ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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絵里との絡みが書きたかったのでつい。
実際は45万アクセスを突破してはいるのですが、目をつぶって下さると幸いです。
一応、かすっている程度ですが、活動報告で行ったアイデア募集も参考にさせていただいています。絵里との絡みを見たいと言ってくださる方も多かったので。

今回はミカロ@ハリーさんのアイデアを一部取り入れさせていただきました。
少しニュアンスは変わってしまったかもしれませんが……。

常時アイデア募集はやっておりますので、気が向いたらぜひ。

訳題は『彼女とデートすることはありますか?』です。


 ◆ Do you ever date her?Ⅰ

 夢を見ていた。

 優しいおばあさまの夢。骨ばった、それでいて暖かい手で頭を撫でられて優しく抱きしめてくれた幼い記憶。懐かしい匂いと優しい言葉。

 いろんなことを思い出して、私は幸せな夢の中を漂っていた。

 

「ん……おばあ様ぁ」

「……」

「おばあさま……」

「何だい? 絵里?」

 

 この声は?

 ううん、良く分からない。眠たくて、まどろんで。

 

「……ぎゅうってして?」

「ぶっ! ゴホッゴホッ!」

「……?」

 

 何やら少し違和感を感じる。

 それでも、私はただただ幸せな気分に浸っていた。鼓膜をわずかに揺らす囁き声も、どこかで聞いたことのある心地の良い低音で、不思議と落ち着いていた。何度も何度も繰り返しかけられた男の子の声。

 

 ……男の子?

 

「え、絵里。お前、可愛いな」

「……え?」

「さすが中学校の時クラス内一位の人気を誇っていただけある。危ない危ない。持っていかれそうになってた」

「……!?」

 

 ガバッと一気に体を起こして、耳元で趣味の悪い声真似をしていた幼馴染を睨みつけた。こ、こ、このアホ海菜!!

 

「海菜!」

「おっ。正解! どうも、古雪海菜です」

「あ、あ、あ、アナタねぇ!」

「悪い。寝顔見ちゃった」

 

 何一つ悪びれることなく平然とそう言ってのける幼馴染に、私は渾身の力を込めて枕を投げつけた。ほんっとにこのバカは! デリカシーって言葉を知らないの!?

 

「おっと。えい」

「きゃっ」

 

 一直線に海菜の顔に向けて飛んでいった枕は、あえなく途中で彼自身の手によって阻まれてしまった。そしてキャッチしたそれを軽くこちらに投げ返してくる。

 ぽふんと膝の上に落ち、私は思わず声をあげてしまった。

 

「おはよう」

「なんでこのタイミングなのよ……おはよう」

 

 小さくため息をついて、相変わらず妙に楽しそうににこにこと笑う幼馴染をじろりと眺める。なぜか少しだけオシャレをした、外行きの服装をしていた。一体どうしたというのだろう。それにそもそもなんで私の部屋に朝から……。

 

「目、覚めた?」

「覚めない訳ないでしょう……。もう。今何時なの?」

「朝の九時。まさか絵里がこの時間まで寝てるとは思わなかったけど」

「今日は練習休みだから、夜遅くまで振りつけの確認をしてたのよ」

「なるほど」

 

 納得したようにこくりと頷く。

 今度は私が質問する番ね。

 

「海菜は何しに来たのよ?」

「いや、今日は久しぶりに全力で遊ぶ日に決めてたからさ。とりあえず絵里を起こそうかなって」

「とりあえずで人の快眠を邪魔しないでくれないかしら……」

「むしろ良い夢見れるよう手伝ってたつもりなんだけど」

「最低!」

 

 相変わらず反省のない様子の海菜に再び枕を投げつけるものの……あえなくはじかれてしまった。もう!悔しい!

 

「いいじゃん。遊ぼうぜ」

「や!」

「おぉ。これ以上ない拒絶の言葉」

 

 私は差し出された手を払って再び布団にもぐりこんだ。頭まで掛布団をかぶって縮こまる。絶対遊んであげるもんですか! 好きな人だからってなんでもかんでも許すと思ったら大間違いなんだから。

 

「そこをなんとか」

「や!」

「何でもするから」

「……なんでも?」

「あぁ。絵里をからかわない以外なら何でも。君の命令なら全裸でジョギングしてきても良い」

「なんでそこは譲れないのに全裸はいいのよ!?」

 

 彼のツッコミどころ満載の言葉に、思わず布団をはねのけて体を起こしてしまった。海菜は私が体を起こすのを待っていたのか、瞬時に掛布団を私のベッドの上から奪い取ると、自分の後ろに丸めて隠してしまう。

 うぅ。またやられてしまった。

 

「あ! こらっ。返しなさい!」

「や!」

「もう! 私の真似しないでよ。はぁ……」

「似てた?」

「似てないです! バカ」

 

 ダメね。このままではずっと彼のペースにはまり続けることになる。抜け出そうとすればするほど海菜の術中にはまるだけなのだから、ここは一度冷静になってみましょう。

 ちらり、と海菜の様子を伺うと相変わらず小憎らしい程楽しげな表情を浮かべていた。私の好きな表情なのに、どうしてこんなに生意気に思えるのかしら。

 私が遊ぶことを拒否すること自体が、彼にとっては遊びになるのだからたちが悪い。もっとも、彼のペースに乗せられて不快でない私もどこかおかしいのかもしれないけれど。

 

「とりあえず出かけてみませんか」

「イヤって言っても無駄なんでしょ」

「うん」

「ここまでくるとむしろ清々しいわね……。確認だけど、さっき何でもしてくれるって言ったわよね」

「あぁ。絵里いじりの禁止以外なら、道行く人全員にキスして回っても良い」

「だから。なんで犯罪をもいとわないの!? 私をからかう事に関しては一切妥協しないのに」

「しいて言うなら、愛かな」

「歪んでるのよ……」

 

 私は諦めて立ち上がった。そりゃまあ、今更寝顔を見られたりパジャマ姿を見られて恥ずかしがる様な関係ではないけど……。この分のつけは今日た~っぷりコイツに払って貰うんだから。

 

「なんだかんだ言いつつ絵里は付き合ってくれるよな」

「言っておくけど、次は無いわよ?」

「はいはい」

「なによ」

「別に?」

 

 まぁ、海菜がここまでわがまま言ってくるのはかなり珍しいし、少しくらい付き合ってあげても良いかな。結論から言うと、今日は一日海菜とデート出来る訳だし……。

 

 デート?

 

 改めてそう考えると、急に恥ずかしくなってきてしまった。

 いやいや、海菜はそんな事一つも考えてないんだから!

 

「えっと、二人きりでお出かけ、よね?」

「あぁ。そうだけど」

「……」

「……」

 

 なぜか無言で見つめ合う。

 急に頬がかあっと熱くなってしまった。何よ何なのよ!? いつもみたいに何にも考えてないような顔で『早く支度しろよ』とか言いなさい!

 

 理由は分からないが、海菜も軽く頬を染め、そっぽを向いてしまった。

 

「二人きり、とか恥ずかしいワード使うのやめてくれない?」

「なっ!? 別に変な意味で使った訳じゃないわよ。ただ、ほかの友達呼ぶかどうか気になっただけで……」

「今から声かけるの面倒だし、二人きり……いや、デートだ」

「なんでもっと恥ずかしい方で言い直すのよ」

 

 やっといつもの様子に戻った海菜は、立ち上がって伸びをした。

 

「それじゃ、俺は下で待ってるから」

 

 そう言い残してさっさと部屋から出ていこうとする。

 

 うー。なんだかものすごく悔しい。

 私もやられっぱなしで黙っている訳にはいかないわ。昔から私と海菜は対等な関係。つまり……やられたらやり返さなきゃ!

 

「えいっ!」

「!?……ちょっ! え、絵里!? あはは、やめっ」

「昔からわきをくすぐられるのが弱かったけど、変わらないのね」

「ひっ! 変わら……ないって! 頼む! やめ……」

「うふふ。さっきはよくもやってくれたわね」

 

 ばたばたともがく海菜を後ろから抱きしめて、徹底的にくすぐった。上手く力が入らないのか、彼は私を振り解けずに切なそうな悲鳴をあげている。

 

「ほら、海菜。ごめんなさいは?」

「い、嫌だ!」

「相変わらず強情ね……」

「つか! マジで離せ! 絵里!」

「いーやっ」

「お前服装考えろ! む、胸が……」

 

 そこまで言われて、やっと私は自分がやっていることに気が付く。夏場のパジャマという薄い布地で覆われただけの体を、あろうことか後ろからぎゅうと海菜の背中に押し付けていたのだ。

 寝ぼけていたせいか、そこまで考えが回っていなかった。

 

 私は慌てて彼から体を離すと、急いで再び掛布団の中に潜り込む。

 

「……」

「……ぜぇ、ぜぇ」

 

 再びの沈黙。

 それを破ったのは、開いたドアの外からこちらを見ている私の妹だった。

 

「おねーちゃん達、いつまでたっても変わんないね」

 

 うぅ。

 

 

***

 

「それで、どこか行くあてはあるの?」

 

 私は朝食のパンを頬張りながら、ウチのリビングでまるで我が家のようにくつろぐ海菜に声をかけた。彼は亜里沙と一緒に日曜朝の特に面白くもない番組を見ながらけらけらと笑っている。

 

「行くあて? ないけど」

「でしょうね……」

 

 ま、いつもの事ね。 

 最近こそ勉強が忙しくてこうして二人で出かける事は無かったが、中学の頃もその前も無計画な外出に付き合わされた思い出しかない。そもそも、明確な目的があって出かけるときは誰かを誘ったりしないのよね。コイツは。

 

「思いもしないアクシデントに心躍らせたいからさ」

「昔からそれ言ってるわよね」

「あぁ。そろそろ分かってこない?」

「ぜんぜん」

「はぁ。相変わらず価値観は合わないな。幼馴染なのに」

「幼馴染だからでしょう」

 

 意見の不一致はもはや日常。

 私は少なめの朝食を食べ終えて立ち上がる。

 

「私を付き合わせるんだから、楽しくなきゃだめよ?」

「あぁ。少なくとも俺は楽しいから大丈夫」

「ホント、いい性格してるわね……」

「ん、さんきゅ! 君を連れてけばどこ行っても楽しいから」

「……」

 

 こういう事を素で言うのだから恐れ入るわ。今まではこれが普通だったから特に気に留めたりもしてなかったけれど、いざ意識し始めるといちいち心を掻き乱す。

 

「いいなー。亜里沙もついて行きたかったのに」

「亜里沙ちゃんは今日雪穂と勉強会だっけ?」

「うん! 今度は私も連れってってよ、お兄ちゃん」

「あぁ。また今度な。今日は絵里とデ、デ……デートだから」

「えへへー、やったぁ!」

「ネタに出来ないくらい恥ずかしいなら無理して言わなくていいのに……」

 

 

***

 

「いってらっしゃーい!」

 

 亜里沙に見送られて、私たちは外に出た。夏の日差しが容赦なく降り注いでじりじりと肌を焼く。私はすぐに日傘を開いて紫外線をシャットアウトした。ちゃんと日焼け止めを塗っているものの、あまり日光に強くない体質なので夏場はこれが必需品だ。

 

「海菜。とりあえずどこに向かうの?」

「そうだなぁ。ショッピングでもするか。外は暑いし」

「そうね。それじゃぁ……」

「テレフォンショッピングだな」

 

 そう言って海菜はくるりと方向転換。

 今出て来たばかりのウチへ戻ろうとする。

 

「こら! 出かけるって言ったのは海菜でしょ!」

「うぅ。予想以上に暑かったからさ」

「ちょっとの間位我慢しなさい。今日は何でもいう事聞いて貰うんだから」

「そう言えばそうだった……何を盗んでくればいい?」

「だから、何で私のお願いは全部犯罪だと思ってるのよ!」

「おそロシアだし」

「私や亜里沙を見てロシアが怖く感じるの?」

「絵里は怖いって……嘘です。可愛くて優しい幼馴染です」

 

 素直にぺこりと頭を下げて来た。素直なのは良い事ね?

 

 一通りボケ終わった海菜は、ウィンドウショッピングかぁ。ウィンドもロクにないこんな日に……などと聞こえるか聞こえないかの音量で呟いている。

 一応面白くない事を言っている自覚はあるらしい。思いついたら口に出したくなる性格のせいか、小声でひっそりと事故処理をしているのだろう。

 

 なんにせよ、昔から夏は苦手なのよね。お互いに。

 

「とりあえず、駅に向かおうか」

「そうね」

「じゃ、君は東から。俺は西から」

「くだらない事言ってないで一緒に行くわよ」

「さすが幼馴染。ボケをスルーすることに躊躇いがない」

「いちいち付き合ってたら日が暮れるでしょう」

「確かに。やろうと思えば出来るな」

 

 いたって真面目な顔で頷いた。

 まさかとは思うけど、この人他の場所でも同じことやってるんじゃないでしょうね。さすがにそれは無いと信じたい。これでも常識人だし、やってもにこや希の前位かしら。

 

 てくてくと歩き始めた海菜の背中を追って歩き出す。

 隣に追いつくと、いつも通り私の歩幅に合わせてくれた。こういう小さな優しさも彼らしい。

 

「いやぁ。足が長いから絵里の歩幅に合わせるのは大変だ」

 

 この一言が無ければ、だけど。

 

「海菜、今日は勉強大丈夫なの?」

「あぁ。昨日一日模試だったから。今日はリフレッシュに」

「そう。リフレッシュする気になったって事は結構うまくいったのね?」

「体感的にはな。ぼちぼち出来てそう」

「ふふ。良かったわね」

 

 仮に酷い出来だったとしたら今頃部屋に閉じこもってるだろうから。

 こうして私を誘って遊びに行ってくれることは色んな意味で良い事なのかもしれない。

 

 私たちはお互いの近況を話し合いながら歩みを進めた。

 あっというまに時間は経って、目的の駅に着く。休日の昼前であるせいか、かなりたくさんの人で溢れかえっていた。私たちはICカードを取り出してゲートをくぐろうとした……直前で海菜が動きを止めた。

 どうしたの? と、目で問いかける。

 

「そういえばチャージするの忘れてた」

「後でも出来るんじゃない?」

「いや、あっち側だとここよりも込むからさ。ちょっと待ってて」

「えぇ。分かったわ」

 

 彼はそう言うと足早に自動切符販売機のある所へ向かって行った。私は特にすることもないので軽くスマホをいじりながら近くの壁に背中をもたれ掛らせていた。

 周りには私と同じように誰かを待っている様子の人がたくさんいる。

 それぞれ思い思いの手段で暇をつぶしながら、時折あたりを見回していた。

 

 ふと。視線を感じる。

 

 少し不快な感覚。

 

 ちらりとあたりを見回すと、下品な茶髪をした男二人がこちらを不躾に眺めてなにやら話をしているのが目に入って来た。はぁ。私は本気でため息をつく。海菜と居る時にでるそれとは全くの別物だ。

 

 関わり合いになりたくないので急いで視線を外す。

 しかし、どうやら遅かったらしい。ゆっくりとその二人がこちらに歩いてくる。

 

 仕方がない。海菜も居ないし、私で何とかしないと。

 幸い希と二人でいるとき何度かこういう事はあったので、この手の処理には慣れている。それに向こうも手当たり次第に行ってるせいか、冷静に対応すればすぐに諦めてくれるのだ。

 話すこと自体不愉快なので、出来るだけ会話もしたくないのだけど。

 

 私は覚悟を決めて、顔をあげた。

 

 その時。

 

 

 

「やっぱり次の駅で良いわ」

 

 

 

 そっと誰かに腕を引っ張られる。

 不思議と急に体に触れられたにも関わらず、不快感は一つも無かった。

 

「海菜?」

「ほら。電車あと一分で来るってよ」

 

 何食わぬ顔でそう言う海菜の額にはなぜか汗が浮かんでいて……。私はくすりと微笑んだ。

 

 この事でからかったらどんな反応をしてくれるんだろう?

 偉そうに、感謝しろよ? なんて言うのかしら。それとも知らんぷりを突き通すのかしら。

 

 私はこの人ごみの中でも、私の事をずっと気にかけてくれてたであろう幼馴染に引っ張られながら、その背中に声をかけてみることにした。

 

 

 

 

***

 

 

「あれ? 真姫ちゃん、凛ちゃん。あの二人って、絵里ちゃんと海菜さんだよね」

「腕なんか組んで何してるのかにゃー?」

「うえぇ!? ……ま、まさか。二人とも、絵里たちの後を追うわよ!」

「え? え?」

「おー? なんだか面白そうにゃー! 凛、張り切っちゃうよー」

「えぇ!? 見つかったら怒られちゃうよ? って、真姫ちゃん引っ張らないでー! 誰か、誰かタスケテーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 




映画、良かったですね。

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