モンスターハンター ~流星の騎士~   作: 白雪

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EPISODE43 ~力になりたいから~

「あぁ……。俺、何とんでもないこと口走ったんだろ……」

 真っ青な顔で、絶望した瞳でグレンが一人嘆いている。

「いや、言い出したのはお前だからな?」

 と、ヴァイスも救い様がないとでも言い放つ。

 いや、実際この状況を招いたのはグレンなのであり、結局は自分で自分の首を絞めただけの行為なのだ。ヴァイスがフォローしないのも無理はない。

「でも、“ソラの翼になる”ですか……。ふふっ、グレンさんも意外とロマンチストなんですね」

「い、言わないでくれ!」

 レーナの冗談にグレンは過剰に反応する。

 時刻は昼前だ。レーナの父親が営む紅葉荘もこの時間帯では客が入ってくることはない。仕事の方も一段落し、休憩中の時間を割いてレーナが話を聞いてくれていた。

「まぁ、人にもよりますけど、あたしはそう言ってもらえるととても嬉しいですね。ソラはどうでしょう? 性格的に……」

 レーナの考えもヴァイスは理解できなくはない。あの天然でほんわかしたソラが、グレンの言葉をどう受け取ったのか。ある意味とても興味がある。

「でも、また思い切った発言ですよねえ。その様子だと何も策はないようですし……。他に何か理由が?」

「えっ!? い、いや。それは……」

 グレンは、妙に慌てた様子を見せる。

 それを見たレーナが、何かを察したように「ふーん」と目を輝かせた。

「もしかして、ソラに一目惚れしたとか」

 これまた冗談半分のつもりでレーナが言う。だが、グレンはその途端弾かれたように背筋を伸ばした。

「は、はい!? お、俺がソラに一目惚れ!? そ、そそそ、そんなことがあるわけないじゃないか!」

 顔を真っ赤にしてグレンが必死に否定する。

 だが、その様子を二人は白い目で見つめていた。

「な、なんだよ……? レーナも、ヴァイスさんも。その目……」

「……図星か」

「……図星ね」

 二人が全く同じ反応をするものだから、グレンは居心地が悪くなる。加えて、そんなことが疾うにばれていたことが衝撃的だった。

「う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「グ、グレンさん落ち着いて!」

「やれやれ……」

 しばらく、グレンの絶叫が響き渡った。しかし、それを気にする人はヴァイスたち以外に他いなかったことが救いだった。

 

「とりあえず、このハーブティーで落ち着いてくださいな」

「あ、ありがと……」

 ようやくグレン静まったところだ。レーナが淹れてくれたハーブティーのおかげでだいぶ落ち着くことができた。

「さて、グレン。色々話したいこともあるからそろそろいいか?」

「は、はい」

「まず、(くだん)の事についてだ。具体的に何か策は浮かばないのか?」

 ヴァイスの問いかけにグレンは返すことがでいない。何故なら、その時は勢いであんなことを言ってしまったため具体的な策など考える余裕がなかったからだ。そして、それは今になっても変わることはなかった。

 様子だけを見て察したヴァイスが「そうか」と一言だけ言うと椅子に深く腰掛けなおした。

「ソラに直接聞いていたらどうでしょう。何かしてほしいこととか」

 レーナの案もいいかもしれない。だが、それには一つ問題がある。

「無理だよ。まず、今はソラがどこにいるのかわからない。せめて泊まっている場所さえわかれば……」

 そう、その本人の居場所が断定できないということが大きな問題だった。

 ソラが宿屋に泊まっているのか空き家を借りたのかさえも知らない。どっち道、それでは話は進まない。

 しかし、レーナはそんなことを気にせずにカウンターの方へと歩いていった。そして、何かリストのような物のページを捲り始める。

「えっと、ソラの部屋はと……」

「ちょっと待ったっ!」

「わっ、いきなりどうしたんです!? 大声でびっくりするじゃないですか」

「ご、ごめん。……じゃなくて! ソラはここの宿に泊まっているのか!?」

「あぁ……、そういえばあたし、そのこと言ってなかったかも」

「そ、そういうことは先に言ってくれよ」

 などと茶番を二人で繰り広げている。少なくとも外野にいたヴァイスにはそう見えた。

「あ、見つかった。えっと、部屋番号は……」

「言わなくていいから!」

「……はぁ。グレンさん慌てすぎ」

 冗談ですよ、冗談。とレーナが首を振る。

 生真面目な面があるグレンには、こういった手の冗談を本気にしてしまっても致し方ない。が、そんなグレンはとても不憫に見えてしまう。

「レーナも、グレンを弄るのは気が済んだだろう。ここは、俺が何とかする」

 さすがに話が進展しなさすぎるのでヴァイスが助け舟を出す。

「簡単な話、ソラの自信を取り戻せばいい。そうすれば万事解決だ」

「と言っても、実際それは難しい話かと……」

「引き受けた張本人が言っても説得力が皆無ですね」

「うぅっ……」

 痛いところを突かれグレンは黙り込む。まるで、レーナに弱みを握られているようでグレン自身そこはかとなく苦手意識が湧いてきそうであった。

「次の狩猟にソラを同行させる。そこで自信を取り戻すか、あるいは俺たちの動きから何か感じるかもしれない」

「やっぱり、その方法しかないんですね」

 グレンが大きくため息をつく。

 少ないとはいえ、ソラの自信を取り戻す方法があることに取り合えず安堵しているのだろう。

「俺たちも最大限の協力はするつもりだ。だが、いざという時はグレン、お前の出番だ」

「わ、分かっています」

 以前、グレンも自分を見失い途方に暮れていた。そこに手を差し伸べてくれたのは目の前にいるヴァイス。今度は、グレンが同じ事をソラにしてやるのだ。そうして、彼女の自信を取り戻し、グレンの役目は終わる。

 おそらく、ソラも何事もないように振舞っているがそれは虚勢なのだろう。同じような体験を持つグレンには、ソラがとても痛々しく見えてしまう。グレンは、ただ彼女を救ってやりたいと思っている。もう、あんな顔はさせたくなかった。

「それでグレンさんの好感度が上がる、とは限りませんがいいチャンスですね。頑張ってくださいね。応援してますよ~」

「人事だと思ってさらっと……」

 実際レーナにしてみれば人事ということに変わりはないのでグレンは反論できない。

「やれやれ……。一難さってまた一難だな……」

 ヴァイスの呟きは誰の耳に届くこともなく、ガヤガヤと賑やかな喧騒の中へ飲み込まれていった。

 

 

 

 一方、クレアとソラは温泉に浸かっていた。

 ユクモ村と言えば温泉。温泉と言えばユクモ村である。村人たちも自信を持って自慢するユクモ村の温泉の良さをソラに知ってほしかったのだ。

 と言っても、クレアはつい先ほどまでこの温泉に浸かっていた。別に何度入っても飽きることはなく、寧ろ心地よいのでクレアも気にしてはいなかった。

「ふぁ~、本当に気持ちいいのです~」

「でしょ? やっぱり、ユクモ村の温泉は最高だよ~」

 ソラの間延びした声に釣られ、ついついクレアも暢気な声を出してしまう。

 仲間とはいえヴァイス、グレンとは年がやや離れている。更に、二人とも男性だ。こうやって同年代の同姓の子と話すのはまた別の楽しみがあり知らぬ間に話が弾んでしまう。

「ソラさん、いつからハンターになったの?」

「十五歳くらいだったと思います」

「へぇ~。じゃあ、ハンターの経歴だけでいったらソラさんは私より先輩だね」

「そんなことないです。クレアさんも十分実力は高いと思いますよ」

 クレアはあまり調子に乗るタイプではないが、褒められて嬉しくない訳がない。それに、最近ではヴァイスやグレンを始め多くの人々からもそうやって褒められている。

 だが、それと同時に劣等感を覚え始めているのも事実である。まだまだヴァイスは手の届かないような高みにおり、グレンも目に見える進歩を見せている。例えクレアの実力が上がっても周りから見ればクレアが劣っているように見えてしまう。しかし、ヴァイスたちに追いつくということは極めて過酷であることもまた事実であった。

「でも、わたしはクレアさんがとても羨ましいのです」

「どうして?」

「だって、クレアさんの周りにはたくさんの頼もしい仲間がいます。ヴァイスさんも、グレンさんも……。たぶん、クレアさんならわたしなんてすぐ追い抜きますよ」

 そう言ってソラが笑みを浮かべる。

 だが、何故だろう。その言葉を聞いて妙に胸が苦しくなった気がした。こんなことを言われれば普通嬉しいと思うのに、心の中では全くそのように思えなかった。

 もしかしたら、とクレアは考える。

 ソラはこの若さでロックラックの人々から注目を集めていた。そして、その重圧に耐えられなくなった。もし、ソラの傍らに誰かがいれば。誰か支えてくれる人がいたら。あるいは、ソラは自信を失わなかったのかもしれない。

 そう。ソラは長い間、孤独の中で生きてきたのではないか。そうして全てを自分で背負い込もうとして結局どうしようもできなくなってしまった。

「あ……」

 それはクレアにも理解できる。

 脳裏によぎる岩場の草原。数年前、僅かな時間ながらもクレアは狩場に一人、孤独な状態に陥った。頼れるものは何もなく、周り全てが恐怖そのものだったあの時。それは、忘れたくとも決して忘れることのできない記憶として刻み込まれていた。

「ねえ、ソラさん。私と友達になろ?」

「友達、ですか……?」

「そっ、友達。今は、私たちは仲間だけどそれじゃあ物寂しいでしょ? それに私も同年代の友達欲しかったもん。ソラさん、いいでしょっ?」

 孤独の寂しさが理解できるからこそのクレアの行動であった。

 クレアの無邪気な行為に、ソラの表情も綻びてきた。

「はい! よろしくなのです!」

「友達なんだから、そんなに固くならなくていいんだよ?」

 そうやって互いに笑い合う。その時のソラの笑顔は、先ほどのそれとはどこか違って見えた。

「そうだ。ソラさん、料理できる?」

「一応できますけど、それがどうかしたのですか?」

「恥ずかしいけど私、料理苦手で……。最近は結構上達したと自分でも思うんだけどまだまだで……。だから、ソラさんに教えてほしいなって思って」

 この所、クレアはこう思うようになった。自分が誇負できるようになりたいものは狩猟と料理だと。とにかく、このままでは料理のほうは正直絶望的なので色々な人の知識が欲しかった。

「私でよければ力になるですけど……」

「本当!? じゃあ、ソラさん。時間がある時によろしくね!」

「は、はい!」

 やや動揺気味だが、何とかソラも引き受けてくれた。

 これでいつかレーナを負かしてやりたい! と気合が入るクレア。無論、これが目的でソラと友達になったというわけではない。だが、ソラの方も不快には思っていない様子だ。仮にソラの滞在が一時的なものだとしても、クレアはソラと少しでも仲良くなりたいと心から願っていた。

「そろそろ上せちゃうし上がろうか。ソラさん」

「そうするのです」

 頭の中も立ち上る湯気のようにぼんやりとしていた。湯中りして体調を崩しては元も子もないので足早に温泉を後にした。

 防具を着込み、二人は太陽が沈み始めた表に出て行った。

 村の一番高い場所に位置している集会浴場からは西の空に沈む夕日が一望できる。真っ赤に染まった夕日がユクモ村を照らしている。頭上には夕焼けの空が広がっている。その景色にソラは心奪われていた。

「わぁ~、とってもきれいです……」

 まるで夕日を始めてみたかのような反応だった。だが、それはあながち間違いではない。ロックラックで見る夕日とユクモ村で見る夕日は別物だ。ユクモ村の場合、周囲の自然と和風な建造物とまみえ夕日がより美しく見えるのではないか。

「秋になるともっと綺麗だよ。紅葉が舞い散る中に浮かぶ夕日は格別なんだ」

「へぇ~、そうですか。ぜひ、見てみたいのです」

「じゃあじゃあ、私と約束しよっ! 秋になったら、この夕日を一緒に見るって!」

 そうやってクレアが右手を差し出す。同じくソラも差し出し、互いに小指をつなぎ合わせた。そして、クレアが陽気にリズムを刻み始めた。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の~ます! 指切ったっ!」

 まるで小さい子供のようだった。しかし、そんなクレアの様子がなんとも面白おかしく、そして楽しそうだったので見ているソラも同じ気持ちになってくる。

 余談だが、「げんまん」とは握りこぶしで一万回殴ることを意味している。この二人に限っては、そのような血で血を洗う修羅場、という状況には発展しないだろう。更に言えば、この二人はそのような恐ろしい意味を知らないのだから。

「約束、ちゃんとしたからね!」

「はいです!」

 そして、再び二人は互いに笑いあう。

 地平線の彼方へ沈み行く夕日が、そんな二人を優しく見守るように輝いていた。

 

 

 

 太陽が沈み、辺りは次第に暗くなってきた。それを待っていたかのように、夜空に星々たちが顔を出す。

 ユクモ村の喧騒もまた更なる賑わいを見せている。ある人は温泉に浸かり、またある人は陽気に酒を呷っている。例え不幸なことがあってもこうやって楽しみ気を紛らわせる。そして、明日の幸せを無意識に祈りながら静かに夜は更けていく。

 そんな陽気な喧騒の中、一人だけ浮かない表情をした女性が集会浴場に続く石段を上っていく。その人物が集会浴場を訪れることは珍しいので、カウンターに座っていたギルドマネージャーも思わず酒を呷る手を止めてしまった。

「おっと、村長じゃないか。珍しいねぇ。アタシに何か用かい?」

「ええ、お尋ねしたいことがありまして」

 おもむろに村長は切り出した。

 ギルドマネージャーもさすがにふざける様子はなく、村長の話を注意深く聴こうとしていた。

「やはり、最近は目撃情報が後を絶ちません。おそらく、村の近辺に出現するのは時間の問題でしょう」

 それだけ聞いてギルドマネージャーは内容を理解したのか、珍しくため息をついた。

「そう。アタシたちも調査団を派遣したが奴は日に日にこちらに接近する一方だ」

「やはり……。ですが、あれを討伐できる者はそうはいません。万が一に備え、少しでも対策を練っておきたいと思いまして」

「ふぅむ。あるほど」

 ギルドマネージャーは自らの髭を弄ぶような仕草で何かを考え始めた。だが、すぐにその手を止め村長に向かってニヤリと不適な笑みを浮かべて見せた。

「アタシは思い当たる奴らがいるけどねぇ」

「それは、ヴァイス様のことでしょう?」

「ああ、そうだ。それにクレアとグレンもアタシにしてみればその対象だぜ」

 G級のハンターであり、且つギルドナイトであるヴァイスの腕は信用できる。クレアとグレンも実力を高めてきているのは事実だが、まだ実力不足ではないかと村長は心配してしまう。

「ここはヴァイス様一人の方が賢明なのではないでしょうか。まだ、お二人にはあのモンスターの相手は早い気がしますわ。以前討伐してくださった方々でさえ苦労したのですから」

 数年前、同じようにそのモンスターがユクモ村近辺に現れた。その際、この村に滞在していた三人ハンターと一匹のアイルーたちによって危機は間逃れた。彼らの実力もなかなかのものだった。だが、立ち塞がったモンスターはその力を凌ぐほどの強大な存在だったのだ。

「まぁ、それも二頭相手で内一頭はサイズが一回り大きかったという話だろう。今回確認されているのは一頭のみだし、何よりヴァイスが付いている。アタシはそれほど心配はしていないぜ」

 以前モンスターが襲撃したときは、ギルドマネージャーの言うとおり二頭であった。正確には、一頭目は討伐できたが二頭目を逃してしまいユクモ村にまでやってきてしまったのだ。だが、そのハンターたちの活躍があったらからこそ今のユクモ村が存在している。

 しかし、そうは言っても村長の心配の種が消えることはなかった。いくらヴァイスが付いているとはいえ危険だということに変わりはない。

「それに、ヴァイスはまだ“本来のアイツの姿”を誰にも見せていない。だからこそ、心配は無用ってことさ」

 ギルドマネージャーが意味ありげな表情を浮かべる。

 それは、村長も薄々感づいていたことではあった。だが、それを何故、と問うことは決してなかった。

 何故ならば、それをしてはいけない気がしたから。もしそれを訊いてしまうと、彼の中の“何か”が壊れてしまいそうな気がしたから。

 噂をすれば影をさす、とはこのことだろう。するとそこに当のヴァイスが顔を出してきた。別に二人のことを不振に思うことなく、おもむろに掲示板の方へと歩いていく。

 無表情で掲示板に視線を注いでいるヴァイスの横顔を村長が見つめる。何の変哲もない、ただの青年に見えるのだが内に秘める力は他者を圧倒的に凌駕するほどだ。彼が本気になれば、あるいはこの状況がひっくり返るかもしれない。

 しばらく無言で掲示板の前に立ち尽くしていたヴァイスだったが、不意に身体の向きを変え集会浴場を去っていった。

 その後姿を村長は期待と不安が入り混じった視線でじっと見つめていた。

 

 

 

 それから数日後、クレア、グレン、ソラの三人はヴァイスの家に呼び出された。

 彼の家に上がるとテーブルの上に一枚の依頼書が置いてあるのが目に入った。どうやら、次の依頼が決まったらしい。

 そのテーブルを囲むように四人は腰を下ろす。

「これが次の依頼だ。場所は砂原で昼。標的はティガレックスだ」

「ティガレックス……。性格は極めて獰猛とされる轟竜(ごうりゅう)ですよね。おそらく、かなり手強い……」

「それに、私たちはティガレックスの動きを知らない。それも大変ですね」

 グレンの問いかけにヴァイスが無言で頷く。

 グレンの言ったとおり、ティガレックスの気性はかなり荒々しい。その乱暴な捕食行為はギルドからでさえもかなり危険視されている存在だ。

 ティガレックスを狩猟するのが初めてなため、情報が少ないまま交戦状態になったとしても圧倒的にこちらが不利な状況になる。クレアの言うことも一理あるがヴァイスは気にかけていない様子だ。

「確かに手強い相手だということに変わりはないな。だが、ティガレックスは旧大陸でも出現している。過去に俺も何度も狩猟経験がある。多少の違いはあれど情報がないよりはましだろう」

 G級ハンターともなればティガレックスと対峙したことは少なくとも一度はあるはずだ。その体験談が生かされるとなればこちらも楽になる。だが、先日のリオレイアのように習性や癖の違いが見受けられるため参考程度にしかならないのが痛手でもある。実際の動きと比較し、照らし合わせることで慣れていくしか方法はない。

「詳しいことは現地に向かいながら話すとして、奴は雷属性が弱点だった。あと、罠肉もそこそこ有効だったな」

 どうやら、弱点などは共通しているらしくこの情報だけは確実らしい。弱点の属性や道具がわかるだけでも大きな救いとなる。これで持ち込む武器や道具を選択し、少しでも狩猟を有利に進めることが出来る。

「まぁ、俺もティガレックスとは多少の因縁があるからな。狩猟を行うからには、もちろん万全を期すつもりだ」

 意外なことを口にしたヴァイスに、クレアが「そうなんですか?」と問いかけた。しかし、ヴァイスはそれについて多くは語らず、軽くクレアをあしらってから話を続けた。

「出発は明日の昼前だ。それまでに各自、準備を整えておいてくれ」

 そうして本日はそのまま解散となった。互いに準備を整えるためにそれぞれの家へと戻っていく。

 ヴァイスは今回も鬼哭斬破刀・真打を持ち込むつもりだ。高い雷属性を秘めているため、ティガレックスに対し痛手を負わせることができるに違いない。その他にも、道具箱から過去の経験を生かし必要な道具をポーチに詰めていく。

 そうして準備をしているうちに、あっという間に日が傾き始めてくる。仕事を早めに切り終えて眠りにつき、そして翌朝を迎える。

 鍛錬などで時間を潰し、予定の時刻が迫ってくるとポーチに詰め込んだ道具を再確認し、そして集会浴場に向かった。

 そして、クレア、グレン、ソラの三人が揃うと、カウンターにいる受付嬢に昨日受注したティガレックスの依頼書を手渡した。

「これを頼む。同行者は三人だ」

「砂原でティガレックスのクエストですね。お気をつけて!」

 受付嬢に見送られ四人は集会浴場を後にしていく。

 アプトノスの牽く荷車に揺られながら一行は砂原を目指す。四人パーティでの始めての狩猟の幕が上がろうとしていた。


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