ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
黒歌の告白ですっかり意識の外に出ていたが、今日は平日。つまり俺達は学校へ行かないといけない。
「あら、もうこんな時間ね。そろそろ出ないと間に合わないんじゃない?」
「そ、そうですね。急ぎましょう」
「いってらっしゃい。ご主人様のお帰りを耳を長くして待ってるにゃ」
黒歌のそんなセリフに見送られ、俺達は家を飛び出した。その道中、グレモリーさんに今日の放課後、オカルト部へ来てくれと言われた。理由は・・・やっぱり、俺の正体についてだよなぁ。はあ、なんて説明しよう。まさか、オカンな神様に転生させてもらいました・・・なんて言ったら病院に連れて行かれるかもしれないし・・・。
まあ、放課後まで時間はある。それまでに何とかそれっぽい話でも考えてみるかな。そう決めて、俺は学園へと向かう足を速めるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
結論だけ言わせてもらうと、何も思い浮かびませんでした。
放課後のオカルト部。自分を囲むようにソファに座るオカルト部のメンバー+アーシアを前に、俺は心の中で焦っていた。
「今日来てもらったのは他でも無いわ。神崎君、あなたには聞きたい事があるわ」
あー、やっぱりね。今からじゃどうやっても逃げられないし・・・マジでどうしよう。
「あなたの正体は、かつて、悪魔、天使、堕天使の三陣営を救ったフューリーと呼ばれた騎士。・・・それで間違い無いのよね?」
「・・・ああ」
もうどうやっても誤魔化しきれない。観念した俺は素直に頷いた。そんな俺に対し、オカルト部の面々は皆一様に驚いた反応を見せた。その中で、アーシアの驚きは特に顕著だ。
「ほ、本当に驚きました。まさか、リョーマさんがあの“神の騎士”様だったなんて・・・」
何その寒い呼び名!? 悪魔の皆さんに対しては覚悟してたけど、そっちは全く予想してなかったよ!? 詳しく教えてくれませんかねアーシアさんや! そんな俺の訴えを目で察したのか、アーシアはそのまま話を続けた。
「遠い遠い昔、邪悪なる者との戦いで傷付いていく天使様達を守る為、主が遣わせた聖なる騎士・・・。教会ではそう教えられていました」
いいかげんにしろよ教会! 変態を集めたり、人の事勝手に辱しめたり、俺に何か恨みでもあるのかよ! ああ、駄目だ。やっぱり俺、教会の人間とは仲良くなれそうに無いや・・・。
「冥界もそんな感じね。悪魔を救う為、冥界へ舞い降りた孤高の騎士・・・だったかしら?」
それって暗にボッチって言ってますよね? まあ、たった一人でいきなり姿を現したわけだからそうとられても仕方無いか・・・。
「只者では無いとは常々思っていましたけど、まさか生ける伝説をこの目で見られる時が来るなんて・・・。はは、やっぱり先輩はとても興味深い人ですね」
「・・・ただただ驚きです」
うん、木場君。とりあえずその流し目は止めてくれるかな? それと塔城さんの驚いた顔って珍しいな。・・・お姉さんが近くにいるって教えたらもっと驚いたりして・・・。
「本当にあなたは退屈させてくれませんわね、神崎君。ですが、フューリーの伝説は千年以上前からのものです。悪魔でも何でも無い、人間であるあなたがどうやってその時を越えたのかしら?」
ッ・・・。やっぱり来たかその質問。・・・ええい、しょうがない。この設定ばかりは使いたく無かったが、最早これ以上の案は思いつかん! 行くぞ!
「・・・わからない」
「え?」
「どうしてあの場へいたのか、どうして今の時代へとやって来てしまったのか、あの戦いの直前までと直後の記憶が・・・俺には無いんだ」
「ッ!? それって・・・!」
はい、やってしまいました。困った時の記憶喪失設定。これでごり押しするしかない。いや、我ながら酷い捏造だと思うわ。でも、臭い物には蓋をしろってわけじゃないけど、謎は謎のままにしておくのが一番だと思う。どうせ、俺の過去なんて誰も気にしないだろうし。そう、大事なのは今! この危機を乗り越える事さ!
などとお気楽に考える俺を、グレモリーさん達が悲痛な面持ちで見つめている事に気付いた。え、どうしたの? やっぱり無理があった?
「そんな・・・。それじゃあなたは、記憶を失って、たった一人この時代に放り出されたって事なの?」
「・・・悲しい話ですね」
「ごめんなさい・・・。私の軽はずみは質問で、あなたを傷付けてしまいました。知らなかった・・・なんて理由にはなりませんわね」
「せ、先輩! 俺に出来る事があったら言ってください! 何でもしますよ!」
「僕もです、先輩。あなたは一人じゃない。僕が・・・僕達が先輩を支えます」
「リョーマさん・・・。私は、あなたの孤独を癒してあげたいです。神器じゃなく、私の心で・・・!」
・・・おい、俺。テメーの軽はずみな発言の所為で大変な事になったじゃねえか。止めてくれみんな! そんな気遣う様な目とかしなくていいんだよ! 過去どころか昨日の夕飯すら余裕で覚えてますから!
しかし最早手遅れ。グレモリーさん達の中ではすでに俺は記憶喪失だと認識されてしまった。なんだろう、最近、迂闊な言動で取り返しのつかない場所まで来てしまった感じがしてならない。
重々しい空気が漂う部室内で、俺は一人そんな事を考えるのだった。
SIDE OUT
麻耶 SIDE
放課後、廊下を歩く私の前から神崎君がやって来た。その顔は酷く消沈していて、いつもの彼とは随分と様子が違っていた。
「神崎君? どうかしたんですか?」
「山田先生・・・」
泣きそうな顔で私の名を呼ぶ彼に、どうしてか胸が締め付けられた。だから私は、気付けば勝手に口を動かしていた。
「・・・酷い顔をしてますよ? 何かあったんですか? 私でよければ相談に乗りますよ?」
以前は私が彼に相談に乗ってもらった。だから今度は私が・・・
『そのままのあなたが素敵です』
ッ! うう、別にそれまで思いださなくていいでしょ、私! 頬を熱くさせる私を尻目に、神崎君が重々しく口を開く。
「俺は・・・最低な事をしてしまいました。大切な友人にあんな嘘を・・・。叶うなら、あの時の自分を殴ってやりたい・・・!」
果てしない後悔の念。今の神崎君からはそれが感じられた。意外だった。彼はそういうのとは無縁な人だと思っていたから。
「俺は、俺の都合を優先してグレモリーさん達を傷付けた。優しい彼女達にあんな事を言えば、ああなるなんて予想出来たはずなのに!」
「神崎君!」
自らを傷付けるように罵る彼の痛々しい姿に、私は我慢出来なかった。衝動にかられ、私は彼を力一杯抱きしめた。
「先生・・・?」
「神崎君、私はあなたが理由も無く人を傷付ける子だとは思っていません。きっと、きっと理由があるんですよね?」
神崎君は答えない。けどそれでもいい。私はただ、私の思いを伝えるだけだ。
「誰も傷付けないで生きる事なんてどんな人でも出来ません。私も、あなたも。でも、あなたは友達を傷付けてしまった事をとても後悔している。あなたのその気持ちは届いているはずです。きっと、友達も許してくれると私は思います」
友達を傷付けた後悔は友達を想う優しさの表れ。だから心配しないで・・・。そう最後に付け加えると、神崎君はゆっくりと私から離れた。
「・・・ありがとうございます、先生」
その顔は、全快とは言えないまでも、先程よりかはずっとマシになっていた。
「生徒の悩みは私の悩みです。だって私は先生ですから!」
ちょっと得意気に胸を張ってみると、神崎君は小さく微笑んでくれた。何だかその笑みが妙に気恥ずかしくなって、私は思いついたように口を開いた。
「え、ええっと・・・それじゃ、私はそろそろ職員室へ行きますから!」
「あ、先生」
返事も聞かず歩きだす私を神崎君が呼び止める。
「なんですか?」
「あなたは・・・最高の先生です」
「ふえっ!?」
そんな言葉と、神崎君の笑顔のダブルパンチを受け、私はその場に崩れ落ちた。そして次に目を覚ました時、私は保健室のベッドで横になっていたのだった。
オリ主が益々不審人物に・・・。どうしてこうなった。とりあえず、次回からようやく本編を進められそうです。