ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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一体いつの記念話だといわれそうですが、遅ればせながら投稿いたしますね。
いつも皆様方の応援、感謝しております。

今回の話を書くにあたってえりんぎ丸さんの意見を参考にさせていただきました。
えりんぎ丸さん、ありがとうございます^^

まだ、アンケートは行っておりますのでご意見あれば、活動報告の方にどうぞ!


訳題は『一緒に勉強しませんか?』です。



 ◆ Shall we study together?

 μ’sの練習が午前中で終わった土曜日。

 

 私はお昼ご飯を済ませた後、勉強道具をカバンに詰め込んでいつもの待ち合わせ場所へと足を運んだ。朝から気持ちよく運動できたせいか、足取りは軽い。べ、別に、あの人と会えるからとかそういう理由からじゃないわよ!?

 少しだけ入り組んだ路地の先にある小さな喫茶店の前で、既にその人は店の壁に背中を預けて退屈そうに私を待っていた。

 

 足音に気が付いた彼はゆっくりと顔をあげるとじろりと一瞥。

 

「真姫、遅い。一分待ったからな」

「まだ待ち合わせの時間じゃないでしょ?」

「時間は関係ないの。後輩が先輩より来るのは当たり前!」

「はぁ、すみません……」

 

 私は小さくため息をついてとりあえず謝っておいた。 

 すると古雪さんはうんうん、素直なのは良いことだと満足そうに頷く。そして、肩にかけていたリュックを私の方に投げて来た。慌てて両手でキャッチして必死にこけない様踏ん張る。

 

「ちょ、ちょっと!」

「席取っておいて。飲み物買っていくから。いつもので良いよな?」

 

 

 そう言って彼は扉を開けてさっさと入れとでも言うようにクイックイッと親指で店内を指さした。私はもう一度ため息をつきながら二人分の荷物を抱えてお店の中に入った。立地が悪いせいか客の数は少なく、年齢層もまばらだ。店内は程良く明るくて、人の話し声はほとんど聞こえずジャズミュージックが心地よく耳に入るのみ。まぁ、だからこそ古雪さんはここを勉強場所に選んでるんだろうけど。

 私はいつもの席に座って彼が戻ってくるのを待った。

 

「ん」

「あ、ありがとうございます……」

 

 戻ってきた古雪さんが差し出したトレーから同じコーヒーを二つとミルクを受け取って机の上に置いた。そして彼がトレーを返しに行っている間に自分のコーヒーにミルクを多めに注ぐ。

 たしか古雪さんは私よりちょっと少な目だったわよね……。

 あの人の好みを思い出しながら同じくミルクを注いで隣の席に置いた。

 

「あ、さんきゅ。……お、色を見る感じ丁度いい量を入れたと見えるな」

「それは、何度も来てるし……嫌でも覚えるわよ」

「結構結構」

 

 隣の椅子に腰を下ろしてコメントを残した後、静かにコーヒーを啜ってうんうんと頷く古雪さん。どうやらミルクの量は問題なかったらしい。

 

 

「あの、代金を……」

 

 私はカバンから財布を取り出して彼に値段を聞いた。だって毎回コーヒーだけとはいえごちそうになってるし、こちらからお願いしている分申し訳なく思ってしまう。そろそろ私も払わなきゃと思うんだけど……。

 でも案の定、古雪さんは、いらんわばか!と私の頭を小突いてきた。

 

「先輩と後輩で店に来たら後輩は大人しく奢られとけば良いんだって」

「うぅ、でも私から誘って来て貰ってるワケだし……」

「関係ないっつの」

 

 逆にため息をつきながら、彼は頬杖をつく。

 先輩にご馳走して貰う。そんな当たり前の事になぜか少し心が躍り、素直じゃない私はついつい心にもない言葉を返してしまう。

 

「お小遣い私より少ないくせに……カッコつけちゃって」

「シャラップ!やっすいコーヒー飲ませてやるくらいの甲斐性はあるわ!つか、お金の問題じゃないの。それに、申し訳なく思うんなら今まで以上に敬意を持って俺に接してくれればいいから。君に敬語使わせることまだ諦めてないからね、俺」

 

 しかし、結局言いくるめられてしまった。

 私はいつものようにつんっと横を向いて照れ隠しに目の前のコーヒーを少しだけ多く口に含む。ありがとうございます、ごちそうさまです。その台詞がうまく言えなくて、少しだけ自己嫌悪。

 

「俺に奢ってもらった分、君が下に返してやれば良いんだよ。あ、でも、俺より豪華な物奢るなよ?そんなことしたら俺が君に良いものご馳走してやんなきゃならなくなるし……」

「ほんと、甲斐性なしね」

「あんまり生意気言ってると残ったミルク鼻から注ぐからな」

 

 いつの間にか普段の会話に誘導される。

 

 こういう時だけ先輩面して、ズルいのよ……。

 普段はイジワルな事言ってからかうばかりなのに。

 

 地元でも有名な西木野病院の跡取り娘として育てられてきた私は、どうしても他の人とは違う目で見られることが多かった。変に気を使われたり、逆に疎ましがられたりするせいか、他人と食事や遊びに行くことは私にとって苦痛でしかなかくて……。

 

 でもこの人は、ただの後輩として私を見てくれる。

 

 

 その関係が心地よくて……少しだけ、もどかしかった。

 

 

***

 

「……」

「……」

 

 勉強を始めて大体三時間ほどたっただろうか。

 私たちはお互い一言もしゃべらないまま目の前の問題に没頭していた。

 

 一応の名目上は『勉強会』ではあるのだけれど、店の滞在時間中一度も言葉を交わさないまま勉強が終わってちょっと雑談して帰宅、なんてことも良くある。私もテスト前は凛や花陽と勉強会をしたりしているけど、やっぱり無駄話が多いのよね。もしかしたらそれが普通なのかもしれないけれど。

 

 基本的に、私が古雪さんに質問する以外会話が生まれることは無い。

 なにかアクションが起こるのは……しいて言うならたまに彼が、私が書いている解答をちらっとのぞいて鼻で笑ってくる事くらいだろうか。それ以外はお互い自分の勉強に集中しているわ。

 

「あ……」

「……」

 

 少し集中が途切れてしまったせいか、問題を解く手が止まった。

 一度落ち着いて考え直す。えっと、証明問題だから……。

 

 色々と試行錯誤を繰り返すもののなかなか解決方法は見つからず、無情にも時間だけが流れていく。五分経ち、そして十分が経過した。これ以上考えても時間の無駄になりそうなので私はチラリと横に座る古雪さんの様子を伺う。

 

 普段は決して見せないような真剣な表情。

 不覚にもドキッとしてしまった。

 

 彼は普段決して見せない真剣なまなざしで参考書に印刷された黒インクの文字列を眺め、計算用紙の上でシャープペンシルを走らせている。時折、彼の癖なのか掌の上でペンを一回転させて見事にキャッチ。その後二、三度こんこんとペンの頭で肩を叩いたりしていた。

 

 じぃっと古雪さんの横顔を見つめていると、流石に視線に気が付いたのか彼は顔をあげる。

 

「どしたの?」

「分かんない所があって……」

「そっか。ま、頑張って」

 

 そう言ってわざとらしく自分の解いている問題に戻ろうとする。

 私は慌ててそれを引き留めた。

 

「ちょ、ちょっと!」

「え?何?」

 

 にやりと笑いながら再び顔をあげて、これまたわざとらしく首を傾げて見せる。そして面白そうに私の目をじっと見つめて来た。

 

「えっと、数学で分からない所があったから……」

「ま、確かに勉強してたら分かんない所はでてくるよな。……それで?」

「だ、だから、その……」

「うんうん」

 

 彼は伸びをしながらコーヒーを口に含み、私の言葉を待っている。

 

 

「お、教えてください……」

「よくできました。で、どんな問題?」

 

 

 もう!絶対ここまでちゃんと言わなきゃ教えてくれないんだから!

 ぷくっと私が頬を膨らませていると、わるいわるいと楽しそうに笑いながら海菜さんが私の目の前にあった問題集を覗き込んだ。問題文を読み終わる頃には先ほどの真剣な表情に戻っている。

 

「ちょっとまってね……」

「はい……」

 

 宙を眺めながら頭の中で何かを組み立てている様子の古雪さんにこくりと頷き返して、そっと彼の表情を伺っていた。べ、別に見とれていたとかじゃなくて……そう、彼が私の問題を考えてる最中は手持無沙汰だったってだけよ!

 

 なぜか熱くなる頬を抑えて小さく首を振る。

 

 すると何も知らない古雪さんは嬉しそうにこちらを向いた。

 

「おっけ、解けたよ!」

「……難しかったですか?」

「ん。結構ね。その紙使っていいの?」

「あ、はい」

 

 ここがこうなって……。といつものように数式を書きながら教えてくれる。雑念は振り払って、彼の癖のある丸い文字が刻む数字と彼自身の少し低い声だけに集中した。

 

 相変わらず彼の説明は分かりやすい。

 

 普段から口の減らない人ではあるけれど、もしかしたらそれがうまく言葉を使う練習にでもなっているのかもしれないわね。そう考えるといつもの二言多い会話も許せちゃうかな……いや、そんなこというとニコちゃんあたりに怒られそうだ。

 

「ってこと。ま、確かに止まるのも無理ないかな」

「ありがとうございます」

「ん。てか、そろそろ時間だな」

 

 時刻は午後六時。

 日はまだ出ていたが、古雪さんが夜からは塾で授業があるらしく今日はこの辺で終わりにしようという事らしい。……今日も有意義な勉強が出来た気がする。

 古雪さんは私のコップと自分のコップを持ってそれを返却しに行ってしまった。

 

 ちょっとおなか、空いちゃったな。

 

 スクールアイドルたるものスタイルの維持も大事なので、私は出来るだけ早い時間に晩御飯を食べて寝るときにあまり食べ物を胃の中に残さないようにしている。その習慣の所為もあってか、これくらいの時間になると少しずつ空腹を感じてきてしまうのだ。

 

 今日はこのあとどうするのかしら。

 いつのまにか戻って来て帰り支度を進める古雪さんを見ていると、彼は視線に気が付いて顔をあげ、口を開いた。

 

「それじゃ、ご飯一緒に食べてく?」

「いいんですか?」

「まぁ、毎回そうしてるし……もしかして時間の事気にしてる?大丈夫だよ、まだまだ始まんないから」

「いや、古雪さんの財布の事です」

「だから余計なお世話だっての!ただし二人合わせて一二〇〇円以下だがな!」

「それなら私がもっとおいしいお店に……」

「それだけは、それだけは勘弁してください」

 

 割と本気の表情で懇願されてしまった。

 とりあえず私たちは揃ってお店を出る。マスターの声と、扉につけられたベルの音が心地よく夕方の空に溶けていく。まだ、そんなに寒くないから気持ちいいわね。

 

「真姫はどこに行きたい?」

「どこでもいいわよ」

「君、前も似たようなこと言って俺に二郎系ラーメンに連れて行かれたことを忘れたのか?」

「ううぇえ!?あそこはもう行かないわよ!」

「えー、残念。美味しいのに」

「味の問題じゃないのー!」

 

 今思い出しただけでも胸やけがしそうよ……。

 私はけらけらと笑う古雪さんを軽く睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 二人並んで夕焼け空の下を歩く。

 伸びた影はくっつきそうなほど近いけれど……私の尊敬するこの先輩にはまだ、追いつけそうにない。

 

 

 

 

 

 




あと一人で投票者も100人突破!
まだまだ記念話が書けそうです(笑)

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