ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
ですが、素人作品でありながら自分の書いたものについて色々ご意見を頂けるのは素直に嬉しいです。肯定意見も否定意見も、ちゃんと読んで頂いたからもらえる物だと思ってますので。・・・まあ、私のヘタレメンタルをゴリゴリ削るものもあったのは確かですが。
イッセーSIDE
「・・・イッセー」
・・・・・・誰かが俺を呼んでいる。その声は、今にも消えてしまいそうなほど儚く、弱々しいものだった。
「起きて・・・。起きてちょうだいイッセー・・・」
「・・・エルシャさ―――!?」
目を覚ました俺の目に飛び込んできたもの・・・。それは、体の半分以上が透けているエルシャさんの姿だった。
「か、体が・・・!? どうしたんですかエルシャさん!?」
「サマエルの毒よ。あれが私の魂を消滅させようとしているの・・・」
サマエル・・・? ッ! そうだ! 俺はシャルバからサマエルの毒を塗った矢を受けて・・・! というか消滅!? 何でそんな事に!?
「ベルザードや他のみんな、そして白龍皇の彼は先に逝ったわ。彼等は、あなたの魂が消滅するのを防ぐため、サマエルの毒を引き受けて消えていったの」
「お、俺は死んだんじゃ・・・」
「いいえ。あなたはまだ死んでいないわ。あなたの肉体は消滅したけれど、魂は『赤龍帝の鎧』に定着させる事が出来たの。そして今、無幻と無限・・・グレートレッドとオーフィスの力で、あなたの新たな肉体を創り出している最中よ」
「ファッ!?」
さっきから衝撃的な言葉ばかりで頭が追いつかない。グレートレッド!? オーフィス!? アイツはシャルバに連れて行かれたはずじゃ・・・!
「あの子、転移直前になって抵抗したのよ。そのおかげで、あなたと仲良くグレートレッドに次元の狭間へ運ばれたってわけ」
「そ、そうだったのか。で、でもどうしてあの場にグレートレッドが?」
「・・・それは、私の口から言う事じゃないわ」
ええ!? ここまで来て黙秘って勘弁してくださいよ!
「・・・さてと、伝える事は伝えたし、そろそろ私も逝くわね。後の事はドライグに教えてもらいなさい」
「え、いや、ま、待ってくださいよ・・・。行くってどこに・・・」
「さっき言ったでしょ。歴代の所有者達はサマエルの毒と共に消えて行ったって。私だって例外じゃないわ。あなたが目を覚ますまで何とか耐えられたけど、もう限界みたい」
俺の見つめる先で、エルシャさんの両足が完全に消滅する。
「みんな、最後まであなたの事を想いながら消えて行ったわ。あなたなら自分を越えられる。あなたならいつか紅の先へ至れるかもしれない。笑顔でそう言い残してね」
「・・・なんだよそれ。そんなん、俺に直接言えばいいじゃないですか! 何で・・・何であの人達が消えねえといけないんだよ! あの人達がいたから強くなれたのに、あの人達がいたから頑張れたのに、俺は・・・まだあの人達に何のお礼も出来て無―――」
瞬間、俺の唇にエルシャさんの唇が重なる。・・・え? 俺いま・・・キスされてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!?!?!?!?
「・・・いつか、キスしてあげたいって言ったでしょ? あの時の言葉は嘘じゃなかったのよ?」
「エ、エ、エル、エルシャさ・・・」
「お礼ならもう十分もらっているわ。私達の誰もが辿りつけなかった紅の極致。あなたはそれを見せてくれた。かつての赤龍帝として、あなたの先輩として、これ以上に嬉しい事は無いわ」
エルシャさんの手が俺の頬を撫でる。その指が先端から消え始めた。
「ふふ・・・。最初の頃は頼り無い弟みたいに思っていたのにね。今のあなたは、もう立派な男よ。あなたの夢の果て・・・私も見たかったわ」
「なら・・・なら見ててくださいよ! これからも俺を導いてくださいよ! こんな別れ・・・俺は嫌ですよ!」
「ゴメンなさい・・・。でもイッセー。あなたは一人じゃないわ。あなたにはいい仲間がたくさんいるわ。彼等と一緒なら、あなたはきっと大丈夫」
消滅がついに胸の位置へ辿り着く。嫌だ! 消えるな! 消えないでくれエルシャさん!
「さようなら、イッセー・・・。あなたと出会えて、本当に楽しかったわ・・・」
「エルシャさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
イッセーSIDE OUT
祐斗SIDE
中級悪魔への昇格試験、そして英雄派及び死神達の襲撃から二日後、僕はグレモリー邸にいた。フロアに備え付けの大型テレビには巨大な魔獣の姿が映し出されている。あの空間でシャルバ・ベルゼブブの外法で生み出された魔物だ。
『ごきげんよう! 下劣な悪魔諸君! 私はシャルバ・ベルゼブブ! 諸君に破壊と死を与える“毒”である!』
シャルバ・ベルゼブブは電波ジャックによる犯行声明を出した。それを聞いた僕は愕然とした。“彼”が仕留め損ねるわけが無い。あの戦いは相討ちで終わったんだとばかり思っていたのだから。
しかし、映像の向こうであの男はそれを否定した。
『私が生み出した魔獣は全部で十三体! 一体でも街を破壊できる強さと大きさだ! その全てが現在、各重要拠点及び都市部へ向けて進撃中である! 果たして諸君に止める事は出来るかな? ・・・そうそう、諸君等の大好きなフューリーや赤龍帝の助けを期待しても無駄だよ? 忌まわしきあの騎士は『禍の団』によりこの世界から消え去り、赤龍帝は・・・私がこの手で始末したのだからね!』
アザゼル先生の言った通り、敵は先輩を策に陥れた事を吹聴した。おかげで冥界の上層部は市民達から説明責任を果たせと詰め寄られる事となった。
自慢気に高笑いするシャルバ・ベルゼブブを見て、僕は今すぐ首をはね飛ばしたい衝動に駆られた。だが、あの男は犯行声明後、全く姿を見せていなかった。
テレビに映る魔獣は人型の巨人の様な姿をしている。体長は優に百メートルは超えているだろう。これは全ての魔獣に共通している事だった。
そして、その中で群を抜いて巨大な魔獣が魔王領の主都であるリリスへと向かっている。冥界政府はこの魔獣を『超獣鬼』、その他の十二体は『豪獣鬼』と呼称した。テレビの向こうで最上級悪魔とその眷属の方々が魔獣に攻撃を加えるが、魔獣はまるで意に介した様子も無く進撃を続ける。あれほどの強力な攻撃であろうとも、魔獣の体の表面にしかダメージを与えられていない。
悪魔だけでなく、堕天使部隊、天界の『御使い』、ヴァルハラのヴァルキリー部隊、そしてギリシャの戦士達が共に戦ってくれているおかげで、何とか踏みとどまれている状況だ。
あの“皇帝”ディハウザー・ベリアルのチームですら、『超獣鬼』を止める事は出来なかった。民衆の不安はさらに煽られる。加えて、この混乱に乗じて旧魔王派の者達がクーデターを頻発させていた。おそらく、シャルバ・ベルゼブブに呼応した者達なのだろう。
「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王様方の眷属が出撃されるようだぞ」
背後からかけられる声。テレビに集中していた所為で接近に気付かなかった。僕がそちらへ顔を向けると、そこにはかつて僕達と勝負を繰り広げた相手・・・ライザー・フェニックスが立っていた。以前の様な派手なスーツ姿だが、その首には何故かマフラーの様に炎が巻かれていた。
「兄貴の付き添いでお邪魔した。ホテル以来だな木場祐斗」
「そうですね・・・。部長には会いましたか?」
「これから会いに行くつもりだ。・・・お前から見てリアス達の様子はどうだ?」
「・・・最悪ですよ。柱だった二人がいなくなってしまったんですから」
「・・・悪い。無神経な質問だったな」
頭を下げるライザー・フェニックス。僕達と戦った時とは雰囲気がすっかり変わっていた。こうして僕相手に躊躇い無く頭を下げるのがその証拠だ。
「お前も一緒に来るか?」
「そうですね。なら案内します。みんな集まってるはずですから」
「頼む」
「それじゃあ僕について来てください。・・・それと、今さらな質問ですが、その首の炎は?」
「カッコいいだろ?」
カッコいいかどうかは別にして、室内で炎は出さない方がいいと思いますよ。
ライザー・フェニックスと共に部長達のいる部屋を目指そうとしたその時。またしても見知った人物が僕の前に現れた。
「よお、木場。それに・・・そっちはライザー・フェニックスさんじゃないですか」
「匙元士郎か」
「ありゃ、俺の事知ってるんですか?」
「シトリー眷属の中で最も警戒すべき者・・・それがお前だからな。いずれゲームでぶつかるかもしれんし、今から調べるのは当然だろう」
「ほへー。さすがプロっすねぇ」
「匙君。キミも来てたのか」
「会長がリアス先輩の様子を見に行きたいって事で、付き添いさ。・・・木場、俺は今回の防衛戦に参加するぜ。都市部の一般悪魔のみんなを守る」
「・・・そうか。僕達もおそらく合流する事になると思うよ」
「・・・大丈夫なのか?」
匙君の心配は最もだ。だけど、それでも行かなければならない。
「力ある者は力無き者を守る義務がある。辛くとも、戦わないといけない時もある」
ライザー・フェニックスが真剣な声色でそう言う。その通りだ。きっと先輩や“彼”もこの場にいたら同じ様な事を言っていたはずだろう。
「なら木場、お前に頼みがある」
笑顔から一変、匙君は恐ろしい顔で全身に殺気を纏わせる。
「神崎先輩を嵌めた英雄派の連中。そして兵藤を殺したシャルバ・ベルゼブブ。どっちでもいい。もし見かけたらすぐに俺に教えてくれ。俺が・・・ヴリトラの炎で魂まで燃やしつくしてやるから」
「匙君・・・」
「俺の目標だった人とライバルだったヤツ―――それを奪った連中を俺は絶対に許さない。他のシトリー眷属達は先輩がいなくなって泣いているが、俺は違う。この怒り・・・この憎しみ・・・全部纏めて連中に味わわせてやるって決めたんだ!」
真っ黒なオーラが匙君の体を包み込む。抑え込んでいた力が許容量を越え溢れ出しているのだ。
「木場祐斗。その時には俺にも教えろ。俺に初心を思い出させてくれたフューリー先輩を嵌めやがった英雄派をフェニックスの炎で消し炭にしてやる」
そうか、この人は神崎先輩を・・・。
その時、テレビの場面が映り変わった。魔獣の進撃から避難を始めた人々の映像だ。レポーターの女性が避難をしている子ども達の元へ向かった。
『僕達、怖くない?』
『ぜーんぜんへいきだよ! ね、みんな!』
『『『『『うん!』』』』』
『どうして?』
『だって、あんなわるいモンスター、フューリーさまやせきりゅーてーやライオンさんがきてたおしてくれるもん!』
『わるいことをするとね、フューリーさまにヴォーダのやみにかえされちゃうんだよ!』
『ぼくたちがたすけてー! っておねがいしたら、せきりゅーてーがきてくれるんだ!』
『あきらめなかったら、ライオンさんがすっごいパンチでやっつけてくれるの!』
『『『『『だから、ぜーんぜんこわくないんだ!』』』』』
「ッ・・・!」
満面の笑みでそう声を合わせる子ども達を見て、僕は込み上げて来たものを必死に抑えていた。
「子ども達は・・・信じてるんだな。先輩や兵藤達の事を・・・!」
「ふん。俺の名前が出ないのが納得出来んが・・・まあいい。いずれ冥界の子ども達にライザー・フェニックスの名を轟かせてやるぞ! ふははは!」
「―――俺達が思っている以上に、冥界の子ども達は強い。こういったものを見せられると、そう思い知らされるな」
その男はいつの間にか僕の隣に立っていた。さっき子ども達の言葉。一人目は先輩、二人目はイッセー君、そして、三人目はこの男・・・。
「しかし・・・俺の呼称は今後ライオンさんで統一されるのだろうか?」
サイラオーグ・バアルその人だった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
ライザー・フェニックスに匙君、そこへサイラオーグ・バアルが加わった所で、僕達は改めて部長達のいる部屋を目指して歩き始めた。そして、目的の部屋まであと少しとなった所で、突然の怒声が僕達に届いた。
「もう一回言ってみなさいよ!」
「今のは・・・」
「どうやら、穏やかな雰囲気では無さそうだな」
扉を開け部屋へ入る。僕の目に飛び込んで来たのは、部長の胸倉を掴みあげている黒歌さんの姿だった。な、何だ。何が起こったんだ!?
周囲を見渡す。グレモリー眷属にアーシアさん、レイヴェルさん。ソーナ会長、神崎先輩の眷属であるレイナーレさん達。さらにはバラキエルさんに、ライザー・フェニックスの兄であるルヴァル・フェニックス氏。多くの人達がハラハラした表情で部長達を見守っていた。
「お、落ちついてください姉様・・・!」
「白音は黙ってて。リアス、アンタ自分がいま何を言ったかわかってるの? 禁術の情報収集と調査・・・上層部の悪魔達はそれを断った。今は冥界の危機。だから人員を割く余裕は無いとか何とか尤もらしい事をほざいてるけど私にはわかる。あの連中はこれを期にご主人様を排斥するつもりなんだ。今までさんざんご主人様に助けてもらって来た癖に! 自分達のくだらない面子を取り戻す為にご主人様を見捨てる気なんだ!」
「・・・本当ですか、兄上?」
「事実だ。上層部の者達はフューリー殿がいなくとも魔獣は倒せるとの声明を先程発表した。もちろん、自分達は戦いには出向かず、すでに安全な所にいるがな」
ライザー・フェニックスにそう答えるルヴァル氏。それが黒歌さんには許せないのだろう。僕も同じだ。上層部の考えにはほとほと呆れてしまう。だけど、それがどうして部長の胸倉を掴む事に・・・?
「そうね。黒歌、あなたの言うとおりでしょうね。・・・でも今は、そんな事はどうでもいいの。重要な事じゃないわ。私達が考えないといけないのは、どうやってあの魔獣達から冥界を守るかについてよ」
「・・・何なのよアンタ。何で・・・何でそんなに普通でいられるのよ! アンタ、グレモリーでしょ! なのに・・・自分の好きな人と眷属を失って、どうしてそんな冷静でいられるのよ!」
・・・それは僕も思っていた。今にして思えば、部長はずっと冷静だった。先輩がいなくなった日から今日までずっと落ちついていた。神崎先輩とイッセー君を失い、絶望のどん底に突き落とされた僕達の中で、ただ一人冷静に物事を対処しようと努めていた。先輩を愛し、誰よりも僕達を愛してくれていた人が、大切な人を失ったショックをまるで感じていないようだった。
黒歌さんの責める様な言葉を受けても、部長は表情を変えない。そして次の瞬間、信じられない言葉を口にしたのだ。
「だって・・・心配するだけ無駄じゃない」
部長・・・!? なんて事を・・・!
「ッ・・・! お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「姉様! ダメぇ!」
拳を振り上げる黒歌さん。それが部長の顔にぶつかろうとしたその時―――部長は怯む事無くこう宣言した。
「私は信じているもの。あの人は・・・リョーマは必ず帰って来るって」
「え・・・?」
ピタリと、黒歌さんの拳が止まる。拳圧で部長の長髪がふわりと撒き上がる。それを掻き上げながら、部長は黒歌さんに問いかけた。
「ねえ、黒歌。リョーマは何者?」
「・・・何よ急に」
「いいから答えて」
「・・・ご主人様はご主人様よ。伝説の騎士で、強くて優しい私の大好きなご主人様よ」
「そう。リョーマは二天龍を退けた伝説の騎士フューリーよ。そして、かつて別世界を救った鋼の救世主・・・。黒歌、あなたも見てきたでしょ? どこまでいっても人間である彼が、悪魔、天使、そして堕天使の常識をことごとく越えて行く姿を。そんな彼が、たかがテロリストの姦計ごときに屈すると思う?」
「それは・・・」
「それこそありえないわ。時間? 空間? リョーマはそんな物で縛れる様な人じゃないもの。時間を越える術が無いのなら、編み出せばいい。彼ならきっとそれぐらいやってのけるわ。だから私は信じてる。あの人は・・・リョーマは絶対に私達の元へ帰って来てくれるって」
「部長さん・・・」
「イッセーだって同じよ。あの子は私の・・・リアス・グレモリーの自慢の眷属よ。あの子は守れない約束をする子じゃない。あの子が帰るって言ったのなら、絶対に帰って来るわ。たとえ駒だけが帰って来たとしても、私はあの子の『王』よ。『王』が眷族を信じないでどうするのよ」
真紅に染まった『兵士』の駒を懐から取り出し、みんなへ見せつける様にそれを持つ部長。その瞳には、迷いも、恐れも、悲しみも存在していなかった。
「二人は絶対に帰って来る。だから心配するだけ無駄なのよ。それよりも、二人が帰って来た時に不甲斐無い姿を見せてしまう方が私には耐えられないわ」
その言葉にはなんの根拠も無い。・・・けれど、その言葉はどこまでも説得力に満ちていた。沈んでいた仲間達の顔から絶望の色が少しずつ消え始めた。
それにね・・・と部長は傍にいた朱乃さんを抱きしめた。
「リ、リアス・・・?」
「・・・私の悲しみはあなた達の悲しみ。私の怒りはあなた達の怒り。朱乃・・・あなた達が私の分まで悲しんでくれる。私の分まで怒ってくれる。だから私は泣かなくていい。怒りに身を任せたりしなくていい。あなた達の『王』として・・・どこまでも冷静でいられるのよ」
慈愛と力強さが溢れだす笑顔を浮かべる部長。―――僕達の敬愛する、誇り高き『王』がそこにいた。
「・・・見事」
ルヴァル氏の呟きが耳に入る。レーティングゲームでトップ十に入った事もあり、近々最上級悪魔へ昇格すると噂されるほどの人物が、部長に賛辞を贈ったのだ。
「くく・・・はははは! リアスよ、兵藤一誠の熱血が移ったのではないのか?」
「そうかもしれないわ。リョーマとイッセー・・・あの二人が私を変えてくれたもの」
「ならば、俺は先に戦場でお前達を待つ事にしよう。だが、ぐずぐずしていたら俺が全て屠ってしまうかもしれんぞ。それを異とするならば、すぐに追いかけて来るがいい!」
用は済んだとばかりに、サイラオーグ・バアルは踵を返し部屋を出て行った。・・・もしかしたら、彼は部長を励まそうと来てくれたのかもしれない。
「獅子王に負けてはいられない。弟よ、私達も出るぞ」
「お任せください兄上! このライザー・フェニックス、たとえ相手が何であろうと、我が業火の翼で全て燃やしつくしてやりますとも!」
「・・・ようやく愚弟を卒業したと思ったが、どうやら馬鹿からはまだ卒業出来そうにないな」
「なんですとぉ!? 兄上、どういう事ですか!?」
「リアスさん。そちらの机にフェニックスの涙を置いてある。数が少なくて申し訳ないが、役立ててくれたまえ」
「はい。お心遣い感謝したします」
続けて部屋を出るフェニックス兄弟。不死身のフェニックスはきっと前線の心強い戦力になるのだろう。
「リアス・・・私・・・」
「何も言わないで黒歌。私の言い方が良く無かった所為で嫌な思いをさせてしまってごめんなさいね」
「・・・先に言うなんてずるいにゃ」
頬を膨らませて不満をアピールする黒歌さん。もう二人の間に険悪なムードは無い。黒歌さんも、先輩の帰還を信じる事にしたんだろう。
「さあみんな、これから忙しくなるわよ。とりあえず戦いに備えて各々準備して・・・」
「いえ、その前に休息です」
ソーナ会長が部長の言葉を遮る。
「ソーナ? 休息ってどういう事?」
「あなた達は気付いていないかもしれませんが、みんな憔悴した顔をしています。おそらく、ロクに睡眠も取れていなかったのでしょう。ですから、まずは体と心を落ち着かせる事が必要です」
「そう・・・かしら? まあ、あなたがそう言うならそうなんでしょうね。なら三十分・・・いえ、一時間くらい休憩時間にしましょう。時間になったらフロアに集合よ」
そこで一旦解散となり、みんなが部屋を出て行く。そして、僕が部屋を出て行こうとしたその時、背後から部長とソーナ会長の会話が聞こえて来た。
「リアス。あなたはここで休んでください。今から一時間・・・この部屋には誰も近寄らせません」
「・・・どういう事?」
「・・・眷属達の前で、あなたはよく頑張りました。でも、一人でいる時まで『王』でいる必要はありません。もう我慢しないで。溜まっているものを吐き出してください」
会長はそう言って僕と共に部屋を出た。すると、数秒も経たず中から部長の嗚咽が聞こえて来た。
「うう・・・リョーマ・・・イッセー・・・」
「・・・本当なら、誰よりも泣き叫びたかったはず・・・。ですが、リアスはそれをよしとしなかった。あなた達の前で必死になって『王』で在り続けた。・・・敵いませんね」
ッ―――! 部長・・・あなたは、あなたという人は、自分の心を殺してまで僕達を励まそうと・・・!
―――おいおい。お前まで残ったら誰が部長達を守るんだよ。木場、お前はグレモリー眷属の『騎士』だろ? 俺がいない間ちゃんと部長達を守ってくれよ。
・・・任せてくれ、イッセー君。部長達は僕が命をかけて守る。だから、キミも早く戻って来てくれ!
祐斗SIDE OUT
イッセーSIDE
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、エルシャさん?」
「・・・何かしら?」
「俺、たった今悲しい別れをしたと思ったんですけど」
「ええ」
「じゃあ・・・なんであなた消えて無いんですか!? そんでもって、あなたの後ろに立っているベルザードさん達は何なんですか!?」
エルシャさんが完全に消滅しようとした次の瞬間、彼女は消えるどころか完全に元の姿に戻っていた。それだけじゃない。俺を守って消えて行ったはずのベルザードさん達がいつの間にか全員揃っていたのだ!
「なんですかこの展開!? 新手の詐欺ですか!? だとしたら訴訟も辞さないですよぼかぁ!」
「お、落ちついてちょうだい。私も、何が起こったのかわからないのよ」
全員が混乱している状況の中、不意にドライグの声が聞こえて来た。
―――相棒。
ドライグ!? よかった、お前、消えてなかったんだな! で、なんか滅茶苦茶な状況になってるんだけど、お前理由わかるか?
―――今からお前の精神を引っ張り上げる。・・・相棒、今の内に心を落ち着かせておけよ。
な、なんだよその不安を煽る様な言葉は。
体が引っ張られたかと思った次の瞬間、俺は水の中を漂う様な感覚を味わった。・・・って、マジで水の中じゃねえか!?
―――それは培養液のようなものだ。お前の魂はすでに新しい体に移し換えた。後はその体が完成するまでの辛抱だ。
うおお、マジで創ってたのか。・・・お、ちょうど目の前がガラスみたいに透き通っていて外の様子が見えるぞ。
「ドライグ、もう少しで目覚める」
オーフィス!? よかった。エルシャさんの言った通り、シャルバの所から逃げて―――。
「『復活』を使ったし、無事に出て来てくれたらいいんだが・・・」
あー、なんかもうちょっとかかりそうですよ神崎先・・・輩・・・。
「ごぼぼぼぼっ!?!?!?!?」
って、神崎先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!? なんで!? なんであなたまでそこにいるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?
「な、なんか滅茶苦茶泡だっているんだが・・・」
「ドライグ、驚いてる」
「ごぼぼぼぼっ!(そりゃ驚くってーの!)」
エルシャさんが消えなくて、消えたはずの歴代の所有者が全員戻って来て、挙句の果てには神崎先輩!? どんだけカオスな状況だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
声にならない叫び声に、俺の体の周囲で再び大量の泡が発生するのだった。
あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ。この章は久々にオリ主回だと思っていたら、気付けばイッセー回、そしてリアス回になっていた。な、何を言っているかわからないと思うが(以下略
朱乃の母親の時とは違い、今回は生きている人間を早く目覚めさせる為なので何の問題も無いな!(白目
エルシャ「さようならイッセー」
イッセー「エルシャさぁぁぁん!」
オリ主「ほい」つ復活
エルシャ「戻ってきちゃった。テヘペロ」
イッセー「ヴェイッ!?」