ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第六話 騎士と姫の出会い

 さて、俺が人間界にやって来て、早くも一月が経とうとしていた。とりあえず、その間に何があったのか、ここで振り返る事にしよう。

 

 人間界に来て最初に浮かんだ問題が、衣、食、住である。何せ体一つでこの世界にやって来てしまった俺には持つ物が何も無いのだ。騎士(笑)としては、ホームレスになる事だけは回避したかったのだが、これは何ともあっけなく解決した。

 

『ウチに任しとき』

 

 そう、我らがオカンである。彼女はその力を以て、俺に一人暮らしには広すぎるくらいの立派な一軒家を与えてくれたのだ。それだけじゃない。当面の生活費や、本来存在しない俺の戸籍等まで用意してくれたのだ。

 

 それに対し、もちろん感謝の気持ちはあった。だけど同時に、どうしてここまでしてくれるのか不思議でならなかった。彼女からすれば、俺はただの人間の一人にしか過ぎないのに。

 

『そんなん関係あらへん。アンタが幸せな一生を送れるよう見守る。それがウチの責任や』

 

 …そう答えられた時俺は、ああ、やっぱりこの人は神様なんだと思った。

 

 そういうわけで、俺はこの世界で新しい生活を始めたのだ。そして、俺は今、とある学園の校門前に立っていた。名前は私立駒王学園。元々女子高だったらしい。が、今はそんな事はどうでもいい。問題は、どうして俺がここにいるのかだ。

 

(ほんと、どうしてこうなった…)

 

 そびえ立つ校舎を眺めながら、俺は心の中でそう呟いた。

 

 そもそものきっかけは、三日前のオカンとの会話だった。夜、俺が黒歌…あ、この黒歌っていうのは、あの強姦魔をぶちのめした時に保護した猫の名前だ。保護した直後、ケガと衰弱でかなり弱っていたこの猫を助ける為、オカンから勘違いのお詫びとしてもらった願いを一つ叶える特典を思い出し、『スパロボの新旧全ての作品の精神コマンドが使えるようにして欲しい』とお願いをした。

 

 精神コマンド…簡単に言えば魔法の様なものだ。敵に与えるダメージを増やしたり、逆に敵から受けるダメージを少なくするもの等があるが、その中には味方を回復させるものというのもある。まあ、普通に魔法を使えるようにしてもらうのもいいが、どうせならスパロボ繋がりで統一した方がいいと思ったのでこうした。

 

 願いを叶えてもらい、俺は早速猫に回復系精神コマンド『信頼』を使った。猫に信頼というのも変な感じだが、使用直後、キラキラした光が猫を包み、体の傷が一瞬で消え去ったのを見てちゃんと効果があったのだとホッとした。ちなみに使い方としては、頭の中に一覧表みたいなのが浮かび、その中から選択するような感じだった。

 

 猫自身も驚いたのか、横たえていた体を起こすと、その場でグルグル回り始めた。その様子が微笑ましくて、つい頭を撫でてしまった。最初は何だか警戒していたみたいだが、しつこく撫で続けていると、やがてはお腹を見せてくれるようになった。その時確認したが、雌だった。

 

 ケガは治したが、それでサヨナラというわけにはいかない。俺はこの猫を飼う事に決めた。そこで、名前をつけようとしたが結局決まらず、その日は過ぎて行った。

 

 その夜、不思議な夢を見た。シルエットのぼやけた女性から一枚の紙を受け取るという夢だ。そこには『黒歌』と書かれていた。変な夢だったが、何か意味があるのかと思い、俺は猫にそのまま黒歌という名前をつけた。

 

 え? 何でぼやけてたのに女性だってわかったのかって? そりゃあなた、胸に二つの果実をつけている人物が男なわけないでしょうが。あ、今思い出すと、あの時助けた女性に似ていたような…。

 

…って、かなり話が逸れてしまった。その黒歌とじゃれていた時、唐突にオカンから連絡が入ったのだ。何事かと尋ねる俺に対し、オカンは言った。

 

『アンタ、学校へ行ってみん?』

 

 どういう意味かと俺が首を傾げれば、オカンは答える。最初に説明した通り、俺をこの世界に送ったのはもう一度学生生活を楽しんでもらう為。予定とはだいぶずれてしまったが、行ってみてはどうかと。

 

 しかし、二十四にもなってまた学校に行くのもどうなのだろう。ただ、オカンの心遣いを無駄にするのも申し訳ない。すでにたくさんの援助をして貰っているのに、これだけ断るというのもおかしいし。

 

 少し悩んだが、結局、俺はオカンの提案を受ける事にした。ついでに、ここで明らかになったが、今の俺の肉体年齢は十七歳だそうだ。道理で鏡で見た時、ゲームのアル=ヴァン先生より若く見えたわけだ。

 

 そして三日後の今日。いつの間にか用意されていた駒王学園の制服を纏い、俺は家を出たのだ。場所がわからなかったが、偶然同じ制服を着た男子を見つけ、気付かれないように後について行った。

 

 こうして数十分後、俺は何とか駒王学園へ辿り着いたのだ。しかし、ただ突っ立って校舎を見上げている俺を不審に思ったのか、周りから視線を向けられているのがわかった。「なんちゃって高校生乙」とか、「二十四にもなって制服とか…コスプレ?」なんて声が聞こえて来そうだ。居心地悪さMAXの中、俺は動いた。もう、とにかく職員室の場所聞いてここから離れよう。

 

「キミ、ちょっといいか?」

 

 一番近くにいた女の子に声をかける。その子は俺の顔を見るなり、顔を赤らめて俯いてしまう。視界にも入れたくないってわけですね。

 

「な、何ですか?」

 

「すまないが、職員室の場所を教えてもらえないだろうか」

 

 はあ、アル=ヴァン先生の口調でよかった。もし素の俺だったらメンタルダメージが大き過ぎて涙声になっていたかもしれない。しどろもどろに説明してくれる女の子を見つめながら、俺は軽く落ち込んでいた。

 

 女の子にお礼を言い、移動を開始する。今さらオカンの事を疑うつもりは無いが、職員室へ行っても「そんな話は聞いてません」とか言われたらもう立ち直れないかもしれない。

 

「そ、それじゃあ、教室まで案内します」

 

 まあ、そんな事も無く、職員室に入った俺を一人の女性の先生が迎えてくれた。山田と名乗ったこの人が俺の担任だそうだが、見た目明らかに前の俺より年下っぽいんだよな。あと、胸が凄い。こうして教室に向かって歩いているだけでポヨポヨ揺れている。

 

「では、私が合図したら中に入って来てください」

 

 そう言って先に山田先生が教室へ入って行った。

 

「みなさん、おはようございます」

 

「おはよー真耶ちゃん!」

 

「今日も可愛いね!」

 

「ふえっ!? あ、ありがとうございます。…じゃ、じゃなくて、先生をからかっちゃいけませんよ!」

 

 中からそんな声が聞こえて来る。どうやら生徒との仲は良好らしい。ま、わかる気がする。彼女優しそうだし、何より可愛いし。

 

「こ、コホン! 実は今日はみなさんにお知らせがあります。今日からこのクラスに新しい仲間が増えます」

 

 おーーー! と歓声が響き渡る。ああ、このテンション、何だか懐かしい。…こんな事を思う俺ってもう年なのかもしれない。それから、男か女かという質問をする男子。男と答えた先生にカッコイイかと聞く女子。それに対し、「え、えっと、実際に見てもらった方がいいですね」と答える先生。いい判断です。ここでハードル上げられてもキツイのは俺ですから。

 

「では、入って来てください」

 

 先生の合図が入る。俺は気合いを入れ戸を開けて教室内へ足を踏み入れた。その瞬間、たった今まで騒いでいたクラスメイト達が一斉に口を閉じた。…って、何その反応? そんなに期待外れでしたか?

 

「はあ…」

 

 誰かの溜息がやけに大きく聞こえた。もう決定だねこれは。ちくしょう、やっぱりこうなる運命だったのか…。なんだか先生も予想外の反応に戸惑っているみたいだ。

 

「で、では、自己紹介をしてもらいましょうか」

 

 この空気でですか!? いや、自己紹介は空気とか関係無いか。ならばここで冷静になって印象のいい自己紹介をすればまだ持ち直せる!

 

「今日からこのクラスの一員となる神崎亮真だ。よろしく頼む」

 

 …やっちまった(涙)。クールを通り越して無愛想ここに極まれりといった挨拶をしてしまった。ああ、室内の空気がさらに悪くなった気がする。先生が気を遣って「何か質問がある人はいませんか」と言ってくれたが、誰も手を上げてくれなかった。

 

 そんなこんなで朝のHRが終わり、今は一時間目が始まるまでの数分の休憩時間。俺は窓際の一番後ろの席で外の景色を眺めながらボーっとしていた。何でそんな事してるかって? 誰も話しかけてくれないからですよ。なんか「ね、ねえ、声かけてきなさいよ」とか「ア、アンタが行きなさいよ」とか耳に届く。嫌なら無理して来なくていいです。むしろそっとしといて…。

 

 そんなボッチ街道を独走しようとした俺の前に…彼女が現れた。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 景色からそちらに顔を向けた俺の前に彼女はいた。

 

 ―――それだけで芸術と思わせるような美しい真紅の長髪。

 

 ―――道を歩けば誰もが振り返るであろう端正な顔立ち。

 

 ―――制服の上からでもわかる、下手なモデルも顔負けな抜群のスタイル。

 

 今日ほど自身の語彙の無さを恨んだ日があっただろうか。固まる俺の前で、彼女は柔らかな笑みを浮かべながら自らの名前を名乗った。

 

「初めまして。私はリアス・グレモリー。これからよろしくね、神崎君」

 

 これが、俺…神崎亮真と、彼女…リアス・グレモリーの出会いだった。

 

ああ、これから言う言葉は完全に蛇足だ。なので心の中で呟かせてもらおう。

 

キミ…ホントに高校生?




というわけで、本編開始一年前からのスタートです。といっても、次回からもう本編開始なんですけどね・・・。主人公はリアスと同じ三年生となります。

そして使用可能となった精神コマンド。これが後に色々役に立ちます。ポイントは新旧全てのコマンドが使えるという事。さらに言えば、“復活”・・・わかる人にはこれでわかると思います。

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