その日も、俺は死に続けていた。
今さっきは、古城の振り子刃に真っ二つにされた。
その前は、下半身だけのドラゴンにリンチされてミンチになった。
さらに前は、神殿を警備する騎士と暗殺者に襲われてバラバラになった。
一昨日は確か、地下の墓地で車輪に巻き込まれてズタズタになった。
一週間前は、別の時間軸からやってきた霊体に背中から身体を貫かれた。
来る日も来る日も死んで死んで死に続けて、それでもミイラみたいなカラカラのゾンビになって生き還り、また武器を担いで鎧を着て死にに行く。
思えばどれくらいの間、俺はこんな生活をしてきたんだろうか。
変な呪いにかかって死ねない身体になり、故郷を追われて牢屋にブチ込まれ
そこで数千年間ボーっとしてたが、お人好しの騎士に助けられて牢屋を抜け出し
祭祀場の篝火前で一夜を明かし
廃墟の街を満身創痍で駆け抜けて、銅像のバケモノやドラゴンから必死こいて逃げて
身体に悪そうな地下水路や、もっと身体に悪そうな疫病者の村、罠だらけの城に眩しい神殿、クソ暑い遺跡にクソ寒い画の中の世界、薄暗くて湿っぽい地下墓地に常に夜の森林、そして何もかも燃え尽きた消し炭の世界を死にながら走り続け
デブとライオンマスクのコンビ、異様に発育のいいオオカミ、頭がおかしくなった白い竜、墓場に引きこもる死神、倒しても倒しても湧いてきやがる四人とは名ばかりの量産型モンスター、でっかくて面倒くさい植物、白くてかわいい半竜、そして死に損ないの王様
死なない身体の俺は何度も死に続けて挑み直し、そいつらを全部ぶっ殺した。
最初は火を継いで世界を救うためだとか歯の臭い蛇が俺に言い聞かせてたけど、ハナからどうでもよかった。
もう片方の蛇の言いなりになって"闇の王"になったが、それでも俺がやることといえば、こうやって死に続けることと
……同時に、俺の同類共を意味もなく殺す事だけだ。
もう必要ないのに、人間らしくあろうと魂の残りカスと、真っ黒な人間性を求めて。
今日も俺のせいで静かになったこの呪われた大地で今日も死に続ける。
死に続ける旅の中で出遭った知人達も、もういなくなった。
やる気のねぇ鎖帷子の戦士も、お利口さんの魔術師も、気さくな鍛冶職人も、皮肉屋の魔法鍛冶も、ヘラヘラ笑う審問官も、厳しい性格の魔女も、一度助けたら何故か俺に懐いた聖女サマも、気さくな呪術師も、デカイ帽子の大魔導師も、偏屈な卵背負いも、真鍮の鎧を着た生真面目な騎士も、胡散臭い墓暴きも、脳天気な太陽の騎士も、どいつもこいつもいなくなった。
みんな人間であることを手放して、楽になりやがった。
この祭祀場に居るのは俺と、話したがらない火防女だけ。
その火防女すら、檻の奥で動きすらしなくなった。
もう生きてるかどうか怪しい。
見ろよ、篝火の灯がこんなに小さくなっちまってる。
体を癒やすエストの瓶も、もう満たせないな。ははは。
……はぁ。
……ああ、心が折れそうだ。
……。
生きてる実感が欲しいなぁ……。
そう思いながら俺は今日も、静かになった祭祀場で目を閉じる。
また明日目が覚めても、意味もなく死に続けるんだろうな。
このまま、目が覚めなきゃいいのにさ。
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へんなていとく CASE.1
「死なないし死ねない提督 プロローグ」
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不知火が浜辺で座ったまま眠ってるその人を見つけたのは、今日の朝のことでした。
いえ、眠ってるって表現はおかしいですね。訂正しましょう。
干からびた変死体を見つけました。
朝早くに起きたがらない陽炎達をよそ目に、日課の早朝ランニングと哨戒に出た時に、丁度それを発見しました。
褌(?)一丁で体育座りをしたミイラを見つけた時、正直不知火は反応に困りました。
だって海辺の砂浜にですよ?ぽーん、とカラッカラの死体が放置されてるんですから。
なんの前触れもなく。
横にはなぜか火の付いた錆びた剣が刺さってましたし。
「はぁ?不知火、あんた戦いすぎて気でも触れたの?」
不知火は怒らない限りいつだって冷静ですよ初風。
だから手伝ってください、ラバウルの美しい浜辺の景観が台無しです。
「いやいやいやいや!!なんで私があんたと一緒に朝早くから死体処理をする必要があるの!?」
身元不明のミイラです、放置されたままではきっと彼(?)も浮かばれませんよ?
だから私と一緒に海の見える丘に埋めてあげて弔いましょうよ。横に刺さってた変な剣を墓石代わりに。
「い、嫌よ!ミイラなんて深海棲艦よりキモいって!ちょ、はなして!放しなさいよ不知火ーーーッッッ!!!」
はいはい、つべこべいわずついてきてくだい。不知火は朝から怒りたくありません。
あとスコップとバスタオル数枚も頼みますよ、初風。
それと、敵の奇襲に対応するための艤装のコンテナも。
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「……。」
見に覚えのない蒸し暑さと共に目が覚めた俺は、自分の目を疑った。
そりゃそうだ、ロードランの地にあるはずもない海辺で眠ってたんだから。
最初は灰の湖かと思ったが違った。だって空が見えるし、ここまで蒸し暑くない。
それに、俺は昨日祭祀場で眠ってたんだ、身体は亡者だが頭ん中はまだ人間だ。間違いない。
「……んーっ、まぁよく寝たわ、俺。」
きっと篝火の転送術式が狂って、寝てる間にどっか飛ばされたんだな。
ほら、横に篝火あるし。
あ、注ぎ火しとこっと。
「でてこい。」
ズゥっと、俺の胸から黒い炎の様な塊が這い出る。
ソレを俺は手に取り、おもむろに握り潰す。
ふうっ、と身体が軽くなる感覚を一瞬だけ覚え、同時に砕けた黒い塊は俺の眼と鼻と口に滑りこんでくる。
ぼうっ、と篝火の火が強くなり、俺の身体にまとわりつく。
まもなく、俺の身体は干からびた亡者から、寸分違わぬ人間の見た目へと変わった。
「……この身体に戻るの、何週間ぶりかなぁ。」
死に続けてると生者に戻ることすら億劫になる。だから俺は篝火の力を高める以外は、亡者のままで過ごしていた。
さて、何をするかな……ん?
「……。」
「あ、あ……。」
……何か、女の子がスコップ持って俺のすぐ近くにいるね。二人ぐらい。
車輪のついた鉄の箱と一緒に。
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一説には海に沈んだ艦娘達の成れの果てとも言われる深海棲艦。
その説が事実ならば、不知火達はきっとアンデッドハンターなんでしょう。
ゾンビ、亡者、幽霊、地縛霊、怨霊……例えるならそんな感じでしょうか。
まあ、不知火はオカルトをあまり信じていません。
非科学的です。
まあ、艦娘の技術も深海棲艦も妖精もオカルトの塊みたいなものですから、不知火が否定しても説得力はありませんよね。
だから、今不知火と初風は目の間で、処理をしようとしたミイラがぱちくりと眼を開けて、何か呟いた後に伸びをしながら立ち上がったのは紛れもない事実ですし、そのミイラが不思議な技を使ってミイラからみずみずしい肌の男性に姿を変えたのも否定はできないわけです。
不知火の頭と常識がそれを理解できるかどうかは置いといて。
「あー……、お嬢ちゃん、ここどこ?」
「……。」
「し、不知火っ!お、おば、お化け、おばけがぁ……あぅぅ……。」
初風、腰を抜かすのはいいですが股を閉じてください。
貴方は不知火と違ってスパッツを履いてません。
はしたないです。
まあ、いいでしょう。無縁仏を弔うという目的は、今この瞬間から別の目的に変更されました。
「……貴方が何者かは知りませんが、少なくとも人間では無いようですね。」
「……えーっと、嬢ちゃん、その、君も不死人かい?」
「……非常事態発生、陽炎型艤装の緊急展開を行う。」
"非常時"の為に持って来ていた小型コンテナが自動で展開し、中から火器を搭載したユニットが姿を現します。
まもなく、そのユニットは私の背中と手足に装着され、展開します。
さて、日本海軍の軍人でもあり、駆逐艦という兵器でもある不知火の準備が完了しました。
あとは前例のない非常時なので、臨機応変に対応しなければ。
初風は腰を抜かして動けませんし。
「……な、なんだいそりゃ、そんな魔法見たことねぇぞ……」
ええ、不知火も貴方のような勝手に生き還る死体を見たことがありません。
まあ、いいでしょう。覚悟は決めましたか?
今現在、提督の居ないこの鎮守府に危害を加えさせるわけには行きませんから。
不知火は貴方を深海棲艦と判断しました。
「し、シンカイセイカン?な、なんだよそれ、つーか嬢ちゃん、まさかその武器で俺を……」
察しがいいですね。大方貴方の考え通りです。
「ちょ、ま、待っ……」
「……沈め。」
というわけで
いつも通り、マニュアル通り
不知火は新種の深海棲艦に向けて小口径砲を斉射しました。
さて、駆逐艦クラスなら消し炭に出来る不知火の一斉掃射を終え、今度こそ本来の目的通り死体処理を行おうと思ったのですが……。
……どうも、そうはいかないようです。
だって、今確実に仕留めたはずのその深海棲艦(かもしれない)は、不知火の砲撃を受けて砕け散るように弾けたのに
散った塵が燃える錆びた剣の目の前で集まって
また身体を作り出したんですから。
……はぁ、これは
これは面倒なことになりそうですね。
続く
はい、こんにちは
ルーロです
チラ裏に短編をぶん投げてた、ダイオウグソクムシに憧れるそんな人です
ひっそり生きてます
今回のテーマは「ダークソウル」の「不死人」です
数話短編を書いたら主人公提督が変わるオムニバスです
チキンライスを卵で包んだのはオムライスです
です
です
不定期です