ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
そして、オリ主はやっぱりオリ主でした。
どうも興奮を抑え切れない様子のカテレアさんをセラフォルーさんとアザゼル先生が実力行使で落ち着かせた所で、二人がここに来た理由を尋ねてみた。なんでも、俺が眷属を必要としている事を聞きつけたカテレアさんがそれなら是非とも自分を眷属に! との思いでこうしてわざわざ人間界にやって来たそうだ。
「本当は私もお手伝いしたいんだけど、みんなに止められちゃったんだ。残念」
そりゃ魔王と呼ばれる人が参戦するなんてなったらエライ事になるだろうしな。せっかく協力してくれようとしているのに、残念でならない。
「ふふふ・・・セラフォルーなどいなくとも、この私がフューリー様の御前に立ちはだかる敵は全て蹴散らして差し上げますわ!」
「というわけだから、フューリーさんさえよかったらカテレアちゃんを受け入れてあげて。色々残念な子だけど、実力だけは本物だから」
セラフォルーさんのお墨付きならばきっと本当に頼りになる人なんだろう。そんな人が自分から協力を申し出てくれる。断る理由なんか無いな。
「わかりました。カテレアさん。あなたの力を俺に貸してください」
「っしゃあ! その言葉を待っておりました! このカテレア、頭の先から足の先まで、全てをフューリー様に捧げる事を誓いますわ!」
・・・相変わらず表現が独特な人だな。だけど、やる気だけは十分に伝わって来た。
こうして、黒歌一人だったはずの俺の眷属は、気付けば彼女を含めて五人となっていた。これならば戦術を練りやすくなる。だが、それを考える前に、まずは誰にどの駒を預けるか決めないと・・・。
アザゼル先生やセラフォルーさんの助言を参考に、最終的には黒歌に『戦車』。レイナーレさん、カラワーナさん、ミッテルトさんに『兵士』。そして魔法が得意だというカテレアさんには『僧侶』の駒を預けた。カテレアさんは『女王』の駒を希望したが、今回それを預けるのはカテレアさんでは無く、彼女・・・アーシアだった。
もちろん、アーシアはゲームには参加しない。だけど、同じ物を持つ事で、心だけでも俺達と一緒に戦いたいという彼女の意思を汲んで、俺は『女王』をアーシアに渡した。
契約(仮)が済んだ所で、アザゼル先生が手を叩いて全員の注目を集めた。
「フューリーの一戦も気にはなるが、他の連中も他人事じゃないぞ。リアス、ソーナ。お前達の勝負の後、他の若手達もそれぞれに勝負を行った。バアルとグラシャラボラス。そして、実はアスタロトも既にアガレスとの勝負を済ませている」
そう言いながらモニターの準備をするアザゼル先生。
「フューリーとアスタロトの勝負が終われば、今度はリアス、お前達の番だ。相手はサイラオーグ・バアル。若手一の実力と噂される怪物だぞ」
サイラオーグさんか。確かリアスの従兄弟だったよな。
「今からバアルとグラシャラボラスの試合の映像を流す。ヤツの力がどれくらいか、自分自身の目で確かめろ。そしてフューリー。お前にはこっちだ」
先生がもう一台のモニターを持ち出す。話の流れ的には、おそらくアガレスさんとアスタロトさんの試合映像を流すのだろう。
「お節介かと思ったが、対戦相手の情報を得るのも重要な戦略だからな。これを見て色々考えてみろ」
「ありがとうございます。先生」
「別にお前の為じゃねえよ。・・・俺の胃の為だ」
先生が何やら呟いたが、既にモニターに集中していた俺の耳には何を言っていたのかまでは聞き取れなかった。
俺や黒歌達が見つめる中、アガレスさんとアスタロトさんの勝負が始まった。勝負は終始アガレスさんのペースで進み、このまま彼女の勝利で終わると誰もが思っていた。
だが、その予想はあっという間に裏切られてしまった。追い込まれていたはずのアスタロトさんが急激なパワーアップを遂げ、アガレスさんと彼女の眷属を瞬く間に沈めてしまった。しかも、彼一人でだ。アスタロトさんの眷属はほぼ何もしていなかった。
映像が終了し、俺達は顔を見合わせた。誰もがアスタロトさんの逆転劇に疑問を抱いているのだろう。そこへアザゼル先生が声をかけて来た。
「お前らが言いたい事はわかる。俺はこの試合を生で観戦していたが、事前に聞いていた実力とはあまりにも違いがあり過ぎた。それこそ別人の様に」
「・・・蛇」
ポツリとカテレアさんが呟く。それに耳聡く反応したのはアザゼル先生だった。
「おいカテレア。今なんて言った?」
「あなたも何となく気付いているのではなくてアザゼル? あくまでも憶測に過ぎませんが、もしもそれが事実であるならば・・・アスタロト家はすぐにでも潰すべきです」
「・・・そうか。あいつにもそう伝えておく」
「ええ。是非ともそうしてください。・・・フューリー様。あなたの勝利は既に約束されていますが、それでも決して油断だけはなさらないでください」
おそらく出会ってから初めて見せるであろう、カテレアさんの恐ろしいまでの研ぎ澄まされた表情に、俺は薄ら寒い何かを感じつつ答えた。
「わかってます。元々するつもりもありません。俺はただ全力を出すだけです」
そもそも、油断出来るほどの余裕が俺にあるわけがない。俺の答えにカテレアさんは満足したのか恍惚とした表情を浮かべ・・・恍惚?
「はあ・・・格下のはずの相手にすら決して手を抜こうとしないフューリー様マジで騎士・・・」
「・・・初めてまともな事言ったと思ったらこれにゃ・・・」
「「「・・・」」」
そんなカテレアさんを冷たい目で見つめる黒歌と、ちょっと引いている感じのレイナーレさん達。カテレアさんは事あるごとに俺を褒めてくれるが、恥ずかしいので少し自重して欲しいというのは贅沢な願いだろうか。
それはともかく、こうして味方が一気に増えたんだ。すぐにでも鍛練を開始したい。そうと決まれば、早速いつもの場所へ向かう事にしよう。
「みなさん、俺について来てください。これから俺がいつも鍛練している場所まで案内します。みなさんさえ良ければそのまま鍛練を行ってもらって構いません」
「承知しました。お供させて頂きます」
「・・・四人共、今から覚悟しといた方がいいよ」
「「「「え?」」」」
まずはお互いの実力の確認をして、余裕があれば実戦形式の鍛練をしてみたいな。黒歌の仙術にレイナーレさんのライフル。カラワーナさんの槍にミッテルトさんの拳。そしてカテレアさんの魔法。彼女達との鍛練はきっと俺をまた一歩強くしてくれるはずだ。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
翌日、俺は一人走り込みを行っていた。他のみんなはそれぞれの家で休んでいる。ちなみにゲームまでの間、カテレアさんとセラフォルーさんは俺達の家で寝泊まりしている。カテレアさんはわざわざ冥界から一々こっちに来てもらうのが申し訳無かったからだが、セラフォルーさんの監視っていうのはなんなんだろうな。
それにしても、黒歌達には悪い事をした。男女じゃ体力の違いだって当然あるのに、それを忘れて付き合わせてしまい、気付いたら俺の周りに彼女達が倒れていた時は驚いてしまった。みんな体力には自信があると言っていたが、俺に気を遣う必要なんて無かったんだがな。
そういうわけで、俺はこうして一人走り続けていた。走り込みは以前からやっていたが、最近は体力に加えて走る速度も少しずつ増してきているのを感じる。
けど、俺が走る度に周りにいる人達が悲鳴の様な声をあげるのはなんでだろう。そんなに俺の走り方が不気味なのだろうか。それなら某液体金属警察官の様なフォームで走ってみようかな。あれほど完璧な走り方は他に類を見ないからな。
「見つけたわ。ここにいれば会えると思った」
「ん?」
聞き覚えのある声に足を止める。・・・この靴も限界かな。減速が上手く出来なくて止まるまでの距離が伸びてしまう。
「確かにいい走りっぷりだなぁ。見ていて思わず勝負したくなっちまったぜぃ」
「あなたは・・・美猴さん? それにヴァーリさんまで・・・!」
「冥界以来ね。ついこの間の事のはずなのに随分久しぶりに感じるわ。・・・それだけあなたに会いたかったのかしらね、私は」
そこにいたのはヴァーリさん。そして美猴さんだった。すっかりおなじみのコンビだが、ここは冥界では無く人間界。どうしてこの二人がここにいるのだろう。そしてヴァーリさん、言いたい事はハッキリ言いましょうね。最後の方は小さすぎて聞き取れなかったんですけど。
「俺に何か?」
「ええ。少し話をね。探すのに骨が折れたわ。「青い髪のイケメンが風の様な早さで駆け抜けて行った」なんて話を至る所で聞いたから、ルートの予想を立ててあなたが通りかかるのを待っていたの」
「そんな情報にもならない情報でよく俺を見つけられたな」
「はっはぁ。それは愚問ってヤツだぜ。コイツがお前さんの事を間違えるはずが・・・」
「ところで亮真。実は今からこの近くのラーメン屋に行こうとしてたんだけれど、やっぱり別のお店にしようと思うの。どこかいい場所知らない?」
「いやあ! 運がよかったんだな俺っち達! うん、そう! それだけ!」
ラーメンか・・・最近食べて無いな。アスタロトさんとの勝負が終わったらお礼の気持ちを込めて黒歌達を誘って食べに行くか。
「それより亮真。聞いたわよ。あなた、レーティングゲームをするそうじゃない。冥界中その話でもちきりよ。相手はアスタロト家の次期当主。ゲームの開催日はまだ発表されていないけれど、ちゃんとこの目で見届けさせてもらうわ」
「まあそういうこった。俺っち達はお前さんの方を応援させてもらうぜぃ。伝説の騎士様の力ってヤツを存分に見せてくれよ」
・・・ひょっとして、わざわざ激励する為に会いに来てくれたのだろうか。そうだとしたら非常に嬉しい。
「って事でヴァーリ。目的も果たしたし、そろそろラーメン食いに行くとしようぜぃ」
「一杯だけよ?」
「そんなご無体な!」
「じゃあね亮真。今日あなたに会って、私もまだまだ努力が足りないとわかったわ。帰ってからやる事がたくさん増えそうね」
そう言い残し、二人は去って行った。さて・・・彼女達のおかげでいい息抜きになったし、そろそろ走り込みに戻るか。時間は・・・うん、後三時間は行けそうだ。
腕時計を確認し、俺は再び走り始めるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
夜、風呂から上がって部屋に戻ると机の上の端末が点滅していた。おそらくアガレスさんから連絡が入ったのだろう。
手に取って確認すると、やっぱりアガレスさんからメールが来ていた。ええっと・・・『ディオドラ・アスタロトとレーティングゲームをするとお聞きしました。どうかお気をつけて。あの男、何かを隠しています』・・・か。
直接相対したアガレスさん直々の忠告だ。しっかり肝に銘じておこう。とりあえず、わざわざメッセージをくれたお礼の返事をしないと。
送信して数分も経たずにまたメールが来た。『応援してます! ・・・それと、実は前回私の家に来て頂いた時にお話した強化プランなのですが、あれからまた色々考えてみました。こんな時にお送りするものではないかもしれませんが、少しでも気分転換のお役に立てればと思います』との事だった。
添付ファイルを開くと、ラフトクランズ・セイバー(仮)の姿が映し出されたが、アガレスさんの言う通り、前に比べて色々変わっていた。
スクロールすると、説明分らしきものが表示された。それによると、前回は“騎士は剣で戦うもの”というイメージが強すぎたので、今回はその反省点を踏まえてさらに二つの武装を追加してみたらしい。
一つ目は両手の甲に装着された伸縮自在の爪。俺の知ってる武器で言うなら、ヴァイサーガの水流爪牙みたいな感じのヤツだった。
二つ目は右のスラスター部の格納庫に収められた巨大な槍。他の武器とは違い、これはオルゴン結晶を刃として展開させるらしい。つまり、普段は柄だけだが、抜くと瞬時に結晶が刃となって現れる。これは元々左の大剣と合わせて組み込むつもりだったそうだが、最初に言ったイメージの所為で断念したのだとか。
他にも、周囲三百六十度を見渡せて、味方の状況が常に把握出来るセンサーといった武装以外の強化案もいくつか上げられていた。
・・・と、武装やセンサーといったものばかりに注意を向けていたが、実はそれよりも最初に触れておかないといけない所があった。このラフトクランズ・セイバー(仮)。前回の物に比べて装甲がかなり薄くなっていた。というより、装甲が無くなっていた。顔以外の頭部や両腕及び両足。それと肘や膝の部分は残っているが、ほとんどが剥き出しだ。これではロボットというよりも人間が着る強化スーツみたいだな。
それについて尋ねると、やや遅れて返信が届いた。
『装甲を最低限にする事で、ウエイトを減らし、さらなる速度の向上を図りました。・・・というのは建前で、これを纏って戦う神崎様の姿を想像したら顔が出ている方がカッコい』
最後まで読み切る前に再びメールが来た。
『殺気之メール見ま下か!? 身て無い楢消してくだ祭! 阻止て忘れてくダサイ!』
速度の向上~の所までしか読めて無いんだが・・・文字変換ミスしまくるほど慌ててるみたいだし、消しておいてあげよう。
そんな感じで、アガレスさんとのやりとりはしばらく続くのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
ついに俺とアスタロトさんの勝負の日が決まった。今からちょうど一週間後だ。残り少ない日数を大事にし、最後の追い込みをかけたかったのだが・・・。
「・・・何故俺はこんな所にいる」
今俺が立っているのは冥界のテレビ局。リアス曰く、若手悪魔全員にテレビ出演のオファーが来たそうだ。なら何故俺が連れて来られたのか聞くと、俺もその番組に特別出演してもらうとか言われてしまった。
・・・こうして連れて来られてしまった以上、今さら断るつもりは無い。それよりもさっさと終わらせて鍛練をする方がよっぽど建設的だ。そう判断し、一人待合室で待機する俺。
スタジオが近いのか、色んな声が聞こえて来る。リアスの名を叫ぶ声。朱乃を褒め称える声。・・・なんか“てんじょうさん”なんて声も聞こえる。誰の事だ?
俺のインタビューは最後になるらしく、結構待たされた。ようやく呼ばれたので待合室を出ると、移動中になんとアスタロトさんを出会った。
「こんにちは、フューリー様」
にこやかな表情を見せるアスタロトさんに俺も軽く頭を下げる。
「今から出番ですか? 頑張ってくださいね」
「ああ」
「それはそうと・・・あれからアーシアとは話し合いましたか? 連絡が無いから気にしていたのですが」
・・・ちょうどいい。彼には言いたい事があったんだ。
「アスタロトさん」
「何でしょう?」
俺は先程よりも深く頭を下げた。
「ありがとう。キミの言葉で、俺は大切な事に気付けた。一週間後の勝負、アーシアの為、そして俺自身の為、全力でキミに立ち向かわせてもらう。それが、キミに対する俺からの感謝の気持ちだ」
「ッ・・・!?」
目を限界まで見開き、信じられないものを見たかのような様子を見せるアスタロトさん。・・・これから勝負する相手が頭を下げて来たんだから戸惑うのも無理は無い。だが、これだけは伝えておきたかった。彼の言葉がなければ、俺はアーシアの本心を知る事は出来なかったのだから。
「・・・引き止めて済まなかった。次は一週間後に会おう」
俺はアスタロトさんと別れ、スタジオの方へ足を向けた。そして、俺が曲がり角の先に消えるまで、彼はその場にずっと立ち尽くしていたのだった。
「さて、何を聞かれる事やら」
おそらくメインは今度の勝負についてだろうが、精々簡単な質問で満足してくれればいいんだがな。
そんな事を考えながらスタジオへ入る。まず目についたのはたくさんの椅子と、それに座る悪魔のみなさん。男性もちらほら見えるけど、圧倒的に女性の方が多い。・・・あ、あそこにいるのってレイヴェルさんじゃないか。
それにしても空気が重い。さっきまで賑やかだったはずのスタジオが、俺が入った途端静寂に包まれてしまった。
そのままスタジオ内を進み、インタビュー用のソファーに腰掛ける。こうして、俺のインタビューが幕を開けたのであった。
SIDE OUT
イッセーSIDE
いやあ、まさかテレビ出演までする事になるとは思わなかったなぁ。前回のゲームで負けてしまった俺達だけど、インタビュー中は観客席からの黄色い声が凄かった。部長とか朱乃さんとか木場がほとんどだったけど、中には俺の名前を呼んでくれる子もいた。・・・若干幼すぎた気がするけどな。
それでも俺は幸せな方だ。不憫なのはゼノヴィアだよ。アイツ“天嬢さん”なんてあだ名を頂戴していた。『天井に突き刺さって動けなくなったお嬢さん』を略して天嬢さん。収録後のアイツの落ち込みっぷりったらもう。こっちまで泣きそうになったくらいだ。
そんな俺達のインタビューが放送されるのはまだ先らしい。だけど、勝負が近い神崎先輩とディオドラの分は先に放送したそうだ。その録画分を、俺達は部室に集まって今から見ようとしていた。
俺達だけじゃなく、あの日留守番をしていたらしい先輩の眷属達。そして当然アーシア。後イリナもいる。だけど、先輩本人は不在だ。どうもインタビューがあまり上手くいかなかったようで、見るくらいなら鍛練をしたいと出て行ってしまったのだ。
「・・・初めに言っとく。意識だけはしっかり保っておけよ」
よくわからない警告をして来るアザゼル先生に俺達は首を傾げた。流石に寝落ちするようなヤツはいないでしょう。
まず流されたのはディオドラの分だった。だが、インタビューが中頃まで進んだ時には、全員が不快感を隠そうともせずに画面に映るディオドラを睨んでいた。
「・・・言ってくれるわね、ディオドラ」
ディオドラのヤツ、口調こそ丁寧だったが、所々で先輩を侮る様な事を言っていた。それに気付いたからこそ、俺達はムカついていた。こいつ、先輩がこれまでどんな鍛練を続けて来たのかわかってるのか? まあ、わかってないからあんな事が言えるんだろうがな。
「あのガキ・・・フューリー様に消される前に私が消してやりましょうか」
カテレアさんが目にヤバい光を灯らせていた。それから十分くらいしてディオドラのインタビューが終了し、続いて先輩の姿が映った。
『そ、それではこれより、かつて三陣営を救った伝説の騎士フューリーこと、神崎亮真様にお話を聞かせて頂こうと思います』
うわ、司会のお姉さんガッチガチじゃん。緊張がこっちまで伝わって来そうだ。それに、客席もすげえ静かだ。俺達の時とは全然違う。
『ま、まずは神崎様のこれまでの足跡を辿っていきたいと思います』
そう言って隣の巨大ボードを差すお姉さん。一番上に“二天龍との戦い”と書かれている。どうやら先輩のこれまでの行動を追って行くつもりみたいだ。
途中何度も躓きながら質問するお姉さんに先輩はスラスラと答えていた。堂々としてるなあ。テンパってた俺とは全然違うわ。
そして、お姉さんはついに最後の部分を示す『アスタロトとのレーティングゲーム』か。ここまでくるとだいぶ緊張もほぐれたのか、口調がだいぶスムーズになっていた。
『いよいよアスタロト家との勝負まで一週間となりましたが、今回のレーティングゲーム、とある少女を懸けて戦うとの噂があります。それによればディオドラ・アスタロト氏はその少女に想いを寄せているそうです。ひょっとして、神崎様もその少女に特別な感情を?』
うわ、それ聞いちゃうのか。確かにみんなそれが気になってるんだろうけど、こういうのってよくないんじゃ・・・。というか、なんか急に周囲からプレッシャーを感じ始めたんですけど! 止めてお姉さん! 俺のライフはもうすぐゼロよ!
『特別・・・。そうですね。俺にとって、彼女は特別な存在です』
あーあ! 言っちゃった! 言っちゃった! 知ーらね! 俺知ーらね!
『それはつまり、ディオドラ氏と同じように女性として・・・?』
『・・・少し違います。確かにあの子はとても魅力的ですが、そういう特別じゃありません。彼女は・・・俺の日常の一部なんです』
・・・あれ? なんか俺の予想してた展開と違う。日常の一部? それってどういう意味なんだろう。
ふいにプレッシャーが和らいだので恐る恐るそちらに目をやると、部長達が先輩の言葉を一字一句聞き逃さない為にもの凄い集中していた。これはこれで怖い。
『・・・と言うと?』
『彼女と出会い、共に過ごしている間に、彼女がいる日常が俺にとって当たり前になりました。ですが、ある人に言われたんです。そうやって彼女を傍に置く事が、彼女の幸せを奪っているのではないかと』
はっ、そのある人ってのは底なしの馬鹿だな。誰がどう見たって今のアーシアは幸せ一杯じゃねえか。
『今まで考えもしませんでした。彼女が幸せを見つけるまで見守ろうと決めていたはずの俺が、彼女の幸せを奪っているのではないかと思うと不安になりましたよ。だけど、その不安は彼女本人のおかげで消えました』
『何故?』
『彼女が言ってくれたんです。彼女にとっての幸せは俺や仲間達に囲まれて笑っていられる今なんだと。そんなありふれた日常こそが幸せなのだと』
「アーシア・・・」
「あ、あうう。ちょっと恥ずかしいです。でも、今リョーマさんがおっしゃった事が私の気持ちです。私はみなさんと一緒にいられる今が幸せなんです」
や、やべえ・・・泣きそう! 俺もだよアーシア! 俺も今ここにいるみんなと毎日を楽しく過ごせている今が凄く幸せだよ!
『彼女のその言葉がとても嬉しかった。そして気付いたんです。俺も彼女と同じだと。大切な仲間達と一緒にいられる今この瞬間がたまらなく幸せなのだと。彼女だけじゃない。リアスに朱乃。兵藤君に木場君。ゼノヴィアさんにヴラディ君。塔城さんに黒歌。支取さんに彼女の眷属の子達。アザゼル先生。・・・その誰もが俺の日常の一部なのだと。そして・・・それは決して失ってはならないものなのだと』
「先輩・・・」
『・・・だから戦います。そして必ず勝ちます。決してアスタロトさんを侮っているつもりはありません。ですが、相手が誰であろうと、何が立ち塞がろうと、絶対に勝ってみせる。彼女を・・・そして、俺の日常を守る為に』
そう締めくくる先輩の表情は、いつものクールな微笑では無く、見た者全てを惹き込んでしまいそうな満面の笑顔だった。・・・先生。あなたが言いたかったのはこれの事だったんですね。
先輩・・・吹っ切れてパワーアップしたのはいいですけど、吹っ切れ過ぎて別の方向にもパワーアップしてませんか? もう色んな所の破壊力が半端じゃなくなってますよ。俺ですら今のでちょっとグラッと来ましたもん。
「・・・これでヤツのインタビューは終了だ。放送直後、テレビ局へ再放送の希望が殺到したそうだぞ。さらに言えば今回のゲーム、実はディオドラも密かに人気があったんだ。伝説に挑もうとする勇気ある若手なんて具合にな。だが、それも放送直後に一変した。今じゃ誰も彼もがフューリーを応援しているらしいぜ。どうも伝説なんて呼ばれる存在に委縮していたが、ヤツの“日常を守りたい”って言葉を聞いて、そんなごくありふれたものの為に戦おうとする姿に親近感を抱いたとかなんとか。加えてあのタイミングで不意打ち過ぎるあの笑顔に気絶した者も・・・」
「先生。今ここにも絶賛気絶中のみなさんがいるんですけど」
気付けば俺と木場以外の全員が頬を真っ赤にして床に横たわっていた。カテレアさんとか痙攣してるけど大丈夫なのかアレ・・・。
「・・・知らぬは本人ばかりなり」
そう呟く木場に、俺はそっと座布団を手渡したのだった。
突然ですがみなさんに質問です。実は今回のサブタイトルはある人物の心情を表したものなのですが、それは一体誰でしょう?
ヒント・・・今回登場した人物の中の誰かです。さあわかるかな? わかんないだろうなあ。
後半のオリ主ですが、今までと違い、アル=ヴァンフィルターによる変換では無く、オリ主自身が抱く想いをそのまま発しています。つまり、発言に対する恥ずかしさは皆無。その結果がアレです。
そして、アガレスさんのお茶目でパワードスーツ化したラフトクランズ。これでいつでもIでSな世界に旅立てるぞ。すでに色々出しちゃってるけど並行世界ならなんとかなるぞ!