ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
(オワタ…)
迫り来る灼熱の炎を呆然と見詰めながら、俺は胸の内でそう呟いた。きっと今鏡を見れば、本編では見れなかったアル=ヴァンの間抜け顔を見る事が出来ただろう。
こうして、二度目の生を授かった俺は、僅か一時間足らずで二度目の死を迎え…なかった。
全身を包む炎は確かに熱い。だが、その熱さはせいぜい風呂に入った程度にしか感じず、むしろ心地よかった。ただそれだけ。俺の体は今も炎の中で健在だった。
『おーい、いつまで固まっとるん?』
「あ、オカン!」
『はい?』
はっ、しまった! つい呼んでしまった! やばい、神様に対して失礼な呼び方をしたんだから、怒られる…というか天罰受ける!?
『アンタ、何でウチの名前がオ・クァーンやって知っとるん? ウチの記憶が正しければ教えた覚えないんやけど』
まさかの事実! ピッタリ過ぎて逆に笑えねえよ!
『ま、ええわ。それより、どうや? 新しい体は? 今のアンタなら、あの赤トカゲちゃんの炎なんて屁でもないやろ』
おおう、ボスクラスのドラゴンをトカゲちゃん呼ばわり。さすが神様。いや、けど正直、オカンのおかげで助かった。やり過ぎとか思ってたさっきの自分に今の状況を見せてやりたい。
『さあ! これで恐れるもんは何もあらへん! 反撃や!』
「いやいや、ちょっと待ってください! 反撃って言ったって、どうすればいいんですか!」
『そのロボットの武器で戦えばええやん』
「あのですね。高校の選択授業で剣道やったくらいの人間が剣なんてまともに扱えるわけないでしょ」
体はアル=ヴァンでも中身は俺なのだ。彼の様な戦い方が出来る筈も無い。そう言うと、オカンは何でも無い様な感じで答えた。
『なら、早い話、その人物の戦いの経験や知識をアンタに授ければいいわけやな。そう言う事なら任しとき!』
「何を…ッ!?」
その瞬間、猛烈な頭痛が俺を襲った。何かが無理矢理頭の中に流れ込んでくる。知らないはずの剣の型、自身よりも巨大な相手との戦い方。それは彼…アル=ヴァンが騎士として己を磨き続けた技術であり、経験であり、知識であった。
「わかる…。剣の振り方が。戦い方が。この体の動かし方が!」
…あれ、おかしいな。今俺、「すげえ! 今なら何でも出来そうだ!」って言おうとしたのに、何でこんな口調になってんの?
『あらら、ちょっとふぃーどばっくし過ぎたみたいやな。口調も元の人物と似た感じにしてしもうた』
「なるほど。しかし、よくそんな言葉を知っているな」
おお、なんかアル=ヴァンっぽいぞ俺。…なんて言ってる場合じゃない! ちょ、何とかならんの!? 口調はカッコイイのに中身がこれじゃ逆に恥ずかしいんですけど。
『ふふん。ウチは神の中でも“いんてり”やからな。さあ、これで戦えるやろ。頑張りや!』
ええい! こうなったらヤケクソだ! 俺は無理矢理テンションを上げると、腰についていたソードライフルを手に取った。
そこで、ようやく炎の勢いが弱くなって来た。俺が死んだと思っているのだろう、赤ドラゴンが大声で笑いだした。
「ふはははは! 雑魚が粋がるからこうなるのだ! さあ、次に死にたいのは誰…ファッ!?」
赤ドラゴンが驚愕の表情を見せる。ま、気持ちはわかるけどな。にしても、何故お前があの先輩を知っている?
「俺の炎を受けても無傷だと!? 貴様! 何者だ!?」
何者と言われても…ただの人間ですけど。それよりも、赤ドラゴンが驚いてる間に本当に戦えるのか確認しないとな。
ソードライフルを振ってみる。考える間も無く、体が勝手に動く。縦に振り降ろし、横に薙ぎ、前に突き出す。それは洗礼された型であり、全くの無駄が無い。その美しい剣舞を他の誰でも無い、俺がやっているのだ。
(凄い! 凄いよアル=ヴァン! いや、アル=ヴァン先生!)
たった今から彼の事は呼び捨てでは無く先生と呼ぶ事にしよう。よし、ここは先生に肖って気合いの籠ったセリフを一つ!
「騎士として、貴様等の所業を許すわけにはいかない。我が剣、ラフトクランズによって、貴様等をヴォーダの闇に還してやる!」
…言ってから後悔した。何が騎士だよ! 見た目だけのお前なんか騎士(笑)で充分だっての! てか、ヴォーダの闇ってのが何なのかもわかってないくせに何言ってんのマジで!
ああほら! 赤ドラゴンが引いてる! 二十四にもなって中二病とかマジウケルんですけど! とか思ってる目だあれは!
「彼に…騎士に続くんだ!」
穴があったら入りたい。というか死にたい…。などと鬱っていると、またしても背後からあのイケボイスが聞こえて来た。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
何事!? と思う暇も無く、続け様にとんでもない雄叫びが辺りに響き渡った。いよいよ確認しないとマズイと思った俺が振り返ると、あのイケメンを先頭に、何十、何百の翼を持った人達がこっちに向かってもの凄い勢いで飛んで来ていた。
想像して欲しい。殺ってやる! とでも言わんばかりの形相を見せる人達が大軍となって自分に向かって来る光景を。さっきの発言がそれほど気に食わなかったんですか!? だからってそんな大勢で袋叩きは残虐すぎるでしょうが!
フルボッコにされる姿を想像し震える俺…ではなく、その人達はみんなそのままあの赤ドラゴンに向かって突っ込んでいった。
「滾る! 滾るぞぉ!」
「勝つ! 絶対にぃ!」
そんな気合いの籠ったセリフと共に赤ドラゴンに攻撃を加える人達。爆発が起こったり、光り輝く槍がそれこそ大量に赤ドラゴンに突き刺さる。
「ぐおぉぉぉ!? こ、こいつら、先程とは気迫も力もまるで違う!?」
塵も積もれば山となるとでも言えばいいか。一つ一つの攻撃は、赤ドラゴンの体に比べればはるかに小さい。だが、それが何十、何百も重なれば、それは赤ドラゴンの体をたじろがせる程の威力となる。
「フューリーさん!」
その戦いをボケーっと眺めていた俺の所へ、あの魔法少女がやって来た。なんか顔が赤いけど、まさか、体調不良をおしてここにいるのか? あの赤ドラゴンを止める為に、そんな幼い年にも関わらず。立派だな。お兄さん感動しちゃった。
「ええい、調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤ドラゴンが切れた。その太すぎる尻尾を俺の方へ向かって振り降ろして来る。
「ッ…!」
「ふあっ!?」
やばい、このままだとこの子も巻き込まれる。とっさに魔法少女を左腕に抱き、俺はソードライフルを振り上げた。
(アル=ヴァン先生舐めんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
そして、ただ力任せに剣を振り降ろした。次の瞬間、赤ドラゴンの尻尾が半ばから綺麗に切断された。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
斬り口から大量の血を吹き出させながら、赤ドラゴンが痛々しい悲鳴を上げる。
俺はというと、そんな赤ドラゴンを見つめながら内心驚きまくっていた。剣を振るったのはいわばテンションに身を任せただけで、いざとなったらこの無敵ボディで魔法少女を守るつもりだった。だが実際は、赤ドラゴンの尻尾を斬り飛ばしてしまった。
(なにこの威力!? 熱血か魂でもかかってんの!?)
「す、凄い…」
「ドライグのあの皮膚を紙のように…」
もしくはフル改造済み!? どっちにしろ斬れる大きさじゃないよね! いくらラフトクランズがチート機体だって言ってもこれは異常だろ! なんか周りの人達も驚いてるし…。
「貴様! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤ドラゴンが血走った目で俺を睨む。怖っ! だが、魔法少女の手前、ビビってはいけない。ここは自分を奮い立たせる為に何か言おう。
「我が剣に誓って、この少女には指一本触れさせはしない!」
騎士(笑)とはいえ、巻き込んだの俺だし。それくらいの責任は持ちますよ。
「…素敵」
魔法少女が小さい声で何か呟いた。気になるが、それを確かめている暇は無い。とりあえずこの子を連れて下がろう。
「よし! ドライグは僕達がこのまま抑える! 他のみんなは向こうでアルビオンと戦っている者達の援護に向かってくれ!」
イケメンが指示を出す。アルビオン? それって向こうで飛びまわってるあの白いドラゴンの事か? 赤ドラゴンと違って空中を動きまわる白ドラゴンに、周りの人達も手こずってるみたいだ。
(…って事は、あの翼を使えなくしたら戦いやすくなるわけか)
そう感じた俺は、ソードライフルのグリップを持ち直し、白いドラゴンに照準を合わせた。そして、躊躇い無くその引き金を引いたのだった。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺の叫びと共に放たれた緑色の極大のエネルギー波は、あっという間に白ドラゴンの翼を貫通し、遥か彼方へと消えて行った。
「がっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
凄まじい地響きと砂煙をまき散らしながら、白ドラゴンが大地に落下する。そこへ待ってましたとばかりに攻撃が加えられる。
「な、なんて威力なの…」
魔法少女が呆然といった様子で呟く。うん、それ俺のセリフ。いや、ね、オルゴンソードの威力で大体予想してましたよ。けどね、今のはそれを遥かに超えてました。え、妙に冷静じゃないかって? 人間、驚き過ぎると逆に冷静になるんだよ。
そして、冷静になると同時に、先程からの騎士(笑)発言が頭に蘇る。せっかく気にしないようにしてたのに、また恥ずかしさが込み上げて来た。
『お疲れさん。カッコよかったで』
再びオカンと繋がった。やめて、今はなに言われても恥ずかしいだけだから! それより何の用なの。
『ああ、そうそう。さっき言いかけたんやけど、転移の準備が整ったで。どうする? すぐに移動するか』
(お願いします!)
俺は間髪入れずに頷いた。とにかく、一刻も早くこの場から離れたかった。ああ、かなうなら、いっそこのままこの場にいる人達がいない場所へ。…そうだな、千年後くらいに行きたいな。
『よっしゃ、任せとき!』
「フューリーさん?」
魔法少女をそっと離す。俺の様子がおかしいと思ったのか、彼女は不思議そうに首を傾げるが、次の瞬間目を見開いた。
「フュ、フューリーさん! 体が…!」
言われて見ると、俺の体がゆっくりと透け始めた。どうやら転移とやらが始まったらしい。
「…行っちゃうんですね」
魔法少女が寂しげに顔を伏せる。むう、何故に彼女はそんな表情を見せるのか。「は~、やっと痛い人から解放されたわ~」とか言わないのか?
「また…また会えますよね?」
ッ!? そ、その上目使いは反則だろ!? だがしかし、騎士(笑)の俺はあくまでも冷静に答える。
「…それが運命ならば」
そして、最後に死にたくなるセリフを残し、俺は魔法少女の前から消えたのだった。
というわけで、主人公また強化です。まあ、一般人が最初から戦闘なんて出来るわけないので強引ですが戦えるようにしました。
ドライグ、アルビオンが弱すぎじゃね? と思う方もいらっしゃると思いますが、ファンタジー世界に機動兵器ぶっこんだらよっぽどじゃないと勝てるわけないと思うんですよ。あくまで自論ですけど。
そしてセラフォルー。彼女はこの出会いで魔法少女の他にロボットにも目覚め、魔法少女コスだけではなく、パイロットスーツにも興味を抱きます。・・・オルタのスーツ着た彼女を誰か書いてくれないかな・・・。
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