ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
第二十三話 居場所
あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ。俺が目を覚ましたと思ったら、隣に下着すら着けずに眠っているグレモリーさんがいた。な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こっているのかわからなかった。夢だとか妄想だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
某銀色の戦車使い状態の俺の前でグレモリーさんがゆっくりとその目を開いた。
「ふあぁ・・・おはよう、神崎君」
うん、おはよう。とりあえず見えちゃってるから隠してくれないかなあ! 胸の先端のピンクとか、下腹部にちょろっと見える紅とかアル=ヴァン先生でもきついんですよ! ほらシーツシーツ!
「グ、グレモリーさん。何故キミがここにいて俺の隣で寝ているんだ?」
「それはね、私が今日からここに住むからで、寝る時は基本的に裸だからよ」
答えてもらって悪いけど、ますますわけがわからなくなったよ!? 何故に急に住むなんて話に・・・。
「もうね、我慢するのを止めたの。私がグレモリー家の娘で『王』なのは変わらない。けど、あなたの前ではただのリアスでいるって。だからお願い、私をあなたの傍にいさせて」
潤んだ・・・というか、泣きそうな顔のグレモリーさんを見て妙に冷静になる俺。なんか、凄く真剣というか、切羽詰まっているというか・・・。
そんなグレモリーさんの様子に、俺は一つの仮説を立てた。彼女が気まぐれでこんな事をするはずが無い。必ず理由がある。・・・それはきっと、あの婚約パーティーの一件だ。
どうやら、俺の謝罪は受け入れてもらえなかったみたいだな。パーティーを台無しにした俺に対して怒るご両親を、優しいこの子はきっと庇ってくれたんだろう。けど、その所為でご両親とケンカになってしまい、衝動的に家出でもしてしまったのかもしれない。そうだとしたら、悪いのは全て俺だ。ならば、俺のするべき事は一つだ。
「・・・グレモリーさん」
「は、はい」
俺の真剣な顔に背筋を正すグレモリーさん。そんな彼女の肩を優しく抱きながら、俺は告げた。
「責任はとる。キミが満足するまで、ずっとここにいてくれ」
その内、お互いに冷静になって話せる機会が必ず来る。その日まで、彼女に住処を提供するのが俺の責任だ。
「せ、責・・・! は、はい。こちらこそ、末永くお願いします」
深々と頭を下げるグレモリーさんの後頭部を眺めつつ、俺はこれからの事について考えていた。とりあえず、彼女の部屋を決めて・・・その前にアーシアに説明しないとな。
というわけで、部屋の隅に置かれていた馬鹿でかい鞄から服を取り出して着替えたグレモリーさんと一緒にリビングへ向かうと、既に起床していたアーシアが俺達を見て目を見開いた。んでもって、テーブルに向かい合って彼女へと説明を行う俺とグレモリーさんに、アーシアはあっけ無く頷いてくれた。
「わかりました。・・・正直、どこかでこうなるかもしれないって思ってましたから」
俺がパーティーを滅茶苦茶にするって? それならどうして止めてくれなかったのさ! 何て今さら言っても仕方無いんですけどね。
「これからよろしくね、アーシア。悪魔と一緒に生活するのは思う所があるでしょうけど」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします! そんなの気にしていませんよ。以前お話ししたように、私は悪魔だからってその人の全てを否定するつもりはありませんから」
流石ウチの天使は言う事が違いますね。当然、俺だってそんな事は気にしないですよ?
「ありがとう。あなたとならきっと仲良くやっていけると思うわ。・・・けど、神崎君については譲る気はないからね?」
「はうっ!? わ、私だって、負けませんから!」
握手しながらも激しく目線をぶつけ合うグレモリーさんとアーシア。なしてそんなライバルチックな感じになってんの?
・・・ま、仲良くするんならそれでいいか。それより、アーシアへの説明が済んだ事だし、この家の一員であるもう一匹も紹介しておこうかな。
「グレモリーさん。キミ、猫は好きか?」
「え? え、ええ。嫌いでは無いわ」
「実は、猫を一匹飼っていてな。名を黒歌というんだが・・・」
「ッ!? 黒歌ですって!?」
驚愕の様子のグレモリーさんに気付かず、俺は黒歌の姿を探した。
「アーシア、黒歌は?」
「黒歌ちゃんなら・・・」
とそこへ、我が家の癒しこと黒歌が満を持しての登場。早速抱き上げる為に近づこうとした俺を、グレモリーさんの鋭い声が制止した。
「下がりなさい神崎君! アーシア!」
「え?」
「な、何ですか!?」
「その猫は悪魔よ。・・・しかも、冥界では有名過ぎるほどの大物よ!」
ウエイ!? マジですか!? いや、確かにあの子は冥界で拾いましたけど、まさか悪魔だったなんて!
「さあ、正体を現しなさい! 主殺しの大罪人、黒歌!」
手にヤバそうな光を宿らせるグレモリーさん。すると、俺達の前で黒歌がその姿を変えていく。そして遂には、黒髪にネコミミと尻尾。それに艶めかしく着崩した和服という出で立ちの美女へと完全なる変身を遂げるのだった。
「・・・にゃ、にゃはは、とうとうバレちゃったにゃ」
気まずそうに表情を暗くする美女。猫が人になるなんて驚くしかない。けれどそれ以上に、俺は別の事に衝撃を受けていた。だって彼女には見憶えがある。あの時、強姦魔に襲われていた女性じゃん!
「どうしてあなたが人間界に! いえ、そもそもどうして神崎君の家に・・・!」
「待ってくれ、グレモリーさん」
色々聞きたい事があるが、とりあえず彼女に言いたい事があった俺は、グレモリーさんを制して美女の前に立った。
「ッ神崎君! その女は危険よ!」
「大丈夫」
美女が俺を見上げる。なんか凄く辛そうな顔をしている。
「あなたはあの時の女性で間違い無いかな?」
「う、うん・・・」
「よかった。あの時急に姿が見えなくなって心配してたんだ。まさか、あの時の猫があなただなんて思わなかったけどな」
あんな目に遭った女性を一人にするのは心苦しかったけど、あの時は強姦魔をぶちのめすのに夢中だったからな。そう言うと、女性の目に見る見る内に涙が溜まって行った。
「ッ・・・!」
あっと驚く間も無く、気付いたら女性に抱きつかれてました! 胸元でしゃくりあげるように泣き始める彼女に固まる俺。ただ、そのですね、この人滅茶苦茶スタイルいいんで、この状態だと色々密着して来て生きるのが辛いんですけど・・・。
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい。隠すつもりじゃ、騙すつもりじゃ・・・」
隠す? 騙す? 何の話ですか? グレモリーさんも泣いている彼女に戸惑っているみたいだし、アーシアは猫が人になった事によっぽど衝撃を受けたのかさっきから一言も発さずに固まっていた。
「とりあえず・・・みんな落ち着こうか」
カオスな空間に、俺の声がやけに大きく響いた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
その後、落ち着きを取り戻した美女を加え、俺達四人は改めて話し合いのテーブルに着いた。
「神崎君、あなたどうやって黒歌に接触したの?」
「偶然、彼女が男に乱暴されている場面に遭遇してな。その男を相手している間に彼女は姿を消して、その場には一匹の猫が残されていた。衰弱していた様なのでそのまま連れて来たんだ」
「・・・そうなの、黒歌?」
「ご主人様の言う通りにゃ。グラシャラボラスのお下劣男に不覚にも罠にハメられて、私自身がハメられそうになった時、突然現れたご主人様に助けてもらったにゃ」
この空気で下ネタブッ込んできたよこの人! グレモリーさんとアーシアが僅かに頬を赤らめる。何を想像したのかなキミ達は!
「それからは、ご主人様と一緒に人間界で暮らしてたにゃ。誓って言わせてもらえれば、ご主人様を利用しようとか、何かを企むとか、そういう考えは一切抱いていないにゃ」
「それって、去ろうと思えばいつでも去れたって事でしょ? 何で今までそうしなかったの?」
「私だって何度も出て行こうと思ったにゃ。私と一緒にいたら、何にも知らないご主人様にいつ危険が及ぶかもわからないからって・・・」
「それならどうして」
「・・・出来なかったのにゃ。ここは私の居場所じゃない。そう思っても、次の瞬間にはご主人様の向けてくれる優しい笑顔が、撫でてくれる温かい手の感触が、私の頭を一杯にしたから。あの温もりから離れたくない・・・いけないと頭ではわかっていても、心は納得してくれなかったにゃ」
・・・なんか、凄く嬉しい。彼女が俺の事をそんな風に思っていてくれたなんて。ならば、これからは今まで以上に愛情を込めて撫でてあげなければ!
「ずいぶんと勝手なのね。あなたのせいで小猫・・・いえ、白音がどんな辛い目に遭って来たのかわかってるの?」
どうしてここで塔城さんの名前が出て来るんだろう? 首を傾げる俺を見て察したのか、グレモリーさんが説明してくれた。
「神崎君。小猫の本当の名前は白音。あの子は黒歌の実の妹なのよ」
え、マジで!? まさかの身内発覚に驚く俺に、グレモリーさんは続ける。
「かつて黒歌は、力を暴走させ、仕えていた主を殺害し逃亡した。その妹である白音が周りからどんな扱いを受けて来たのか・・・予想は出来るでしょ?」
殺害という単語にアーシアの目に怯えが宿る。もちろん、俺だってビビった。けれど、俺の勝手な考えだけど、この人、理由も無くそんな事するような人には見えないんだよな。
「何か理由があるんじゃないのか?」
「ッ・・・!」
そう思った俺は、気付けば自然とその疑問を口にしていた。それは、彼女の反応を見た瞬間確信に変わる。
「話したくなければ無理に話さなくていい。だけど、話さないと伝わらない事だってあるんじゃないかな」
そこから誤解や勘違いが生まれる。それを訂正するには、やっぱりちゃんと話すのが一番の方法だ。・・・お前が言うな? ははは、何の話ですかな?
「・・・わかった。ご主人様がそう言うなら、全て話すにゃ」
決心した顔で女性は思い口を開いた。なんと、彼女・・・黒歌さんと、塔城さんは猫魈という妖怪なんだとか! そんなのまでいるのねこの世界って・・・。
んで、昔は二人で静かに暮らしてたんだけど、そこへ二人の力に目をつけた主ってヤツがやって来て、塔城さんを人質に黒歌さんを無理矢理眷属にしたそうだ。
・・・この時点で胸糞な話だが、それだけでは終わらない。主は黒歌さんが操る仙術というものを塔城さんにも使わせようと強引に迫ったそうだ。仙術って危険なものらしく、その時幼かった塔城さんではもしもの事が起こるかもしれない。大切な妹を守る為に黒歌さんは主を止める為に戦い・・・結果、殺害したそうだ。
なるほど。それで主殺しなんて呼ばれてるのか。けどさ、それって・・・。
「そ、そんな、黒歌ちゃ・・・さんは妹を守ろうとしただけじゃないですか! なのにどうして・・・!」
うん、アーシアの言う通り。殺意があったわけじゃなく、家族を守る為に止むを得ずって完璧な正当防衛じゃん。黒歌さん悪くないじゃん。いや、殺すのはよくないけど、情状酌量の余地はありまくりじゃん。
「・・・まさか、そんな真実が隠されていたなんてね」
グレモリーさんも初耳だったのか目を丸くしている。って事は、その事件を知る大多数の人間もこの事を知らないってわけね。それって、上手くいけば罪を軽くしたりとかも可能なんじゃないのか?
「わかったわ、黒歌。あなたの話を全て信じたわけじゃない。でも、あなたがわざわざ話してくれた事を否定するわけにもいかない。今の話はサーゼクスお兄様にもお伝えしておくわ。・・・それと、小猫には説明するの?」
「ま、待って。心の整理がついたら必ず白音にも話すから。それまではあの子には何も言わないで」
やっぱり、色々複雑なんだろうな。こればっかりは俺には何も言えない。彼女自身の問題だからな。
「そう・・・。なら、私から言う事は無いわ。それじゃ、今後の話をしましょうか。黒歌、あなたこれからどうするの?」
「・・・ご主人様にもバレちゃったし、ちょうどいい機会にゃ。今度こそ、この家を出て行くにゃ」
は? おいおいおい、何でそんな話になってんの? つーか、今の話聞かされて、放り出せるとか思ってんの?
「待て、黒歌さん。そんな事が許されると思っているのか?」
「え?」
「黒歌さんの正体が何者であろうと、あなたは既にこの家の一員だ。だから出て行く必要なんて無い」
「そ、そうですよ! そんなの駄目です! 黒歌さんがいなくなったら寂しいです!」
「で、でも、私は・・・」
「俺達の事は気にするな。微力だが、アーシアとあなたの二人を守る事は出来るはずだ」
彼女はこの世界で得た家族の様なものだ。例えこれから先に何があったとしても、いざとなれば二人を背負ってオルゴン・クラウドで逃げまくってやるぜ!
「フューリーであるあなたが微力なんて言っても皮肉にしかならないわよ」
「そうか?」
「フューリー? ・・・フュ、フューリー!? あの伝説の騎士がご主人様!? にゃ、にゃにそのギャグとしか思えないような展開!?」
そうだよね。いきなり伝説の騎士(笑)なんて言われても困るよね。ま、その話は追々として、今は黒歌さんの事だ。
「絶対に守るって誓うよ。だから俺を信じてくれないか、黒歌さん。あなたの居場所は・・・帰るべき家は、ここなんだ」
「ご、ご主人様・・・! ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
再び抱きついて来る黒歌さん。今度は固まったりせず、俺も彼女を思いっきり抱きしめた。
「怖かった・・・。ご主人様にこの姿を見られるのが。私の過去を知られるのが・・・。でも、いいんだよね? ご主人様の傍にいてもいいんだよね?」
「ああ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
子どもの様に泣きじゃくる黒歌さんの背中を、俺はいつまでも優しく撫で続けた。彼女はきっと嬉しくて泣いている。自惚れるつもりは無いけど、きっとそうだと信じる事にしよう。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「というわけで、私はこれからもこのお家のお世話になる事になりました。どうぞよろしくにゃ」
「・・・まあ、仕方無いわね」
「はわわ、同居人さんが一気に二人も増えてしまいました。今夜の夕食はどうしましょう」
渋々受け入れるグレモリーさんと、夕飯の心配をするアーシア。
「ねえねえ、ご主人様」
「何だ、黒歌さん?」
「呼び捨てでいいにゃ。それよりもご主人様、今日は一緒にお風呂に入るにゃ。それで夜は一緒のベッドで寝るにゃ。寝る時は、私が抱き枕になってあげるからね?」
「な、何を言い出すのよ黒歌!」
「そ、そうですよ! そ、そんな羨まし・・・じゃなくて、そんなの駄目ですよ!」
「ふっふーん。やっとご主人様に堂々と抱きつく事が出来るようになったんだし、我慢なんてしないにゃ!」
「そ、それなら私だって! 神崎君! 私の方が抱き心地がいいはずよ!」
「わ、私だって、精一杯ご奉仕しますよ、リョーマさん!」
はは、なんか、一気に賑やかになってしまったな。けど、こういう賑やかさなら大歓迎だな。
騒ぐ三人を見つめながら、俺は無意識に微笑むのだった。