ハイスクールD×D〜転生したら騎士（笑）になってました〜 作：ガスキン
イッセーSIDE
撃ち返されたドラゴンショットを何とか防いだ俺達は、ホテルの一室へ移動していた。この部屋を陣地とし、これからの作戦を練る。
「・・・ゲオルクの言った通り、ホテル前の駐車場に死神達が集結しています」
「けっ。ハーデスの野郎。ちょっと目を離した隙にもう動き始めたってわけかよ」
偵察から戻って来た木場の報告に、アザゼル先生が憎々しげにそう漏らす。曹操に貫かれた際の傷はアーシアによって完治している。それと、小猫ちゃんのお姉さんも元通りなんだけど、問題は“彼女”だ・・・。
「戻りました」
入室して来たのはルフェイだった。彼女は隣の部屋に運ばれたヴァーリちゃんの所へ行っていた。『覇龍』を発動させようとしたあの時、ヴァーリちゃんはサマエルによって呪いをかけられていたのだ。ルフェイは呪いを解く術を覚えているので、それでヴァーリちゃんの呪いを解こうとしたのだが・・・悔しそうな顔をしているので上手くいかなかったのかな。
「どうだったルフェイ？」
「・・・ごめんなさい。私の力では解く事は出来ませんでした。ですが、最善の処置は施しましたので、命の心配はありません。このまま自然に呪いが解けるまで、ヴァーリ姉様には耐えて頂くしかありません」
そっか。一安心・・・とは言えないけど、ヴァーリちゃんならきっと呪いなんかに負けないだろ。
「それと、これはたった今通達された事のようなのですが・・・」
そう前置きしてルフェイが話を続ける。なんでも、ヴァーリちゃん達のチームがクーデターを企てたとの報告が『禍の団』内部に送られたらしい。しかも、オーフィスを騙して組織を牛耳ろうとした事を掴んだ英雄派がオーフィスを無事救助したので、ヴァーリちゃんのチームの者を見つけたら即刻始末しろ・・・との命令もそれぞれの派閥に出されたらしい。
「英雄派もやる事が一々しょうもねえな。同情するぜルフェイ」
「いいんですよ。私達のチームは以前からずっと組織の中で浮いていましたから」
「そういや、ヴァーリがそんな事言ってたな。・・・なあ、今になって聞くのもなんだがよ。お前等は『禍の団』で何をやっていたんだ？ 各地からあがってくる『禍の団』によるテロの報告の中にお前等を見たという情報は皆無だったんだが」
それは俺も気になってた。ヴァーリちゃんも彼女のチームのヤツ等も、テロなんかに手を染める様な風には見えない。ラーメンジャンキーな美猴や紳士なアーサー。緊張し過ぎてまともに話す事も出来なくなるほどの神崎先輩ファンなルフェイに、色々自由過ぎるヴァーリちゃん。この個性的な面子で構成されたチームの目的って何なんだろう？
「ヴァーリ姉様が『禍の団』に入ったのは、より強い人と戦える機会を得られると思ったからです。ですが、それもすぐフューリー様にリベンジする・・・という目的に変わっちゃったみたいです。それからは、伝説と呼ばれる強者を探し回って勝負を挑んだり、グレートレッドさんをはじめとする世界の“謎”を調べたりして、たまにオーフィス様のお願いを聞いたりする・・・そんな感じでした。それが、他の人達には面白くなかったみたいで、私達は徐々に孤立を始めました。ですが、ヴァーリ姉様も他の二人も全く気にしてないみたいでしたよ」
「強者とか“謎”とか・・・冒険家でも気取るつもりかあの娘は」
「あら、強者についてはヴァーリ姉様本来の性格によるものですけど、“謎”の探求はアザゼル総督の影響だと思いますよ？」
「・・・そうかよ」
先生、こう言ってはなんですが、顔がお父さんのそれになってます。「生意気な」とか「探究心で俺に勝てると思ってんのか」とか、娘に構ってもらえたのが嬉しいくせに逆の事を言ってるツンデレパパじゃないですか。
「我、ただいま」
「おう、戻ったかオーフィス。具合はどうだ？」
「この階層を見て回る」と言って出かけていたオーフィスが戻って来た。何しに行ってたんだろう。あと、ただいまの前に我はつけなくていいぞ。
「今の我は、全盛期の二天龍より二回り強い」
「・・・つまり、そこまで弱くなったって事か」
いやいや、それでも十分強いじゃないですか！ などと突っ込もうとしたら、オーフィスがゴスロリ服のポケットから何か取り出した。
「え、サングラス？」
予想だにしないアイテムにポカンとする俺の前で、オーフィスがそのサングラスを装着した。
「弱くなった我は、まるで、ダメな、オーフィス。つまり、我はマダオ。しょぼーん」
「「・・・は？」」
しょぼーん・・・じゃねえよ！ なんだよまるでダメなオーフィスって！ 弱くなった自分が許せないって言いたいのか？ それなら何で微妙に胸を張ってんだお前！
「・・・それにしても妙だな。ゲオルクは四分の三は奪ったと言っていたが・・・これだけの力が残っていれば十分過ぎる」
スルーしたよこの人・・・。でもって、先生のその疑問はオーフィス本人の口から答えが出た。コイツ、サマエルに力を奪われている間に、自分の力を蛇に変えて別の空間に逃がしていたらしい。じゃあ、さっきまでホテル内を周っていたのは蛇を回収する為だったって事か。
「蛇は回収した。でも、ここからは出られない。ここ、我を捕える何かがある」
「はっはあ！ 流石だなオーフィス。ゲオルクめ、オーフィスを舐め過ぎたな。お前等もそう思うだろ？」
先生が室内のみんなへ顔を向ける。・・・けど、それに反応する者は誰もいなかった。室内に漂う重苦しいなんてレベルじゃない空気。原因なんて今さら確認する必要も無い。・・・ゲオルクの野郎・・・最悪の爆弾を残していきやがった。
（神崎先輩・・・）
俺達にとって、あの人の存在がどれほど大きかったのか改めて思い知らされる。朱乃さんは虚ろな目でボーっと天井を見上げているし、アーシアはずっと自分を責め続けている。それを慰めるゼノヴィアやイリナの顔も悲痛なものだった。小猫ちゃんのお姉さんは今にも部屋を飛び出して死神達の所へ突撃しそうな雰囲気で、それを抑えようとする小猫ちゃんは普段では決して見せない様な弱々しい顔をしている。レイヴェルも同じ感じだ。
俺だってショックは大きい。けど、こんな時だからこそ、冷静にならないといけない。ここを乗り切らなければ、先輩を救出する事すら出来なくなるんだから。木場も俺と同じ思いなんだろう。表情は暗いが、偵察も自ら志願してやってくれたし、戦う気力は残ってるみたいだ。
そんな中、みんなと違う様子を見せる人物がいた。それは部長だ。
「・・・オーフィスの抵抗を想定したからこそ、ハーデスは死神を寄越したんでしょうね」
「だろうな。今のオーフィスは有限に落ちちまってる。サマエル以外のオーフィス封じの策も当然用意してるはずだ。だからこそ、ここは勢い任せではなく慎重にならなければならない」
「どうにかして外に助けを求める方法があればいいのだけれど。それか、少人数だけでも外に送り出す術があれば・・・」
朱乃さん達の様に取り乱す事も無く、小猫ちゃんのお姉さんの様に怒りに支配される事も無く、状況打破の為に先生と作戦会議を行う部長。その姿が俺にはありがたかった。部長が冷静に見えるからこそ、俺も落ちつく事が出来た。こういう時の部長ほど頼りになる存在は無いな！
「ルフェイ。お前さんの魔法で何か使えそうなものは無いのか？」
「確かに、私と一緒にならこの空間からお二人だけ離れる事は可能です。ただし、一度転移すればあちらも気づくでしょうし、チャンスは実質一回だけだと思われます」
「なら、それで外に助けを求めましょう。出来ればオーフィスを真っ先に脱出させたいけれど、さっきの話から察するに、それは不可能でしょう」
「その通りだ。オーフィスは残す。そうだな・・・イリナ、お前が行け。サーゼクスと天界の連中に英雄派の真意とハーデスの動き・・・それと、フューリーの事も伝えろ」
「リョーマの事も？」
「おそらく、『禍の団』の連中はフューリーを嵌めた事を吹聴するはずだ。「伝説の騎士がテロリストに屈した」とか何とか言ってな。それが後になるか先になるかの違いだけだ」
確かに、アイツ等ならそう言いそうだな。卑怯な騙し討ちをしたくせに、それで自分達の組織の強さでもアピールするつもりなんだろうか。だとしたらもう、怒りを通り越して呆れちまうわ。
「ま、待ってください！ 脱出するならレイヴェルさんかアーシアさんを・・・」
「・・・私の事は気にしないでください。この状況で我が身可愛さに動くつもりはありませんわ」
「・・・私もです。何があっても私の神器でみなさんを治します。これ以上・・・私の大切な人達を失いたくないから・・・！」
立派だなレイヴェル。それでこそオカルト部員だぜ。それにアーシアも・・・こんな時まで俺達の心配をしてくれるだなんて。先輩の事で一杯一杯のはずなのに。
「コイツ等も覚悟を決めてる。そして、俺がコイツ等を絶対に守る。それが・・・この状況を招いてしまった原因である俺の責任だ」
先生が原因？ やっぱり、さっきのゲオルクの話について何か知ってるのか先生・・・。
「先生、あなたは先輩がいなくなった事を知ってたんですか？」
「ああ。三日前にリアスから連絡を受けてな」
じゃあ、何で俺にも教えてくれなかったのか・・・。なんて、考えるまでも無いか。昇格試験前の俺が集中出来るようにあえて黙っていたんだろう。それについて俺が文句を言う資格は無い。
「護衛としてゼノヴィア、お前も行け。エクス・デュランダルをぶっ壊された事で、お前は本来の力を発揮出来なくなっただろう。ついでに修理しておけ。どうせ、この戦いで終わりじゃねえんだ。さっさと相棒を直して来い」
「・・・叶うなら、先輩を騙し討ちした連中の仲間を切り捨ててやりたかったが、この状況では仕方無いか」
悔しさを滲ませながらも頷くゼノヴィア。そこへルフェイが一本の剣を持って来た。
「なら、これを持って行ってください」
「え！？ こ、これって・・・『支配の聖剣』じゃない！」
「兄から預かっていた物です。いつか使う時が来ると思って保管していたようですけど、今後も機会が無さそうなのであなた達の誰かに貰って欲しいとの事です。どうぞ、これであなたの剣を復活させてあげてください」
「あ、ありがとうルフェイさん！」
「感謝する・・・」
「えへへ、どういたしまして。それじゃあ、お二人はこのまま私と一緒に別室に移動してもらいます。そこで転移の術式にあなた達の情報を組みこみます」
頷き、部屋の出入り口へ向かうゼノヴィアとイリナ。そして、その後を追おうとするルフェイを、俺は引き止めた。
「な、なあ、ちょっといいかな？」
「はい、何ですか？」
「その、こんな事言われたらムカつくかもしれないけどさ。キミ、神崎先輩の事好きなんだよね？」
「ふええ！？ そ、そんな畏れ多いですよぉ！ わ、私はただのファンというか、その・・・！」
「わ、わかったから落ちつけ！」
「は、はいぃ・・・」
「で、こっから本題なんだけど。キミ、さっきの話を聞いてもあんまりショックを受けて無い様に見えるんだけど」
「それは、フューリー様がもう帰って来ないという話ですか？」
俺が頷くと、ルフェイは苦笑しながら答えた。
「・・・私、フューリー様はきっと戻って来ると思うんです」
「え？」
「だって、あの方は救世主で英雄ですから。そんな方が、自分を求める声に応えないわけないと思います。だからみなさんや私が求め続けたら、きっともう一度姿を見せてくれるんじゃないかなって」
「ルフェイ・・・」
「あ、ご、ごめんなさいこんな浮ついた答えで。みなさんは心からフューリー様の事を心配してるのに」
「いや・・・キミの言う通りだよ」
そうだ。あの先輩がこのままやられっぱなしで終わるわけねえ。だから俺達は信じればいいんだ。先輩の・・・伝説の騎士の帰還を！
・・・・・・・
・・・・・
・・・
部屋の窓から外の様子を窺う。下の方に漆黒のローブを纏った集団が確認出来た。・・・あれが『死神』か。揃いも揃って趣味の悪い装飾が施された大鎌を手に持っている。
これは明らかにハーデスの越権行為。先生はそう言った。政治的な事は俺にはさっぱりなので、そこら辺の事は先生に任せておけばいい。
ゲオルクの神器で創られたこの空間から脱出する為には三つの方法がある。その中で俺達が選択したのは術者の撃破、もしくはこの結界を支える中心点と呼べる部分を破壊する事だった。
ルフェイの魔術で場所の調べはついた。駐車場、ホテルの屋上、そしてホテル二階のホール会場。そこにこの結界を維持する装置がある。ウロボロスの形をした像。それが俺達の破壊するべきターゲットだった。
「ルフェイ。装置の周りにはやはり死神がいるのか？」
「はい。というか、私が結界を張ったこの階以外には廊下にも死神の方々がいらっしゃるようです。ただ、曹操様の姿はありません。ですがゲオルク様は駐車場にいらっしゃいますし、ジークフリート様の姿も新たに確認しました」
「そうなると、ゲオルクのいる駐車場のヤツをさっさと破壊したい所だが・・・」
でも、他の場所も忘れちゃ駄目なんだよな。それぞれに分かれるのも得策とはいえないし。うーん・・・『覇龍』のあのキャノンでも使えればいいんだけどなぁ・・・。
「イ、 イッセー・・・！？」
ん？ 部長が俺を見てビックリしてるぞ。何でだ？
「って、何じゃこりゃ！？」
発動させた覚えが無いにも関わらず、俺は禁手状態になっていた。しかも、肩からは二門のキャノン！ 『覇龍』時のモノとは大きさや長さが控えめだけど、それでも立派な武装だ。で、でも何で急にこんな・・・。
『あら、あなたがキャノンが欲しいって望んだんじゃない。だから『練成』で造り出したのよ』
え！？ ちょ、ちょっと待ってくださいよエルシャさん！ 俺、てっきり『練成』は『覇龍』に至ったら使えなくなるとばかり思ってたんですけど・・・！
『その通りよ。これは紅の極致へ至ったあなただから許された権利。さらなる強さを模索する手段として、あなたは今後も『練成』を行う事が出来る様になったのよ』
マ、マジか・・・。いや、俺としては願ったり叶ったりなんだけど。
『ならいいじゃない。それで、そのキャノンであなたはどうするつもりなのかしら？』
「先生、部長。俺に考えがあります」
そうして、俺は思いついた作戦を二人に伝えた。それを聞いた二人は目を丸くしながらもそれを認めてくれた。
「なるほど、確かにそれならすぐに駐車場に攻め入れるな」
「凄いわイッセー。この状況でそんな作戦を思いつくなんて」
俺の思いついた作戦は単純明快。この二つのキャノンを屋上とホールの像にぶっ放して一気に破壊する。ついでに周りの死神も倒してやるつもりだ。
「そういう事なら、正確な像の位置を調べにゃならんな。ここは黒歌か小猫の仙術に頼りたい所だが・・・」
「・・・私がやります」
名乗り出たのは小猫ちゃんだった。
「小猫・・・大丈夫なの？」
「平気・・・とは言えません。でも、部長やイッセー先輩達が頑張ってるのに、私だけ何もしないわけにはいきません。あの人も・・・神崎先輩にも怒られちゃいますから」
「・・・そうね。じゃあ、お願いするわ」
小猫ちゃんと一緒に部屋を出る。そのまま廊下の一角まで移動した所で、隣に立つ小猫ちゃんが瞑目する。死神達が迫っているのであまり時間はかけられない。それでも、ミスは許されない以上、慎重に狙わなければならない。十分近くかけ、小猫ちゃんが像の位置を調べる。
「・・・わかりました。屋上がそこ、ホールがそこです」
小猫ちゃんの放った小さな気弾が天井と床に傷をつける。よし、この傷に向かってぶっ放せばいいわけだな！
「イッセー。ゼノヴィア達の準備も完了したわ」
すぐそばの部屋から部長が出て来る。部屋の中に目をやれば、魔法陣の中心に立つゼノヴィア達と、窓際に集まっている木場達が確認出来た。俺がキャノンをぶっ放す時・・・それが作戦のスタートとなる。
「二人も部屋の中に」
部長と小猫ちゃんが木場達の所へ移動したのを確認し、俺はキャノンのチャージを開始した。同時に右の砲身を天井の傷、左の砲身を床の傷へ合わせる。
―――いいぞ相棒！
「吹っ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！」
『Destroy!!!』
機械音声と同時に放たれた二つの砲撃がホテルそのものを揺らす。やっぱり『覇龍』のに比べると劣るけど、それでも十分過ぎる威力だ！
「ッ―――！ 屋上とホールの結界装置の破壊を確認しました！ 周囲の死神の方々も消滅しています！ 後は駐車場の一つだけです！」
「わかった！ お前等はすぐに転移しろ！ アーシアは俺の背中に乗れ！」
「は、はい・・・！」
撃ち終えると同時にそんな声が耳に届く。瞬間、部屋の中の魔法陣が輝きを増していく。そしてその光に包まれ、ゼノヴィア達はこの空間から消えていった。
「いくわよみんな！ さっさと全員片付けて、誰一人欠ける事無く脱出するわよ！」
部長の号令に合わせ、俺達は破壊された窓から一気に飛び出す。こうして、俺達の逃げる為の戦いが幕を開けたのだった。
「次回、地獄に引き籠ったはずのアイツにより、兵藤君が死んだぁ！」（段平感）