ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四十二話 合宿は不参加で

 時の流れなんてものは早いもので、現在八月。ついに学生たちの待ちに待った夏休みが始まっていた。俺や絵里の住む団地にも小学生くらいの子供の楽しげな声が響き渡っている。

 

 もっとも、学生たち。という言葉には語弊がある。

 学生とはいえ、夏休みを謳歌できない人種がたくさんいることをお伝えしなきゃいけないだろう。そう、もう分かってるだろ?俺のような『受験生』と呼ばれる高校三年生達だ。

 

「海菜、昨日も夏期講習大変だったみたいね」

「ああ、死ぬかと思った……」

 

 背筋をぴんと伸ばし、凛とした雰囲気を醸し出しながら横を歩く絵里とは対照的に、俺は前日の疲れが取れず、ただでさえ猫背気味な背中を丸めてトボトボと足を進めていた。

 

「あの先生厳しいらしいわね」

「厳し過ぎ!アイツ頭良すぎるせいで俺らを虫けらのように扱うんだって!結局昨日も休憩なしぶっ通し五時間数学やってたし……まぁ、本人も休憩なしで授業してるから凄いとはおもうけど」

「ふふ、いいじゃない。お蔭で数学は得意科目でしょう?」

「そうだけどさ」

 

 一般的な受験生の定めともいえる夏期講習の愚痴がこぼれ出る。

 絵里も同じ塾に通ってはいるものの、クラスが違うため先生や授業の頻度が全く違う。才能がないのに難関大を目指す人間はそれ相応のしごきが必要なのだ。ぶっ倒れそうになるけど……。

 

「ごめんなさいね、忙しいところ呼び出しちゃって」

「いいよ、今日は集中講義の合間で特に予定もなかったし」

 

 俺は絵里に連れられて、久しぶりにμ’sの練習を見に行っている。

 久しぶりと言っても一週間ほど忙しくて行けてなかっただけなんだけどね。気分転換がてら久しぶりにアイツらを苛めるのも悪くない。

 本当なら家でゆっくり疲れを取るべきだったんだろうけど……。

 絵里いわく、リーダーの穂乃果からなにか俺に話があるという事らしい。

 

 いったいなんだろう?

 

 この間のエレナの件は話していないし、一応誤解は解いたのでそのことではないと思うけど。

 

「で、最近どうよ?μ’sの方は」

「かなり順調よ?ランキングもすこしずつ上がってきたし。まぁ、二〇位までは遠いけれど」

「そっかそっか」

 

 ラブライブ出場の条件。

 それはラブライブ公式サイトでの人気ランキングにおける二〇位以内を達成することらしい。なんというか、一回順位を付けた中から再び一からランク付けし直す……というシステムは何となく府に落ちないけど……ま、動画と生ではまた違うだろうしな。

 そんなわけで彼女たちも色々地道に活動を続けているようだ。

 

 たしかこの間は秋葉でライブやったらしい。

 すごくないか?その胆力。

 あそこはARISEのお膝元だろう。もっとも、エレナのあの性格だとむしろ穂乃果たちのそういう感じを歓迎しているだろうけどね。

 

 個人的には、そのライブが終わった後の練習で会ったことりの表情がすっきりとしていたことが嬉しかったかな。どうやら彼女なりの答えを見つけることが出来たらしい。良かった良かった。

 

「じゃ、順風満帆ってところか?」

「一応はそうなのだけれど……」

「なんか問題でも?」

「まだ少し、下級生と距離がある感じはするわね」

「あー」

 

 確かにそれは俺も思う。

 ことりは最近人懐っこく絡んでくれるようにもなったし、穂乃果、凜あたりは問題ないけど……。やっぱり、残りのメンバー。海未、花陽、真姫あたりはまだ俺達上級生に遠慮している節はある。

 ちょくちょく真姫とは二人で勉強したりもしているんだけど目、あわせようとしないし。相変わらず敬語は使えないけどな、あの小娘は!

 

 年齢で言えば二つ上なので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけどね。

 

「でも大丈夫よ。一応考えはあるから」

「へぇ、じゃ、楽しみにしとく」

「えぇ」

 

 そんな話をしているといつのまにか練習場所に到着していた。

 石段を登った先には花陽だけがいて、端っこでちょこんと一人準備体操をしている。どうやらほかのメンバーはまだ来ていないらしい。今日は真面目な絵里にあわせて集合時間より早めに来たからな。仕方ないことだとは思う。

 それにしても、ど真ん中で堂々とストレッチしておけばいいのに……。相変わらず控えめな子だ。

 

「こんにちは。花陽」

「よっ。久しぶり」

「っ!絵里先輩、こんにちは。……か、海菜さん!?お、お久しぶりです!」

 

 ぴょこんと慌てて立ち上がって頭を下げる花陽。

 すごく焦ってるけど、一週間会わなかっただけで人見知りって再発するものなのだろうか。絵里にすらびっくりしてたし、なんだか少し寂しくはあるかも。

 

「えっと、お二人はどうして……?」

 

 聞きづらそうに上目づかいでそう問いかけてくる。

 多分、どうして一緒にやってきたのか、と言いたいんだろう。

 そういえば二人そろって練習場所に来るのは初めてかも知れない。俺、基本的に途中参加だし、当然全部の練習に参加している訳でもないしな。

 

「私たちが幼馴染なのは知っているわよね?今日はあの話をするつもりだったから一緒に連れて来たのよ」

「あ、なるほど。わかりました」

 

 納得したようにニコリと笑う。

 なんだよその話って!……気になる。

 

「こんにちわー!!」

「こんにちはっ」

「絵里先輩、それに海菜さん。花陽も!お待たせしてしまってすみません」

 

 二年生組が三者三様の挨拶を披露しながら、顔を揃えた。

 

「海菜さん、お久しぶりです」

「久しぶり。ことりは元気だった?ごめんな、ライブ行けなくて」

「はい!いえいえ、でも、今度は来てくださいね?」

「もち!あれだよね?君が作詞したって聞いたけど」

「そうです!大変でしたぁ……」

「また今度歌ってみせてよ」

「それは恥ずかしいですよぉー!」

 

 小走りに駆け寄ってきてくれたことりに返事を返しつつ頭を下げた。さすがにいつもいつも時間が空いてる訳じゃないしな。次のライブには何とかしていきたいとは思ってる。……どうなるかは分かんないけど。

 

「海菜さん!私にも元気だったか聞いてください!」

 

 穂乃果が拗ねたような声を出す。

 ことりちゃんばっかり構って、ずるいです!と一言。まったく、子供か!

 

「いや、君は聞くまでもなく元気じゃん」

「えへへー、もちろんです!」

「元気だけが取り柄だもんな!」

「その通りです!」

「穂乃果、認めてしまってどうするんですか……」

 

 ボケのつもりで言った台詞を普通に受け入れられて困っていると、海未のツッコミがいい間で入る。ほんと、バランスの取れた三人組だなぁ、この子たちは。

 

 そうこうしていると、にこ、真姫、凜の三人もやってきた。

 

「かいな先輩だにゃー!」

「よっ、凜」

「あ、古雪。久しぶりね」

 

 何が嬉しいのかぴょんぴょんと跳ね回る凜。

 さして興味無さそうに挨拶をしてくるにこ。

 

「久しぶりだな、にこ」

「そうね。まったく、どこで遊んでたのよ。ちゃんと練習には参加しなさい!」

「はいはい。時間があればなー。あ、ところで……」

「なによ」

「にこ、しばらく見ない間に背伸びた?」

「えっ?ウソ!ほんと!?」

 

 にこはぱあっと顔を輝かせて顔を近づけてくる。

 あはは、嬉しそう。だが!

 

「ごめん、嘘。……いってぇ!!」

 

 返事は本気のボディブローだった。

 

「全く、何やってんのよ。子供なんだから」

「うぐっ。また君の母さんにお世話になるかも……」

「自業自得じゃない。つばでもつけておけば治るわよ」

「じゃ、お願いします」

「……!?」

 

 返事は同じく、本気のボディブローだった。

 真姫。俺、先輩ですから。

 

 

 え、セクハラ?ナニソレイミワカンナイ。

 

 

***

 

「ワンツースリーフォー!」

 

 海未の手拍子の音と共に彼女の凛とした声が響き渡る。

 そのリズムに合わせて本番さながらの迫力でダンスを披露するμ’sメンバーたち。なるほどたしかに、上達はしているようだ。もちろん細部をみるとまだまだ素人の俺にも分かるくらいミスが出てしまっているけれど。

 

 もちろん、それをスルーする俺ではない。

 

「オラオラにこ!!ズレてるぞ!ダンスもファッションセンスも!」

「うっさいわね!一言多いのよバカ!」

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながらもきっちり言い返してくるにこ。

 

「真姫!もっと笑顔を頂戴!」

「……」

 

 二個下の後輩は顔を真っ赤にしてこちらを睨んできた。

 別に今のは普通の意見だったのになぁ。

 

「絵里、お前余裕ありそうだなぁ。なんか釈然としないからコレ終わった後石段ダッシュ一往復な」

「なっ!どんな理由よそれ!あと、海菜!チラチラ希の方見るのやめなさい、この変態!」

「えぇ?」

「ばっ、ばか!みてねぇよ!」

 

 さすが自力の違う絵里は難なくダンスの方をこなしており、都合の悪いことに俺の視線の動きまで観察していたようだ。俺も、口では否定したものの、正直結構な頻度で希の方は見ていた。……だって、揺れてるんだもん。

 急に話題に出された希は思わず、といった感じで声をあげる。ただ、会話できるほどの余裕は無いようで、すぐに自分のダンスの方へ意識を戻していった。

 

「見てたわよ!昔から胸が大きなお姉さんが好きだったものね!」

「うっさいわ!練習に集中しろばか!それに胸の話はやめろよ、にこが可哀想だろ!」

「ちょっと古雪!それどういう意味よ!」

 

 ダメだダメ。あんまり俺がしゃべり過ぎると場をかき乱してしまう。

 横で手拍子を続ける海未もすげぇ俺の事睨んでくるし……応援するだけにしとこ。

 

「エイチ!エー!エヌ!エー!ワイ!オー!ラブリー花陽!」

「ふえぇ!?」

「だからなんで花陽にだけ優しいのよ!」

 

 そりゃ、真姫。お前みたいにいちいちつっかかってこないからだっつの。

 

「真姫ちゃん達ばっかりずるいにゃー」

「そうですよ、海菜さん!」

 

 なぜか検討違いの苦情を言ってくる凜に穂乃果。

 何を欲しがってるんだよ、お前らは……。

 

 

***

 

『お疲れ様でしたー!』

 

 結局、そんな感じで大体三時間ほどの練習が終わって円陣を組んで一礼。

 もちろん俺は円の中には入らずに横から見てたけどね。あ、言っておくけど終始野次ばっかり飛ばしていた訳じゃないからな?ふざけていたのは数分だけで、あとはちゃんと真面目にアドバイスしたし。

 

「それじゃ、海菜さん」

 

 穂乃果から声がかかる。

 それを合図に、他のメンバーたちも俺の周りに集まった。

 

「今日来てもらったのは、私たちからお願いがあるからだったんです」

「あぁ、絵里から話があるとは聞いてたけど……。お願い?」

「はい!」

「ま、俺に出来ることなら」

 

 当たり障りのない返答。

 多少の事なら協力してやるけどな!そういう約束だし。

 

 しかし、穂乃果の口から飛び出したのは予想だにしない台詞だった。

 

 

 

「私たちの合宿についてきてくれませんか!?」

 

 

 

 は?

 

 思わず言葉を失う。

 穂乃果達は全員じぃーっと俺のリアクションを観察していた。

 

 

 

 

「いや……絶対行かないけど」

 

 

 

 

 特に捻る事もなく、俺はシンプルに答えを返す。

 途端、一斉に彼女たちがブーブーと非難の声をあげた。

 

「えぇ!?なんでですか!?」

「海菜さん……。寂しいです」

「ぜひ、来ていただきたかったのですが……」

「来てくれなきゃだめにゃー!」

「私も……海菜さんに来ていただきたいですぅ」

「……はぁ」

「何よう、ノリ悪いわねー!」

「あらら、エリチの言った通りになったね?」

「まぁ、そういうと思ってたけど」

 

 いやいやいや、参加するわけねぇだろ!冷静に考えて!

 むしろなんで平然と俺を誘えるのかが謎だわ!

 

 

「だって、合宿って泊りだろ?期間はどれくらい?」

「二泊三日です!」

「いや、いける訳ねぇじゃん。俺、男だぞ?」

 

 とりあえずは一番一般的な言い訳を提示してみる。本当の理由は別にあるけど、当然この意見も俺の中にはある。……だって思ってもみろよ。自分の娘が男と泊りがけで旅行、なんてことを聞いて黙ってられる親がいるか?

 絵里の母さんならまだしも、他の親御さんたちが納得する訳ないじゃん。

 下手すりゃ俺の親も俺がそこに参加することを許さないかも知れない。

 

 もちろん、俺自身人として超えてはいけない一線を越えるつもりは一切ないけど……そういう問題ではないだろう。

 

「大丈夫です、信じてますから!」

 

 いや、穂乃果。そう簡単に男を信用してると痛い目見るぞ。

 

「それに、古雪……さんにはちゃんと個室を用意するわ。女の子たちと寝る階も分けておくし、心配する親御さんもいるだろうから執事にも一人来て貰うから」

「あ、真姫の家で合宿するの?」

「別荘よ」

 

 うわぁ、すご。

 しかも執事かよ……確かに第三者がきちんと監視に入るのならある程度の説得材料にもなるだろう。それに、執事ともなれば信用のおける人が派遣されるんだろうし。部屋とかの心配もなさそうだ。

 む、むぅ……。いやにきちんと計画を練られてるな。

 YES、に誘導されている感じがする。

 

「それに、君らと日程が合うとは限らないし……。俺夏期講習とかで夏休みは忙しいぞ?」

「その点は大丈夫です」

 

 次なる言い訳を提示する。別に嘘じゃないしな。

 最悪、嘘でも『予定はいってるわー』といえば行かずに済む。お互いに嫌な思いをすることなく。

 すると、すぐに真姫に変わって海未が口を開いた。

 

「私たちはあまり忙しくないので、海菜さんの予定に合わせますから」

「ま、マジで?いや、それはさすがに悪いというか……」

 

 これは予想外。

 冗談だろ!と叫び出したくなるほどだ。

 

 間違いない。コイツら俺が言う言い訳に対する返答を元から考えて来たな?

 俺は核心を持ってジロリと絵里を睨んだ。間違いない。コイツが裏で糸を引いているハズだ。俺が言いそうなことを予想できるのは幼馴染であるこの子意外いないしな。ホント、厄介なことをしてくれる。

 

「絵里、お前……」

「何の事かしら?」

 

 すました顔で流された。

 俺は少しだけ真面目な声色で幼馴染に言う。

 

「君ならわかってるだろ」

「もちろんよ」

 

 絵里と希以外のメンバーは、少しだけ声色の下がった俺を怪訝そうな顔で見た。

 花陽は少しだけ恐がっているみたいだけど……でも今は彼女に構っている余裕はない。

 

 はぁ、これはきちんと話さなきゃいけないな。

 俺はため息をついて、真っ直ぐに顔をあげた。

 

 

 

 

「申し訳ないけど、俺は行けない」

 

 

 

 

 今度ばかりは全員黙って俺の話を聞いてくれた。

 

 

「知っての通り、俺は受験生だから。もちろん二泊三日くらい時間は取れると思うよ?たかが二・三日勉強しなかったところで落ちるようなヤワな勉強はしてないけど……でもやっぱり、遊びに貴重な時間を費やすことはできない」

 

 はっきりと言い切った。

 もちろん彼女たちにとっては大事な合宿かも知れないが、あくまで俺は傍観者だ。俺の出来ることといえば、プロモーションビデオをネットにあげることや軽くアドバイスをするといったような雑用くらい。

 この大切な時期に一日ならまだしも数日も息抜きに使ってしまうのは……違うと思う。

 自分に一度甘くしてしまったら、今までせっかく積み上げてきたものが無くなってしまうような気がして、俺は『行かない』という選択をした訳だ。利口じゃない、ある種意地のようなもの。

 

 くだらないといえばそこまでだけど、あいにく俺はそういう人間だ。

 

「もう一回言うけど、絵里は俺がこう言う事くらい分かってただろ?」

 

 少しだけ苛立ちを込めてそう投げかけた。

 穏便に、行かない。という結果を通す事だって出来たはずなのに、わざわざ俺にこういう事を言わせる意味が果たしてあるのだろうか?

 

「えぇ、分かってたわ。でもね、海菜。私たちにだって、わざわざ忙しいあなたに今日来て貰ってでも説得したい理由があるの」

 

 絵里は俺の視線に臆することなくそう言い返した。

 説得したい理由?この思いを聞いて尚、合宿に俺を連れてくる意味なんかあるか?

 

「いや、俺が行ったって大した意味はないだろ」

 

 素直な俺の意見だった。

 実際、俺が出来ることと言えば手拍子したり野次飛ばしたり……誰にだって出来ることだ。もしかしたら真姫の呼ぶ執事の人にだってこなせる役柄かもしれない。

 

 しかし、そんな俺の言葉を意外な人物が遮った。

 

 

 

「そ、そんなことないです!海菜さんが来てくれることに意味があるんです!」

 

 

 

 一生懸命振り絞ったのだろう。花陽の震える声が俺の鼓膜を揺らした。

 俺が来ることに意味が?

 

「そうにゃ!凜たちは海菜さんに来てもらいたいんです!」

「ことりたちがみんなで話して決めたんです。絶対に海菜さんに参加して貰おうって」

 

 要領を得ない言葉が続く。

 花陽に追従して真っ直ぐにこちらを見てくれる凜。いつものように優しげな笑顔を浮かべて諭すように話しかけてくれることり。

 

「まったく、鈍いわねー。穂乃果、一から十まで説明しないとこのバカは分かんないわよ」

「はぁ?お前らこそ俺が言ってる言葉の意味を……」

「うるさいわね、いいから黙って聞きなさい!」

 

 不機嫌そうに腕を組むにこに怒られてしまった。

 えぇー。別に俺間違った事言ってないよね?

 

「海菜さんは、自分が私たちにとってどんな役割を持っているか分かってますか?」

 

 いつもより大人びた表情を浮かべる穂乃果にそう問いかけられた。

 それをみて、希は穏やかで優しい笑顔を浮かべている。

 

「役割……?そりゃ、傍観者とか雑用係とか……かな」

「全然ちがいます!!」

 

 ぶっぶーと口で言いながら手でバツを作られてしまった。

 

「やっぱり、そういう認識だったのですね」

 

 海未にも少し呆れられたような笑みを向けられる。

 いや、なにその感じ……。

 

 穂乃果は大きく息を吸い込んで、キラキラと輝く瞳をまっすぐにこちらに向けながら自らの放った問いの答えを俺に教えてくれた。

 

 

 

 

「海菜さんは、私たちの仲間です!」

 

 

 

 

 彼女の言葉に思わず息をのむ。

 

「かけがえの無い、μ’sの一〇人目の仲間!私たちはみんなそう思ってます!」

「……」

「海菜さんが、私たちの事を大切に思って色々働きかけてくれたこと。私たちはみんな分かっています。だからこそ、私たちは、私たちの成長を他でもない海菜さんに見て貰いたいんです!」

 

 なぜだろう。

 言葉が出ない。

 

 

「もちろん、海菜さんの貴重なお時間を奪ってしまうことは分かっています。それでも、それでも!」

 

 一呼吸。

 

 

 

 

「私たちのわがまま、聞いてくれませんか!?」

 

 

 

 

 正直、すごく嬉しかった。

 穂乃果たちのスクールアイドル活動が軌道に乗れば乗るほど、頭のどこかで『μ’sは彼女達九人で構成されるもの』だという認識が大きくなっていたから。だってそうだろ?俺なんかに出来ることなんてほとんどないんだから。

 

 

 それでも。

 

 彼女たちは俺の事を仲間だと言ってくれた。

 

 

「古雪くん、ウチのお願い覚えてる?」

 

 唐突にかけられる希の言葉。

 そして俺は思い出す。

 

 

 

『ウチの新しい夢はね……【μ’s】が出来上がること。

 そして……

 

 手と手を取り合って一つの目標に向かって進む九人の傍に、古雪くん。キミが居てくれることなんや。それがウチにとってはすごく大事なの。

 

 

 

 だから、お願い。

 ウチ。……いや、ウチらに。力を貸してください』

 

 

 

「あの思いは、今、ウチら全員が共有しているんよ」

「そっ……か」

 

 三文字の返事しか返せない。

 

「これが私たちの想いよ。海菜はどうするの?」

 

 幼馴染からの問いかけ。

 ここまで言って貰えて、下す決断は決まってるだろ。俺が思っている以上に合宿に行き、同じ時間を共有するというのは意義のあるものだったらしい。

 

 

 

 

「それじゃ、日程を決めよっか」

 

 

 

 

 俺は目を細めながら笑って……そう言った。

 

 

 

 


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