ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四十七話 μ's+おまけが行く夏合宿!その2

「いやー、良く遊んだなぁ!」

「海菜先輩、女子相手に本気のアタックは酷いにゃ!」

 

 結局俺たちは午後四時くらいまで存分に海で遊んでいた。ビーチバレーにスイカ割り、遠泳に砂の城づくり。海に来ること自体中学以来だったので思いっきりはしゃいでしまった。

 海未もなんだかんだいいつつ楽しく遊んでたしな。

 

 一つ気がかりなのは真姫のこと。

 

 なんとかしてやりたいのは山々だが、これは真姫とμ’sの他のメンバーとの問題だと思ってる。もちろん俺も無関係ではないけれど、俺と真姫の距離を焦って縮める必要はない。重要なのは彼女たち同士の関係性であって、そこに俺が口をだして、やれもっと仲良くしろだのと説教するのは……やっぱりどこか違う気がするんだよな。

 

 だから、今のところは放っておくことにしている。

 希が色々と気を回しているみたいなので、彼女の様子を伺ってサポートはしてあげよう。

 

「シャワーは屋敷の中のを使って」

「はーい!」

 

 真姫の指示に穂乃果が元気よく返事を返す。

 屋敷の中のって……個室ごとにシャワーがついてるのかな?それとも大浴場のやつ?

 

「真姫、俺はどうすればいい?」

「そうね、みんながあがるまでまってて頂戴。家族用だから浴場は一つしかないの」

 

 ぐぬぬ、やっぱりそうか……。

 砂浜に埋められたりしたせいでところどころ砂が付いてて気持ち悪いんだけどなぁ。ま、仕方ないしちょっとの間待っておくか。

 

「覗いたりしたらただじゃおかないわよ?」

 

 相変わらず慎ましやかな胸をお持ちのYAZAWAが腰に手を当てて俺の目の前に立った。

 

「分かってるっての」

「ホントに分かってるわけ?」

「もちろん。そんな事しねぇよ」

「……いやに素直ね。逆に不安だわ」

 

 なぜか妙に疑り深い目でこちらを見つめてくる。

 なんだよその目は。失礼だぞ、ばかにこ。一体俺はどれだけ信用がないのだろうか。

 

「お前の裸なんか見たら涙で裸体鑑賞どころじゃないだろ」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

 

 また怒ってる。

 コイツいっつも怒鳴ってないか?疲れたりしないのかな。

 

 俺はそんなことを考えながら、ホラ早く行けという意図を込めて手を振った。

 

「すみません、海菜さん……。お先に失礼します」

 

 通りすがりに礼儀正しくぺこりとお辞儀をしてくれる花陽。

 腰を曲げたついでに胸元がダイレクトに俺の両目に飛び込んできた。高校一年生にしては十分すぎるほど育った双丘が伺える。あ、危ない。もし俺が二年遅く生まれていたらこの胸にノックアウトされていただろう。

 巨乳至上主義という俺の持論と、年下には手を出さないという謎のマイルールとが競り合って辛くもマイルールが勝利した。ふう、セーフ。ま、希がいるってのも大きいかもしれない。どうしても比べちゃうし。

 

「いいよいいよ」

「あ、あの……」

 

 ちらっちらっとこちらの顔を伺ってくる。

 

「どうかした?」

「い、いえっ。た、楽しかったですか?」

「ん。もちろん」

「良かったです!」

 

 俺のその返事を聞くとすぐに花陽はこぼれんばかりの笑顔を見せてくれた。多分、半ば強引にこの合宿に連れてこられた俺のことを気にしていたのだろう。気にしなくていいのに、過程はどうあれここへ来たのは自分の意思なんだから。

 彼女は気が済んだのか、凛ちゃんまってぇーと親友の後を追いかけていった。

 

 さて、じゃあ適当に暇をつぶして……。

 ん?

 いや、しなくちゃいけないことが残ってた!

 

「希!」

「……え?なに、古雪くん?」

「とりあえず、こっちきて」

「ええけど……」

 

 危ない危ない。忘れる所だった。

 さっきは眩しすぎて直視できなかったけど、数時間たってやっと目も慣れて来たし今ならじっくりと観察することが出来る。……希の水着姿を!

 

「な、なんなん?そんなにじーっと見て……」

「いや、いいから。出来れば手どかしてくれるかな」

 

 改めて確認する。重力に逆らいながら美しいシルエットを残すたわわな胸。少しだけ日に焼けて赤らむ白い肌に、ところどころ残る海水の粒。彼女が陸に上がった人魚姫だと言われたら手放しで信じてしまいそうだ。

 恥ずかしそうに頬を染めて、身じろぎする様子も尚よし。

 

「な、なに見てるん!は、恥ずかしいよ」

「いや、こんな機会滅多にないし」

「え、エリチ!」

「きゃっ、希?どうしたのよ」

 

 あ、逃げた。

 近くにいた絵里の後ろに隠れて顔だけ出してこちらを睨む。

 残念。もうちょっと観察したかったのに。

 

 

***

 

「あ、海菜さんが戻ってきたよ!」

「ったく。遅いのよ」

 

 リビングに入ると、すぐに穂乃果の声がかかった。ついでににこの文句も。いや、仕方ないじゃんか!

 メンバー全員がシャワーを浴び終えた後、俺も砂やら海水を洗い流させて貰った。うへぇー、髪の毛パリパリ。海水浴って遊んでる最中はむちゃくちゃ楽しいけど、あとがしんどいよな。既にシャワーの水流で日焼けした肌がちくちく痛んだし。

 

「あんな広いお風呂場初めて見たわ……」

「たしかに、流石金持ちだよな」

「ハラショー」

 

 行儀よくソファに座って水を飲んでいた絵里の隣に座ると、彼女は感嘆の声を漏らしていた。こいつ世間知らずな所もあるし、銭湯とかいったことないもんな。まぁ、それにしても確かに大きかった。まだ行ってはないけど、露天風呂もあるみたいだし。

 

「でも、絵里。こんな話知ってるか?」

「なに?」

「普段人の住んでいない広い別荘……幽霊の類が住み着いていても不思議じゃないって話」

「……い、いつもの、つ、作り話でしょ?」

「……」

「そこまで言って黙らないでよぉ!」

 

 どうやら今は自由時間のようなので有意義な会話をしよう。

 

「しかも海辺ってのもミソだよなぁ。波打ち際に霊は集まるって言うぜ?」

「そ、そんな訳……」

「ま、もちろん嘘だと思うけどな!」

「そ、そうよね!もう、驚かせないでよ」

「……嘘だと良いよな」

 

 少し声のトーンを落として耳元でささやいた。

 分かりやすくびくっと震える絵里。

 ほんと、この子恐がりだよな。……一体誰のせいなんだろ。

 

「あのー、みんな、ちょっといいかな?」

 

 各々会話に花を咲かせていたところにことりの声がかかる。

 

「お野菜とかの買い出しに行かなくちゃいけないらしくて……」

「え?じゃあ私が行ってくるー!」

 

 普通面倒くさくて誰もやりたがらないハズなんだけど。なぜか穂乃果は嬉しそうに片手をあげて立候補した。たしかに合宿らしくて風情はあると思うけど……俺はやりたくないかなぁ。

 しかし、そんな彼女を真姫が遮る。

 

「別に良いわよ。私が一人で行ってくるから。誰もスーパーの場所分からないでしょう?」

 

 確かにもっともな理由だけど……一人で行く必要はないだろ。

 少し彼女の言葉に引っ掛かりを覚えたものの、そのまま成り行きを見守ろうと顔をあげた。すると、間髪入れず、対面に座っていた希が何食わぬ顔で立ち上がって口を開く。

 

「じゃあ、ウチがお供する!」

「うえぇ?」

「たまにはええやん?この組み合わせも」

 

 真姫は少し戸惑いつつも、小さく頷いた。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「……」

 

 希は軽い足取りで真姫の元へと向かい、そのまま彼女の背中を押して部屋を出ていこうとする。えっと、俺はどうしようかな。希が来てほしいなら付いていくし……。

 

「希!」

「なに?古雪くん」

「男手は必要ですか?」

「ふふっ、二人で大丈夫やから。ありがとっ」

 

 どうやら彼女なりに考えがあるみたいだ。

 だとしたら俺が入り込むのは野暮ってものだろう。

 

 パタン

 

 小さく音がして、入口の扉が閉まった。

 

「それじゃ、私たちはご飯を炊いたり荷物の整理をしておきましょう」

「ご飯は私に任せてください!」

 

 絵里が立ち上がってメンバー全員に支持を飛ばすと、なぜか花陽が目を爛々と輝かせながら炊事当番を買って出た。な、なんだろう。アイドルの事を語っている時の彼女と似たオーラを感じる。『ごはん、好きなの?』などと安易な質問をするのはやめておいた方がよさそうだ。

 ……この数か月で養った感覚がそう言ってる。

 それにしても。

 

「荷物の整理かぁ……」

「いらないもの持ってき過ぎるからそうなるのよ、ばか海菜」

 

 

***

 

「さすがに手際良いな……」

「ふっふーん、今どきのアイドルはこのくらい出来て当然よ!」

 

 希と真姫が足りなかった食材を買ってきてくれた為、俺とにこがそれを調理する役目に割り当てられた。もっとも、俺がやっているのはじゃがいもを適当な大きさ切ったりニンジンの皮むきをしたりするだけだけど。

 ちなみに、カッコよく包丁で皮剥こうとしたものの、難し過ぎて断念した。

 ほんと、ピーラーって便利。

 

「にこちゃんって料理出来たんだぁー」

「なんか似合わないにゃ」

「後ろから見るとおままごとしてるみたいだね!」

「あんたたちはもっと素直に褒められないの……?」

 

 ことりが素直に感心する中、その後ろでいつも通り失礼なことをさらっと言ってのける穂乃果と凛。まぁたしかに、普段の言動からするとあんまり料理とかしなさそうだもんな。

 結局作業の半分以上をにこがこなし、切った野菜を全て鍋の中にぶち込んで煮立たせた。

 

 ふうっ、と額の汗をぬぐうにこ。この子の変にキャラを作っていないときの仕草は……意外に可愛いかもしれない。言わないけどね。

 

「古雪、おたま取って」

「ここでおたまの出番か……おったまげたなぁ」

「あんたソレ絵里や希の前でもやってるんでしょ」

「ま、まぁ。それがどうかした?」

「二人に同情するわ……」

 

 にこはじとっとした目でこちらをひと睨みした後、水面に浮かんできたあくを丁寧に取り除いていく。俺には良く分からないけど、炒める順番とかかなり気にしてやってたみたいだし、素直に感心してしまった。

 

「料理は……趣味なの?」

「まぁ、嫌いじゃないわよ」

「そっか。この前も君が作ってたもんな、晩飯」

「お母さんが忙しいから。出来ることはしてあげなきゃダメじゃない」

「あぁ、『ママ』ね」

「アンタ、そのことは内緒って言ったでしょ!」

「おっと、すまん。にこが家の中では母親の事をママって呼んでいるにも関わらず、それが子供っぽくて恥ずかしいとの理由からみんなの前ではお母さん呼びをしているというアピールを欠かさない、っていう事実は俺達二人だけの秘密だったな」

「全部言っちゃってるわよー!」

「あの二人仲いいのかな……?」

「でも、なんだか夫婦みたいだにゃ」

 

 にこはぷりぷりと怒りながら火の通り具合を確認する。

 じゃがいもを一つとってかじり、頷いた。

 

「あと五分くらいでカレー、出来るわよ」

「ご飯も炊きあがりました!みなさん、炊き立ての内にぜひ!!」

 

 なにやら一人で炊飯器と格闘していた花陽がいつもの二倍くらいの声で報告をする。本人に聞くと時間や精神の消費が激しくなりそうなので先ほど凛に話を聞いたところ、どうやら彼女は白米が大好物らしい。

 ……なるほど、それが未来の巨乳候補たるゆえんなのかもな。

 

「ほら、真姫ちゃんも食器とか用意しにいこ」

「な、なんであなたと行かなきゃいけないのよ」

「まぁまぁ、三人でいきましょう?」

 

 リビングの方をみると、真姫と絵里そして希がなにやらがやがやとやり取りをしていた。どうやら真姫はおせっかい二人に完璧にマークされてしまったみたいだ。

 

 もっとも、こちらから見た感じ彼女が嫌がっている風にはみえないし、むしろ嬉しそうとも取れる声色と表情だ。……本人は認めないだろうけど。

 

 そうこうしているうちにカレーは出来上がり、全員分の夕ご飯の準備が整った。

 大きな一つのテーブルに十人が輪を作って座り、手を合わせる。

 

『いただきます!』

 

 全員、礼儀正しく声をそろえた後、言葉を挟む間もなく目の前のカレーを口にした。さすがにハラ減ってたからなぁ。あれだけ全力で遊んだ挙句、今の今までなにも食べてなかった訳だし。

 

「美味しい!さすがにこちゃん!」

「ハラショー、流石ね」

「あ、美味しいです。にこにこんな特技があったなんて……知りませんでした」

「ふふふ。もっと褒めなさい!」

 

 あれー、なんで俺は褒められないんだろう。

 こら、凛!そのじゃがいも切ったの俺だぞ!?

 

「あれ?じゃがいもにちょっと皮が残ってたにゃー」

「オイ!誰だじゃがいも切った奴は!」

「アンタよアンタ」

 

 料理のスキルもまた磨いておかなければいけないみたいだ。

 

 

***

 

 さて、食事は終了。

 俺たちはこれから何をするかという問題について議論を交わしていた。

 

「ゆーきーほー、お茶ぁー」

「ほ、穂乃果ちゃん……」

「家ですか!」

 

 どうやら穂乃果は完全にぐーたらモードに入ってしまったらしい。

 遊びによる疲労と食事による満腹感で心地よくなってしまってるのだろう。

 

「凛は花火がしたいにゃー」

「何を言っているのですか!練習をします。そのために来たんですから」

「え、本気?」

 

 今のところ出ている案は二つ。

 『花火をする』もしくは『練習をする』だ。まぁ、簡潔に言うと遊ぶか練習するかといった判断になるんだけど……見事に意見は分かれてしまっていた。

 穂乃果は完全に練習する気は無いみたいだし、凛もにこも同じ。ことりはそんな彼女たちの様子も考慮して練習はやめといた方が……といった意見をさりげなく口にしている。海未は当然練習しなきゃいけない派だ。

 絵里や希は相変わらず場の空気を伺ってるし、真姫も同様。

 

 んー、これどうなるんだろうな?

 ためしに俺も意見を出してみようか。

 

「ツイスターとか、……興味ありませんか?」

「花陽、あんたは何がしたいの?」

「わお!華麗なスルー!」

 

 にこは完全に俺の発言をなかったことにして花陽に話をふる。

 

「かいな先輩、後で凛とツイスターやりましょうよー!」

「えぇ……ちょっと、足りないし」

「なっ!どこ見ていってるにゃ!シャーー!」

 

 凛の申し出を丁重にお断りしつつ、花陽の意見を待った。

 

「私はお風呂に……」

「第三の意見を出してどうするのよ!」

 

 どうやらすぐに決まりそうにはないみたいだ。

 あと、俺の意見はカウントされないんですね。

 

 なら、出すしかないな……絵里の為に持ってきたとっておきのアレを!

 

 

 

 

 

 

「ホ、ホラー映画鑑賞会とかは……興味ありませんか?」

『海菜(さん)は黙ってて!』

 

 

 

 

 

 ご、ごめんなさい……。

 

 

 

 


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