モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE58 ~消耗戦~

 ヴァイスとソラがエリア1に滑り込んだ時、既にクレアとグレンの二人は体勢を整えようとしていた。

 険しい表情をした二人を横目に、ヴァイスとソラも一旦小休憩を入れる。ヴァイスは氷刀【雪月花】の切れ味を回復させると同時に携帯食料を口に運ぶ。ソラは残り僅かとなったLv2通常弾を調合して補充する。

「やっぱり、手強いですね……」

 誰も口を開こうとしなかった中、クレアがその沈黙を破る。それを合図にソラも重たい口を持ち上げる。

「はい。でも、ここで諦めるわけにはいかないのです」

「うん、分かってる。分かってるよ……」

 クレアはその言葉を自分に言い聞かせているように見えた。

 ジンオウガという存在はクレアたちにとって非常に大きな壁だ。彼女が、その存在に怯みそうになっている自分を何とか保とうとしているのが、ヴァイスにはよく分かった。

「安心しろ。奴がいくら手強い存在だとはいえ、着実に追い込んではいる。奴の動きに慣れることができれば、後は自分の経験と知識を信じて挑むのみだ」

 ヴァイスの言葉に他の面々が無言で首肯する。

 ヴァイスの言う通り、いくら苦戦を強いられているとはいえ、ジンオウガを追い込んでいることは確かな事実である。ジンオウガに喰らい付き、一瞬の隙を突く。言葉に表せば地味だが、リスクを伴う立ち回りをしなければならないだろう。だが、それを続ければジンオウガを討伐できる。ヴァイスはそう確信していた。

 クレアだけではない。グレンもソラも不安を覚えているのはヴァイスも理解している。その一抹の不安を和らげようとヴァイスも気を遣う。

「これからは使える物は全て使っていく。罠や爆弾の数は十分だ。それらを上手く利用して、ジンオウガの体力を一気に削る」

 幸い今回は罠や爆弾を多めに持ち込んでいる。ジンオウガの気を惹き付けることは極めて難しいだろうが、上手く誘導して罠や爆弾が機能すればジンオウガに大きな痛手を与えられる。

「クレアとグレンは落とし穴を、俺はシビレ罠を持っていく。タイミングは各自に任せる。ここぞという時に罠を仕掛けてくれ。ソラは引き続き援護を頼む」

「分かりました」

 三人を代弁してグレンがヴァイスに同意する。

 ヴァイスが拠点に戻り罠と爆弾を乗せた荷車を牽いて持ってくる寸前、ペイントの臭気がエリア2から移動した。その間に、グレンがセロヴィウノの音色を奏で旋律効果を重ねがけした。

「……奴が移動したようだな。さて、行くぞ」

 演奏を終えたグレンとクレアが落とし穴を起動させる円形状の装置を背中に担ぎ、シビレ罠をヴァイスが担ぐ。荷車を牽引するのもヴァイスが買って出た。

 四人が向かったのはエリア4。どうやらジンオウガは、エリア2の崖を飛び降りてここまでやって来たらしい。超帯電状態のまま、ジンオウガがエリアの中央に佇んでいる。

 ソラがLv2通常弾を装填したのを確認すると、剣士の面々はジンオウガの背後から接近する。そして、真っ先に太刀の間合いに入ったヴァイスが先制する。

 氷刀【雪月花】の刀身がジンオウガの尻尾に一閃する。しかし、ジンオウガは泰然とした様子で身を翻し、ヴァイスを睥睨する。ヴァイスはジンオウガを誘き寄せようと後退していく。

 ジンオウガは後退していくヴァイスとの距離を少しづつ詰めていく。そして、ジンオウガが動きを見せようとした瞬間、その間隙を縫ってクレアとグレンの二人がジンオウガの後方に攻撃を仕掛けた。その前方からはソラが狙撃を開始する。

 剛健な肉体と甲殻を持つジンオウガであっても、研いだばかりのアイシクルスパイクとセロヴィウノの一撃を防ぐことは不可能だ。思いもよらぬ二人の一撃にジンオウガは一旦後退する。

 だが、尚も挟撃するような形で立ち回る二人をジンオウガは煩わしく思う。尻尾で薙ぎ払おうとしたものの、その時には既にヴァイスが正面から斬り込んで来ていた。

「グアアアァァァァァァァァッ!」

 それならばとジンオウガも動く。

 三人の包囲網から身軽な体捌きで脱出して間合いを取ると、遠距離から雷撃を四発放つ。

 雷撃は三人を的確に狙った軌道だった。ヴァイスとグレンは辛うじて雷撃の進路から後退し、回避が難しい位置にいたクレアは盾でガードして雷撃を防いだ。

 だが、ジンオウガはそれを狙っていた。ガードして身動きの取れなくなったクレアとの間合いを瞬時に殺すと、ボディプレスを繰り出しクレアを押し潰そうとした。しかし、クレアも冷静に判断し、ボディプレスも何とかガードし耐え凌ぐ。

 クレアは後退し、入れ替わるようにヴァイスとグレンが肉薄する。

 ジンオウガの注意が自分から逸れたことを確認すると、クレアは抜刀したままポーチの中に手を入れる。そしてポーチの中から強走薬を一本取り出した。

 以前、ヴァイスとジンオウガの対策を練っていた時、彼が提案したのがこの強走薬だった。

 ジンオウガの熾烈な攻撃の数々を片手剣の盾で受け止めることは難しい。完全に勢いを殺しきれない上、スタミナを浪費していくばかりである。そこでヴァイスは、強走薬でスタミナの消耗を抑え、ジンオウガの攻撃を避けるのではなく、あえて盾でガードする策を提案したのだ。

 クレアはおもむろに強走薬の入った小瓶を飲み干す。すると、今まで感じていた疲労が嘘のように消えていた。

「よし、これなら大丈夫!」

 クレアは改めてジンオウガの姿を見据える。

 サマーソルトを繰り出そうとしたジンオウガから、肉薄していたヴァイスたちが後退しようとしていた。

 クレアはヴァイスたちよりも早くジンオウガに一撃を決めようと動く。ソラが援護してクレアから気を逸らしているうちに、ジンオウガの背後に回り込んでアイシクルスパイクを振り下ろす。

 ジンオウガがクレアの存在に気が付く。クレアは攻撃を中断すると右手に装着した盾を突き出した。それから間を置かず、ジンオウガが前脚を勢いよく振り下ろした。

 押し流されようとする身体を懸命にその場に踏み止めさせつつも、ジンオウガの攻撃を全て受け流す。普段ならスタミナが底を付いて後退することもままならないが、今回は別だ。強走薬のおかげで、ジンオウガの攻撃を全て受けきっても問題なく後退できる。

「ガアアアアアァァァァァァァァァァッ!」

 予想外の動きを見せたクレアに、さすがのジンオウガも苛立ちを覚えた。

 動きに躊躇いを見せたジンオウガの隙を突き、ヴァイスが後方から斬り込む。尻尾の切断を図ると同時に超帯電状態の解除を狙う。そうしなければシビレ罠を仕掛けても意味が無いからだ。

 側面からはグレンと、一旦後退したクレアが再び肉薄する。二人ともアイテムや狩猟笛の旋律効果の恩恵を受け、その動きは俊敏だった。超帯電状態のジンオウガを相手取っても、二人は何とか食い下がっている。

 一方、三人に包囲されたジンオウガは身を翻し突進の体勢に入る。それが命中することは無かったが、ジンオウガは自身の矜持を保つかのようにこちらを威嚇する。向こうもまた、そう易々とはくたばってくれない。

 アイシクルスパイクを腰に納めたクレアがいち早く接近を試みる。ジンオウガはそのクレア目掛けて飛び掛かった。彼女を拿捕し、そのまま喰らうつもりなのだろう。

 この攻撃を盾でガードしてもジンオウガに捕らえられる可能性がある。そう判断したクレアは緊急回避を取り、ジンオウガをやり過ごす。事前にアイシクルスパイクを納刀していたことが幸いした。身体をすぐさま起こすと、クレアはジンオウガの様子を窺おうと後退した。

 クレアと入れ替わるようにヴァイスが斬撃を繰り出す。それを見たグレンが動きを見せる。

「俺は落とし穴を仕掛ける。ソラは続けて援護を頼む!」

「了解です!」

 落とし穴を仕掛けるには、いわんやジンオウガの気を他の面子で惹きつける必要がある。そして現在、ジンオウガの注意はヴァイスに向けられている。

 ヴァイスなら上手く立ち回ってくれるはずだ。そう確信してグレンは落とし穴を仕掛けるためにエリアの中央へ急いだ。

 グレンの動きを見て、ヴァイスとクレアも彼の意図を悟る。ヴァイスはジンオウガの正面に躍り出て、頭部に生える角に斬撃を集中させる。クレアもヴァイスを援護しようと、後方からアイシクルスパイクを振るった。

 ソラの援護射撃も受けて、何とかジンオウガの気を惹き付け続けることに成功する。しばらくして、ヴァイスとクレアの後方からグレンの呼ぶ声が聞こえてくる。

「よし、何とかなったな」

 声のあった方向に一瞬目を移したヴァイスが言う。

 見たところ、グレンは罠の設置に加え大タル爆弾Gを積んだ荷車も近くまで牽いてきていたようだ。短時間で、グレンは自分のできる最大限の仕事をこなして見せた。

「クレア。お前は先に行ってくれ」

「はい。後はお願いします!」

 ジンオウガはヴァイスとソラに任せ、アイシクルスパイクを腰に納めたクレアは設置された落とし穴を目指した。

 そんな中、ヴァイスは尚もジンオウガの注意を惹き付け続ける。ソラの援護も見事だが、剣士一人でジンオウガの注意をこちらに向かせ続けるのはさすがである。

 少しずつ、少しずつヴァイスは後退していく。無論、ジンオウガを惹き付けながら。

 そしてジンオウガが突進の体勢に入ったのを見計らい、ヴァイスが移動斬りで突進の進路から外れる。突進が不発に終わったジンオウガは、身を翻そうと大きく一歩を踏み出した。だがその瞬間、ジンオウガの踏みしめた地面がいとも簡単に崩れ落ちる。グレンの仕掛けた落とし穴に掛かったのだ。

「よし! このまま大タル爆弾Gを!」

 事前に大タル爆弾Gを仕掛けることは確かに可能だった。だが万が一、ジンオウガの放った雷撃の流れ弾が大タル爆弾Gに命中してしまえば爆発し、他に仕掛けた爆弾も誘爆してしまう。

 無駄な動きのように思えるが、ジンオウガが落とし穴に掛かってから大タル爆弾Gを仕掛けるのが今回は得策だ。クレアとグレンがジンオウガの頭部周辺に大タル爆弾Gを計四つ設置する。

「ソラさん、お願いします!」

 大タル爆弾Gを設置し、爆風の範囲外に後退したクレアが合図を出す。ソラは彼女の言葉に無言で頷き、ブリザードカノンの引き金を引いた。

 銃口から放たれたLv2通常弾が大タル爆弾に命中する。刹那、響き渡る爆音と立ち上る火柱。黒煙の向こうから轟く、ジンオウガの惨苦の咆哮。それはヴァイスたちに、今までにない手応えを覚えさせた。

 黒煙が晴れ、ようやくジンオウガの姿が現れる。

 爆発の影響で、ジンオウガの二本の角のうち右角が先端から折れていた。先程までの超帯電状態も解かれ、その姿は幾分衰退したようにも思える。

「やった!」

 まだ、狩猟が終わったわけではない。しかし、ジンオウガをここまで追い詰めているのだという実感は、確実に強いものへとなった。

 落とし穴からようやく脱出したジンオウガは、息切れをおこしながら疲弊したように鳴き声を上げる。ここに来て、蓄積したジンオウガの疲労が限界に達したのだろう。

 呼吸を整えたジンオウガがエリアを後にしようと方向転換した。だがソラが、ジンオウガの眼前に閃光玉を投擲しその動きを制止させる。

「今のうちに、一気に追い込むのです!」

「ソラさん、ナイス!」

 この絶好の好機を逃してはならない。誰もがそう思い、疲労して緩慢な動きとなったジンオウガに畳みかける。

 ヴァイスはジンオウガの真正面に陣取り氷刀【雪月花】を振り下ろす。残ったもう一本の角を破壊するつもりなのだ。一方クレアは尻尾の切断を狙ってアイシクルスパイクを、グレンは左後脚に向かってセロヴィウノをそれぞれ振るった。

 ソラも弾丸を氷結弾に変更し、ジンオウガの右前脚を集中して引き金を引き続けた。

 閃光玉の効果が消え、ジンオウガが反撃を開始しようとする。だが、今一度左後脚にセロヴィウノが叩きつけられた瞬間、ジンオウガの身体が崩れ落ちた。ここでも、溜まっていた疲労が露わになった。

「ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!?」

 疲労している中、ジンオウガは必死に体勢の立て直そうとするがなかなか上手くいかない。

 ソラ以外の剣士三人は立ち位置を変え、ジンオウガに再び肉薄する。部位破壊までには至らなかったが、この短時間で大きな痛手を与えることができたはずだ。

 ようやく体勢を立て直したジンオウガがヴァイスに飛び掛かる。こちらを捕食するつもりなのだろうが、単調な動きとなった今ではヴァイスもそれを回避することは容易い。そこから体勢を立て直すのにもジンオウガは時間を要し、その間に再び剣士の三人が肉薄した。

「ウオオオオォォォォォォォォォォッ!」

 身を翻し、何とか包囲網から脱出したジンオウガは雷光弾を放つ。だが、その雷光弾の威力も衰えていた。通常では二発、超帯電状態にもなれば四発放ってきたその雷光弾は、疲労状態の今では一発を放つのが精一杯の様子だった。

 雷光弾の進路上にいたのはグレンだったが、その攻撃は何度も見てきた上、現在では雷光弾の数さえもが減少している。こちらも容易に回避できた。

 グレンはその後後退し、セロヴィウノを構えて演奏体勢に入った。

 先程エリアを移動する際に演奏したばかりだが、ジンオウガの動きに隙が多くなった今に演奏しておいた方が後のためだ。万が一のことも考えられる。ここでは雷耐性強化【小】を重ねがけし、雷属性やられを無効化できるようにした。

 ボディプレスが不発に終わったジンオウガは、頭を項垂れさせてその場で動きを止めてしまう。超帯電状態で余程スタミナを消耗させていたのだろう。今までの激しい動きからは考えられない姿である。

 無論、こちらの消耗も確かに激しい。だが、ここで攻撃の手を緩めるわけにもいかない。ヴァイスはソラが狙撃している反対側、左前脚に狙いを定め氷刀【雪月花】を振り下ろす。

 冷気を帯びた一閃が、ジンオウガを再度怯ませる。しかし、今回はジンオウガも何とかその場に止まって見せた。そして、反撃に転じようとヴァイスに向き直った。

 ヴァイスが斬り下がりを繰り出して後退した直後、ジンオウガが左前脚を振り下ろした。だが、ヴァイスが事前に後退していたこと、そしてジンオウガが疲弊していたこともあり、続けて繰り出した右前脚もヴァイスを捉えるまでには至らなかった。

 そこにクレアとグレンの剣士二人が仕掛け、立ち位置を変えたソラがブリザードカノンを構えスコープを覗き込んだ。

「はぁ……、はぁ……っ!」

 ガンナーだとは言え、ソラの疲労もかなり蓄積していた。いや、剣士である三人の疲労の方が大きいのはソラも理解しているつもりだ。だが、それでも疲労が――特に精神的疲労は大きかった。

 今はそうでもないが、先程まであれほどトリッキーな動きをしていたジンオウガに対し、狙った一部分に狙撃を行うのは凄まじい集中力を要していた。それだけならまだいいかもしれないが、ジンオウガの動きに合わせ、剣士三人も忙しく立ち回る。

 ここでのガンナーの役目は援護。しくじれば仲間を危険に晒すこととなる。そして、仮にも誤射を起こしてしまった場合、誤射によるダメージは防具がある程度は防いでくれるだろうが、それによって生じた隙にジンオウガに付け入れられてしまう。

 ジンオウガの威圧。狩猟による肉体的、精神的疲労。そして何よりも、この狩猟を絶対に成功させなければならないという決意。

 様々な要素がソラの身体を蝕み、かつ今にも立ち止まってしまいそうなソラを動かしている。ソラが受けている負担は、前衛として立ち回る三人のそれと比べてもかなり大きなものだった。

「っ!?」

 氷結弾を再装填しようとしたソラは前転回避でその場から退く。いつの間にかこちらに狙いを付けていたジンオウガが突進して来ていたのだ。

 今は無駄な事は考えてはいけない。そう自分に言い聞かせ、体勢を整えたソラがブリザードカノンを再び構える。

 スコープを覗き込んで照準を合わせ、引き金を引く。速射した氷結弾は狙い通りジンオウガの右前脚に命中した。

 同時に、ソラの反対側からヴァイスが、ジンオウガの後方からクレアとグレンが接近していくのがスコープ越しに見て取れた。

 ジンオウガは後退しようと試みるが、ヴァイスの放った一撃が左前脚を捉えた刹那、その部分の甲殻と爪を弾き飛ばした。

「ウオオオオォォォォォォォッ!?」

 ジンオウガは悲鳴を上げ、何とかその場から退く。しばらくはその場に佇んでいたジンオウガであったが、突如としてその身体を疾駆させた。向かって行ったのはエリア7の方向だ。不利な現状を何とか脱し、加えて消耗したスタミナを回復させようという目論みなのだろう。

 もちろん、ここでジンオウガを逃すことは痛い。クレアも閃光玉を投擲しようとしたが、既にジンオウガはこちらに背を向けてしまっていたためその動きを止めてしまう。

 ジンオウガは四人の追撃を振り切り、エリア7へと立ち去ってしまう。しかし、これまでにジンオウガを大きく追い詰めることができたのは事実だ。現状で悲観することはないはずだ。

 各々が回復薬で体力を回復したり、砥石を使用して武器の切れ味を回復させる。ソラも残り僅かとなった氷結弾とLv2通常弾の調合を行う。調合素材の方も僅かではあったが、それなりの弾数を確保することができた。まだ手付かずで残っている貫通弾もあるため、弾丸が底を付くということはないはずだ。

「三人とも、一つだけ確認しておきたいことがある」

 他の面々が体勢を整えたのを見計らい、ヴァイスが口を開いた。

「ジンオウガを捕獲するためには、まだかなり体力を削る必要があるだろう。今のようにエリア7で落とし穴を仕掛け、一気に畳みかけるという手もある」

 一旦言葉を区切り、ヴァイスは三人の表情を窺う。そうしてから、再び言葉を紡ぐ。

「だが、奴を最終的に捕獲すると考えた場合、超帯電状態では残ったシビレ罠を使用することはできない。超帯電状態を解除しようにも、その以前にどちらかの消耗が限界に達するだろう。そこでだ。俺は次のエリア7でシビレ罠を仕掛け、一気に畳みかけようと思う」

「確かに、ヴァイスさんの言う事は一理あります。確認というのは、そのことですか?」

 事前に取り決めておき、後に行動に移した方が効率良く動けることは確かだ。だが、シビレ罠を仕掛けるという話が、グレンにはヴァイスの言う提案には思えなかったのだ。

 一方ヴァイスも、グレンの予想通り首を横に振る。

「シビレ罠が超帯電状態のジンオウガに効かないのは先日話した通りだ。だが、もし仮に、超帯電状態でないジンオウガをシビレ罠に仕掛けられたとしよう。その場合、ジンオウガは仕掛けたシビレ罠からも雷光虫の電力を受け取ることが可能なはずだ」

「……つまり、シビレ罠にジンオウガが掛かったとしても、その代償に超帯電状態になってしまう、ということですか?」

 気遣わし気に結論を導き出したグレンに「そこまでは言っていないさ」とヴァイスが肩を竦める。

「シビレ罠に使用する雷光中の電力は、ジンオウガの超帯電状態の電力に比べてもかなり微力だ。シビレ罠一つで超帯電状態になるようなことはないだろう」

 ジンオウガを追い詰める手段は何通りかある。だが、そのうちの一つである落とし穴を捕獲のために使用するならば、次に候補に挙がるのはシビレ罠だ。

 ジンオウガを捕獲するためには、まだまだ体力を削る必要がありそうなのはヴァイスも言った通りだ。長期戦を覚悟で安全策を執るか。リスクを承知でジンオウガを追い詰めに行くか。ヴァイスは三人に、その諾否を問っているのだ。

「このまま長期戦になっても、私たちの体力も底を付く可能性がありますよね……」

「ああ。それに、いくらリスクがあるとは言え、シビレ罠を仕掛けて爆弾で体力を一気に削る方が確かに効率が良い。まだ超帯電状態のジンオウガに食い付くことだってできる」

 クレアとグレンが互いに意見を述べる。

 ヴァイスはちらりとソラの方に目をやる。彼女も、無言ながらも頷いてくれた。それは承認の首肯と捉えていいだろう。

「決まったようだな」

 ヴァイスが短く息を吐き出しながら言う。考えていることは、この場にいる誰もが同じだった。

「何度も言うが深入りと慢心は禁物だ。冷静になって動けばジンオウガの動きに付いていくことは可能だ。さあ、行くぞ」

 ヴァイスの呼びかけに三人が頷く。

 残った大タル爆弾Gを乗せた荷車をヴァイスが続けて牽き、その前方を三人が行く。

 どちらの消耗が先に限界に達するか。ここからは我慢比べになる。それぞれが疲労を感じつつも、クレアを先頭に四人はエリア7へと急いだ。


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