モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE52 ~無双の狩人~

 エリア4。森林の中に位置するエリア5に比べれば、エリアは比較的広く見通しが良い。

 だが、そのエリア4には、唯一動きや視界を制限する物がある。無骨な作りをした廃屋がエリア上に点々としているのだ。エリア4では、それを考慮した上で立ち回る必要があるだろう。

「いましたね……」

 クレアの言葉に各々が頷く。

 四人の視線の先にジンオウガの姿があった。屯していたジャギィたちを蹴散らし、別の場所へ追い遣っているようだった。

「今のうちに!」

「ああ」

 ジンオウガは、ヴァイスたちの存在には気がついていない。ジンオウガの後方から接近したクレアがシャドウサーベル改を一閃させた。

「ガアアアアァァァァァァッ!」

 また来たのか、とでも言いたげにジンオウガが煩わしげに吼えた。

 クレアに続きヴァイス、グレンがジンオウガに肉迫し、ソラも射撃を開始した。

 ジンオウガは、誰を狙うべきか戸惑う様子を見せた。しかし、それもほんの一瞬にすぎなかった。すぐさま身体を方向転換させると、狙いに絞ったヴァイス目掛けて尻尾を叩きつけた。

 ヴァイスは、その動きを冷静に見切り回避する。と、ここでヴァイスの注意がジンオウガから逸れた。エリアの端に固まっていたジャギィたちが、少数の群れを成して接近してきているのをヴァイスは捉えていた。

「くっ、厄介な」

 小型モンスターも、大型モンスターと対峙している状態では厄介な存在になりかねない。それが、縄張り意識が高い上に仲間を呼び寄せるジャギィたちになれば話は更に加速する。

「ソラ! ジャギィたちを頼む!」

「はいです!」

 ヴァイスは、後方で援護していたソラにジャギィたちを任せた。

 ジャギィたちの殲滅を請負ったソラは弾丸を変更する。Lv3通常弾を弾倉から取り出し、ポーチから取り出したLv1散弾を装填する。

 散弾は、文字通り砕け散った弾頭の破片を広範囲にばら撒く弾丸だ。動きが俊敏なモンスター、群れで行動するモンスターには絶大な威力を発揮する。ただし、弾頭を砕くために火薬の量が多く他の弾丸に比べ反動が強い。そして、射程が短いという二点に注意しなければならない。

 ヴァルキリーファイアの銃口をジャギィの群れに向ける。散弾は、大まかな狙いを付けるだけで標的に命中してしまう。だが、それは裏を返せば、誤射の可能性も上昇するということになる。

「っ……」

 ソラにしてみれば、もう二度と誤射などという真似はしたくなかった。

 しかし、今は自分の意識に苛まれ、射撃を躊躇している場合ではない。ジャギィたちの周囲に仲間がいないことを確認すると、ソラはおもむろに引き金を引いた。

 引き金を引いた回数はたったの二回。しかし、それだけでジャギィたちの群れは壊滅した。

 その様子を確認したヴァイスが、軽く手を挙げる。それに答えるようにソラも頷く。標的をジンオウガに戻すと、再びLv3通常弾を装填し、射撃を開始した。

 一方、剣士としてジンオウガに肉迫しているクレアとグレンは苦戦を強いられていた。

 ジンオウガの予測不可能な動きに何とか対応しつつ、攻撃が通る部位を探す。特にクレアの場合は、まともに斬撃を浴びせられる部位が極端に限られてしまっていた。

 身を翻したジンオウガが突進してくる。散開した三人の横をジンオウガが疾走していく。

「どうすればいい……!?」

 突進を終えたジンオウガに接近しつつ、グレンは思案する。閃光玉が有効なのは幸いだが、ジンオウガは視界を潰され大人しくしているようなモンスターではない。それでは埒が明かない。となれば、罠が有効なことに望みを託す他無いのだろうか。

 グレンと共に、ヴァイス、クレアがジンオウガに接近した。各々の武器を振るい、ジンオウガにダメージを与えていく。

 普段なら、ジンオウガは反撃に転じる。だが、今回はジンオウガがそのような様子を見せることはなかった。

「ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォン!」

 ジンオウガが天に向かい吼える。そのジンオウガの身体が、時間が経つにつれ淡い光を帯びてきている。不可解な現象に、接近していた三人は警戒心からか咄嗟に距離を取っていた。

「一体、何なんだ?」

 結局、ジンオウガにはその後、大した変化は見られなかった。不審に思いながらも、それぞれがジンオウガに注意を戻していく。

 その中、クレアが動いた。

「師匠。私がシビレ罠を仕掛けます」

 本来のヴァイスならば、シビレ罠はまだ温存しておくだろう。だが、今回は状況が状況だ。ヴァイスも、クレアの策に同意した。

「ああ。ジンオウガは、俺たちに任せろ」

「はい!」

 クレアは、エリアの中央にシビレ罠を仕掛けるつもりなのだろう。一旦離脱し、エリアの中央へと急いだ。

 そうなれば、ジンオウガの注意は確実にこちらに向けなくてはならない。ヴァイスは、グレンと視線を交錯させ、頷いてみせる。グレンも、ヴァイスの意図を読み取ったらしい。二人は、ジンオウガの左右から同時に攻撃を繰り出した。

 どうやら、最初からジンオウガも背を向けて遠ざかっていくクレアに大して興味はなかったようだ。排除すべき存在だと認識したヴァイスとグレンを捉えようと動き出した。

 身体を宙に持ち上げ、尻尾を叩きつける。正面にいたヴァイスと共に、グレンをも踏み潰さんと落下してくる。だが、二人は即座に反応し回避をしていた。ジンオウガの尻尾は、地面を深々と抉るだけに終わる。続いて繰り出した頭突きも、空振りに終わってしまった。

「師匠!」

 クレアがヴァイスを呼ぶ理由はただ一つ。シビレ罠の設置が完了したのだ。罠を設置するだけだとはいえ、なかなか手早い作業だった。

 そう思いつつ、ヴァイスはシビレ罠の位置を確認する。ちょうど、ヴァイスの後方に仕掛けられているらしい。上手く誘導し、罠に誘い込まなくてはならない。

 そこで、ヴァイスは数歩後退し、氷刀【雪月花】を構えた。それは、ティガレックス狩猟時にも行った挑発行動である。ジンオウガがこの挑発に乗るかどうかは五分と五分といったところだった。

 そして、ジンオウガはヴァイスの罠にまんまとジンオウガも陥ってしまう。

「ガアアアアアァァァァァァッ!」

 どうやら、ジンオウガも挑発されるのには頭に来るらしい。視界に捉えたヴァイスを踏み潰さんとばかりにジンオウガが突進を開始した。

「掛かったな」

 ヴァイスは氷刀【雪月花】を鞘に収め、踵を返して走り出した。

 強靭な脚力で疾駆するジンオウガの速度には、ヴァイスも太刀打ちできない。だが、ヴァイスの方が一歩早かった。罠を飛び越えるような形で身体を投げ出す。地面に着地する寸前、ジンオウガの悲鳴が聞こえてきた。どうやら、無事に誘導は成功したようだった。

 受け身を取り、ヴァイスは瞬時に体勢を立て直す。

「よしっ!」

 我知らず、グレンがガッツポーズを取った。今までは翻弄され続けてきたが、今度はこちらの番だと身体が動く。

 グレンはジンオウガの頭部を狙い、ヴァイスとクレアが後脚をそれぞれ狙う。ソラは連射が可能なLv2通常弾に変更し狙撃を行った。

 時間にすれば十秒程度だった。ジンオウガはシビレ罠から抜け出し大きく後退する。

 剣士の三人が、ジンオウガとの間合いを詰める。だが、ジンオウガは再び天を仰ぎ、咆哮し始めた。ジンオウガの身体は一頻りに淡い光を帯びていき、体毛や甲殻が青白く輝き始める。

「一体何をしているんだ……」

 先ほどと同様に、三人は間合いの外でジンオウガの様子を窺っていた。観察すれば観察するほど、その行動の不可解さが増していく。

 ジンオウガは、ゆっくりと体勢を低くした。ジンオウガ自体に大きな変化はない。だが、所々ではあるが、ジンオウガの身体の一部が光り輝いて見える。おそらく、ついさっきの行動に関連しているのだろう。

 動揺しつつも、クレアとグレンは前に出る。それを見越していたヴァイスがジンオウガの気を惹きつけ、二人から関心を逸らす。ソラの援護も続き、クレアとグレンは安全に攻撃を仕掛けることができた。

 ジンオウガが二人の存在に気が付いたのは、二人からの攻撃を受けた後であった。

 その内の一人、クレアが視界に入ると、ジンオウガの注意はヴァイスからクレアへと移り変わる。

 身体を捻り、前脚を振り上げる動作。それは、グレンを吹き飛ばした攻撃方法であった。クレアは盾を構え、ガードの体勢に入る。

 一発、二発、と続いた連続攻撃の餌食になることなくガードに成功した。

「なんて、威力……っ!」

 だが、クレアも決して安堵している状況ではなかった。

 一撃が重いにも関わらず、それが二連続で繰り出される。この強烈な攻撃をガードするにも限度がある。どうにかして回避方法を探らなくてはならない。

 体勢を立て直しきれていないクレアがジンオウガに狙われては危険だ。ヴァイス、グレンが咄嗟に援護に入り、どうにか一瞬の隙を作り出すことに成功した。

 ヴァイスは、その場に留まり氷刀【雪月花】を振るう。突き、斬り上げ、移動斬り。ジンオウガからの攻撃を回避しつつ、着実に斬撃を浴びせる

「ウオオオオォォォォォォォッ!」

 焦れたジンオウガが、ヴァイス目掛けて突然突っ込んできた。

 ヴァイスも、それは計算外だったらしくダメージを受けてしまう。しかし、すぐに受け身を取ると痛む場所すら確認せず、もう一度ジンオウガに斬り込んだ。

「やってくれる……」

 攻撃を喰らってしまったことは悔しいが、かっかして冷静さを失うべきではない。ヴァイスも、自分を宥めるよう慎重な動きで斬撃を繰り出した。

「師匠!」

 近くに、クレアが駆けつけた。シャドウサーベル改で斬りつけつつ、ヴァイスの安否を問う。

「大丈夫ですか?」

「俺のことは気にするな。それより、今はジンオウガに集中しろ」

「はい、わかりました!」

 クレアは、ヴァイスが大事無いことを悟ったらしい。目の前にいるジンオウガのことだけに集中するよう意識を高める。

 ヴァイスも、これ以上仲間に無駄な心配をかけさせるわけにはいかない。その場から一歩だけ後退し、深追いしないよう心掛ける。突き、斬り上げ、斬り下がり、と基本の型で立ち回り十分な余裕を保つ。

「ガアアアアァァァァァッ、ガアアアアァァァァァッ!」

 身を翻したジンオウガがソラ目掛けて飛び掛ってくる。ヴァルキリーファイアを型に背負い、横っ飛びを行いソラは難を逃れた。

 ジンオウガはグレンの近くに着地していた。そのチャンスを生かそうと、グレンはジンオウガに対して攻撃を敢行しようとする。だが、グレンの身体はその意志に反して動きを止めた。

 今までで二度見せたジンオウガの不可解な行動。そう、ジンオウガが天を仰いだまま再び咆哮し始めたのだ。ジンオウガの発する青白い光は徐々にその輝きを増していく。

「一体、何をするつもり――」

 刹那、クレアの言葉を遮るように雷鳴が轟いた。

 天に向かい咆哮していたジンオウガの角や蓄電殻が上向きに展開される。間髪をいれずに、ジンオウガの身体から雷光が迸る。

「ウオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」

 ジンオウガが一際大きな咆哮を上げた。それは、まるで雷鳴のように辺りに轟いた。

 何が起こったのか。今一度確認しようと、クレアはジンオウガの姿に目をやる。

「なっ……」

 クレアだけではない。この場にいた誰もが、ジンオウガの姿に言葉を失った。

 蓄電殻や帯電毛のみならず、全身に青白い光を帯びている。甲殻が開いているためか、ジンオウガの姿は先ほどまでよりも一回り大きく見える。

 まるで、ジンオウガはその身に、雷そのものを鎧のように纏っているようだった。

「あれが、超帯電状態のジンオウガ……」

 ただ一人、ヴァイスだけがそう口にしていた。

 超帯電状態。自らの電力を、周囲を飛び交う雷光虫に分け与えることで雷光虫を活性化させる。その活性化した雷光虫を自身の身体に纏うことでこの状態に移行することができる。

「その場に止とどまるな!」

 ジンオウガが一歩を踏み出すのと同時、ヴァイスが三人に促す。それを聞いた三人は弾かれたように動き出した。攻撃を仕掛けるのではない。ジンオウガの動きを観察するためだ。

 ジンオウガが更に一歩踏み出した。そして、強靭な四肢を駆使し、勢いを乗せるとそのまま突進してくる。標的として狙われたクレアは回避し、次の攻撃に備えようとした。だが、先に動いたのはジンオウガだった。右脚を振り上げ、クレアに叩きつける。

「速いっ!!」

 クレアは回避するのではなく、咄嗟に構えた盾でガードに成功した。

 ジンオウガの連続攻撃は、地面を抉ると同時に雷が迸った。これも、超帯電状態特有の能力なのだろう。その威力は、今までのそれとは段違いだった。

 クレアは、二回の攻撃を防ぎきった。だが、クレアはガード状態を解かなかった。ジンオウガは動きを止めず、その前脚を合計で三度も叩きつけてきた。クレアも、過去の教訓を生かし確実に成長していた。

 だが、今回はそのクレアよりもジンオウガの方が勝った。強烈な連続攻撃をガードしたクレアはスタミナを消費していた。そこに、ジンオウガが更なる追い討ちを仕掛けたのだ。

 一瞬、背中の蓄電殻が光を帯びたかと思うと、そこから無数の雷撃が放たれる。それは地面を這い、緩やかに曲線を描きながらクレアに迫った。

「くっ!?」

 雷撃が緩やかに進行方向を変更していることに驚愕し、クレアの判断が一歩遅れた。

 咄嗟にクレアは、雷撃をガードして受け流そうと盾を構えることができた。しかし、クレアのスタミナは底を付いていた。結局、四発のうちの一発の雷光弾を喰らってしまい、そのまま吹っ飛ばされた。

 幸い、大きな痛手にはならなかった。この場から後退しようと起き上がろうとする。だが、

「か、身体が、痺れる……」

 雷光弾の影響だろうか、全身に若干の痺れを覚えた。動けなくなるほどのものではないが、ジンオウガと対峙しているこの状態では痺れを消さなければ危険に及ぶ可能性も否定できない。

 ジンオウガはクレアを仕留め切れてないことに気付き、止めを刺そうと身構えた。

 しかし、ソラが閃光玉を投擲してくれたおかげでジンオウガの動きは止まった。

「クレア!」

 ヴァイスがクレアを呼ぶ。

 声のした方にクレアが振り向くと、ヴァイスが自分目掛けて何かを放り投げたのが窺えた。危うくキャッチし損ねそうになったが、無事にそれを受け取ることができた。

 ヴァイスが放り投げたのはウチケシの実だった。その名の通りモンスターの属性攻撃の影響を打ち消すという特殊な成分を含んだ植物の実だ。

 ヴァイスに礼を言おうと、再びヴァイスの方を向いた。その直後、クレアはヴァイスに対して礼の言葉ではなく、警告の意味を持って彼の名を叫んでいた。

 ジンオウガは視界を潰されている。さらに、超帯電状態まで加わっておりジンオウガはより興奮している。敵がどこにいるか検討が付かない中、ジンオウガは闇雲に攻撃を繰り出し続けた。その内の一撃が廃屋の柱をなぎ倒す。無論、老朽化した木造の柱ではジンオウガの一撃には耐え抜くということなど不可能だ。自らの重みに耐えられなくなった廃屋が屋根などに設置されていた柱をも巻き込み崩れ落ちてくる。それらは全て、ヴァイス目掛けて落下してきた。

「師匠!」

 この柱の下敷きなったとき、恐ろしいことはダメージではなく身動きが取れなくなることだろう。実際、モンスターの攻撃を防ぐハンターの防具ならば掠り傷程度で済むかもしれない。しかし、それはあくまで可能性の一つであり、命の危険に及ぶ可能性があるというのまた事実であった。

 ヴァイスは動く。咄嗟の判断で身体を地面に投げ出すように後方に飛び退いた。間髪を入れず、廃屋の残骸が落下してきた。

「ヴァイスさん!」

 グレンの顔から一瞬で血の気が引いた。残骸に巻き込まれてはいないようだが、傷を負った可能性もある。

「グレンさん。私はシビレ罠を仕掛けるです!」

「分かった。俺が時間を稼ぐ!」

 時間稼ぎと共にヴァイスの援護も兼ねたグレンはへビィバグパイプを構え、ジンオウガに向かっていく。

 背後から接近しヘビィバグパイプで叩きつける。この隙を窺い、ヴァイスはジンオウガから距離を取ったようだった。見た目では傷を負ったようには見えない。

 だが、予断を許さない状態は続いた。グレンの攻撃を物ともせず、ジンオウガはソラに向かって突進する。

「ソラ!」

 グレンはソラの様子を窺う。ちょうど、シビレ罠を仕掛け終わったところであった。

 ソラはヴァルキリーファイアを構え、いつでも射撃が行えるよう身構えた。

 ジンオウガがソラの仕掛けたシビレ罠を踏みつけた。だが、それはジンオウガの動きを止めることはなく、逆にシビレ罠が呆気なく爆ぜただけに終わった。ジンオウガの動きが止まることを想定し身構えていたソラは突進の餌食となってしまう。

「ソラさん!」

 吹っ飛ばされたソラは、何とか起き上がろうとしている。だが、ダメージが余程大きいのか、身体の自由が利いていない様子だ。

「くそっ!!」

 ジンオウガを力ずくで止めようとグレンは動いた。ジンオウガの懐に飛び込み、へビィバグパイプをぶん回す。

 しかし、この時グレンは完全に冷静さを欠いていた。我に返ったときには、ジンオウガが身体を持ち上げているのが視界に入った。そして、ボディプレスで吹き飛ばされると同時、激しい痛みに身体が襲われた。

「チッ……!」

 荒い舌打ちをしつつも、ヴァイスの頭は冷静さを保っていた。

 閃光玉を投擲しジンオウガの動きを止める。その隙に、クレアに指示を出す。

「クレア、ソラを頼む。俺はグレンを助け起こしてくる」

「わかりました」

 素早く指示を出し、あるいは指示を受けると二人は動き出した。

 ヴァイスが駆けつけると、グレンはゆっくりと身体を起こした。その顔からは悔しさが滲み出ている。

「大丈夫か?」

「ええ、何とか。すいません。頭に血が上って……」

「あの状態なら無理もないさ」

 ヴァイスは、そう言いつつクレアの様子を窺う。どうやら、ソラは無事らしい。クレアに肩を借りつつ、何とか立っている状態だ。

 その様子を見て、ヴァイスはある一つの決断を下す。

「グレン。クレアたちと先に拠点に戻っていてくれ」

「拠点、ですか?」

「ああ、そうだ」

 グレンはしばらく考え込むような素振りを見せた。だが、ジンオウガが閃光玉の影響から回復したのをきっかけにグレンは首肯した。

「分かりました。ヴァイスさん、くれぐれも無茶はしないで下さい」

「ああ、分かっている。さあ、早く行くんだ」

 ヴァイスはグレンを見送り、再び閃光玉を投擲した。

 仲間を無事に逃がすためには、少なくともジンオウガを足止めする必要があった。そのような役回りは、ヴァイスには慣れたものだった。

 氷刀【雪月花】を鞘から引き抜き、走り出す。ジンオウガの攻撃を喰らわないよう注意しつつ、懐に飛び込み斬撃を放つ。

 気力が充実したところで閃光玉の効力が切れた。ジンオウガはヴァイスを視界に捉えボディプレスを繰り出した。幸いなことに、グレンが奏でた旋律のおかげで風圧の影響を受けずに済んだ。

 突進も回避したところでエリア1に続く方向に視線を移す。そこには、三人の姿は無かった。どうやら、無事に拠点へと向かえたようだ。

「俺の役目もここまでだな」

 ヴァイスは四つ目の閃光玉を投擲した。氷刀【雪月花】を鞘に納めると、踵を返して走り出す。ヴァイスもまた、拠点へと戻る決断を下したのだ。

「無双の狩人、か……」

 その二つ名を意味をヴァイスは改めて痛感させられた。

 背中越しにジンオウガの姿を一目すると、ヴァイスはエリア1へと続く道を急いだ。


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