湖の求道者   作:たけのこの里派

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第二十五夜 顕現

 

 

 

 彼女達がどれだけ現実から逃避しようとしてもサーヴァントの、あるいは魔術によって向上した知覚能力が目の前の光景を現実だと突き付ける。

 

 目の前の傷付いた男が、自分達が愛し求め続けた男であることを。

 そんな男を、知らぬとはいえ傷付けたのが自分達であるのだと。

 

 何故此処に居るのか。

 どうして自分達に知らせてくれなかったのか。

 どうして戦ったのか。

 

 疑問は尽きないが、そんなことよりも。

 女達にとって、常人ならばまず助からないほどの傷を与えたのが自分達であることに耐えられなかった。

 何より、霊基(からだ)が令呪の命に従い未だ斬らんとしている事が。

 

「ぁ────ぁああああアアアアッ!!!?」

 

 最初に軋みを上げたのは、最も幼くランスロットに依存していたモードレッドだった。

 主人の心を表すように震えているクラレントを喉元に添え、男へと牙を剥かんとしている霊基を引き裂こうとする。

 

「止めろモードレッド」

 

 無論、止めたのも当然ランスロットだった。

 瞬間移動の如くモードレッドの傍に現れ、手首を掴むことで首を切り裂くのを防いだ。

 そして残った片腕で、彼女を傷の無い方の胸に押し付けるように抱く。

 

「……ラン、スロット。オレは、私は、違う、嫌だ────らんすろっとぉっ……」

「………」

 

 ランスロットを傷付けた。

 母に恵まれず、父に認められなかった自分を認めてくれた彼を傷付ける、その片棒を担いだ事に、モードレッドは耐えられない。

 

 何より、未だ彼女の霊基(からだ)はランスロットを殺そうとしているのだから。

 ルーラーの令呪による、『大聖杯を破壊する部外者の排除』によって、この場のサーヴァントはランスロットを殺そうと強制力が働いてしまうからだ。

 それに抗えるのは令呪さえ耐えうる対魔力を持つセイバーとアヴェンジャー。

 そもそも令呪三画使っても効くか怪しいアーチャー。

 そして、

 

「動くなランサーよ」

「誰に物言ってやがるライダー」

 

 未だ令呪に縛られ、抗う術を持たない二人は、極めて単純な理由でその足を止めていた。

 

 ────一歩でも踏み込めば斬り捨てられる────

 

 此処に至って、あの剣士が己が得物を抜かない理由がない。

 

 サー・ランスロット。

 円卓最強と恐れられる湖の騎士。

 その得物が騎士王のソレと同様の星の聖剣であることを、アーサー王伝説が既知の者達は知っている。

 今の今まで、それを抜かずにサーヴァント達を蹂躙していたのだ。

 抜いた場合どうなるのか、語るまでもない。

 

 ライダーは羨望を、ランサーは悔恨を懐いた。

 

 イスカンダル自身も数多くの一騎当千な部下を抱えているが、アレほどの騎士は生前では出会えなかった。

 アレは一つの伝説、一つの神話の頂点に立つ類いの英雄。自身の憧れるヘラクレスやアキレウス達に並び立つ、或いは凌駕する存在なのだと。

 

 ランサー自身、ケルト神話の頂点に立つ大英雄。しかし現状、その身は本体の一側面のみで存在すら他者に依存しているサーヴァントという状態である。

 今のまま挑んだところで、勝てないことが解り切っているのだ。

 だからこそ、生前に出会いたかった。

 であれば、何れ程の心踊る戦いを味わえただろうか。

 

 そして追い詰められた獣が真に牙を剥くときこそ、恐れるべきなのだと。

 大英雄達は知っている。

 極めて単純に、動けば死ぬのだと。

 

 そんな二人を含め、男は周囲を一瞥する。

 

「ふむ、……だが聖杯戦争が街中で行われる以上、大聖杯の破壊を止めるわけにはいかないな。────遠坂時臣、アイリスフィール・フォン・アインツベルン」

「────ッ!」

「な、何かしら」

 

 大量に、しかし決して服から落ちない血を流しながら、平然としているランスロットの視線に、動揺しながらアイリスフィールは返答した。

 

「大聖杯の解体をこの場で誓え。少なくとも再度聖杯戦争を行うとしても一般人に被害のでない場所で行うと」

「な────」

「でなければ、今すぐに大聖杯を破壊する」

 

 そんな突然の脅迫に、二人は息を呑む。

 

 時臣にとって聖杯戦争とは一族の悲願であり、アイリスフィールにとって存在意義でもある。

 尤もアイリスフィールのそれは夫と娘の存在からそこまで執着するものではないのだが……。

 それでも、そんな事を即座に返答出来る訳がない。

 それは、アインツベルンのホムンクルスとしての性と言っても良い。

 

「そ、そんな事……」

 

 しかし、優しくモードレッドの手首を離した腕が振るわれた。

 その手刀は何物よりも優れた刃と化す。

 放たれた斬撃は、大空洞の天蓋を消滅させた。

 

 ゾッ! と、まるで削ぎ落とされた様な音と共に、月明かりが大空洞を照らす。

 手刀という行為からあり得ない結果だが、アルトリアとモードレッド、エレインはその一撃を知っている。

 ブリテンを蹂躙した『王』の放った破滅の光を晴らした一撃である。

 

「申し訳無いが、すぐに返答頂こう」

 

 その言葉と同時に、彼の傷口から大量のナニかが覗いていた。

 幾百幾千幾万幾億────。

 途方もない数の『視線』が、己が主人の敵になるのか見定めるかの様に覗いていた。

 太極が崩れようとも、未だ彼の中には世界の裏側で狩り尽くされた幻想の獣が犇めいていた。

 

「っ……誓おう」

「誓うわ」

「ならば俺も、その誓いが破られない限り俺の手で大聖杯を破壊しないと誓う」

 

 御三家二人の投了の誓い。

 マキリ・ゾォルケンが居ない今、その宣誓は聖杯戦争の主催者が一人の乱入者に敗北を認めた事を意味する。

 

 異を唱える者は居なかった。

 居た場合、今度こそランスロットはその者を本気で排除しに掛かるだろう。

 そうなれば今度こそ誰も止められない。

 あの英雄王でさえ、何も出来ずに屍を晒すことになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十五夜 顕現

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋い焦がれた。

 国を滅ぼすほどに、死後を明け渡すほどに、輪廻すら越えるほどに。

 女達はその男を求めた。

 

「────これで詫びになったなどとは考えてはいないが、お前達と話す面は出来ただろうか」

 

 だというのに、男はさらりと現れ記憶の中の表情と何一つ変わらずに語り掛けるのだから。

 女達からしてみれば、混乱でどうにかなりそうだった。

 

 アレほどに取り乱していたモードレッドは、頭を撫でられただけでまるで飼い主に再会した犬のように大人しくなっていた。

 

 そんなモードレッドの髪から手を離し、いち早く固有結界から現実に帰還し近場に尻餅を突いていた氷室を手を引いて立たせた。

 

「ランス……ロット卿?」

「あぁ……大事ないか王妃? 流石に爆弾を抱えて特攻してくるとは思わなかった。思わず思考が止まったが、アレはお前の差し金か英雄王」

「ええ。場合によっては避けられるやも知れませんでしたので。保険を用意しておくに越したことは無いでしょう? 民の為にこの場に現れた貴方なら、迷わず庇うと信じていましたから」

 

 あっけらかんと言い切る少年王に、そんなデコイをブン投げられたランスロットは変わらぬ無表情をやや顰めながら非難の目を向ける。

 そんな男の視線を、ケラケラとアーチャーは受け流した。

 

「は! そうだ、傷の手当てを!! 私は魔術師ではないので魔術は使えませんが、エレインや他のマスターならば────」

「必要無い」

 

 すると傷口をなぞり、ついぞ落ちなかった血を一滴落とす。

 地面に落ちたソレは即座に膨張、一つの幻想へと形を変えた。

 

「『一角獣(エクエス)』」

 

 螺くれた角を持つ、純白のユニコーン。

 ランスロットの中に在る、幻想種の一体である。

 ユニコーンの角には、あらゆる傷を癒す力があるという。

 なるほど、ランスロットの傷もこの力ならば癒せるだろう。

 

『アァン? 貴様どのツラ下げて我輩を呼び出したダボが! 此方は世界に大穴空いて大混乱だ!! 我輩を呼び出すならば清き美しい乙女の為でしかならないと────ファ!? 清き乙女がひーふーみーよーいつーエクセレンッ! 一人は些か幼すぎるが純潔の乙女であることには変わり無し! よくやったささ早くあの乙女達に我輩を紹介────ブゴバァッ!?』

 

 聞くに耐えぬ。

 そんな、不快極まる汚物を見る羽目になったと言わんばかりの表情のランスロットは、無言でユニコーンの背骨をへし折り、頭部を足で潰しながら角を抉り取った。

 すると影に沈むように肉塊が消えると同時に、ランスロットの傷はみるみる内に治癒していく。

 

「おや、やはり一度崩れた太極は流石に易々と戻りませんか」

「時間が経てば戻るだろう」

 

 治った傷口を眺めたアーチャーの文言を聞きながら、氷室は安堵の余りへたり込む。

 そんなやり取りの後に、ランスロットの視線が未だ理解が及ばす呆然とするのみのセイバーに向けられた。

 

「アーサー」

「ッ」

 

 何故か男の血に濡れていない己の聖剣を地面に落としながら、まるで叱られるのを待つ子供の様に、セイバーは揺れる。

 

「わ、私は」

「────我が王よ。戦線から独断で離脱、逃亡した重罪、深く御詫びする。王に無様な面貌を晒す事をこの傷で以て御許しを。そして重ねて不忠なれど、この首落とすのは然るべき後までお待ちください」

「────────そんな」

 

 何を言うのか。

 騎士の王と讃えられた少女は、跪いた男に涙を流す。

 だがそれは、決して哀しみの色ではなかった。

 

「あの場から消えたのは、貴方の意思ではないでしょう? 貴方は私の剣。私に二度も己の剣を折らせるつもりですか? あまり、私を虐めないでください」 

「……済まなかったな」 

「全くです……本当にっ」

 

 跪いた状態から立ち上がり、次にその視線はエレインに向けられる。

 

「エレイン」

「……ら、ランスロット、様。本当に、貴方なのですか。いや、でも貴方は────」

「その槍ならば、聖杯を浄化出来るのか?」

「え、えぇ。検証済みです」

 

 冷静になった為か、此処に居る筈の無い男が此処に居る理由を思考しようとするが、ランスロットの問い掛けに即座に意識が切り替わる。

 

 落とした聖槍を拾い上げながら、ランスロットの問いに是と答えた。

 

「ならば、頼んだ」

 

 そう言って、ランスロットはエレインの肩を軽く叩いた。

 

「────」

 

 ────あぁ、と。

 言いたいことは山程ある。

 自分が何れ程貴方に想いを寄せていたのか。

 自分が何れだけ頑張ったのか。

 聴いて欲しいことが沢山あるのだ。

 だけど……男というのは卑怯である。

 

「────はいっ!」

 

 女である自分は、好きな人に触れられ頼りにされるだけで、今はどうでも良くなるのだから。

 

 彼女は聖槍を拾い、大聖杯に向かう。

 その足取りは余りにも軽かった。

 そんな彼女を微笑ましく見守るランサーと、小さな王が一人。

 

「単純というか、微笑ましいですねぇ」

「邪魔してくれるなよ、英雄王」

「手出しなどしませんよ。流石に此処に至って邪魔をするのは無粋が過ぎる」

 

 満足そうに佇む王は、どこにでも居るだろう少年のように微笑んだ。

 

 聖人の子孫は聖なる槍を掲げ、その神性を高めていく。

 かの聖槍は、神の子の死を決定付けた聖遺物。

 その神性は魔性を駆逐し、その特性はアンリ・マユという悪神を殺し尽くすだろう。

 

 そんな静けさが戻った大空洞に、駆け足の音が響く。

 

「アイリ!」

「切嗣!?」

 

 必死に走ったのだろう。ただでさえ信念やら何やら根刮ぎ覆された為に、悪い顔色が更に悪化している。

 そんな夫を迎えるアイリスフィールは、大聖杯を見て愕然としている衛宮切嗣の傍に寄り添う。

 

「衛宮切嗣か……。まぁ距離と此方の移動速度を考えれば、早かったなと言うべきか。だが、最早来た意味など無い」

「おっ、ブーメランか? さっきまでのにやけたツラを晒してた女は何処に行ったっけか?」

「うるさいっ!」

 

 顔を赤らめるエレインとソレを手伝うべく意地の悪い笑みを浮かべるランサーが、跳躍し儀式台へと跳ぶ。

 大聖杯の側に寄りながら、エレインは聖槍の加護によって欠片もその穢れに汚れる様子を見せない。

 後は神の子の脇腹を刺した聖ロンギヌスの様に、大聖杯に突き刺すだけで事足りる。

 

 

「────ボクは無粋と言ったのですがね」

 

 

 ソレに気付けたのは、一体何人居たろうか。

 大聖杯から飛び出した巨大な汚泥の尾が、エレインの居た場所を薙ぎ払った。

 

「な────」

「エレイン!?」

 

 轟音と共に、破砕された岩が儀式場より下に居たマスター達に降り注ぎ、其々のサーヴァント達が粉砕していく。

 その破片の中に、吹き飛ばされながらも腰に巻き付いた鎖によって泥から逃れたエレインが落ちてくる。

 即座に動いたランスロットに抱えられるも、魂魄装甲に護られている筈のエレインは気を失っていた。

 セイバーはそれによって、出現した存在の脅威を測る。

 

「アレは……英霊召喚の、陣?」

 

 大聖杯に見覚えのある魔法陣が浮かび上がっていた。

 そして大聖杯から尾が次々に飛び出し、そしてそれが合計九つとなった時。

 

 

『────────■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!』

 

 

 汚泥から獣が、溢れ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あり得ない……」

 

 大聖杯から這い出てくる泥を纏った巨獣を前に、愕然としながら遠坂時臣が呻く様に口にした。

 マスターも無しに、サーヴァントが出現するという事態に。

 

「そんなことはありません」

 

 聖杯がサーヴァントを召喚する。

 だがそれが有り得ぬこと────とは、言い切ることは出来ない。

 何せ前例が存在する。

 

「そうか、ルーラーのサーヴァント……!」

「えぇ。正直、アレと同列は複雑ですが」

 

 聖杯によって召喚される、裁定者のサーヴァント。

 ならば聖杯単体でサーヴァントを召喚するのは不可能ではない。

 だが、何れだけ聖杯が汚染されていようが、設計された性能を超えることは出来ない筈。

 

「そんな! まだ一騎も落ちてはいないのに!?」

 

 昨晩まで小聖杯の担い手であったアイリスフィールの叫びに、しかし答える者は居た。

 

「七騎目のサーヴァントは未だだ」

「……何ですって?」

 

 ソレは、男の宝具が抑止力さえ欺く隠蔽能力を有するが故の盲点。

 

「雁夜────間桐は、サーヴァントを召喚していない」

 

 故意ではなかったものの、ランスロットの『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』は教会の霊基盤を易々と欺き隠蔽していた。

 ルーラーを除き、現状まだ六騎しか召喚されていないという事実を。

 

「いや、そもそもアレはサーヴァントと言えるのか? アレが、英霊だと言うのか!?」

 

 聖杯の汚泥にまみれ、マトモな全貌さえ未だ見えない獣。

 その霊基はサーヴァントと呼ぶには膨大で、巨大で、何より強大だった。

 この場にいる反英雄たるモードレッドも確かに強力だが、目の前に顕現した獣は格が違う。

 

 その正体を、その真名を、ルーラーはスキルによって看破した。

 

「────……玉藻の、前?」

「なん……だと……ッ?!」

「エレイン!」

 

 ルーラーの呟きに、意識を取り戻したエレインが戦慄を含んだ言葉を漏らす。

 

「無事ですか!?」

「……ランサーが咄嗟に庇ってくれなければ圧死していた。ランスロット様の胸に抱かれるこの状況を至福と言えばいいのか最悪と言えばいいのか」

 

 名残惜しそうに、ランスロットの手を借りて立ち上がったエレインが、獣を睨む。

 

「玉藻の前……確か、この国の大妖怪だったはず」

「あぁ、本来はキャスターとして召喚される。だが元来彼女は太陽神の分け御霊。サーヴァントとして召喚されても単体では大したサーヴァントではない────あくまでキャスターとして召喚された場合は」

 

 悪霊・妖怪・荒御魂として召喚された場合、その危険性は次元違いに跳ね上がる。

 平安の世にて、数万の軍勢を悉く皆殺しにした日本三大化生・白面金毛九尾の狐。

 仮に百の英霊を揃えようが、軽く退ける大化生となる。

 

「不味いぞ、先程の戦いで此方は魔力を使い果たしているというのに……!」

「……仕方ありません、マスターさん達は令呪の使用を。ルーラーのお姉さんも────」

「すみません、()()()()()()()()()

「な!? 令呪が消えてる!」

 

 令呪とは、大聖杯がマスター達に与えるもの。

 大聖杯と戦うのだ、奪われるのは当たり前だろう。

 

「……まぁ、当然ですね。今回の受肉は諦めてください、ライダーさん」

「惜しいが、こうなっては仕方あるまい」

 

 セイバーは既に聖剣を使っている。アレはマスターの魔力的な意味で、一日に一度の切り札。

 アーチャーの乖離剣も同様だろう。

 恐らく最も魔力燃費の良いランサーはエレインを庇って泥に呑まれ。

 ライダーも既に固有結界を長時間使っている。

 唯一全力戦闘可能なのは、マスターが規格外のアヴェンジャーだけ。

 幾ら彼女がマスターのお蔭で最上級を超えて、超級に手を伸ばし掛けているとは云え、その超級サーヴァントが複数必要な相手では荷が重すぎる。

 だが、

 

「……惨いな。悲鳴を上げているだろう」

「……!」

 

 此処には、1500年鍛え続け生き続けたまさに超級も超級の英雄が居る。

 ランスロット・デュ・ラック。

 如何に太極が崩れ、人の身に堕ちたとは言え、その鍛え続けた技量と経験は、他の超級サーヴァントでは届かない領域。

 肩を並べ得るのはそれこそ、死を奪われたスカサハ。幽谷の淵を彷徨い在り続ける初代“山の翁”。そして不死である花の魔術師マーリンのみだ。

 

 そしてランスロットにとって怪物退治は、最早趣味だった。

 

 自己保存の為の、聖杯の中に潜む絶対悪の胎児による最後の足掻き。

 それによって聖杯の泥に苛まれた哀れな獣に、ランスロットは勝つだろう。

 狂気と泥の浸食に蝕まれ、現代の人理法則によって権能さえ振るえない人類悪の獣に、ランスロットに対する勝機など有りはしない。

 獣は呆気ないほど容易に倒されるだろう。

 

「────────」

 

 だが、剣の柄に手を掛けたランスロットの、動きが止まる。

 

「……ランスロット?」

「……あぁ、そういうことですか」

 

 訝しんだセイバーの問いに彼は答えず、アーチャーも上を見上げ納得した。

 満天に輝く月が、大穴の開いた大空洞を照らしている。

 そんな美しい景色に、しかし英雄の視力は『それ』を見逃さなかった。

 

『うそやん』

「えっ?」

 

 その呟きを聴ける氷室は、ランスロットから発せられたその念話に驚き仰ぎ見るが、

 

 

 

 

 ────I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

 

 

 

 瞬間、炎が地面を走った。

 

「!?」

「何だ、コレは!?」

 

 突然の変化の連続に戸惑いを隠せないマスター達を飲み込んでいく炎と稲妻を見て、エレインだけはその正体を口にする。

 

「────()()()かッ……!」

 

 炎の濁流が消えた大空洞には、マスターもサーヴァントも。大聖杯と獣さえも姿を消していた。

 ランスロットだけを残して。

 

「…………」

 

 セイバー達が居た場所を一瞥すると、再び空を仰ぐ。

 マスター達の消失も聖杯の獣の脅威さえも二の次に、ランスロットはその存在を注視し続ける。

 太極が崩れた今のランスロットにとって、()()相手は流石に気を抜けないのだと。

 

 

 

 

「────あぁ、漸く見付けたぞ。湖の愛し子よ」

 

 

 

 

 

 美しい月の様だと。

 懐かしい人物ともう一度会うような、あるいはそんな人物の親戚の子と会ったような、間の抜けた考えがランスロットに過る。

 

 黄金率を体現したかの様な宝石の如き肢体は、しかし黄金率を崩さずに女性らしい凹凸に富んでいた。

 その美肢を黄金の装飾に彩られた白いドレスに身を包んだ女神が、月夜より舞い降りる。

  

 エレインがその場に居れば、絶望に膝を折るだろう。

 アルトリアとモードレッドがその場に居れば、怒りと憎悪に身を焦がすだろう。

 その姿と気配は到底、彼女達にとって見逃せるものでは無いのだから。

 

「邪魔が入って興じてしまい、些か遅れてしまったが────何、遅れる女を許すのも男の甲斐性なのだろう? 笑って許せ。お主ほどの色男ならば、口煩く咎めまいと信じているぞ」

 

 それは真祖の姫の真形。最高純度の真祖・星の触覚としての側面を現したもの。

 星の頭脳体。夢見る石。その素体。

 しかして、嘗て湖の騎士に敗れた月の王が、星と人理の排斥によって己の死を予感したが故に残した後継機。

 その存在による現実への浸食────『空想具現化』によって大空洞は姿を変え、ブリュンスタッドの証たる千年城を築き上げる。

 

 ()()()()()()────『原初の一(アルテミット・ワン)』ARCHETYPE:EARTH。

 

「この時を焦がれたぞ愛し子よ、我が手の中で存分に踊ろうぞ────!」

 

 この聖杯戦争における最大最後の戦いが、始まった。

 




紅茶「ずっとスタンバってました」
姫アルク「途中埋葬機関やら何やらがえらくチョッカイ掛けてきましたが、それはそれで楽しかったです」
キャス狐「私の扱い酷くないですか?」
マスター勢「ランサーが死んだ!」
サーヴァント勢「この人でなしィ!」

ということで最終決戦突入。長かったなぁ(未更新期間が)。

補足ですが、実は七騎目を召喚していなかったオジサン。聖杯くんの悪足掻きも、適当に七騎目のサーヴァントを召喚していれば行えなかったり。
そしてキャスター枠としてキャス狐を召喚。召喚直後に聖杯の泥に汚染され、妖怪としての側面が引き出されてしまいました。
え? 東洋のサーヴァントは召喚されない? アインツベルンがガチャ邪神天草召喚してるんだから、イレギュラーなら行けんだろ。

次に掃除屋版紅茶。
実は彼はキャス狐のカウンターとして抑止力に出張命令を受けており、実は直接的にはらんすろ関係無かったり。
聖杯戦争の参加者諸共、キャス狐と大聖杯を排除するのが今回のお仕事です。

そして姫アルク。
ここまで来るのに非常に苦労しており、そもそもちょくちょく隠蔽宝具で場所が解らなくなったり、そうしている間に各機関からチョッカイ掛けられてテンション上がったりして遅れました。
時系列が解りませんが、一応シエルロアさんを討伐後、という設定ですので特に聖堂教会からチョッカイを受けてました。

FGO第一部完結に1・5部開始。
extraアニメ化にアニメアポクリファ7月放送、10月Heaven's Feel上映とfate熱が益々続く今年ですが、自分はソレに伴う二次創作の新作とかに期待したり。
勿論今投稿されている作品も楽しんでますがw

それと、誤字修正いつもありがとうございます。ご指摘大歓迎(白目)です。

それでは次回お会いしましょう。 

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