ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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お久しぶりです。
更新遅れて申し訳ありません……。

活動報告にも書きましたが、本当に多忙で執筆に割く時間がありません。
でも、失踪するつもりはありませんのでご安心してくださいね(笑)


少し荒い出来ではありますが、年内にあげられて良かったです。
私が投稿を始めたのは今年の六月でしたが、半年間ありがとうございました。

良いお年を。


 ◆ We are alone.Ⅱ

 ふあぁ。

 

 盛大に口を大きく開けて欠伸をした。電車や教室の中ではそうはいかないけど、別に家の中で誰も見ていないし、横で幸せそうにすやすやと眠る絵里に注意される心配もないから遠慮なくさせてもらう。

 久しぶりにゆっくり昼寝をした気がする。学生とはいえ何かと忙しいしなぁ。

 さすがに受験生ともなると昼寝の時間も惜しんで勉強しないといけないから。

 これであと数週間は頑張れるだろう。今日一日はゆっくりするつもりだし。

 

「それにしても、よくねるなぁ、コイツも」

 

 時計を確認すると昼の3時を回っており、朝食兼昼食を食べてから既に4時間くらいたっている。ってことはつまり……2・3時間二人してソファで昼寝していた訳か。

 お世辞にも寝心地が良いとはいえないのにな、このソファ。

 一つのタオルケットで寝ることが出来た位なので当然転ぶことは出来ず、ずっと座ったままである。絵里が数時間同じ体勢で俺の肩に頭を乗っけていたせいか、少しだけジンジンとその箇所が痛んだ。

 

 しかし、不思議なことに目が覚めた俺は、それを理由に早く起き上がりたいとは思わなかった。

 

 寝心地は確かに良くない。でもなぜか居心地は……良い。

 一体、何でだろうな?

 人の体温を傍に感じると安心するみたいな、動物的本能なのかもしれない。

 

「……よいしょっと」

 

 彼女を起こさない様静かにタオルケットを自分の体から剥がし、ゆっくりとソファから立ち上がろうとした。

 

 

――その時。

 

 

 

「ん……」

 

 絵里の口からか細い声が漏れた。

 

 やばっ、起こしちゃったかな?

 確認しようにも身動きが取れないのでどうしようもない。肩に頭が乗ってるんじゃ顔だって見えないし……。どうしようか。

 途方に暮れて意味もなく視線だけ動かしていると、きゅっと部屋着の太ももあたりの布が引っ張られるのを感じた。視線を下に向けてみるとどうやら絵里が寝ながら無意識のうちに掴んだらしい。そのまま彼女はすぅすぅと規則正しい寝息を立て始めてしまう。

 

 『行くな』ということだろうか。

 そんなこと言われても困るんだけど……。

 

 実は今日絵里と二人で過ごすことになるとは全く思っていなかったため、少し大事な用事を入れていたのだ。出来れば今からでもそっと抜け出してその用事を済ませたい。

 

 俺は何とか絵里に離して貰おうととりあえず太ももあたりを掴む指を一本一本剥がそうとする。寝ているせいか力はそれほど籠ってはいなかったらしく彼女の細くて白い指は抵抗なく外れた。

 絵里は気付くことなく、静かに寝息を立てている。

 

 

 こんなにコイツの手って小さかったっけ?

 

 

 ふと思う。

 最後に手の大きさとか比べあったのはいつだっけか?

 確かその時はほとんど手の大きさは一緒だった気がする。つか、身長に至っては絵里の方がずっと大きかったしな。俺が成長期に入ったころには抜いてたけれど。

 

 俺の左半身にかかる体重も酷く軽い。

 誰かが守ってあげなくちゃダメなんじゃないか、そう感じてしまうくらいには。

 

 いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃないな。

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、絵里の体が動かないように肩を掴んで彼女の体勢を整えた。

 後は音をたてないように財布を持ってこの家を抜け出すだけだ。普通に行って帰ってきても一時間もかからないだろう。

 

 抜き足、差し足。

 まさか我が家、しかもまだ太陽が出ているような時間から忍者まがいの行動をとる羽目になるとは思わなかったが、必要なのだから仕方がない。まったく、和室の仏壇に住んでるひいおばあちゃんはこんな子孫の姿を見てどう思ってるだろうか。

 

 何とか財布、スマホを確保して無事リビングを抜けた。

 よし、部屋さえ抜ければもう大丈夫。よっぽどデカい音を立てさえしなければ彼女を起こすことは無いだろう。そう安心して靴箱から靴を取り出し、ひもを結んでいざ立ち上がった。

 

 

「どこに行く気かしら?」

 

 

 背後からかかる声。

 全力ダッシュで逃げようと思ったときにはもう遅い。すでに襟首をガッチリとご丁寧に両手で掴まれていた。

 

はぁ。

 

俺は諦めて大きなため息を一つ。

うまくいかないものだよなぁ。

 

 

***

 

「海菜、待ちなさいってば!」

「だー、鬱陶しい!帰って寝てろばか!」

「いやよ、だってどこに行くか気になるもの」

 

 足早に歩みを進める俺と、何やら後ろから追いかけてくる絵里。

 まったく、子供か!別に大した理由じゃなかったんだけどな。

 

「なんで目覚めたんだよ……。あれだけアホ面さげて寝てたのに」

「うえぇっ!?み、見たの?」

「や、そんなにじっくりとは見てないけど」

「あ、あたりまえよっ」

 

 彼女はなぜか焦って頬を染めていた。真姫のような声をあげるあたりよっぽど動揺しているらしい。

 何照れてるんだよ。今まで普通にお互いの寝顔くらい見たことあるのに。こいつもお年頃ってことか。そりゃ、小学校の頃とおなじようにはいかないだろうけどね。

 

「はぁ……」

 

 ま、いっか。

 予定は少し狂ったけどむしろ付いてきてくれた方がやりやすいかもしれない。

 俺は少しだけ歩くペースを緩め、絵里が隣に来るのを待った。予想外の出来事に思わずため息はついてしまったけれど。

 

 しかし、このため息が良くなかったらしい。

 

「か、海菜?」

「ん?」

「や、やっぱり迷惑だったかしら?ホントについて来られるのが嫌なら言ってね」

 

 持ち前の生真面目さを発揮して、途端に申し訳なさそうな口調に変わる絵里。形の良い眉がきゅっと下がって声の張りまで弱まってしまった。

 うっ、コレは俺のミスだわ……。

 

「いや、別にいいよ。そんなこと気にするなって!」

「ホント?」

「あぁ。もちろん予定とは違ったけど君を連れてくのも悪くないし」

 

 そっか、良かった。と呟いて胸を撫で下ろす絵里。

 親しき仲にも礼儀ありとはよく言われるけど、たまにはわがまま言って貰ってもいいんだけどな。俺個人の意見としてはだけど。

 彼女は納得したのか隣に追いついて軽く息を整えていた。

 

 

「それにしても、海菜が急いで出かけるなんて珍しいわね」

「そうかー?俺結構出かけること多いぞ?」

「出かけることは多いけど、毎回思い付きじゃない」

「それは確かに……」

 

 思い返せばYAZAWAと出会ったのも完全思い付きだったもんな。

 あれ、俺ってもしかしてあんまり計画性ない?でも、意外に無計画で行動する方が楽しかったりするよね。予定立てて計画練るのが好きなタイプもいるけど俺はむしろなんにも考えずに行き当たりばったりで行動する方が好きな人種だ。

 隣を歩く幼馴染は正反対だけど。

 

「結局どこへ行くのよ?そろそろ教えてくれたっていいでしょ」

「いいからついて来いって!サプライズだから、君への」

「そうなの?」

「そうそう」

「……それ、言ってよかったの?」

「あ……」

 

 

***

 

 絵里に余計な気を回させてしまったという焦りから、思わず口を滑らせてしまった俺は何ともかっこ悪いサプライズプレゼントを贈ることになってしまった。

 てか、サプライズじゃねぇし。

 口を滑らせてしまった自分にびっくりだわ。

 

「わぁーみてみて海菜!チョコがたっくさん」

「そうですねー」

「もうっ、いつまで落ち込んでるのよ」

 

 現在俺たちがいるのは駅前に新しくできたチョコ専門店だ。

 それもかなり有名な高級店!やばい、じんましんでそう。

 俺も初めて来てみたのだが確かに多種多様のチョコレートが並んでいた。俺が今までの人生で見たことのあるチョコなんてチ〇ルやセコ〇ヤぐらいだからな。高級そうな茶色い紙に包まれて持って帰られるのを見ると……もう意味わかんない。

 だってさ、ショーケースに並んでるんだぞ?チョコが!

 しかし、絵里は俺が思っていたよりもっと嬉しそうだった。こんなにテンションあげてる彼女は久しぶりだと思う。今だってすげぇ腕叩かれてるし。痛い痛い。

 

「うわぁ、海菜!なんでもいいの?」

「んー、幼馴染の財布事情は知ってるよな?」

「もう、けち」

 

 そういえば、まだ何のサプライズなのか説明してなかったな。

 なんというか、その。音ノ木坂学院廃校の話が出てやっと解決した最近まで、俺の目から見ても絵里は一生懸命頑張ってた訳で。幼馴染として存続おめでとう、そしてお疲れさまの思いを伝えなきゃと思った次第だ。

 ついでに、ケンカしてしまった時のお詫びも兼ねている。

 俺も大人気なかったしね。

 

 初めは絵里の大好物であるチョコを適当に買って渡そうと思ってたんだけど、ついて来られたんだから仕方ない。ま、こんなに楽しそうなら連れて来たかいもあるけど。

 

「うわぁ、すごっ!このチョコ真っ黒じゃん、カカオ何%だよ」

「ハラショー!さすがに私もそれは食べられそうにないわ」

 

 何やら小金を持ってそうな貴婦人たちが品のある姿で優雅にショッピングしている中、俺達幼馴染コンビの姿はかなり異彩を放っていたのだろう。ショーケースの向こうで店員さんがくすくすと笑っていた。

 それにしても……高いなぁ。

 しかも俺たちの知ってるチョコと違って、グラム何円みたいな表示がしてある。袋詰めはねえのか袋詰めは!割とマジで一口頬張るだけでお札が一枚飛んでいきそうだった。

 

「海菜の財布事情だと……このクッキーしか買えないんじゃない?」

「な、なめんなよ!あ、あの板チョコくらいなら」

「えーっと、多分ゼロ一つ見落としてないかしら?」

「まじ?いち、じゅう、ひゃく、せん。……ほんまや」

 

 思わず関西弁になってしまった。

 え、ほんとに高すぎない?俺もここまでとは思っていなかった。本来は一人で来るはずだったので下調べをしているハズもなく。

 

「ふふっ、カッコ悪いわよ?」

「うるせーよ」

 

 なぜか心底楽しそうに笑いながら肘で小突いてくる絵里。

 やばい、今日俺いいとこなしだな。別に格好つけたい訳じゃないけど、正直穴があったら入りたい。これがデートだったとしたら大失敗だぞ!

 今回は絵里でよかっ……いや、何でだろう、良くない気がする。

 いや、ただの幼馴染だし良いんだとは思うんだけどさ。何かこう……いいや、忘れよう。

 

「それじゃあ、私はこれにしようかな」

 

 そう言いながら彼女が選んだのはごくごく小さな一口サイズのチョコ。

 親指ほどの大きさで厚さは見た感じ3センチほど。説明文によると、少しカカオが多めの商品らしい。珍しいな、どちらかと言えば甘い方が好きだったはずだけど。

 

「別にもちっとなら出せるよ?普段お金使わないから貯まってるし」

「いいのよ。それに、希にもまた何かしてあげるつもりでしょう?お金は大事にしなさいっ」

 

 なぜか、希へのサプライズを企画していることも見抜かれ、挙句の果てには怒られてしまった。でも、彼女の言ったことはもっともだ。必要以上に背伸びしても仕方ないしな。

 

「それじゃ……すみません、これ一つ下さい!」

「はい、ではこちら二〇〇〇円になります」

 

 男ならもっと払わんかい!などというツッコミが聞こえてきそうだが、一般的な高校生の財布の中身なんてたかが知れてるぞ?勘弁して欲しい。でも、いつかひと箱まるまる奢れるような男になってやる!

 店員さんは俺が指さしたチョコを取りながら、品のある笑顔と共に口を開いた。

 さすが、やっすい喫茶店のギャルバイトとは違うなぁ。

 

「すぐにお召し上がりになりますか?」

「いや、持ち帰りで……」

「いえ、すぐ食べます!」

 

 答える俺を遮って絵里が答えた。

 店員さんは再び微笑んで一礼すると、開けやすい封筒のような袋に入れて渡してくれた。

 思わずお辞儀を返して、二人で店の外に出る。心なしか絵里の足取りが軽いような気もする。……喜んでくれたなら、良かったかな。

 

「絵里?」

「えへへ……な、なに?」

「すぐ食べんの?帰ってゆっくり食べたらいいのに。ミルクとか飲みながら」

「それもいいけど、亜里沙に悪いじゃない?」

「ま、それもそうか」

「それに……あ、いただきます。ありがと、海菜」

「いえいえ、どうぞどうぞ。とりあえずはお疲れさん」

「あむっ」

 

 待ちきれなかったのか、絵里はチョコを袋から出して可愛らしく一口かじった。

 それだけで全体の半分が消えてしまう。だが、俺の若干の申し訳なさとは対照的に絵里の表情は今まで以上に明るくなっていった。漫画なら体の周りに花弁が舞っていただろう。

 

「はらしょぉー!」

「おっ!頂きました!」

「ほんとに美味しいわよ!スパシーバ!」

 

 なんとも嬉しそうに柄にもなくピョンピョンと跳ねる絵里。思わずロシア語を使ってしまっているあたり、よっぽど美味しかったのだろう。ま、チョコレートは元から彼女の大好物だしな。

 

「海菜っ、ほら、口開けて!」

「は?なんで?」

「いいから早く!」

 

 なぜか俺の顔を見上げながらせかす絵里。

 俺は意味の分からないまま、勢いに押されて口を開けた。

 

 

 瞬間。

 

 

 体験したことのない位強いカカオの香りが鼻孔を見たし、ほろ苦く、それでいて優しい甘さが口の中に広がった。滑らかな舌触りと、静かに溶けていく固形物。それがチョコレートであると分かったのは数秒あとの事だった。

 

「どう?美味しいでしょう?」

「なっ……。美味しいけど……」

「なら良かった」

 

 袋をたたんでなぜか大事そうにしまいながら笑顔を浮かべる絵里。

 

「いやいや、俺に食べさせてどうすんの!?それプレゼントだぞ?」

「私一人だけ食べても面白くないじゃない」

「そーゆーもんか?まぁ俺は嬉しかったけど」

「でしょ?」

 

 特に何も考えていない様子で彼女は話しているが、俺には良く分かっていた。

 コイツ、最初から半分俺に食べさせるつもりだったな?おかしいと思ったんだよ、甘い方が好きなはずの絵里が少しカカオ多めの俺の好みに近いチョコを選んだこと。それになぜかすぐ食べたいとか言い出したこと。やっと合点がいった。

 真正面から『二人で食べよう?』と言ってもどうせ俺が首を縦に振らないと思ってこういう手段に出たのだろう。

 

 まったく、こういう時くらい俺に気を遣わなくていいのに。

 

 

 

 はぁ。今日は散々だったな。

 サプライズは失敗するわお金なくて恥かくわ。挙句の果てに気まで使われたし……。

 

 ま、でも。

 

 

 

「海菜!ありがとう!」

 

 

 

 

 この笑顔が見れただけ、今日のところは良しとしようか。

 

 

 

 

 

 

 




コメントも少しずつ返していきますので
ご意見ご感想、お待ちしてますね。
コメントがモチベーションの大部分を占めてきてしまっているので(笑)

次話投稿がいつになるかは未定ですが出来るだけ早めにかきあげますね^^

それでは、失礼いたします。

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