなら、一時的に魔法で豊胸化してみる? 物は試しに」
「…………」

 アリスは無言で部屋を出て行ってしまった。

 ……え、なに? 怒ってるの? なして?

「……解せぬ、乙女心」

 ご機嫌取りもかねて、このあとアリスと滅茶苦茶にゃんにゃんした。
 ちょっぴりアリスのサイズがグレートアップしたような気がしないでもない。

 アリスの寝顔はどこか満足そうだった。


 一方、魔法少女達の戦いは勝利者なき虚しい結末を迎えていた。 
 だが彼女達の犠牲は無駄ではない。

 全てのπに祝福を。
 黄金の夜明けは近い。

            ――Fin――
 

「……まったく、わけがわからないよ。人間っていうのはどうしてこう、たかが脂肪の塊にそう熱くなれるのか――ぷぎゅっ」
「あら、いたの? ごめんなさい、てっきり足ふきマットかと思っちゃった。呪うなら中身と裏腹なその純白ボディを呪うことね」

「きゅっぷい! むしろご褒美だよ! さあリンネ! 僕を踏みつけて女王様になって――」

 キュゥべえは魔力糸によりスライスされた。
 犯人は私だった。

 死体は便器に流し、いつの間にか取り出していた指揮杖をしまう。


 あれ、私はいったい何を……?


「……………………なんだ、夢か」

 どうやら私は寝ぼけていたらしい。
 疲れているのかもしれないな。
 私は自室に戻り、アリスと一緒に眠った。

 今度は幸せな夢を見られますように。




(作者より)
 これでストックが尽きたので、あとは出来上がり次第更新していきます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。