ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
カテレアさんを訪問して数日、アザゼル先生の約束した一週間を迎えた。修行初日と同じく、リアス達が庭に集められた。その中には師匠さんの所へ行っていた木場君と、心を鍛えるプログラムを受けに行っていたヴラディ君もいる。今日の為に呼び戻されたのだ。あと、何故かアーシアも強制参加だった。
「よし、これで全員だな」
アザゼル先生がみんなの顔を見渡す。そこで木場君が異議を唱える様に挙手した。
「先生、イッセー君がいないんですけど」
木場君の言う通り、ただ一人兵藤君の姿だけがここには無い。だが、これにはちゃんとした理由があった。アザゼル先生が問題無いとばかりに頷く。
「ああ、アイツは差し入れも兼ねて個別に会いに行くから問題ねえよ」
ちなみに俺も同行する事になっている。兵藤君、元気かな。思い出すのは、タンニーンさんに拉致られる彼の姿と悲鳴。こうしている今も、タンニーンさんにしごかれているんだろうな。
「それで、わざわざ祐斗達まで呼び戻した理由は何なの?」
リアスがもっともな意見を口にする。みんなの視線が向けられる中、アザゼル先生が本題を口にした。
「修行を始めて一週間ほど過ぎたが、ここでお前らにさらなる修行メニューを追加する」
「追加・・・ですか?」
疑問符を浮かべる朱乃。ここに来ての追加メニューに一同は顔を見合わせている。
「ただの追加メニューじゃねえ。この修行で、お前達にはそれぞれ必殺技を習得してもらう」
どうだ! とばかりに笑みを見せる先生とは対照的になんとも微妙な表情を浮かべるリアス達。そりゃあいきなり必殺技を覚えてもらうとか言われても反応に困るよな。
そんな彼女達の反応に、アザゼル先生が不満げな声をあげた。
「おいおい、お前らもっとテンション上げろよ。必殺技だぞ?」
「だって・・・ねえ?」
「突然言われましても・・・」
「というか、何故このタイミングなんですか?」
「白音に余計な負担を増やさないで欲しいにゃ」
みんな乗り気じゃなさそうだな。これだと今回の話は無かった事にした方がいいんじゃ・・・。
「このタイミングだからいいんだよ。それにいいのか? フューリー直々に技を教えてもらうなんて滅多に無い機会だと思うがな」
「え? まさか、リョーマが考えてくれたの?」
そう続けたアザゼル先生に、みんなの目の色が変わった。あー、その、考えたと言っても元々あったヤツをそのまんま引用しただけだからそんなに期待の込められた目を向けられてもなんか申し訳ない気が・・・。
特に木場君とゼノヴィアさんの目がヤバい。なんかキラキラしたものが飛んで来てる気がする。これは失望された時の事を考えると生半可な事は言えんぞ。
「そうだ。俺から見て中々面白そうな技ばかりだったぞ。どうだ、これでもやる気にならないか?」
反論の声はあがらなかった。それに満足したのか、アザゼル先生は五枚のディスクを懐から取り出した。
「これには各人に覚えてもらう技のモーションデータが入っている。俺とフューリーはこの後イッセーに会いに行く。その間に、一人でこれを見て自分なりに練習してみろ。もちろん、ちゃんとした指導も行うがな。まずは・・・リアス」
「はい」
先生からディスクを受け取るリアス。続いて、朱乃、木場君、ゼノヴィアさん、塔城の順で続く。
「全員分行き渡ったな。それじゃあ・・・」
「あ、あの、アザゼル先生、僕の分は・・・?」
ヴラディ君がおずおずと手を上げる。それに対しアザゼル先生がきっぱりと答える。
「お前はお預けだ。神器も使いこなせていない現状で技なんて覚える余裕なんて無いだろう」
「うう、確かにそうですけどぉ・・・」
「文句があるならさっさと神器を使いこなせるようになれ。代わりと言ってはアレだが、プログラムの合間にフューリーとの特訓を入れてやる」
「ほ、本当ですかぁ! よかったぁ、先輩と一緒なら頑張れそうですぅ」
ヴラディ君から信頼の込められた微笑みが向けられる。・・・俺よ、くどいようだが、いくら可愛くても男の子だからな。
「私にも無いんですか、アザゼル先生?」
「アーシア。お前の神器は完全な支援型だ。それにお前自身、他人を傷付ける力なんて欲しくないだろ?」
「・・・そうですね。私は誰かを傷付けてしまうような力なんていりません」
アーシアらしいな。でも、彼女はそれでいい。優しい彼女にそんな力なんて必要無いもんな。いざという時は俺が彼女の代わりに殴ればいいだけだし。
でもなあ、それでも何かしらの自衛の手段は持っておいた方がいい気もするんだが。変態共が触れたら吹っ飛ぶバリアとか、安全な場所までの瞬間移動とか・・・って、これじゃまんまオルゴン・クラウドじゃん。
・・・いや、いいかもしれん。問題はどうやってアーシアにオルゴン・クラウドの力を持たせるかだけど・・・オカンの駒とか渡してみるか? いや、しかし、うーん・・・。
「どうしたんだ、神崎先輩。先程から難しい顔で何やら考えているようだが・・・」
「きっと、僕達をどう指導するか色々考えてるんだよ。ふふ、これは気合いを入れないと大変かもね」
「・・・頑張ります」
後輩三人から向けられる視線を感じながら、俺はしばらく思案を続けるのであった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
一時間後、俺はラフトクランズモードで兵藤君が連れて行かれた山に向かって飛んでいた。
翼を羽ばたかせながら先行するアザゼル先生の後ろを追いかける。正直、この姿にならなくてもアザゼル先生に運んでもらった方が楽な気がしたが、「野郎を抱えて飛ぶ趣味はねえよ」とバッサリ却下されてしまった。
おっと、そんな事を考えている間に目的地が見えて来たぞ。ん? 何で山の中にいる兵藤君の場所がわかるのかって? 別に兵藤君を見つける必要は無い。彼と一緒にいるはずの大きな目印を探せばいいだけの話だ。
その目印・・・タンニーンさんの傍に降り立つ俺とアザゼル先生。ラフトクランズモードを解除し、タンニーンさんに近づく。
「よお、タンニーン。様子を見に来てやったぜ。どうだ、イッセーの調子は?」
「ア、アザゼルか・・・」
どことなく気まずい声を出すタンニーンさん。それを疑問に思いつつ辺りを見渡すが、肝心の兵藤君の姿が見えない。
「先生、兵藤君がいません」
「あ? どこ行ったんだアイツ。タンニーン。イッセーはどうしたんだよ? ションベンか?」
「う、うむ、それなんだがな・・・。確かに、俺もあの小僧を一日でも早く使い物にしようと少し気合いを入れ過ぎたのは認めるが、まさかあんな事になるとは・・・」
「おいおい、まさか殺しちまったわけじゃねえだろうな?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないのだが・・・」
「アオォォォォォォォォォォン!!!」
「ッ・・・!?」
タンニーンさんの声を遮るように、獣のものらしき咆哮が俺の耳をつんざく。今の・・・かなり近いぞ。けど、どこか聞き覚えのある声なのはどうしてだろう。
奥の草むらが揺れる。おそらく声の正体はあの向こう。固唾を呑んで窺う俺達の前に、ついにそれが姿を現した。
「・・・」
「兵藤君?」
現れたのは兵藤君だった。服はボロボロだが、顔つきは良い。それに安堵しつつ、俺は兵藤君に近づこうとした。
「待て、フューリー。どうも様子がおかしいぞ」
そんな俺の肩を掴むアザゼル先生。え? と振り返ろうとした瞬間、兵藤君が天に向かって吠えた。
「アオォォォォォォォォォォン!!!」
こ、この声ってさっきの!? って事は、さっきのも兵藤君の声だったのか!? だから聞き覚えが・・・じゃない! どうしたんだ兵藤君!?
―――ア、アザゼル! それにフューリー! 何故お前達がここに!? いや、今はそんな事どうでもいい! 頼む、相棒を止めてくれ!
混乱する俺の耳にドライグさんの声が届く。止めてくれって・・・一体彼に何があったっていうんだ。
「ドライグ、イッセーはどうしたんだ?」
―――タンニーンとの命がけの特訓、そして女断ちを強いられた結果・・・野生化した。今の相棒は本能のまま動きまわる獣そのものだ!
ナンテコッタイ! てか、どれだけ追い詰めたんですかタンニーンさん! と、とにかく、そういう事ならなんとかして正気に戻さないと。
再び近づこうとした俺の前で、兵藤君が地面に手をつける。まるでクラウチングスタートの様な体制をとると同時に、猛烈な寒気が俺を襲った。そしてその正体が何なのか確かめる間も無く、次の瞬間には俺の視界には冥界の空が広がっていた。
「・・・え?」
何が起こったのか理解する間もなく、俺は地面に叩きつけられる様に落下した。呆然としたまま顔を上げると、さっきまで俺がいたはずの場所に、兵藤君の姿がある。そこでようやく、俺は彼にふっ飛ばされたのだと頭で理解出来た。
「ほお、大した速さだ。とても修行前のコイツが出せる速さじゃなかったが、どうやら成長自体はしっかりしているみたいじゃねえか」
感心するアザゼル先生を次の狙いにしたのか、兵藤君が襲い掛かる。けれど、先生はそれを片手で受け止めてしまった。
「・・・最も、来るのがわかっていれば怖くもなんとも無いがな。面白いモンが見れたし、そろそろ正気に戻してやるか」
そう言って、アザゼル先生は兵藤君を捕まえたまま、懐から一冊の雑誌を取り出した。やけに肌色の目立つ表紙の正体は、十八歳未満お断りのアレな雑誌だった。
「ッ!?」
兵藤君の目が大きく見開かれる。右へ左へ、アザゼル先生がその雑誌を移動させる度に、兵藤君の目もそれを追いかける。
「シャレのつもりで準備した差し入れがこんな場面で役に立つとはな。そらイッセー、お前の待ち望んでいたものだぞ!」
雑誌を放り投げるアザゼル先生。刹那、弾かれた様に雑誌に向かって走り出す兵藤君。そして、彼はそのまま雑誌と共に草むらの奥に消えてしまった。
「このタイミングで会いに来て正解だったな」
「そ、そうですね・・・」
あのまま野生化が進んでいたらとんでもない事になってただろう。それを思うと、本当に来てよかった。
数分後、晴れ晴れとした顔で戻って来た兵藤君を見て、俺はその思いをさらに強くするのであった。