ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四十三話 先輩禁止!

「良かったですね、海菜さんに来てもらえることになって!」

「そうね、穂乃果の説得のおかげよ」

 

 私、絢瀬絵里は隣を歩きながら話しかけて来た穂乃果に笑顔とねぎらいの言葉を返した。あの頑固な海菜を説き伏せる……という言い方はおかしいけれど、何とか合宿参加の方向へ持ってくるためには彼女のあの熱い言葉が不可欠だったと思う。

 

 私たちは現在、整理運動も兼ねた少しゆっくりとしたジョギングを行っている。もちろん全員でだ。

 

 ちなみに海菜は予定だけ決めると、そのまま帰ってしまった。

 疲れたし帰って寝る、との事だったけれど……アレは絶対に嘘ね。

 今日休むつもりだったものを、二泊三日の合宿分の勉強時間を確保しなくてはならなくなったから帰ったんだと思う。今頃自室で参考書を広げてカリカリと演習を始めているハズよ。

 

「そんなことないですよ。絵里先輩がアドバイスくれたからです!」

「私はほとんど何も喋ってないわ。みんながきちんと想いを伝えてくれたしね。特に花陽。海菜も嬉しかったと思うわよ?」

 

 少し後ろを振り返って、花陽に話をふった。

 すると、彼女はまさか話しかけられるとは思っていなかったのかピクリと体を震わせる。そして少しだけ口をパクパクと動かした後、小さく首を振った。

 

「そ、そんな、私なんて……」

「もう、先輩も後輩もないんだからそんなに緊張しなくていいのよ?」

「は、はいっ!……ごめんなさい」

 

 相変わらず彼女は先輩との距離の掴み方が良く分からないらしい。二年生とはうまくやっているし、希とも普通程度には絡んでいることから私が苦手なのかも知れないけれど……。

 まぁ、初めの二・三か月はほとんど敵対していたと言っても過言ではないし、少しずつ私の方から距離を縮めてあげなくちゃ、ね。

 

「でも、絵里先輩」

「なにかしら?海未」

 

 前を走っていた海未から声をかけられる。

 

「本当に良かったんですか?半ば強引に誘ってしまったというか……」

「ことりも少し気になります。勉強の方も忙しいのに、ご迷惑じゃなかったでしょうか」

 

 どうやらことりと海未は海菜の受験の心配をしていたらしい。

 たしかに、YESと言わねば人にあらず!位の少し強引な引き込み方をしたのは事実よね。海菜の実力を漠然としか知らない彼女たちは不安なのかもしれない。私たちのせいで不合格にでもなったら……。

 多分、そういう事を考えているのだとおもうわ。

 

 その疑問についての返答は真姫が代わりにしてくれた。

 

「それについては全く問題ないと思うわよ」

「そうなの?」

 

 不安そうに再びことりが問う。

 

「えぇ、あの人が落ちるなら他の誰も合格することなんて出来ないわ。それだけ、頭の良さだけで言えば化け物じみてるもの。性格はともかくとしてっ」

「そういえば、真姫はたまに海菜と勉強してるのよね?」

 

 私のその質問に対して真姫はこくりと頷いた。

 さすが医学部志望、試験成績学年一位の真姫はあの幼馴染の凄さが良く分かるらしい。

 

「たしか、あの人、去年の段階の〇ゼミ、オ〇プン、プ〇模試で三年と混じって受けてA判でしょう?」

「それって凄いのかにゃー?」

「そうね。少なくとも私じゃ無理よ」

「真姫ちゃんでも!?あの人そんなに頭よかったんだね!?」

 

 普段のあの感じから、よほどアホだと思われていたのだろうか、凛の驚きようは凄かった。まぁ、勉強をしてる子にしか分からない話ではあるものね。海菜自身も真姫以外とは真面目に勉強の話をするつもりはないみたいだし。

 残念ながら私も真剣に話し合う仲ではないわ。

 ある程度優秀な成績である自負はあるけど……やっぱり目指すところが違うから。

 

「まぁ、医学部志望の真姫ちゃんとは少し話は違うやん?それに古雪くん、真姫ちゃんのことすごい子だって褒めてたよ」

「うぇぇえ!?」

「真姫ちゃん、嬉しそうだにゃー!」

「り、凜!別に喜んでなんてないんだからっ!そもそも、あの人自己評価が低すぎるのよ」

 

 顔を赤らめてクルクルと指先で髪の毛を弄りながら真姫は言う。

 海菜は自己評価が低い。

 たしかに、少しだけしかアイツと触れ合ったことのない人はそういうかも知れないわね。根っから真面目だし、石橋を叩いて渡る慎重な部分もあるし。でも、長年付き合ってきたからこそ分かったことがある。

 実際は……その逆だ。

 

 つまり、アイツは異常に自己評価が高いのよね。

 

 俺はまだやれる、まだ成長できる!

 なんていう思いが常にあるせいで歩みを止めようとしない。落ちたくないから勉強しているのではなく、たぶん海菜の場合は『現段階で俺より勉強できる連中を本番で叩きのめしてやる!天才って言われてるやつら見てろよ!ぶっ潰す!』って感じかな。

 彼にとっては『合格』はあくまで通過点に過ぎないのだろう。

 

 負けず嫌いをそのまま人間にしたような奴なのよ、実は。

 

 バスケをやめて、勉強一本に絞ったのは両立なんて言う夢を見てたらどの分野でも敗北したままで終わってしまう。そう思ったからに違いない。

 

「たしかに、海菜先輩って勉強だけしかしてませんもんね」

 

 しみじみと穂乃果がつぶやいた。

 本当に。幼馴染ながら敬服する。自分の目指すべき目標を掲げて、いろんなものを捨てながら必死になって勉強してる。勉強、たまに息抜き。ほとんど遊びと言っていい遊びはしていないわね。

 

 

 でも、どうなのだろう。

 

 

 凄い事ではある。でも、本当にそれが正しい事なのかは分からない。

 ほどほどって言葉は、もしかしたら生きる上で大事な意味を持つのかもしれないって……私は感じるから。

 

「ところで、海菜先輩は彼女っていらっしゃるんですか?」

 

 唐突に穂乃果が目を輝かせて聞いてきた。

 

「なに?もしかして狙ってるの?」

「ち、違いますよー!ただ、少し気になって」

 

 あはは~、と頭を掻きながら照れる。まぁ、そういう話に関心がある年頃だものね。

 にこも少し興味があったのか、会話に入ってきた。

 

「絵里も希も、付き合ってる訳じゃないのよね?」

「えぇ、そうよ」

 

 その答えをきいてなぜか少し安心したような表情を見せるにこ。

 

「そうなんですか、私はてっきりどちらかとお付き合いしているのかと」

「違うよ~。ね、言ったでしょ?」

「ことり、よく傍から見ていただけで分かりましたね」

「だって、恋人ならもぉーっと甘い雰囲気があるはずだもん」

 

 どうやら海未は今の今まで勘違いしていたらしい。ことりの方はある程度の事は見抜いていたみたいだけど。

 

「全く、女の子たちからの合宿の誘いをあれだけハッキリ断ろうとするような男が、彼女持ちな訳ないでしょう?」

「ふふっ、それもそうですね。海菜さん、優しい方ですけど女心には疎そうですし」

 

 私の言葉に花陽が同意した。

 一年生にまでそう思われているなんてね。まぁ、間違いではないけれど。でも、厳密に言うと、恋とかそういうものを深く考えるほどの余裕がないんだと思うわ。どちらかというと察しは良い方だし。

 

「でも、勉強の事が心配ないなら良かったです」

 

 海未が安心したように胸を撫で下ろした。

 それにしても……と彼女が言葉を続ける。

 

「私たち、海菜さんのことほとんど知らないですね。もっというと、希先輩や絵里先輩のことも」

「そうね、付き合いはまだ短いものね」

「そういう距離を縮められる合宿にできたらええやんなっ」

 

 

***

 

 合宿当日の朝。

 俺は当然のごとく……準備に追われていた。

 

「アンタ、替えのパンツは入れた!?あと、西木野さんの親御さんに渡すお土産もちゃんと持った!?」

「入れた入れた!あと、なんか持っていくものあったっけ……単語帳もおっけー、参考書もおっけー」

「歯ブラシは?女の子だけしかいないなら髭剃りも忘れちゃだめよ!みっともない格好したら母さんが恥ずかしいわ」

「入れたって。ちょっと静かにしてくんねーかなぁ!」

 

 主におかんの妨害のせいで長引いている気がしないではないのだが。

 幸い、時間はある程度余裕を持って起き……叩き起こされたので集合には十分間に合いそうだ。前日まで二泊三日分の遅れを取り戻そうと躍起になっていたのでクマが酷いけども。

 まぁ、ミステリアスな感じが出てるのでこれはこれでアリかも知れない。

 

「海菜!まったくアンタはきったない顔して……はやく洗ってきなさい!」

 

 それが身を削って勉強していた息子にかける言葉かぁ!!!

 叫び返す体力も惜しいので脱いだパジャマを投げつけるだけで終わらせておく。

 

「寒かったらいけないし、上着入れとこうか!?」

「この真夏に寒い状況がある訳ねーだろ!あと、荷物勝手に触んな!」

 

 どこから持ってきたのか、でっかいダウンをトランクに詰め込もうとするオカンを大声で制止した。どうして母親ってやつはこう……余計な心配ばっかりするのかなぁ?

 ありがた迷惑という言葉を体現したかのような女だなコイツはホントに。

 結局、別にどちらも悪くない言い争いが勃発してしまう。

 

 ちなみにウチの親父は、実の息子と嫁がバトっている間、なんとも幸せそうに特に面白くもない朝の報道番組を見てケラケラと笑っていた。あんのハゲ!少しは家内の教育しやがれー!

 

「良いからアンタは顔洗って髪型整えなさい!絵里ちゃんと遊びに行くときは精一杯オシャレすること!何回も言ってるでしょう!?」

「言われなくてもするっての!」

 

 ピンポーン

 

 そうこうしてると、インターホンの音がリビングに響いた。

 あ、もうこんな時間か。

 

「ホラ!もう来ちゃったじゃない!早く出なさい!ごめんね~絵里ちゃん、ウチのバカ息子がチンタラしちゃって」

 

 人睨み聞かせた後、さっさと絵里を出迎えに行ってしまうおかん。

 もう少し息子を大事に出来ないんでしょうかね。

 

 ま、いいや。水着もおっけー、お気に入りの枕もおっけー、夜絵里に見せる用のホラーDVDと小型プレーヤーもおっけー、機会があれば希とやりたいツイスターゲームもおっけー。いやー、かさばるかさばる。

 釈然としない思いを抱えながら、俺はトランクに持っていくべきものを詰め込み終わりゴロゴロと転がしながら玄関へ向かった。オカンの話し声と絵里の笑い声が耳に届く。

 

「準備できたよ。さっさといくぞ!」

「遅いのよ、このバカ息子!」

「遅いわよ、バカ海菜っ」

 

 あぁ、つらい。

 

 

***

 

 俺と絵里が集合場所に着いた時には既に全員揃っていた。

 

「遅いですよ海菜さんに絵里先輩!」

「ごめんなさい、でも時間通りでしょう?」

「お前らが早すぎるんだって。中学生の修学旅行か」

 

 さっそく、心の底からこの合宿を楽しみにしていることが一目で分かる穂乃果に注意されてしまった。目の輝きが凄い。眩しすぎる。

 

「それじゃあ、全員揃ったことだし、早速出発する?」

 

 清楚な白いジャケットにシンプルな黒のTシャツ、チェーンのアクセサリ。おまけに胸元にかけられたサングラスという海外セレブのような恰好をした真姫が全員に声をかけた。こういうファッションでもしっくりくるのが彼女の凄い所だと思う。

 普通の子が同じ格好をしていても着てるんじゃなくて着られてるように感じてしまうし。

 

「そのまえに……エリチから話があるんやんな?」

「話?一体なんだろ。かよちん聞いてる?」

 

 すると希がそれを遮った。他のメンバーはその話を知らなかったのか、話をふられた花陽と同じくきょとんとした表情を浮かべている。

 絵里から全員に……。こないだ言っていた『考えがある』っていうやつかな?

 残念ながら俺も何一つ聞かされていないので素直に絵里が口を開くのを待った。

 

「えぇ。実は、合宿に行く前に一つ提案があるの」

 

 幼馴染は一人一人の顔を見回して少しだけ前に出た。

 

 

 

 

「先輩や後輩って関係。やめにした方がよくないかしら?」

 

 

 

 

 そう言い切って、反応を待つ。

 一番に口を開いたのは海未だった。

 

「それはつまり……どういう事でしょうか?」

「要は、先輩禁止ってことよ」

「えぇ!?先輩禁止ぃ!?」

 

 穂乃果が叫ぶ。

 なるほど。そういうことかぁ。

 他のメンバーもやっと絵里の言わんとしていることが理解できたのか、それぞれが異なったリアクションを取った。驚いている者、納得している者、戸惑っている者。様々だ。

 

「前から気になっていたの。もちろん、先輩後輩って関係は大事だけど……踊っている最中にそんな事を考えてちゃ駄目だから」

「たしかに。私も何かと上級生に合わせてしまう所もありますし」

 

 海未が納得したように頷いた。

 遠慮っていうのは凄く奥ゆかしくて大事な文化ではあるけど、お互いの息を合わせなくてはいけないダンスにおいては邪魔な要素なのだろう。たしかに、持ちつ持たれつの関係がどちらかに傾いてしまったらチームワークもクソもないもんな。

 チラリと一年生の様子を見ると面白いことに三者三様。

 

 凛は目を輝かせ、花陽はほえぇーっと口を開けて絵里を見つめている。そして真姫はそんな花陽を目だけ動かして見つめていた。彼女は絵里が誰の為、何のためにこういう話を持ち出したのかすぐにピンと来たようだ。

 ま、お前の為でもあるんだけどな、ツンデレお嬢さま。

 

「そんな気配り、まったく感じないんだけど?」

「それは、ニコ先輩が上級生だってだって感じがしないからにゃ!」

 

 不服そうに口を開いたにこを、凛が一切の躊躇いもなくバッサリと切り捨てた。

 ここまですがすがしく後輩に舐められるにこが凄いのか、二つ下でありながらここまで言える凜が凄いのか……。ま、愛されているのだろう。たぶん。

 

「上級生じゃないならなんなのよ!」

「え~っと……後輩?」

「ていうか、子供?」

「マスコットかと思ってたけど」

「どういう扱いよ!あと、古雪!笑いすぎよ!」

 

 畳みかけるような凜、穂乃果、希の一言が面白くてけらけら笑ってたらなぜか怒られてしまった。

 

「反対意見はない?」

「先輩方が良いならことりたちは大歓迎です!もっと仲良くなりたいですし」

 

 そんなことりの意見に賛同するように全員が頷いた。

 それを確認して絵里は再び口を開く。

 

「それじゃ、早速。今からはじめるわよ?……穂乃果」

「あ、ハイ!いいと思います……え、え」

 

 少しだけ言葉を詰まらせる穂乃果。意外にこの子、上下関係には気を遣ってるからなぁ。絵里に少し口を荒らしかけた真姫を諌めたのもこのリーダーだったらしいし。

 

「え……えりちゃん!」

「うんっ」

 

 笑顔で頷く絵里。

 それを見て穂乃果は安心したように大きく息を吐いた。

 

「なんだか緊張するよぅっ」

「じゃあ凜もっ」

 

 ぴょこんっと片手をあげて立候補する凛。

 

「ふぅ……ことり、ちゃん?」

「はいっ!よろしくね、凛ちゃん。真姫ちゃんもっ!」

 

 おお!ナイスパスことり!彼女は、相変わらずの天使のような笑顔とともに一番リアクションが気になる一年生へと矛先を向けた。全員の視線が真姫へと集まる。

 じいぃー、っという効果音が今にも聞こえてきそうだ。

 

 

「うえぇ!?」

 

 まさか自分に飛んでくるとは思っていなかったのだろう、独特の驚きの声をあげた。

 

「べ、別に今呼ぶものでもないでしょうっ!」

「御託はいいから早く名前で呼び合え、そしてイチャイチャしろ……」

「なっ、なによ急に!」

 

 会話に入るよりも初心な感じを見守っていた方が面白いと判断してずっと押し黙っていたが、痺れを切らして話しかけてしまった。だって逃げるつもりだぞ、コイツ。

 

「そもそも、アンタはどうすればいいのよ!」

「ん?俺?」

「そうね、私と希は先輩禁止にするつもりだけど……海菜はどうする?」

 

 あぁ、そうだな。会話を聞くことに夢中で自分の立場を忘れていた。

 

 んー、どうしよっかなぁ。

 

 別にタメ口でこられて怒ったりはしないけど……かといってそれほど気持ちが良い訳ではない。物心ついたころからずっとバスケ、つまり体育会系のノリで育ってきているので正直後輩からそういう感じで来られるのは違和感がある。

 

 そもそも『先輩禁止』というのは短期間で距離を縮めるためのある種荒療治だ。一緒にダンスや歌をこなす彼女たちには必須の対策だと思うけど、別に俺はそれほど急ぐ必要ないし。仲が良い=タメ口という訳でもない。

 

「俺はいままで通りでいいよ。正直、俺の事呼び捨てにするのはかなり抵抗あるだろ?」

 

 俺のその問いかけに対し、花陽は困ったように笑いながらこくりと頷いた。

 他の下級生も同様の反応を示す。同性である絵里に対してでさえあれだけ緊張するのに、異性、しかも学校が違って毎日会う訳ではない先輩を呼び捨てにするのは彼女たちの立場からしてもハードルが高いだろう。

 

「ってことで、俺に対しては今まで通り敬意を払って接すること!分かったか、真姫」

「分かってるわよ……」

「分かりました、海菜様。だろ」

「絶対そんなこと言わないわよ!」

「ほらほら、注目!」

 

 真姫と軽口を叩いていると、再び絵里が注目を促した。

 

「では、改めまして。これから合宿に出発します!部長の矢澤さんから一言」

「えぇ!?……うぅ。しゅ、しゅっぱーつ!」

 

 いきなり名指しで全体の挨拶を依頼されたにこは考えるそぶりを見せた後、メンバー全員の好奇の視線に囲まれながら右手を大きく掲げてありきたりな台詞を叫んだ。

 

 

 意外とアドリブに弱いよな、コイツ。

 

 

***

 

 

「そういえば、席割りはどうする?」

 

 ふと気になって呟いた。

 ぞろぞろと総勢一〇人が電車に乗り込んでいざ席に着こうとしたそのとき、新たな問題が浮上した。このままじゃ同級生同士が固まってしまい、折角の合宿の意味がなくなってしまう。

 

「ジャンケンで負けた人が古雪と隣ってことでいいんじゃない?」

「俺との相席は罰ゲーム扱いか!」

 

 先ほどの挨拶をさんざんいじり倒した復讐か、にこは何とも失礼な提案をする。お前の前の席に陣取ってこれでもかっていうくらい座席を後ろに倒してやるからな。

 

「こういう時こそ、カードの出番やねっ」

「なるほど、名案ですね」

 

 希がトランプを用意して、一から五までのカードを二枚ずつ取り出した。それをみて海未がポンッと手を打った。なるほど、一枚ずつ引いていき、同じ数字になった人とペアって訳か。

 

 ここでグダグダしても仕方ないので一人一枚ずつ素早く引いていく。

 

 スペードの三。

 えっと……ペアは。目に入ってきたのはハートの三。

 その持ち主は。

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ頬を赤くして体を強張らせる、一年生。

 小泉花陽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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