ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
オーディンさん達を自宅に案内してすぐ、リアスがオカルト部のみんなとアザゼル先生を招集し、全員がリビングへ揃った。
しかし、流石にこんな大人数だとこの部屋じゃ狭いな。独り言のつもりでそう呟いたら、リアスがそれならVIPルームも増設しようとか言い出した。いや、そういうんじゃなくて、普通に場所を移した方がいいと思うんだけどね。
「・・・で、アザゼル先生はこの事を知ってたの?」
ロスヴァイセさんとバラキエルさんの紹介が済んだ所で、リアスがアザゼル先生へそう問い質した。
「ああ。この爺さんが日本にいる間、俺達で護衛する事になっている。でもって、バラキエルは堕天使側からのバックアップ要員だ」
「それならそうと言ってくれればよかったじゃないすか」
「もちろんお前らにも教えるつもりだったさ。この爺さんがそれよりも先に来日したってだけの話だ。おい爺さん。予定の日よりも少し早いんじゃねえのか」
「実は我が国で少々厄介事が起こってのぉ。その厄介事の原因とも言える者に動かれる前にこちらが動いてやろうと思ってな」
「ほお・・・」
「それと、時間が出来たおかげで、色々観光も楽しめたぞい。冥界でも色々面白いものが見れたしのぉ」
「へ、緊張感の無い爺さんだぜ」
「そりゃ、ワシじゃからの。それよりもアザゼル坊よ、どうも『禍の団』がまた新しい動きを見せておる様じゃな」
「ああ、それも胸糞が悪くなるやり方でな」
え、初耳ですけど。あの畜生集団、懲りずにまた活動始めるつもりか。しかも胸糞悪くなるやり方て・・・。具体的にはわからんが、やはり連中は見敵必殺という事で決まりですかね。
「連中の目的が未だ不明なのが何とも歯がゆいのぉ」
「それは調査を進めている。ここでどうこう言ってもしょうがない。ともかく、正式な会談の日までは爺さんは俺達の客人扱いになる。可能な限りの要望には応えてやるよ。どこか行きたい所とか無いのか?」
「もちろんあるにはあるぞ。じゃが、それよりもまずはフューリーと話をさせて欲しいんじゃが」
「俺とですか?」
いきなりの名ざしにキョトンとする俺を見てオーディンさんは朗らかに笑った。
「ほっほっほ。そもそもワシの目的はそれじゃったからな。アザゼル坊や他の者まで集まるとは思っておらんかったわい」
あ、そうか。わざわざ俺の家を訪ねようとしてたんだから俺の家の誰かに用事があるってのは当然か。にしても、一体話ってなんなんだろうか。
「ふーむ・・・」
「な、何でしょうか?」
オーディンさんがアーシアを興味深そうに見つめている。・・・あ、ロスヴァイセさんが後ろでハリセン構えてる。
「ロスヴァイセよ。別にワシはこの娘をやらしい目で見ているわけではないぞ」
振り返る事無くそう口に出すオーディンさんに、ロスヴァイセさんがハリセンを引っ込めた。・・・あれ、今のって何気に凄くない?
「お主がフューリーの寵愛を受けておる聖女殿じゃな。なるほどなるほど。確かに、思わず守りたくなってしまうほどの愛らしさじゃのぉ」
「ち、寵愛だなんて、私は、その、あうう・・・」
ええっと・・・寵愛ってどういう意味だっけ? こういう時は誰かに聞くのが一番だ。というわけでリアス・・・はなんか妙なプレッシャーを感じるからパス。黒歌・・・も同じく。というか、今の女性陣みんな怖くて話しかけれないんですけど。
ならば男子組・・・と視線を向けたら顔を背けられた。兵藤君、そっちの壁には何も無いよ。木場君、そんなに凝視しなくても、ウチの天井にはシミ一つ無いと思うよ。ヴラディ君、何でそんな怯えたように両手で耳を塞ぎながら目を瞑ってるの。
「・・・ふむ、お主からは不思議な力を感じるのぉ。神器・・・ともまた違う。ワシも今まで感じた事の無い力じゃ。何かの加護とでも言えばいいのじゃろうか。くくく、ワシの知識欲を大いに刺激してくれるわい」
「加護だぁ? 俺には何も感じねえけど」
「そりゃこの娘と違って、お主の心は汚れきっておるからのぉ」
「けっ! どの口が言ってやがる。・・・それよりもアーシア。この爺さんの言う加護とやらだが、お前、最近何か変わった事は無いのか?」
変わった事と言ったら・・・やっぱりオカンと話せるようになった事だよな。俺と結成した“アーシアを守る会”の会員として、彼女を守る為に動いているのかもしれない。
「ええっと・・・その・・・」
アーシアが助けを求めるように俺の方を向いて来た。正直に話すかどうか迷っているようだ。でも、俺がぶっちゃけた時もアッサリ信じてもらえたし、別に言ってもいいんじゃないかな。
「・・・え? お話ししてよろしいんですか? はい、はい、わかりました!」
「ア、 アーシア?」
虚空に向かって話すアーシアの姿に戸惑った様子のリアスが声をかける。まあ、事情を知らない人が見たら普通そんな反応するよな。今のはおそらくオカンがアーシアに声を届けたんだろう。
そして、アーシアはアザゼル先生へオカンと話せるようになった事を伝えた。その瞬間、一部を除いた全員が限界まで目を見開いて驚きを表現していた。この一部っていうのは、前回の会談の場にいなかった人達の事だ。
「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ! オ・クァーン様って確か・・・!」
「う、うん、神崎先輩をこの世界へ送って来たという・・・」
「異世界の・・・神様」
ふと気付くと、オーディンさんが先程までの穏やかだった表情を一変させ、目を細めながら口を開いた。
「・・・話には聞いておったが、なるほど、異界の神が関わっておったのか。流石のワシも異世界の事まではわからんからのぉ」
(異世界の神との交信だと・・・!? ・・・いや、大丈夫。そうとも、俺は全てを受け入れると決めたんだ。今さら一人二人増えた所で問題は無い)
「アザゼル坊?」
「はあ・・・こりゃ俺一人で抱えられる問題じゃねえな。アーシア、悪いが、サーゼクスとミカエルも混ぜて改めて後日話を聞かせてもらえるか?」
「は、はい」
『あらま! どないしよう。イケメンちゃんとのお話やなんて。当日はしっかりメイクせんとあかんかしら』
話をするのはアーシアであってあなたじゃないです。というか、いきなり声送って来ないでくださいよビックリするなぁ。
「さて、聖女殿についてはこれくらいにしておくとして・・・フューリー。次はお主についてじゃ。先のレーティングゲームで見せたあの力について説明してくれんか。ワシが知る限り、悪魔の駒があのような現象を起こした事例は存在せんのじゃが」
「お、いいぞ爺さん。そういや俺もその事が気になってたんだ。どうなんだよフューリー。アレは『悪魔の駒』の力なのか? それとも、お前自身が元々持っていた力なのか?」
「そのどちらかと聞かれれば前者です。・・・もっとも、俺の持つ駒は既に『悪魔の駒』とは呼べない代物ですが」
ついでとばかりに魔改造された『オカンの駒』についても説明したらアザゼル先生に駒を二つ貸してくれと言われたので『兵士』の駒を二つ預けた。一つはサーゼクスさんに渡して、もう一つは自分が調べるらしい。
(へ、こいつは研究のしがいがありそうだぜ。面白い事の一つや二つくらいはわかればいいんだがな)
「ねえリョーマ。その駒は悪魔への転生機能が無いのよね? なら『王』の駒を取り込んだ今も、あなたはまだ人間って事?」
「ああ。正真正銘、ただの人間だよ」
「なら・・・あなたの寿命は・・・」
「ん?」
「い、いえ、何でも無いわ。それよりも、オ・クァーン様っていうのは随分と優しいのね。別の世界に送りこんだ後も色々手助けしてくれるなんて」
まあ、自分の勘違いでこの人外溢れる世界を選んじゃった事に責任感じてるみたいだしな。俺としては責任取るどころか、むしろこちらが何かお返ししないといけないくらい色々やってもらってる気がしてならないんだけど。
「よし、ちょっくら冥界まで行って来るか。バラキエル、後は任せたぜ。これから忙しくなりそうだ」
「はっ」
「ワシはもう少しここでゆっくりさせてもらおうかの」
「いえ、オーディン様。そろそろ外も暗くなってきましたし、私達もお暇した方がよろしいかと」
「嫌じゃ。ワシはまだこの可愛い子達と一緒にお茶を楽しみたいんじゃ」
「駄々をこねないでください。子どもじゃないんですから」
「グチグチうるさいのぉ。そんなんじゃからその年まで彼氏が出来んのじゃぞ」
「ほあっ!? い、今は彼氏がどうとかだなんて関係無いじゃないですか!」
「別に私は構わないわよ。ただ、他の子達はそろそろ帰った方がいいわね。イッセーなんかは親御さんが心配するだろうし」
「ああ、大丈夫ですよ部長。これくらいで心配する様な親じゃないんで」
「あら、信頼されてるのね」
「どうなんですかね? まあ、そういう事なら俺はそろそろ失礼しますね」
「じゃあ僕も」
「ええ。ゴメンなさいね、急に呼び出したりして」
「ふふ、『王』の呼び出しに参上するのは当然ですよ」
アザゼル先生を先頭にみんなが玄関の方へ移動する。そんな中、紫藤さんがその場を動かずにジッと俺の方を見つめていた。
(神崎先輩・・・。別の世界とはいえ、本当に神から遣わされた騎士様だったんですね。私、そんな方とお知り合いになっていただなんて・・・こんな、こんな素晴らしい事があっていいのかしら)
「紫藤さん? 何かまだ用事があるのかな?」
「ひゃい!? い、いいいいえ! 何でもないでしゅ! 私もそろそろ失礼しましゅ!」
「あっ・・・!」
「はぶっ!?」
リビング入口のドアへ思いっきり顔をぶつける紫藤さん。赤くなった鼻を押さえ涙目でその場に蹲った。
「だ、大丈夫か、紫藤さん?」
「ら、らいひょうふれす。れ、れは、こんろこそしつれいしまふ」
「あ、待ってくださいイリナさん! 帰る前に私の神器で・・・!」
フラフラで玄関へ向かう紫藤さんをアーシアが慌てて追いかけて行った。そして最後に朱乃がリビングを後にしようとしたその時、バラキエルさんがその背中へ声をかけた。
「待ってくれ、朱乃。帰る前に話がしたい」
だが、バラキエルさんのその言葉を受けても、朱乃は足を止めようとしなかった。そこでバラキエルさんは朱乃へと近づきその手を掴んだ。
「頼む。私は父親としてお前の事が・・・!」
「・・・私に父親はいない。私の父親は母様を見殺しにする様な人じゃないもの」
そう言って一瞬だけ振り返った朱乃の顔を見て俺はゾッとした。その表情は、普段のにこやかな表情とはうって変わって恐ろしく冷たいものだった。本当に彼女は朱乃なのか? そう思ってしまうほどに。
強引に手を振りほどき、朱乃の姿は玄関の向こうへ消えて行った。残されたバラキエルさんは悲し気に顔を伏せたままその場で固まっていた。
「・・・バラキエルさん」
その姿にいたたまれない気持ちになり、つい声をかけてしまった。バラキエルさんは顔を上げ、無理矢理笑顔を作って口を開いた。
「お見苦しい所をお見せした。お許し頂きたい」
「見苦しいなんて思ってません。それよりも朱乃は・・・」
「・・・私が悪かったのだ。私の所為で朱乃は母を、朱璃を・・・」
バラキエルさんの言葉はそれ以上続かなかった。どうやら、朱乃とバラキエルさんの確執は相当根深いものなのだろう。
でもな、朱乃。嫌いでも、憎んでいても、親が生きていてくれるってのは幸せな事なんだよ。俺の両親はこの世界に来る前に既に死んでしまった。もう二人の声を聞く事は出来ない。もちろん、生きていた頃から二人は大好きだった。だけど、二人の遺影を見る度に思ったよ。何でもっと話をしなかったんだろう。何でもっと触れ合ったりしなかったんだろうって。
朱乃、以前キミはお母さんを亡くしたと言った。その悲しみは言葉では言い表せないくらい大きいんだろう。でも、キミのお父さんは生きている。こうしてまだ話も出来るし触れる事だって出来る。俺はキミにこの時間を大切にして欲しい。じゃないと、絶対後悔すると断言出来るから。
・・・悪いな朱乃。ひょっとすればキミからすればお節介極まりないのかもしれない。だが、この状況で何もしないという選択肢は俺の中には存在しない。
具体的な案は無い。だが、姫島朱乃という大切な友達の為、例え嫌われようが恨まれようが、俺は俺に出来る事をやらせてもらう。
(じゃないと、俺にお節介を受け継がせたあの二人に怒られてしまうからな)
記憶の奥底に眠る両親の笑顔。それを思い出しながら俺は決意を固めるのだった。
シリアスなんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。