湖の求道者   作:たけのこの里派

39 / 52
あー、昔の更新速度が欲しいんじゃ~。


第二十六夜 PONとくれたぜ(ベネット並感)

 柳堂寺の大空洞。

 そこは数百年前に御三家が人工的に作り出した、大聖杯という祭壇の舞台である。

 今や大穴が空いて、更には祭壇が汚泥を撒き散らしながら自律し、固有結界に取り込まれ本当に空洞になったソコは。

 

「────ようこそ我が城へ」

 

 本来有るべきその洞窟は城内に。

 呪われた祭壇が鎮座している場所は煌々と輝く玉座に変貌していた。

 変貌はそれだけに止まらず、城の土台である大空洞の地面が急激に盛り上がった。

 

『クッソタマヒュンなんですが』

 

 千年城ブリュンスタッド。

 空想具現によって創造された豪華絢爛の舞台が、摩天楼の如く天に聳え立っていた。

 無論異界化しており、外からは一般人はおろか魔術師と云えどその塔の如き城を簡単に認識することは出来ないだろう。

 そんな大層窮まる城郭全てが、一人の男を歓迎するために創られていた。

 

「さて、どう盛り付けたものか」

 

 雲を越え、星と宙との境界線が見えるほどに伸びた舞台の玉座に佇む星の姫。

 彼女はその美しすぎる口元に宝石のような指を当てながら悩むと、思い付いたように掌を男に向ける。

 常人ならばそんな所作だけで心奪われ動けなくなるだろう。

 だが目の前の存在は、そんな美しいだけの存在では決してない。

 

「ッ」

 

 瞬間、飽和した莫大すぎる星の光が一瞬で集束、圧縮する。

 

「────『星の記憶よ』」

 

 騎士の王が振るう聖剣の光と同質同等の破壊が、音を塗り潰してガンドの如き気軽さで放たれた。

 

 数分前のランスロットならば、そもそも防ぐという行動自体が不要だったそれは、しかし自罰によって太極を崩した彼にとっては受ければ最期、致命傷は免れまい。

 何より、受けている間に塵も残さずと言わんばかりに次々と叩き込まれるだろう。

 

「場所が悪いな」

 

 血色の様に輝く朱い月が照らす舞台で、しかしランスロットは光の暴風雨とも言える奔流を刀も抜かずに素手で切り裂く。

 聖剣の一撃と同等の熱量が、完全に無害なモノへと霧散する様を一瞥することも無く、摩天楼を見下ろす。

 

「……ふむ。そなたが些事で気が散らぬよう、私もそれなりに配慮したのだがな。許せ────と、些か寄り掛かりすぎていないか不安になるな」

「その心遣いは有り難く受け取っておく。それに不安など抱かずとも、別段気にすることでもあるまい。元より(ヒト)の都合、お前がどうこう配慮する事自体が、既に十二分の配慮だ」

 

 星の姫が放った力の濁流の余波を完全に受けきるであろう千年城。

 その天蓋の上に存在する玉座の前に立つ美女は、ランスロットの感謝の言葉で途端に気を良くしながら、天蓋から視界を覆うほどの鎖を殺到させる。

 

「不服か?」

「高さに意味など無い」

 

 その全てを、またもや振り下ろしの一太刀で斬り伏せる。

 それだけでなく、幕引きの刃は摩天楼さえ両断したのだ。

 大空洞だった山奥まで切り裂いた斬撃は、寧ろ摩天楼こそ本命だったと言うように、巨大な千年城を幕引いた。

 

 折角用意した城を崩されても不思議そうにしていた彼女は、理解するように「なるほど」と頷く。

 

 ランスロットは斬りたいモノだけを斬ることができる。

 故に大空洞だった場所こそ凄惨な爪痕があるが、それだけ。

 付近の柳道寺には何ら影響はない。

 だが、この星の姫はそんな事は出来ないし、出来てもしない。

 

「お前の一撃が下に墜ちてみろ。目も当てられん」

「ふむ……」

「幸いこの街は海に面している。海上ならば……まぁ、気兼ね無くやれるだろう」

 

 摩天楼が霧散し足場を喪ったにも拘わらず、当然の様に虚空にあり続ける二人は会話を続けた。

 

「気兼ね無く……か。ハハッ、その『気兼ね』は場所だけか?」

「……────」

 

 その問いに答えずに、ランスロットは無言で最高ランクの縮地による跳躍により姿を消した。

 

 

 

 

 

 

第二十六夜 PONとくれたぜ(ベネット並感)

 

 

 

 

 

 

 

「────はぁ」

 

 荒れ果てた広野の大地に、墓標の如く突き立てられた魔剣聖剣宝剣────人類史に於いて鍛えられた剣全てが、この場に在るように思えるほどの剣野原。

 暗い空に浮かぶ歯車が、主を自縛する様に軋みを上げる。

 

 現実を心象で塗り潰す大禁呪。

 ライダーのような英霊としての宝具ではなく、魔術として正しく形作られた固有結界の中で、小さな金色の王は落胆の声を垂らした。

 

 だが、他の面々にそんな余裕は欠片もなかった。

 

「いや、待て。そんな馬鹿な話が……」

「これ、全部宝具か────!?」

 

 モードレッドが横を見れば、選定の剣(カリバーン)が、刺さっていた。

 そんなあり得ない光景が、見渡す限りに広がっていた。

 

 戦いが終わったと思った直後の急展開に、マスター達は混乱を隠せずにいる。

 例外なのは混乱すら出来ずに呆然としている氷室と、傷の痛みによって否が応でも冷静にさせられたエレイン。

 特にエレインは、なまじ理解できるのが問題であった。

 

「……くそッ」

「エレイン、貴女はこの世界に取り込まれる前に何かを口にしていましたが……何か知っているのですか?」

「────守護者だよ」

「な、に────」

 

 セイバーの問いに、端的な返答を返した。

 その言葉に、何れ程の意味があるのか。

 根源を目指す魔術師にとっては余りにも重いものであった。

 

 案の定、エレインの言葉に遠坂時臣とケイネスが愕然とする。

 何故なら抑止の守護者とは、根源を目指すにあたり最大の障害であるからだ。

 

「守護者────生前抑止力と契約し、死後に人の滅びを防ぐために行使される英霊……私はそう聴いていますが……」

「そんな生易しいモノではない」

 

 人類の“存続するべき”無意識が生み出した防衛装置のようなもの。名も無い人々が生み出した、顔のない代表者。

 『人類の自滅』が起きるときに現界し、『その場にいるすべての人間を殺戮しつくす』ことで人類すべての破滅という結果を回避させる最終安全装置。

 人類の滅亡を加速させる害悪が現れた場合、これを成立させる要素をすべて消去する、といった目的で守護者は現れる。

 自由意志を持たず、単純な『力』として世界に使役される存在。

 

「守護者は抑止にとって体の良い道具だ。人の滅びの原因を、善悪問わず周囲の人間ごと皆殺しにして解決する掃除屋。凡そ最も人類を殺しているのはコレだろうよ」

 

 ただ元凶の近くに居たというだけで、何の関係も無い善人であろうと聖人であろうと区別無く、守護者本人の持っているであろう慈悲など一切介在しない機械的な殲滅装置。

 

「固有結界であの獣ごと私達を取り込んだということは、この聖杯戦争が人類の滅亡を加速させるモノと抑止力が判断したということだ」

「そんな────」

 

 つまり、世界が冬木の聖杯戦争を害悪だと判断した。

 御三家の悲願はあらゆる手段で終わらせられるだろう。

 

「最早大聖杯の破壊は不可避だ」

 

 その事実に、アイリスフィールと時臣が顔色を無くしてへたり込む。

 だが、問題はそこではない。

 

「問題は、我々がどう生き残るかだ」

 

 抑止力は『善悪問わず周囲の人間ごと皆殺しにして解決する』。

 それが示す意味は一つだ。

 

「守護者だけを倒せても意味はないだろう。倒しても別の守護者か同じ者が投入されるか、そもそも倒すことが出来ないほどの強化がされているか」

 

 それでも、幾分かマシな方なのだ。

 幸いにも聖杯の泥に汚染されたあの玉藻の前は、ビーストではない。

 完成された聖杯ならば話は別だが、完成とは程遠い聖杯では幾ら玉藻の前の本体が人類悪の獣と言えど、ビーストクラスでの本体顕現など不可能なのだ。

 故にあの『獣』はあくまでキャスタークラスであり、冠位召喚(グランドオーダー)は発動しない。

 だからこそあの錬鉄の守護者が召喚されたのだ。

 

「エレイン姫。其れは、ランスロット卿がこの場に居ない理由に関わるのか?」

 

 そんな中、アルトリアが口を開く。その問いはモードレッドの代弁でもあった。

 この場にランスロットは居ないのに、それに気付かない訳がない。

 

「────それは横取りされただけだよ」

 

 その問いに答えたのは、エレインではなかった。

 先程より本気でつまらなそうにしている、金色の少年王だ。

 

「横取りされた……? そんな、誰……いや、何に────」

「僕としては、こんなみすぼらしい心象などに長居したくはないんですよね」

「何だ英雄王、随分物言いが雑だの。オイ」

 

 そんな彼の言に、地面に突き刺さった魔剣に瞳を輝かせていたライダーが不思議そうにする。

 

「こんな蛇足きわまりないモノに、贋作の野原。他にどんな言いようがありますか?」

 

 その言葉に、エレインを除く全員が絶句する。

 

「待て、贋作だと……これ等全てが!?」

 

 真贋が見極め困難な程の精度の、宝具の贋作。

 それが何れ程の意味を持つのか、魔術師達にとっては語るまでもない。

 そしてライダーにとっては喉から手が出るほど欲しい『宝具を無数に生産できる人材』であり、アーチャーにとっては『無価値な贋作を生み出す道化』であった。

 

「『無限の剣製()』────まさかこの眼で観ることになるとはな」

 

 目視した刀剣を結界内に登録し複製、荒野に突き立つ無数の剣の一振りとして貯蔵する錬鉄の固有結界。

 あり得たかもしれない未来で誕生してしまった哀れな英雄、その果ての心象風景だ。

 彼の人生を簡単に知っているエレインは、しかし哀れむ事なくその戦力を分析する。

 

 抑止力によるバックアップとやらは何れ程のモノなのか。

 そして何故彼が、守護者として派遣されたのか。

 

『────────■■■、■■■■■■■■■■ッ!!!!!』

 

 その答えは、直ぐに解った。

 

「────! 動くぞ!!」

 

 守護者と睨み合っていた獣が、その巨大な尾を孔雀のソレの様に広げ、その尾から泥が溢れ落ちる。

 すると荒野に落ちた泥が、兵士の様な人の姿を形取った。

 

 問題は、その泥の兵士の数であった。

 

「イヤイヤ……、目の錯覚とかじゃないのかアレ」

「残念ながら小僧、ありゃ軽く十万は超えとるわ」

 

 震える声でウェイバーが現実逃避するように目を擦るも、己が宝具の軍勢の十倍以上の数とライダーが断ずる。

 泥の兵士の総数、軽く十万を超えるの泥兵が濁流の様に守護者とマスター達に殺到した。

 

「オイ、どうすんだ!」

 

 王剣を構えたモードレッドが叫ぶ。

 先程の戦いは激戦と呼ぶに相応しく、サーヴァント全員が満身創痍であった。

 

 特に問題なのが乖離剣と聖剣の全力解放をしたアーチャーにセイバーと、長時間固有結界を維持していたライダーとそのマスター達である。

 切嗣と時臣、ケイネスの魔力量は貯蓄魔力があるエレインや規格外の氷室の様に異常には多くない。

 本来大英雄の宝具など、人が支えられる物ではないのだ。

 

 現状、魔力問題により全力戦闘が出来るのはモードレッドとジャンヌのみ。

 前者は宝具が面ではない線攻撃であること。後者はそもそも攻撃宝具でないことが問題だった。

 

 モードレッドの宝具は直線上の雷撃。

 威力は非常に高いが、数十万もの軍勢の面攻撃に線攻撃でしかない『我が君に捧ぐ血濡れの王殺(クラレント・ブラッドアーサー)』は相性が悪い。

 サーヴァントを触れるだけで溶かし喰らう泥だ。防ぎきれるものではない。

 

 ジャンヌの宝具は評価規格外の対魔力を防御力に変換したもの。

 一時は凌げるやもしれないが、使用する度に旗が傷付いていく弊害がある。

 聖旗が破れ切ったが最後、その護りは突き破られるだろう。

 彼女の場合はそんな護りとは別の、自身を引き換えにした特効宝具があるが、ソレを行ったとしても兵士が減るだけ。

 万が一再度兵士の量産が可能だった場合、焼け石に水である。

 特効宝具を切るには余りにリスクが高過ぎた。

 

 そして、脅威は泥の軍勢だけではない。

 

「オイ、アレ……」

「剣が……、宙に────」

 

 守護者が指揮者の号令の如く片手を掲げる。

 それに従うように、見渡す限りの剣原が独りでに地面から抜き放たれ、泥の軍勢にその鋒が向かう。

 その数は泥の軍勢さえも易々と駆逐して余る程だ。

 こと数の暴力に於いて、錬鉄の英雄を超える者は居ない。

 

 それが、彼が召喚された最大の理由だった。

 

「此方にも向けられているぞ!!」

 

 そしてこの世界の主は、皆殺しを望まされている。

 その刃が向かう先に、己以外の区別など無い。

 

「クソッ、聖槍での防御も風絶ちなどの宝具相手では障子紙のソレだぞ!」

「余は盾を持っておらん。有ったとしても防ぎきれるとは思えんがなァ」

「意味無いじゃないかよぉ!」

 

 混迷するマスターとサーヴァント達に、ルーラーは歯噛みする。

 令呪さえあれば、命令と言う名の魔力補助が出来る筈だったのだ。

 だがそれらは全てが回収され、『獣』の顕現に使われてしまった。

 

「ギャラハッド卿が居れば────」

 

 セイバーの知る限り、かの湖の騎士の息子(クローン)である十三番目の円卓の騎士を超える盾使いは存在しない。

 かの白亜の城の具現ならば、先ず間違いなくこの攻撃を防ぎきれるだろうに。

 だが、全てはたられば。

 詮無き妄想に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ────────突然だが、弓兵のクラスには『単独行動』というクラススキルが存在する。

 

 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターがサーヴァントへの魔力供給を気にすることなく自身の戦闘で最大限の魔術行使をする、あるいはマスターが深刻なダメージを被りサーヴァントに満足な魔力供給が行えなくなった場合などに重宝するスキルだ。 

 反面、サーヴァントがマスターの制御を離れ、独自の行動を取る危険性も孕むのだが。

 

 守護者の掲げられた腕が降り下ろされる。

 濁流と共に泥の軍勢は雪崩れ込む。

 かの者は守護者としての呪われた使命を果たすために。

 かの獣は己が力を増やすため、餌を求める餓虎の様に。

 

 

 

 

「────全く、仕方ないなぁ」

 

 

 

 

 そんな彼等を、王の財宝から出現した視界を覆うほどの数の盾が、両者の攻撃を防いでいた。

 

「アー、チャー……?」

 

 誰かのその呻き声は、驚きというよりは疑問のソレだった。

 今の彼が、コレほどの宝物の展開など出来る筈がないのだ。

 

 確かにギルガメッシュの単独行動のランクは高い。

 しかし飽くまでもサーヴァント。

 例えEXランクであっても宝具を最大出力で使用する場合など、多大な魔力を必要とする行為にはマスターの存在が必要不可欠だ。

 そしてギルガメッシュの単独行動のランクはA。

 最高値であっても、例外ではない。

 しかしそれを否定するかの様に、魔力が消耗している筈の英雄王からは溢れんばかりの魔力が満ち充ちていた。

 

「僕は大人の僕と違って、別に神々と────まぁイシュタルは僕から見ても論外ですが、進んで訣別している訳じゃありません。勿論、民草が脅かされれば話は別ですが。なので、僕は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確には、その手に持つ物から。

 魔術師達は、特にそれから目を離せない。

 当然だろう。

 ソレこそ、彼等が求め争っていたのだから。

 

「何より僕としては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ですがあの獣を放置していく訳にはいかない。なので、出来れば皆さんにお任せしたいのですが────」

「だがッ……、先程の戦いで我々には魔力が……」

「だからコレをお貸しますね」

 

 蔵から取り出したソレは、黄金の杯だった。

 万能の願望器、その原典たる至宝。

 即ち、聖杯の原典────ウルクの大杯。

 

「ルーラーさん。貴女に御貸ししておきますので、後で返してくださいね」

「えッ」

「貴方達が生き残るにはあの哀れな獣を滅ぼしつつ、あの贋作者(フェイカー)の攻撃から耐えきれば良い。時間さえ稼げば、まぁなんとかするでしょう」

 

 誰が、とは彼は口にしなかった。

 ルーラーの手に渡った瞬間、サーヴァント全員に膨大な、使えど尽きぬ無尽蔵の魔力供給が行われる。

 そんな彼等を尻目に、呆然としている遠坂時臣の首根っこを掴んで溶けるように虚空へ消えた。

 恐らく何等かの宝物を用いて、この固有結界から出たのだろう。

 彼等を襲っていた攻撃の第一陣が止むと同時に、盾も消えた。

 

『では、お願いしますねー』

 

 呆然としている彼等に、そんな言葉が響く。

 再起動するには、少し時間が掛かった。

 

「────~~~滅茶苦茶かアレはァ!? 青年(暴君)時と大差無いわ!」

「……頭が痛いわ」

「のうルーラーよ。ちょいとソレを余に貸してみんか」

「絶対彼に返さないでしょうライダー!?」

 

 先程の万策尽きた時とは一転し、彼等は武器を構える。

 彼らの表情を観れば、自然と口元が緩んでいるだろう。

 ここまで御膳立てされて、一方的にやられるなど英雄としての名が廃ると言うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処等でいいか……」

 

 冬木の街から遥か離れた太平洋上に、瞬時に姿を現した彼は、周囲を見渡して安全を確認する。

 街中では危険だと聖杯戦争を止めた彼が、一般人の危険など承知する訳がなく。

 

 それに追う形でありながら、その時には既に星の姫は同じ場所に存在していた。

 彼女が動いたのではなく星が動いたのだと理解出来るのはどれ程だろうか。

  

「さて、仕切り直しだ。盛大に征こう」

「────」

 

 当たり前の様に瞬間移動した彼女は、腕を振りかぶった体勢でランスロットの目の前に現れる。

 ソレを紙一重で避けつつ、無空の剣気で星の姫を切り裂いた。

 

「おぉッ!」

 

 モードレッドやアーサー王でさえ、一瞬とは言え容易く意識を奪ったほど真に迫ったその存在しない刃は、しかし彼女を一瞬硬直させるだけに留まる。

 そのまま振り切った腕撃は海を割るも、既にランスロットは星の姫の背後に身を移し、

 

「フンッ!」

 

 一刀だけでは足らぬならば、と言わんばかりに虚の刃で黄金の肢体を切り刻んだ。

 

「かッ────────」

 

 流石の彼女もこれには呻きを漏らして海に墜ちるが、海に墜ちる音と共にもう一つ気配が増える。

 分身したように、優雅に佇む星の姫がそこに居た。

 

「く、フフフフ。この身を微塵にせんとばかりだ。身体を切り刻んだ衝撃は未だにあると言うのに斬れておらぬ。この様な刺激、初めてだぞ」

「む」

 

 彼女は墜ちた姫と同一個体のようで、恍惚そうに刃の軌跡をなぞるようにその身体を這わせる。

 その仕草には狂気さえ感じさせ、しかし遊びを楽しむ子供の様だった。

 

「そなたの人としての研鑽を、この躰に刻み込まれている様な思いだ。胸が躍るぞ」

 

 そう言いながら、彼女が手を翳すだけで、穏やかだった波が渦を巻き万物を圧砕せんとする牙と化す。

 それが二十を超える数形作られ、アギトのようにランスロットを呑み込んだ。

 

 真祖などの精霊種の能力である『空想具現化(マーブル・ファンタズム)』。

 世界と同化することにより、空想通りに自然を自在に変貌させる特権。

 海上など、彼女の掌の上に等しい。

 

 人体を容易く圧砕する水圧の吭に、しかし何等かの技術か手刀を易しく斬り入れるだけで、風船から空気が抜けるようにその圧力は喪われた。

 一瞬で穏やかになった海中に揺蕩うランスロットは、先程の聖剣の一撃と同様の光が百ほど輝いているのを眺めながら思う。

 

『アレ、身体はアーパーのなんだよなぁ』

 

 ────簡単に言えば、彼は困っていた。

 

 相手より強くなる能力を持ち、星の意思によって頭脳体と化した真祖の姫君。

 英霊は勿論、おおよそ神霊さえも格下と断ずる存在に対して────

 

『どーしよっかコレ』

 

 ランスロットの思考は、自身に『殺傷』という選択肢を与えなかった。

 

 

 

 

 




という訳で姫アルクとじゃれあうらんすろ。
体がアーパーのモノなので斬れません。
彼女を生かして倒すとなれば、地球を斬る必要があるので論外です。
またもや八方塞がりのらんすろ。彼がどうするのかはぶっちゃけ御都合主義でしかないので、がんばって物語に説得力を出したいと思います。
まぁこれまでのらんすろの行動で自ずと分かるかもしれませんが(白目)

それから、FGO七章をクリアしてから描きたかった英雄王のウルクの大杯。
彼のぶっ壊れ具合が良く分かると言うもの。
ムーンセルの判断は正しかったんやなって。

速攻でぶっ壊された千年城は、漫画版メルティブラッドの最終決戦の舞台を想像していただければ。

そしてタマモビースト、ガチモンのビーストクラスにはやはり劣ります。
というか本体前の白面金毛にも遠く及びません。なので見せ掛けだけは九尾ですが、尾から生み出せる軍勢も百万より数が少ないです。
尤も、サーヴァントにとっては相性最悪の泥で出来てますので大差ありませんが。
そしてエミヤが派遣された理由も劇中であった通りです。
ビーストでもないのでグランドクラスが出っ張ってくる理由もありません。

こんなトロットロの更新速度でも感想頂き、本当に有り難う御座います。
もうすぐ放送のFate/Apocryphaを楽しみに執筆が捗ることを祈っていたり。
アガルタ配信でどうせ遅れるでしょうけども!!
もしそれでも宜しければ、次回またお会いしましょう。

修正は随時行います。ホント、いつも誤字報告機能助かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。