モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE48 ~絶対強者~

 斬り落した尻尾から剥ぎ取りを行い、四人はエリアを移動していた。その最中、ヴァイスが口を開いた。

「エリア7は、モンスターが休眠する場所の一つだ。おそらく、ティガレックスの体力はそう多くは残っていないはずだ。体力を回復するために睡眠を取っても不思議ではない」

 ティガレックスがエリアを移動する以前で、足を引きずるような様子は見受けられなかった。怒った故の虚勢かもしれないが、まだ捕獲できるほどティガレックスを追い詰めてはいないということになる。しかし、疲れて睡眠を取るという可能性も否定できない。

 流れは確実にこちらに来ている。討伐とは違い、捕獲するだけなら相手を極限まで追い込み倒す必要はない。そういう意味なら、現在の状況は悪いとは言えないだろう。

「罠は、誰が仕掛けるのですか?」

 ソラの問いにヴァイスが答える。

「閃光玉で奴の動きを止めているうちに俺が落とし穴を仕掛ける。仕掛け終わったら落とし穴まで誘導してもらいたい」

「任せてください!」

 早速、クレアがやる気を見せている。しかし、これもいつもの光景なのでヴァイスもグレンも特に突っ込むこともなく、歩を進めた。

 しばらくして、四人の足が突然止まる。

「……と、いましたね」

「ああ」

 視界にティガレックスが入った途端、四人の顔つきが変わる。ティガレックスの怒り状態はまだ解けていない。ここまで、ティガレックスの怒り状態がどれだけ厄介なのかを痛感してきた。一瞬の油断が取り返しのつかない事態を招いてしまいかねない。それが、全員の緊張を更に高めたのだ。

 ヴァイスが辺りを見渡す。

 エリア7は岩場の間にぽっかりと空いた空間のようになっている。灼熱の日差しは遮られ、水が湧いているであろう場所には池ができており魚が泳いでいた。

 地面を足で軽く小突いてみる。やはり、砂漠地帯に比べれば硬い作りをしている。だが、落とし穴を仕掛けれないということはなさそうである。

 それぞれが互いの獲物に手を伸ばす。ソラは、弾丸をLv2通常弾に変更しリロードを行う。そして、リロードを終えたソラが頷いた。それが、合図だった。

 ティガレックスの背後から真っ先にクレアが斬り込む。続けてグレン、ヴァイスも互いの武器を引き抜き、斬り、殴りつける。

 怒りに染まったティガレックスの赤い双眸がこちらを睨みつける。その巨躯で体当たりしてくるように、ティガレックスが突進を開始した。一回、二回と方向転換をし、三度目の突進でソラを捉えようと砕けた左前脚の爪を振り下ろした。もちろん、ソラもティガレックスの標的が自分であることを理解していた。既にヴァルキリーファイアは肩に背負い、回避できる体勢になっていた。

 突進が空振りに終わり、ティガレックスが鬱陶しそうに体勢を立て直す。突進は通用しないと悟ったのか、今度は砕けていない右前脚の爪で岩を抉り飛ばす。だが、この時には既にヴァイスとグレンがティガレックスの懐に飛び込んでいた。

 後脚を攻撃しているグレンに対し、ヴァイスは右前脚に鬼哭斬破刀・真打を振り下ろす。雷撃のような斬撃にティガレックスも思わず退いた。ティガレックスは一旦体勢を整えると、また舞い戻るように飛び掛ってきた。二人は、上手く着地点から退き回避する。

「まだ、演奏の効果は切れないよな」

 グレンは、エリア7に来る途中で演奏効果の延長を行った。重ねがけで再び効果を延長する必要は今のところない。

 そこでグレンは動く。ティガレックスとの距離を空け、へビィバグパイプで演奏体勢に入る。そして、自身の移動速度を速める旋律を奏でた。グレンは、援護ではなく剣士として攻めるという選択肢を選んだ。そして、援護はソラに任せる。

 ティガレックスの攻撃を掻い潜りグレンが懐に飛び込む。まだ破壊できていない右前脚の爪目掛けてヘビィバグパイプを叩きつける。

「ガアアァァァァァァッ!」

 煩わしげにティガレックスが短く吼える。グレンの存在を鬱陶しいと感じたのか、追い払おうと噛み付いてきた。しかし、移動速度がアップしたグレンにとってそれは大した脅威にはならなかった。

 隙を見せた一瞬のうちに、今度はクレアが肉迫した。それを後押しするように、ソラもLv2通常弾を速射する。

 グレンを追い払うことに成功したティガレックスだったが、クレアに接近を許してしまった。また同じように追い払おうと時計回りに回転攻撃を繰り出した。

「避けられない!?」

 クレアが盾を構え、回転攻撃を受け流す。

 それと同じタイミングで、ティガレックスの怒りが静まった。ちょうど視界に入ったヴァイスを捉えようと突進を行うが、最前までの蹂躙するような勢いはない。

 突進を終えたティガレックスにヴァイスが仕掛ける。鬼哭斬破刀・真打を鞘から引き抜き、突き、斬り上げ、斬りつける。高い雷属性を帯びる斬撃の数々にティガレックスが大きく怯んだ。ヴァイスはその隙に斬り下がりで距離を取り、入れ替わるようにクレアがシャドウサーベル改で斬りつけた。

 ソラが続けて援護していてくれていたおかげで、ティガレックスもクレアの接近には気がつかなかったようだ。クレアも思う存分シャドウサーベル改を振るう。

 ようやくティガレックスがクレアに向き直った時には、ティガレックスの身体は再び毒に蝕められていた。苦しげに吼えると突進を仕掛けてくる。

 散開して回避すると、ヴァイス、クレア、グレンの三人がティガレックスを取り囲むように接近する。ティガレックスが正面に捉えていたのはヴァイスだったため、接近しているクレア、グレン、援護しているソラも動きを止めなかった。

 ソラが弾倉に残っていたLv2通常弾を全て撃ちつくし、再装填する。そして、狙撃を続ける。

 ティガレックスはヴァイスを標的として動こうとした。だが、狙撃してくるソラが気に食わなかったか、ヴァイスの横を通り抜けるようにして飛び掛りから回転攻撃を繰り出した。

「きゃあっ!?」

「ソラさん!」

 それは、寸分狂わずソラに命中した。薙ぎ払われた尻尾に命中した形となったソラの身体が吹っ飛ぶ。

「くそっ、止まれ!」

 グレンが閃光玉を投げつける。ティガレックスは閃光玉をまともに喰らい一時的に視力を失ってしまった。そのうちに、クレアがソラを助け起こし距離を取った。

「ソラさん、大丈夫!?」

「はい、何とか大丈夫です」

「そっか。よかった……」

 クレアが胸を撫で下ろす。

 見れば、ヴァイスとグレンがティガレックスを惹きつけてくれている。閃光玉の効果があるとはいえ予断を許さないことに変わりはない。クレアは、ソラに無理をしなくていいのだと状況を呈し、ティガレックスに向かって走り去った。

 クレアの言葉も最もだとソラは思った。ポーチに残っていた応急薬を二本飲み干し体力を回復する。それと、弾丸をLv3通常弾に変更する。狙撃時の隙を減少させるには速射できるLv2通常弾よりもこちらの方がいいと考えたのだ。

「ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!」

 ティガレックスが首を振り、ちらつく閃光を振り払う。

 惹きつけていた剣士三人が退き、ソラの狙撃が再開される。銃口から放たれるLv3通常弾がティガレックスの眉間に命中する。

 ティガレックスがこちらから気を逸らした一瞬の隙にヴァイスが動いた。開いていた距離を一気に詰め、鬼哭斬破刀・真打で斬りつける。ティガレックスもヴァイスに気がついたが、もう遅い。前転回避で噛み付きを回避され、カウンターを喰らう。

 ヴァイスがここぞと気刃斬りを放つ。狙うは右前脚。左前脚と同じように、こちらの脚の爪も破壊するのだ。

 ティガレックスが退こうと体勢を低くする。だが、ヴァイスの方がやや早い。大上段から放たれた気刃斬りは、確実に右前脚の爪を捉える。鋭利なティガレックスの爪は気刃斬りによって呆気なく砕け散った。

「ゴワアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 大きく怯んだ隙に、再度グレンが閃光玉を投擲する。

 クレアとグレンが共に武器を放ち、ティガレックスに畳み掛ける。

「てりゃああぁぁぁっ!」

「おおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 視覚を失ったティガレックスは、現在、自分が取り巻かれているのはわかる。だが、相手がどこにいるのか検討が付かない。そのためか、ティガレックスは攻撃を仕掛けようとはしてこない。荒々しい動きが目立つティガレックスには珍しく思えた。

 グレンが頭部を殴りつける。あわよくば気絶状態を狙いたいところだが、そう上手くいかないと冷静に対処している。クレアはリスクの少ない後脚を斬りつけている。

 ヴァイスも接近を試みるが、その足が反射的に止まる。逆に肉迫しているクレアたちに忠告をする。

「バインドボイスが来るぞ。気をつけろ!」

 余裕があればその言葉に返事はできる。だが、そんな余裕などない。ガードが不可能なグレンが即座に反応し後退する。クレアも同様にその場から後退る。

「ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!」

 その咆哮に離れているヴァイスでさえも渋面する。ティガレックスのバインドボイスが治まるまでヴァイスはその場で待機する。

 バインドボイスを終え、ティガレックスが動き出す。淡々と狙撃を続けていたソラ目掛け突進してくる。ソラも、もう無理はしようとしない。ヴァルキリーファイアを背中に背負い、横っ飛びで突進から逃れる。

 そこに、クレアが真っ先に斬り込む。既にティガレックスの体内の毒は解毒されたようだ。ソラも毒弾は撃ち尽くし、これから毒状態にさせるのは難しいか。そうなれば、後はシャドウサーベル改の刃に託すしかない。

「これで!」

 ジャンプ斬りから派生させ剣と盾のコンボへ。水平に斬って直後に斬り返し、回転の勢いを乗せた一撃を放つ。

「ガアアアアアァァァァァァァァァッ!?」

 ティガレックスの巨体がよろめく。この間隙を縫ってヴァイスとグレンが加勢する。

 頭部に回り込んだグレンがヘビィバグパイプを叩きつけ、背後に回ったヴァイスが鬼哭斬破刀・真打で斬りつける。二人の巧みな連携でティガレックスを圧倒する。

「わたしも、負けていられません!」

 その様子は、ソラのガンナーとしての闘争心を奮い立たせた。角度の悪い位置ながら、的確な射撃を行う。Lv3通常弾は、明後日の方向に弾かれることなく背中に命中する。

 ここで、ティガレックスが攻撃の素振りを見せる。一番危険の及ぶグレンが即座に退いた。

「まだ捕獲できないのか!?」

 ダメージは確実に与えている。だが、ティガレックスは未だ健在である。底が見えないティガレックスの体力にグレンが思わず叫ぶ。

「あと少しだ。もう少しだけ耐えてくれ」

 誰に向けたわけでもないグレンの言葉に答えてくれたのはヴァイスだった。皆を焦らせないよう、ヴァイスは配慮して答えたのかもしれない。

「くっ……!。はい、分かりました!」

 自分でも、それはわかっている。だからこそ、逆に焦ってしまう。「あと少しだ」と自分に言い聞かせなければ冷静さを失ってしまいそうだった。

 グレンが再び間合いを詰め、へビィバグパイプで殴りつける。ティガレックスが反応し、グレンに顔を向ける。頭を突き出し、牙を剥き出しに向かってくる。

「くっ!?」

 武器を納めている暇はない。前転回避でティガレックスの正面から逃れる。完全な回避は叶わなかったが、軽く爪に引っ掛かった程度で済んだためそれほど支障はなかった。

 グレンを追い払い、ティガレックスが低く唸りながら威嚇してくる。まるで、「かかって来い」とでも言っているようだった。おそらく、まだ余裕はあるのだろう。そう考えると、こちらとしては気が重い。

「はあぁっ!」

 だからといって、ここで立ち止まるわけではない。相手が余裕と言うなら、こちらは相手を追い詰めるまで一歩も退かない。その証拠に、クレアが一番に動き出す。

 ティガレックスの皮膜にシャドウサーベル改の剣閃が走る。クレアは、一撃、また一撃と確実に手数を稼ぐ。回転攻撃を盾で凌ぎきると、止めていた斬撃の手を動き始める。

 その様子に鼓舞されたグレンもクレアに続いた。頭部を思いっきり殴りつけ、大きな痛手を与える。

「ゴアアアアアァァァァァァァァッ!」

 しかし、ティガレックスも大人しくはしていない。先ほどと同じように回転攻撃を繰り出す。グレンは回避しようと試みたが、安全圏に一歩届かず吹っ飛ばされる。タイミングが悪かったか、クレアもガードに失敗してしまった。

「痛っ!?」

 身体が軋んでしまうのではないかという勢いで背中から地面に叩きつけられる。

 二人とも身体を何とか起こす。どうやら、元々いた位置から数メートル吹っ飛ばされていたようだった。今は、ヴァイスが回復薬を使う隙を作ってくれている。加えて、ソラの援護も続いている。二人の負担は大きいはずだ。ダメージを受けた二人が急いで回復薬を飲み干す。

 と、狙撃していたソラが顔を顰める。

「っ……、弾切れ。厄介です……!」

 Lv3通常弾がついに底をついた。こちらも残り少ないLv2通常弾を装填する。今回は調合分も含め、通常弾を幾分か余分に用意してきた。だが、弾数は到底足りなかったようだ。ポーチには貫通弾も手付かずで残っているが、ティガレックス相手では大した効果は見込めそうにない。加えて、射撃する場所を選ぶのに手間取る可能性もあった。そのため、残ったLv2通常弾で援護することにしたのだ。

 ヴァルキリーファイアの銃口からLv2通常弾が速射される。それらは、全てティガレックスの眉間に吸い込まれるように飛弾する。ヴァイスが惹きつけてくれているおかげで、ティガレックスはソラに気を回すことが困難らしい。狙撃する側としては、この状態が一番いい。一点の的に対して極限まで集中させられることができる。

 体力を回復し終えたクレアたちも来た。ティガレックスの動きを封じ、一気に畳み掛ける。互いに牽制しつつ、決して無理はしない。

 このままいけば、ティガレックスを追い詰めることはそれほど苦労しなかったはずだった。しかし、ティガレックスは、こちらの予想を遥かに上回る存在だった。

 ティガレックスの身体の至るところが赤く染まる。一旦退いたかと思うと、地響きのような咆哮を撒き散らしたのだ。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 岩場で囲まれたエリアのため、余計にその咆哮が反響した。だが今は、そんなことは気にもならなかった。

「あいつ、また怒ったのか!? いくら何でも早すぎる!」

 そう、ティガレックスの怒り状態はつい先ほど解けたばかりだ。にも関わらず、ティガレックスは、またすぐに怒りを露わにしたのだ。早い、というのは怒るのが早いということ。ようは、グレンはティガレックスが短期だ、と言っているようなものだ。事実、ティガレックスは体力が残り僅かになると怒る頻度も上昇する。

 咆哮したティガレックスが低く唸り、こちらを睨みつける。

 ティガレックスは、自身の体力が残り僅かなのは承知のはず。だが、今まで相手には決して弱みを見せようとはしなかった。これが、絶対強者と呼ばれる者の究極のプライドなのかもしれない。

「来るぞ!」

 ヴァイスが危険を促す。

 ティガレックスの連続突進が繰り出される。散開する四人の間を、ティガレックスが縦横無尽に疾駆する。

 ヴァイスが接近し、鬼哭斬破刀・真打を引き抜いた。斬撃と共に稲妻が走り、ティガレックスの身体に深々と傷跡が刻まれる。

 ソラも援護を再開する。回転攻撃を空振りし、がら空きになった隙にLv2通常弾を叩き込む。激しい攻撃を掻い潜り、クレアとグレンも懐に飛び込むことに成功する。

 しかし、ティガレックスがすぐに飛び掛りを繰り出してしまったため、間合いが開いてしまった。ティガレックスが威嚇しているうちに剣士の三人が再び懐に飛び込む。ヴァイスが、ここで気刃大回転斬りを決めティガレックスが大きく怯んだ。

「ゴワアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!?」

 反撃に備え、三人がティガレックスから離れる。武器は納め、いつでも回避できる状態だ。

 方向転換したティガレックスがゆっくりと歩き出す。足を引きずり、苦しそうな呻き声を上げている。それでも、ハンターたちを喰らおうという執念は衰えていない。その意地の強さには感服できる。

「クレア! グレン!」

 ヴァイスが二人の名を呼ぶ。それと共に閃光玉を投擲した。それが合図するのは、落とし穴の設置。重大な任務を任された二人がティガレックスに攻め寄る。

「ソラも引き続き頼む」

「はい!」

 ヴァイスは、急いでエリアの中央を目指した。

 近くに置いてあったスコップを掴み、できる限り早く穴を掘っていく。大型モンスターほどの巨体の動きを封じるにはかなり深くまで掘る必要があった。ティガレックスの気を惹き付けてくれている三人を信じ、手を休めることなく淡々と仕事をこなしていく。

 しばらく穴を掘り続けていると、ティガレックスの閃光玉の効果が切れたようだ。それからまもなくして、ヴァイスも十分な深さの穴を完成させた。中央に罠をセットすると、しばらくしてネットが展開される。これで、落とし穴の存在は隠すことができる。

「師匠!」

 クレアが待ってました、とばかりに声を張り上げる。

 ソラも狙撃を中断し、罠を仕掛けた位置にやってくる。

「さあ、付いてこいよ。ティガレックス!」

 一瞬の隙を突いて、クレアとグレンが武器を納め走り出した。もちろん、罠目掛けて一直線にだ。

 遅れて、ティガレックスも突進を開始する。動き出したのはティガレックスが後だが、その差は見る見るうちに縮まっていく。

「グレンさん!」

「ああ!」

 そして、罠まであと少しそいうところで二人が走っていた方向を急変させる。ティガレックスは、その巨体の故小回りが利かない。落とし穴の存在など知るはずもなく、一直線に突っ込んだ。

 そして、

「ガアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 ティガレックスの重みでネットが裂け、落とし穴が作動した。ティガレックスが罠から脱出しようと必死で足掻く。だが、さしものティガレックスも簡単には抜け出せない。

「ソラさん!」

「はい、分かっているのです!」

 ソラがヴァルキリーファイアの引き金を引く。無論、装填されているのは捕獲用麻酔弾だ。二発目の捕獲用麻酔弾が命中した時、それまで足掻き続けていたティガレックスが嘘のように大人しくなった。捕獲に成功したのだ。

 風が吹くだけの静寂の中、誰も喋る者はいなかった。だが、しばらくして誰かが「終わった」と呟いたとき、初めて依頼を成功したという実感が湧いてきた。

「やった……。ついに、捕獲できた……!」

 集中力が切れると共に、今まで感じられなかった疲労が湧き上がって来た。クレアは、その場にへたり込んでしまう。そんなクレアの肩をヴァイスが「お疲れさん」と軽く叩く。グレンとソラにも同様に声をかけた。

 しばらく三人を休ませてからヴァイスがクレアを立たせた。そして、グレン、ソラと連れ立って拠点へと戻り始める。

 帰り際、ヴァイスが眠っているティガレックスに振り返り「苦労させられたもんだな」とため息交じりに囁いた。


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