私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

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第十三話 私と契約して、夜を駆けてよ!

 

 

 

 柔らかな顔立ちをした少女が、ゆっくりと瞼を開ける。

 

「おはよう、アイナ」

「おはようございます、主様」

 

 かつて私にとって先輩だった人は、人形として私の言葉に微笑みを浮かべた。

 人形といっても、アリスと違って今回は生前の機能を全てそのままに引き継いでいた。

 

 根底にある私の支配制限はあるものの、アリスと違って会話もできるし感情の模倣も完璧だ。

 

『人工ソウルジェム』

 

 キュゥべえから提供された技術で作ったそれは、魔女となってしまったアイナ先輩の代用品として魂がなくなり空っぽになった肉体を制御している。

 同じような物がアリスにも埋め込まれているのだが、今回の作品の方が生前の再現度は高いだろう。

 

「ご命令を、主様」

 

 術式の処置が終わったばかりのアイナは、床に跪き頭を垂れた。

 一糸まとわぬその姿はとても背徳的だった。

 

 私はまず彼女に用意してあった衣服を与えることにした。

 彼女の二つの山はあまりに魅力的過ぎて、今すぐロッククライミングしたくなるのが困りものだ。

 

 起動したばかりのアイナの動きは、やはり少々動きが固い様子だった。

 黒球内でいくらか試運転した方がいいだろう。

 

「私のことは『リンネちゃん』でいいよ。敬語もいらない。それから、私の命令は絶対だけどその範囲外なら君自身が判断して動いて構わないよ。ただ私の道具として優秀であることを期待している」

「わかったわ、リンネちゃん。頑張るわね」

 

 ある意味、生まれたばかりの彼女はとても素直だ。

 私はそんな彼女の頭を撫でてやる。

 

 すると彼女は気持ちよさそうに目を細め、私に甘えてきた。

 アリスにはなかった反応だ。猫の様で可愛い。

 

「さて、これから黒球内で三日ほどきみの調整に入るとしようか。その後は性能テストだ。なに、簡単なことだ。今の強化されたきみならば<彼女達>相手でも十分に戦えるだろう」

 

 星々を支える柱であったアイナは、すでに私の手に落ちた。

 次はどの星を堕とそうか。

 

 私はアイナの癖毛を撫でながら、次なる獲物について考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……アイナ先輩、寝てしまったのですか?」

 

 アリサは念話が繋がらないことに溜息を付き、携帯を取り出してメールを送る。

 相手は頼れるリーダーにしてアリサの恩人であるアイナ先輩だ。

 

 アリサはアイナの申し出を断ってユリエを追いかけたものの、ユリエは誰の事も信じられなくなっていた。

 

 マコが死に、リンネが裏切り、ニボシに拒絶された。

 そんな風にユリエが最も信じていた者達から離されたのだ。

 

 無理はないとアリサも思うが、年上ならばもっとしっかりして欲しいと願うのは我侭なのだろうか。

 

 結局ただの後輩でしかなかったアリサはユリエに激しく拒絶されてしまい、アリサは途方に暮れていた。

 

 同じグループでも普段からあまり接点のなかったアリサとユリエだ。

 今さら都合良く親交を深めることなど、できはしなかった。

 

 グループの中でアリサはアイナと特別仲が良く、ユリエはマコと仲が良かった。

 思えば仲間全体の橋渡しをしてくれていたのはニボシだった。

 

 誰とでも仲良くなれる特技のある彼女がいたからこそ、バラバラな面々も一つに纏まっていたのだ。

 

 だがニボシは変わってしまった。

 アリサの心情としてはユリエ寄りで、確かにリンネを殺したのはやりすぎだが元はといえばリンネが元凶なのだ。

 それを庇うような発言も含めて、いつものニボシならありえないと思える行いだろう。

 

 だがありえない事など、この世界には存在しないのではないかとアリサは思う。

 奇跡も魔法もあって、今日だけでありえない事態がパンクしそうなくらい立て続けに起こっているのだ。

 ならニボシの変化も十分ありえることだと思えた。

 

 深夜の繁華街に灯るネオンライトの明かりを眼下に眺めながら、アリサは夜風に髪が流れるのを任せぼうっとしていた。

 

 今さらながらにアイナ先輩の提案に頷いていれば、今頃一人ぼっちで夜を明かさずに済んだのにと女々しい後悔が浮かんでくる。

 かと言ってアリサは、自分の家に帰りたいとは思えなかった。

 

 幸い季節は初夏である。

 夜風は暖かく、このまま外に居ても風邪を引くことはないだろう。

 

 眠るのは難しいが、街の明かりを見ながら微睡むことはできる。

 そうすれば一人ぼっちの寂しさも多少は癒される気がした。

 

「……奇跡で強くなったのに、心は全然強くなれません」

 

 アリサの家では、父親がしょっちゅう酒に酔って暴力を振るっていた。

 

 母親はそんな父親に嫌気が差し、幼い頃にアリサを捨てて逃げて行った。

 父の暴力の矛先がアリサに変わるのに、時間は掛からなかった。

 

 服を脱げば青痣だらけの体になってからは、体育の授業はいつも休んでいた。

 自分の体を誰かに見られるのが恥ずかしかった。

 

 いっそ助けを求めたいとも思ったけれど、バレた時の報復が怖くてただ震えていた。

 

 中学に上がって、父親が自分を見る目付きに変化が起こった。

 ねっとりとした嫌悪感を覚える視線。

 

 偶然を装って風呂場に侵入された時は半狂乱になって逃げだした。

 だが大人の男から逃げ出すことはできず、捕まって組み伏せられてしまう。

 

 アリサの体がまだ小さかったお蔭で、辛うじて貞操は守られた。

 だがその代償に、男の腹いせとして無数の傷跡が付けられた。

 

 その傷跡が一生消えないと知った時、アリサは絶望した。

 

 なんでこんな男に、私の人生を滅茶苦茶にされなければいけないんだろう。

 

 父親だから?

 でも私はこの男のことを父親だと認めていない。

 産んでくれと頼んだ覚えもない。

 

 なのにこいつは、私を勝手に所有し、私を勝手に玩具にし、私を勝手に壊すのだ。

 

 涙すら枯れ果てた目でアリサは高い場所を目指す。

 もう死ぬしかないと思った。

 

 だがそんなアリサを救ったのは、白いぬいぐるみのような生き物だった。

 

『僕の名前はキュゥべえ。きみに叶えたい願い事があるなら、どんなことでも一つだけ叶えてあげられるよ。

 その代わり、きみは魔法少女となって魔女と戦う使命を担うことになる。きみにはその覚悟があるかい?』

 

 そんな覚悟なんて、あるわけがない。

 だけど奇跡でもない限り、アリサに未来はないように思えた。

 

『……私は、力が欲しい』

 

 アリサは自らの頼りない手を見る。

 何者にもなれず、何もできない弱者の手だ。

 

 ――それを力の限り握りしめた。

 

『私が私でいられるための力を。自分を守れるだけの力を、私は願います。

 そのためなら、どんな使命だって受け入れられる!』

 

 そして契約の光が放たれた。

 

 アリサから生まれ、手にしたのは水色のソウルジェム。

 自由な空を思わせるそれはアリサの希望の象徴だった。

 

『きみの願いはエントロピーを凌駕した。藤堂アリサ、今日からきみは魔法少女だ』

 

 その日からアリサは魔法少女になった。

 もう何も恐れる必要はなくなった。

 

 まず初めに、アリサは力で父親を屈服させた。

 泣いて罵声を浴びせる男をひたすら躾る。

 

 男がかつてアリサにしたように、アリサもまた男を教育した。

 だが男と違ってアリサは優しかった。

 

 なぜなら魔法があるからだ。

 

 たとえ死ぬような怪我をしても、死んでいなければ大抵の傷は癒せる。

 魔法少女になって痣も傷もない綺麗な体になれたことが、アリサには嬉しかった。

 

 男は反省させる意味も込めて去勢しておいた。

 ペットと同じだ。

 そうすれば二度とアリサに手を出そうなんて考えなくなるのだから名案だろう。

 

 その日から男はアリサの奴隷となった。

 アリサの暴力に怯え、気が付けばほとんど家に寄り付かなくなった。

 完全に育児放棄だが元から似たようなものだったので気にならなかった。

 

 それに魔法少女となったアリサに、いまさら男の庇護が必要だとは思えなかった。

 

 アリサもまた家に帰るのが面倒だと思うようになっていた。少し前までは帰りたくないと思っていたのだから、前に進んでいるのかいないのかアリサ自身にも分からなかった。

 

 ただ寝るだけでいいのならどこでもよかった。

 魔法少女としての力があれば、できることに限りはないのだから。

 

 アリサは思った。

 どんなに言葉を取り繕ったところで、暴力こそが人を従わせる唯一の真理だと。

 

 父親がアリサにそうしたように、アリサが父親にそうしたように。

 それが間違っていると気付かせてくれたのが、アイナだった。

 

 気が付けばアリサは、高校生の不良達ですら道を開ける札付き者として君臨していた。

 気に入らない者は問答無用で潰した。

 

 一応は身体的な障害が一切残らないよう配慮していたが、心の方はそうではなく幾人かは精神に深い傷を負っていた。

 それを考えると、いつかアリサが報復されるのも時間の問題だったのだろう。

 

 ある日、誘い出されたのは人気のない廃工場の跡だった。

 そこにはむさ苦しいほどの男達が武器を手に、アリサを待ち構えていた。

 

 どれもアリサを外見で侮ってはいない。

 とはいえ魔法少女になってしまえばこんな連中、物の数ではないとアリサは思った。

 

 だがアリサが変身する前に、強烈な閃光が突然襲い掛かった。

 

 気が付けばアリサは同じ魔法少女達に浚われていたのだ。

 翠色の魔法少女が、ぽかんとするアリサに手を差し伸べる。

 

『危ないことをするのね。一般人相手に魔法を使うのはリスクが高いわ。あなたの身の安全のためにもね』

『助けた? ……どうして、私を助けたんですか?』

 

 余計なお世話だとも思ったが、確かに彼女の言う通りでもある。

 魔法がバレたら、今度は現実でアリサが大衆から魔女狩りにあっても可笑しな話ではないのだから。

 

 自分が助けられたのだと気付いた時、アリサは疑問を口にしていた。

 それでも、見ず知らずの彼女達に助けられる理由がわからなかったからだ。

 

 誰も助けてくれたことがなかったアリサにとって、それは驚くべきことだった。

 

『あなた、うちの中学の後輩でしょ? なら先輩が後輩を守るのに何か理由がいるのかしら?』

 

 当たり前のようにアイナはそう言った。

 

 知り合いですらないただ同じ学校の生徒であるというだけで、理由などいらないというのだ。

 そのお人好し加減に絶句するアリサの隣で、ニボシが笑い声をあげていた。

 

『もー、アイナちゃんマジ女神様。後輩ちゃん、惚れちゃダメだよ? こう見えて何人もの女の子、袖にしてるんだから』

『人聞きが悪い事言わないで! 私はノーマルなの! 白馬の王子様を夢見て何か悪いかしらっ!?』

『王子様って……ぶふっ! いいえー、何も悪くないよー?』

 

 そして彼女達はアリサに手を伸ばす。

 

『これからは私達と一緒に正しい魔法少女をはじめましょう?』

『マンガやアニメみたいな正しい魔法少女になろうよ! それはきっと、楽しいことだと思うんだ!』

 

 現実はいつだって正しくない。

 正しいことをしようとしても、いつかは間違ってしまう。

 

『……こんな私の汚れた手で、誰かを救うことができるのですか?』

 

 誰かを傷つけることしか知らない手。

 暴力でしか他人と関われない汚れた自分。

 

 だけど二人の言葉はあまりにも眩しくて、アリサはその手を取ったのだ。

 

 彼女達といればこんな自分でも、少しでも陽の当たる場所を歩けるんじゃないかと思ったから。

 彼女達のいるその場所がとても眩しく思えたから。

 

 だから後悔なんて、あるわけがない。

 

 その後、メンバーのマコとユリエを紹介された。 

 アイナとニボシと違い、二人にはどこか身構えてしまっていたアリサだが、二人からは後輩としてよく気にかけて貰っていた。

 

 他人との協力が上手くできないアリサに、マコは自身の経験から様々なアドバイスをしてくれた。彼女が口にする冗談にいつしかアリサは笑えるようになっていた。 

 

 攻撃的だった態度や言葉遣いも、反応がすぐに現れるユリエと接するうちに大分マシになっていた。

 彼女の弱さはどこか自分にも似ていて、メンバーの中で一番共感できたのはユリエだったかもしれない。

 お互いに臆病で進んで人と接する性質じゃなかったから、交わした言葉は少ない。

 

 それでも大切な仲間だ。

 ……そう、アリサは思っていたのだけれど。

 

 最後にリンネが入って『エトワール』になった。

 

 彼女は変な人だった。

 気が付けばするりと仲間内に溶け込んでいて、物静かそうな外見とは裏腹にアリサと一緒にアイナをからかったりニボシやマコと馬鹿をやったり、かと思えばユリエともよく分からない会話で盛り上がったりしていた。

 

 それで黙っていればその容姿もあってミステリアスな文学少女に見えるというのは、世の中何かが間違っていると思った。不公平だとも言える。

 

 アリサはリンネが羨ましかった。

 第一印象が自分と同じような人付き合いが苦手な人間だと思っていたから尚更。

 

 それからの一月は今思えば夢のような時間だった。

 メンバーがバラバラになってしまった今だからこそ、強く実感する。

 

 突然のリンネの裏切りから起こった一連の崩壊劇。

 まるで誰かが仕組んだ演劇のように止まることなく続いていく。

 

 リンネのことを考えようとすると、アリサは思考がうまく纏まらなくなる。

 裏切り者に対する憎しみはある。怒りもある。

 

 だけど死んでしまったら、本当にもうこれまでの日常に戻れないのだと泣きたくなってしまう。

 

 リンネに死んで欲しくはなかった。

 だけどマコを殺したことは許せない。

 

 アリサ達との絆を否定されて殺意が沸いた。

 だけど殺したいとまでは考えていなかった。

 

『……本当に?』

 

 アリサは頭を振った。

 そんな自らの思考を放り捨てるために。

 

 どこまでも矛盾する自身の心に、アリサは頭がどうにかなりそうだった。

 

 アリサは夜空を見上げた。

 街明りで星はほとんど見えなかった。

 

 ただ欠けた月だけがぽつんと昇っている。

 

「……一人ぼっちは、寂しいですよ」

 

 アリサの夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 一方、復讐者となったリナもまた眠れぬ夜を過ごしていた。

 姉と慕っていた師匠の仇を取り逃がしてからずっと、リナは標的の足取りを追っていたからだ。

 

 日が暮れてリナは家の門限には一度帰宅したものの、夕食を食べ終えシャワーを浴びた後、再び自室の窓から魔法少女に変身して月夜に飛び出していった。

 

 今日は両親には早目に寝ると言ってある。

 師匠から教わった人除けの結界も自室に施してあるから、少なくとも朝までは不自然に思われないはずだ。

 

 相棒のサフィとともにリナは着実に彼女達の活動圏を特定していく。

 相棒の鼻は実に優秀で、仇達の臭いを明確に嗅ぎ取っていた。

 

「……どうやら、この街にいるのは間違いねぇみたいだな」

「ヴァオン」

「ここってもう隣町だよな? こんな場所にいたのか……サフィ、あいつらの匂い、まだ追えるか?」

「ヴォン!」

 

 任せろ、とサフィは吠えた。

 

「よし、ならまずはこの街の学校にあたりをつけて調べるか……あいつら、師匠と同い年くらいだよな? 

 だとしたら中学か……もしかしたら連中、師匠と同じ学校に通ってたのかな」

 

 リナは師匠とその仇達のことを思う。

 わけがわからないままリナの目の前で殺された、大切な姉貴分の無残な姿。

 

 まるで生贄に捧げるかのようにリンネの肉体を破壊し尽くしたおぞましい魔法少女達の姿は、嫌でもリナの目に焼き付いて離れなかった。

 

『リナ、魔法少女はきみが思うような夢溢れる存在じゃない』

 

 師匠の教えが思い出される。

 かつてリンネは語った。

 

『魔女との戦いは辛く、苦しいものだ。それに対抗する魔法少女達も決して一枚岩ではない。時に足を引っ張り合い、縄張りを主張して他の魔法少女を拒絶する者達がほとんどといってもいいだろう。きみはいつか、そんな正しくない魔法少女達とも渡り合わなければならなくなるだろう。この世界で正しさを語るためには、まず強くなければならない。

 そのための力を、私はきみに教えたつもりだ。きみはきみのまま、自身が正しいと思うことをすればいい』

 

 そう言って、リナの頭を撫でてくれた。

 

『きみという弟子を得られたことは、私の誇りだよ』

 

 笑顔で抱き締めてくれた。

 その温もりを奪った連中を、許すわけにはいかない。

 

 あの時感じた激情は冷めることなく、むしろ時間が経つ毎に膨れ上がっていくかのようだった。

 この感情を鎮める方法はただ一つ、手にした戦槌で奴らを一人残さず潰すことだ。

 

「見ててくれ姉ちゃん。あたしを育てた姉ちゃんが最強だってこと、証明してやる。あんな数だけの連中、あたしとサフィの敵じゃない」

 

 そしてリナは、標的全員の匂いが集中している中等学校までたどり着いた。

 

 奇しくもそこにはリンネの痕跡もあり、それがいっそうリナには腹立たしかった。

 同じ学校の魔法少女を、リナが尊敬する正義の魔法使いを、連中は惨たらしく殺したのだ。

 

 そんな連中にリンネを殺した理由を聞くだけ無駄だろう。

 どんな理由があったとしても、リナが納得するはずがないのだから。

 

 リナは明日学校をずる休みすることを計画しつつ、家に戻っていった。

 明日の戦いに備えて眠るために。

 

 明日こそ、連中が揃ったところを一網打尽にするつもりだ。

 だからその時よ、早く来い。

 

 この一瞬すら永遠に思えるほどの激情をリナは辛うじて飲み込む。

 まだその時ではないのだから。

 

「待ってろよ人殺し共、目に物見せてやる……姉ちゃんからもらった、この力で!」

 

 真紅の復讐者は月夜に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ:小ネタ(本編とは一切関係ありません)

「うわっ……私の出番、少なすぎ……?」

 黒幕に引っ込んでいるせいか、スポットライトは他の娘に移ってしまい、私の存在感が空気となりつつあった。
 このままではオリ主としての立場が危ない。

「それを言うなら僕の方が――」
「あなたは引っ込んでなさい、インキュベーター。あなたが出るくらいなら私が出るわ」
「ダメだよリンネ。それじゃ原作ファンに叱られてしまう。彼らのためにも人気者のマスコットキャラである僕が出るべきだ」
「寝言は寝て言いなさい。あと妄想は控えめにお願いするわね、耳が腐るわ」
「ひどいよリンネ。それに君が出ると外道指数が急上昇してエントロピーが崩壊しかねないんだ。だから僕が――」

 その後続いた論争は苛烈を極め、最終的に私がキュゥべえをぷぎゃーするまで続いた。
 ……虚しい勝利だ。

 この悲しみはアリスとアイナを両手に、にゃんにゃんして晴らすしかなかった。

「……やれやれ、どうして人間の思考っていうのはこうも、理不尽なんだい?」

 白いナマモノの言葉に答える者は、誰もいなかった。



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