ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

58 / 187
前回の更新で、お気に入り登録が五十件以上増えました。おかしいな。この小説に求められているのはコメディ成分だけだったはずなのに・・・。


第五十八話 冥界どうでしょう

目を開けると、そこはベッドの上だった。

 

「・・・知らない天井だ」

 

お決まりのセリフを口にする。まあ、実際はすっかり見慣れたグレモリー邸における俺の部屋の天井なんだけど。首だけ動かして枕元の時計を確認すると、一日経過していた。

 

にしても、いつの間に眠ってしまったのだろう。昨日は確か、会談から帰って来て、みんなで温泉に入る事になって、それから・・・それから・・・何があったっけ?

 

記憶を辿ろうとするが、何だか靄がかかったかのように思いだせない。まるで、思い出さない方がいいと言われているかのようだ。ただ、同時にどこかスッキリした気分なのはどうしてだろう。

 

うーん、ひょっとしたら、のぼせて倒れてしまったのかもしれない。だとしたら、我ながら情けないな。兵藤君達にも迷惑をかけてしまっただろう。みんなに確認して、本当にそうだったらきっちり謝らないといけないな。

 

そう決めつつ、俺はベッドから起き上がるのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

グレモリー家の庭の一角、朝食を済ませた俺達はそこに集っていた。いよいよこの里帰りの最大の目的である特訓が始まる。

 

あ、そうそう。昨日の温泉では、俺はやっぱり気絶してしまったらしい。兵藤君に聞いたら、青ざめた顔で「思い出したくありません」とか言われてしまった。どうやら相当な面倒をかけてしまったようだ。

 

女の子達は女の子達で、顔を真っ赤にして目を合わせてくれない。なんなのその反応。どれほどの醜態を晒してしまったんだ、俺・・・。気になるけど聞くのは止めておこう。なんか、第六感的な何かが聞くなと訴えてる。

 

「さて、メニューを発表する前に、言っておく事がある」

 

紙束を持ったアザゼル先生が全員の顔を見渡す。・・・微妙に内股に見えるのは気のせいだろうか。

 

「俺が提示するトレーニングメニューは、各々の将来的なものを見据えた上でのものだ。当然、効果を実感出来る時期は一人一人違うだろう。・・・だが、焦るな。今日より明日。明日より明後日。どれほど歩みが遅くても、進み続ける事が大事だと胸に刻め。お前らは若い。若いから未熟だ。だからこそ、これからどんどん成長していく事が出来るはずだ」

 

おお、先生っぽい、いい言葉だな。流石カリスMAXなアザゼル先生。やっぱり上に立つ人は導くのが上手いのだと思った。

 

「というわけで、まずはリアス」

 

「はい」

 

返事をするリアスに、アザゼル先生は手元の紙を見ながら告げる。

 

「お前は元々が高スペックな悪魔だ。このまま何もせずに暮らしたとしても、いずれは最上級悪魔の候補となるだろう。だが、将来よりも今強くなりたいんだろう。・・・お前の“誇り”の為に」

 

「ええ。私は私の“誇り”に見合う強さを身につけたい。思いだけでも、力だけでも意味が無い。その二つを合わせ持って初めて強さになると思うから」

 

「その通りだ。口先だけのヤツなど誰も相手にはしない。周囲を納得させられる実力を備えて初めて形となる。この紙にお前のトレーニングメニューが記してある。ゲームの直前までこなし続けろ」

 

うーむ、女の子相手に使う言葉ではないが、リアスは本当にカッコいいな。決意に溢れた表情で手渡された紙に視線を落とす彼女を見て、俺はそんな感想を抱いた。

 

「基本的なトレーニング方法だが、お前はそれで充分だ。『王』であるお前に求められるのは“力”だけじゃない。むしろ、重要なのはゲームの最中、どんな状況に陥ろうとも、それを乗り越えられるだけの思考、機転、判断力・・・つまり“知”が必要だと思え」

 

「わかったわ」

 

「次は・・・朱乃。お前に求めるのはただ一つ・・・己が内に流れる血を受け入れろ」

 

血って言うと・・・以前教えてもらった堕天使の血って事でいいのかな。でも、彼女自身はそれに嫌悪しているようだから、そう簡単にはいかないんじゃないか。

 

「フェニックス家との一戦を映像で見せてもらったが、お前の本来の力はあんなもんじゃねえだろう」

 

いやいやいや! あの時、朱乃体育館ふっ飛ばしてたよね! あれで全力じゃなかったの!?

 

「雷に光を乗せろ。お前の本当の力である『雷光』を見せてみろ。否定するだけじゃ永遠に強くはなれない。自分の全てを認め、受け入れろ。その上でなってみせろ。『雷の巫女』から『雷光の巫女』にな」

 

「・・・わかりました。思う所がないわけではありませんが、そうなれるよう努めましょう」

 

目を逸らさず答える朱乃に、アザゼル先生が意外そうな表情を見せる。

 

「ほお、ずいぶん聞きわけがいいじゃねえか。てっきり文句の一つでも言われるかと思ったがな」

 

「私だって、見守ってくれる人がいれば成長しますわよ、アザゼル先生」

 

立派だと思うよ朱乃。だが、そのセリフは色々マズイと思うな。霞さんみたいにならないよう、注意しておかないと。

 

チラリと俺の方へ目線を向けて来た朱乃に対し、俺は密かに決意した。でも、あれほど頑なだった彼女の心を解したのって誰なんだろうな・・・。

 

「三人目は木場だ」

 

「はい」

 

「お前の目的は、とにかく『禁手』を長時間保たせる事だ。第一段階として、解放状態で一日保たせる。第二段階は実戦形式の中で一日保たせる。それをひたすら続けろ。後はリアスと同じで基本の繰り返しだ。それと、剣系の神器の扱い方についても、俺がみっちり叩き込んでやるからな。剣術の方はお前の師匠からもう一度習うんだったな?」

 

「ええ。ですが、出来たら神崎先輩にもご指導をお願いしたいのですが」

 

俺? 確かに、前の合宿でキミの相手してたけど、師匠がいるんならその人に任せた方がいいと思うよ。俺に出来る事といったら、アル=ヴァン先生の知識と経験を元にしたアドバイスくらいで、俺自身にやれる事って無いし。

 

「心配せずとも、それも織り込み済だ。前衛は全員フューリーにも指導してもらうつもりだからな。精々、技の一つでも盗んでみせろよ」

 

ファッ!? 増えちゃったよ! 前衛っていうと、兵藤君と木場君、それに塔城さんとゼノヴィアさんの四人だよな。やべえ、かつてないほどのピンチだ。先生! 助けてください!

 

「ゼノヴィア。パワー馬鹿のお前はもう少し繊細さを身につけろ。デュランダルを今以上に使いこなす為には必要な事だ。それと、もう一本の聖剣にも慣れてもらうぞ」

 

「もう一本とは?」

 

「詳細はまた後で教える」

 

楽しそうな表情を見せるアザゼル先生だが、すぐにそれを引き締め、今度はヴラディ君の方を向いた。

 

「ギャスパー」

 

「は、はいぃ!」

 

「少しはマシになったみたいだが、お前の壁はその恐怖心だ。なので、心身を鍛え直す。お前自身のスペックは高い。それさえ克服出来れば、そのリングも必要無くなるだろう」

 

アザゼル先生が、ヴラディ君の着けているリングを指す。あれって、確か会談の時、ペロリストに捕まったヴラディ君を助けに向かう兵藤君に渡してたヤツだよな。

 

「わ、わかりましたぁ! 出来るかどうかわかりませんが、一生懸命頑張りますぅ!」

 

おお、こんなにやる気に満ち溢れているヴラディ君は初めて見たぞ。これは全力で応援しなければ!

 

「続いて小猫」

 

「はい・・・」

 

「お前に関しては黒歌に一任してある。基礎の向上に励みつつ、仙術の一つでも教えてもらうがいい。元々の身体能力はいいんだ。曝け出すもの曝け出せば、すぐにでも強くなれるだろうよ」

 

「はあ・・・」

 

「だ~いじょうぶ! 私に任せておけば白音は絶対に強くなれるにゃ!」

 

「・・・正直、期待よりも不安が大きいのは何ででしょう」

 

「酷い!」

 

塔城さんの軽口に乗る黒歌。相変わらずの仲の良さを見せつけてくれるなぁ。あの夜の頃のギスギス感は最早完全に無くなっているようだ。

 

「最後にイッセー・・・の前に、アーシア」

 

「え、え? わ、私ですか?」

 

「人間であるお前はゲームとは関係が無い。だが、フューリーの傍にいる事が何を意味するのか、お前にもわかるはずだ」

 

先生。そんな、抽象的な言い方じゃわかりません。

 

「・・・はい」

 

わかったの、アーシア!?

 

「お節介だとは思ったが、一応、お前のトレーニングメニューも考えてある。やるかどうかはお前の自由だが・・・どうする?」

 

「や、やります! やらせてください!」

 

差し出された紙を胸元で抱えるアーシア。まあ、一人だけ何もしないってのも寂しいだろうし、何より、本人が凄くやる気みたいだからいいと思うが。ところで、さっきのアザゼル先生の謎かけの答えってなんなんですかね。こっそり教えてくれるとありがたいんだけど。

 

「それじゃあ、改めてイッセーの番だな。・・・そろそろ来る頃だと思うんだが」

 

「来るって何がですか?」

 

空を見上げるアザゼル先生に倣って、俺達も空を見上げる。―――“それ”が姿を現したのは、それとほぼ同じタイミングだった。

 

「なっ!?」

 

“それ”が降り立つと共に大地が激しく振動する。倒れそうになったアーシアを咄嗟に支えつつ、改めて“それ”を見つめる。

 

「・・・ドラゴン」

 

そう、ドラゴンだ。大きく裂けた口も、それから覗く牙も、巨大な腕や足も、背中の翼も、まさしくドラゴンのそれだった。これで、俺が出会ったドラゴンは、ドライグ、アルビオンに続いて三頭目になる。

 

「アザゼルよ、よくもまあ悪魔の領土に堂々と入れたものだな」

 

ああ、やっぱりしゃべれるのね。あの二頭も普通にしゃべってたからもしかしたらと思ってたけど・・・。

 

「お、心配してくれてんのか? 安心しろ。魔王様からはちゃんと許可をもらってるぜ? 文句は無いだろ、タンニーン」

 

「ぬかせ。サーゼクスの頼みだからとわざわざ来てやった事を忘れるなよ、アザゼル」

 

「へいへい」

 

そうやりとりする一人と一頭を黙って見つめる俺達。すると、そんな俺達にアザゼル先生が説明してくれた。

 

まず、このドラゴンの名前はタンニーンさん。聖書に記された龍で、かつて「五大龍王」が「六大龍王」だった頃の龍王の一角なのだとか。

 

「五大龍王の事は前に話したと思うが、こいつが悪魔になった事で、六から五になったんだ。タンニーンは転生悪魔の中でも最強クラスの最上級悪魔だ」

 

いや、初耳なんですけど。兵藤君は、「あ、あの時の!」とか言ってる。それってどの時?

 

でも、彼の存在って、支取さんの夢の道標になるんじゃないのかな。転生悪魔でもこんな風になれるって。学校が完成したら、子ども達に講義でもしてもらうのも面白いんじゃないか。

 

そんな想像をしている間にもアザゼル先生の説明は続く。彼をこの場に呼び出したのは、兵藤君に修業をつけるため。つまり、兵藤君の先生になってもらうためだった。

 

「なるほど、つまり、俺にこのドライグを宿した少年をいじめぬけと言うのだな」

 

「ちょっ! 扱いの差が酷過ぎるんじゃないですかね!? 何で俺だけ・・・!」

 

「心得た。ではリアス嬢、すまぬがあそこに見える山を貸してもらえるか? 修行の場にしたいのだが」

 

「ええ。存分に使って鍛えてあげてちょうだい」

 

「本人の気持ちを無視しないで! あ、ちょ、止めっ―――」

 

問答無用とばかりに、タンニーンさんは兵藤君を掴むと、翼を羽ばたかせ、空に舞い上がった。そして、そのまま先程示した山の方へ向かって進み始めた。

 

「部長ぉぉぉぉぉぉ! 先輩ぃぃぃぃぃぃ! 誰か、誰か助けてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

どんどん小さくなっていくタンニーンさんを見送る俺達。

 

―――藤村君! これは拉致だよ!

 

この時、俺の脳裏には元の世界で大好きだった番組の出演者のセリフが過っていた。

 

「さあ、みんな! イッセーに負けないように頑張るわよ!」

 

い、いいのか、これで・・・。それぞれ動き出すみんなを余所に、俺はもう一度山の方へ振り返り、手を合わせた。

 

・・・どうか、兵藤君が無事でありますように。




というわけで、修行スタートです。魔改造するか、原作のままにするか、地味に悩み中。

とりあえず、技の一つでも教えるだけでだいぶ変わると思うのですが・・・。

それと、よければ活動報告に目を通して頂けると幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。